バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

魔獣戦線 ー進化の光ー

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kyogokurowa

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やぁ、きみと会うのは初めてだね。

僕は■■■■■。きみの関わる■■■■に携わるゲームマスターのようなものさ。

ハハッ、そんな訝し気な顔をしないでおくれよ。

確かに僕は今までなんのアプローチもしてこなかったし、特別に注目もしてこなかった。

ここにきみが居合わせたのもなにかの偶然、というだけさ。

うん?なにをやっているのかって?

...そうだな、うん、せっかくの機会だし、きみも一緒に見てみるかい?

進化の果てにある世界を。



特段、彼とは弾む会話もなく時間を過ごしていた。

放送が始まると共に、彼はバイク(という乗り物らしい)を止めた。

一刻も早く琵琶坂を探しに行きたかったが、情報整理の為には必要なことだと頭の悪そうな彼でもわかることが私にわからないはずがなくて。

そしてあの忌々しい女の口から様々な情報がもたらされる。

どうでもいい労いの言葉、禁止エリア、そして死者の名前。

私の知る名前は六つ。

カタリナ様。
改めて事実を突きつけられる。あの人は死んでしまった。
目の前で、涙を流しつつも私たちに微笑みかけながら。
最愛の人がいなくなった事実を受け入れたくない。身が引き裂かれるほどに辛く、悲しい。
けれどいつまでも立ちすくんでいては私の本来の願い———カタリナ様を蘇らせることができない。
辛いけれど、苦しいけれど、それでも前を向いて進むしかない。

ジオルド・スティアート。
こちらについては朗報だ。
もともと、この男はカタリナ様の運命を破滅へと追いやる存在としてキース・マリア共々殺すつもりだった。
自分の手のかからないところで死ぬのに越したことは無い。
むしろ、奴らが生きていてカタリナ様だけが死んだとなればそれこそ気が狂いそうになっていただろう。

シグレ・ランゲツ、冨岡義勇。
この二人に関しては、特にシグレに関してはいっそう感謝している。
カタリナ様を護り切れなかったとはいえ、害意もなくあの強大なる魔王に立ち向かったのだから。
ただ、彼らの死を悼むよりもカタリナ様の蘇生の方が優先的というだけで。
だから、彼らにはありがとうございましたという感謝だけを心の内で捧げる。

フレンダ=セイヴェルン
どうでもいい。

そして、自身には直接関係ないことだが———


「行くぞ」

その関係者である流竜馬は、一息を吐く間もなくバイクのエンジンをふかし始める。

「...なにも、言わないのですか」

今までだったらこんなことを聞こうともしなかった。
けれど、カタリナ様という最愛の友を失ったいま、聞かざるをえなかった。
貴方は友を失って平気なのかと。

「ご友人がなくなったのでしょう」
「...うるせえ」
「どうして何も言わないのですか。貴方は見ず知らずのカタリナ様の死すら悼んでいた。なのに———」
「うるせえって言ってんだ!」

注ぎすぎて紅茶の溢れたカップのように、感情を爆発させる彼は、私の胸倉を乱暴に掴み殺気の籠る目で睨みつけてくる。

「あいつの為にぐちぐちと泣きわめけってか?そんなもんなんになる!あいつは死んじまった、ただそれだけだろうが!!」
「ッ...!」
「文句があるなら降りやがれ!!」

彼は投げ捨てるように私の胸倉から手を離すと、改めてエンジンをふかし始める。
私はそれに置いて行かれないように後部座席に飛び乗り改めて琵琶坂の後を追跡する。

...あの面々の中で共に行動するのがこいつでよかった。
もしも共に行動していたのが、カタリナ様をずっと護り、自身も庇ってくれた間宮あかりであれば、後ろ髪が引かれることもあったかもしれない。
友達のために涙一つ流そうともしない暴漢、どれだけぞんざいに扱っても、切り捨てても心が微塵も痛まないだろうから。

そして。

「...ぶっ殺してやる」

その呟かれた一言で、いまの私たちは似た者同士だからこそ、遠慮はいらないと思えたから。


「死ね、死ね、死ねえええええええええ!!!!」

紅魔館の喧騒を聞きつけ辿り着いた矢先、メアリは激昂と共に仮面の力を振り絞り琵琶坂英至に目掛けて水龍を踊り狂わせる。
さしものゲッターの力を有している琵琶坂も、その質量は容易く相手に出来るものではなく、鞭で打ち落とし、あるいは躱し、あるいは『キリク』で叩き潰して対処していく。

(というか、馬鹿なのかあいつは?)

その一方で、純粋に琵琶坂は呆れを抱いていた。
身内を殺された復讐に走るというのは、気持ちはわからないが理屈ではわかる。
仇が目の前にいれば殺しに来るというのもわかる。
現代社会においても殺人事件にはそういう背景が関わるのは未だに多発しているから。
だが、いまのメアリ・ハントの行動は愚かとしか言いようがない。

あそこまでカタリナの為に全てを捧げるとか宣っていた女だ。
おおかた、自分との決着を着けた後に全員を殺してカタリナを生き返らせると考えているのだろう。
それがどうだ。
殺し合いの参加者は半分を切ったとはいえ、まだ三十二人もいる。
敵は自分一人ではない。脱出による生還を望んでいない以上、可能な限り消耗を減らし、手を組むなり策を練るなりして向かってくるのが定石だ。
それこそ、魔王相手にしっかりと連携で食らいついている紅魔館の連中のように。
それを、一人で半ば暴走気味に襲い掛かってくるとは馬鹿か阿呆としか言いようがない。
一時でも自分と同類などと言ったことを撤回したくなるほどに。

「職務上、そういう阿呆は腐るほど見てきたが、お前はその中でも最も愚かな女だよメアリ・ハント」
「黙れ!お前なんかに何がわかる!?カタリナ様のくれた日々の尊さを!温もりを!!何も知らないお前なんかに、あの方の未来を奪われて黙っていられるわけがないでしょう!!」

琵琶坂の指摘通りに、メアリはなにも考えていなかった。
打算はあった。練っていた策もあったはずなのに、それらは琵琶坂を目撃した瞬間に全て吹き飛んだ。
一刻も早いあの男の死を。カタリナ・クラエスを殺した報いを与えなければ。
ただそれだけの憎悪に突き動かされ、もはやここで燃え尽きるほどの力を出し尽くさん勢いだ。
それほどまでに彼女の愛情と憎悪は、一人では抱えきれないほどに大きかった。

だがその無謀ともいえる猛攻も、戦況を広く見れば無駄ではない。

ジャラリ

琵琶坂の耳に鎖の音が届く。
迫る金属音に琵琶坂が咄嗟に飛び退けば、彼のいた場所に鉄球が撃ち込まれ地面を砕く。
竜馬の日輪刀だ。

「おらよっ!」

竜馬は斧を円盤のように回転させながら投擲し琵琶坂の頭部を狙う。
当然、それは躱されるが竜馬とてその程度は前提としている。
この悲鳴嶼行冥の日輪刀は鎖で斧と鉄球を接続している。
例え躱されようともその鎖を手繰れば斧は戻せるし、投擲の角度を変えればブーメランの軌道上全てが鎖の攻撃範囲と化す。
その身体に巻き付こうとする鎖にも琵琶坂は冷や汗一つかきはしない。


「参ったなこれじゃあ逃げ場がない。それじゃあ———『キリク』」

スパン、と勢いよく地面を叩くと、竜馬の身体に地面がへこむ程の幾重もの打撃が走り、それに伴い巻き付くはずだった日輪刀の鎖も地面に落ちる。

「ぐあああああッ!」
「きみに至ってはなんなんだい?間宮あかりならまだしも、きみはあの戦いで最後に乱入してきただけだ。別に僕がカタリナ・クラエスを殺したことなんてどうとも思っていないだろう?」
「...ああ、その通りよ。俺はそこのあいつと違っておめえに恨みつらみがあるわけじゃねえ。けどなあ」

竜馬はすぐさま顔を上げ、琵琶坂目掛けて拳を振るう。
琵琶坂はそれを上体を逸らして回避、にやつき吊り上がった口角を隠すことなく竜馬を見下ろしている。

「俺はてめえみてえな奴が嫌いなんだ。てめえにゲッターの力を渡しておけばロクなことになりゃしねえ!」
「そんなにこの力にお熱なのかい?悪いね、どうやらこいつは僕を選んでくれたようだ」
「いらねえよそんなモン!!」

次いで振るわれる上段まわし蹴りも躱し再び向き合う。
その隙に竜馬は、傍らで横たわるリュージを投げ飛ばし、ひとまず戦いの被害の及ばぬ場所へと放逐した。

(頑丈だな。間宮あかりとメアリはこれでしばらく動けなかったんだが)

竜馬は防御すらとれずキリクをまともに受けた。
だがものの数秒で復帰し何事もなく琵琶坂に攻撃を続けている。
そこにはゲッターの恩恵もなにもない。
単なる頑強さの差。
常に死の危険が纏わりつくゲッターロボを駆る者に、たった数十発分の打撃ダメージなど微量に等しい。

「ちょうどいい。俺もこの力に慣れておきたかったところだ。いいサンドバックになることを期待するよ、先輩」
「ぬかしやがれ!!」
「お前を殺すのは私だ、琵琶坂永至ッ!!」

水龍が傍にいる竜馬もろとも琵琶坂を喰らいつくさんと牙を剥く。
琵琶坂はそれをゲッタービームで撃ち抜き破壊、そのまま逆の方向から迫る竜馬の斧を身を捩り回避。
しかし次いで迫る後ろまわし蹴りを躱すことはできず、その頬に踵を食い込ませる。

仰向けに倒れる琵琶坂目掛けて、100kgはあろう水の塊が琵琶坂を押しつぶさんと降り注ぐ。
琵琶坂は鞭を振るいそれを破壊。
雨のように降り注ぐ水に濡れながら、竜馬は鉄球を振り下ろす。
琵琶坂は鞭で地面を叩きその反動で空中に飛び躱す。

その向かう先はメアリ・ハント。
メアリは今度は水流ではなく水のナイフを生み出し琵琶坂へと投擲する。
琵琶坂は服を掠めながらも紙一重で躱し、メアリの首を割かんと鞭を引いて構える。
だが跳躍した足に日輪刀の鎖が絡みつき、琵琶坂を地面に引きずり下ろす。

「キリク」

地面にぶつけられる瞬間、琵琶坂が地面に鞭を打ち込めば、メアリと竜馬に幾重もの打撃が襲い掛かる。

「うああっ!」
「んぎぃっ!!」

二人はくぐもった悲鳴をあげるも、すぐさま武器を手に、地に落ちた琵琶坂永至に斬りかかる。
迫る二つの怒りに対し、琵琶坂永至は、嗤った。


「ハァッ、ハァッ」

息を切らしながら咲夜は失った右目の痛みに手を抑える。
いくら休憩を取ったとはいえ、せいぜいが一時間程度。
それだけで疲労やダメージの全てが取り除かれる訳ではない。
いまの彼女にとっては数分の戦闘ですら疲労はピークに達してしまう。
だがそれでも休む暇もなく、彼女は適切なタイミングでナイフや屋敷の構造を使い他四人のサポートにまわる。

麦野と垣根が中心となった策は、前衛が近接でも魔王の攻撃に比較的耐えられるムネチカ・麦野・垣根の三人、後衛のサポート役が近接戦闘では役に立てない夾竹桃・咲夜が担うものがほとんどだった。

魔王の強さの源は分析から成る防御負荷の攻撃から来ていると麦野は推測した。
故に、分析する間もない波状攻撃。
幾つかは作戦を用意していたが、基本的にはそれが要だった。
故に咲夜と夾竹桃は比較的に疲労が少ない役回りだった。

だからこそ不安をかき消せないでいる。
いまのところ、壊滅的な被害は出ておらず戦況は優勢だが、果たして本当に自分たちが盤上を動かしているのだろうかと。

———その不安は、ほどなくして的中することになる。


ビ リ ィ

強大且つ邪悪な圧力が一同に降りかかる。
その所在は何処か、と皆が一斉に頭上を見上げる。
その先にあるのは天井。だが、皆が確かに確信していた。
天井の先に得体のしれない力が集っていると。

「俺たちの攻撃を凌いでる間、ずっと屋敷の外側に力を貯めてたって訳か」
「なんでもアリかよ、クソッタレめ...!」

いち早く、魔王のしたことを理解した垣根と麦野の二人は冷や汗をかきながら苦い表情を浮かべる。
単純なことだ。垣根たちは目に見える範囲での魔王の攻撃準備をさせることを徹底的に防いできた。
ならばそれに対する魔王の対抗策は?彼らの見えない位置から攻撃すればいい。
無論簡単なことではない。言葉にすれば容易いが垣根たち学園都市の高ランカーたちですら至難の業だ。
戦い、追い立てられている中で、己ですら見えない場所で攻撃準備を完了させるというのは、脳髄が二つ以上ないとできないことなのだから。
それを可能にするのがレベル6。神の領域とでもいうのだろうか。


「...冗談じゃない」

真っ先に動いたのは夾竹桃だった。

「こんなのに付き合ってられない。もう充分よ、私はこんなことで命を捨てるつもりはないわ...!」

言うが早いか、彼女は脱兎の如く玄関へと背を向け走っていく。

「夾竹桃殿!」
「ほっとけ、いまはこっちに集中しろ!」

夾竹桃を引き留めようとするムネチカを制し、麦野は原子崩しを魔王に放ち牽制する。
だがもう遅い。
魔王の攻撃準備は既に完了している。

『滅びろ――戴冠災器(カラミティレガリア)・侵喰流星(スターダストフォール)』

館を含む、全てを破壊し腐らせんと、穢れの雨が降り注ぐ。

「ムネチカぁ!」
「承知!!」

それが発動する寸前、垣根の号令に従いムネチカは仮面の力を全開放し、館を丸ごと包み込む程の巨大な障壁が展開される。

『無駄だ。貴様のソレは既に演算が完了している』

無論、魔王もムネチカがそうすることは予測している。
故に、穢れの雨には全て障壁を破壊するプラグラムが仕込まれている。
一度に複数の属性を付与すればパンクし暴走するが、予め来るとわかっているものであれば、規模に関係なく最小限の力で効果を十全に発揮できる。
故に数秒後には、障壁は全て破壊されこの場にいる者たちは魔王以外は全て腐り落ちる。




彼女の演算が正しいものであれば、の話だが。

『どうなっている...!?』

既にムネチカの障壁を破壊しているはずが、十秒を経過しても未だに健在。
屋敷にすら腐食の雨は届いておらず、ただ障壁の外に穢れの雨が降り注ぐだけだ。

「演算ってのはすぐに崩れるもんだ。簡単な数式も計算式が一つまじりゃあ解読の手間が増えちまう」
『...貴様の仕業か』
「ご明察。その口ぶりじゃあ、説明はいらねえな?」

障壁が穢れの雨を凌いでいるタネは、垣根提督の未元物質にあった。
ムネチカが障壁を展開する寸前、未元物質の羽根は障壁に触れ、その内部構造に変化を齎していた。
些細な変化ではあるが、しかしそれはもはや従来の障壁とは別物になる。
魔王が演算し、プログラムしたのはあくまでも『従来の障壁』の破壊。
未元物質が加わった障壁の変化には対応しきれず、結果、彼女の防壁は破壊されることなく紅魔館を丸ごと護り切ったのだ。

(よかった...)

咲夜は思わずほっと胸を撫で下ろした。
如何にこの紅魔館が本物ではない、そっくりな偽物とはいえ、自分の慣れ親しんだ施設が壊されるというのはあまり気分のいいものではない。
打算があるとはいえ、紅魔館を腐らせなかったムネチカに仄かな感謝の気持ちを抱いていた。


『だが、その代償は高くついたようだな』

ガクリ、とムネチカは息を切らし膝を着く。
今までの疲労に加え、館を丸ごと包む程の規模の障壁を展開したのだ。
その消耗は甚大ではない。

「ハァッ、ハァッ」
『私もかなりの消耗をしたが...これで終わりだ』
「ハッ、強がってんじゃ———」

魔王の言葉を嘲笑う麦野だが、その言葉が紡がれることはなかった。
ほんの一瞬の瞬きの隙に、魔王の足が眼前にまで迫り、頭部への激痛と共にその身体はムネチカのもとへと吹き飛ばされていたからだ。

「ガアアッ!?」
「ぐあっ!」

弾丸の如きスピードで衝突する二人は共に吐血し、壁に激突すればそのまま地面に倒れ込む。

「おい、原子崩...チッ!」

倒れるムネチカと麦野のもとへ向かおうとする垣根目掛けて、魔王の業魔腕は未元物質の羽根を喰らわんと高速で迫る。
衝突する業魔腕と未元物質、だが、拮抗したのは一瞬。
垣根提督の身体には直接触れられていないものの、その力のみで彼は遥か後方へと吹き飛ばされ、麦野たちと同じように壁に激突することでようやく止まる。

そして残った咲夜目掛けて、跳躍し業魔腕を振るう。

———カチリ

眼前にまで業魔の爪が迫ったまさにその瞬間に、咲夜は時間を止める。
目で追えなかった。
たまたま、焦燥で時間を止めたのが間に合っただけという奇跡だった。

咲夜は時間の止まるほんの数秒のうちに、攻撃をする暇もなく魔王から距離を取り退避。
再び時が動き始めた際には、既に魔王とは正反対の壁際にまで逃げていた。

『...確かに切り裂いたと思ったが、不思議な技を使うな』
「ハアッ、ハアッ」
『だが長続きはしない...今まで出し渋っていたのはそういうことだろう』

先ほどまで優勢だった戦況は瞬く間に一転。魔王の独壇場となる。
今まではムネチカ・麦野・垣根の三人が前線を張ることでどうにか渡り合っていたバランスだった。
だから一人が欠けてしまえばあっという間に崩壊してしまう。
個々の地力の差は大きい。
そうなればこの結果は当然の結路だった。

『待っていろ。こいつらを喰らった後は貴様の番だ』

倒れ伏す麦野を業魔腕で握り込み持ち上げる。
傍に倒れるムネチカは動かず、垣根提督も頭部から血を流し沈黙。
そして咲夜もそれを邪魔する術がない以上、ただ眺めていることしかできない。

『これで終わりだ。麦野沈利』
「———」

ボソボソと漏れる言葉は麦野沈利から。
彼女がなにを言っているのか、魔王は興味を示さない。
どうせこの女の事だ。絶対に殺すだのなんだのと怨叉の言葉を投げようとしているのだろう。
魔王は原子崩しを喰らう為に業魔腕に力を込め———止まる。

笑っていた。
絶体絶命のこの状況において、麦野沈利というプライドの塊の女が、笑っていたのだ。
迫る死に気でも触れたのか?違う。これは確かな意思を以てこちらを嘲っている。

『...なにがおかしい』
「ほんとにてめえは忘れっぽいなと思ってな。私は確かに言ったはずだ。私は、裏切り者を絶対に許さないって。










なあ、夾竹桃」

魔王の肩に痛みが走る。
刀だ。美しい刃渡りの刀が、背後より突き立てられた。
夾竹桃。逃げたと思っていた彼女が、その眼光を紅く染め魔王に刃を突き立てていた。


「結構お粗末な演技だったけれど...案外うまくいくものね」
『貴様...ッ』


肩にはしる痛みと共に、魔王は理解する。
夾竹桃が我先にと逃げ出したのは、予め打ち合わせていた策だ。
だから、誰か一人でも欠けてはならない均衡から逃げ出した夾竹桃に対しても麦野は全く怒ってなかった。
ムネチカが張った防壁にしてもそうだ。
わざわざ紅魔館全体を覆う必要はなく、せいぜい自身と垣根・麦野・咲夜の計四人を守れる範囲で抑えておけば消耗もかなり少なかったはず。
それをわざわざ館全体を包んだのは、どこぞへと身を隠した夾竹桃までもを護るためであったのだ。

「一つ教えてあげる。私は嘘も非道も厭わないけれど、女の友情を裏切ったことはないのよ。ねえ、麦野」
「いや知らねえよ」
『随分と余裕を見せているが、たかだか一太刀入れただけで勝ったつもりか?』

そう。刀を突き立てられた痛みはあれど、そんなもので魔王を止めるのは不可能。
ましてや非力且つ達人でもない夾竹桃の一太刀。
奇襲にこそ驚きはしたが、それだけだ。

「いいえ、これでお終いよ。貴女にはもう打ち込んであるもの」
『あ?』
「友情という名のあつ~い毒を...ね」
『何を言って...』

———ちゃん

じゅぐじゅぐ、と傷口が蠢いているような錯覚に陥る。

———あかりちゃん大好きあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる

誰もその言葉を発していないのに、魔王の鼓膜を揺らし、心まで蝕まんとするかのように、何度も艶っぽい声が連呼される。

———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃん愛してあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぺろぺろあかりちゃん

『なんだ...私に何をした夾竹桃!?』

混乱気味に両耳を塞ぐが効果はない。
まるで、いや、まさに己の中から湧き出るかのように声は勢いを増していく。

———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんだいすきあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんちゅーしてあかりちゃんあかりちゃんあいしてるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぽむぽむあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんだいてあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんわたしがまもるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぺろぺろあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん


『ガアッ、やめ、ヤメロォ!!』

いくら懇願してもその友情は決して譲らない。
当然だ。魔王を越える破壊神にすら慄かれた佐々木志乃の呪い。
魔王のみに通じない道理はどこにもない。

『え、演算!演算を!!』

「させねえよ。これで終わりだ魔王ベルセリア」

麦野が己に被弾せぬ程度の最大出力を貯め始めれば、それに呼応するかのように垣根とムネチカも立ち上がりそれぞれの攻撃態勢に入る。

まずはムネチカが距離を詰め、拳を握りこむ。
狙うは首輪。
罪歌の愛に苦しむ隙を突き、首輪の爆破により魔王を殺さんと拳を放とうとする。

『ガアアアアア!!!』

それは罪歌への抵抗か、あるいは本能的な防衛反応か。
魔王は我武者羅に業魔腕を振るいムネチカに当てる。

「ッ...!」

見た目ほどの威力はないが、その重さに身体は耐え切れずムネチカの身体は咲夜のもとにまで弾き飛ばされる。

冷静さを欠いても魔王の地力は未だ健在。
罪歌の呪いを演算し打ち消すまでの時間を稼ぐには充分だ。

「だったら先にあの腕を潰した方がはやいか...合わせろ未元物質!!」
「貸しにしといてやるよ原子崩し」

原子崩しの光線と羽から放たれる未元物質が大量に含まれた暴風が魔王目掛けて放たれる。
解析不可能の二重奏。その二つの殺意から逃げられぬよう、弾き飛ばされた先から放たれた、ムネチカの防壁が反対側より立てられる。

ここまでのほとんどが彼らの作戦通りだった。
麦野が挑発し、初手からの紅魔館破壊を防ぎ、連携により攻撃する暇を与えないことで自分たちの消耗も減らし。
倒しきれない時は夾竹桃を一旦魔王の意識から外し、不意打ちで罪歌の呪いを刻み込み、強制的に思考力を奪わせ判断力を大幅に鈍らせる。
勝機は彼らに確かにあった。

だがここで彼らの予期せぬ地雷が爆発する。

彼らは知らない。
魔王ベルセリアがよりにもよって間宮あかりと既に戦っており、あまつさえ敗北を喫したことを。

———貴方を止める。シアリーズさんの為にも―――ベルベットさん、貴方を止める!

『あ、かり』

それはある種のトラウマ。剣鬼シグレ・ランゲツにすら成し遂げられなかった、魔王の討伐。

———あなたは強くなってなんかない。あなたはただ逃げただけ。託されたものを全部投げ捨てて。未来が怖くて逃げだしたただの臆病者なんだ!

『間宮、あかり』

———私は、あなたを殺したくありません。

絶対なる自信を打ち砕かれ、あまつさえ哀れみの目を向けられた絶対的な屈辱。

夾竹桃に与えられた友情という名の毒はそのトラウマを抉りすぎた。
その果てに起こるのは

『————アアアアアアアアアァァァァァァァア!!!!!!』

膨大なストレスに晒されたことによる、自傷すら厭わぬ感情の爆発暴走。

『消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ間宮あかりィィィィィィ!!!!!』

狂乱的にプログラムされた戴冠災器の技の数々は周囲を、己の身をも巻き込み出鱈目に放出される。
防壁も。
原子崩しも。
未元物質も。
全てを破壊し狂乱の魔王はただ叫ぶ。

赤色が舞った。
黒色が飛び散った。
紺色が白色が青色が数多の色がなにもかもが黒球の餌となり———紅魔館と呼ばれた館が、会場より消え去った。



「ははは、随分と派手にやってるねえ、魔王サマは」

完全に崩壊した紅魔館を遠目に眺めながら琵琶坂はケラケラと笑う。
頬や服に多少の痕はあれど、目立った外傷もなく余裕溢れる態度も健在である。

「あれだけ大口叩いてやることは結局、知性の欠片も感じない力押しとは...とんだ王様がいたもんだ。あんな王に仕える者がいれば苦労を察してしまうよ。君たちもそう思うだろう?」

後方を流し目で見ながら、にやついた笑みを浮かべる。

そこには傷つき地面に突っ伏すメアリと、先に倒れた彼女の分まで攻撃を受け、全身に傷を負い、多量の出血で地面を赤く濡らす流竜馬。
戦況は一方的だった。
純粋な身体能力のみで挑む竜馬と、仮面の力を内包したとはいえ万全ではなく戦闘経験も浅いメアリ。
対する琵琶坂はゲッターの恩恵のみならず、痣による身体能力の強化、加えて元来よりのカタルシス・エフェクトも有している。
ロクな策もなく、感情のままに立ち向かった二人では結果は火を見るよりも明らかであった。

「く、う、ぅ、琵琶坂、えいじィ...!」
「クソッタレが...!」

憎々し気に睨みつける二つの視線を琵琶坂はニヤニヤと受け流す。

「いいテストプレイになった。お陰でだいぶ力を使いこなせるようになったよ」
「余裕ぶっこいてんじゃねえ...今すぐぶっ殺してやらぁ!」

竜馬は傷ついた身体を押して駆けるが、琵琶坂は難なく鞭で迎撃。
身体を滅多打ちにし、更に右目を打ち付け破壊する。

「ぐあああっ!!」
「竜馬さま!」
「懲りないねえきみも。別にきみとは大した因縁もないんだ。誠意を見せれば見逃してやってもいいんだよ?」

嘘だ。竜馬もメアリもここで殺すことは確定している。
ただ、竜馬のような猪突猛進な馬鹿が惨めに命乞いでもしたら面白いだろうなという思い付きでモノを言っているだけだ。

「ざけんな...誰がてめえなんぞに媚びるかよ。笑ってられるのもいまの内だぜ、クソ野郎がよ」

だが、竜馬の闘志は依然として萎えていない。
その眼光は、未だに諦めの二文字を宿していない。
例え片目を潰されようとも。
手足が折れかけようとも。
多量出血で死にかけようとも。

流竜馬は絶望しない。未だに自分が勝てると思っている。

それが琵琶坂は気に入らなかった。


「やれやれ。きみのその頑固さには呆れてモノもいえないよ」

はぁ、とわざとらしくため息を吐く琵琶坂だが、その顔はすぐに醜悪に歪む。

「その頑固さに敬意を表して、楽に殺してやるよ」

琵琶坂は鞭を掲げ、その先端に緑色の光を集め出す。
その様を見たメアリは思わず息を呑む。
———あれはカタリナ様を殺した技だ。

「メアリ・ハント...愛しのカタリナさんと同じ技で殺してやるんだ、本望だろ?」
「どこまで人を侮辱するの...!」

憎悪と憤怒にメアリの唇が血が流れるほどに噛み締められる。
もしも眼光で人を呪い殺せるならば、いまの彼女にはそれほどの怨念が込められているだろう。
だが、現実はなにもできない。
ロクに動けないメアリはここで死ぬ。

(悔しい)

気が付けば涙が頬を伝っていた。

(カタリナ様を救うどころか、仇すら討てないなんて)

自分がここに来て出来たことはなんだ。
ただ、エレノア・ヒュームという無害な女性を殺しただけだ。
カタリナの助けになんにもなれていない。
それがたまらなく悔しかった。

「琵琶坂...」

だが。
目の前に立つ、満身創痍な男は。
己と同じく死を待つだけのはずの男は。

「覚悟しやがれ...絶対にブッ殺してやる!」

この期に及んでもまだ、微塵も諦めてなどいなかった。

「なら耐えてみろよ。無理だろうけどなあ!!」

琵琶坂はそんな二人を嘲笑い、その技の名を叫ぶ。

「ゲッタァァァビィィィム!!」

鞭の先端から緑色の光線が放たれる。

人間二人は余裕で飲み込める大きさの光線を前にしても、竜馬は微塵も目を逸らさなかった。

迫る。

死への距離が。

慣れ親しんだ緑色の閃光となって。

「俺を」

だがそれでも関係ない。
流竜馬という男の眼光は微塵も揺らがない。
無限にあふれる闘争心。
それこそがゲッター1を駆るに足ると認められた証だから。

「なめるんじゃねえええええええええぇぇぇぇ!!!!」

そしてその叫びを最後に。

光線は、二人を呑み込んだ。











「...オイ、どうなってる」

琵琶坂永至の目は信じられぬものを見た。
ゲッタービームは確かに流竜馬とメアリ・ハントを呑み込み、爆発を起こしたはずだ。
だがどうだ。流竜馬は消え去るどころか、五体満足。
だけでなく、傷一つすらついていない。
その背後にいたメアリも、ほとんど新しい傷がついていない。
竜馬が盾になり防いだというのか?
———本当に、ただそれだけのことなのか?

「竜馬、さま?」

ゲッタービームは流竜馬を殺せなかった。
そのお陰でまだ自分は生きているし、奴を殺すための戦力も欠けなかった。

だというのに、なんだこの不安感は。
なにが起きているのだ。
琵琶坂永至は、いったいなにをしたというのか!?


ゲッタービームとは、ゲッター線から発生するエネルギーを撃ち込み敵を爆殺する技、ではない。

一口に光線といっても成り立ちが違えば原理も異なる。
例えば麦野沈利の原子崩しと御坂美琴の超電磁砲。
原子崩しは電子を粒子と波形を曖昧なまま固定し操ることで恐るべき威力を引き出すのに対し、超電磁砲は電磁力の応用によりコインを音速以上の速さで撃ちだすことから破壊を齎している。
敵を破壊するという点では同じ『ビーム』といえるが、その構成が異なれば当然齎すものも変わってくる。

それはゲッタービームにも当てはまることだ。

ゲッタービームとは、ゲッター線を凝縮し放つ光線、つまりはゲッター線を直接ぶつける技だ。
その結果、敵が溶け、爆発し、あるいは建物を破壊するという結果を齎しているだけだ。

ならば。

ゲッターに異常なほどに適正のある者にゲッタービームを浴びせればどうなるのか。
それは撃った本人である琵琶坂永至ですらわからない。

その答えは直ぐにその身で思い知らされることになる。

ゲッターに選ばれる———否、ゲッターに愛されるとはこういうことだと。

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