とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part12

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― 分岐点 ―


 3月30日7時頃、上条宅

 その日、上条は学校が春休みでなく、休日としては珍しくこの時間に起きていた。
 普段の彼が休日に起き出すのは大抵九時頃であり、いつものなら若干寝たりないと訴える脳からの命令を無視して、のそのそとベッドから立ち上がるのが日常だ。
 しかし、別に今日は特に早く起きなければならないような用事はない。
 かといって、彼の睡眠を妨害するような事件が起きたわけでもない。
 上条は今日は何故だか早くに目が覚め、何故だか二度寝をしようにもできなかったためだ。

「あぁ、なんでこんな早くに目が覚めるんだよ……こんなに早く起きたってやることないっつの」

 今の上条には以前のように無駄に食べる量だけは多い銀髪シスターはいない。
 なので食費はその頃に比べて大幅に削減され、彼の家計には少しばかりの余裕ができた。
 だが元々その銀髪シスターが来る前から家計は火の車であり、今も当然そうである。
 銀髪シスターがいようがいよまいが、上条の収入が変わるわけではないのだから。
 そのため彼は少しでも家計の助けになればと、上条は春休みの間はわざと朝ご飯は食べないようにしている。

「腹減ったなぁ…。だからあまり早起きはしたくないんだよ…」

 誰に言うでもなく、上条はひとりごちる。

「にしても、何すっかな。久しぶりに朝飯でも食うか…?いやいや、上条家にはそこまでの余裕はない」

 実際は今まで大食らいシスターを三食養ってきたのだから、三食食べるくらいの余裕はあるのだが、そこはここまで朝飯抜きを貫いてきた意地というよくわからないものが働いている。
 それに今の彼には以前の銀髪シスターに代わり、最強のビリビリ中学生と名高いとも名高い、”彼女”御坂美琴がいる。
 上条と美琴が付き合い始めからは、どこかに出かけることが増え、食費は減ったが、その費用が増えてきているのだ。
 できることならお金は温存しておきたいというのが彼の本心だ。

「だるい、にしてもだるい……これは無理してでも二度寝する『ピンポーン』…か?」

 丁度何をするかで暇を持て余していた上条に、狙いすまされたかのようなタイミングで上条の家のインターホンがなった。

「こんな時間に誰だ?」

 今はまだ朝の七時過ぎ。
 宅配や郵便にしては早すぎるし、何らかの訪問者にしても全く心当たりがない。

(もしかして美琴か…?まさかな)

 今日は彼と美琴とは特に約束事はない。
 彼女は女友達と約束事をしているらしい。
 上条は重い体を動かしてのそのそっ重い動きで玄関に向かい、ドアを開ける。

「はーい、誰ですかっと……あれ?お前…」



 同日13時頃、とあるファミレス

 美琴はいつもの三人といつしかのファミレスでお茶しにきていた。
 例の漏電事件から約半月。
 美琴の漏電により多大な損害を被ったそのファミレスだったが、ここは学園都市の超技術。
 たった半月でも、最早新装オープンと言っても良いほどの回復ぶりを見せていた。
 また、ファミレスと同時に負傷した佐天と初春も、一番間近くにいた被害者として他の人よりも完全回復までの時間はかかったが、無事回復した。
 そして今日からそのファミレスは営業を再開し、それを狙って美琴達はその二人のお詫びを兼ねてここを訪れている。

「いやー、一時はどうなるかと思いましたが、御坂さんの電撃を浴びてから何故だか体が軽いんですよね。これって何か関係あるのかな?」
「あっそれは私も感じてます。ホント何故でしょうね?」
「その件に関しては二人とも本当にごめん…」
「まぁお姉様、こうして二人とも前より元気になって帰ってきたのですから、結果オーライではありませんの」

 原因はカエル似の凄腕の医者、通称冥土返しでもよくわかってはいない。
 大方、電撃のショックで体の組織が一時的に活性化されたのだろうというのがその医者の見解だ。

「そうですよ。私はこうして今日御坂さんにおごってもらえるだけで十分ですから、あまり気にしないでください」
「私も今回のおごりと御坂さんのお話を聞ければ十分ですよ。というわけで御坂さん、いいですよね?あれから何か進展ありました?」

 初春が言わんとしている話題とはもちろん美琴と上条の二人についてである。
 美琴も今日集まった時点でその話題が恐らくでるだろうということはわかっていたので、あらかじめ心の準備はしていた。
 なので、その件に関して話すということを強要されることは、以前ほどの抵抗はない。
 それでもこの時はあまり乗り気ではないことは確かだったのだが…

「はぁ、やっぱり聞いてくるのね……まぁあんなことしちゃったし、もうアンタ達に特に隠す必要もないからいいけどさ」
「またお姉様の惚気話ですの?私はほぼ毎日聞いていますので、いい加減聞き飽きましたわ」
「なら私達がしばらく聞き手になってあげますよ。それなら白井さんにもストレスはたまらないですよね?」
「それいいじゃないですか。私達は毎日でも聞きたいですし」

 うんうんと同意する二人。

「まぁそれなら…って、はっ!ま、まままさかその間にお姉様の毎日の話し相手の座を私から奪うつもりですの!?ふふふ、、そうはいきませんわ。お姉様の毎日の話し相手の座に相応しいのは私だけですの!!」

 キェ――!!という奇声をあげて黒子は今にも初春と佐天に飛びかかろうとする。
 ―――が、間一髪のところで美琴が電撃を放ち、事なきを得る。

「ぐふっ……そ、そんな、お姉様は私よりもこの二人を選ぶとああぁぁ!!」
「えーいやかましい!!なんでアンタはそういう偏った解釈しかできないのよ!!」

 一発目で倒れなかった黒子にトドメの二発目の電撃を放ち、黒子は奇声をあげて気絶し、テーブルに突っ伏す形になる。
 しかし彼女を哀れむ者はおらず、救われた二人は何とも言えない表情で笑いながらそれを見ていた。

「はぁはぁ、全く……えと、話が逸れたわね。あぁ、この馬鹿ならもうしばらくは起きないはずだからもう大丈夫よ」

 美琴の発言に対して、二人は大した反応は示さず、ただ乾いた笑いをするだけだった。
 この惨状を目の当たりにした二人は、美琴は怒らせない方がいいと心の中で改めて誓う。

「……?どうしたの?そんな顔して。聞きたいことあるなら答えるわよ?」
「へ?あ、えーっと…何聞こっか初春」
「え、えーっとそうですね…ここはやっぱりホワイトデーの話でも」
「うっ、ホワイトデー…ね。まあいいか、話したげる」




 その後、美琴は数時間二人に大いに惚けた。
 ホワイトデーの話については呼び出し時の事件、部屋に着いた時の事、昼ご飯の事、もらったお菓子の事、お菓子を食べる時の事、それ以降に起きた全てのことを全て話した。
 もちろん、口移しについてのことは流石に話しておらず、上条にあーんをしてもらったと話した。
 ホワイトデーの話の時には、美琴は二人に攻められいじられで、可愛らしく照れたり、ふにゃー化を招きそうになったが、前回の失敗もあってか、そこは何とか踏ん張ってふにゃー化は阻止した。
 しかしその話が終わる頃になると、黒子に話す時同様に、二人に話すことに対する美琴の照れがもうほとんどなくなり、ホワイトデー以後の話については大いに惚けた。
 その惚気っぷりは始めは興味津々で、惚け話ならいくらでも聞くという態勢をとっていた二人にも疲れると思わせるほどである。

(こ、ここまでとは…これならあの御坂さんラブの白井さんがあそこまで言うのもわかる気がする…)
(これをほぼ毎日聞いてる白井さんはやっぱりすごいです…)

「―――んでね、アイツったら…って聞いてる?」
「「も、もちろんです!」」

 そして美琴の惚気話はまだ続いていている。
 もちろん毎日話す黒子に話すときと違い、一気に話しているので、所々で話をはしょっているところもあるが、それでも話す内容は約半月の上条との出来事の詳細の全て。
 話を始めてかれこれ三時間程経っているにもかかわらず、美琴曰わく『え?まだ全体の半分くらいよ?』らしい。
 二人としては、もうこれだけ話を聞けたらお腹いっぱいの状態なのだが、この話を聞きたいと言い出したのは自分達である。
 自分達から言い出しておいて、もうその話はいいです、とは言いにくい。
 まだまだ続きがあるというこの話をあと数時間も聞かないといけないこの状況を二人は心の中で嘆いた。

(頼みの綱の白井さんはまだ気絶してるみたいだし、最後まで聞くしかないか…)(まぁ疲れますけど、楽しいからいいんですけどね…)

「―――とそこでアイツが、―――」

 二人は救援を求められない状況を理解すると、あと数時間話を最後まで聞く覚悟をした。

 ―――ゲコゲコ、ゲコゲコ

 そこで美琴の携帯からと思われる着信音が鳴る。
 機嫌良く話していた美琴は話を中断されて若干不機嫌になり、一方話を聞いていた二人は美琴に電話をしてきた誰かに密かに感謝する。

「あぁもう誰よ。これから良い話ってとこなのに」

「(誰かは知らないけどありがとう!これは話題を変えるチャンス!)ほ、ほらこの着信音は御坂さんのじゃないですか?でなくていいんですか?」

 美琴は始めは無視して話の続きをしようと思っていたが、佐天に指摘されたので渋々携帯をポケットから取り出して、ディスプレイの表示を確認する。
 そしてそこには彼女が話していた話題の人物、上条当麻の名が記されていた。
今日のことはちゃんと上条に伝えてあり、彼もそれは承知のはずなのだが、美琴としては彼からの電話を無視するわけにはいかない。

「あ、あれ?なんでアイツから電話が…?ごめん二人とも、ちょっと電話してくるね」
「は、はい!どうぞごゆっくり!」
「会話、楽しんできてください!」

 美琴は二人からの言葉を受け、足早と携帯を持ってファミレスの外へと出て行った。

「……ねぇ初春。恋は女を変えるって言葉は本当だったんだね。少なくとも御坂さんはあそこまで自分のことに関して口達者じゃなかったよね?」
「ですよね…。でも今の御坂さんの顔は前よりも生き生きしててずっとかわいいです。……私達も恋をすれば何か変わるんですかね」
「……」
「……」
「「頑張ろう」」

 何やら固い決意をする二人だった。
 そして、もし今後美琴から話を聞く時はまとめてではなく、頻度をあげて聞こうとも。



「―――も、もしもし…?」

 早々にファミレスから出てきた美琴は、早速携帯の通話ボタンを押し、電話にでていた。

『美琴……だよな?なんか遅かったけど、大丈夫か?友達とまだ何かあるならその後でも良いと言えば良いんだが…』
「当麻は私がその友達と約束事があったってことを承知の上で電話してきたんでしょう?ということは、何か急ぎの報告かなんかがあるんじゃないの?友達は大丈夫だからそっちの用件を言ってみなさいよ」

 美琴はそこに多少なりとも疑問は持っていた。
 上条は今日の自分の予定を知っている。
 ならば、わざわざその忙しいであろうこの時間帯に電話を掛けるのは、あまり賢い行動とは思えない。
 上条だってそこまで馬鹿ではないし、むしろそのあたりの配慮はできる方の人間だ。
 それなのに電話を掛けてきた。
 これは何か重要叉は急ぎの用件があるとしか考えられない。

『……全く、美琴にはホントに驚かされてばかりだな。適わねえよ』

 最後に少し自嘲気味のような小さな笑い声が微かに美琴の耳に届いた。
 普段の生活では上条はそんな笑いをするのはあまりみられない。
 これは美琴が今まで上条と共に過ごしてきた経験から言えることだ。
 そしてそういう普段と違う挙動をかけらでも上条が見せた時、決まってその後には何かが起きていた。

「はいはい、そういうのはいいから。さっさと用件を言いなさい。何かあったの?」

 無論、今までそれによって起きたこと全てが悪いことばかりではない。
 ある時は美琴を泣かせ、ある時は美琴を喜ばせ、そしてまたある時は美琴を怒らせる。
 その結果の種類は多様なれど、とにかく何か事件が起きる。

『……内容の細かいことまで説明しようと思ったら電話じゃ説明しにくい。だから俺は美琴の用が済んだらうちに来て欲しいって伝えようと思っただけだ。メールでもよかったんだが、もし友達との会話に夢中でメールを見てないってことは避けたかったんでな。それに、寮に帰ってから呼び出すのも気が引けたから』

 どちらかと言えばポジティブな性格の彼はいつもなら明るい口調で話す。
 しかしこの電話からはその明るさが全くみられない。
 どこか自分のことを憂いているだけでなく、もっと別の何かも憂いているような。
 彼がそんなことを考える時は大抵ろくでもないことが起きるのを美琴は知っている。
 だが逆にそれ以上ことは全くつかめない。
 とにかく美琴はこの後に起こるであろう事件が自分にとってあまり喜ばしいものではないことを予感する。
 さっきまで後輩の二人と話していた時の美琴の楽しげな気分は一変して、暗いものに変わる。

「……わかった。こっちの用が済めばそっちに向かえばいいのね?」
『ああ…』
「んじゃ一旦電話切るわよ。じゃあまた」

 またな、という返事が上条から返ってくると、美琴は電話を切りまたファミレスへと駆け足で戻っていった。
 一体上条の身に何が起きたのか。
 ただそればかりが美琴は心配だった。
 駆け足で戻ってきた美琴が元々自分が座っていた席に座ると、佐天と初春の両名が美琴を不思議そうに見る。

「あれ?早かったですね。もうお話はいいんですか?」
「うん……あのね、ちょっと急用ができてアイツのとこに行かないとなんだけど、いいかな?お金は払っとくから」
「あ、いいですよ。色々お話が聞けて楽しかったです」
「ごめんね。あと悪いんだけど黒子よろしく」
「わかりました、任せてください!こういう時の白井さんの対応なら慣れてますから」

 初春にしては珍しくドンと胸を張って答える。

「そ、そう?ならよろしくね。話の続きはまた今度あった時にでも話すわ」
「え?あっ、別に話の続きはいいですよ…?今日で十分話聞けたんで」
「今度話を聞く時はその時の最近のことだけでいいですよー」
「…?わかった。それじゃあね」
「「ではまた今度ー」」

 美琴はあれだけ話を聞きたいと言っていた二人の控えめな話に少し疑問を覚えたが、今はそれどころではない。
 今はただただ上条のことが心配。
 そう言って美琴は後輩三人をファミレスに残して、上条の家へと向かった。


「………何だか悪い夢を見ていた気がしますわ、体の所々も痛みますし……って、あら?お姉様は?」

 美琴がファミレスを出てって、すぐ後にようやく黒子は目を覚ました。
 そして佐天と初春から大体の事情を説明され、美琴は恐らく上条の家に行ったということを聞くと『お姉様が単身上条さんの部屋へ!?…ふふふ、いくらあなたでもお姉様と過ちをおかすのは早すぎますわ!!お姉様の貞操は、純潔は黒子が守りますわ!!』と大騒ぎをして、能力を行使しようとしたところを初春にまた気絶させられたのはまた別のお話。


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