バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

魔獣戦線 ー愛されしものー

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kyogokurowa

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———世界が切り替わる。

赤い空。

崩壊した都市。

転がる死体。

こびりつく臓腑と血。

見渡せば、機械の群れが互いに互いを壊し合っていた———殺し合っていた。

倒した相手の中身を貪り、喰らい。

そして勝者は歓喜の声を挙げ、次なる獲物を求めて飛び立っていく。

勝者の声にどこかで聞き慣れているような既視感を覚えつつ、殺された機械の中身に駆け寄る。

零れだしたソレは知った顔だった。

小さな身体。黒のおかっぱ頭。

仲間だった。見た目の割にはどこか大人びている雰囲気を醸し出す、身体のほとんどが機械と化したあいつだった。

それだけじゃない。周りにはよく見知った奴らが散らばっていた。

同じく壊れた機械から上半身だけをぶら下げ息絶えた青年。

下半身をどこかに無くし、鉄骨にくし刺しにされた水色の髪の少女。



俺は逃げた。

ただただ恐ろしくて逃げまわった。

気が狂いそうな———いや、既に狂っているのかもしれない。

ただ、必死に、仲間だったものの成れの果てから目を背けたかったのかもしれない。

とにかく逃げ続けた。

なにかが聞こえた。赤ん坊の声だ。

俺は走った。ただ無心で、縋るように赤ん坊のもとへむかった。

本当なら温かいゆりかごに揺られているような赤ん坊は、大層立派な機械の檻に入れられ、機械に食われていた。

いや、違う。

喰われているんじゃない。同化だ。

人間の身体と機械とが同化し、新たな生命を生み出しているのだ!!

俺は腰を抜かしみっともなく悲鳴を挙げた。

涙すら流しているかもしれない。

ただ、この地獄のような世界に目を塞ぎ、縮こまり。


高らかな笑い声が響くと、世界が切り替わった。



全てを破壊され瓦礫の山と化した紅魔館。
その破片を押しのけ、真っ先に姿を現したのはムネチカと咲夜。

「くっ...なんという威力だ...!」
「悪いわね、助けてもらって...しかし、紛い物とはいえいざ壊されると...はぁ」


少なくない怪我と出血を伴いつつも、破壊規模に対して致命傷を負っていないのは、魔王の攻撃が無差別且つ出鱈目に放たれていたからだ。
自分はどうにか咲夜を庇えたが、他の面々は———

ボン、と弾けるような音と共に瓦礫が舞い上がる。

下から突き出るは、白い羽と緑色の手の形をした光。

「無事であったか、かきねど———ッ!」

味方の無事に綻びかけたムネチカの口元はすぐに引き締められる。

「よう。随分といい様になったじゃねえか」
「ぬかせ。てめえも似たようなもんだろうが」

瓦礫の下から姿を現した三人は満身創痍、だけならばまだよかった。
垣根に襟首を襟首を掴まれながらも出血し、目を閉じたまま動かないだけの夾竹桃はまだマシな方だ。
垣根は右腕を失い頭部からは流血し、麦野も残された生身の腕が千切れ、同じく頭部から流血していた。


「二人とも、止血を!」
「ああ」
「言われねえでもわかってる」

言うが早いか、ムネチカが止血に動くよりも早く、麦野は足元に原子崩しを放ち、垣根は己の未元物質の羽根を傷口に添える。
未元物質で焼き切れた瓦礫に腕と額の傷口を当て焼き潰す麦野、未元物質の羽根がもたらす熱反応で同じく傷口を焼き潰す垣根。
常人ならば叫ばずにはいられない激痛が走るが、しかしそこは暗部に生きるレベル5。眉根一つ揺らがず淡々とこなしていく。

「これでよし...おい、何ボサッとしてんだムネチカ、咲夜」
「え?」
「え?じゃねえよお前らも血が止まってねえだろ」
「いえ、私はだいじょ———」

言い終える前に、咲夜の頭部から血が垂れ落ちる。
あわあわと取り乱す咲夜を他所に、隣にいたムネチカはなにも言わず原子崩しで作られた瓦礫のホットプレートに頭部の傷口を当てて焼き潰し始める。
やはりというべきか、彼女もほとんど無反応。
戦いなれた者というのはみんなこういうものなのだろうか。

蛮族どもめ、と内心でひとりごちつつ、コホンと咳払いし拒否の言葉を告げようとする。
ただでさえ偽物とはいえ馴染みの紅魔館を潰された精神的ショックがあるのだ。
このうえ更に傷口を虐めるような行為は避けたい。

「私はムネチカに庇って貰って比較的軽症だから———」

言い終わる前に垣根の羽根が咲夜の出血口に触れ灼熱を走らせる。

「~~~~~~~~~~~!!!」
「あいつがアレでくたばったとは思えねえ。ぐだぐだとくだまいてる暇はねえんだ...っと、言わんこっちゃねえ」

咲夜が痛みに悶える間もなく瓦礫が弾け飛ぶ。
目にも映るほどの黒い気が立ち昇り始める。

殺意が。憎悪が。憤怒が。

見る者全てを畏怖させんとその形相に表れる。

至る箇所に傷は残れど、魔王、未だ健在。

『夾竹桃を、渡せ...!!』

しかし、怒気を孕んだその声に先刻までの威厳はない。
負った怪我は垣根たち五人の方が大きいというのに、苦しんでいるのは魔王の方だ。

罪歌の『愛』は未だに魔王を蝕んでいた。
ムネチカの防壁や原子崩しを無効化したように、演算を完了させることはできる。
しかし、彼女たちの技のように感情を有さないものならまだしも、罪歌の呪いは感情によるメカニズム。
それを演算、即ち頭で理解するということは呪いを受け入れるのと同義。
つまり演算を終えれば、そのまま魔王は罪歌の呪いへの抵抗力を失い呑まれてしまう。
その危険性を予測した魔王は、夾竹桃の一刻も早い排除によって解除を試みようとしていた。

(よし。流れはまだ私たちにある)

そんな彼女の心境を麦野は見抜いていた。

本来ならば、魔王からしてみればこの戦いはただ蹂躙し喰らうだけのものだったはずだ。
それが予想外の抵抗に手間取り、あまつさえ精神を蝕む毒まで注入されるときた。
当然、その胸中は穏やかではないどころか噴火する火山の如く怒りが煮えたぎっていることだろう。

手を触れることも無い大技なんかじゃなく、その手で刻み、握りつぶし、命を断ったという感触を実感しなければ気が済まない。
圧倒的に自分が上だと思い知らせなければ気が済まない。
気が触れそうなほどの怒りは冷静さを欠き、逃走と停滞という選択肢すら排除せずにはいられなくなる。

かつて、浜面仕上に遅れをとった自分のように。

(魔王だのなんだの大層な肩書も一皮むけばなんてことはねえ。あんたはあたしと同じなんだよ)

認めたくはないが、浜面との戦いでの敗北は麦野にとって確かな糧となっていた。


「てめぇらまだヤれるな?」
「誰にモノ言ってやがる第四位」
「大人しく引き下がれば見逃してくれる...という訳でもないものね」

垣根とムネチカ、そして渋々ながらも咲夜が麦野と共に魔王に改めて対峙する。

『覚悟しろ、お前たち全員食いつぶしてやる...!』

先ほどまでは魔王もまだ冷静さを保っていたため首輪への防御にも気をまわしていたが、今は違う。

(ここから先、恐らく奴の攻撃は単調なものになる。あの右腕で食いつぶすか、一刻も早く俺たちを殺すためにその場における最適解、らしい選択か)

猛烈な怒りは視野を狭め、焦燥を生み思考を単調なものにする。
こちらがわざと作った隙も、それをチャンスだと思い込み釣られてしまう。
周囲に気を遣らず、余計な情報を削ぎ落すぶん反応速度はあがりやすいリスクはあるが、それを差し引いても首輪を狙えるチャンスが増えるのは大きい。
自分たちも既に消耗が激しいため大袈裟な能力は使えない面はあるが。

(こっから先は泥仕合だな。らしくねえが...まあ、なんとかしてやるさ)

皮肉なものだ。
学園都市におけるレベルは異能力を測るものであるというのに、その最高位の二人が揃って最終的に試されるのが本人のスペックになるとは。

「いいからさっさとこいよ魔王ちゃん。それともなにか、こっちから行ってあげねえと怖くて動けないかぁ?」
『~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!』

垣根の挑発に、声にならぬ怒りが臨界点を越え、魔王の足に全力の力が籠められる。
来る———そう確信した時だった。




光。


緑色の光が魔王の身体から発せられた。


『......!?』

怒りとは別の、奇妙な感覚が魔王の心臓部を包み込む。
彼女から、いや、彼女のこれまで撃ってきた技の痕からも緑色の光が発光し始める。
それらの光は、まるで共鳴するかのように粒子となって彼方へと飛んでいく。

「なんだ...!?」

魔王だけでなく、垣根たちもまた、その光が集っていく方角へと目を向ける。

光の向かう先は、紅魔館のあった場所から少し離れた場所。

彼らは知らないが、琵琶坂英至と流竜馬たちが交戦している場所だ。




「おい...なにをしているんだお前は?」

魔王から光が溢れ収束しているように、琵琶坂の身体からもまた緑の光が立ち昇り、眼前の竜馬へと収束していっている。
彼だけではなく、眠るリュージや、メアリの両手からもだ。
力を吸われている訳ではない。
だが、まるで光が竜馬に力を与えているかのように瞬く間に集まっていき、吸い込まれていく。

戸惑い。困惑。未知への恐怖。

それらの本能的な感情に支配される身体を、琵琶坂の脳髄は極めて合理的にねじ伏せ、眼前の脅威を排除するための行動に移す。

鞭を振るい、竜馬の顔を叩く。
そして横を向いたことで生じた隙間を縫い、首輪目掛けてもう一度鞭を振るう。
安陪晴明を斃した時のように首輪を破壊することで先んじて殺すために。

だが。

一手遅かった。

首輪に巻き付く寸前、上げられた腕に鞭は絡みつき首輪へは届かず。

舌打ちと共に鞭を引こうとするが、動かない。
先ほどまでは難なく弾き飛ばせた竜馬の身体が、山を相手にするかのように動かない。

やがて光の収束は収まり、代わりに竜馬自身の身体が緑色に光り出す。


「竜馬、さま?」

不安を孕ませた声音でメアリは竜馬に問いかける。
竜馬に庇われた形になるが、目の前の現象には本能的な恐怖と不安しか抱けない。
だからつい声に出してしまった。

存在を、認識されてしまった。

メキリ。

メアリの腹部にハンマーで潰されたかのような圧迫感が襲い掛かる。
激痛。
潰れる音。
軋み、折れるような音。
襲い掛かる感覚にも何が起きたのかを理解できず、気が付けば宙を舞っていた。
気が付けば、世界が逆転し、血を撒き散らしていた。
そして自重に従い地面に近づき、落ちる衝撃になにかが潰れた時、ようやく自身が竜馬に蹴り飛ばされたのだと理解した。

「なっ!?」

琵琶坂の顔が驚愕に染まる。
わけがわからない。
なぜ竜馬はいま、メアリを殺さんほどの威力で蹴り飛ばした?
仲間割れ?この状況で?
そもそも、つい今しがた瀕死にまで追いやったというのに、どこにそんな力が?

身体を包んでいた光が消え、ぐるり、と此方を向いた竜馬の顔を見た時、琵琶坂の背筋にぞくりと怖気が走る。

四肢には緑色の線が数多も走り、夥しいほどの出血は消え、折れかけていた腕はもとに戻り。
なにより異様だったのは、潰れたはずの右目が再び開き、その双眼に螺旋状の渦巻が宿っていることだ。

琵琶坂は知らない。
本来の歴史では、流竜馬は戦いの最中にゲッター線に取り込まれたことで見境なく全てを破壊する暴の化身と成り果てたことを。
ゲッター線に近づきすぎた者は、例外なく大いなる意思の下に思考を統一されることを。


「ヴオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォォォォ—————ッッッ!!!!」

咆える。咆える。
地を揺らす機械のような叫び声を挙げる彼の咆哮は、大気を弾き琵琶坂にまで波及する。
突風のような衝撃に琵琶坂は怯むも、しかしすぐに持ち直し睨み返す。

「死にかけの癖に調子に乗りやがって...お望みどおりにまた痛めつけて殺してやるよ!!」

未だ絡みつく鞭から炎を発し、竜馬の身体を焼き付ける。
今までの人を焼きつけられる程度の小火ではなく、ゲッターの恩恵を得た規模の増した炎だ。

「泣けよ、喚けよ!膝を着いて俺に屈服しろぉ!!」

人間である以上、身を焼かれれば苦しまざるをえない。
火への耐性を持っていた彼ですらそうなのだから。
だから竜馬の顔も直ぐに歪むと思っていた。
この不安感も直ぐに消せると思っていた。

だが。

「ヴァハハハハハハ、ア”ーハハハハハハッ!!!!!」

笑っていた。
身を焼かれようと、皮膚が爛れようとも構わず。
まるでそれすらも愉しむかのように笑い声を挙げていた。

そんな彼に琵琶坂が気圧された瞬間。
竜馬の姿が消えた、かと思えば、一瞬で懐にまで入っていた。

「なっ———ぶぎゃっ!!?」

竜馬の姿を認識した時には既に拳が眼前にまで迫っており、琵琶坂は回避することもできずに顔面に拳を受ける。
メキメキと骨が軋み、激痛に脳髄が支配されると同時に、遥か後方へと吹き飛ばされる。

本来の竜馬であれば、如何に人間離れした身体能力を有していてもこれほどの力を発揮することはできない。
しかし、多量のゲッター線を取り込んだいまの彼は、身体能力及び再生能力を異常なほどに底上げされていた。
琵琶坂永至はゲッターに選ばれたことで『痣』の代償を帳消しにし、新たなる力を手に入れたが、竜馬が与えられたものはそれ以上。
それがゲッターに愛されるということ。
決して断ち切れぬ破壊と闘争の運命に組み込まれるということ。

余りの衝撃に琵琶坂の身体が幾度か地面を跳ね、それでも止まらず。
ほどなくして紅魔館の残骸の辺りまでついてようやく勢いが殺され、琵琶坂の身体は垣根たちと魔王の間に転がり落ちた。

困惑。動揺。
得も知れぬ異常事態に動きを止める一同。
そして、琵琶坂に追いつくかのように流竜馬も降り立つ。



「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァッッッ!!!!」

なにが起きているかがわからない。理解が追い付かない。
誰もが目を奪われていた。
だが、歓喜の咆哮を身に受けたその時、彼らの心は一つになった。
理屈ではなく。直感・本能的に。
今まで繰り広げていた戦いすらも、受けた屈辱すらも投げ捨て、眼前のこいつを倒さねばならない、と。

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魔獣戦線 ー進化の光ー 投下順 魔獣戦線 ーDeep Redー

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魔獣戦線 ー進化の光ー ムネチカ 魔獣戦線 ーDeep Redー
魔獣戦線 ー進化の光ー 夾竹桃 魔獣戦線 ーDeep Redー
魔獣戦線 ー進化の光ー 麦野沈利 魔獣戦線 ーDeep Redー
魔獣戦線 ー進化の光ー 十六夜咲夜 魔獣戦線 ーDeep Redー
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魔獣戦線 ー進化の光ー 流竜馬 魔獣戦線 ーDeep Redー
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