バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー

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kyogokurowa

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———時刻を戻して、魔王襲来前の紅魔館。

楽士の曲を残して放送が終わる。

主催がもたらした死者の名に、一同が心を激しく揺らすことはなかった。

というのも、その半数を咲夜から聞かされており、この会場に来てからの知己の名もほとんどなかった為仕方ないのだが。

「フレンダが死んだってよ」
「そうだな。ま、別にどうでもいいわ。あいつが長生きできるとも思ってなかったし」
「だな」

唯一、垣根と麦野が共通して知っているフレンダに対してこの程度の言及があっただけだ。
垣根にとってフレンダはただの路傍の石、麦野にとってもかつては殺し、再び保身で自分を裏切ったというだけの用済みのアイテム。
フレンダの死に、彼らは心を痛めることも憤ることもなく、ただ事実を確認しただけで事足りた。

「...マロロ殿」

ムネチカは唯一あった知己の名を呟きその喪失を実感する。
彼女とマロロは他の面々と違い、特別深い仲にあった訳ではない。せいぜいが宴会の席で顔を合わせたくらいだ。
それに、咲夜からの情報ではマロロはオシュトルを憎悪している時間から連れてこられていた。即ち、相容れない敵だ。
きっとこのゲームで出会っていれば戦いは免れなかっただろう。
だが、咲夜が語った破壊神との戦いでの仲間を思い遣りながらの奮戦ぶりはかつての彼を想起させる姿であり、憎悪に呑まれながらもその根本は変わっていなかったのだとさめざめと理解させられる。
願わくば、彼の魂が常世にて安寧に眠れるように、とムネチカは静かに祈った。

結局、ムネチカは紅魔館に残ることにした。
ライフィセットのことも気がかりではあるが、彼と同行しているという者がほとんど呼ばれなかったことから当面は無事であると判断。
それよりも問題は魔王だ。
その身で力を味わったからこそわかる。
アレを放置しておけば必ずこの会場に残された仲間たちにも牙を剥くと。
本音を言えばベルベット・クラウとの問題はライフィセットに決着を譲ろうと思っていた。
だが状況が状況。今の彼女とライフィセットは極力合わせるべきではない。
そう判断して、ムネチカは垣根たちと共に魔王を迎え撃つことにした。



「さて、ベルベット・クラウが大人しくしてるならそれでよし。そうじゃねえならこの五人でそいつを潰す。つー訳でだ。メイドとそこの変態を起こしたら始めるぞ。魔王サマをぶっ潰す作戦会議をな」


業爪が振り下ろされるその瞬間、麦野は身を捩り寸前で躱す。
空ぶった爪は館を傷つけ、地面を破壊し砂塵を巻き上げる。

だが、麦野沈利は無傷。
彼女は威力に臆さず冷静に魔王の爪の攻撃範囲を見極めていた。

「感情が出すぎなんだよ」

その言葉と共に麦野の掌に光が充填されていく。
だが魔王は動じない。
それはハッタリ、あるいは牽制程度のものだと識っている。
原子崩しは一撃が強力な分、照準を定めるのに時間がかかり、かつ至近距離では威力を抑えなければ自身にも被弾する。

射線は一つ。ならば焦ることなくこの腕で喰らってやればいい。

麦野の放たんとする原子崩しを受ける為に魔王は業魔腕を防御にまわす。
これで麦野のとる行動は、発動を止めるか撃って食われた隙を突き距離を取るか、の二択となる。

「...なんて思ってんなよバーカ」

麦野は右腕の裾からカードを滑らせ己の眼前に投げ、それ目掛けて原子崩しを放つ。
すると、一本だった光線が立ちまちに分裂し、数多の線となり、魔王に降りかかる。
『拡散支援半導体(シリコンバレー)』。
麦野の弱点を補える道具だが、今は手持ちにない。
代わりに使ったのが、ムネチカの『防御障壁』をビルダーとなった咲夜の『ものづくり』の力で素材回収し、新たに作り上げた疑似拡散支援半導体。
ムネチカとの戦いの際に原子崩しを防いでいたことより、ムネチカの障壁を利用して拡散支援半導体に近しいものを作れないか、という提案のもとから咲夜の中で『ひらめき』が生まれ、このカードを生み出すに至れた。


『なにっ!?』

突然の変化にさしもの魔王も一手遅れ、業魔腕で護り切れぬ箇所に被弾し肉を削がれる。



「ハアアアアアア!!!」

魔王が痛みに怯んだその僅かな隙間を縫うように、咆哮と共に躍り出る影が一つ。
その正体に見覚えはある。
ムネチカ。だが、その姿は紅魔館を発つ前の怯え切った子犬ではなく、こちらを倒さんとする真っすぐな火を宿した戦士の目となっていた。

『勇むのはよし。だが忘れたか?貴様はほんの数時間前、私に為す術もなくねじ伏せられたのを』

電車での一件でムネチカの力量も技も既に把握している。
ベルベット・クラウの時であれば苦戦は必至だっただろう。だが、いまの魔王にとってはそうではない。
身体能力も。自慢の防御障壁も。仮面の力も。
全てが無意味。無力。
ライフィセットのような回復役がいなければ、たった一度掴むだけで勝負は決する。
そしてその速さも、魔王にはある。

迫りくる狛犬を引き裂かんと業魔腕を振るう。
たとえ一手遅れようとも、ムネチカの拳は必殺にはならないが、魔王の爪は一撃必殺。
ほとんど同時に振るわれれば勝者は魔王。そのはずだった。

「はぁっ!」

だが、ムネチカは振るいかけた拳を止め、しゃがみこみ業魔腕の下を潜り抜け、身を捩じりながら胸部に肘打ちを叩き込む。

『ッ!』

その衝撃に微かに身体がよろめくが、しかしダメージは微弱。
如何にムネチカの身体能力が高いとはいえ、咄嗟の回避からの打撃では腰も入りきらず、全力の一撃には程遠い。
すぐに目をムネチカへと向け、今度は業魔腕を仕舞い、素早さを重視した通常形態の腕でムネチカの腕を掴む。

『捕らえたぞ』

そのままムネチカの身体を持ち上げんと力を込める。
が、動かない。
動かざるは山の如しとはよく言ったもので。
ムネチカの身体は持ちあがる気配がない

「重心は低く、腰を重く...そうであったな志乃乃富士」

ビキリ、とムネチカの足と腕の筋肉が筋を立て、魔王の腹部に拳が放たれる。

『!!!??』

あまりの衝撃に魔王は困惑しつつ吹き飛ばされる。
電車での戦いの時からは考えられぬ威力だ。


「いまの小生をあの時と同じと思うなッ!!」

精神的な疲労や迷いは身体能力に直結する。
電車での戦いの時は、ライフィセットという護るべき仲間がいたからなんとか踏みとどまっていたが、その使命を剥げば、主を失い傷つき嘆く狛犬でしかなかった。
だが、いまのムネチカは違う。
アンジュの死を受け止め、それでも前を向き、一片の迷いもない一人の女。
その精神による差はムネチカの肉体に与える影響をこれでもかと反映していた。

だが、それだけでは魔王との差を縮めきることはできない。
渾身の一撃が入れられようともそれで沈むほど容易くはない。

『邪竜咆吼』

竜の顎を模した右腕から赤黒い閃光を放ち、ムネチカを貫こうとする。
しかしその横合いから原子崩しが放たれ、ムネチカへの攻撃を相殺した。

『鬱陶しい』

苛立ちと共に、業魔腕の砲口を麦野へと向ける。
遠距離からいちいち茶々を入れられるのも面倒だ。

(まずはやはりあの女———ッ!!)

閃光を放とうとしたその瞬間、魔王の身体が鉄球を押し付けられたかのような重圧に襲われる。

『ガッ!』
「這いつくばらずに耐えるとはな。不意打ちで仕掛けてこれとは、流石にレベル6クラスって訳か」

聞きなれぬ声の方角へと顔を向ければ、そこには階段よりこちらを見下ろす茶髪の少年、垣根提督。
なにをした?これは奴の仕業か?
その疑問が湧くのと同時、魔王は己の身体にかかる重圧を分析・演算する。

(そういうことか)

いまの現象は垣根の能力により起きているものだ。
空気にある無数の物質。そこに、彼から発生するこの世には存在しない物質を投げ込めば全く違う事象が生まれる。
いま身体にかかっている重圧は、垣根の未元物質を空間に入れたことによる超常現象だ。
ならば、未元物質を破壊する物質を放出し、元の空間に戻してしまえばいい。
その解答を演算し即座に実行してみせた魔王に垣根はひゅぅ、と口笛を吹いて見せる。


立ち上がり、今度は垣根へと砲口を向ける魔王。
瞬間、その頭上にかかる影が濃くなる。
シャンデリア。
迫りくる影より、それの落下を察知した魔王は咄嗟に飛び退き回避。
その隙を突くように投げられるナイフに、刺さる寸前で察知した魔王は間一髪業魔腕を振るうことで防御。
直後、ムネチカの蹴りが魔王の横腹に入り軽い痛みと共に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたその先の扉を破り、一つの部屋に叩き込まれた。

『小蠅どもが!』

激昂と共に魔王は地面に手を着き立ち上がろうとする。

ツルッ

だが、着いた手はそのまま滑り魔王は無様に顔面を地に着ける。

『なんだここは、滑るぞ!!』

手足や顔に纏わりつくぬるついた感触に、その正体を分析する間もなく看破する。
油。
大量の油が部屋中に撒き散らされていたのだ。

「不思議よね。生活において便利なものでも使い方を誤れば人を害する毒になる。私は毒を探し求めているけれど、ちょっと探せば毒の代替に成り得るモノはいくらでも転がっているのよね」

部屋の入口に立つ夾竹桃が気だるげに煙管をふかす。

(こいつら...ッ!!)

「まあ所詮は代替品、私の求めるモノに成り代われるわけじゃないけれど...あとはお願いね」

夾竹桃が入り口を譲ると同時、極太の原子崩しが魔王に襲い掛かる。

『舐めるなァ!!』

魔王の業魔腕は己に吸い切れる量であれば威力に構わず喰らうことができる。
己に向かい来る原子崩しに掌が翳されれば、たちまちに光線は業魔腕に食われていく。

———同時に眼前にまで迫る木の槌こと、木製タンス。

原子崩しに続く形でムネチカが丸太の如く突き出したのだ。
当然、原子崩しを喰らっている最中の魔王は防ぐことも躱すこともできない。
叩きつけられる衝撃に溜まらず肺の空気を吐き出すが、しかし致命的ではない。
すかさず反撃の閃光を放とうとするが、ムネチカはいち早く飛び退き離脱。
それをカバーするように白の羽と投擲されたナイフが魔王の行く手を阻む。

(やはりこいつらは...ッ!!)

魔王は理解する。
多対一は先刻も経験した。
むしろ人数で言えば先ほどよりも少ない。
にも関わらずこうまで流れを取り戻せないのは、偏に策に則った連携を組まれているからだ。
先の連中は、連携こそしていたものの、即興で組んだためか、共に庇い合う程度のかみ合わせだったが故に対処もしやすかった。
こいつらは違う。
自分に対して有効な連携策を予め練ってきている。
的を絞らせず、反撃の隙すら与えようとしない。

『小癪な真似を...!』

怒りに顔を歪めていく魔王だが、一方で冷静に判断する。
連携がいつまでも完璧に続くはずがない。
必ずどこかでほころびが生じる。

(その時が貴様らの最後だ)


「全く派手にやるねえ」

紅魔館のある一室、琵琶坂永至はクローゼットの前で鼻歌交じりに手に入れた服に裾を通していた。

「黒のゴシックか...うん、悪くない」

今までの彼ならばこんな余裕磔磔と衣装を選んでなどいないし、そもそも裏口からとはいえ近場で魔王とその他大勢がやり合っている戦場のすぐ近くになど寄り付きもしないだろう。
だが、ゲッターに選ばれたいまの自分ならばあの程度に巻き込まれても切り抜けられるという自負があった。
それ故の余裕にして慢心。
己が絶対的超越者であるという自負。

琵琶坂は気に入ったゴシックを身に纏うと、そのまま戦場には一瞥もくれず裏口から出ていく。
彼は魔王と手を組んではいるが、彼女に手を貸すつもりは毛頭ない。
もとより使い潰すつもりではある。だが、別に手助けをしてやるほど長持ちさせるつもりもない。
ここであの連中を殺してくれるならそれでよし、逆に返り討ちにあって死んでも問題ない。
琵琶坂にとって魔王ベルセリアとは尖兵以外の何者でもないのだ。

直に崩壊するであろう紅魔館から距離を置き、遠目からその戦況を観察する。
どういう結果になろうとも殺すつもりである以上、双方の手の内を見ておくのは悪いことじゃない。
まるで野球の試合を観戦する観客のように呑気に缶ジュースを開け、呑みかけの缶を未だに眠るリュージの上に置き、紅魔館を眺めていた。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

後方で轟音が鳴り渡る。

それが耳に届いた時、琵琶坂はハァ、とため息を吐きつつ、鞭を握りしめる。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

迫りくる轟音は周囲の木々を呑み込み、大地を削り取り琵琶坂に襲い掛かる。

「懲りないやつだな、お前も」

琵琶坂がめんどくさそうに鞭を振るうと、迫ってきていたソレ———水の竜は両断されその身を地面に投げ出す。

そして、けたましいエンジン音と共に役者たちは現れる。


「琵琶坂永至ィィィィィィィィ—————!!!」


「いいさ、さっさと燃やし尽くしてやるよクソ女!愛しのカタリナちゃんみたいになぁ!!!」

前話 次話
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 投下順 魔獣戦線 ー進化の光ー

前話 キャラクター 次話
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 垣根帝督 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ムネチカ 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 夾竹桃 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 麦野沈利 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 十六夜咲夜 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ベルベット・クラウ 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 琵琶坂永至 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー リュージ 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー メアリ・ハント 魔獣戦線 ー進化の光ー
魔獣戦線 ー黙示録の始まりー 流竜馬 魔獣戦線 ー進化の光ー
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