とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05-2

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だれでも歓迎! 編集


8月17日 とある昼下がりの買物戦線


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現在時間12:56・・・第6学区中心部〈モノレール駅構内にて〉

「ついたな。んで、どこいこうか。おふたりさん?」
「そうだ!私結構、ここら辺行くことが多くなったんですよ。だから、いろいろ行きたいところあったら言ってください!」
「ありがとう。そうだなぁ、私たちだけならショッピングでもなんでも行けるんだけど・・・今回は今回だけにそれができないわね」
「み?御坂さん?それは下條さんが邪魔にしか見えないということなんでしょうか?えぇ?」
「そんなこと・・・そんなことないわよ。そんなこと言ってるとどこにもつれてってあげないわよ?」
「へいへい。なんでもございませんでした」
「あんたってのはぁ!」
「ま、まあまあ。いいじゃないですか。私だって昔外に住んでいた時はしょっちゅう弟と喧嘩しまくってたんですから・・・そのくらいはスルーしておいたほうが楽ですよ?一個一個拾うのはつかれますよ」
「それもそうね。悪かったわ、佐天さん。このバカがいけないんだから。」
「あ!そうだそうだ!確か、この通りに大きなショッピングモールができたんですよね?そこいきましょう!!」
「いいわね。たしか・・・結構でかいのよね。地下3階から地上4階までで全てがそろうとか聞いたことあるわ」
「俺も聞いたことあったな。ここだったのか。(ここで美琴用アースでも買っておこうかな・・・こっそりと)」
「・・・アンタ!今、ろくでもないこと考えてたでしょ?たとえば私の能力を封じようとかなんとか」
「え?なんのことでしょう?k・・・し、下條さんには意味がわからないのですが」
「それじゃ、アンタはどこにいきたいんですかねぇ?そこに行ったらわかるしね」
「(嘘でも言っておこうかな。ばれないように。)・・・昨日も俺のために付き合ってもらったんだし。佐天さんの意見を優先しないか?」
「いいのいいの。私は好きでやってるんだし・・・そうだな。最近、いろいろ雑貨集めるのが好きになっちゃって・・・その中にHeli-Holi ってところがあるんですけどね」

 彼らは、モノレールの駅から出て、駅から徒歩5分が売りと謳うショッピングモールに向かった。さすがに時間帯が時間帯だけに、人が多い。人と人との肩がぶつかることも多々ある。店には長蛇の列も。
それを見ながら、目的地に向かう。さすがは佐天が自分で豪語するだけあってするすると人の間を縫って歩いていく。後ろをついてくる超能力者(レベル5)と無能力者(レベル0)は同じことを考える。
この人の能力って――動的誘導(ダイレクトガイド)Lv.5――なのだろうかと。それだけ佐天はこの大きな人混みの中でも早く到着できるようなルートを見つけて案内をしてくれたのだから。
ところで、佐天は雑貨集めが趣味になったのか。本人曰く、なんとなくだそうだ。ゲーセンのUFOキャッチャーでたくさん景品を取って以降、それがマイブームになったらしい。以外に大人なデザインが好きだとか。
それでややおとなチックなデザインが好評の Heli-Holi に注目したのだった。このHeli-Holi は、現在学園都市に5店、外部に4店舗ある人気な雑貨屋である。ほかにも有名ブランドの専門店も40くらいあるとか。

「ここですよ。」
「結構、でかいのね。それで佐天さんが言っていた場所って?」
「ここにいるのも時間の無駄ですので中入りましょ?」

・・・

「それで、アンタは私から離れんな!」
「どうしてでしょうか。俺にだって見たいものがあるんだって。ちゃんと自分の財布は持ってるぞ?いいじゃねえか」
「それじゃ、どうする佐天さん?こいついっちょまえにこんな事言ってるけど」
「とりあえず Heli-Holi で記念になるもの買ってからですね。みんなで行くとひとりで行けないところにも行けますから」
「それじゃあ、残念だったわね。アンタの考えることなんてわかってるんだから」
「あ!ここですよ。ここ!入りましょ?」
「結構いいところじゃない!!ね?今度2人で行こうよぉ」
「(俺に言ってるよな。だったら・・・)」
「ね?佐天さん!!」
「(俺は単なる飾りですか?おいおい!んま、ここではいい策かもしれないな。今度一緒に行こうな)」
「ええ!」
「あ!これは!(かわいい!)」
「これは、かなりレアなかわいさですよ。何というか、子供っぽいというか。」
「そ・・・そうよね。私的にはほかのも見てみたいからあっち行ってくるわ」
「俺は、大人っぽいのばっかりだと思ってたんでこんなのがあるとは!」
「(え?これって私へのフォロー?)」
「・・・でもな。こんなの喜ぶのってよっぽどガキっぽい趣味持ってる人しかいないよな。」
「(私の事言ってんの?こいつ!!)・・・はは・・・ははははははははっは」
「あれ?佐天さんは?」
「そうだな。いつの間にかいなくなt」
「お二人ともぉー!こっちこっち!」

・・・

「いいですね。これ。確か俺の友達もこの匂いの香水付けてたんです」
「へえ、かなり甘い香りだよ?ってことはもしかして・・・彼女いるの?もしかして」
「「ブーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!」」
「(私たちの関係がばれた?というより当麻が小さくなっちゃったことがばれてる?)」
「(ヤバいな。ここはかわすから。この上条さんにまかせなさい!!今は下條だがな)・・・いや、クラスの同級生でして」
「でも、この香水って結構高いよ?その人かなり大金持ちね!!」
「(お前ってばれないように俺頑張るから)・・・そうなんですかぁ。たしかに身なりはかなりピシ――ッとしてましたからね。うん」
「あ!これいい匂い!」
「どれどれ?・・・御坂さんなら何でも合いそうだなぁ」
「真登くんも!」
「あ!これいいですね。値段も安い。俺つけようかなぁ…。」
「結構濃いわね。(あいつがこれつけてきたらヤバいなぁ。いろんな意味で…)」
「みーさーかーさーん!!大丈夫ですかぁ!?」
「え?あ!うん。」
「もーそろそろ買っちゃいましょ?」
「そうね。アンタ!!これ買うんでしょ?私が買ったげるから。いいでしょ?」
「いつも悪いねぇ…」

 ここの雑貨屋で美琴と佐天は香水2点を買って、他に小物を4点くらい買ってご満悦であった。下條は二人に振り回されてかなり大ダメージを負ってしまった。
そのお詫びとして、クレープをごちそうしてくれると言っていたが下條は拒んだ。だが、美琴の即効説教のおかげで受け入れることにした。佐天はこのとき美琴が説教くさくなったなと思った。
ショッピングモールに入って3時間くらいたった。もうそろそろかえりますかと美琴が切り出すと全員地下鉄のホームがある地下3階へ行く。佐天の住んでいるところが地下鉄駅のほうが近いというから。
幸い、上条の住む男子寮も地下鉄駅から近い場所にある。その間にスーパーもあるためメリットのほうが大きいのであった。後10分で地下鉄が来ることが分かったため彼らは急いで下に向かった。

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現在時間16:07・・・第6学区中心部〈ショッピングセンター地下3階隣接地下鉄駅構内にて〉

「なんとか間に合いそうね。」
「そうですね。私たちはいつもパス持っていますから。そのまま乗り込めるし、たしか、小学生はただですからね(証明書なしで)」
「そうね。あ!もう来たわね。乗っちゃいましょ?」
「了解!!」

 3人は急いで地下鉄に乗り込んだ。地下鉄にはたまに警備員(スキルアウト)が乗っているため無賃乗車はかなりの覚悟が必要だが。美琴たちはとあるルートからフリーパスを持っていた。
地下鉄はゆっくりと走りだした。車内は休みの日にも関わらず少なかった。いつもは帰宅時間で大混雑するのだが。そのため、運よく彼らはロングシートに広く腰掛けることができた。
下條を挟んで佐天と美琴というポジションはお約束のようになっていた。中は賑やかとはいかないが静かではない。3人もこの雰囲気であれば普通に話してもいいなと思い、美琴は最初に話を切り出した。

「今日はありがとうね。いきなり誘っちゃったのはごめん」
「いいんですよ。喜んでくれるならまた、是非!!」
「ほんとにありがとう。こいつ嬉しすぎて今コックリ言ってるわ。」
「そうですね。起こすのもかわいそうですからそっとしておきましょか?」
「ほんと、こいつにいろいろついてきてもらっちゃった」
「わたしも彼の顔見ると元気になっちゃうんですよ!!」
「たしかに、こいつの寝顔みてるとほっとするもんね」
「あ!結構やわらかいのね。こいつのほっぺ」
「ほんとだ・・・じゃなくて起きちゃいますよ?」
「大丈夫よ。こんなんで起きるやつじゃないから」
「それじゃ、この子抜きで何か話が・・・そうだ!御坂さんって最近何も聞いてなかったんですけど、彼氏できました?」
「え?・・・あ・・・うん。あいつはいつも不幸だ不幸だって言ってるの」
「へぇ。面白い人ですね」
「なんも面白くないわよ。知らず知らずにほかの女の子に手出すし。私の気持ちにもなれっての!!」
「そんなに大声出したら迷惑ですよ?かわいそうですね。御坂さん」
「でしょー?でもね。あいつには一つだけいいところがあるの。・・・私が困ってるときに何も言わずに助けてくれたりね。あと、・・・」
「もっとききたいなぁ。もうそろそろ着くんで。今度またいつものメンバーでお茶しません?そのときにじーーーっくり聞かせてもらいますから!!」
「それじゃ、またね」

 佐天が降りた後、2人は並んで座っている。ひとりは気持ちよさそうに寝ている。もう一人はその寝顔を見て優しい微笑を浮かべている。そして、寝ている少年の耳元に顔を遣るとちいさくささやく。

「―――当麻・・・大好きッ・・・」

 もうそろそろ下條と美琴が下りる駅へと近づく。アナウンスが流れたとたん下條は目を覚ました。美琴は少し残念そうに上条を見る。それを見て下條はなんか悲しいことあったのか、という。
身体は子供だが目の中にはれっきとした上条当麻が存在している。美琴はそのことに悩み始めた。目の前にいる男の子は上条であって上条でない。彼の眼は純粋そのものだから。
どんなに姿が変わっても愛する者は一人。たった一人である。自分の悩みがバカバカしいと思うくらい彼の眼は純粋だった。それだけに美琴は悔しくなった。気付いたら泣いていた。
下條と上条の姿が重なってしまった。下條がこっそりと自分のポケットからハンカチを出して渡す。そして、笑顔で・・・俺はどこにも行かねえし、そんな顔されても困りますぞ?と言いながら。

「ありがとう…」
「それより、そんな顔で降りたら笑われますよ」
「大丈夫だって。ほら!!」
「あぁ!それなら大丈夫だな。あんな顔はほかの人には見せられませんからね」

 車内にもうすぐ駅に着くとアナウンスが流れる。そして、ホームに停車すると2人は降りてすぐに地上へ向かう。地上の入口から出るとすでに傾き始めていた。人はちらほらいたくらいだ。
美琴はスーパー行くんでしょ?とひとりでそそくさ歩き始める。ちなみにここまで下條の右手はつないでいる。しっかりとその手を離さぬように、自分自身が見失わないように・・・。
だが、その右手を握る力を弱めてしまった。すると、手にかかる力がふと消えた。それに気付いた美琴は後ろを見た。それは、悪夢。悪夢としか言いようのない世界が広がっていた。

「――――っ!・・・嘘――でしょ? なんで?」

 さっきまで手をつないでいた相手が歩道の真ん中で倒れている。一瞬時が止まる。美琴は下條に近づく。そして、隣に寄り添うようにそこに座りこむ。どうやら気を失っている。だが息はしていた。
急いで心臓マッサージしようとうつ伏せの身体をひっくり返そうとする。その時に、美琴は見てしまった。右腕に広がるツタのようなあざを。それは、上条の首筋にまで達していたのが見えた。
そのことを気にしてはならないと思い、急いでひっくり返すと美琴は下條の心臓の上あたりを撫でながら電圧をかけて電気マッサージをする。1分はそれをしていたが、何も反応は帰ってこない。
何回も声をかけた。だが、反応してくれない。今までそれを流されて平気だったのに今日は悲しくなった。泣きそうになった。いよいよ彼の本当の名前を何回も叫んでしまっていた。偽名なんかどうでもいい。
世界で一番大切だと思える人が目の前で見せてほしくない姿を見せている。またもう一度、喧嘩して、デートして、彼の部屋で過ごして、一緒に観覧車乗って、笑顔でいたかった。だから、美琴は必死だった。
その姿を見ていた人が救急車を呼んでくれたらしく、美琴が心臓マッサージをしておおよそ2分後に救急隊員が現れた。そして、下條を担架に乗せて車の中に。美琴もそばに付き添って病院に急いだ。
幸い、救急車は上条がいつもお世話になっている病院に行った。上条当麻という人間を受け入れてくれる病院は少なく、ただ、総合病院の中で一つだけ受け入れてくれるところがあった。そこに行きついた。
冥途帰しがいる病院である。美琴は、あのカエル顔の医者が命を助けてくれると確信した。だから、冷静になることができた。美琴は緊急病棟の廊下の椅子に座っている。だが、たまに立ち上がってその場をうろつく。

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16:21・・・第7学区とある地下鉄駅構内

「んーーー。やっと着いたな。結構人いるぞ?」
「はぐれないでよね」
「わかってますって。こうすればいいんだろ?」ギュッ!
「わかればよろしい・・・そんじゃ、この後どうしようっか」
「飯食いたいな。毎日外食はとてもじゃないけど、身体が持たないといいますか」
「わかったわよ。今日は何が食べたい?・・・って今日の3時くらいに部屋の改修終わったみたいよ?良かったわね」
「そうなのか。ありがとな。いろいろと」
「いいわよ。どうせ、私がやったんだから。わかったならさっさと食べたいもの言いなさい?」
「そうだな。あっさりしたものがいいな。今日は暑かったし」
「それじゃ、そうめんでもする?」
「いいな。それ頼むな」

 そういいあいながら階段を上っていく。美琴がぐいぐいと下條を引っ張っている。人がまばらにいる階段を上っていくと、太陽の光が差し込んでいた。
ここから下條もとい上条の男子寮とスーパーは一直線上にある。途中曲がると小萌先生の家も存在する。学校前のような感じではなく、多くのアパートが乱立する地域である。
夕焼けに染まった家々が輝いて見えることで隠れファンがいるらしい。やっと自分の家に戻れることでふと安心した上条は美琴の先導力に押されていた。

(やばいな・・・頭痛ぇ・・・)
「今日は疲れたわねぇ」
「(この状態を見られてはいけない!)・・・だ、だな。」
「買物終わったらすぐご飯作ったげるから」
「(やばい、右手がしびれてきた。というより、何なんだ。全体が刺されたように痛ぇ・・・もうそろそろ我慢の限界だな)」

「(・・・ごめんな、おまえの笑顔守れないかもしれない)」

 上条の右手から力が失われた。その瞬間、目の前が真っ白になってしまった。五感と全ての力がなくなった。感覚はない。ただ、心臓が動く音が小さく聞こえるだけ。
それ以外は何も聞こえなかった。しばらくして、顔の所々が濡れていると感じた。そのあと、心臓あたりがビリビリをしているのを知った。段々と五感の機能が戻りつつある。
だんだん周りの音が聞こえ始める。一番最初に絶対守ると誓った相手の声が届いた。反応したかったが身体の自由が利かなかった。一瞬、意識が戻ったが、それはほんの一瞬で終わる。
鈍器で殴られたような痛みとともにまた意識が薄れていった。その間にかすかに聞こえたもの――救急車のサイレン、人のしゃべっている声。その中でも一人の声が飛びぬけて聞こえた。
昔にした約束をまた破ってしまったのかと思ったが、何かを考えるほど身体が痛くなる。声も出ない、身体も動かないため、反応すらできないし、どうすることもできない。また目の前が白くなる。

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19:46 第7学区内、大学総合病院緊急病棟

 美琴は、静かな廊下の両側に備え付けられた長椅子にかけていた。その顔には今日の昼間見た表情とはかけ離れたものが浮かんでいる。顔は下を向いてそれ以外は肩が上下しているだけだった。
自分を落ち着かせるために携帯電話を弄ったりしていたが、むしろ逆効果になってしまっていた。今は、目の前の扉の奥で行われていることの成功を祈るだけ。一人で2時間も待っていた。
たまに、看護師がやってきて慰めてくれたことがあったが、ひとりにしてほしいと小さく答えていた。美琴は冷静になることが難しかった。身体が知らず知らず震えてくる。日も落ちてきた。
しばらくすると、大きな扉の上の手術中の明りが消えた。すると、カエル顔の医師がゆっくりと美琴のほうへ寄ってきた。美琴は静かに立ち上がりそちらに顔を向けた。

「先生、どうだったんですか・・・」
「うん。なんとか大丈夫だね?ただ、こちらに来た時は右腕の神経が死んでいたのがわかってね。今は・・・彼は眠ってるよ?」
「わかりました。ありがとうございました」
「でも、あれだね、彼がこんな風になってたなんてびっくりしてしまったね?」
「先生…あの・・・アイツはまた入院するんですか?」
「そうなるだろうね?でも、状態が良かったら明日にでも退院できると思うよ?だから、今日はゆっくり休むことだね」
「わかりました。少しだけアイツのそばにいてあげたいんですけど」
「いいね。彼はすでにいつもの部屋に運ばれたから行くといい」
「ありがとうございます。それでは・・・」

 彼女は、下條の無事を聞いて今までの緊張を吐き出すように溜息を出す。そして、それでは済まなくなってしまい彼の入院する病室を目指して急ぎ足になる。
診療時間が終わったロビーは静かだった。そこをくぐり抜けて階段を駆け上がる。目当ての階にたどり着くと目と鼻の先にある彼の居場所に急いだ。感情が爆発することも押さえきれない。
やがて、とある病室の前にたどり着きドアノブに手をやる。知らず知らずその手が震えていることに気づいた。ドアについているガラスに写る自分の目の辺りが赤くなっているのが見えた。
目をつむる。そして、いったんその手をドアノブから静かに離した。深呼吸した。そして、思い切ってドアを開いた。ゆっくりと、ゆっくりと部屋の中に入っていく。ほの暗い病室の中を。
美琴の目の前はぐちゃぐちゃに見えなくなっていた。だが、目の前にいる少年をしっかりと捉えている。少年はベッドの中で小さくなって眠っている。布団から出ているその手を握る。

「・・・よかった。急にあんなところで倒れられて怖かったんだから・・・おやすみ」

 美琴は、下條のベッドの隣にあるパイプいすに座り、彼の方に体を寄せる。手はそのまま握っていた。今日という日が二人にとってほかのものにかえられない日へとなったのは別の話。静かに夜は過ぎていった。


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