バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

It's My Life ー永遠の銀(RickReMix)ー

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kyogokurowa

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「くだんというあやかしをご存じでしょうか」
「いや、知らねえが...有名なやつか?」
「それなりには。人語を介する人面の動物で、近い未来を確定するというあやかしです。
例えば、九朗先輩と私のデートでどこに行くかを悩むとしましょう。
お洒落なレストランで優雅な食事を堪能するか、遊園地で童心に帰り無邪気に楽しむか、爛れた欲望に身を任せて大人のホテルに連れ込むか...
ここでくだんが『お前たちはホテルに行く』と予言しました。すると九朗先輩の心が明後日の方へ向いていても身体は正直になり、予言に従い私という華を蹂躙する為にドロドロの欲望を吐き出す他ないのです。
しかし、残念ながらくだんはその結末を見ることは叶いません。くだんは予言を遺すとすぐに死んでしまうからです」
「なんか不憫な生き物だな。で、そのくだんがどうしたんだ」
「くだんのやっていることは、枝分かれする未来の中から一つを選び確定させる、要するに『平行世界』への干渉に近いことです。
その代償として命を払わされてしまう...平行世界に干渉するというのはそれほど代償の重い行為なんですよ」

ここで一旦言葉を切り、琴子は重要な会話は筆談に切り替える。

『つまり平行世界からこれだけの人数を集めて行うのが全員が殺し合うかわからないサバイバルなんて代償が釣り合わなさすぎるんですよ』

確かにな、とリュージは内心で同意する。
テミスが平行世界を股にかけた殺し合いを開くのに必要なのは『平行世界から人間を連れてくる代償を引き受けられる人員数』『会場となる島の設備費』『μを懐柔する手段』『多くの参加者から恨みを買う立場』etcetc...
そしてこれだけの代償を支払っても、絶対に殺し合いが完遂する保証はない。
最後に殺し合いを拒否する者だけが残り、首輪爆破のその瞬間まで意地を張り爆破で全滅という可能性だってあるのだ。
果たして彼女がそんな不安定な催しを多大な代償を支払ってでも開きたいと思うタチなのだろうか。
あるいは、それを払ってでも手に入れたい何かでもあるというのだろうか。

『このことから考えられる回答は二つ。一つは先ほど提示した【そもそもテミスは平行世界から参加者を集めてきてなどいない】ケース。もう一つは』
「支払う代償を気にも留めない太っ腹な黒幕が存在している、といったところでしょうか」

琴子は二つの解の内、一つは筆談に収め、もう一つの解は敢えて口に出した。
リュージはそんな彼女に面食らうもその意図を察し、「本当にそれでいいんだな?」と問いかけ、琴子が頷くと適当に相槌で返す。
テミスの裏に黒幕がいる。これが真実であれば主催の背景は見えるものの、主催の側からしても知られて痛い情報ではない。
黒幕が誰であれこの殺し合いが破綻するほどの影響はないからだ。
だから敢えて口に出した。琴子を『いくら智恵が回ろうとも肝心な部分にはたどり着けない哀れな駒』として主催に見せるために。

『で、もう一つの答えの詳細は?』

目と筆談で催促してくるリュージに、琴子は躊躇うような面持ちで俯き、やがて意を決したかのように顔を上げる。

『ここから先の考えはあくまでも現状から推察されるものです。新たな情報が入り矛盾が出るようであれば早々に棄却されるべきモノです。
それでもあなたは知ろうと思いますか?』

もしもこの光景を、琴子をよく知る九朗や桜川六花が見れば不思議に思うだろう。
彼女は己の推察を聞かせるのを躊躇うことはない。
真実ではない虚構の推理も容赦なく公平公正に伝え秩序を保つ。それが岩永琴子という知恵の神だ。
その彼女がわざわざ警告をしている。それも親しい間柄でもない、これからの関係を気にすることもない会って数時間の人間に対して。
きっと二人が見れば、【まるで琴子自身が信じたくないと思っているようだ】と判断するだろう。


『構わねえ。教えてくれ』

そんな彼女の背景こそは知らないものの、『嘘発見器』により彼女の語ろうとしている推理が嘘八百の出鱈目ではないのを判別し、リュージは受け入れる。
ここまで琴子の推理に驚きっぱなしだったものの、リュージとて既にダーウィンズゲームにおいて奇想天外な経験をしえいる身だ。
伝えられるのを躊躇われるほどヤワではないと自負している。

「...わかりました」
「岩永ー!リュージー!!」

二人の間に割って入るように甲高い叫びが響く。
声―――アリアが二人の進行方向から飛んできた。
アリアは、二人が渋谷駅に向かうと決めた時から、琴子の頼みで先行して情報を探っていたのだ。

「見つけたよ!見つけたんよ!!」

興奮冷めやらぬ勢いでまくし立てるアリアを琴子はなだめる。
彼女の目的であるμまで目と鼻の先なのだ。興奮するのも仕方ない。
むしろ勢いのまま突っ込んでいくのを自制してくれただけでも褒めるべきだろう。

「さて。これで現状で備えられる手札は揃いました。リュージさん、詳細は道すがら語ると致しましょう」







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リックの拳のラッシュが隼人へと襲い掛かる。
隼人は脇を固め、腕で防御するも、一撃ごとに筋肉が悲鳴を挙げていく。

(ッ、この感触...本当に鋼鉄になっていやがる...!)

リックの拳は先の剣とは比べ物にならないほど重く、なにより硬い。
鍛え上げた肉体を『鋼鉄のようだ』と称することはある。
しかし、如何な肉体とて本物の鋼鉄に硬度が勝ることはなく、疲労で筋力が落ちることが無ければ、それに伴う威力の低下もない。

(こいつは長期戦は厳しいか...!)

隼人の得意とする肉弾戦は、爪で敵を切り裂く外部破壊である。
内側にまで響く攻撃は投げ技を主とする弁慶の領分だ。

「はああああああ!!」

隼人の不利を悟ったクオンが、リックの頭上まで跳びあがり、回転を伴った踵落としを放つ。

「ッラァ!」

リックがクオンに気を取られた隙を突き、隼人は回し蹴りをお見舞いする。
クオンの踵落としは肩口に、隼人の蹴りは腹部に当たり鈍い音を奏でる。

「うあっ!」
「ッ!」

しかし、苦悶の声を挙げるのは攻撃を放ったクオンと隼人。リックは顔色一つ変えていない。

これこそが鋼鉄の最大の利点。
鍛え上げた達人は衝突の際に技術で相手にダメージを与えるが、鋼鉄はただ攻撃されるだけで相手の肉体を削っていく。



怯んだ隙を突き、リックはクオンの足を掴み、遅れて乱入しようとしていたビルドへと投げつける。
クオンの衝突を避けられなかったビルドは、そのまま衝撃に逆らえず二人諸共地面に叩きつけられた。

リックは残る隼人の胸部を殴りつけ後方へと吹き飛ばす。
その先にあった木に衝突した隼人の身体が反動で跳ね上がり、浮いた瞬間にリックの掌が隼人の顔面を掴み木に叩きつける。
隼人の頭部から血が溢れ、叩きつけられた木がミシミシと悲鳴を挙げ、ほどなくして折れてズン、と地面に沈んだ。

意識がトびかける隼人だが、しかし、寸でのところで踏みとどまり抜いた拳銃でリックの頭部へと銃弾を放つ。
それは真っすぐにリックの眉間へと吸い込まれるが、甲高い音と共に銃弾は弾かれ、リックの眉間には傷一つついていない。

「無駄だよ。そんな玩具はもう僕には通じない」

リックは隼人の顔を掴んだまま腕を振りかぶり、地面へと叩きつけようとする。

「させない!」

復帰したクオンが背後よりリックの背に掌底を当て、隼人への追撃を妨害。
リックがよろめき力が緩むと、隼人は顔の拘束を剥がし距離を取る。

「やあああ!」

視線が隼人へと向いたその隙をつき、ビルドのハンマーがリックの身体を叩いた。
ビルドのビルダーズハンマーは物質を壊し素材にすることができる。
ならばリックの鋼鉄の身体も素材に出来るのではないかと考えた。

が。

リックはそのまま裏拳を放ちビルドの胸部を打ち抜き吹き飛ばした。

「残念だったね。僕は僕、生物だ。モノづくりに使える物質じゃない」

ビルドのハンマーはうごくせきぞうやばくだんいわには有効だ。
しかし、いまのリックは『せきぞう』や『いわ』に意思が宿ったものではなく、『リック』が鋼鉄の身体を手に入れた生物だ。
そのため、ビルドのハンマーも十分な効果を発揮することなく、ただの打撃となってしまった。

リックはビルドを隼人へと投げつけ牽制し、クオンと対峙し再び肉弾戦に臨む。

(ッ...掌底ならいくらかマシとはいえそれでもキツいかな...!)

蹴りや拳といった単純な打撃とは違い、掌底は掌を通じて内部に衝撃を与える技である。
己の酷使するわけではないので、比較的に反動のダメージは少ないがそれでもゼロではない。
なにより人間相手ならばとうに悶絶し動けないであろうほどの数を当てているのに、リックは微塵も動きの衰えを見せない。
内臓までもが鋼鉄になっているとでもいうのか。

(彼を倒すにはやっぱり直接破壊するしかない。なら...!)

リックの蹴りがクオンの腹部を捉え、その重さに喉元から空気がこみ上げる。
次いで放たれる拳を咄嗟に腕で防御し、押される勢いを利用し隼人たちのもとへと降り立つ。

「ゲホッ、ゲホッ」
「クオン、しっかり!」
「だっ、大丈夫だよビルド」
「まだやれるなお前たち」

呼吸を整えようとするクオンとそれを気遣うビルドの前に隼人が先んじて立つ。

「あなたこそ大丈夫なの?」
「当たり前だ。俺には俺の目的がある。こんなところで終わっていられるか」

はた目から見れば、流血し、リックからの打撃を一番受けている隼人が一番重傷だ。
しかし、彼の目からは些かも覇気は衰えず、眼前の敵を見据えている。

「うん...そうだよね。ここで終われば元も子もないかな」

その闘志にあてられたかのように、クオンは隼人の横に立ち小さな声で告げる。

「時間を稼いでほしい。あいつを倒すための準備が必要なの」
「そいつは確かなんだろうな」
「絶対とは言い切れない。けど、いまの私がとれる最後の手段だよ」
「そうか。ならさっさと準備しろ」

二の句も無く引き受けてくれた隼人に内心で感謝し、クオンは戦場を預け背中を向け走りだす。

(いまのコンディションで解放するのは時間がかかる。集中できる場所を確保しないと)
「逃がさない」

火の手で経路が限定されているとはいえ、クオンの向かう先はμのいる方角ではない。
この状況で逃げていく彼女を不審に思ったリックだが、その行く手は隼人とビルドに遮られる。

「行かせないよ」
「眼前の俺たちを無視しようとするななんざ、嘗められたもんだ」
「ビルド...いつまでもきみ如きの相手をしてやると思うなよ。僕が従うのはもうきみでもハーゴンでもない。μだけだ」






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―――水の呼吸 壱の型 水面斬り

水平に振られる斬撃をベルベットは屈んで躱し、返す右腕の籠手で義勇の腹部を狙う。
それを身体を捩じり回避する義勇だが、しかしベルベットはそれを予測し先んじて身体を半回転させ、後ろまわし蹴りを放っていた。
地面に落とされた義勇へと追撃の踵落としを放とうとするベルベットだが、しかし咄嗟に止めて後方に跳躍する。


―――水の呼吸 弐ノ型・改 横水車

瞬き一つすら遅いと感じるほどの刹那、ベルベットの身体のあった場所に義勇の剣先が振られていた。
水面斬りでの先手はフェイク。最初からこの水車が本命であった為の対応の速さだ。
あと一瞬でも気づくのが遅れていたら殺られていた。腹部に刻まれた一筋の線が嫌でもそれを実感させる。

―――水の呼吸 参ノ型 流流舞い
「飛燕連脚!」


だがそれで恐怖に怖気づくベルベットではない。戦いに抱く恐怖など、もうあの紅き月の日に消え去っている。
水流のように滑らかに振るわれる剣にも迷わず迫り、それを搔い潜り義勇の身体を浮かせんと蹴技を放つ。
義勇はそれを跳躍で回避し、そのまま次の型へと繋げる。

―――水の呼吸 捌ノ型 滝壷

振り下ろされた刀は躱された地面を叩き、飛瀑の如き威力を見せつける。
その余波でベルベットの身体は吹き飛ばされ地を後転で転がるも、その最中に炎のリングを牽制として放つ。

「紅炎刃!!」

―――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦

迫るリングを、回転の威力を伴った斬撃で消滅させ


―――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

即座に型を切り替え最速の突きを放つ。
ベルベットは咄嗟に業魔の腕を盾にするが、しかし止めきれず掌を貫通し肩口までもを刃が掠め痛みが走る。
義勇は業爪が刀を握り込む前に即座に刀を引き抜き、後方へ跳躍しひとまず距離をとる。
ベルベットは業魔の腕から伝わる痛みに顔を歪めながら義勇を睨みつける。

(相変わらず厄介ねこの『水の呼吸』ってやつは)

如何な攻撃にも対応し、受け流される水流の如き技。
義勇もまた錆兎のように受けの技量においては確実にベルベットに勝っており、そして型の切り替えの速さや交えてみての手ごたえからしても錆兎よりも実力は上だ。

(けど、呼吸という型に捕らわれているのはあいつと同じね)

ベルベットは敢えて錆兎に対してやったのと同じような攻防を仕掛けてみた。
そこからわかったのは、攻防においては性格の差異はあれど、いざという時の『癖』は似通ってくるというもの。

(紅炎刃への対処は錆兎と同じだった。躱すでもなく真っ先に消しにかかった)

あの距離での牽制だ。義勇は躱すこともできたはずだが、彼は一瞬も迷うことなく紅炎刃を消しにかかった。
相手の攻撃を捌きつつ催促距離でカウンターを狙う。恐らくそれが水の呼吸の特色なのだろう。

(やはり狙うのは刀。あれさえ破壊すれば戦力はかなり落ちる)

義勇にしても錆兎にしても、水の呼吸はあくまでも刀を持っていること前提で構成されている。
ならば刀を失えば攻撃手段はなくなってしまう。それは先の錆兎との戦いで証明済みだ。

(踏み通らせてもらうわよ...あんたの仲間と同じように)
「......」


鳴り響くμの歌もいまの二人の耳には入らない。
雑音としてすら処理されることなく、意識は眼前の敵にのみ向けられる。







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「どうしたどうしたぁ!威勢こいてでてきた割にはそんなモンかぁクソ髑髏ォ!?」

骸骨目掛けて麦野の原子崩しが降り注ぐ。
骸骨の返す光線はいくらかは原子崩しを防ぐものの、抑えきれない部分は周囲に被爆しその爆風や熱風は徐々に骸骨の衣装や体力を削っていく。
横転から放たれる骸骨の光線も、逃さず相殺して尚降り注ぎ続ける。
遠距離での純粋な破壊力では学園都市第三位の超電磁砲を凌ぎ、殺傷するという目的に限れば第二位と一位にも引けを取らない制圧力。
これが学園都市第四位。これが麦野沈利である。

(...間違いねえ。あのポンコツの歌が変わってからあのクソ骸骨の能力の回転数が上がってやがる)

だが、この絶対的に有利な状況においても麦野は冷静に敵を分析していた。
μが電車が完成するまでに歌っていた曲の時の骸骨は一発撃つたびに、数秒ではあるが明確な溜めがあった。
しかし曲が切り替わってからはその溜めのインターバルが明確に1~2秒ほど縮まっている。
それだけではない。
先の横に転がりながらの正確な射撃といい、命中精度も格段に跳ね上がっている。

(あのポンコツの曲が骸骨に力を与えてるってのか?だとすりゃ面倒なことになる前に早めにケリをつけるか)

格の違いは充分に見せつけたのだ。
もうあの骸骨はお役御免で消し飛ばそう。
麦野は暴発しない範囲での最大の威力での原子崩しを骸骨へ向けて放つ。
着弾と共に光が視界を包み、爆風が麦野のもとまで届きその長い髪や服をたなびかせる。
殺った―――手ごたえからしてその確信を抱いた瞬間だった。

「なっ!?」

麦野の目が驚愕に見開かれる。
爆風を掻き分け姿を現したのは、骸骨。
左腕が焼き切れ、残った手にも例の二丁拳銃は一つも残されていない。

(あの野郎、二丁の拳銃を一纏めにして軌道を逸らすのに全力を注ぎこみやがったか!)

麦野の感じた手ごたえは消し飛ばした骸骨の拳銃と、それでも防ぎきれなかった為に犠牲にした左腕だった。
それに気づき、慌てて能力の再装填を始めるももう遅い。

「しまっ...!」

骸骨は離れていた距離を高速で動きあっという間に詰め寄る。
麦野の原子崩しの発射準備が完了するよりも早く、その懐へと潜り込み、残された右腕を握りしめ

「―――なぁんちゃって」

麦野は凶悪な笑みと共に突き出された右腕を顔を背け躱し、骸骨の太ももの間と肩口を掴みひっくり返すようにして抱き上げ地面に叩きつける。
ボディスラム。別名:抱え投げ。プロレスラーが用いる基本的な投げ技の一つだ。
無論、麦野にプロレスの技量はなく、感覚任せの大雑把な投げではあるが、ゴリラ並と称された彼女の身体能力であればそれでも十分な威力を発揮できた。

「私を第三位みてえな能力頼りのお子様と一緒にすんじゃねえよ。ま、左腕を捨ててまで食らいつこうとした執念だけは認めてやるよ」

投げのダメージで動けない骸骨を踏みにじり、今度こそトドメを刺すために原子崩しを放つ為に充電する。

「さあ今度こそさよならね。安心しな、すぐにあそこのポンコツも送ってあげるから。それじゃあばいばーい」

語尾にハートマークすら付きそうなほどの上機嫌で、麦野は腕を振り下ろした。


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ドズリ。


突如、麦野の腹部に衝撃が走り、原子崩しも明後日の方向へと飛んでいく。

「ガ、ア...!?」

麦野の口から血反吐が撒かれ、激痛に腹部を抑え蹲る。
麦野の腹部を打ったのは、骸骨の股座から覗かせる地面、そこから伸びる、土気色のスーツに身を包まれた腕だった。

「い...いろんなところまわってたから、よぉ~、随分遅れちまったが、間に合ったってことだよなぁ~」

ぬるり、という擬音が似合いそうなほどに、ソイツは地面から這い出てきた。
全身を土気色のラバースーツに身を包んだ男は、たどたどしい言葉を吐きながらキョロキョロと辺りを見回している。
その男の姿に、麦野は理解する。
ベルベット達五人が吹き飛ばされたあの時、既に一度踏んでいた場所にも関わらず風を巻き起こす罠が設置されていたのはこの男の仕業であり、こいつもまた主催の手の者だと。

状況の把握を終えた様子の男は、ギョロリと鋭い眼光を覗かせて麦野を睨みつける。

「おまえ~~!お、俺がいない間にあんなにバカバカ撃ちやがってえぇ!μに当たったらどうする、つもりだったんだよォ~~~!!」

男は激昂と共に麦野の顔面を殴りつける。

「ぶがっ」
「このっ、このっ、このっ!!!」

男が殴打している最中、骸骨も立ち上がり、麦野の顔面につま先を突き刺す。

「ヒヒッ、いい気味だぜぇ!オラッ、オラッ!!」
「このっ、このっ、このっ!」

交互に振るわれれる男の拳と骸骨の蹴り。
その度に走る激痛に意識はトびかけ、消え去る瀬戸際

「く、ソ、どもがああヴァア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!」

麦野沈利は―――キれた。
獣のような叫びをあげ、己の被爆すら無視して超至近距離で原子崩しを放つ。
男も骸骨も咄嗟に離れた為にダメージを負わせることは叶わなかったが、麦野はようやく男たちの殴打から解放された。

「ふざけ、やがって...この腰巾着のチンボコ野郎共がぁ!!」

麦野は感情のままに原子崩しを発動し周囲一帯を焼き払う。

「あたしが...学園都市台四位のあたしが、てめえらみてえなタマナシ共に殺られる筈がねえんだよおおおあああああア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」




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パチパチ、と燃える森林の中でクオンは目を瞑り精神を集中させる。


「スゥ――――ハァ――――」

息を吸い、深く吐く。また吸って、また吐いて。
その繰り返しを行っている内に、己の体内に『氣』が溜まっていくのを実感する。

クオンがいま行おうとしているのは己の中に秘めたる力の解放。
本来のコンディションであればここまでの準備は必要ない。
だが、この会場に連れてこられてからはどうにも集中や邪魔の入らぬ環境などが必要となるほどに、解放するまでの『氣』の充実が遅くなっていた。

【なぜ今になって我が力を使う】

どこからか、そんな声が響く。

【汝があの時我が力を使っていればかの漢は逝かなかった筈だ。なのに何故。何故会ったばかりの者たちの為に力を求めるのだ】

わかっている。わかっているのだ。漢の意地も、矜持も、信頼までもを無視してこの力に手を染めていれば、彼を、ハクを失わなかったかもしれないことは。
だからきっとこの声は自分の後悔が現れたものだろう。

(だからこそ、これ以上失わない為に―――私はこの力に手を染めよう)

これはビルド達や他の参加者たちの為だけではない。

ここに来る前にハクを失った。

ここに連れてこられてからアンジュを失った。

そしてこの地においては、これから先にムネチカやマロロ、果ては己の命すら脅かされている。

彼らが、認めたくはないがオシュトルが、自分が死ねばどうなる。

故郷の皆やここにはいないネコネやルルティエら仲間たちがどれほど悲しむことになるか。

それを防ぐために、いま、主催に繋がる手がかりがすぐそこにある最大のチャンスを掴むために、クオンは己の力を解放する。

「我が父の名において、この身に穿たれし楔を...解き放たん!!」

クオンの叫びと共に、身体から黄金色の『氣』が溢れ、その身体が宙に浮く。
視線の先にある敵を見据えた瞬間―――その姿が消えた。
彼女の通った後には火がかき消えるほどの暴風が巻き起こり、瞬く間に敵―――リックへと肉薄する。

「なっ」

リックが横合いから高速で迫るクオンに気づいた時にはもう遅かった。
彼の鋼鉄の身体がただの体当たりで弾き飛ばされ、地面を何度も跳ねる。

「ク、クオン。その光は...!?」
「......」

驚愕と警戒の籠る視線を受けたクオンはビルドと隼人へと目を向ける。
やはりというべきか、二人は別れる前よりも傷ついていた。

「よく持ちこたえてくれた。あとは我に任せよ」

二人は出会って間もない自分を信用してここまで頑張ってくれた。
ならば彼らに報いねばなるまい。
少なくとも、オシュトルのようなことがあっては絶対にならない。

地面に転がるリックは目を瞬かせた。
なぜ自分がこうも無様な姿を晒している?
なぜ鋼鉄の身体を殴りつけた彼女はああも平然な顔をしている?

「ふざけるな...!」

リックの背中の装甲が開き、スラスターが現れる。
高速で迫るクオンに対してリックもまた、スラスターの推進力で立ち向かう。

「僕の幸福は、幸せは、こんなところで終わらない。終わらせてたまるか!」

クオンの現人神の拳とリックの鋼鉄の拳が交差し、衝撃で突風が巻き起こる。

「僕は守る...μを、この幸せを!!」



リックの強き想いに答えるようにμは唄う。

μの優しき想いに答えるようにリックは叫ぶ。

腹の底から、全てを吐き出すように、二人の声が重なった。

 



低空でぶつかり合っていたクオンとリックはたちまちに上昇していき空中で衝突し始める。
リックの掌から放つレーザーを躱し、迫るクオンを拳で迎え、彼女もまた拳で返し。

「な、なにが起こっているかわからない」
「クオンのヤツめ...あんな力を隠していたのか」



二人の離れてはまたぶつかりの瞬間の攻防を、ビルドは全く目で追えず、ゲッター2での高速戦闘に慣れている隼人にしても辛うじて目で追える程度だった。



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「「はああああああああ!!!」」

二人の雄叫びが重なり、衝突するたびに轟音と暴風が荒れ狂う。
クオンの掌底がリックの腹部に当たれば、リックの拳が返される。
実態的にはただの殴り合いも、人智を超えた者同士が行えば神技の如き現象となる。
いや、正確には一人だけだ。
リックの胸の装甲から放たれる熱線も、腕から取り出されるサブマシンガンも、人類の英知は全て現人神の前では無力。
神の如き氣の前では打ち消されるのが運命だ。

ピシリ。


くずれてゆく。

現人神の攻撃を受けた箇所から亀裂が走り、鋼鉄の身体は徐々に崩壊していく。
それは現人神も同じだ。
外部からはわからないが、強靭なヒトの身体をもってしても神の力は耐えきれるものではなく、全身の筋肉が悲鳴を挙げている。

「くあっ」
「!」

痛みに僅かに怯んだ隙をリックは見逃さない。
このまま為す術なく負けるくらいなら、せめて全てを出し切る。
リックの身体の至る箇所の装甲が同時に開き、銃や熱線板、小型ミサイルなど身体に仕込める限りの銃火器の砲門がクオンに向けられる。

(もう長くはもたない...このまま押し切る!!)

クオンとて後退は考えない。
彼女の知る文化の中に銃火器の類はないが、それでも恐怖を抱くであろう銃口の数にも怯まず正面から突破する。


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「これで最後ッ!!」

クオンの光速の体当たりとリックから放たれる数多の銃火器が衝突し、閃光と爆発の柱が聳え立つ。
衝撃は周囲を揺らし、破壊し、ある種の美しさを醸し出し見る者の目を引き付ける。




閃光の中から弾かれるように、クオンと上半身だけになったリックが零れ落ちていく。
気を失っているのか、ピクリともしないクオンを隼人が抱き留め落下によるダメージを軽減させる。

一方のリックもまた、歌い終えたμが落下地点で待ち受け受け止めようとする。
しかし、リックの掌から虚空に放たれたレーザーがリックの落下地点をズラし、μに抱き留められることなく地面に重厚な音を鳴らし落ちた。

「リック!?どうして私を避けたの!?」
「きみの腕で受け止められる筈もないだろう。大丈夫、この身体のお陰であの落下程度は耐えられたから」
「でも...」
「おーい、μ!」

一仕事を終えたような呑気な声色で、ラバースーツの男が骸骨を引き連れ腕を振りながら歩み寄ってくる。

「もっ、もう電車は作り、終わったのか、よぉ~?」
「うん、大丈夫だよセッコ!あとは細かい調整が終わったら完成!」
「ウへへへ、それなら頑張った甲斐があった、ぜえ。なあ、ご褒美、くれるよなぁ~?」
「もちろんだよ!それより」

ここまで満面の笑みだったμだが、ピタリ、とその笑顔は止み、真顔になる。

「殺してないよね」

先ほどまでの朗らかな声が嘘だったかのように、μはセッコと骸骨に問いかける。

「しっ、心配するなよぉ~。ちょっと気絶させただけだぜぇ!俺たちがμの悲しむこと、する訳ねえだろぉ?なあ?」

ラバースーツの男―――セッコが身振り手振りで慌てて答え、骸骨もそれに続くようにウンウンと頷く。

「ならよかった」

再び笑顔になるμに、セッコと骸骨はホッと胸を撫で下ろす。

「はい、それじゃあ背中かいてあげるね!ポリポリ、ポリポリ♪」
「ウヒイイィィィィ!そこっ、そこがイイッ!!」

μに背中を掻かれセッコはご満悦な表情で喜び悶える。

「それじゃああなたにも...ってええ!?左腕がないよ!?大丈夫!?」

骸骨の左腕が無いことに今更気が付いたμが驚き、それを宥めるようにガイコツは右手の指を左右に振る。

「戻ったらリックと一緒にすぐに治してあげるからね!もう少しだけ我慢できる?」

μが首を傾げる動作に対し、骸骨はコクリと頷き返す。

もはや、彼らを害する者はいない。

電車はもうすぐ完成してしまう。

麦野沈利も。
ベルベット・クラウも。
夾竹桃も。
冨岡義勇も。
ビルドも。
神隼人も。
クオンも。

主催(かみ)を殺すために集った者たちは時間までに邪魔することも辿り着くこともできはしない。





      ――――――――――――――――――――――――――

     |  MISSION  μを倒せ!!    達成度0/1    |

      ――――――――――――――――――――――――――

―――失敗 ⤵―――





「μ――――!!!」

否、挑戦はまだ終わっていない。

四人のもとに飛んできた小さな妖精―――アリアが、μの眼前に止まり浮かぶ。

「ようやくたどり着けたよμ...って誰さそいつら!?」
「あーっ、アリア!」
「なっ、なんだよオッ、オメー!!どうして禁止エリアに入ってきてんだ、よぉ!?」
「大丈夫だよセッコ。この子はアリア。私と同じバーチャドールだから」
「でっ、でもよお」
「大丈夫だから、ね?」

笑顔で宥めるμに言われては、とセッコはすごすごと下がり、μは改めてアリアと対面する。

「会えて嬉しいよアリア」
「μ、どうしてこんなことするの!?」
「...ごめんね。それには答えられないの。あなたからの質問には答えちゃいけない。それがテミスのお願いだから」

申し訳なさそうに肩を窄め、しょんぼりとするμにアリアは困惑する。
間違いない。話を聞く限りではセレモニーの時のμは操られているような感じだったらしいが、いま、ここにいるμは限りなく正常に近い。
少なくとも、意思を捻じ曲げられた違和感のある洗脳はされていないように思える。

(これも、あんたの予想通りになっちゃったね)

アリアは己の喉元を弄り、そしてしっかりとμを見据える。

『なら、参加者である私の考えを聞いてもらうことはできますね?』
「え?」

―――カツン。

アリアの声がまるで別人のように変わるのと同時、杖が地面を突く音が鳴ったような錯覚に陥った。

『初めまして、というのは不適切でしょうね。私を呼んだあなたなら知っている声の筈でしょうから』
「その声、まさか...」
『岩永琴子です。ご安心を。こちらから危害を加えるつもりはありません。電車の整備が完全に終わるまでの間、少しお話に付き合っていただけたらと存じ上げます』
「うっ、嘘つくんじゃあねえ~!そうやって油断させるつもりだろおめ~!!」
「駄目だよセッコ。手を出されない限りは、ダメ」

『琴子』に食ってかかろうとするセッコをμは手で制し、μはなお『琴子』に向き合っている。



「マジかよ...」

送り出したアリアを双眼鏡で眺めながら、リュージは何度目になるかわからない言葉を漏らす。
あれだけの激戦を繰り広げた後だというのに、こちら側の使者であるアリアをああもあっさり受け入れられたのが信じられなかった。


「想定内ですよ。だからこそ、なおのこと先が思いやられるのですが...まあいいでしょう」

はぁ、とため息を吐きつつ、琴子は気の乗らない面持ちながらも杖を握る力を強める。

「それでは始めましょう。バトルロワイアル攻略議会、その序章を」

武力による主催(かみ)への反乱は鎮圧という形で収められた。

しかしまだ終わりではない。

知恵の神による宣戦は、ここから始まる。

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