【上田明也の協奏曲12~回る世界は死に神を呼ぶ~】
「あの黒服から話を聞くと決めたとき、俺はサンジェルマンに頼んで銃器を一つ仕入れて貰った。
名前はワルサーWA2000、ちなみにフラッシュハイダーのついた後期型。
1972年、ミュンヘンオリンピックで起きた人質事件の反省を受けて制作されたセミオートのスナイパーライフルだ。
全長が905mmと短く取り回しが利きながらも銃身長は650mmと長く、市街地などの狭い場所でも使用可能である。
銃のグリップ内部に機関部を詰め込むプルパップ方式でこの仕様を実現している。
その上、銃弾を後部に詰める構造の為に連射していても安定性が高い。
さらに狙撃銃では数少ないセミオート式を採用しており、初弾を外しても続けざまに第2弾が発射可能。
シュミット&ベンダー社製スコープを標準装備し、命中精度もボルトアクションの狙撃銃に負けず劣らずの性能を持つ、高性能な狙撃銃として知られている。
俺の好きな娯楽小説の主人公も使っている。あれにはサーモスコープとか余計な装備が多いが。
俺は現代戦に於いてスナイパーライフルを使うなら必ずセミオートでなくてはならないと思っている。
何故かというと俺は常に一人で敵に立ち向かわざるをえない。
ボルトアクションライフル、ああこれ弾を一々装填する感じの銃だと思ってね。
ボルトアクションライフルだと一度にどんなに多くても一人しか殺せない。
さらに狙撃中はどんなハプニングが起こるか解らない。
だから第二射、第三射を素早く行えるセミオートでなくては少なくとも『俺に限って言えば』使ってはならない。
その代わり幾ら重くても良い。優秀な運搬助手が居るからな。
でだ、なんでこんな銃が必要になったのかって話だよな、今は。」
名前はワルサーWA2000、ちなみにフラッシュハイダーのついた後期型。
1972年、ミュンヘンオリンピックで起きた人質事件の反省を受けて制作されたセミオートのスナイパーライフルだ。
全長が905mmと短く取り回しが利きながらも銃身長は650mmと長く、市街地などの狭い場所でも使用可能である。
銃のグリップ内部に機関部を詰め込むプルパップ方式でこの仕様を実現している。
その上、銃弾を後部に詰める構造の為に連射していても安定性が高い。
さらに狙撃銃では数少ないセミオート式を採用しており、初弾を外しても続けざまに第2弾が発射可能。
シュミット&ベンダー社製スコープを標準装備し、命中精度もボルトアクションの狙撃銃に負けず劣らずの性能を持つ、高性能な狙撃銃として知られている。
俺の好きな娯楽小説の主人公も使っている。あれにはサーモスコープとか余計な装備が多いが。
俺は現代戦に於いてスナイパーライフルを使うなら必ずセミオートでなくてはならないと思っている。
何故かというと俺は常に一人で敵に立ち向かわざるをえない。
ボルトアクションライフル、ああこれ弾を一々装填する感じの銃だと思ってね。
ボルトアクションライフルだと一度にどんなに多くても一人しか殺せない。
さらに狙撃中はどんなハプニングが起こるか解らない。
だから第二射、第三射を素早く行えるセミオートでなくては少なくとも『俺に限って言えば』使ってはならない。
その代わり幾ら重くても良い。優秀な運搬助手が居るからな。
でだ、なんでこんな銃が必要になったのかって話だよな、今は。」
俺はとある廃ビルの屋上に来ていた。
夜の風が雲を払いのけ、一条の月明かりが町を照らす。
狙撃銃を必要とするタイミングなんてたった一つじゃないか。
俺は他人を撃ち殺さなくてはならない。
照準を除いて引き金を引く。
音は降り積もる雪に吸い込まれていく。
が、それでも耳に痛い。
暗視スコープの向こう側の黒服の男は脳漿を零して倒れた。
周囲を警戒し始める男の護衛達。
この銃には弾が6発入る。
残弾は5発、全て純銀だ。
残った標的はあと3人。
警戒しているようだがまさか都市伝説でもなんでもない只の銃器で攻撃されているとは思っていないようだ。
ちょろい。
弱い都市伝説や契約者を追い詰めるだけの奴らならばこんなに簡単に狩ることが出来るのか?
引き金を一回引く度にパタリパタリと黒服が倒れる。
死体の始末なんて知ったことではない。
「組織」の者は「組織」が始末してくれ。
夜の風が雲を払いのけ、一条の月明かりが町を照らす。
狙撃銃を必要とするタイミングなんてたった一つじゃないか。
俺は他人を撃ち殺さなくてはならない。
照準を除いて引き金を引く。
音は降り積もる雪に吸い込まれていく。
が、それでも耳に痛い。
暗視スコープの向こう側の黒服の男は脳漿を零して倒れた。
周囲を警戒し始める男の護衛達。
この銃には弾が6発入る。
残弾は5発、全て純銀だ。
残った標的はあと3人。
警戒しているようだがまさか都市伝説でもなんでもない只の銃器で攻撃されているとは思っていないようだ。
ちょろい。
弱い都市伝説や契約者を追い詰めるだけの奴らならばこんなに簡単に狩ることが出来るのか?
引き金を一回引く度にパタリパタリと黒服が倒れる。
死体の始末なんて知ったことではない。
「組織」の者は「組織」が始末してくれ。
ここ数日間。
俺はあの肉まん少女の周囲について徹底的に調べ上げた。
調査の結果、組織の過激派というだけあって彼女を引き取るつもりの黒服のグループはなかなか戦闘能力を持っていることが解った。
特にたった今殺した黒服。
あいつと正面から戦ったらとてもじゃないが勝つ自信がない。
今の内に出来る限り過激派の中でも戦闘力の高い者は暗殺しておくべきだろう。
あの中には銃で撃たれても死なない奴が居るだろうが……、まあそれはそれだ。
「茜さん、頼んだ。」
「はーい!」
近くに置いていたパソコンを経由して赤い部屋にワープする。
見通しの良い場所で隠れながら出来る限り正確に撃つだけ撃って素早くその場を離れる。
狙撃をする際の基本だ。
赤い部屋から黒服達の倒れている辺りの既に閉店している家電量販店へ向かう。
案の定、一人が都市伝説の力で狙撃を免れていた。
ハーメルンの笛吹きの力で既に大量の鼠をその辺りには呼び寄せている。
その生き残りの都市伝説を使わせる前に、彼は鼠の餌にすることにした。
断末魔の悲鳴が夜中のビル街に響く。
どうやら終わったらしい。
「終わったよ。」
とりあえず今回の情報提供者殿に仕事が完了したという電話をいれる。
「ありがとよ、正面からだとあいつらの相手は無理だからな。確かに遠距離からの狙撃が一番安全だろうさ。」
「ただまぁ、誰も都市伝説同士の戦いで近代兵器を持ち出してくるとは思わないよなぁ。」
「俺達だって銃は使うぜ?」
「それなら、文句を言われる筋合いは無いか。」
「それはそうとお前、電子レンジの契約者にちょっかい出したみたいじゃないか……。」
電話の向こうの声が怖い、怒っているようだ。
あいつもこのように感情を動かすことがあるのか?
俺は正直驚いていた、同類だと思っていたのに。
「あー……あんたの担当か、その件については今度しっかり事情を話させて貰いたい。」
簡単な会話をおわらせると、俺はとりあえず探偵事務所に帰ることにした。
俺はあの肉まん少女の周囲について徹底的に調べ上げた。
調査の結果、組織の過激派というだけあって彼女を引き取るつもりの黒服のグループはなかなか戦闘能力を持っていることが解った。
特にたった今殺した黒服。
あいつと正面から戦ったらとてもじゃないが勝つ自信がない。
今の内に出来る限り過激派の中でも戦闘力の高い者は暗殺しておくべきだろう。
あの中には銃で撃たれても死なない奴が居るだろうが……、まあそれはそれだ。
「茜さん、頼んだ。」
「はーい!」
近くに置いていたパソコンを経由して赤い部屋にワープする。
見通しの良い場所で隠れながら出来る限り正確に撃つだけ撃って素早くその場を離れる。
狙撃をする際の基本だ。
赤い部屋から黒服達の倒れている辺りの既に閉店している家電量販店へ向かう。
案の定、一人が都市伝説の力で狙撃を免れていた。
ハーメルンの笛吹きの力で既に大量の鼠をその辺りには呼び寄せている。
その生き残りの都市伝説を使わせる前に、彼は鼠の餌にすることにした。
断末魔の悲鳴が夜中のビル街に響く。
どうやら終わったらしい。
「終わったよ。」
とりあえず今回の情報提供者殿に仕事が完了したという電話をいれる。
「ありがとよ、正面からだとあいつらの相手は無理だからな。確かに遠距離からの狙撃が一番安全だろうさ。」
「ただまぁ、誰も都市伝説同士の戦いで近代兵器を持ち出してくるとは思わないよなぁ。」
「俺達だって銃は使うぜ?」
「それなら、文句を言われる筋合いは無いか。」
「それはそうとお前、電子レンジの契約者にちょっかい出したみたいじゃないか……。」
電話の向こうの声が怖い、怒っているようだ。
あいつもこのように感情を動かすことがあるのか?
俺は正直驚いていた、同類だと思っていたのに。
「あー……あんたの担当か、その件については今度しっかり事情を話させて貰いたい。」
簡単な会話をおわらせると、俺はとりあえず探偵事務所に帰ることにした。
「メル、居るか?メル?」
我が可愛らしい都市伝説の名前を呼んでみる。
どうやら居ないようだ。
最近何故か外出していることが多い。
まさか俺の居ないところで誰かを殺している?
いやまさか。
そんなこと有るわけがない。
最近不自然な行動は確かに有るがあいつは自ら進んで人を殺しに行くような都市伝説じゃない。
だから俺がハーメルンの笛吹き男として行動しなくてはならないんだ。
そうしないとあいつは存在すら出来ない筈なんだ。
俺が守ってやらなくちゃ。
俺が支配してやらなくちゃ。
駄目な筈なんだ、彼女は。
フォーチュンピエロのイタリアンチキンバーガーとオニオンリングが机の上に置いてある。
恐らく俺の為に買ってきておいてくれたのだろう。
ほら、こんなにも優しい彼女がそんな事するわけがない。
ずきずきと痛む頭を抱えると俺はゆっくりと眠りについた。
我が可愛らしい都市伝説の名前を呼んでみる。
どうやら居ないようだ。
最近何故か外出していることが多い。
まさか俺の居ないところで誰かを殺している?
いやまさか。
そんなこと有るわけがない。
最近不自然な行動は確かに有るがあいつは自ら進んで人を殺しに行くような都市伝説じゃない。
だから俺がハーメルンの笛吹き男として行動しなくてはならないんだ。
そうしないとあいつは存在すら出来ない筈なんだ。
俺が守ってやらなくちゃ。
俺が支配してやらなくちゃ。
駄目な筈なんだ、彼女は。
フォーチュンピエロのイタリアンチキンバーガーとオニオンリングが机の上に置いてある。
恐らく俺の為に買ってきておいてくれたのだろう。
ほら、こんなにも優しい彼女がそんな事するわけがない。
ずきずきと痛む頭を抱えると俺はゆっくりと眠りについた。
翌日、俺は久しぶりにサンジェルマン伯爵に会っていた。
「やぁアキナリ。私に会いたいだなんて嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。」
「よう、サンジェルマン。」
場所はいつも通りの探偵事務所。
普段なら俺がここで依頼を受けるのだが、今回は依頼する側だ。
「で、用件ってなんなんですか?それと偶には橙にも会ってあげてくださイ。」
「橙な、あいつもそろそろ俺に口説かれて欲しいんだが中々どうしてなあ?」
「メルさん一人じゃ我慢できませんか?」
「目の前に可愛い女の子が居て、それを口説かなかったならばそれは原罪にも等しい罪だ。」
「不貞も大きな罪ですよ。」
「俺キリスト教徒じゃないもん。」
「キリストを信じて無くてもアウトです。」
「あっはっはっはっは……、さてそろそろ本題に戻るか。」
すこし冗談でも言っていないとやっていられない気分なのだ。
「そうですね。」
あの黒服に頼らねばならないときは最悪の一歩手前。
こいつに頼らねばならないときは――――――最悪なのだろう。
「単刀直入に聞こう、俺に対する侵食はどこまで進んでいる?」
「まったく進んでません。」
やはりか。
あれだけ無茶な量の契約を行い、無茶に都市伝説を使い、妖刀に身を任せ、悪魔に魂を売りつけた。
罪深い人々も罪のない人々も分け隔て無く殺した。
当然の報いだ。
俺には死ぬことすら許されないのだ……。
「やぁアキナリ。私に会いたいだなんて嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。」
「よう、サンジェルマン。」
場所はいつも通りの探偵事務所。
普段なら俺がここで依頼を受けるのだが、今回は依頼する側だ。
「で、用件ってなんなんですか?それと偶には橙にも会ってあげてくださイ。」
「橙な、あいつもそろそろ俺に口説かれて欲しいんだが中々どうしてなあ?」
「メルさん一人じゃ我慢できませんか?」
「目の前に可愛い女の子が居て、それを口説かなかったならばそれは原罪にも等しい罪だ。」
「不貞も大きな罪ですよ。」
「俺キリスト教徒じゃないもん。」
「キリストを信じて無くてもアウトです。」
「あっはっはっはっは……、さてそろそろ本題に戻るか。」
すこし冗談でも言っていないとやっていられない気分なのだ。
「そうですね。」
あの黒服に頼らねばならないときは最悪の一歩手前。
こいつに頼らねばならないときは――――――最悪なのだろう。
「単刀直入に聞こう、俺に対する侵食はどこまで進んでいる?」
「まったく進んでません。」
やはりか。
あれだけ無茶な量の契約を行い、無茶に都市伝説を使い、妖刀に身を任せ、悪魔に魂を売りつけた。
罪深い人々も罪のない人々も分け隔て無く殺した。
当然の報いだ。
俺には死ぬことすら許されないのだ……。
「そうか、まあ当然の報いだな。俺はいつまで保つ?」
「健康に気を遣っていれば寿命までは生きていられますよ?」
「寿命までか……、まあ確かに寿命だよ。
でもな、聞いてくれサンジェルマン。
こんな状況でも俺は嬉しいんだよ。
ああ、俺にも因果応報のルールが働いているんだって。
嬉しくなるんだよ。歪んでいるよな?
ゆっくりと自我を奪われていく中でも不思議と満ち足りた気分になるんだ。
俺みたいに不相応に満ち足りた生き方をしている人間でも不幸になれるんだ、人間は結局平等なんだって……。」
「あの、アキナリ?」
「え?」
「貴方、都市伝説には飲み込まれてませんよ?」
当然の報いだ。
人の話を聞かない人間というのは得てして罪深い。
こんな恥ずかしい台詞を長々と言ってしまったのは今の俺に相応しい罰と言えよう。
「健康に気を遣っていれば寿命までは生きていられますよ?」
「寿命までか……、まあ確かに寿命だよ。
でもな、聞いてくれサンジェルマン。
こんな状況でも俺は嬉しいんだよ。
ああ、俺にも因果応報のルールが働いているんだって。
嬉しくなるんだよ。歪んでいるよな?
ゆっくりと自我を奪われていく中でも不思議と満ち足りた気分になるんだ。
俺みたいに不相応に満ち足りた生き方をしている人間でも不幸になれるんだ、人間は結局平等なんだって……。」
「あの、アキナリ?」
「え?」
「貴方、都市伝説には飲み込まれてませんよ?」
当然の報いだ。
人の話を聞かない人間というのは得てして罪深い。
こんな恥ずかしい台詞を長々と言ってしまったのは今の俺に相応しい罰と言えよう。
「そうか、じゃあ俺の頭痛っていうのは……。」
「ストレスです。」
「ええぇ…………。」
がっかりだ。
「そんなことはどうでも良いんですが………。
貴方、また面倒ごとに首突っ込んでますね?
落ちますよ?」
恐らく肉まん少女のことだろう。
まあそれ以外にも心当たりが多いが。
「今じゃなくて良いがこの首には一遍落ちて反省してきて欲しいと思っている。」
「一生言っていて下さい。」
「ごめんごめん、ところでもう一つの話題の方についても教えてくれよ。」
「ああ、メルさんの正体……ですね。」
ゴクリ、唾を飲み込む。
今まであえて知ろうとは思わなかった。
しかし今の彼女の状況を見ると知っておくに越したことはない。
「ありゃあね、人さらいだの鼠をあやつるだの、面倒臭い尾ひれがついていますが……。
結局、略奪なんですよ。他者の物を奪い尽くす。」
「七つの大罪でいうと強欲?」
「まあそんなところか。貴方は色欲じゃないですか?
どっちも同じ欲なら仲良くしなさいな。」
「俺の色欲は長年抑圧された物が解放されているだけだ。どちらかと言えば……。」
「傲慢。折れることのない自我。他人の権利を侵し、秩序を冒涜する。」
「そんなところ。しかしねえ、メルが暴走してるだなんてねえ。
放っておけばやばいんだろう?」
まあメルは死神や悪魔の類だとは知っていたが……。
やはり犠牲者の数が彼女を維持するにはまだ足りないのか?
いやそんな訳は……。
「ストレスです。」
「ええぇ…………。」
がっかりだ。
「そんなことはどうでも良いんですが………。
貴方、また面倒ごとに首突っ込んでますね?
落ちますよ?」
恐らく肉まん少女のことだろう。
まあそれ以外にも心当たりが多いが。
「今じゃなくて良いがこの首には一遍落ちて反省してきて欲しいと思っている。」
「一生言っていて下さい。」
「ごめんごめん、ところでもう一つの話題の方についても教えてくれよ。」
「ああ、メルさんの正体……ですね。」
ゴクリ、唾を飲み込む。
今まであえて知ろうとは思わなかった。
しかし今の彼女の状況を見ると知っておくに越したことはない。
「ありゃあね、人さらいだの鼠をあやつるだの、面倒臭い尾ひれがついていますが……。
結局、略奪なんですよ。他者の物を奪い尽くす。」
「七つの大罪でいうと強欲?」
「まあそんなところか。貴方は色欲じゃないですか?
どっちも同じ欲なら仲良くしなさいな。」
「俺の色欲は長年抑圧された物が解放されているだけだ。どちらかと言えば……。」
「傲慢。折れることのない自我。他人の権利を侵し、秩序を冒涜する。」
「そんなところ。しかしねえ、メルが暴走してるだなんてねえ。
放っておけばやばいんだろう?」
まあメルは死神や悪魔の類だとは知っていたが……。
やはり犠牲者の数が彼女を維持するにはまだ足りないのか?
いやそんな訳は……。
「その通り。
キリスト教徒はあれを悪魔と呼ぶ。
古代の人々はあれを魔術師と呼ぶ。
現代人は身分社会を忌避する人々の精神の隠喩と捕らえた。
彼女はね、連れて行かずには居られないんですよ。
彼女を極限までシンプルに解体すればそれは一夜にして130人の子供が消失した事件。
ついた尾ひれは色々有りますが本来彼女の能力だってそういう物だったんですよ。
シンプル、それ故に強い。
だが彼女はそれを厭うた。子供達が死ぬのが嫌だった。
その上、子供の命を奪うだけじゃなくて大人からはもっとも大事な物を奪うんですよ。
殺した者、奪った物を引き連れながらふくれあがる都市伝説。
発覚しなかっただけで彼女の糧になってしまった町や村が幾つあったと思いますか?」
俺は想像する。
幽鬼の如く世界中を放浪しながら人々を飲み込み続ける化け物のような都市伝説を。
それは恐らく死より孤独より恐ろしいだろう。
それでも化け物は泣かないのだ。
涙枯れ果てたからこそ化け物になり、なって果てるのだ。
ああそれはなんて……。
「救えないなあ。」
本当に、救えない。
「そんな物を貴方は屈服させ、操っているのです。
もっとも最近は彼女も都市伝説らしくなってきたみたいですけれど。」
「……やっぱりか?」
メルが俺の手を離れて暴れているのは事実らしい。
「ええ、貴方がそれをやめさせたいなら方法は有ります。
ただし私にはどうにも出来ません。
貴方が全てそれを行わなくてはならない。」
「聞かせてくれよ。無軌道に無秩序に暴れるあいつの現状はあまり宜しいとは言えない。」
ああ、やっぱりこいつに頼るときは最悪の時なんだ。
そう実感しなくてはならなかった。
キリスト教徒はあれを悪魔と呼ぶ。
古代の人々はあれを魔術師と呼ぶ。
現代人は身分社会を忌避する人々の精神の隠喩と捕らえた。
彼女はね、連れて行かずには居られないんですよ。
彼女を極限までシンプルに解体すればそれは一夜にして130人の子供が消失した事件。
ついた尾ひれは色々有りますが本来彼女の能力だってそういう物だったんですよ。
シンプル、それ故に強い。
だが彼女はそれを厭うた。子供達が死ぬのが嫌だった。
その上、子供の命を奪うだけじゃなくて大人からはもっとも大事な物を奪うんですよ。
殺した者、奪った物を引き連れながらふくれあがる都市伝説。
発覚しなかっただけで彼女の糧になってしまった町や村が幾つあったと思いますか?」
俺は想像する。
幽鬼の如く世界中を放浪しながら人々を飲み込み続ける化け物のような都市伝説を。
それは恐らく死より孤独より恐ろしいだろう。
それでも化け物は泣かないのだ。
涙枯れ果てたからこそ化け物になり、なって果てるのだ。
ああそれはなんて……。
「救えないなあ。」
本当に、救えない。
「そんな物を貴方は屈服させ、操っているのです。
もっとも最近は彼女も都市伝説らしくなってきたみたいですけれど。」
「……やっぱりか?」
メルが俺の手を離れて暴れているのは事実らしい。
「ええ、貴方がそれをやめさせたいなら方法は有ります。
ただし私にはどうにも出来ません。
貴方が全てそれを行わなくてはならない。」
「聞かせてくれよ。無軌道に無秩序に暴れるあいつの現状はあまり宜しいとは言えない。」
ああ、やっぱりこいつに頼るときは最悪の時なんだ。
そう実感しなくてはならなかった。
「よぅ、穀雨ちゃん。元気だったか?」
「あ、お兄ちゃん!」
俺は町を歩いていた。
自分の身分からすれば黒服にでも追われる危険は有ったのだがそれは問題ではない。
そういえばこの前知らない黒服に尾行されたのだがまあ禿ではないし大丈夫。
今は只、彼女に会う必要があった。
「ウサギの尻尾、効いているか?」
「うん!」
快活に答える少女。
ああ、良かった。
この世界に存在する不幸がまた一つ消えたのだ。
「………でもね。」
「どうした?」
「わたしのまわりのひとに悪いことが続いているの……。」
「ああ……。」
さもありなん、と思う。
なんの代償も無しに幸福が訪れるわけがない。
私の世界は貴方の世界に満ちる幸せを奪い取って存在しています。
それは当たり前という物だ。
「あのね、まわりの友達が悲しそうにしていると私も悲しい。」
その感覚がわからない。
何故、他人の痛みを自分の痛みとしなくてはならないのだ?
自分だって痛みがないわけではない。
だから他人の心が痛むときはきっとそれと同じかそれ以上に痛いのだろう。
そんなのわかりきっている。
だがしかしだ。
――――――そんなのどうした?とも思うのだ。
「あ、お兄ちゃん!」
俺は町を歩いていた。
自分の身分からすれば黒服にでも追われる危険は有ったのだがそれは問題ではない。
そういえばこの前知らない黒服に尾行されたのだがまあ禿ではないし大丈夫。
今は只、彼女に会う必要があった。
「ウサギの尻尾、効いているか?」
「うん!」
快活に答える少女。
ああ、良かった。
この世界に存在する不幸がまた一つ消えたのだ。
「………でもね。」
「どうした?」
「わたしのまわりのひとに悪いことが続いているの……。」
「ああ……。」
さもありなん、と思う。
なんの代償も無しに幸福が訪れるわけがない。
私の世界は貴方の世界に満ちる幸せを奪い取って存在しています。
それは当たり前という物だ。
「あのね、まわりの友達が悲しそうにしていると私も悲しい。」
その感覚がわからない。
何故、他人の痛みを自分の痛みとしなくてはならないのだ?
自分だって痛みがないわけではない。
だから他人の心が痛むときはきっとそれと同じかそれ以上に痛いのだろう。
そんなのわかりきっている。
だがしかしだ。
――――――そんなのどうした?とも思うのだ。
「わたしが使おうと思ってた鋏でおともだちが手を切ったりしたの。」
「それは可哀想に。」
口だけでは嘆いてみせる。
嘆く演技だって役者顔負けだ。
目を閉じて口を一文字にして少しだけ首を振る。
「おにいちゃん優しいね。」
「ありがとう、あまり言って貰えないよ。」
「なんで?」
「おにいちゃんが悪い人だからかな?」
「おにいちゃん悪い人なの?」
「実はね、お兄ちゃん大泥棒なんだ。」
待って、私は何も盗んでいないわ。
いいえ、奴は大変な物を盗んでいきました。
他人の尊厳や人生など諸々のプライスレスな物をです。
「おにいちゃん、泥棒はいけないよー!」
「う……、そうだね。これからはしないようにするよ。」
「ちゃんと盗んだ物を返してごめんなさいしなくちゃ駄目だよ?」
「解った、そうするとしよう。」
俺の笑う声が空に抜けていくと彼女の笑い声もまた虚空に吸い込まれていった。
ごめんね、もう返せないんだよ。俺の盗んだものは。
「それは可哀想に。」
口だけでは嘆いてみせる。
嘆く演技だって役者顔負けだ。
目を閉じて口を一文字にして少しだけ首を振る。
「おにいちゃん優しいね。」
「ありがとう、あまり言って貰えないよ。」
「なんで?」
「おにいちゃんが悪い人だからかな?」
「おにいちゃん悪い人なの?」
「実はね、お兄ちゃん大泥棒なんだ。」
待って、私は何も盗んでいないわ。
いいえ、奴は大変な物を盗んでいきました。
他人の尊厳や人生など諸々のプライスレスな物をです。
「おにいちゃん、泥棒はいけないよー!」
「う……、そうだね。これからはしないようにするよ。」
「ちゃんと盗んだ物を返してごめんなさいしなくちゃ駄目だよ?」
「解った、そうするとしよう。」
俺の笑う声が空に抜けていくと彼女の笑い声もまた虚空に吸い込まれていった。
ごめんね、もう返せないんだよ。俺の盗んだものは。
ああ、それにしても綺麗な笑顔だ。
世界がまだなんの欠損もなく美しく輝いていると心から信じているのだろう。
きっとこのナニモシラナイ少女を汚すのも黒く染めるのも一瞬で済むことなのだろう。
彼女が絶望した時の顔を見てみたい。
今ここで連れ去って陵辱の限りを尽くしても良い。
今ここで道行く人の断末魔を聞かせ続けても良い。
今から真っ暗な地下の部屋の中に閉じ込め続けてみようか?
それともこの世界の片隅で彼女が如何に不幸な身の上で生まれ、しかも世界にはもっと不幸な人間が居るかを語ってやっても良い。
最高なのは俺の生き方を徹底的に教え込むことだ。
他者は奪いとる対象。
自分以外何も信じない。
自分が楽しければそれでよい。
これだけをルールに人生を生きればそれはなんとまあ獣にも等しい地獄であることか。
正しく畜生の道だろう。
俺を俺たらしめているのは敬愛する父母から頂いた身体でも切磋琢磨した友との交流から得た人格でもない。
理由無く、それ故に失われること無く存在する強烈な自我。
きっと彼女が俺になってくれれば彼女は何時かどこかで俺をもう一人作る。
その時、俺は本当に死なない化け物になるのだろう。
人と人との確かな繋がりがそこにはある、なんて暖かいのだろう。
ここまで考えて俺は自分の中にドロドロと渦巻く悪意のような物に始めて気付いた。
こんな可愛らしい幼女にそんなことを考えるなんて俺はなんて最低な人間なのだ。
最低なんて言葉すらまだ生温い。
泥の中から湧き出る泡のようなこの気持ちの悪い感覚はなんなのだ?
それでも俺は夢想してしまうのだ。
絶望の淵から尚、彼女は俺に向けて手を伸ばすのだろう。
そうなったら俺は、俺なんて存在はもう彼女の奴隷で居ることしかできない。
それはなんて……
ああそれはなんて……
世界がまだなんの欠損もなく美しく輝いていると心から信じているのだろう。
きっとこのナニモシラナイ少女を汚すのも黒く染めるのも一瞬で済むことなのだろう。
彼女が絶望した時の顔を見てみたい。
今ここで連れ去って陵辱の限りを尽くしても良い。
今ここで道行く人の断末魔を聞かせ続けても良い。
今から真っ暗な地下の部屋の中に閉じ込め続けてみようか?
それともこの世界の片隅で彼女が如何に不幸な身の上で生まれ、しかも世界にはもっと不幸な人間が居るかを語ってやっても良い。
最高なのは俺の生き方を徹底的に教え込むことだ。
他者は奪いとる対象。
自分以外何も信じない。
自分が楽しければそれでよい。
これだけをルールに人生を生きればそれはなんとまあ獣にも等しい地獄であることか。
正しく畜生の道だろう。
俺を俺たらしめているのは敬愛する父母から頂いた身体でも切磋琢磨した友との交流から得た人格でもない。
理由無く、それ故に失われること無く存在する強烈な自我。
きっと彼女が俺になってくれれば彼女は何時かどこかで俺をもう一人作る。
その時、俺は本当に死なない化け物になるのだろう。
人と人との確かな繋がりがそこにはある、なんて暖かいのだろう。
ここまで考えて俺は自分の中にドロドロと渦巻く悪意のような物に始めて気付いた。
こんな可愛らしい幼女にそんなことを考えるなんて俺はなんて最低な人間なのだ。
最低なんて言葉すらまだ生温い。
泥の中から湧き出る泡のようなこの気持ちの悪い感覚はなんなのだ?
それでも俺は夢想してしまうのだ。
絶望の淵から尚、彼女は俺に向けて手を伸ばすのだろう。
そうなったら俺は、俺なんて存在はもう彼女の奴隷で居ることしかできない。
それはなんて……
ああそれはなんて……
「……どうした穀雨ちゃん?」
「おにいちゃんがすごく幸せそうな顔してたからなんでだろうなぁっておもったの。」
おや、感情が顔に出ていたのだろうか?
感情や意見などという物はこの現代社会に於いて出せば出すだけ、言えば言うだけ損をする。
何故ならみんな出したい物なのだから。
言う必要など出す必要など無いのだ。
普段は他人の望む感情を演じて、何か突き動かされる物が有るなら行動で勝ち取ればそれで良い。
積み重ねられる言葉はそれを手に入れる為の道具にしか過ぎない。
「穀雨ちゃんと居られて幸せなのさ。」
「おにいちゃんと居るとわたしもたのしいよ!」
ああ、まるで夢のような言葉ばかりかけてくれる。
コクウの言葉通り彼女が幻なのではないかと感じる。
「……ふふ、そうだな。フォーチュンピエロって知っているか?」
「知らなーい。」
「そうか……、この町に住んでいるのにフォーチュンピエロを食べたこともないのか……。」
孤児院の職員共、全員ぶっ殺すぞ?
この世の舌を通して味わう悦楽の全てはあそこにあるのだ。
子供にこの世界のすばらしさを教えずして何が大人だろうか?
と、ここまで考えてから今は殺人禁止だったのを思い出した。
いかんいかん、俺もハーメルンの笛吹きに割と毒されてしまっている。
とりあえずこの変態鬼畜ロリコン紳士はいたいけな幼女を某ハンバーガーレストランチェーンに連れ込んだのである。
「おにいちゃんがすごく幸せそうな顔してたからなんでだろうなぁっておもったの。」
おや、感情が顔に出ていたのだろうか?
感情や意見などという物はこの現代社会に於いて出せば出すだけ、言えば言うだけ損をする。
何故ならみんな出したい物なのだから。
言う必要など出す必要など無いのだ。
普段は他人の望む感情を演じて、何か突き動かされる物が有るなら行動で勝ち取ればそれで良い。
積み重ねられる言葉はそれを手に入れる為の道具にしか過ぎない。
「穀雨ちゃんと居られて幸せなのさ。」
「おにいちゃんと居るとわたしもたのしいよ!」
ああ、まるで夢のような言葉ばかりかけてくれる。
コクウの言葉通り彼女が幻なのではないかと感じる。
「……ふふ、そうだな。フォーチュンピエロって知っているか?」
「知らなーい。」
「そうか……、この町に住んでいるのにフォーチュンピエロを食べたこともないのか……。」
孤児院の職員共、全員ぶっ殺すぞ?
この世の舌を通して味わう悦楽の全てはあそこにあるのだ。
子供にこの世界のすばらしさを教えずして何が大人だろうか?
と、ここまで考えてから今は殺人禁止だったのを思い出した。
いかんいかん、俺もハーメルンの笛吹きに割と毒されてしまっている。
とりあえずこの変態鬼畜ロリコン紳士はいたいけな幼女を某ハンバーガーレストランチェーンに連れ込んだのである。
【上田明也の協奏曲12~回る世界は死神を呼ぶ~ fin】
飛び散る臓物。
巻き起こる血風。
ほかほかとたつ湯気が風に吹かれて消える。
そこには泣くような笑うような顔で犠牲者を屠る悪魔が居た。
「私はやりたくない。やりたくないけどこれが一番効率の良い方法で。
効率の良い方法を常に選択するのは当然の行いであって。
でも私はこんなこと自分じゃ出来ないはずなのに今やってしまっていて。
そもそもこんなの私の契約主の考えることであって………。」
自分で自分が信じられない。
誰に止められても無駄なのだろう。
「認めたくないけれど私は私は……。」
西欧最古の都市伝説。
その末路がこれならそれはあまりにも滑稽という物だ。
ハーメルンの笛吹きは薄れ行く自我の中で確かに笑った。
【上田明也の協奏曲 続く】
巻き起こる血風。
ほかほかとたつ湯気が風に吹かれて消える。
そこには泣くような笑うような顔で犠牲者を屠る悪魔が居た。
「私はやりたくない。やりたくないけどこれが一番効率の良い方法で。
効率の良い方法を常に選択するのは当然の行いであって。
でも私はこんなこと自分じゃ出来ないはずなのに今やってしまっていて。
そもそもこんなの私の契約主の考えることであって………。」
自分で自分が信じられない。
誰に止められても無駄なのだろう。
「認めたくないけれど私は私は……。」
西欧最古の都市伝説。
その末路がこれならそれはあまりにも滑稽という物だ。
ハーメルンの笛吹きは薄れ行く自我の中で確かに笑った。
【上田明也の協奏曲 続く】