テスト中

林檎

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

林檎 05/01/24

  朝食は林檎一個と決めていた時代があった。

  小学生低学年から鉛筆は自分で削るよう躾けられていたので刃物の扱いは慣れていて、一時期投げナイフの技術を磨くほどに熱中したから林檎の皮など目隠しでも綺麗に剥ける。ラーメンマンはどう考えても不可能だが、一繋がりの皮を切れないように剥き最後に上下を円錐に抉るのは、目隠しで試したことがあるから刃物扱いには自信を持っている。所々実だけを削っていた部分もあったが切らないことを目的にしていたから成功の筈だ。

  しかし自信があると怠けるもので、大抵は軽く拭ってそのまま齧り付いていた。関西育ちだから本当は林檎より梨が好きなのだが、簡単に腐る梨は贅沢品であり、価格の面からも林檎が手頃であった。

  ある時林檎を喰べる直前に眺めてふと考えた。映画やら何やらで林檎を両手で持ってぱかりと割る仕種がある。格別鍛えている人なら出来るだろうが手前に出来るだろうか。まず上の窪みに両親指を当て、残りの指全てを鳥籠の如く均等に拡げて力んでみたが割れない。親指が痛くなるだけである。あっさり諦めて喰ったが、次の日から林檎割りの特訓を始めた。

  最終的には握力が鍵であることは予想出来るが、握力を鍛えるほどの根気はないし「林檎を割りたい」では動機が弱過ぎた。だから何とか割れるような持ち方や方法はないものかと試行錯誤の末、最終的に「面攻法」と「反則法」の二つに落ち着いた。

  面攻法とはその通り面で攻める方法で、「親指の力で割る」という幻想さえ捨てればよい。まず林檎の上の窪みを此方に向けるように持ち、生命線の末端が窪みに当たるようにして両手で包み込む。掌の下半分が林檎の上半分に面で密着していて、人差指中指薬指を林檎の尻にあてがい、親指と小指の先は遊ばせておく。役に立たないからだ。そしてそのまま「割る」ではなくて「へし折る」の気分で力を込めると簡単に真っ二つだ。

  一方の反則法は親指の力で割るのだが、少しばかり卑怯な手を使う。林檎の天辺の窪みに入れた親指の位置を慎重に調整するふりをしながら、親指の爪でこっそり「ここが割れるきっかけ」の傷を付けておき、力を込めればこれまた真っ二つになる。こちらは割れた林檎をじっくり観察すれば爪傷の跡が残っているから注意深い人の前で披露すべきではない。

  そのような仕掛けは幾つもあるが、女の膨大かつ壮大な仕掛けには到底適わないのであって、それでもここ一番で力強さを印象付ける方法として重宝しているが、単なる荷物持ちとして扱われる事は本意ではない。
 
TOTAL ACCESS: -  Today: -  Yesterday: -
LAST UPDATED 2025-11-09 17:23:38 (Sun)
 
ウィキ募集バナー