バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

間宮あかりVS魔王ベルセリア 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦

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kyogokurowa

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「……永……。岩永……起きろっ!」
「……リュージ、さん?」

叫び声と共に、岩永琴子の意識が目覚める。
リュージに体を支えられ起き上がり上空を見れば、その視界には異様な光景が広がっている。

「……どういうことですか、これは。」

目を見開き、それを視認する。それは罅だ、空間に刻まれた黒い罅の数々。
それは地面や建物に発生したとかではなく、文字通り何もない空中に発生した罅。
大きな割れ目。断崖絶壁に発生した地割れの影響に酷似したそれがあった。
さらに言えば、自分たちを包み込むように展開されている緑色の幕のようなものも視認できる。

「……俺にも分からねぇ。さっき目覚めて広がってた光景がこれだ。……それに。」

リュージが視線を上に向ければ、銅鑼の如くけたたましく空気が弾け、吹き飛ぶ音。
ソニックブームよって発生した大轟音が何度も何度も鳴り響いている。
それは、2つの何かがぶつかり合って発生した、衝突の余波。
余波にしては、余りにも絶大な、人智を超えた戦いの残響。
再び、空気が割れ、大轟音が鳴り響く。同時に、空間に黒い割れ目が出来る。

「……一体、誰が戦ってやがるんだ………?」

それが、リュージにとっての疑問であった。
人智どころか化け物同士が戦っているようにしか見えない異常な光景。
空間にすら影響を及ぼす超越者の黄昏。

「……あかりさん。あの怪物と互角に戦ってる……」
「あんたはたしか……。生きてたのか。」
「ええ。なんとか。」

そんなリュージの疑問を返すように現れたのはメアリ・ハント。
今魔王と戦っているのは間宮あかりである。
自分と同じ、理由は分からないが『覚醒』し、あの魔王と戦えている。

「……。」

魔王の言っていた事が岩永の頭の中で反芻する。
『覚醒者』の増加が、楽園の成立に関わるならば、それこそ主催の思う壺ではないかと。
魔王の権能は穢れ。そして捕食による異能の蒐集。所々の魔王の発言の違和感は感じ取っていた。


『……煩わしい。何故、消えない。』


あの時の言葉。間違いなく"別の誰か"が喋っていたような感覚。
魔王の中身はベルベットではなく、全く別のなにか。
"鋼人七瀬"のように誰かの想像力が生み出した怪物。
――ではその怪物の目的は何だ?
蒐集の異能、覚醒者の誕生。それを食らって、その果てに―――。
まだ、答えには足りず。だが、今わかることは。

「……あかりさん。」

彼女が、最後の希望。自分たちの未来を繋ぐ境界線。
藁にもすがる思いで、間宮あかりに願いを託すことだけが、今の三人に出来ることだ。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



さぁ 立ち上がれよ 従者にして魔王よ

世界砕き 歌姫の愛で滅せよ


さぁ 現実を哀で包め 己が望むまま蹂躙を

虚構を巡り 崩界を奏

彼方現実に終焉を…永遠に



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



世界が、割れている。
快晴の晴天の下、黒い断裂。
画用紙を引き裂いたような、そんな乱雑さ。
空気と空気が衝突し、大轟音と共に空間の断裂は増えていく。
黒の魔王と、白の少女が縦横無尽に動き回る。

原因はたった1つ。二人の覚醒者の衝突が引き起こしたものだ。
『覚醒者』といえど、目覚めた理由や素質からその強さは大きく変動する。
少なくとも、ベルベットより生じた魔王ベルセリアという存在は大当たりだった。
喰魔と言う、業魔の血肉を喰らいその力を手に入れる特性。それをデータを食しそれを糧とするという形で再現された、蒐集の器としての権能。
―――最高傑作、捕食の頂点を前に、白翼の彼女は互角に戦えていた。

空中機雷と言うべき、展開された黒い魔力の塊。
それが歯車の如く稼働しながら、縦横無尽に動いている。
超スピードで隙間を縫い、爆音とソニックブームを発生させて、通過するたびに機雷は誘爆する。
爆煙に紛れながら接近、接近。所謂掌底のような掌の動きを魔王にぶつけようとする。
魔王はすかさず業魔腕でガード。その激突だけで再び爆音とソニックブームが発生。鍔迫り合い、再び離れる。

業魔腕を振り上げれば天に出現する黒雲。放たれるは魔王の絨毯爆撃。地上を隙間なく埋め尽くす漆黒の魔力の槍。その暴風雨。
全てを消し飛ばしかねない魔星の雨嵐は次々と大地を穿ち破壊していく。構わず少女たちは動き回る。
肉薄、衝突、激突。断裂。再び世界に断裂が入る。
次に魔王が用意したのは球状の砲台ともいうべき複数の魔力の塊。
そこから放出される光条、砲台一つに付き1024。視界を埋め尽くす殺意の黒雷があかりに襲いかかる。

「はぁぁっ!!!」

宣誓。魔力の粒子を手に集め、握りしめて顕現させた紅葉色の扇。それを一振り。
吹き荒び現れた翠緑の旋風が鎌鼬となって光条を破断し、砲台を粉砕する。
既に魔王は次の攻撃の準備。二階建てビル程の大きさの魔力槍を顕現、目標に向けて投擲。
迫る脅威を前に、あかりは再び粒子を構築。――二対の翠緑色の魔力の鎖となり、魔槍を縛り上げ、そのまま遠心力で回って投げ返す。

投げ返された魔槍を魔王は魔槍を以て相殺、爆発、空間の断裂が増える。
回避動作と同時に魔王が黒翼より羽の弾丸――フェザーショットを放出。
対する間宮あかりも白のフェザーショットを発射。白と黒が相殺し、再び爆煙が戦場を包み込む。
何度目かの激突、肉薄、鍔迫り合い。そして再び空間が裂ける。

爆煙を抜け、刃物の如き魔王の蹴りが間宮あかりに刺さる。
刺さるというより辛うじて当てたと言う形、叩き込まれるもダメージは皆無。
即座にあかりがより上空を見上げれば、既に巨大な魔光を掲げた魔王の姿。

「戴冠災器(カラミティレガリア)・侵喰流星(スターダストフォール)」
「……っ!」

公園跡地を覆い尽くす、破壊し穢れを以て腐らせる腐食の流星雨。そこにいる全てを腐らせ溶かす。
だが、それを上空へ弾き飛ばすように間宮あかりが翠緑の障壁を展開。腐りつつある鉄の棒を蹴りあげ突撃。障壁を纏い、穢れの雨を凌ぎながら、飛び上がり魔王へと接近する。

――カタリナ・クラエスが間宮あかりの情報を保管を行うために使用した紅葉色の扇。
あれは本来、自称幻想郷最速の文屋こと射命丸文が保有する扇だ。
本体情報に遥かに劣るもののの、少なからず射命丸文の情報が含まれている。
それもまた、間宮あかりの『覚醒』に少なからず良い影響を与えた。一つは風の力。そしてもう一つは――

「……捉えた!」
「―――!!」

――速度。風を操る程度の能力の補助を受けた、風による高速移動だ。
実を言えば間宮あかりに施された強化は魔王には到底及ばない。しかし少なくとも、魔王に匹敵か、それ以上の速度を以て対応できる。
そして、直線距離に対する移動なら、魔王の動体視力であろうと対応には窮する。それが大技発動の隙間を縫った攻撃であるならば尚の事。
構えは天鷹。使う飛び道具は風の魔力。弓を引き絞るように至近距離に肉薄し――放つ!!
見えない塊に衝突して、地面に向けて魔王が吹き飛ばされる。

だが、その程度のダメージでは魔王はそう安々と斃れない。落下厨二姿勢を転換し、何事も無く地面に降り立つ。
次に行ったのは力場の展開、重力の檻。業魔腕を目の前に翳せば、間宮あかりが沈んでゆく。

「……ッ!!」

押しつぶされるような、肉体が拉げるような感覚。防壁を貼ろうが関係ない。そのまま押し潰してやるという魔王の殺意。一瞬でも気を抜けば押し花の如く真っ平らにされてしまう。

「……はぁぁぁっ!!!!」

―――だからどうした!痛みは無視し集中。体中から上がる悲鳴なんて気にしてる場合じゃない。
風の粒子を集わせて、顕現させるは鉄塊を思わせる巨大な大剣。手に取り、回る。
重力の圧を無視した影響で、体中から血が吹き出る。歯を食いしばり耐え、遠心力を増しながら鉄塊は赤熱、燃え盛る炎を纏う。

魔王は既に次の攻撃に以降。掌を振り上げ、それを中心に巨大な龍の形をした魔力を形成
ゆっくり手を振り下ろせば、それはあかりに向けて急速に飛んでゆく。
矮小な少女を喰い付くさんとと巨大な顎を開けてその牙で噛み砕こうとする。

「――食いちぎれぇっ!!」
「「いっけぇぇぇっっ!!」」

一瞬だけ、間宮あかりの声に誰かの声が重なったように聞こえた。だが、それは今関係ない。
飲み込まれた直前、あかりが振り下ろした炎の一撃が、黒き穢れの龍を焼き尽くし、その炎は龍をも貫通し斬撃として魔王に迫る。
間宮あかりに取り込まれたシアリーズの情報。それは即ち間宮あかりに炎の聖隷力の行使を可能とした。
風と炎、異なる世界の異なる属性をも、行使できる。託されたが故に行使できる、間宮あかりの権能とも言うべき繋がる力のその一端だ。

「なぁッ……!?」

驚愕と共に、これには回避行動が間に合わず、右翼が切り裂かれる。

「――――ッッッ!」

翼の方は即時再生するも、それを狙いすましたかのように翠緑の鎖が魔王の身体を縛る。
その間にも間宮あかりは突進するかのように最接近。

「私を、舐めるなぁぁぁぁぁっ!!!!」

乱雑に業魔腕を振るい、鎖を無理やり破壊。そのまま穢れをバーストし、そのまま自分も吹き飛ばされる。
飛び散る穢れをあかりは風の障壁で吹き飛ばし、魔王が吹き飛んだ方向へ翔ぶ。
吹き飛んだ先は遥か上空。既に魔王はさらなる策を展開していた。

「黄金の夜を明けよ(ゴールデン・ドーン)!!――無限(アイン・ソフ)!!」

詠唱を唱え、魔王の身体を穢れが纏う。纏った穢れは膨張、肥大化。
纏い現れるは新たなる躯体、全長5メートルの穢れの鎧によって構築された、怪物のような何か。
悪魔バフォメットを彷彿とさせる巨大な二本の角、その間に魔王ベルセリアの上半身が取り込まれたかのように張り付いている。それはまるでラグナロクにおける炎の巨人の如き終焉の担い手。
背中には一層巨大な黒翼、黒き巨躯にお似合いな穢れし魂沌のバケモノがこの虚構の舞台に降臨する。

『破神顕象――トゥアサ・デー・ダナン!!!!!!!』

大口が咆哮を上げ、世界を震わせる。
歌姫の秩序に歯向かう愚者を文字通り噛み砕だかんと、蒐集の破神が間宮あかりに牙をむく。

「………!」

不味い、と本能的に察知。そして、大口より垣間見える赤黒の明光。
それを避けようと死角へと距離を詰めようとしたその時、背後より急速に迫る気配。

「……えっ!? ――がはぁっ!?」

文字通り横槍を入れられたように切り裂かれ、吹き飛ばされる。
気配の正体は赤い輪郭で構築された魔王ベルセリアの人間態。
『虚獄神器・第五階位(セフィロトレガリア・ゲプラー)。夢幻泡影(カマエル)』。破神形態に気取られるであろうあかりの油断を付き、先んじて数人ほど生成していた。
そして、吹き飛ばされた軌道を予測するように―――大口より放たれた赤黒の光条、破滅の光芒が間宮あかりを呑み込んだ。

「―――――ッッッ!!」

直撃0.1秒前にあかりは障壁を展開。だがものの数秒で蒸発し、焼き尽くす痛みがあかりを襲い、墜落。
自分一人を防ぐならまだなんとかなるだろう。だがこの規模は間違いなく事前に施しておいたホテル近くの障壁ごとリュージたちをも巻き込みかねない。だからそれも含めての無理をした結果がこの激痛である。

「……や、ああああああああああっっ!!」

攻撃が止んだ一瞬の隙間、光芒の傷も痛みも耐えて、破神の巨躯へ突撃するあかり。頭から血を流し、ボロボロの身体に鞭打ちながら。風の魔力を超至近距離で叩き込もうとする。
だが、身体の大きさはそのまま強固な耐久力にも比例する。間宮あかりの攻撃は破神にとっては蚊に刺された程度でしかない。
だが、ただの蚊だろうと小蝿だとうと、煩わしいことには変わりはない。ただ腕を振るう、それだけで間宮あかりは大きく吹き飛ぶ。
だが、叩きつけられただけなら、先程のビームやら重力の檻やらよりは痛くはない。すぐに姿勢を整えて、次の大技に備えると同時にあの破神の防御を突破できる攻撃を繰り出さなければならない。

『※※※※※※※※※※※――――――ッッッッッ!!!!』

破神の咆哮が再び鳴り響く。再びその大きな躯体が飛び立ち、破神の瞳がキランと音を響かせ妖しく輝く。
あかりが天空を見れば、細長い穢れの鉄塊が降り注ぐ。
魔王がシグレ・ランゲツ戦で使用した『戴冠災器(カラミティレガリア)・歌姫神杖(ロッズ・フロム・ゴッド)』。だが、人間態で放ったそれよりも数も規模も段違い。
破神の鉄槌が、間宮あかりを潰さんと地上へと降り注ぐ。落下箇所の大地はもはや塵一つ残らない真っ平らへとなっている。
避ける、避ける、避ける。穢れが肌に擦れ侵食されようと、侵食箇所を即切除することで侵食を阻止。

「くぅぅぅぅ―――!?」

だが、侵食部位を切り離しても侵食された事自体の痛みは、体中の血液が全て毒へと変貌するに等しい地獄の苦しみ。いつの間にか痛覚が鈍っていた間宮あかりでも、その痛みは耐えるには少しばかりきつい代物だ。

「で、もぉ――――っ!!」

風の粒子を大剣に構築し、手に取る。刀というよりもある意味薙刀に近い形状。刃に雷光を纏わせ、再び突撃。

「やああああああっっっっ!!!」

激突、衝突、衝撃波、爆音、空間の破断。―――刃が砕ける音が、虚しく響き渡る。

『―――』
「これでも、まだっ……!」

足りない、ただ破神の躯体を少し後退させただけ。
巨躯に張り付いた魔王の瞳は無感情に間宮あかりを見下ろす。
破神の瞳が再び輝き、その周囲を覆い尽くすかの如く大爆発の連鎖にあかりは巻き込まれる。
爆発は風の障壁で。いや、風圧での風の異能によるバーストの衝撃で爆風諸共霧散した。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



さぁ 飛び立つのだ 従者にして魔王よ

世界砕き 歌姫の愛で滅せよ


さぁ 天を翔ける歌姫の哀よ 虚獄から降る闇よ 審判よ

救われぬ子等祈り 叫びの音を奏

残酷な現実に終焉を… 永遠に

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




『―――』

破神は既に己が頭上に巨大な大斧を具現化させている。自由落下のごとく振るわれた大斧と、あかりが咄嗟に貼った障壁が衝突。
結果、破神の大斧は砕かれたものの防壁のままあかりは吹き飛ぶ。ただし障壁ごとだったのが功を奏しダメージは皆無。

――それで魔王の、破神が手を緩めるわけがない。翼をはためかせ空中に浮かび、再び瞳が輝く。
間宮あかりに再び襲いかかる重力の檻、腐食の流星雨。さらにそこに穢れの塊たる神の杖。
――付加、夢幻泡影による生成した分身数千による『邪竜咆哮(ダインスレイフ)』の斉射。
――付加、破神の右腕を刀剣へと一時的に変化させ『無明斬滅(ガブリエル)』の準備。
――さらに付加。魔力による黒槍生成。大きさこそ普遍的であれど、『無明斬滅(ガブリエル)』と同等かそれ以上の穢れを蓄積させた、謂わば穢れの爆弾。触れれば穢れが爆散し、周囲一体を汚染する。

『―――――――――』

一斉発射。黒塊が、流星雨が、神の杖が、邪竜の咆哮が、斬滅の刃が、そして穢れの槍が一斉の間宮あかり個人に対して集中する。
勿論あかりも黙ってはいない、障壁を全開にし、それでも凌ぎきれない猛攻は小手先の手段で何とかするしか無い。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――――――ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!」

貫通、貫通、貫通、激痛、激痛、激痛。一発一発が当たる度、存在ごと削り取られるような攻撃の雨あられ。意思も、思いも、信念も、魂も。心も、何もかも掘削され、潰されていく感覚に襲われる。
その猛攻に、意識が途切れかけた瞬間、眼前には破神がダメ押しにと飛ばした魔槍、穢れの爆弾―――。


―――直撃、刹那。エリア一体を黒い爆風が襲いかかる
核爆発を彷彿とするきのこ雲が発生し、衝撃が周囲に迸り、瓦礫を吹き飛ばしいく。
一帯は既に空間断裂による黒い割れ目が多数発生。歪みによりノイズが発生し地獄絵図のような光景が広がっていた。
リュージたちがいるホテル周辺を守っていた障壁もぎりぎり耐えきったという惨状で、既に障壁は崩壊寸前である。

魔王としてはこれ以上の会場へ負荷をかける予定ではなかった。
それを考慮してでも、歌姫へ迷惑へ掛けてしまう代償を払ってでも。
あの女だけは、確実に歌姫への脅威へとなり得る間宮あかりは確実に殺さなければならないという確固たる決意のもとに、一切の容赦なく、ほぼ全力で。
そう、歌姫が導く楽園がため、彼女だけは、データ一片すら残さず消し飛ばす必要があるのだ。
まだ殺すべき相手は残っている。ブローノ・ブチャラティ。そしてライフィセットを名乗るラフィの偽物。
後者二人は容易く捻り潰せる。ならばこの間宮あかりは確実に葬る。

……そして、魔王の心配はもうすぐ終わる。大きな躯体より見下ろせば、未だ立って戦意を失っていないらしき間宮あかりの姿。
だが、既に見るも無惨だ。体中から血という血を流している。流れる血が所々黒く点滅しているということは、穢れが混じっている、という証拠。
目は焦点が合っていないし、呼吸しているのかどうかわからない咳き込み、吐き出される血痰。
勝者と敗者の判別など、火を見るよりも明らかだった。

「ぁ」

間宮あかりの痩せこけた瞳が、映し出していたのは。
魔王が最後のトドメとばかりに生成せし、巨大な黒い球体。
確実に、この手で潰すという意思表明。
立つことは出来た、でも動かない、動かせない。
絶望こそがお前のゴールだと突きつけられる。
動かないといけないのに、避けないといけないのに、指一本すら動かせない。
体中が悲鳴を浴びて、全ての臓器がまともに動いていない、機能不全。
そして迫る、死の光が―――――――。













"あかりちゃん"









虚無の奈落の淵に落ちて響く、涙の一滴。










「かた、りな、さん…………。」










武偵憲章10条"諦めるな。武偵は決して、諦めるな。"










――そう、彼女が繋ぎ止めた奇跡は、ここに芽生えた。

□□□□□□□□


『何が、起こっている……!?』

開いた口が塞がらないとは、この事だろうか。
確実な決着、逃れようのない結末が、覆された。
淡い光を放ち、無傷に戻った間宮あかりの姿。
そして、魔王の黒き球体を防いだ、"土の壁"

『あり得、ない……!』

それは、間違いなく起こるはずのない光景。
何故間宮あかりのダメージが修復したのか、あの土の壁は何なのか。
だが、魔王の頭脳には、思い当たる事が一つだけ。

『カタリナ・クラエスぅぅぅっっ!』

――気づいた時には遅かった。原因は掴めずとも、要因はそれしか心当たりがない。
魔王ベルセリアの見落としは2つ。一つはカタリナ・クラエスの涙。
あの時琵琶坂永至の攻撃を受け、意識を失う前に零した涙。――あれは一種のカタリナ・クラエスの幸運の雫。一度限りのコンティニューとも言うべき、奇跡の結晶だった。
再び、白翼は蘇る。より輝いて、クリスタル色に透き通って、太陽に照らされる。

「―――私はもう、諦めたくない。」

宣言する。もう二度と、どんな辛いことが、苦しいことがあろうとも。
武偵は決して諦めない。人々を守るその意思を胸にして。

「だから、貴方を止める。シアリーズさんの為にも―――ベルベットさん、貴方を止める!」

託された願いを裏切りたくない。どんなにちっぽけな意思だろうと、それこそ過ぎ去った者たちから受け付いたものを、更に先へ進めるために。
黄金の意思が、間宮あかりを祝福し、照らしている。

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!』

魔王の怒号と共に、破神もまた咆哮を上げる。
赫怒の衝動に飲まれ、その眼を血走らせ、憤怒の感情を貼り付けた魔王が、叫ぶ。

『その便所のタンカス以下の名前を、口にするなぁぁぁぁっっっ!!!!!』

怒りに呼応し、魔王の周りに4つの白い球体が、笑顔が張り付いた球状の生き物(ヴォイドテラリア)が排出される。
破神の瞳が赤く染まる。破神の躯体が赤く染まる。

『殺してやる、滅ぼしてやる、その残り滓諸共女神の地平の塵になれぇぇぇぇっっっっ!』

叫ぶ、世界に晩鐘を打ち鳴らさんと叫ぶ憎悪が、ヴォイドテラリアを揺れ動かす。
ヴォイドテラリアは魔王の憎悪に反して何時までも笑顔だった。余りにも不気味で、奇っ怪な魔王の従者。
テラリアたちが笑顔の口を開き、モノクロの光条を放つ。
瞬間、間宮あかりは地上から離脱し飛翔、そのままモノクロの光条を掻い潜り、その口内に猛風の刃を直接叩き込み、テラリアの一体を内部より粉砕。
続く二体目のテラリア。あかりに猛接近しながら身体をハリセンボンのように針を展開し串刺しにしようとする。

「「鳴神よ!」」

再び、魔王はあかりの声が誰かに重なるような感覚を覚えた。間宮あかりを中心に突風が発生。吹き荒れた突風が徐々に雷光を纏い放電。
針千本状態のテラリアが麻痺し行動不全に陥るも、直ぐ様三体目が一体目同様のビームを発射。
即座にあかりは二体目の麻痺したテラリアを盾した後その場から離脱。ビームを受けたテラリアは爆発四散。
破神の瞳がまた輝く。空中で顕現するは魔力で構築された弓矢。弦が引き絞られ、天へ矢が放たれる。
矢は空中で分裂。それぞれ黒雷を纏い、雨となって落ちていく。

黒雷の雨矢を避ける。躱し、風を吹かせてその内の一本を誘導。それが三体目に刺さり爆発四散。
四体目はその場から動かず魔王を護るように浮遊している。破神の右腕が龍顎の砲口へと姿を変え、間宮あかりへと穢れの魔力砲を打ち放つ。
間宮あかりが取った手段は――防ぐのではなく、地面に着地する。

「いでよ、土ボコ!」

叫べば、風の力で天へと伸びる土の盛り上がりが魔力砲の光条と激突し、爆発。周囲一体を爆煙が包み込む。
間宮あかりが爆煙を風で吹き飛ばせば、周囲には既に魔王が『夢幻泡影』で展開した大量の分身。それら全てが穢れの魔砲を既に放っている。破神は南へと後退し、体制を立て直すつもりだ。
この時、魔王としてもこれ以上の戦闘の長期化は避けたかった。これ以上の行使は間違いなく会場全体への負荷の度合いが不味いことになる。歌姫ですらカバーしきれない程になってしまったら楽園完成への支障となりうる。
それに、魔王当人にとっても、消耗しすぎた。最初の多対一まではよかった。だが、シグレとの戦いでだいぶ削られしまっていたのだ。いくら二人食らったとは言え、それでもシグレ戦での消耗は回復しきれなかった。それともう一つ、破神形態になるまで飛行を渋っていたのは単純なスタミナの理由もある。
魔王の本質は蒐集にして捕食だ。要するに参加者やデータを捕食することでそれを己がエネルギーとしている。
空間の断裂が多発したのはそれが理由だ。シグレとの戦いでの消耗が響き、間宮あかりを潰すためにリソースの供給を『無』から行わざる得なかったから。
紅魔館から此方へと飛行する際は十分なスタミナがあったし、覚醒したてということでリソースも十分だった。その際に無意識に消費されたリソース情報は『ベルベット』の情報であるのだが。
ここまで長引いてしまった以上、消費が供給に間に合わなくなっていたのだ。

間宮あかりは無数の死の光条が迫っているにも関わらず冷静。
静かに、魂は熱くとも、心は冷静に。0.01秒の間合いを見抜き。―――構えるは風の反射を伴った梟挫。
その結果、死の光条は一つ残らず分身へと反射され、その全てが掻き消される。

『なぁ!?』

不意を突かれたのは魔王だ。跳ね返った光条が破神の右腕と右翼が粉砕され、バランスを崩す。
なお直撃しなかったのは四体目のテラリアが身を挺して守り、その結果光条の向きが僅かにズレたからだ。

『貴様ぁぁぁぁぁっっっ!!!!』

我を怒りに飲まれ、接近されつつある魔王は残った破神の左腕に超巨大な魔力級を生成。
白色矮星の膨張を彷彿とさせるほどの大きさになったそれは、まさに黒い太陽そのもの。

『虚獄神器・第十階位(セフィロトレガリア・マルクト)――万有必滅(サンダルフォン)!!!!』

黒き滅びが、迫る。全てを滅ぼさんと、迫る。
絶望が凝固し、形となった魔王の憎しみが間宮あかりに近づいていく。
あかりが真下を見れば、驚愕の表情を浮かべるリュージたちやメアリの姿があった。

「大丈夫。……次で決める。」

そうにっこり彼ら彼女らに微笑めば、絶望の具現へ目を向ける。
小さな風の領域を展開。増幅し、己に電気を、パルスを貯める。
間宮あかりの身体が帯電する。それは等に人間が放っていいパルスの総量を超えていた。

『絶望に身をよじれ虫けらがぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!』

魔王の怒号と共に、絶望の塊がさらに迫る。
それでも間宮あかりは目を瞑り、心で見据えるように。
準備完了。そして、ただ、彼女は沈黙する。
迫る迫る。魔王の憎悪の具現たる巨大な黒い太陽が、間宮あかりの姿が太陽飲み込まれる。

『あはははははっ、あーはっはっはっはっはっはっ―――!』

狂った用に呵々大笑する魔王。憎むべき相手は飲み込まれた。残る邪魔者、そして憎き二人さえ滅ぼせばもう心残りは―――

「超電磁砲(レールガン)」
『……は?』

黒い太陽より、声がする。殺したはずの少女の声がする。魔王の笑いが止まり、呆けて、そして―――。


















「――鷹捲」
















その言葉の直後に、黒き太陽はひび割れ光を放ち、祝福のように砕け消えれば。
破神の身体を貫通し粉砕する、一彗の輝きが通り過ぎた。














超電磁砲というものが存在する。一般的に物体を電磁気力によって加速して打ち出す兵器で。
要するに、加速して打ち出せれる手段さえ用意できれば、それは超電磁砲になりうる。
例えそれが変哲もないコインであっても。

間宮あかりは擬似的は閉鎖空間、風による電力発電によって自らに電磁パルスを発生、増幅・集約させた。
そして、風の閉鎖空間を開放と同時に風力で音速レベルまで加速。
結果、黒き太陽を、破神ごと粉砕したのだ。

そう、間宮あかりは。自らをレールガンの弾丸とした。
勿論、彼女一人では到底無理だった。彼女"たち"はみんなで、あの魔王を打倒したのだ。

『※▲□◯※▲□◯※▲□◯※▲□◯※▲□◯――――!?』
『ばぁぁぁかぁぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!??!?!?!?!?!?」

腹部にポッカリと大きな穴が空いた破神は悲鳴とも取れる叫び声を上げて、墜落していく。
魔王もまた、目の前の光景に絶叫しながら破神と共に落ちていき、破神から光が漏れて――大爆発。
ゆっくりと地面に降り立った間宮あかりとは対象的に、激突するように墜落し、仰向けに斃れた魔王は、ただ眼を開いたまま。悲しい瞳で見下ろす間宮あかりの姿を映していた。



「……マジかよ。あいつ。」

勝った。あの魔王に、間宮あかりという少女が。
そんな奇跡にも等しい光景を、リュージたちは目の当たりにした。
いや、余りにも超常的すぎて、喜び以上に驚きの方が大きかったのだが。

「……素直に喜べないとは、こういう事を言うのでしょうね。」

岩永琴子も、また同論。魔王の言葉が真実ならば、また『覚醒者』が増えてしまった。
だが、それでも彼女が魔王を倒し、自分たちを危機から救った、と言うのは紛れもない真実なのだから。

「……すご、い。」

メアリ・ハントはただ、見とれていた。と言うよりも唖然としていたと言うべきか。
それ以上に、何故だろうか。間宮あかりに、カタリナ・クラエスの面影をほんの一瞬感じていたのだから。
そして、等の間宮あかりは―――。



「あなたの負けです。大人しく降参してくれませんか。」

見下ろすように、憐れむように、地に伏したベルベットに語りかけている。
シアリーズから彼女の過去を知った。幸せを突如として奪われ、復讐に身を落とすしかなかった可愛そうな少女。真実から、託された願いから、未来からすらも目を背けて、逃げ出した臆病な少女。

「……私は、あなたを殺したくありません。」

そしてこれは、武偵としての矜持。誰も殺さない、その武偵の信念の現れ。
悲しげな瞳ながらも、その奥底は透き通ったまま。優しい声で魔王に語り掛ける。

「……めない。」
「……っ。」

そして、返答は。

「認めるものかぁ!!!!」

振り絞ったような叫び声が、ベルベットの答えだった。

「あんな悍ましいものが私の未来だなんて認めない!! 巫山戯るな!! あんなもの、ただの悪夢だぁ!!」

体中から泥のようなものを垂れ流し、怨嗟を張り付かせて、叫ぶ。
その瞳は、どうしようもなく濁っていた。

「完全体に……完全体になりさえすればぁ!!』

そんな叫びも、間宮あかりからすれば悲しい嘆きにしか思えなかった。
何処までも未来を恐れ、怯え、逃げようとする子ども。今のベルベットが、間宮あかりにはそのようにしか見えなかった。

「………。」

悲しみと憐れみ。それが間宮あかりがベルベットに向ける感情の全てだった。
間宮の秘奥の一つに鷲抂、と言う技がある。脳漿に集中する波形長に整調した技で、 要は対象の精神を赤子のようにすることが可能な技だ。持続効果は半日。
今のベルベットに話をしても無意味だった。ならば安全に無力化するしか無い。そう思ったその時だった。



















「助けて欲しいのかい、魔王サマ?」

それは、ゆっくりと足音を響かせて、現れた。









「………。」
「この声は……。」
「生きていたのですね、だけど……。」

その声を、皆は知っている。三者三様の反応をする。
ヘラヘラと空気に似合わない笑みを浮かべ、パンツ一丁ならがも余裕の表情を浮かべたままの一人の男。







「……お前は。」

魔王が視線を向けば、その姿が見えた。












「……琵琶坂さん?」

男の名前は琵琶坂永至。この虚構の世界にて、◆◆◆◆に選ばれし者。
――――終幕直前の舞台にて、最後の主役が降り立った。


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