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明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物-

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kyogokurowa

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「……琵琶坂、さん?」

困惑とは、この事だろうか。
琵琶坂永至という男を間宮あかりという人物の視点から総称すれば『恩人』である。
学園戦においてカタリナ・クラエスと出会い、成り行きで行動することになって。
落ち込んでいた自分に何かと助言してくれたり、手伝ってくれたりと。
少なくとも信頼というものを得るには相応に十分な存在であったと言える。


「……どういう、意味ですの?」

だが、他の人物からすれば。少なくとも彼の本性を知っているメアリ・ハントから見れば話は違う。
琵琶坂永至の本性は自己中心的、傲慢で下水道のドブの如き卑劣漢で、己の望みに忠実な男。
少なくともリュージと岩永琴子は琵琶坂永至という男に何かしらの不信感を抱いていた。
リュージに関しては、初対面での少しの会話で、『必要な部分しか話していない』言い回しに妙な違和感を感じていたかもしれないのだが。


「……なんの、つもり……!?」

首を横に向け、ベルベットは琵琶坂永至に疑問を投げかける。
その時、何か見てはいけないものを見た。いや、これは『魔王ベルセリア』から見えてしまった何か。
――曼荼羅である。もっとも、異世界の出身であるベルベットは曼荼羅が何であるかは理解できていないのだが。琵琶坂永至の背後に曼荼羅が見える。曼荼羅の座に、何かが見える。
汎ゆる進化の到達点が見える。世界の真理が背後に見える。『天国』が見える。『真実』が見える。『運命』が見える。『◆◆』が見える。
魔王の身体が警鐘を鳴らす。冷や汗が止まらない。動悸が止まらない。

「……ッ! ……ッ!」

何だあれは、何なんだあれは、一体自分は何を見せられているんだ?
あの男の背後にある"アレ"は何なんだ、と。
人間という生き物は"未知"という概念を最も恐れる生物である。自らの頭に該当のない事象に混乱するように、無意識にひき逃げ起こした人間が慌てて逃走するように。
"未知"とは恐怖であり、真理に関わる一つである。そしてそれは一種の"秩序"である。
そう、ゲッターは。大いなる"秩序"でもあるのだ。
そして、もう一人。現世と常世の双方を観えるようになったが故、それを視てしまった者。

「……あ、ああ。あああああ………!」
「岩永……?」

岩永琴子。知恵の神。秩序の調停者もまた、見てはいけないものを視てしまった。
その曼荼羅を、六角形の曼荼羅の座に座る『ゲッターロボ』達を。曼荼羅の前に立つ、琵琶坂の笑顔を。
その姿に絶望を見た。秩序を見た。真実を見た。何かを見た。何か何か何か何か何かナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカ違う違うあんなものが秩序なはずがないどうして私は一体今まで何のために助けて助けてどうしてこんな事望んでいなかった助けて嫌だあんなものが世界の秩序であるはずがない信じたくないでもこれは真実で現実で真理で天国で運命でああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――。

「あああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!?」
「岩永!? おい岩永ッ!?」

岩永琴子は発狂した。見たくない現実を見てしまった。幻視してしまった。
秩序を、真実を。現実を。嘘だと思いたかった。でもあれは真実だった、紛れもない現実だった。
あれは、新しい秩序の化身だった。

「こんなっ、こんなことはっ! どうして、嫌だっ、嫌だぁぁっっ!」
「しっかりしろっ、おいっ! ……琵琶坂テメェっ!!」

発狂し錯乱する岩永琴子を何とか抑えながら、琵琶坂永至を睨む。
だが、等の琵琶坂永至は薄ら笑いを浮かべて意気揚々と言葉を紡ぎ始める。

「全く、こっちは死にかけたというのにこれとは酷いものだよ。……ねぇ、あかりちゃん?」
「……え……?」

間宮あかりは、訳がわからなかった。今の琵琶坂に何が起きているのか。岩永琴子が発狂した理由が。

「……なぁ魔王。あんたが俺を連れて離脱できるのに何分欲しい?」
「――最低でも五分。リソース不足だから流石に目的地までたどり着く前提なら供給が欲しい。それでも最大乗積は二人が限度よ。」
「じゃあ俺の力を分け与えれば十分か。俺はメビウス関係者だ、連れていく理由にもなるだろう?」
「………。」

岩永琴子の発狂を見て冷静を取り戻したベルベット。すかさず琵琶坂の言葉に答えながら最適解を思考する。
少なくとも今の自分ではこの場を脱するには厳しすぎる。この琵琶坂という男の目論見が健闘付かない以上、恥を忍んでこの男の助けに縋るしか無い。
翼及び飛行可能までの回復は5分。一人か二人を連れては流石に誰でもいいからリソースを喰らう必要がある。少なくとも琵琶坂永至はそれを了承してくれた。本当に不本意だが、乗るしかなかった。

「……琵琶坂さん、冗談ですよね? 嘘ですよね?」

間宮あかりの頭は未だ困惑したままだ。余りにも突出した展開についていけていない。
今まで辛苦を共にした仲間が、信頼できる仲間がこのような事を言い出して。
岩永さんに至っては突然錯乱し始めて。今の間宮あかりは当に「何が起こっているのかまるでわからない」状態である。

「……ああ、そうだ。言い忘れたことがあるんだ。」

だが、あかりの困惑を無視して彼女と、呆然としているメアリにも目を向けて。ヘラヘラと笑いながら、こう告げる。





「すまないねメアリ。あのクソアマ、俺に舐めた口聞きやがったから思わず殺しちゃった。」






「お前ぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!!!!!!」
「―――ッ!」

二者の行動は早かった。メアリ・ハントの脳内を埋め尽くしていたのは憎悪の感情だた一つだった。
こいつだけは、こいつだけは絶対に許さないという殺意の奔流だった。
結果的に休むことが出来たお陰で、水の魔力でナイフを構築出来るぐらいには回復した。殺す、ただ殺す。その一念で琵琶坂永至に迫っていた。
対して間宮あかりは怒りと悲しみだった。琵琶坂永至がカタリナ・クラエスに手を掛けたと言う事実が信じられなかった。でも、これ以上彼に手を汚させないために、武偵として怒りに飲まれているメアリが琵琶坂を殺すことを阻止したくて動いた。間宮の技なり何でもいい、速攻で二人の動きを止める、その為に動いたのだ。
結果的に挟み撃ちにあった状態の琵琶坂は、余裕綽々と佇んでいる。それどころか嘲笑するような笑みを二人に向けて、そして―――。


「キリク」


一言告げて、撓らせた鞭を地面に叩きつけたと思えば、既に琵琶坂永至の姿は消えて。
地面が凹んだと思えば。間宮あかりの身体が、メアリ・ハントの身体が。そして他の地面も同じく凹んで。

「ガ……ッ!?」
「あ゛……っ゛!?」

何十ののも打撃音、まるで全身に均等に攻撃を食らった用に、何が起きたかわからないまま、二人は血反吐を吐いて地面に伏し倒れる。
そして何事もなかったかのようにあくびをしながらつまらなく立っている琵琶坂永至。

(……こいつ、こいつはっっっ!!!)

ベルベットは琵琶坂が何をしたのかは辛うじて理解した。鞭を地面に打って、その反発力で高速移動。
所々地面を鞭で叩く事で方向修正をして、間宮あかりとメアリ・ハントに対して攻撃を仕掛けた。だが――

(何を、したっ!?)

攻撃の瞬間、目視ではただ交差時になにかした、ぐらいしか確認できなかった。
それだけだった、それだけだったのに何をしたのか全くわからなかった。一体琵琶坂永至は何をした、何をしたのか、ベルベットには分からなかった。

――魔神になりそこねた男、オッレルス。彼が使用する術式の一つに『北欧玉座』というものが存在する。
細かい部分を除いて説明するならば、『説明できない力』である。
ではここで、ゲッター線を真に説明できる存在を、解明した上で解説できる人物が、いるだろうか?
いるわけがない。神隼人ですら、その深奥を完全に理解することが出来ていないのだから。
そう、『説明できない現象』なのだ。攻撃の範囲や威力の定義すら曖昧なまま放たれ、攻撃対象に何が起きたか全く理解させず、どのくらい移動すれば回避したことになるのかも曖昧。
琵琶坂永至の今の力の一端は、そういうものだ。『説明できない力』を振るってのわからん殺し。
正しくそれを説明できるものは誰もいない、だから予測しようが無い。
防御しようにも、回避しようにも、それがどの程度の具合ですればいいのかわからないから、そのしようがない。
何故なら、ゲッターを真に理解できるものなど、この世界にほぼ誰も存在しないのだから。少なくとも、この場には居ない。

ダメージを受けた二人は、立ち上がる事が出来なかった。どちらも均等に、公平に全身を叩きつけられる痛みを味わっている。

「……ぁっ……ぁっ……。」

恐怖だった。魔王ベルセリアよりも、この琵琶坂永至の方がよっぽど怖かった。
魔王ベルセリアによる恐怖は分かりやすかった。目に見えてわかる規模と破壊力。でもこの男は違う。何もわからない。一体何がどういうことなのかが全然理解できないのだ。
まるで永遠の闇を彷徨うような感覚に陥る。宇宙の意志に触れたような、根源を垣間見てしまったような恐怖が、絶望としてメアリの思考を埋め尽くしているのだ。

(……動いてっ、動いてっ! 私の身体ッ! ここで動かなかったら……みんながっ!)

間宮あかりも痛みに堪え、動けずに居る。全身に渡り均等に激痛が襲う。そもそも、奇跡の雫による全回復。傷こそ直せど、疲労まで完全に治すことは出来ない。
間宮あかりが今起き上がることが出来ないのは、限界が来たから。先のダメージで、疲労が限界を超えて、立ち上がれない。
本能的な悪寒が背筋に走る。ここで琵琶坂永至を止めなければ―――自分たち全員皆殺しにされるという、強烈な虫の知らせが。

「……全員食べれば足りるかな、魔王サマ?」
「別に全員じゃなくていいわよ。一人……半身でも帰り賃だけなら十分。」

そして、そんな事を気にせず帰還の段取り等を軽く話し合っている琵琶坂。ベルベットも不本意ながら琵琶坂の提示した流れに乗るしか無い。
今、この場を支配しているのは、間違いなく琵琶坂永至と言っても過言ではなかった。

「そっか……じゃあ。」

邪悪な笑みを浮かべ、間宮あかりへと鞭を向ける。
その先端に、何かエネルギーのようなものが充填されていく。

「外は柔らかくて中はジューシーにしてあげるよ。食べやすいように、ね?」
「あたし、味覚とか多分無いわよ。」

他愛のない会話、常軌を逸した状況で、琵琶坂永至は普通にベルベットに話しかけている。
今から放たれる光条は、間違いなく間宮あかりを仕留めて"調理"する為のもの。
誰も彼を止めるものは居ない。岩永琴子も、リュージも、メアリ・ハントも。彼を止めることが出来ない。

(……ごめ、ん。みん、な……。)

ここまで頑張ったのに。最後の最後にこんなあんまりな結末だなんて。
認めたくなくても、これが終着点だった。そう。これが結末だった。

(……くや、しい…よぉ。アリア、せんぱい……!)

間宮あかりの瞳から、輝きが失われていく。これは絶望に瀕した少女が諦めた瞬間である。
誰にも止められない。全ては終わる。たった一人の男の手によって。

「――ゲッタービーム」
「ダメェぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」


目を覚ます。

起き上がる。

静かだった。先程までけたたましかった戦場の音は止んでいた。
切り裂かれた所を見れば、代わりに支給品袋と薬草の燃えカスだけがあった。
そうか、私はこれのお陰で助かったのだと。そう自覚する。
倒れているはずのあの娘の姿が見えなかった。
もしかして、私が気を失っている間に何処かへ行ったのか。

気がつけば、何も考えずに走り出していた。傷なんて考えずに。
何も手に持たないで、荒れた世界を走り抜ける。
心配だった、メアリの事も、みんなの事も、あかりちゃんの事も。
そういえば、あの世界で私はみんなに何故か好かれていたけれど、私はあの娘に、あかりちゃんに惹かれていたのかな?
でも、そんな事は今はどうでもいい。と思ったけれどここに来てからあかりちゃんに助けてもらってばっかりだったかもしれない。
あの娘は私に似ているかもしれないと思った。みんなを知らない内に引きつけて仲良くなって。多分そういう星の下に生まれたんだと思う。
それを才能だなんて言わない。神の祝福だなんて言いたくない。あの娘が今まで歩んできた道筋が結実したものだと。

あかりちゃん。もし元の世界に戻るとして、もう一度出会えるのかな。
もしそうだったら、私の作った野菜食べてほしいし、あかりちゃんと一緒に遊びに行くのも悪くないのかな。
メアリやソフィアを誘って女子会、だなんて悪くないのかな。
……なんて、どうしてこんな事今になって考えたんだろう。そしてなんで私は走ってるんだろう。

わからない。わからなかった。でも、ここで動かなかったら、嫌な予感がするかもしれないって、そんな気がして。
外に出て、見たら。あかりちゃんが殺されそうになってて。
多分、私は周りのことなんて気にしていなくて。




……気がついたら、私の身体は勝手に動いていた。


■ ■ ■ ■ ■


カランッ、と骰子が振り直される音。


軽快に音を鳴らし、廻り廻って骰子が静止する。


賽の目が指した数値は4だった。


彼女はあの娘を助けるために、骰子を振り直した。


■ ■ ■ ■ ■



「あ、え………?」
「なん、で………?」

全ての時が止まったような感覚だった。
カタリナ・クラエスは、琵琶坂永至の放ったゲッタービームに、間宮あかりを庇うかのように直撃した。

「………へぇ。」

予想外の横槍が入ったが、それはそれだった。即座に琵琶坂は鞭を振るい、カタリナ・クラエスの身体を縦に真っ二つ。その下半身に何かを注入したと思えば、それをベルベットの方に投げる。
ベルベットは業魔腕の大口を大きく開かせ、飛んできたそれを捕食。

「嫌あああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「……かた、りな、さん?」

未だ動けないままのメアリの悲鳴が大空に響き渡る。
間宮あかりは呆然としたまま上半身だけになって地面に転がったカタリナを見つめたまま。

「――リソースは大丈夫。あと1分稼いで。」
「了解っと。」

ベルベットの簡素な経過報告に琵琶坂永至は目標を変更。次の狙いは岩永琴子。未だ錯乱しており、リュージに介抱されている状態。隙だらけとはこの事か。

「させるかよ琵琶坂永至ぃ!!!」

咄嗟にリュージが岩永を突き飛ばし、逸らす。だが、その結果琵琶坂の鞭で右腕が切り裂かれてキャッチされ、それはベルベットの業魔腕に向けてリリースされる。
来たもの来たものなのでベルベットはそれを無表情で捕食。それはそれとして右腕を抑え琵琶坂を睨むリュージであるが、琵琶坂の鞭は再び生き物のように向きを変えて今度はリュージに襲いかかる。

「待ちやがれ、このクソ野郎がぁ!」

だが、そこに予想外の乱入者。この場にいる誰もかもにとっても未知の存在が琵琶坂永至に殴りかかってきた。


結論だけいえば、ドッピオは流竜馬に例の人影の話をすることにした。状況の変化を望むことをドッピオは選択した。
その直後である、大轟音と爆発が衝撃波として襲いかかったのは。
少なくとも流竜馬とドッピオも少なからずその影響で吹き飛ばされたのだ。
ここまでの大規模な何かを引き起こされたのもあったが、流竜馬は何かに導かれるように、黒い影を負う選択をした。
「運命」とは「引力」であり、「重力」である。スタンド使い同士が引き合うように、ゲッター線に選ばれた者同士も、また――――。

「邪魔をしないでくれないかな?」
「ぬおっ?!」

そして今、流竜馬は琵琶坂永至に殴りかかり、空いた手で軽く受け止められ投げ飛ばされる始末。
その結果、鞭の軌道が僅かにずれ、リュージの急所に当たらずその代償として片目が斬り裂かれてしまったが。

「がああああああああああっ!!!」
「……リュージさんっ!? ……っ。これは一体!?」

残った左手で斬り裂かれた片目を抑え、悶える。そしてようやっと、岩永琴子は冷静を取り戻し、変動した状況に困惑する。

「……黒い影を追いかけりゃ、こんな事になるなんてなぁ。殴り合いのあるクソ野郎がちょうどいたんんだからなぁ?」
「いきなり殴り込むなんて乱暴じゃないか? それとも―――君も今から死にたいかい?」
「御託なんざどうでもいい。それに、その力、何処で手に入れやがった?」
「思い込み? まあそう答えるしかないけれどね?」

投げ飛ばされるも直ぐ様起き上がり、流竜馬は琵琶坂永至を睨むも、当の琵琶坂永至は態度を変えずに生易しい声で語りかける。一触即発、どうなるかわからない状況に陥ろうとした時。

「琵琶坂、時間よ。」

ベルベットが起き上がり、黒翼を展開。低空飛行であるが、最大二人まで人を乗せて移動できる程には回復したという言葉に嘘はないようだ。

「ということらしい。だけど……。」

琵琶坂がベルベットの方へと後退すると同時に、鞭を伸ばす。目標はまたしても岩永琴子。だが今度は殺すためではなく捕獲するためのもの。
自分を見て何か錯乱していた、もしくは恐れていたようであるが、もしかしたら何か利用できるかもしれないと。だからこそ捕まえるという選択肢を取っ――――。 
グ オ ン

「な、何ぃーーーっ!?」
「ぐ、がぁっ!?」

だが、鞭が捕まえたのは岩永琴子ではなく、全く知らない誰か。――リュージである。
これには、さしの琵琶坂も驚愕していた。一体何が起こっているのか分からなかった。
そしてよく確認すれば、リュージの脇腹には拳の後、何かに殴られた後が――。

「……予定は狂ったが、まあ多少の誤差として受け入れるか。……一応、こいつの身柄は貰っておくよ。」
「リュージさん! ……琵琶坂永至、貴方は一体何を企んでいるのですか!?」

既に気を失ったリュージを縛りあげ、ベルベットの背中に乗る琵琶坂。
そして琵琶坂とベルベットの去り際。岩永琴子はせめて、琵琶坂永至に真意を問いただそうとする。

「――さぁ。それは自分の頭で考えてみなよ。あと、汚いから片付けておいてよ、そのボロくず。」

そう、上半身だけになって死の運命が確定したカタリナの方へ指を指して。

「それでは、さようなら。――次会う時は全員殺してあげるよ。あはははははっ!!!」
「このやろっ――ちぃっ!?」

竜馬が追いかけようとするも、それを妨害するように鞭からゲッタービームが放たれる。その一瞬の回避を竜馬が選択した時には既に一手遅く。既に琵琶坂永至とベルベットは追いかけるには不可能な距離まで話されていた。

「りょ、竜馬さん……。」
「待ちやがれぇぇぇぇぇっ!!!」

いつの間にか竜馬の隣にいたドッピオに抑えられながらも、竜馬はその結末にただ叫ぶしかなかった。



(………賭けだったが、上手くいったようだ。)

何故、岩永琴子を捕獲しようとした琵琶坂永至が捕まえたのがリュージになってしまったのか。
その全ての元凶はドッピオ――もといディアボロのスタンド『キングクリムゾン』及び『エピタフ』による予知により察知した自らの正体がバレるかもしれないという危惧からだった。
『エピタフ』の予知を事前に使い、その際に見える未来に。
『何かを確信したかのように此方に目を向けるリュージ』の姿。
それを理解した時、状況を見極め『キングクリムゾン』を発動し、岩永琴子が捕まえられそうになった所を、リュージを吹き飛ばして捕まえさせた。気を失ったのも僥倖だった。
このディアボロの不安であるが、彼は知らないもののリュージの異能『嘘発見器』の事を考えれば全くの杞憂というわけではない。念には念を入れて『キングクリムゾン』の発動時間は0.5秒にした。長く発動したままでは違和感に気付かれる可能性もあるからだ。

(少なくとも流竜馬はあの琵琶坂永至という男への怒りで俺への意識が逸れたようだったからな。)

ディアボロにとって、運命とは「試練」だ。先の出来事も、選択したがゆえに待ち受けていた「試練」を乗り越える。そして今回は何とか難を逃れた。ただそれだけの話。だがそれ以上に気になることが一つある。

(……あの男、「思い込み」がどうとか言っていたな。)

流竜馬との対峙の際の言葉。流竜馬にその力を何処で手に入れたと問われた時の返答。
実を言えば、思い込みというのはディアボロにとっては与太話と済ませられる事ではない。
スタンドも同じことである。スタンドもまた、本人の思い込みで能力の制限が左右される。
出来ると思えば、それは出来て当然なのだから。事実、チョコラータの「グリーン・デイ」がわかりやすく、心の箍が無いが故に、その能力は無差別に人を巻き込み殺す。

(……もしも。もしもの話だ。)

もしも、思い込みで『キング・クリムゾン』をさらなる位階へと進化させることが出来たのなら?
もしも、それが本当に可能であるならば?

(……いや、まだ確証ではない。この事実は今は心の奥底へしまっておくか。今は――)

確証ではないが、もしかすればイタリアどころか全地球上のスタンド使いをも凌ぐ、スタンドの枠組みを超えた何かに目覚めることが出来るかもしれない。
だが、それは今は頭の片隅に置いておき、ドッピオの視点で、この戦いの結末である、ある少女の最後を見届けることにしたのだ。


「カタリナ様! カタリナ様ぁ!!」

命が、消えていく。カタリナ・クラエスの魂が消えていく。
琵琶坂永至とベルベットにリュージが連れ去られ、メアリもやっと動けるようになって、水のナイフを急遽傷口を癒やす事に、カタリナの命を繋ぐ事に必死だった。

「……カタリナさん。」

あかりの方は、座り込んだまま動かなかった。
だって、もう手遅れだったから。体半分が真っ二つになって、出血が止まらないから。
メアリ・ハントのお陰で、死ぬまでの時間がただ延長されている、ただそれだけだった。
もう、手の施しようがなかった。

「………。」
「クソっ!!!!」

岩永琴子は神妙な顔で黙ったまま、流竜馬はただやり切れない気持ちをただ吐き捨てるしか無く。

「……あか、り、ちゃん。メア、リ………。」

漸く、カタリナが口を開く。血が漏れ出して、瞳の焦点は合ってない。
メアリが出血を止めようとも、血は止めどなく斬り裂かれた下半身から漏れ出している。
誰がどう見ても、手遅れだ。

「……カタリナ様ぁ! 死なないで! 死なないでぇ! なんで、なんで止まってくれないの! 止まって、止まってぇ!」

必死に、必死に血を止めようと足掻く、無駄だとわかっているのに、子供の癇癪のように、この現実を拒絶するように。

「……ごめんな、さい。ごめんなさい、カタリナさん。」

間宮あかりは、ただ乾いた言葉で、カタリナに謝っていた。守れなくてごめんなさいと、本当に申し訳なく、周りから見ればあまりにも痛々しい姿で。

「……あはは。ほんっと、私ってば、無理ばっかしちゃうの、かな……。」
「……本当ですよ、本当に……。」
「………。」
「……大丈夫、大丈夫、だよ。二人、とも……。」

そんな二人の顔に我慢できなくて、撫でるように二人の手に触れる。既にカタリナの身体はどうしようもなく冷たくなっている。血液が巡らず、命の灯火が消えようとしていた。

「……メアリ、には。たくさん、お世話になっ、て。あかりちゃんにも、ここじゃあ、助けてもらって、ばかり、だった、かな。」

言葉を紡ぐだけでも精一杯、それでも。

「死なないで、死なないでくださいカタリナ様! これじゃあ本当にゲームオーバーじゃないですか! こんな終わり方、破滅フラグで、カタリナ様は、カタリナ様は本当にいいんですか!?」
「……なんだ、しって、たんだ。わたしの、こと。」

メアリ・ハントが自分の真実を知っていたとしても。

「……でも、さ。やっぱり、わたし、みんなが、しあわせ。そのほうが、いいか、な。」

やはり、カタリナ・クラエスという人物は、自分だけ生き残ってしまうという結末は、余りにも堪え難いことなのだ。
本当は破滅フラグを回避して生き延びたかったけれど、それでみんなが傷つくぐらいなら、やはり破滅したほうが良かったかもしれないと。

「……ごめん、ね。」

でも、やっぱり。死ぬのは怖い。友達を悲しませてしまったことは、やっぱり辛い。

「ごめん、ね、みんな。」

視界すら、覚束なくなってきた。
メアリとあかりの姿が、ぼやけて見える。
手に、力が入らなくなってきている。

「カタリナ様? カタリナ様ぁ!」
「……カタリナ、さんっ……!」

終わる。今まで破滅フラグを回避し続けようとした人生が。破滅によって終わろうとしている。
後悔は、あると思う。でも、それでもいいことはあった。

「……でも、わたし、は。――――――――――――。」

それは、みんなと出会えて。キースや、ジオルドや、マリアにメアリ。そしてあかりちゃんに出会えて。

「―――――しあわせ、だった、よ。」

よかった。一番いいたいこと、言えた。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


雲が出て、雨が、降っていた。
次元の断裂が齎した影響で空間が歪み雨雲が発生、戦場の惨禍を洗い流すようにそれは降り注いでいる。

雨に打たれた、三人の少女がいた。

一人は幸せそうな顔で、上半身だけになって死んでいて。

一人はただ、その手からずり落ちた冷えた手を掴んだまま涙を流し。



―――そして一人は。









「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」










堪えられず、叫んだ。間宮あかりは、叫び続けた。
声が枯れるまで。岩永琴子に、止められるまで。

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