―――渋谷駅に向かおう。
それがリュージの判断だった。
「一応聞いておきますけど、本当によろしいのですね?」
「ああ。仮に線路の破壊を王がやったとしてもあいつが留まる保証はないからな」
「ああ。仮に線路の破壊を王がやったとしてもあいつが留まる保証はないからな」
線路の破壊を王(ワン)がやったと仮定して、果たしてあの男が大人しくジッと獲物の待ち伏せをしているか。
正直、どちらともいえない。
これが普通のダーウィンズゲーム内ならば破壊痕に酔いしれ高確率で留まるだろうが、今回は主催が渋谷駅に降り立つ可能性が示唆されている。
その情報を逃さなければ、壊れた線路を見に来る輩が来る可能性と、主催に接触しようとする輩が来る可能性、どちらが高いかは火を見るよりも明らかだ。
王が来なくとも、あのコスプレ集団とクランを組んで王の包囲網を作れればそれに越したことはない。
ならば、主催と接触できるこのビッグチャンスを逃す謂れはない。もしも琴子の恋人らしい九朗も向かうならばそちらの方が可能性が高い―――それがリュージの判断だった。
正直、どちらともいえない。
これが普通のダーウィンズゲーム内ならば破壊痕に酔いしれ高確率で留まるだろうが、今回は主催が渋谷駅に降り立つ可能性が示唆されている。
その情報を逃さなければ、壊れた線路を見に来る輩が来る可能性と、主催に接触しようとする輩が来る可能性、どちらが高いかは火を見るよりも明らかだ。
王が来なくとも、あのコスプレ集団とクランを組んで王の包囲網を作れればそれに越したことはない。
ならば、主催と接触できるこのビッグチャンスを逃す謂れはない。もしも琴子の恋人らしい九朗も向かうならばそちらの方が可能性が高い―――それがリュージの判断だった。
「それに、ブチャラティ達ももしかしたら向かうかもしれねえ。もうアリアも落ち着いてるだろうし、上手くいけば戦力も大幅に上がる」
「確かスタンドという能力を扱う男性と武器術に優れた少女でしたっけ」
「ああ。アリアは武偵とかいうよくわからん職業の学生らしいが、戦闘なら充分に頼れるだろう」
「ふむ」
「確かスタンドという能力を扱う男性と武器術に優れた少女でしたっけ」
「ああ。アリアは武偵とかいうよくわからん職業の学生らしいが、戦闘なら充分に頼れるだろう」
「ふむ」
琴子は脳内にデータとしてとどめてある参加者名簿の『ブローノ・ブチャラティ』と『神崎・H・アリア』の名前を『岩永琴子』と『リュージ』のもとへと移動させる。
(ん...?)
ふと、違和感に気づき、改めてもう一度、実物の名簿を取り出し確認する。
『ブローノ・ブチャラティ』『神崎・H・アリア』『岩永琴子』『リュージ』。
違和感はすぐに見つかった。
「リュージさん。あなたは本名はリュージではないですよね」
「ああ。こいつはゲーム内のコードネームだな。本名は前坂隆二ってフッツーの名前だ」
「なぜでしょうか」
「何故って言われても、そいつは親に聞かねえと...」
「違います。何故あなたの本名が載っていないのでしょうか」
「なんでってそりゃあ...」
「ああ。こいつはゲーム内のコードネームだな。本名は前坂隆二ってフッツーの名前だ」
「なぜでしょうか」
「何故って言われても、そいつは親に聞かねえと...」
「違います。何故あなたの本名が載っていないのでしょうか」
「なんでってそりゃあ...」
言われてみれば不思議なことである。
ダーウィンズゲーム真っ最中の自分たちをこんな催しにわざわざ連れてきたのだ。
主催達が本名を把握していない、ということは考えにくいだろう。
ダーウィンズゲーム真っ最中の自分たちをこんな催しにわざわざ連れてきたのだ。
主催達が本名を把握していない、ということは考えにくいだろう。
「知り合いの参加者同士がわかりやすいように配慮してくれたんじゃねーの?実際、俺もレインとかの本名は知らねえし」
「そういうことですか。...しかし、それならまたわからないことが増えましたね。リュージさん、あなた外国語は話せますか?」
「洋楽とか映画で齧った程度ならいけるかもしれないが、そこまで自信はないな」
「つまり実際に使う価値には値しないレベルと。よくそれでキースさんやブチャラティさんと話せましたね」
「いや、俺は普通に喋ってて...あん?」
「そういうことですか。...しかし、それならまたわからないことが増えましたね。リュージさん、あなた外国語は話せますか?」
「洋楽とか映画で齧った程度ならいけるかもしれないが、そこまで自信はないな」
「つまり実際に使う価値には値しないレベルと。よくそれでキースさんやブチャラティさんと話せましたね」
「いや、俺は普通に喋ってて...あん?」
言っていて、リュージも違和感に気づく。
ブローノ・ブチャラティ。神崎・H・アリア。キース・クラエス。
この三人とは聞き存ぜぬ単語の認識の違いはあれど、会話が滞ったことはほとんどない。
苗字からして日本で暮らしていると思しきアリアはともかくとして、どう見ても外国人であるブチャラティとキースに対してもだ。
ブローノ・ブチャラティ。神崎・H・アリア。キース・クラエス。
この三人とは聞き存ぜぬ単語の認識の違いはあれど、会話が滞ったことはほとんどない。
苗字からして日本で暮らしていると思しきアリアはともかくとして、どう見ても外国人であるブチャラティとキースに対してもだ。
「そういや妙だな...揃って日本語で話してたから気が付かなかった。あいつらが日本通って感じでも無かったしな」
四人が邂逅した時、最初に言葉を発し宣戦したのはブチャラティだった。
しかし、あの時彼が発したのは母国の言葉ではなく『日本語』だった。
キースという明らかに日本人でない者も紛れている中でだ。
しかし、あの時彼が発したのは母国の言葉ではなく『日本語』だった。
キースという明らかに日本人でない者も紛れている中でだ。
「気になるのはそれだけではありません。ブチャラティさんのスタンド能力とは本来ならば一般人には見えない能力なんですよね?」
「らしいぜ。詳しくは聞いてなかったが」
「能力者であるあなたやキース・クラエスはまだしも、アリアさんはあくまでも無能力者なのでしょう?まあ、彼女が能力を隠している可能性も無きにしも非ずですが」
「その可能性は低いと思うぜ。キースのゴーレムはかなり手ごわかった。アリアもあそこまで追い込まれて使わないことはないだろう」
「と、なるとこの時点で三つわからないことが浮かび上がりましたね」
「らしいぜ。詳しくは聞いてなかったが」
「能力者であるあなたやキース・クラエスはまだしも、アリアさんはあくまでも無能力者なのでしょう?まあ、彼女が能力を隠している可能性も無きにしも非ずですが」
「その可能性は低いと思うぜ。キースのゴーレムはかなり手ごわかった。アリアもあそこまで追い込まれて使わないことはないだろう」
「と、なるとこの時点で三つわからないことが浮かび上がりましたね」
①本名で載っていない参加者と本名の参加者の違い。
②多国籍間の言語の壁が払われていること。
③スタンド能力はなぜ無能力者にも見えるのか。
②多国籍間の言語の壁が払われていること。
③スタンド能力はなぜ無能力者にも見えるのか。
前者二つはそうした理由だけは簡単に思いつく。
①普段、ラストネーム(姓)を使用していない参加者間でわかりやすくするため。
②参加者間の情報のやり取りをスムーズに進めるため。
②参加者間の情報のやり取りをスムーズに進めるため。
問題は③だ。
「スタンド能力はスタンド使いでしか認識できない。これはスタンド使い特有のルール、特色と言い換えてもいいでしょう。キースのゴーレムは他者に見えること前提で操られていたみたいですし。
しかしそれが撤廃されたとなれば、スタンド使いの特色は消え去ります」
「まあ、向かい合った途端にわけもわからず首輪を攻撃されてお終い、なんてのが繰り返されたら溜まったもんじゃねーわな」
「そこです。こんな調整をするくらいなら最初からそんな参加者を連れてくる必要はないんですよ。能力者だとしてももっと他の参加者にも公平的で手軽な者を呼べばいいだけの話です」
しかしそれが撤廃されたとなれば、スタンド使いの特色は消え去ります」
「まあ、向かい合った途端にわけもわからず首輪を攻撃されてお終い、なんてのが繰り返されたら溜まったもんじゃねーわな」
「そこです。こんな調整をするくらいなら最初からそんな参加者を連れてくる必要はないんですよ。能力者だとしてももっと他の参加者にも公平的で手軽な者を呼べばいいだけの話です」
考えれば考えるほど、さらりと流していた部分に足をからめとられるような違和感が湧いてくる。
何故。どうして。その疑問は絶えず己の脳髄に問いかけてくる。
故に琴子は推理する。限られた情報から仮初でも真相に最も近い虚構(しんじつ)を構築するために。
何故。どうして。その疑問は絶えず己の脳髄に問いかけてくる。
故に琴子は推理する。限られた情報から仮初でも真相に最も近い虚構(しんじつ)を構築するために。
(③において得をするのは主催側の人間でしょう)
主催側はあくまでも参加者間の潰し合いを望んでいる。でなければ殺し合いという形はとらない筈だ。
見る側の立場に立てば、スタンド使いによる一方的な暗殺劇などつまらないにもほどがあるだろう。
故に、どうやったかは置いておくとして、彼女たちはスタンド使い以外にもスタンドに干渉できるようにした。
見る側の立場に立てば、スタンド使いによる一方的な暗殺劇などつまらないにもほどがあるだろう。
故に、どうやったかは置いておくとして、彼女たちはスタンド使い以外にもスタンドに干渉できるようにした。
では、①と②においても同様か?
いや、主催側からして、この二つにおいてはさしたるメリットはない。
他の参加者がハッキリとしないからこそ殺し合いを肯定する者がいれば、しない者もいるし、言語が通じぬ為に争いや諍いが起きるなら願ったり叶ったりではないか。
では上記二つで最も恩恵を受けるのは―――
他の参加者がハッキリとしないからこそ殺し合いを肯定する者がいれば、しない者もいるし、言語が通じぬ為に争いや諍いが起きるなら願ったり叶ったりではないか。
では上記二つで最も恩恵を受けるのは―――
(...なんだ、簡単なことじゃないですか)
そして、岩永琴子は一つの回答を導き出した。
☆
「そろそろね」
渋谷駅が禁止エリアに指定される8時まで残り30分を切った。
麦野たち三人食事と休憩を終え、禁止エリアに当たらないギリギリの境界線の森林に立ち、渋谷駅を見据える。
麦野たち三人食事と休憩を終え、禁止エリアに当たらないギリギリの境界線の森林に立ち、渋谷駅を見据える。
「今のところは何の変哲もないわね」
「律儀にヘリや飛行機で来るとは限らないわ。瞬間移動でもしてくるんじゃない?」
「へえ...学園都市ってところはそんなものも研究してるのね」
「律儀にヘリや飛行機で来るとは限らないわ。瞬間移動でもしてくるんじゃない?」
「へえ...学園都市ってところはそんなものも研究してるのね」
そんなことを三人で話している内にも時は過ぎていく。
「...ところで他の参加者が来たら」
「さっきも言った通りよぉ。物見遊山なら首輪の調達に。私たちと同じ目的なら力を見せつける」
「さっきも言った通りよぉ。物見遊山なら首輪の調達に。私たちと同じ目的なら力を見せつける」
ベルベットの確認に夾竹桃が答えると同時。
ガサリ、と草木が揺れる音と共に二つの影が躍り出る。
いち早く反応した麦野とベルベットは影の前に立ち、咄嗟に防御の姿勢を取る。
いち早く反応した麦野とベルベットは影の前に立ち、咄嗟に防御の姿勢を取る。
バチリ、と肉を打つ音が二つ重なった。
「どちらにせよ初手は制圧...どうやらあちらさんもそのつもりだったみたいね」
ベルベットは踵落としを受けた腕はそのままに、異形の左腕で着物の女―――クオンへと攻撃を仕掛ける。
クオンは迫る異形にも怯まず、冷静に攻撃を足で弾き、着地と同時に回転を伴った肘打ちを放つ。
ベルベットはそれを右腕で受け止め、後退するのと同時に砂を蹴り上げ牽制を兼ねた目つぶしを放つ。
クオンは上体を低くし、敢えてベルベットの懐へ飛び込み、追撃の掌底を放とうとするも、ベルベットは蹴り上げていた足をそのまま勢いよく振り下ろす。
追撃を想定していたカウンターだと察すると掌底を防御に回し、次いで振り下ろされる異形の腕を間一髪で躱す。
クオンは迫る異形にも怯まず、冷静に攻撃を足で弾き、着地と同時に回転を伴った肘打ちを放つ。
ベルベットはそれを右腕で受け止め、後退するのと同時に砂を蹴り上げ牽制を兼ねた目つぶしを放つ。
クオンは上体を低くし、敢えてベルベットの懐へ飛び込み、追撃の掌底を放とうとするも、ベルベットは蹴り上げていた足をそのまま勢いよく振り下ろす。
追撃を想定していたカウンターだと察すると掌底を防御に回し、次いで振り下ろされる異形の腕を間一髪で躱す。
「あいにくと足癖は悪くてね」
「ふぅん、その腕に頼り切りってわけじゃないってことかな」
「ふぅん、その腕に頼り切りってわけじゃないってことかな」
ベルベットとクオンが再び肉弾戦を始める一方で、麦野は振るわれた左腕を抑え、男―――隼人とにらみ合っていた。
麦野沈利はその強力な能力のみならず成人男性顔負けの筋力も有している。
その麦野の筋肉は告げている。少しでも力を緩めればこのまま顔を裂かれると。
その麦野の筋肉は告げている。少しでも力を緩めればこのまま顔を裂かれると。
「まあ―――馬鹿正直に力比べするつもりなんてないけど」
麦野の『原子崩し』は強力なぶん、照準を合わせて放つまでに時間がかかる。
その為、遠距離でこそ本領を発揮するのだが、こうして近づいている場合には威力と範囲を絞れば問題なく放つことができる。
その為、遠距離でこそ本領を発揮するのだが、こうして近づいている場合には威力と範囲を絞れば問題なく放つことができる。
「獲物は二匹、なら一匹は殺しても構わないよねえ!?」
隼人は麦野の背後に輝く光が己の眉間を狙っていると察し、顔を傾け咄嗟に躱す。
そのまま反撃としてもう片方の腕を振るうがそれも麦野に掴まれる。
そのまま反撃としてもう片方の腕を振るうがそれも麦野に掴まれる。
「さあこれで逃げ場はなくなった。あんたが出来るのはあとは精々情けなく腰振って逃げようとするだけ―――」
麦野と隼人の力は拮抗している。それはつまり、両腕を掴めば容易くは拘束から逃がすことはないということだ。
にも拘わらず、麦野はその手を離した。悪寒がしたのだ。このまま掴んでいるのはマズイと。
にも拘わらず、麦野はその手を離した。悪寒がしたのだ。このまま掴んでいるのはマズイと。
「チッ」
舌打ちする隼人の左腕には、既に拳銃が握られていた。麦野が右腕の攻撃に意識を向けたその瞬間に、裾に隠していた拳銃を手品のように取り出し狙いを定めていた。
舌打ちしたいのは麦野も同じだった。よもや浜面にやられたあの拳銃での不意打ちの経験が活きようとは。
あの無能力者に助けられたかと思うと歯がゆい、なんてものでは済まない。
あの無能力者に助けられたかと思うと歯がゆい、なんてものでは済まない。
(死んでからもムカつかせてくれるわね、はまづらぁ)
苛立ちの言葉を内心で噛み殺し、隼人へと向き合う。
(初手での拘束は失敗だったか...ビルド達に合図を送るか)
隼人は銃を握る手に力を籠める。
主催殺しの策は余計な障害にならないのがあっての策だ。
明らかにこの三人はゲームに乗っている側の人間だ。
ここでクオンと共に連中を皆殺しにするにしても一時撤退するにしても、ビルドに害を加えられては敵わない。
ならば計画はスッパリ切ってビルドの安全を優先するべきだろう。
主催殺しの策は余計な障害にならないのがあっての策だ。
明らかにこの三人はゲームに乗っている側の人間だ。
ここでクオンと共に連中を皆殺しにするにしても一時撤退するにしても、ビルドに害を加えられては敵わない。
ならば計画はスッパリ切ってビルドの安全を優先するべきだろう。
「はい、そこまでよ」
パンッ、と両掌を叩く音が響き、四人の注目が夾竹桃へと集まる。
「お互いにそれなりに渡り合える実力があるのはわかったもの。ならもう戦う理由はないわよね」
「どういうことかな?」
「私たち三人はここから主催を狙い撃ちするのが目的。見たところあなた達の目的もそうじゃなくて?」
「......」
「どういうことかな?」
「私たち三人はここから主催を狙い撃ちするのが目的。見たところあなた達の目的もそうじゃなくて?」
「......」
沈黙する隼人を肯定とみなし、夾竹桃は話を続ける。
「お察しの通り、私たちは生き残るのに手段は択ばないわ。けれど、それはあくまでも生存が優先というだけの話。もしこれで主催を倒してめでたしめでたしとなれるなら優勝の褒美なんかよりもそちらをとるわよ」
「戦いを続けてもらっても私は構わないけどね。どのみち、奴らに攻撃できるのはそっちのイライラ光線女だけだし」
「消し炭にしてやろうか糞露出マント」
「...どうする?隼人」
「戦いを続けてもらっても私は構わないけどね。どのみち、奴らに攻撃できるのはそっちのイライラ光線女だけだし」
「消し炭にしてやろうか糞露出マント」
「...どうする?隼人」
勝手に火花を散らし合うベルベットと麦野を他所にチラ、とクオンは隼人へと目で訴えかける。
夾竹桃の言葉を信じるなら、もうこれ以上争う理由はなく、この場だけでも頼もしい戦力となる。
クオンとしても、これ以上彼女たちと争って消耗しなくていいならそちらを取りたい。
夾竹桃の言葉を信じるなら、もうこれ以上争う理由はなく、この場だけでも頼もしい戦力となる。
クオンとしても、これ以上彼女たちと争って消耗しなくていいならそちらを取りたい。
数秒瞼を瞑り、目を開けて隼人は決断を口にした。
☆
「本当に大丈夫なのか?」
遅れてやってきたビルドと義勇は、待ち構えていた三人を見まわし、隼人へと視線を向ける。
「時間もなかったからな。多少のリスクはあろうが、実のある方を取っただけだ」
「実力は確かだと私も思うかな」
「二人がそういうなら心強いよ」
「...お前たちが受け入れているならば俺はなにも言わない」
「実力は確かだと私も思うかな」
「二人がそういうなら心強いよ」
「...お前たちが受け入れているならば俺はなにも言わない」
直接手合わせをした隼人とクオンはもとより、ビルドがこうもあっさり受け入れるならば義勇もそれに従う他ない。
隼人たち四人と夾竹桃ら三人、計七人は名前だけの自己紹介を簡素に交わすと、すぐに準備へと取り掛かる。
隼人たち四人と夾竹桃ら三人、計七人は名前だけの自己紹介を簡素に交わすと、すぐに準備へと取り掛かる。
まずもって、第一に主催への攻撃手段は麦野の原子崩しとビルドと義勇で造った大砲だけ。
狙撃手は麦野とビルド。では他の五人は適当に時間を潰せばいいかといえばそうではない。
まず、この攻撃の初撃は高確率で失敗するという前提のもとに作戦は動いている。
主催の手の者が直接現れるかもしれないという参加者からしたら絶好のこの機会、相手側もなにかしらの対策は講じているはずだ。
大切なのはその次にどう活かすかだ。
そうでなくても、主催側の用心棒か護衛がこちらを罰しに来る可能性もある。
狙撃手は麦野とビルド。では他の五人は適当に時間を潰せばいいかといえばそうではない。
まず、この攻撃の初撃は高確率で失敗するという前提のもとに作戦は動いている。
主催の手の者が直接現れるかもしれないという参加者からしたら絶好のこの機会、相手側もなにかしらの対策は講じているはずだ。
大切なのはその次にどう活かすかだ。
そうでなくても、主催側の用心棒か護衛がこちらを罰しに来る可能性もある。
残る五人はそういった事態への対処だ。ある意味、狙撃手二人よりも重要な役回りであると言えよう。
「時間まであと30秒」
隼人のカウントダウンが始まり、その一秒一秒に、各々の殺気が充満し、一同を包む空気がヒリついたものになる。
二人の砲撃場所はかなり近い。本来ならば距離を置き別々の場所から放つのが定石なのだが、互いのチームの信頼関係が無である以上、傍で撃つべきだと話は纏まった。
二人の砲撃場所はかなり近い。本来ならば距離を置き別々の場所から放つのが定石なのだが、互いのチームの信頼関係が無である以上、傍で撃つべきだと話は纏まった。
「5」
義勇が剣に手をかけ、その姿を見たベルベットの目が細められる。
「4」
夾竹桃はいつでも『毒』を使えるよう懐に忍ばせる。
「3」
クオンは今は一切の同郷の者たちへの感情を抑え、眼前と周囲に集中する。
「2」
隼人は己も拳銃の弾を込めなおし、即座に撃てるよう構える。
「1」
ビルドが渋谷駅周辺に狙いを定め、麦野も同じく照準を定め原子崩しの砲撃準備に入る。
「0」
―――♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~
歌声が響き渡ると共に、渋谷駅より影が降り立つ。
その妖精を思わせるような純白の衣装に身を包む、アイドルのような風貌―――間違いない。
参加者の誰もが忘れられぬ女、μだ。
その妖精を思わせるような純白の衣装に身を包む、アイドルのような風貌―――間違いない。
参加者の誰もが忘れられぬ女、μだ。
ビルドと麦野は共に砲撃する。
高速で迫る光弾と砲弾に、μは一瞥もくれない。
ただひたすらに己の歌を唄い続ける。
ただひたすらに己の歌を唄い続ける。
―――♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~
カッ!
閃光と爆音が響き渡り、爆風と砂塵が舞いビルド達の視界を遮る。
その勢いに溜まらず目を隠しながらも、麦野は嗤う。
その勢いに溜まらず目を隠しながらも、麦野は嗤う。
仮にも自分や垣根提督を巻き込んだ連中がこの程度で終わる筈がない。
これで終わる程度なら最初から優勝の褒美など期待はしない。その程度の力で垣根提督を超えることなどできないのだから。
だから見せてみろ、お前たちの力というものを。
これで終わる程度なら最初から優勝の褒美など期待はしない。その程度の力で垣根提督を超えることなどできないのだから。
だから見せてみろ、お前たちの力というものを。
そんな、まるで試しているのはこちらだと言わんばかりの思惑を抱きつつ砂塵の先に目を向ける。
やがて爆風の勢いが収まり砂塵もパラパラと舞い落ち、その先に立つ影が浮かび上がる。
現れたのはμ―――ではない。
黒のコートととズボンに身を包み、二丁拳銃を構えた男...いや、女?
その正体はわからない。なぜならその頭部は透明化した骸骨そのものであるからだ。
その正体はわからない。なぜならその頭部は透明化した骸骨そのものであるからだ。
―――♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪~ ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~
透明骸骨が挑発するように指先を左右にゆっくりと振る。
「ハッ、面白いじゃない」
それを見た麦野は不機嫌になることもなく凶悪な笑みを浮かべる。
ソイツがあの拳銃で原子崩しを相殺したというのか。
ならばもう一発撃って確かめる。撃って、その力のほどを確かめる。
ソイツがあの拳銃で原子崩しを相殺したというのか。
ならばもう一発撃って確かめる。撃って、その力のほどを確かめる。
麦野に続き、一同が透明骸骨に対応しようとしたその時だ。
カチリ。なにかを踏んだような音が鳴る。
瞬間。
ゴウッ!!
足元から、突如、小規模な台風が発生し、ベルベット、義勇、隼人、クオン、ビルドの五人の身体が巻き上げられる。
「こっ、これは...!?」
「ビルド!」
「ビルド!」
巻き上げられながらも咄嗟にビルドへと手を伸ばす義勇だが―――届かない。
消えていくビルド達の姿に無力感を抱きつつも、自身も放り出されるように遠心力で吹き飛ばされてしまう。
旋風が収まった時には、もう巻き込まれた五人の姿は何処へと消えていた。
消えていくビルド達の姿に無力感を抱きつつも、自身も放り出されるように遠心力で吹き飛ばされてしまう。
旋風が収まった時には、もう巻き込まれた五人の姿は何処へと消えていた。
「麦野、一旦態勢を立て直しましょう」
「チッ、なにがどうなってやがる」
「チッ、なにがどうなってやがる」
残された夾竹桃と麦野は状況の異常さを察する。
おかしい。
状況から見て、なにか罠を踏んだのだろうと判断はできる。しかし、つい先ほどまで何の変哲もなかった場所から突如発生したのだ。
わかるのはただ一つ。
状況は、自分たちが想像しているよりも危険で大きく動いているということだ。
おかしい。
状況から見て、なにか罠を踏んだのだろうと判断はできる。しかし、つい先ほどまで何の変哲もなかった場所から突如発生したのだ。
わかるのはただ一つ。
状況は、自分たちが想像しているよりも危険で大きく動いているということだ。
退こうとする夾竹桃だが、しかしその彼女へ向けて光線が放たれる。
骸骨の手に持つ二丁拳銃によるものだ。
夾竹桃の眼前にまで迫るソレは、しかし彼女に着弾することなく弾け飛ぶ。
骸骨の手に持つ二丁拳銃によるものだ。
夾竹桃の眼前にまで迫るソレは、しかし彼女に着弾することなく弾け飛ぶ。
麦野のほんの小規模な原子崩しの光線が、骸骨のモノに当たり弾いたのだ。
「面白くなってきたじゃない」
不測の事態においても麦野は嗤う。
そうでなくてはつまらない。
そうでなくてはつまらない。
学園都市第四位、麦野沈利の踏み台になるならこれくらいはやってもらわないと困る。
「相手してやるわよォ、三下骸骨!!」
麦野の啖呵に、骸骨はその奥でニヤリと笑みを深めた―――気がした。
―――♪♪♪...♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~
「くっ...」
ビルドは着地の際に痛めた腕を抑えながら、先ほどの狙撃場所へと向かう。
急がなければμが帰ってしまう。
恐らく吹き飛ばされたみんなも再び集まるはずだし、たとえ倒せなくてもなにかできることはあるはずだ。
急がなければ。早く、早く。
急がなければμが帰ってしまう。
恐らく吹き飛ばされたみんなも再び集まるはずだし、たとえ倒せなくてもなにかできることはあるはずだ。
急がなければ。早く、早く。
カチリ。
なにかを踏んだかのような音が再び鳴ると共に、今度は地面から激しく炎が吹きあがってきた。
「うわっ!!」
あまりの勢いに思わず倒れ込むも、一方で冷静にこの現象の心当たりを探る。
(僕は知っている。これは―――)
「ギラタイルの罠とバギバキューム。きみが教えてくれたものを少し改良したものだよ」
ビルドの心に答えるように、被せられる声。
ビルドは振り返り、信じられないものを見たような表情を浮かべる。
ビルドは振り返り、信じられないものを見たような表情を浮かべる。
「本来は叩き落とすバギバキュームも発生する風の向きをこうして変えれば吹き飛ばすように使える。こうやって既存のものに手を加えることもきみの『ものづくり』の一環なんだろうね」
「きみは...!」
「その顔...ハハッ、僕なんかを覚えていてくれたのかい。思っていたよりも律儀だったのかな?」
「きみは...!」
「その顔...ハハッ、僕なんかを覚えていてくれたのかい。思っていたよりも律儀だったのかな?」
炎が広がり木々が燃え盛る中、歩み寄るその存在の名前をビルドは口にする。
きみはいなくなったはずなのに―――死んでしまったはずなのに。
「リック...!」
―――♪♪♪...♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪~
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