「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-33

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【上田明也の協奏曲13~死神の笑う夜~】
メルが勝手に行動を起こすようになってから俺の都市伝説の能力は増強していた。
メルに裂いていた分の心の器が空き始めているのだろう。
「どうだ?美味しいだろう?」
「うん、すごく美味しいよ!」
店員さんが俺を刺すように見詰める。
そうだ、貴方の感は大当たり。
俺はいたいけな幼女を食事を餌にもにょもにょしちゃう変態だ。
だが、幼女に対してはちゃんと両性の合意の上で事に及ぶ紳士でもある。
其処の所勘違いしないで欲しい。
俺は店に入るととりあえずチャイニーズチキンバーガーとイタリアンチーズバーガーとレジェンドカレーを注文した。
ああ、それとドリンクの類か。
穀雨にはこの店を代表するハンバーガー、イタリアンチキンバーガーを食べさせてみた。
喜んでくれたが、彼女には少々量が多いらしい。
だが、レジェンドカレーにも興味を示しているので食べさせてみた。
あれ?これ間接キス?
うっわやべぇテンション上がってきた!
イヤッホオオオオオオオオオオオオウ!
…………死ねよペドフィリア。
しかし彼女の喜ぶ顔が見られたのは幸せだった。
店を出た後は後は穀雨と腹ごなしに色々な所を歩く。
俺ってばなんて幸せな人間なんだろう。

「なぁ穀雨ちゃん。」
「どうしたのお兄ちゃん?」
腹ごなしがてらに二人でとある通りを歩いていた。
日はすっかり傾いていて、俺達の歩く道を真っ赤に染め上げていた。
「お兄ちゃんの所に行く気はないか?」
このままスゥっと連れ去ってしまえば話は簡単なのだ。
「うーん……、でもね。私の所に来てくれる人が居るから私待つことにしてるの。」
「そうか……。」
彼女がついてくると言えば俺はすぐにでも彼女の手を引いてどこかに行くというのに。
組織の黒服の手から彼女を救ってやれるというのに。
彼女が望めば今すぐにそれが出来るというのに。
「もしその人達が悪い人だったらどうする?」
「知らない人を疑っちゃいけないんだよ!」
そうか、君はそう言うだろう。
でもね、世の中には君が思う以上の悪意が渦巻いているんだ。
「じゃあもしその人達が悪い人だったら……、お兄ちゃんが助けてあげよう。」
「良いよ別にー。」
「まあとりあえず何か面倒があったら助けてあげるよ。
 その代わり、偶にはお兄ちゃんと会ってくれよ?」
「お兄ちゃんとは会いたい!」
そういって抱きついてくる穀雨。
可愛いなぁ、畜生。
そう思って頭を撫でているといきなり彼女の身体は崩れ落ちた。
抱え上げると目は空ろになっている。
この状態はには心当たりがある。
……まさか?

「メルッ!」
自らの契約する都市伝説の名前を呼ぶ。
今は暴走している奴の仕業の可能性もある。
返事はない、もしかしたら違うのかもしれない。
急に動かれると危ないのでハーメルンの笛吹きの能力で穀雨の身体の自由を奪っておくことにした。
支配率は40%といったところか?
あまり状態は良くない。
………本体を叩かねばならないか。
「居場所は……其処だな!叩き切れ、付喪神!」
メルが今は家に居ることを信じて、気配の方向にナイフを投げつける。
そうするとまるで魔法のようにナイフはぐねぐねと動きながらそこにささる。
ある程度付喪神の能力は引き出せるようになってきたらしい。
これでこいつもデッドウェイトにならなくて済みそうだ。
「ウッ!……マスター?」
ああ。
ああ!
あろうことかというか、やはりというか、俺のナイフが貫いたのは間違いなくハーメルンの笛吹き。
「やっぱりお前か!どういうことだ?」
正直、信じたくない。
「あれ?私は今まで……?ていうか其処の女の子誰ですか?」
記憶の乱れ?
「え、あいやそのえっと……、うんとさぁ?」
とりあえず今の彼女は俺の知る彼女だ。
「橙さんに手を出さないと思ったらそういう裏があったんですか?」
「待ってくれ、違う、違うんだそれは……。」
言いかけて気付く。
待て、今のこいつは本当にメルか?
感じる気配がまったく別物だ。
一瞬で気配が変わってしまった。
こんなクルクル気配が変わるなんて明らかにおかしい。
「お前、メルじゃない……だろ。」
「いいえ、“私”は何時だって“私”。
 可愛くて優しい彼女も可愛くて強い彼女も私。」
こいつ、何を言っているんだ……?

「私は貴方のその自分勝手振りが許せない。
 いつもいつも私は貴方にしいたげられて……。」
――――――まさか、こいつ俺に攻撃を加えるつもりか!?
一瞬反応が遅れる。
まずいな、このままじゃさっき投げたナイフでざっくり刺される。
俺は只の人間だからその程度で簡単に死ねるぞ。
思わず目をつぶる。
ザン!
一刀両断。
だがそれをされたのは俺ではない。
目の前でハーメルンの笛吹きが真っ二つになっている。
メルを真っ二つにしたのは赤いバイクに乗った武人だった。
まあ一体倒したところでメルは死なないし大丈夫だろう。
「ありがとう、……そして誰だ?」
その手に持つ獲物は方天画戟。
跨るのは血のように赤い鉄の馬。
本来聞くまでもないのだ。
「ああ、名乗りが遅れた。」
コホン、と咳払いをしてその男は名乗りを上げる。
「我が名は呂奉先!この町に数多の武人が居ると聞いて参った!
 お主が本田忠勝が扱ったというかの名槍『蜻蛉切』の現在の主だな?」
重く深く響く声。
感だがこいつには嘘という物が通じない。
さらに背中を見せて逃げようとすれば確実にやられる……。
その男の礼を失わない堂々とした態度と全身に漲る殺気に基づいて俺はそう判断した。

「ああ、その通りだ。」
はっきりと言い放つ。
「ふむ、ならば一戦所望いたす。」
「了解した。だが……。」
「其処の子供だろう?どこにでも連れて行け。」
「恩に着る。」
だがそこまでの必要は無い。
俺は懐からモバイルPCを取り出すと茜さんを呼び出した。
「妖術師か!?」
「先程の礼だ。俺の技を見せておく。」
「律儀な男だ。しかしそんなことで俺に勝てる気なのか?」
驚く呂布殿。
安心して欲しい、その通りだ。
茜さんに穀雨を預けて呂布に向き直る。
「――――――勝負だ、呂奉先。」
「――――――ああ。」
「アキナリ、これを使って!」
パソコンの中から面積体積その他諸々を無視してバイクが現れる。
これは俺がお気に入りで改造したYAMAHAのVMAX。
漆黒の色は夜の闇に解けて牙を剥く一匹の蛇のようであった。
「それじゃあ正々堂々と騎馬戦と行こう。」
「くくく、面白い。其処まで俺の流儀に則るか!この学校町には成る程、中々面白い奴が多い!」
高笑する最強の武人。

ブォォオオオオオン!
ブォオオオオオオオオン!
走り出したのは同時。
しかし距離がある内に仕掛けたのは俺だった。
空気を破裂させる音と同時に鋼鉄の弾丸が呂布に降り注ぐ。
MP7、言わずとしれたH&K社の名作PDWだ。
PDWとはなにかって?
形状や用途は短機関銃と類似しており、同様の使用も可能であるが、短機関銃が拳銃用の弾丸を使用するのに対し、
PDWは貫通力を重視したそれ専用の弾丸を用いる為、ボディアーマーで防護された対象に対する後者の攻撃力は前者のそれを大きく上回る。
それ故、短機関銃とアサルトライフルの中間に位置する武器と捉える事が出来る。
相手は鎧を着けている以上、それは当然の選択だった。
金属と金属の激しくぶつかる音がする。
「嘘だろ……?」
俺は自分の目を疑った。
あの武人、銃弾を戟で打ち落としてやがる!
「ほう、現代の弓とはずいぶん変わった物になっているようだな!」
良く鍛えられた筋肉を見せつけるように武人は弓を取り出す。
疾と射られた矢は寸分違うことなく俺の額を狙う。
ああ、狙いはするが当たらない。
バキィン!
俺の目の前で蜻蛉切によって矢が真っ二つに裂けた。
「なんだそれは!」
今度は呂布が驚く番だった。
宙を舞う大量のナイフ達。
「これが俺の都市伝説、付喪神だ。刃物に取り憑いて自由に扱えるんだよ……!」
「ぬぬぬ……、やはり妖術師であったか!武人でもない癖に蜻蛉切を扱うとは!」
「この勝負にこれ以上言葉は不要!文句があるならその戟で物を言え!」
その瞬間、呂布の顔がお気に入りの玩具を見つけた子供のように輝く。
「期待以上だ、期待以上だぞ!そういう台詞を吐くとは!」
彼の真っ赤な鉄の馬がジリジリと距離を詰め始めてきた。

俺は一丁の散弾銃を懐から取り出した。
「点攻撃は駄目らしい、ならば次は面だ。面で倒す!」
俺が取り出したのはAA-12。
夢の中で使ったショットガンだ。
こいつはフルオート射撃可能という恐るべきショットガンである。
「ふん、直接武器を振るうのは得手ではないな?」
バイクの速度は既に200km/hを越えている。
ショットガンの弾速の関係上、あまり遠い所で撃つと外す可能性があった。
彼の戟で切り込まれず、なおかつショットガンが効果を発揮するギリギリの距離。
それが俺に必要な距離だった。
お互い牽制程度に射撃を交わしながら夜の市街を疾走する。
氷を砕いて歩道を走り、雪を踏みしめ橋を渡る。
恐るべき事に、呂布はこの俺のドライビングテクニックについてきていた。
いや、俺が付いてこられていると言うべきなのか?
とにかくバイクの運転は俺も元々得意なのだ。
「ええぃ、ちょこまかと!」
赤いバイクが轟音を上げて近づいてくる。
俺はその時、このバイクに隠された切り札を使うときだと確信した。

「――――――Vブーストシステム起動。」
真っ赤なボタンを押す、ああ、今奴の一撃で後ろのアスファルトが砕けた。
呂布の接近にあわせて俺のVMAXは轟音と煙を噴き上げて一気に速度を上げた。
「――――――消えた!?」
「ここだぜ!」
俺は呂布の前をとっていた。
タイヤごとその綺麗な顔面を吹き飛ばしてやる。
俺は弾のある限りに散弾銃を撃った。
フルオートのAA-12はありったけの弾を古代中国最強の武人に叩き込む。

しかし、次に驚くのは俺の方だった。
「ハイヤアアアアッ!」
俺の銃撃に合わせて男とその愛馬は高く空を舞っていたのだ。
防御は付喪神に任せるしかないようだ。
その間に俺はバイクのハンドルにある青いボタンを押す。
するとバイクは真横に油を散布し始めた。
チキチキマシン猛レースもかくやの妨害っぷりである。
呂布は俺の読み通り、俺の真横に降りてきて戟を振り下ろす。
俺はまっすぐ振り下ろされてきた戟に対抗して村正を振るった。
重い。
金属と金属の触れ合う音が耳を砕くかのように響く。
蜻蛉切ごと頭蓋もたたき割られるのではないか?という一撃が俺を襲う。
しかし、ここで先程の妨害が功を奏した。
あれのせいで車体のバランスがわずかに崩れたのだ。
そのおかげでなんとか逃げることができ、ギリギリ頭蓋は割られずに済む。

彼の一撃を受けた腕はビリビリとしびれている。
サッと後ろを振り返ると武人の額からは血が流れている。
どうやら先程の銃弾が当たったようだが……。
「おのれぃ!くだらん小細工をしおって!」
あまり効いてはいないようだ。
向こうがわずかな出血。
こちらが片腕の使用制限。
戦闘中ではあまりに割に合わない。

左腕でバイクを駈りながら呂布を追いかける。
後ろを取れたのだし、折角だから使ってみるか。
俺はバイクのハンドルに付いている緑のボタンを押した。
バイクの風防が二つに割れて形を変える。
中からは伸びてきたのはまるで一角獣の角のようなガトリングガンだった。
「喰らいに喰らえ、呂奉先!
 現代科学の粋にして、このVMAXの最大最強最重量兵装!
 これがゼネラルエレクトリック社のM134、通称“ミニガン”だ!
 どのような銃かというとゼネラル・エレクトリック社がヘリコプターや固定翼機の搭載機銃として開発したM61を、
 1960年代に小型簡略軽量化したガトリング銃。元となったM61の小型版であることから『ミニガン』と呼ばれる。
 M134はアメリカ陸軍での呼称で、空軍ではGAU-2B/A、海軍ではGAU-17/Aと呼ばれ、
 主にヘリコプターの搭載機銃として使用されている。
 このバイクに搭載させている物は独自の電源とバイクの走行により充分に充電されたバッテリーで駆動している。
 さっきのVブーストシステムを使わないと持続時間が無いのが弱点だが……。
 今はその問題も無い!
 さっさと落ちろ!!
 ………ちなみにプレデターの映画から人気に火が付いたぞ!」
そうやってしゃべり続けている間にも放たれ続ける鋼鉄の弾丸。
しかし恐れるべきなのは毎分五千発の鉄の雨を当然の如く凌ぎ続ける呂布の方だろう。

「ぬぅん!」
気合いと共にガトリングガンの弾丸を弾き続ける呂布。
彼は悩んでいるだろう。
下手に動けばバイクを破壊される。
かといって待っていればジリ貧になるだろう。
ならば彼にやるべき事がたったひとつだった。
今思えば確かにそうだったのだが……
「馬鹿な!」
とにかく、俺は絶叫した。

恐るべきは都市伝説の特性だ。
人々の畏怖や尊敬を集めた都市伝説はそれらを力に変えてより強くなる。
奴はバイクのみを防御して捨て身の覚悟で突撃してきたのだ。
呂布の身体は上田が鋼の弾丸を幾ら叩き込んでも微動だにしなかった。
「これで終わりか妖術師!」
飢えた獣の如く爛々と目を輝かせて弾丸の嵐の中を直進する呂布。
ああ、人間ではない。
「はあ゛ああああああああああああああああ!!!」
まずい、近づいてきた。
「あの中を近づいて来るだなんて巫山戯るなよ……。」
思わず呟く俺。
まずい、あれに対抗できる武器は今の手持ちにない。
茜さんに“アレ”を送ってもらうか?
いや、今はそんな時間がない。
あれに唯一対抗できるのは蜻蛉切だけか……。

仕方がない。

――――――――――――征くか

俺は覚悟を決めることにした。
「それだ、それだそれだそれだそれだ!
 それだぞ!俺はそれを待っていた!」
猛る呂布、その気迫は大地をビリビリと振るわせている。
ガトリングガンの弾も既に尽き果てた。
二台のバイクのエンジン音だけが虚しく夜の町に響く。
孤独な加速度は月下に上昇していき、いやが上にも戦いを前にした人々の心を高める。
しかし、そんな状況でも俺の心は静かに落ち着いていた。
呼吸を整えろ。
極限まで力を抜け。
俺が切る必要は無い。
身体は貸そう、意志も貸そう、魂も貸してやろう。
俺はたった一つ、この刀に命じる。
目の前の敵を切断せよ、と。
多くは必要としない。
この妖刀に魅入られてそれを振るい続けた人間の記憶に任せれば良い。

真っ黒なバイクと真っ赤なバイクがそれぞれ併走する。
ジワリジワリと二つのバイクの間の距離は時が進むと共に近づいていた。
まだだ、この長さの蜻蛉切では足りない。
一撃、あの男を叩ききるのに最適な長さを想起する。
いよいよ音が聞こえなくなってきた。



―――――――――――カチィン



金属音は一瞬しか鳴らなかった、俺には見えなかったが恐らく互いの武器は触れなかったのだろう。
これは鍔鳴りとか言う奴だ。
「………存外、良い腕だった。勝負をあずけよう!」
そう言って離れていく呂布。
どうやら諦めてくれたらしい。
バイクの速度を落として路肩に駐車する。
なぜだか知らないが人は居ない。
人払いの能力でもあったのだろうか?
まあそれならそれで都合が良い。
「茜さん。」
バイクに積み込んだパソコンから赤い部屋を起動させる。
「アキナリさん、勝ったんですか!」
嬉しそうに微笑む茜さん。
ああ、我がチームの癒し要員だよ君は。
「バイクと俺を回収してくれ。
 ああ、あと預けていた傷薬を準備してくれ。」
目の前の光景がぐらつく感覚。
急がなくてはいけない。

「――――――わりぃ、後頼んだ。」
「え?」
赤い部屋に入った俺は、胸から真っ赤な血を流してそのまま床に倒れ込んだ。
【上田明也の協奏曲13~死神の笑う夜~ fin】

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