バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

It's My Life ーTir na nOg ー(後編)

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kyogokurowa

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「リュージさん、平行世界というものをご存じでしょうか」
「映画なんかで使われる題材のアレか?」
「ええ。自分のいる世界とよく似た別の世界があるというあの説です」
「なんでそんなことを聞くんだよ。まさか殺し合いに関係あるっていうのか?」
「ええ」

あっさりと肯定する琴子にリュージは思わずギョッとする。
それを合図に、琴子はコン、と杖で地面を叩き琴子は解を口にした。


「これまでの情報を基に解答を導き出しました。一つの解と致しましては」

【この殺し合いの参加者は平行世界を軸に集められている】

「なんだそりゃ...」

リュージは呆れたような声を漏らす。
確かにこの殺し合いはダーウィンズゲーム参加者からしても異常事態ばかりではあるが、まさかいきなりこんなSFチックな話が織り込まれるとは思わなかったからだ。

「一応聞いておくけどよ、根拠はなんだ?」
「根拠も何も一目瞭然ですよ。神崎・H・アリアの『武偵』、キース・クラエスの『ゴーレム』、ブローノ・ブチャラティの『スタンド』、リュージさんの『ダーウィンズゲーム』、アリアの『アストラルシンドローム』。
これら五つの話題を、誰一人として共有していない。それはつまり彼らの世界においてはそれらが存在していない、ということに他なりません」
「そういうもんか?いくら有名でも自分に興味のないことは全然知らないなんてよくある話じゃねえか」

リュージはダーウィンズゲームに参加しているからこそよく知っている。
ダーウィンズゲームで死亡した者は死体の形が残らないよう処理され、正体掴めない『変死』事件として処理されてしまう。
だから情報通なオカルトマニアですら存在を認識できないし、ゲームの存在が周知されることもない。
ならば他の面子もそういう類の事情があるのだろう、とリュージは考えている。

「ええ。あなた方個人ならそういうこともあるでしょうね。しかし、そのどれもを私が噂すら聞いたことがないというのが在りえないんです。リュージさん、『死人に口なし』という言葉はご存じですね?なぜこの言葉が成立するかわかりますか?」
「そりゃ死んでる奴からはなにも聞き出せないからだろ」
「ええ。しかし私にはそれは通じない。この目と左足と引き換えにそういう力を貰いましたから」

琴子はサラリ、と髪をかき上げながら小指で右の眼球を小突く。
コツ、と鳴る無機質な音に再びリュージはギョッとする。

「霊も妖も全国津々浦々に潜み、しっきりなしに面倒ごとの解決依頼を連日寄越してきます。
あなたの『ダーウィンズゲーム』が如何にゲームごとの後処理を完璧にこなしていても、死者を抑えることは叶いません。
にも関わらず、私のもとにダーウィンズゲームの後始末の変死事件でさえ、霊や妖が解決依頼も寄越さないのはありえないんですよ。
そんな情報網を持つ私が『武偵』『ゴーレム』『スタンド』『アストラルシンドローム』『ダーウィンズゲーム』を知らないのが自然だと?
それならば『そもそも私の世界ではそんなものは存在していない』と考えた方が妥当でしょう」

緊張か驚愕か、ゴクリ、とリュージは己が唾を飲み込んだのを自覚する。
リュージの『嘘発見器』は真実を告げている。
琴子は嘘を憑いているでも頭がやられている訳でもなく。
岩永琴子は霊やあやかしの類を認知できる能力を持っているという『真実』を。
それは同時に、琴子の提唱する平行世界の論を肯定することになる。

「ですが、これを成立させるには不可解なことがあります」

先の解答を受け入れた矢先に、琴子は己の出した結論を否定するかのような口ぶりになる。

「仮にテミスが平行世界を渡って参加者を集められる能力を持っているとしましょう。しかしそれではテミスの言っていた『死者の蘇生』は叶えられないんですよ」
「なんでだよ。似たような世界から引っ張ってくればいいんじゃねえの?」
「そうですね...例えば、今から三十秒後に私が爆発四散したとして、心悼めたあなたがゲームに優勝することで別の私を連れてきてもらったとしましょう。
ですがその私は殺し合いでの記憶とあなたと交わした言葉を何も知りません。それは本当にあなたの知る『岩永琴子』でしょうか」
「あぁ、そりゃまあ確かに本人とは言えないな」

テミスの語った『死者の蘇生』が嘘ではないのはリュージが既に嘘発見器で確認している。
その彼女がとる手段が『平行世界のよく似た隣人を連れてくる』というのはどうにも納得がいかないものがある。
リュージが弟の蘇生を願い、テミスが平行世界の弟を連れてきたとしよう。
その弟自身が死ぬ記憶を有しておらず、リュージと記憶の齟齬が生まれればもうそれはほぼ同姓同名の他人だ。
テミスがそれを『死者の蘇生』だと自信をもって豪語するにはチト弱い。

「なら平行世界に死んだ奴も蘇れらせれる道具とかあるんじゃねえの?」
「それは私も考えましたが、しかしそんな生物の生死を容易く干渉できるような世界の住人に『死者の蘇生』なんて褒美になるでしょうか」
「それでやる気にさせるには少し弱いか」
「仮にその手段があるなら、あのセレモニーの際に少年ドールと滝壺と呼ばれた少女を復活させて実演して然るべきですからね。
『お前たちの命なんて私たちの掌の上だ』という全能感のアピールも兼ねれますし、逆らっても無駄だと諦め、殺し合いもより円滑に進むでしょう。
それが無かったということは、彼女たちはそういう道具も持っていなかったと見るべきです。しかし、これでは私の論は両立できませんね。もうちぐはぐです」

諦めたかのように目を瞑りため息を吐く一方で、その手はペンを奔らせている。
先刻と同じように、ここからが主催にも知られたくない内容なのだろうとリュージは察する。
そして突きつけられた文字に、リュージは三度驚くことになる。

【そもそもテミスは平行世界から参加者を集めてきてなどいない】






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熱を増していく歌声と共に、μの背後ではブリキや鉄材が集まっていき、たちまちに列車が象られていく。
その様を睨みつける麦野。それを邪魔するかのように立ちはだかる透明骸骨。

「夾竹桃。あんたは他の連中のところに行きな」

視線は一切骸骨からは外さず、麦野は夾竹桃に背を向けたまま告げる。

「連中は未だに禁止エリアにいる。あんたがいたところでやることないでしょ」
「それはそうだけど、あなたはいいのかしら?」
「作戦はもうボロボロだが、まだ私が活きている。けど我慢が効かず先走る馬鹿は必ずいる。あんたにはそっちを任せるわ」
「それ、本当に本音?」
「あんたはどう見える?」
「両方。失敗した時に手詰まりにはなりたくないけど、それはそれとして舐められっぱなしも癪ってところ」
「ハッ、わかってんじゃねーの、よっ!!」

骸骨の銃から放たれた光線を麦野は原子崩しで迎え撃ち、衝突は小規模な爆風を巻き起こす。

「わかった、ここはあなたにお任せするわ。背中頼むわよ」

戦場を麦野に託し、夾竹桃は吹き飛ばされた五人のもとへと走りだす。

(ようやく掴めた好機だもの。逃すわけにはいかないわ)

夾竹桃が目指すは神隼人。
隼人は清明から告げられたゲッター線という極上の『毒』に深く携わる者たちの中の一人だ。
先の接触時は状況がひっ迫していた為、ロクにゲッター線のことも清明のことも触れられなかったが、この作戦がこのまま成功しても失敗しても、敵対しなかったというのは彼との友好関係においては大きなプラスだ。
しかしこれは好機と同時に危機でもある。

今回の同盟で、夾竹桃がゲッター線を欲しているのを知っているのは彼女自身のみ。
それを知らぬベルベットや麦野が、隼人に気を遣う必要はどこにもない。

麦野は眼前の敵に集中してくれているからいいが、完全にフリーになっているであろうベルベットがどうなってるかはわからない。
もしも彼女が彼を狙うようなことがあれば、毒を用いてでも止める必要がある。彼女も彼女で早期に合流しておきたいところだ。

(それにこんなにわかりやすいシチュエーションも味わえないしね)

背中に迫る光弾の気配にも、夾竹桃は怖気づかない。麦野がそれをかき消しているからだ。

(『ここはわたしに任せて先に行け』...なんて王道友情モノなシチュかしら。麦野沈利、本当に残したのがあなたでよかったわ)

NETANOTEを取り出し、ペンを奔らせながら夾竹桃は森林へと消えていく。


「悲しいねえ。学園都市第四位がいながら、狙うのはケツ振って逃げる蝶々なんてな。いつからレベル5の価値はそこまで落ちたのやら」

俯きながら、麦野は自嘲気味な笑みを零す。
夾竹桃が完全に消え去るのを認識した骸骨は、狙いを麦野へと変え光線を放つ。

「なら改めて思い知らせてやらないとねえ!」

瞬間、口角が吊り上がり、これでもかといわんばかりに目が見開かれ顔が上げられる。
原子崩しが迫る光線を飲み込み、骸骨の足元を穿った。

「安心しろよ、あの小娘を狙ってチマチマ有利に進めるなんてセコイことはしねえから」

このゲームの終結以上に、麦野には優先すべきことがある。
それは浜面に負けて地の底に落ちた格を取り戻すこと。
原因の浜面は殺したが、だからといってそれで全てが戻るわけではない。
これはその為に必要な儀式だ。
能力の火力も。戦術も。格も。戦いそのものも。
その全てを圧倒し勝利しなければ麦野沈利はかつての栄光を取り戻せない。
μを狙って骸骨をハメ殺した、なんて結末では彼女が納得しようはずもない。

「必死に足掻けよクソ髑髏ォ!!どっちが格上か思い知らせてやるからよォ!!」

麦野の殺気に当てられながらも骸骨は仮面の奥で嗤う。
ああ、これは壊した時の反応が愉しみだと。



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「くっ...」

燃え盛る炎に遮られ、義勇は二の足を踏んでいた。
着地してすぐにビルド達を探しに行こうとした義勇だが、なにかを踏んだような音がしたと思った瞬間、噴き出した炎が木を焼き始め、火の勢いは瞬く間に広がってしまった。
多少の火傷など覚悟の上だが、しかしビルド達のもとへ辿り着くまでに消耗しきってしまえば元も子もない。
火の手が弱い箇所を探さねば。

どうにかしてビルド達のもとへと向かおうとする義勇の背を見つめる影が一つ。
ベルベット・クラウ。
彼女はその異形の左腕に力を込めて命を狩る機を伺ってる。

(もう、こいつらに用はない)

μの歌は未だに響き渡っている。
それはつまり、麦野はあの骸骨に邪魔されμを仕留められていないということだ。
それでもビルドがあの場に留まっていればまだ作戦は続けられたかもしれない。
しかし、あの竜巻に吹き飛ばされる最中、彼もまた巻き込まれていたのを確認した。
つまりもう作戦は失敗したと判断してもいい。
ならば、殺し合いに反し弱者を護ろうとする義勇たちは必要ない。
この混乱に乗じて首輪解析のサンプル、あるいは優勝の糧にする。

決断と共に、ベルベットは義勇が通るであろうルートに先回りし、身を潜める。
しばし待ち、義勇が通りかかった瞬間、業爪で命を刈り取らんと腕を振るう。

―――水の呼吸 陸の型 ねじれ渦

爪が義勇の眼前にまで迫る瞬間、義勇は身体を大きく捩じり回避、その勢いのままベルベットへと剣を振るう。
その義勇の姿が、先刻戦った宍色の髪の少年の姿が重なった。

「くっ!」

ベルベットは反射的に首を捻り剣を躱す。が、頬に痛みが走ると共に一筋の赤い線が走る。
義勇の追撃を防ぐために放つ足払いは、しかし予測されていたのか跳躍で躱され空ぶる。

―――水の呼吸 弐の型 水車

浮いた瞬間を利用し放たれる回転斬りを、ベルベットは冷静に業爪で受け止め、その威力で互いに弾かれるのを利用し距離をとる。

「俺が構えたあの時、お前の目が変わったのが気にかかった」

隼人がカウントを始めた時、ベルベットの目の色が微かに変わったのを義勇は見逃していなかった。
それは決して友好関係にある者に向けるそれではなく、むしろ見覚えのある敵対していた者へと向ける眼差し。
加えて、いまの水の呼吸の技を知っているかのような反応。ベルベット達が参加者を襲うのも厭わない集団だったという事実。
そこから導き出される答えは至ってシンプル。

「錆兎を殺したのはお前だな」
「そう...錆兎って名前だったのね、あいつ」

ベルベットは義勇を正面から見据える。
別にこの場を誤魔化す嘘をつこうと思えばいくらでも吐ける。
襲ってきたのは錆兎の方。正当防衛の為に戦っただけ。殺したのは別のやつだ。
そんなデマを否定する証拠はどこにもなく、言うだけならばタダだ。

「ええ。殺したわ」

だがベルベットは正直に答えた。
罪悪感なんて感情はもうアルトリウスに叩き込まれた地獄で消え失せた。
復讐を遂げる為ならばどんな手段だって使ってやるとそう決めた。
なのに、嘘を吐けなかった理由は彼女自身わかっていない。
きっとそれは、義勇もまた自分と同じく復讐者の目になっていたから。
今の彼に嘘を吐いて誤魔化すのは自分に嘘をついているように思えてしまったから―――なのかもしれない。

「そうか」

親友を殺した仇が目の前にいるというのに、義勇は相も変わらずの無表情だ。
だが、もしも彼をよく知る者が見れば。竈門炭治郎や鱗滝左近寺がいればすぐにわかるだろう。
いま、義勇は激しく怒っていると。

周囲からは勘違いされがちだが冨岡義勇という男は決して情緒が死んでいる訳ではない。
感情を表に出すのが苦手なだけで、心の中では怒り、悲しみ、呆れといった感情をしっかりと抱いている。

だから義勇は許せない。
この状況下でも他者の為に戦っていたであろう錆兎を殺したというこの女を。

ビルド達を忘れている訳ではないが、どの道、ベルベットを斃さねば先には進めないのだ。
故に、義勇は鬼ではないベルベットにも躊躇うことなく殺気を向ける。

冨岡義勇とベルベット・クラウ。
二人の復讐者の間にこれ以上の言葉はいらない。

今はただ、眼前の敵を屠る為に駆ける。

二人の表には出ぬ激情を表すかのように、炎の勢いが一際大きく増した。



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ギン、と金属同士がぶつかり合う音が響く。
リックの剣をビルドのハンマーが受け止めた音だ。

「どうして君が...!」
「どうしてだって?そんなことわかってるだろう!」

ビルドの空いた横腹に、リックの回し蹴りが放たれあっけなく地に倒れる。


「僕は死にたくなかった。それは何度も訴えたはずだ!だからあんな裏切りだってしてみせた!」

立ち上がったビルドにリックは再び剣を振り下ろす。それをハンマーで受け止めるも、再び空いたビルドの横腹に蹴りを入れ地面に倒す。
先ほどとまるで同じ光景だ。
なのに、ビルドには受けることしかできず、同じ戦法を防ぐ術もない。

「君はいいよなあ、こんなに弱いくせにみんなに護ってもらえて!ビルダーだからってみんなにチヤホヤされて!怪我したら真っ先に気遣われてさあ!
それに比べて僕はどうだ。いくら死にたくないと訴えても戦いに駆り出されて!きみを護るために傷つくのを強要されて!
いくら腰がすくんでもきみが旗を振るえば死に物狂いでドラゴンにでも立ち向かわなくちゃならなかった!!...そんな僕の姿は滑稽だったかいビルド」
「違う、僕はそんなつもりじゃ...!」
「わかってるよ。きみは悪くなかった。勝ち目のない戦争をし続けていた彼らも悪くなかった...全てが舞台上で仕組まれていたことだったんだから。それでも!」

リックはビルドの腹部を踏みつけ、グリグリと押し付け圧迫する。
ビルドが苦し気な呻き声をあげても力は緩まない。

「振り回されるのはいつだって下の者だ!使命だから受け入れろとそればかりだ!魔物側に寝返ってもそれは変わらなかった。心酔したまま死ねたのが唯一の救いだったかもしれないけどね...でも」

突如、声のトーンを落とし、リックは天を仰ぎ、両の掌で顔を覆い隠す。

「彼女は違った。生き返り目を覚ました僕の手を握ってくれた。ハーゴン様のもとへ行かせろ、と荒れる僕にも泣き言一つ言わず受け入れてくれた。
僕が落ち着いたらシチューまで作ってくれてね。具材の形も大きさもバラバラで不器用なものだったよ。でも...今まで食べた中で一番温かくておいしかった。
僕を励ますために作ってくれたって伝わってきて、生きていいんだよって言ってくれてるようで、嬉しかったんだ...」
「リック...」
「彼女は僕を救ってくれた...だから...だからね」

ゆっくりと掌を下ろしていき、リックの涙がにじむ目が露わになる。

「僕はμを護りたい。ずっと、ずっとこの幸せに浸かっていたい...誰の意思でもなく、僕の意思でそう誓ったんだ。それを邪魔するなら!」

再び足に籠められ、その圧迫感にビルドは呻き声をあげる。

「ア...が...!」
「僕は相手が誰であろうと許さない!邪魔するなら、誰が相手だろうと!!」



「奇遇だな。そいつは俺もだ」


背後よりかけられる声に、リックは慌てて振り返る。
その眼前に迫るは、鋭利に研ぎ澄まされた爪。
リックは咄嗟に剣を盾にしてそれを防ぎ後退する。
乱入者は―――神隼人。


「よかった、見つけた!」

隼人に遅れてやってきたクオンが、傷つき倒れるビルドへと駆け寄る。

「ビルド、大丈夫!?」

クオンは怪我をしている箇所へと手を遣り容体を見てみるが、大した怪我ではないのを確認するとホッと胸を撫で下ろす。

「下がってろお前たち。こいつは俺が相手をする」

ビルドを庇うように立ちふさがる隼人やクオンを見て、リックは舌打ちする。
状況の悪化だけでなく、先に触れた件もあってのことだ。
ビルドはいつだって護られる。シドーが傍にいない今でも、こうしてそのビルダー能力

「そういうところだよ。きみの気に入らないところは!」

剣を構え、リックは隼人へと切りかかる。
隼人はその剣に微塵も動じず―――受け止めた。
剣の腹を左指で掴み止めたのだ。

「なっ!?」

リックは驚愕に目を見開く。
彼は決して弱者ではない。
武闘派の将軍であるアネッサを超える実力を有し、なによりあの苛烈極まるハーゴン教団との戦いを生き残ってきたのだ。
常人では決して敵わない戦士である。

「鬼に比べれば止まって見える」

だが、隼人は生身でも人外である鬼と戦いいずれも重傷を負うことなく生き残ってきた猛者だ。
まものに常に敗北を喫していたリック達ムーンブルグ兵とは文字通り戦いの世界のレベルが違うのだ。

「さっき言っていたな。邪魔する者には容赦しないと...そいつは俺も同じだ。俺も俺の目的の為に戦っている。そいつを邪魔するなら誰が相手だろうと容赦はしない」
「っ!」

隼人は剣を摘まんだ指を力づくで下ろし、その勢いでリックは前のめりの体勢に崩される。

「俺の前にのこのこと現れてただで済むと...思うんじゃねええええええ!!!!」

叫びと共に、空いている右手の爪がリックの両目を切り裂く。

「ギッ、アアアア!目がぁ」
「耳だあああああああ!!!」

突き出された隼人の両腕の指が、リックの両耳を切り裂き千切れ落ちた。

顔を抑えてよろめき悲痛な呻きをあげるリックへと隼人は容赦なく追撃を加える。
リックの顔面を傍に立つ木に叩きつけ、反動で浮いた腹部、横っ面に次々に拳を叩き込んでいく。
叫びの悲鳴すら上げる余裕がなくなっていく。
顔面に激痛が走る度に、虚ろになっていく意識の中、リックは思う。

「ククク...ヒャーハハハハハハハッッ!!!ヒャーハハハハハハァ!!」

この男こそ、まるで魔物だと。

「やっ、やめてくれ隼人!もうやめてくれぇ!」

悲痛な声をあげるビルドにも構わずリックの処刑は続き、隼人が拳を振るう度に鮮血が地面に飛び散っていく。
ビルドは思う。隼人は今までずっと冷静に状況を見据え、頼れる大人だと思っていた。
しかし、今はどうだ。己の暴力衝動を解放し思うがままに力を振るっている。
これが本当に隼人なのか?まるで誰かに操られているようだ。いや、ただ溢れんばかりの狂気を隠していただけで、枷が外れかけているだけなのだろうか。
まだ出会って数時間のビルドにはわからない。

「そこまでだよ」

クオンが背後から隼人の腕を掴み、力づくで止める。

「何の真似だ」
「それはこっちの台詞かな」

クオンとて戦場を駆けてきた戦士だ。敵対する者には容赦するなという精神は同じである。
しかし、隼人のこれはあまりに異常だ。
ここまで痛めつけるなら介錯してやるべきだし、必要のない暴力行為である。

「俺の気が触れたとでも思ったか?」
「私とビルドにはそう見えたかな」
「安心しろ。俺は至って冷静だ。ハナから殺すつもりはないさ」

隼人はリックの首根っこを掴み持ち上げる。

「こいつには聞かなきゃならないことが山ほどあるんでな。それを吐くまでは殺さんさ」

原型がほとんどないほどに腫れあがり、流血するリックは何事かをうわごとのようにつぶやき続ける。

「さあ、吐け。奴らの目的は。首輪の外し方は。主催の殺し方は。お前の知っている全てを吐くんだ」
「隼人!」
「ここで邪魔をするならお前も敵とみなすぞクオン」

リックに構わず首を締め上げる隼人に詰め寄るクオンと隼人の視線が交差し火花を散らす。




♪♪♪...♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~

♪♪♪...♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪~



唄い終えたμは、天を仰ぎ胸元を抑える。

「わかるよ、伝わってくるよリック。あなたの望みが!願いが!!」

笑顔と共に涙すら溢れんばかりの恍惚な表情を浮かべ。

「辛いよね。痛いよね。苦しいよね。でも大丈夫!私があなたを受け止める!私があなたを幸せにするから!」

ガクン、と首を垂れる。
垂れさがった髪で正面からは表情が窺えないがその口元では「嫌だよ」という単語をボソボソと呟いているのが窺える。

そして、彼女は頭を上げ、目を見開く。
まるで誰かの、なにかの想いを訴えかけるように。
彼女は全力で叫んだ。



嫌だよ終わるために生まれた悲劇など!!




それは突然のことだった。
隼人が掴んでいたリックのの身体が発光し、隼人、クオン、ビルドの目が眩む。
その僅かの隙に、隼人の顔面に衝撃が走り、痛みと共に吹き飛ばされる。

「隼人!」

リックから最も遠く、視界がすぐに回復したビルドは隼人に駆けよる。

「...心配いらん。大したことは無い」

流れる鼻血を拭い、隼人は向き合う。
今しがたまで瀕死だったはずの、しかし自分を殴り吹き飛ばしたリックと。
そして三人は目の当たりにする。

「ありがとうμ...とても心地いい気分だよ」

負わされた怪我の全てが完治し。
身体も。顔も。全身が全て鋼鉄造りになった彼の姿を。
顔の造形だけがリックとして残り、全てを機械(マキナ)化した彼を。

「お前たちに味わわせてやる、僕の望みを。幸せを!!」

何度も、何度でも彼は訴えかける。
僕の命の邪魔をするなと。

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