「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-23

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【上田明也の探偵倶楽部】
パンッ!パンッ!
チャリーン!
人気のない神社に参拝する男が一人。
ひとしきり拝み終わると空中を向いて誰かが居るかのように話し始める。

「こんにちわ。
 上田明也と申します。
 今日は少し遅れた初詣にやってきていました。
 ほら、俺が人の多いところに行くと妙な者を引き寄せちゃうでしょう?
 まあ七割方自業自得なんですけれどもね。
 それでも残り三割は朝にパンを咥えて走る美少女のように唐突に向こう側からやってきます。」

神社の境内をゆっくりと歩きながら上田明也は語り続ける。

「元来神社とは境界でした。
 ほら、境内っていうでしょう?
 例えば自然と市街。
 例えば正常と異常。
 例えば…………………。
 まあ良い、とにかく沢山の存在の境界として存在し続けた神社は妙な存在がたむろしやすい場所です。
 真夜中の神社を
 たった一人の殺人鬼が
 意味もなく思考も指向もなく歩けば
 何が起こるんでしょうね?」
【上田明也の探偵倶楽部3~丑の刻参り~】

「さて、さっきの話の続きですよ。」
上田明也は語り続ける。
「俺はつい先日、ここの神社の神主に
 『うちの神社で丑の刻参りをしている女が居るから証拠を押さえてくれ』
 と、言われたんです。
 そうでもなかったら俺だって神社に来るほど暇じゃあないです。」

上田明也は懐から電子煙草を取り出してくわえる。
まだ二十代前半なのにその姿は妙に様になっている。
辺りに漂う香りは苺か何かのようだ。

「ああ、これ?
 最近買ったんですよ、煙草って身体に悪いから嫌っていたんですけど……
 ほら、これならストロベリーの香りで身体にも精神にも優しい。
 本物の煙草は身体を削って精神を救っていると思うんですよ。
 ――――――さて、私はなんの話をしていたんでしょう?」

答える者は居ない。

「あらら、答えてくれない。
 そうだ、思い出しました。
 私が妙な者を引き寄せてしまう体質だから困るって話です。
 コレって別に私が都市伝説と契約してからの話じゃないんですよ?」
そう言って上田明也は腰に差している村正を見せつける。
「更に言えば都市伝説とかのスーパーナチュラルに限った話ですらない。
 俺も昔はそこそこに普通人として生きていこうと務めてきていたんですが
 そんな頃であっても私の周りには変人奇人が集まって来ていました。
 しかもそういう変な奴らにも好かれましたよ。
 本当に疲れる話だ。
 少し待っていて下さい。
 ……ああ、良いや。やっぱついて来て下さい。」

カメラをしまってバッグの中に入れる。
神社の前に停めてあったフィアットまで探偵としての仕事道具を運んで積み込む。

「仕事の最中にこんなにゆっくり人と話が出来るのも久しぶりですよ。
 ああ、そっぽ向かないで下さい。
 もう話に飽きてしまいましたか?
 さっき話したように俺の周囲には異常な人間か常識的な化け物か非常識的な化け物しか居ないんです。
 貴女みたいに人畜無害な存在も少ないんですよ。
 それじゃあ車出すんで助手席にでも乗って下さい。
 え、シートが汚れないかって?
 ああ、カバーつけてるから大丈夫ですよ。」

初期型のフィアット500のエンジンをかける。
鼠のような車だがこの独特のデザインが上田明也の好みらしい。

「さて行かないと、事務所で助手が待っているんですよ。
 そいつも都市伝説でね。
 ハーメルンの笛吹きっていうんですけど……、あ、知っている?
 その通り、町を騒がせる連続殺人鬼と同じ名前なんですよ。
 あ、解りましたか。
 そうなんですよ、私があの殺人鬼の正体なんです。
 貴女は喧嘩を売る相手を間違えたことを解ってくれたようでなによりです。
 ああ、そうやって驚いてくれると嬉しいです。
 さて、それじゃあ帰りましょうか。
 丑の刻参りの契約者さん。」

力なく項垂れる丑の刻参りの契約者。
すでに上田の手にかかっておりもう長くはないことは明らかだ。
首を裂かれ
足を引きちぎられ
腕をへし折られた女性
それがフィアットの助手席に座っている人間。
当然、すでに声をあげることも敵わない。

「いやー、運が悪かったですよね。まあ人を呪わば穴二つでしょうか。
 まぁ丑の刻参りの呪いじゃ村正の呪いには勝てませんよ。
 念のためにメルを事務所で待たせていて正解でした。
 私は無理でも彼女くらいなら道連れにできたかもしれませんよね。」
丑の刻参りの契約者の目から光が失われる。

「……もうちょっと話に付き合って下さい。」 
バチィン!
上田は丑の刻参りの契約者の頬を思い切り叩く。

「ああ、駄目だ。起きない。
 完全に死んだなこりゃあ。
 神主にこの女が犯人って証拠のビデオだけ渡して報酬貰うとするか。」

ガッカリしたような感じで呟く上田明也。
いつも通りの砕けた口調だ。
先程まではあくまで探偵として丑の刻参りの契約者に接していたのだろう。
上田がアクセルを踏むと彼が愛する赤い鼠は夜の町を軽快に走り始めた。

【上田明也の探偵倶楽部3~問わず語り~ fin】

「まったく、何処へ行っても都市伝説だらけだよ。」
フィアットの中で上田明也はぼやく。
「あの神社の神主がもうちょっと仕事すれば良いんだけどね。
 そのおかげで俺の仕事も増えるから文句は言えないか。
 まあ探偵と言っても派手な事件が有るわけでもなければ
 心温まる人情物語が有るわけでもない。
 そこにあるのは非日常の繰り返し。
 全ての事件がそれぞれに異なっているし
 それを解決することはやりがいがある。
 それでも結局繰り返しなんだよ。
 その上、今回みたいに最初から終わっていたような事件もある。
 でもまあ繰り返さないと生きていけない以上、人間ってのも面倒な生き物だよね。
 繰り返さないと生きていけない異常……。
 いや、繰り返すのは正常だよね。
 人間というのはそれすら忘れがちだ。
 それでは皆さんさようなら、さようなら。」
上田の乗るフィアットは雑居ビルの地下にある駐車場に潜っていった。
【上田明也の探偵倶楽部 続く】

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