バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

魔獣戦線 ーDeep Redー

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kyogokurowa

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『♦♦♦♦♦のゲッター線量が上がっていくぞ!』

異形が叫んでいた。

『ウォォこの指数はビッグバンを引き起こすだけの———』

見るも悍ましい異形共が瞬く間に消し飛ばされていく。
異形共が団結し、叫びあい、抗う様を嘲笑うかのように。

無慈悲に。無情に。なんの感慨もなく。
巨大なエネルギーは奴らをあっさりと吹き飛ばす。

『だめだもう我々の武器は全て無意味になった!!』

『このままではすべてゲッターに飲み込まれます』

『母星を失った我々はあのバケモノにたちうちできる手段はありません!!』

『それでも我々はやらねばいかんのだ!!あのバケモノを倒さねば宇宙は———すべての文明は奴に喰いつくされる!!』

それでも彼らは立ち向かっていた。抗っていた。

巨大、という言葉すら陳腐に思えるほどの機械の艦隊の群れを前に、ひたすら死への前進を続けていた。

そんな、異形であるという事実すら霞む程に気高き彼らの命は。

『ゲッター♦♦♦♦♦チェンジだ!!』

宇宙を震撼させる男の声と共に為された、合体の余波一つで全て消し飛ばされた。


『奴らの攻撃能力を奪い壊滅させる』

『ダーク・デス砲発射!!」

『これで何も残らぬ。奴らの文明のカケラさえ全て腐らせる。数十年後には人類移住する時のこやしとなる』


「...素晴らしい。これが人類とゲッターの進化の果てだ」

俺と進化の果てを見届けようと宣ったソイツは、映画のように眼前で流される光景に目を輝かせながら狂喜していた。

「他を寄せ付けぬ圧倒的なまでの力!如何なる脅威に対しても大いなる意思のもとに一糸乱れず団結する人々!!無限に進化し続ける理想郷!!!僕が続けてきた、あのゲームですらもこの進化の前では子葉の一つにしかすぎない!!僕たち人間の文明を護るのに相応しい守護神はこれ以上はないだろう!!」

「他の世界線のゲームマスターも必要ない。グリードの脅威に手を焼くことも無い。この力が味方をしてくれるなら、僕ら人間の文明の保持は確約されたようなものだ!!ハハ、ハッハハハハハハハ!!」

ソイツは笑っていた。壊れたように。支配されたかのように。意思をはく奪された人形のように、ただただ笑っていた。

———本当に、これがそうなのか?

ダーウィンだかなんだか、偉い人が進化について語っていたのを本で読んだことがある。

だがその偉人たちが導き出したものの果てがコレなのか?

見るからに俺よりも賢そうな男が諦めざるをえないこの末路が、俺たち人間が辿る進化の果てとやらなのか?

自分の手に負えない敵を倒すためには、仕方のないことなのか?

「ハハハ...さて。もうすぐ時間のようだ。きみはじきに目覚めると思うが、その前に一つ教えてくれ。きみはこの未来をどう受け止める?」

ソイツは笑うのを止め、俺をジッと見据え始める。

まるで何かを期待していると、そう思えて仕方なかった。

俺は、俺はこの未来を———


先手を打ったのは魔王の業魔腕。
ゲッターの光に包まれた竜馬の身体を喰らわんとその巨大な掌で覆い被そうとする。
対する竜馬は右拳で迎撃。
普段の空手のような洗練された技術ではなく、乱雑に振るわれたパンチだ。
にもかかわらず、業魔腕と竜馬のパンチは拮抗、互いに弾かれ合い共に上体を崩す。

魔王の顔が驚愕に染まる。
こんなことは初めてだ。
今まで相対した敵の中で、純粋な身体能力ではトップだったシグレ・ランゲツですら剣技により自分と拮抗していた。
それがなんだ。ただの素手による力押しでこうも互角に渡り合うハメになるとは。

対する竜馬は、ゲッターはそんなことでは微塵も揺らがない。
弾かれた右拳に代わり、即座に左の拳を握りしめ、魔王の顔目掛けて放つ。
動揺により微かに動きの鈍った魔王は躱しきれずその衝撃と痛みに地面を舐める。

次いで、竜馬の背後より麦野が原子崩しを放つ。
竜馬は魔王とは違い生身の人間だ。光線が当たればどこでも確実に致命傷となる。
そう考えての射撃は、狙い通りに命中し竜馬の腹部を貫通する。
抉られる肉、露わになるその中身。
だが、それは瞬く間に発光と共に修復していく。
ゲッター線の力により肉体修復が異常な速度で働いているのだ。

「あぁ!?」

無論、そんなことを知らない麦野は驚愕する他なく、僅かにだが動きを止めてしまう。
瞬間、竜馬の腹部前方にゲッターの光が収束し放たれる。
まるでお返しだと言わんばかりのそれは、麦野の腹部に当たり、彼方へと弾き飛ばす。
爆発もしない、ただの光線の塊。いわばただの遠距離打撃。
しかし、その一撃はまさに砲丸をそのままぶつけられたに等しく、容赦なく麦野の骨を軋ませ吐血させる。

沈黙する麦野へとトドメを刺さんと竜馬が跳躍し、足を振り上げ踵落としを放つ。
それを庇うためにムネチカが割って入り、両腕を頭上に交差し踵落としを受け止める。
足よりかかる竜馬の自重に加え踵落としの威力による重圧にムネチカの両腕が悲鳴をあげる。
気合い一徹、咆哮と共に力を振り絞り踵落としを弾き飛ばせば、宙に浮いた竜馬に、追い打ちに未元物質の風が吹き荒れ彼の身体を遠方に吹き飛ばす。
だが、竜馬はすぐに体勢を立て直し、再びムネチカたちのもとへと駆け出してくる。

「...加減したのか、垣根殿」
「いいや、溶かすつもりでやったんだが...どうも、イマイチ効果がないらしい」

垣根は竜馬への追撃をただの風ではなく、未元物質で彼の周囲の空気を変質させ人体に害を為すほどの高熱を含む空間を生み出した。
本来ならばそれで彼の身体は溶け、勝負は優勢になっていたはずだった。
だが、溶けたのは一瞬。ほんの少し皮膚が爛れただけでピタリと収まり、再び再生してしまった。

(だが吹き飛ばすこと自体はできた。原子崩しも貫通自体はできた。つまりだ。こいつは異能力により付加される効果を軽減・あるいは打ち消してるって訳だ)

それが自意識か無意識かはわからないし、どういう理屈なのかは垣根にもわからないが、どの道、未元物質による状態異常が通じていないことは確かだ。
異能力による特殊性の効果が薄い以上、まだ麦野のような純粋な火力を叩きつける異能の方が期待できる。

「なら直接刻んでやるよ」

未元物質の羽はそのまま人体を切り裂くこともできる。
特殊性が効かないならば、それらを全て捨てただの刃物として扱えばいい。

迫りくる竜馬の拳へと羽をぶつけ刻まんとする。
結果、甲高い音と共に砕かれたのは未元物質の羽だった。

この会場においても未元物質の羽を防がれたのは初めてではない。
シグレ・ランゲツの剣や鬼舞辻無惨の触手など、一定以上の力があれば守勢にまわること自体は経験済みだ。
だが、それらは剣や再生自在な腕など、直接触れても問題ない連中の所業であり、素手の竜馬では成し得ない。
そのあり得ないはずの現象に垣根の思考が僅かにだが停止し、その微かな時間で竜馬の拳を躱す時間は削がれ、咄嗟に盾にした未元物質の羽ごと殴り飛ばされる。

常識が通用しない。

垣根が口癖のように出す口上が、いままさに己の身に降りかかってきていた。


垣根へと追い打ちをかけようとする竜馬にムネチカがまたも割って入り妨害。
その隙間を縫い、鞭が飛来すれば竜馬の身体を縛り上げる。

「ぜぇ、よぐもこの俺の顔にこんな...このクソガキがぁ!!」

ひしゃげた鼻を手で抑えつつ、怒りのままに琵琶坂は唾を撒き散らしながら怒鳴り散らし、鞭を伝い炎を発する。
点火する竜馬の身体だが、しかし火が点くのもつかのま、咆哮と共にすぐにかき消される。

瞬間、全ての時間が静止する。

咲夜が『時間を操る程度の能力』を発動したのだ。

(琵琶坂や魔王も始末したいけれど...いまは!)

咲夜にとって魔王も琵琶坂も竜馬も優先的に排除するべき敵だ。
しかし、先の魔王との戦いでナイフは使い切り、残されたのは手に持つ一本だけ。
静止する時間の短さも相まって、全員を始末することは不可能。
現状、一番の危険要素は流竜馬である。

(これを外せばおそらく時間はしばらく止められなくなる...ここで必ず決める!)

ナイフを振りかぶり、竜馬の首輪目掛けて投擲する。
咲夜の手元から離れた瞬間、ナイフは空中で静止する。
これで再び時間が動き出した時、竜馬の認識外からナイフが飛んでくることになり、回避は不可能。
あとは自分が寸分の狂い無く投げられたかどうかだけだ。

時間が動き出すまであと2秒。1...

「ッ!?」

咲夜は思わず息を呑む。
全てが静止する時の中、彼女は見た。
竜馬の螺旋状の目が、ギョロリとこちらを睨みつけるように動いたのを。

そして時が動き出すのと同時、ガキンと音が鳴る。
ナイフは、竜馬の歯に挟まれ止められていた。

静止した時間の中を認識したというのか。
ありえない、とは言い切れなかった。
つい数時間前に破壊神シドーに静止した時間を破壊されたばかりなのだから。
故に。彼と同種の存在であれば不可能ではないのかもしれない。

そして。
静止した時間の中を認識されたということは、自分の存在も認知されたということ。
咲夜は咄嗟に地面を蹴り後方へと駆けて距離を取るが既に遅し。
竜馬は縛られた身体のまま軸を捩じり、琵琶坂の身体を力づくで持ち上げ、咲夜目掛けてハンマーのように放り投げぶつける。
まさに鈍器で殴られたような衝撃に咲夜は肺の中の空気を堪らず吐き出し、沈黙する。

残るムネチカが跳びだし、竜馬と掌を合わせて組みあう。
純粋な力と力のぶつかり合い。
一時は均衡するも、次第に押されていきムネチカの姿勢がのけ反るように沿っていき、竜馬は被さるように上体を曲げていく。
歯を食いしばり堪えるムネチカ。
それを嘲笑うかのように走る頭頂への衝撃は、竜馬の頭突きによるものだ。
視界がホワイトアウトしかける中、右の蹴り上げによる腹部への衝撃にムネチカの身体はボールのように吹き飛ばされる。

「ヴオオオオオオオオォォォォォォォォ—————!!!!」

眼前の敵が地に伏せる中、破壊の化身と化した男の歓喜の叫び声が響き渡った。

だが、それは戦いの終末を告げるものではなく、第二ラウンドの開戦の合図。

魔王も。レベル5も。八柱将も。自己愛の権化も。

一度地に伏せられたことで、一層、流竜馬という存在の危険性を認識し直し、敵意と殺意を露わにする。

殺意と闘争心が、とめどなく満ちていく。


「っ...」

肉を打つ音。
建物を破壊する音。
叫び声。
笑い声。

数多の戦場の音が夾竹桃の耳を刺激し、その意識を取り戻させる。
うすぼんやりとする意識の中で、何があったかを思い出す。
策を労じて罪歌を魔王に刺しこんだ。
その結果、魔王が何故か暴走し、我武者羅に技を放ってきて———そこまでは覚えている。
そこから先はどうなった。魔王は倒せたのか、あるいはこちらが全滅したか、共倒れか。

まとまりがつかない思考のまま目を開ける。
辺りは瓦礫の群れ群れだった。
絢爛豪華な華やかささえ伺えた紅魔館はもはや跡形もなく荒地が残るのみだ。

けれどそれ以上に彼女の意識を引き付けるのは、少し離れた場所で繰り広げられる戦。
魔王と対峙していたはずの面々が、その魔王と共に一人の男を囲み、あろうことか協力して倒そうとしている。
だが、男はそれすらも臆せず、獣のように殴り、蹴り、投げつけ。
血で血を洗う戦い、否、殺し合いが繰り広げられていた。

「いったいなにが起こっているの...?」

夾竹桃は解らない。
目の前の光景が、彼女の求めるものの一つ『ゲッター』により引き起こされていることを。
だがそれはある意味幸運だったのかもしれない。
晴明が彼女に伝えた時に狙ったように、ゲッター線はとても一個人に扱える代物ではない劇物。
如何に毒を愛し毒に愛された彼女とてその真理を掴み取ることは不可能。
探求者たる彼女が触れれば、知りすぎる危険に踏み込むことになっていたからだ。


原子崩しの腕と業魔の腕が左右から同時に躍りかかるが、竜馬は右と左、それぞれの掌で受け止める。
本来ならば生身で受ければそれだけで致命的な傷となる両者の腕だが、ゲッター線を纏ういまの彼にはそのルールは通じない。
そのまま両腕を力づくで振り下ろせば、二人の身体は地面に叩きつけられ血と唾を撒き散らす。
次いで鞭が竜馬の身体へと振るわれ、動きを制限している隙に未元物質の羽が首輪目掛けて迫る。
捕らえた。その確信は、しかしすぐに翻される。
消えた。いま直ぐそこにあった竜馬の姿が瞬き一つ程度も無い瞬間に消え去った。
否。なんてことはない。ただ、文字通り目にも止まらぬ速さで垣根の頭上に跳びあがっただけだ。
振るわれる踵落としは、垣根が防御にまわした未元物質の羽を容易く破り、その反動で彼の身体を地面に叩きつけ、多大なダメージを与える。

舌打ちと共に鞭を振るい続ける琵琶坂だが、その攻撃はもはや怯むにも値せず。
身体に傷を打ち込んでいく鞭の嵐をそのまま真っすぐに突き抜け、その拳は琵琶坂の胸部に叩きつけられ、再び後方に大きく吹き飛ばされる。
本来の琵琶坂ならとうに死んでいる攻撃の威力だが、痣やゲッター線の効力における身体能力の増強により耐えることができた。

追い打ちをかけようとする竜馬の背中へとムネチカが体当たりを放ち妨害。
弾き飛ばされ地面を転がる竜馬へと追撃の拳を放つが、しかしそれはハンドスプリングの要領で突き出された前足に防がれ押し返される。
竜馬は立ち上がるのと同時、目にも止まらぬ速さで駆け、ムネチカの腹部を蹴り上げ、宙に浮いたその身体を殴り飛ばす。

再び立ち上がる面々を、殴り、蹴り、投げ飛ばし。
これほどの攻防を繰り返しつつも、竜馬は微塵も疲労や焦燥の気配は見られず、狂喜の雄たけびをあげるのみだ。

たいして、垣根・麦野・琵琶坂の三名は既に地に身体を投げ出し、残るムネチカも膝が笑い立っているのが精いっぱいな有様だ。

そんな彼らを空中より見下ろす魔王。
彼女は他の面々が戦っている最中、飛べるというアドバンテージを利用し、空中に待機しつつエネルギーを充填していた。
その気配に近づいた竜馬だが、地上にいては為す術もなく。

『戴冠災器(カラミティレガリア)———』

力を貯めて放とうと突き出した業魔腕に対し、竜馬は———逃げるのではなく、跳躍して魔王へと向かう。
だが、魔王とてただ迫られるだけではない。
跳躍は所詮は一時的な滞空措置。
突如進行方向を変えることもできない。

魔王は焦らず、放つ前に旋回し竜馬の跳躍の軌道から逸れる。
これで後は放つだけ———その予想は大きく覆される。
跳躍によりあらぬ軌道へと向かうはずだった竜馬が、魔王に迫るように軌道を変更したのだ。

『馬鹿な!?』

驚愕する魔王を他所に、竜馬の腕は伸ばされ業魔腕に溜められていたエネルギー球を握りつぶす。
結果、生じるのは魔王のみならず自分諸共まで被害を被る大爆発。
その余波に魔王は煽られながらも翼を広げ勢いを殺し体勢を立て直す。
対する竜馬もまた爆風に煽られながらも空中で停止し体勢を立て直す。強大なエネルギーに手を入れたせいで皮膚が爛れ痛々しい様相になっているが、しかしそれもほどなくして再生し修復される。
魔王は歯軋りをしつつも目を凝らし竜馬を観察する。
再生能力などではない。なぜ、奴が自在に空中を飛んでいるかを見極めるためだ。

『...!!』

そして気が付く。竜馬の背にうっすらとではあるが、緑色の光が魔王と同じような翼を象っていることに。


ゲッター線が司るものは進化と破壊衝動のみではない。
ゲッター線を通じた記憶の共有。
時には平行時空の記憶であったり、過去や現在の記憶であったり。
ゲッター線は魔王に撃ち込まれたゲッター線と共有した際に、彼女が食らい、体現化させ、喰らった記憶までもを共有した。
その中の一部の要素が、異能を喰らい無力化する業魔腕と、空を自在に飛ぶ翼。
眼前の敵を排除する為に、ゲッター線はそれらを竜馬の身体に反映させたのだ。

『ふざ、けるなぁ!!』

烈火の如き怒りと共に魔王が飛びかかれば、竜馬も同じく殺す為に飛び掛かる。
ぶつかり、互いの頬に拳をぶつけ合えば離れ、再びぶつかり合えば頭突きを躱し合い。
ついては離れ、ついては離れの空での殴り合いに先に手が止まったのは、魔王ベルセリアだ。

『ぐ、うっ』

腹部に竜馬の拳が突き刺さり、貫通せんほどに拳がめり込んでいく。
だが、魔王は痛みに顔を歪めながらも口角を釣り上げた。

『捕らえた』

魔王はそのまま竜馬を抱きかかえるように業魔腕で包み込む。

空中戦は間宮あかりとの戦いで経験済みだが、こうまで互角以上に渡り合われるとは思ってもいなかった。
故に、喰らう。己をも超える可能性を秘めたこの存在を喰らい、一層、女神の支配する地平の糧とする。
業魔腕はメキメキと力を込められ、竜馬の身体を潰すプレス機と化す。
潰れていく身体、流れ始める血。
このままいけば食える。そう確信したときだった。

———ドクン

魔王に潜むゲッター線が共鳴する。

『なんだ?』

———ドクン

心臓の鼓動のように、魔王の脳髄に衝撃が走る。
脳内を蝕んでいた『あかりちゃん』は竜馬が現れた時から成りを潜めている。
ならばなんだ、この奇妙にもほどがある感覚は———


『ムオッ!!』


———突如、魔王の脳髄に像(ヴィジョン)が過る。

遥か広大な地球。
それすらも玩具扱いする神々。
それらすら矮小に見えるほどの巨大なロボット。
あるいは星々を喰らい進化していく巨大な機械の群れ大いなる意思に統一されし新たな秩序複製される人間自由意思なき人間の群れ死滅消滅破滅撃滅宇宙の真理終わらぬ永遠の闘争無限地獄———その果てに聳えるは、■■■■■■■■■

『あ...がぁ...!わた、わたしは、喰う食われくるわれりクルクワル―――』

もしもこれに触れたのが他の面々であれば幻覚なり幻視なりと捨て置くだろう。
だが、彼女は魔王として神格の域に達している。
故に、理解してしまった。これがただの法螺話ではなく、確かに起こり得る未来と過去の話であると。

齎される膨大な絶望への情報に魔王の精神が摩耗していく。
罪歌とは別のベクトルでの恐怖と絶望に染まっていく。
こんなものを喰らうなど冗談じゃない。
自分の役割は女神に贄を捧げて虚獄を成立させること。
だというのに、宇宙中を全て敵にまわして未来永劫の闘争の輪に組み込むなど本末転倒もいいところだ。
もしもこんなものを取り込み現世に解き放ってしまえば、そこからはもう終わりのない無限地獄だ。
勝てない。
いや、勝ったとしても、進化の果てに成るのがアレだというのならこの戦い自体がそもそも過ちでしかない。

『貴様、こんな、こんなものを...!!』

いまにも泣き出しそうなほどに魔王の顔が歪めば、業魔腕に籠められる力が緩み、竜馬が姿を現す。
身体を潰されかけ、とめどなく流血し、だというのに微塵も恐怖を宿さないその双眸と狂喜の叫び声は先ほどの像と重なり。

『う、あああああぁぁあぁぁああぁぁ!!!』

魔王は、恐怖した。

その及び腰から放たれる拳では竜馬は止まらず、返す拳でクレーターができるほどの勢いで地面に叩きつけられる。


『ハァ—、ハァ—』

受けたダメージが甚大でありながらも、魔王は必死に立ち上がる。
得体のしれぬ『ゲッター』から背を向け、戦場を後にしようとしている。

『私は、捧げる...女神に、捧げる、のだ...!!』

自分には役割がある。
虚獄を完成させるための蒐集の器として贄を献上するという役割が。
まかり間違ってもあんなモノを捧げてはならない。
この逃走になんの意味があるのか———そんなことを考える余裕すらない。
とにかく今は少しでも『ゲッター』から離れたい。ただただその一心だった。

だが、そんなことは彼の知るところではない。
地面に降り立てば、即座に魔王へと進撃する。

迫る気配に魔王は気を逸らせない。
絶望の気配に畏れ振り返る。

その視界に映りこむは




満身創痍でなおまっすぐに『ゲッター』を見据える麦野沈利の背中だった。



アレに恐れ戦く魔王の姿を見て、私は溜息を吐く。

情けない。あれがレベル6相当だと評価した者の姿か、と。

きっと、あの殺り取りの中で自分たちにはわからないなにかがあったのだろう。

それにしてもだ。

なんで戦わない。なんで逃げ出す。

たしか今の目的は他の参加者を喰らって魔王として完成されることだったか?

そんなにみっともない姿を晒してまでしがみつきたいものなのか?

...まあ、なんだっていい。

あのわけわからねえやつが魔王サマに夢中になってる隙に、あたしらは退くとするか。

これ以上はもう割に合わねえ。

あとは勝手に潰し合ってればいい。

あいつらが上手いこと潰し合って消えてくれりゃああたしが生き残る確率もかなり上がる。

生き残って、それで....



...それで、どうするんだ?


そもそも。あたしは勝ち残って何をするつもりだった?

主催の奴らの力のなんでも叶うって力を手に入れて、統括の連中にナめられないようにって...それ、そこまで本気になってやることか?

あいつみたいに、なにがなんでも、手段択ばずにしがみついてまで手に入れたいモノか?

そうだ。別に、それはモノのついでくらいの感覚で、あとはただ生きて帰るのは当たり前なことだってだけだ。

なのにあたしは。

心底気に入らない第二位と手を組んでまで魔王を斃そうとして。

そして今ではあの男を倒す為にその魔王たちとも手を組んで。

同じだ。今のあいつと同じじゃねえか。

あんな情けない醜態晒してまで生き残る意味、あるか?

それがほんとにわたしなのか?

...違うよなぁ。じゃなきゃ、私はこんな有様になっちゃいねえんだ。

何よりも命を優先するなら浜面にこだわる必要なんざなかった。

第二位やら第三位みてえな何かしらの御大葬な目的があれば、大人しく力を蓄えておきゃあよかった。

なのに私がそうしなかったのはなんでだ。

決まってる。

私は麦野沈利。私のプライドを穢す奴は許さない。

ああ、そうだ。そうだったじゃねえか。なんでこんなこと忘れてたんだ、クソッ。

いや、あの魔王の姿を見て思い出しちまったんだ。

私はこれまで生き残る為に戦ってきたわけじゃない。

私はずっと私自身のために戦ってきた。

こうまでされて。ここまで虚仮にされて。

私が、『麦野沈利』が黙っていられるわけがねえよなあ?

「ムネチカ。まだ防壁張る力は残ってんな」
「?それは、まあ...」
「なら張っとけ。それで防ぎきれるかわからねえが、無いよりはましだ」
「...おい、テメェいったいなにを」

困惑に眉を潜めるムネチカと垣根に、私はハッ、と鼻で笑い飛ばす。

「見せつけてやるのよ。レベル5が、レベル6をブチコロスその瞬間をね」

きっといまの私の顔は、最高に悪党の顔をしているだろう。

いつだったろうな。

こんなに心から笑えたのはさ。


『麦野...!?』

魔王の顔が驚愕に染まる。

もはや半死人と言ってもおかしくない女が、格下であるこの女が今更なにをしようというのか。
だがちょうどいい。
ここで喰らえば逃走の糧になる。
魔王は麦野を喰らうために業魔腕を振り上げる。

———ゾクリ。

不意に、背筋に怖気が走る。
攻撃しようとした瞬間、明確に『死』を感じ取った。

対する麦野は、もう魔王など見てもいなかった。
いま、彼女が見据えるのはその先。
魔王をも恐れ戦かせるナニか。

「てめえら見てな」

一瞥もせず、ここまで同盟を組んだ者たちに語り掛ける。

「私は自分の言葉を撤回するのが嫌いなんだ。死んでも結果を出してやるよ」

『死んでも結果を出してもらうからね』

ソレは、かつて電話越しに滝壺と浜面へと向けた言葉。

(...ああ、そうだ。格下のあいつらに言っておいて、私がそうしないなんてのは馬鹿らしい話だった)

エネルギーが充填されていく。
魔王すら取り込むのに躊躇するほどの強大なエネルギーが溜まっていく。

原子崩しを研究する科学者曰く、普段の原子崩しは生存本能が働き、威力を調整することで、自身には無害な範囲で能力を行使させている。
ならば、その柵を取り払えばどうなるか。
普段とは比べ物にならないほどの威力を発揮することができる反面、その反動でほぼ確実に麦野沈利の身体は粉々に吹き飛び死に至る。

いま、麦野がしようとしているのはそれだ。
己の生存を度外視した威力を引き出そうとしているのだ。

その力が向かう先は流竜馬。
協力した面々を護るため———ではない。

ここで奴を斃せれば、麦野沈利はレベル5でありながらレベル6クラスを倒せたという実績を残すことができる。
そうすれば、統括理事たちももう『本物の麦野沈利』に対してナメた口をきけなくなるだろう。

それでこの身体が朽ちようが構わない。

過去も未来も知ったことじゃない。
いまの感情に従い、徹頭徹尾、己の為に力を使う。

それが麦野沈利という女である。


力の充填が完了し、徐々に身体が崩壊していくのを実感する。
それでも麦野は臆さない。
己が生きた証を刻むことしか考えない。

恐怖しないのは、彼も同じだ。

流竜馬———否、『ゲッター』は、微塵も恐れ慄くことなく力の源に突貫していく。
相手が強力であればあるほど熱を燃やしていく。
それこそが闘争心。無限の進化の根源。

生存本能という枷を外した最大火力の原子崩し。
全てを喰らい進化を果たさんとする『ゲッター』。

二つの力がぶつかり合ったその時、周囲の力が収束し、
ほんの僅かな静寂に包まれ。

一帯は、閃光と爆発に飲み込まれた。

その瞬間まで、彼らから笑みが消えることはなかった。

前話 次話
魔獣戦線 ー愛されしものー 投下順 魔獣戦線 ー生命の輝きー

前話 キャラクター 次話
魔獣戦線 ー愛されしものー 垣根帝督 魔獣戦線 ー生命の輝きー
魔獣戦線 ー愛されしものー ムネチカ 魔獣戦線 ー生命の輝きー
魔獣戦線 ー愛されしものー 夾竹桃 魔獣戦線 ー生命の輝きー
魔獣戦線 ー愛されしものー 麦野沈利 魔獣戦線 ー生命の輝きー
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