「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-34

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【上田明也の協奏曲14~夜の帳と極楽鳥~】

夢を見ていた。
子供の頃の夢。
何一つ不自由のない暮らし。
でも欲しい物は簡単には手に入らなかった。
必死に努力してそれでなんとかギリギリ手に入った。
欲しい物はどんなことをしてでも手に入れる、ただしそのリターンに見合う方法で。
父と弟が笑っている。
部屋の奥では、ああ、母じゃないか。
嫌いな母親だったが心からの感謝はしていた。
飼っていた秋田犬が嬉しそうに駆け寄ってくる。
俺に撫でられて嬉しそうにしている顔がグニャリと歪んだ。
驚いて飛び退くと、どろどろと犬は溶け出してしまった。
振り返ると家族は居ない。
そこにはただ、真っ赤な道が続いている。
道のど真ん中に穀雨が待っていた。
悲しそうな顔をしている。
伸ばしたその手を掴もうとすると……。
ああ、地面が崩れていく。
訳のわからない夢だった。

ガバッ、とベッドから身体を起こす。
喀血、肺がやられているらしい。
呂布にやられた筈の胸元を見ると大きな疵痕が出来ていた。
……何故まだ生きている。
「アキナリさん、まだ動かないで下さい。」
普段の朗らかな口調から一転して真剣さを感じる雰囲気、俺の寝ているベッドの傍には茜さんが座っていた。
「ああ、……すまない。」
そう言って素直に寝転ぶ。
「サンジェルマンさんが来て手術して下さいました。
 貴方が倒れてから……もう三日経っています。」
「その間寝続けていたのか……。
 あいつ、ハーメルンの笛吹きについて何か言ってなかったか?」
「えっと……、『貴方が動けない以上、私が始末をつける』と言ってました。」
「くそ……!」
仕方がないことだ。
このままあいつに野放図に人を殺させればどうなるか解ったものではない。
「あともう一つ……、アキナリさんの傷はハーメルンの笛吹きが大量に人を殺して力をつけていたからこそふさがったそうです。」
「皮肉だな……。」
「ええ。」
奴を止めあぐねていたから……、生きていたとでも言うのか?
「茜さん、世話かけたな。」
「いえ、好きでやってるんです。」
「弱い俺に失望したか?」
「いえ、貴方ならどんな貴方でも付いていきましょう。」
「ありがとう、すこし力が沸いてきた。」
自分の身体に巻き付いている点滴の管が煩わしい。
今すぐ彼女を抱き寄せたいというのに。

「今、俺がやるべき事は……。
 ハーメルンの笛吹きを止めて、穀雨ちゃんを誘拐して、組織のろくでもねー奴らぶっ殺して、
 ……それからあの黒服に明日をボコボコにした件を言い訳する。
 そこで気になるんだがハーメルンの笛吹きはまだ生きているか?」
「サンジェルマンが言うには彼女を殺し尽くすには四日はかかるそうです。」
「オッケー、一日は余裕があるな。」
「穀雨ちゃんはどうだと言っていた?」
「明後日、組織の黒服が迎えに来るそうです。」
「時間がないな……。」
「三日も眠っていれば当たり前ですよ。
 穀雨ちゃんを迎えに来るのにはそれ程人数が居ないみたいです。
 まあ当たり前ですよね、モルモット一匹に手間かける研究者は居ない。」
「……人間をモルモット扱いする奴らか。」
自分の身体が小刻みに震えているのが解る。
自分は善とか悪という物が解らない。
善悪を語れる立派な人間じゃない。
目的の為には何でもする、人を殺しても心は痛まない。
そう、他人の犠牲など当たり前だ。
しかしそんな俺――異常者でも“やっちゃいけないこと”が世の中にあることは知っている。
自分の身体の中の何かがはっきりと告げている。
それは許してはならないと。
俺みたいな人間がそんなことを言うのも冗談みたいだが。

「茜さん、俺な、子供の時に親父に言われたんだよ。」
「なんですか?」
「リスクとリターンが釣り合う限りにおいては目的の為に何をやっても良い。
 ただし、それを自分の心が理由もなく許せないと感じたときは絶対にやるな。
 そして目の前で許せない行為が行われていたら徹底的に叩きつぶせ。
 お前にはその能力が有る。」
「無茶苦茶な人ですね。」
「ああ、帝王学と称して様々なことをやらされたよ。
 勉学と弁舌以外は全部才能無かったけど。」
「アキナリさん、意外と不器用なんですね。」
「………そうだよ。」
自分は一人じゃなんにも出来ない人間なのだ。
改めてその事実に気付かされる。
「アキナリさん、貴方は本当は良い人なんじゃないですか?」
「そんなこと今となっては無意味な問だよ。」
「良い人だから、わずかでもまともな人間を殺すことに呵責を覚えるんじゃないですか?
 良い人だから、子供を好きになれたんじゃないですか?
 良い人だから、悪人になってでもハーメルンの笛吹きを助けようとしたんじゃないですか?
 良い人だから、……この世の汚さに絶望できたんじゃないですか?」
「ふむ……。」
こいつは参った。
思ったより物が解るじゃないか茜さん。
でもそれだけじゃないんだよ。
「まともな人間は俺の殺しの対象より生産的で、生かしておけば何か役に立つかもしれないから。
 子供が好きなのは弱者を自分の思うとおりに染め上げるのが快感だから。
 ハーメルンの笛吹きと契約したのは俺の欲求を満たす道具になると判断したから。
 俺はこの世が幾ら汚くても、逆に俺みたいな人間が存在して良いと喜んでいる。
 茜さんは俺を高く評価しすぎだ。」


俺の瞳を綺麗な赤い瞳で覗き込む茜さん。
不思議と安心できる。
「今は……。」
「今は?」
俺の寝ているベッドに腰掛ける茜さん。
「今はそんなに強がらなくても良いんです、はい。」
「俺の今言ったことは決して嘘ではない。」
「ハズレですか?」
「ああ、ハズレもハズレ。大ハズレだね。」
「ふふふ……。」
可笑しそうに笑う茜さん。
「膝枕してくれよ。」
少し疲れた。
喋りすぎたのかもしれない。
「人は俺を殺人鬼だの悪人だの言うがねえ……。」
「どうしたんです?」
「俺達が今こうして幸せに過ごしている間にも世界では死ななくて良い命が死んでいるじゃないか。
 それらを見過ごしている時点で手前らも充分殺人鬼だよ。
 必死でもがいて手を伸ばす人間を平気で見捨てて殺せるなんてお前ら人間じゃないよ。
 俺が殺してきた人間の命のなんて軽かったことか。
 まるで死を求めるように俺の元に群がってきたことか。
 別に良いじゃないか、全く同じ命一つ、砂の向こうで禿鷹の餌になろうと、殺人鬼の刃の錆になろうと。
 俺もお前もどうせ生きてても死んでても変わらないよ。」
「……アキナリさんが居ないとわわわ、私は……困ります。」
「ありがとう、誰もがそう言ってくれる人を持っていたんだろうが……。
 俺は俺だ。茜さんの言葉はどこまでも特別だよ。」
お腹にぺたんと顔を貼り付けてみる。
暖かい香りがする。

「知っているか?茜さんってひきこもりのNEETのくせにお日様の香りがするんだぜ?」
「私に私の香りはわかりませんよ。
 でもね、明也さん。あなたも香水の香りの奥から石鹸の香りがするんですよ?
 血の香りじゃないんですね。」
「死んだものは何度でも洗い流せるもの。」
「そんなもんですか?」
「死ねばそんなもんなんだよ。」
「死なないですよね?」
「だって俺にはやることがあるもん。」
「もし、やることが終わったらアキナリさんは死ぬんですか?」
「まあ無理矢理生かしておいては貰えないよね。」
多分、今まで生きてきたのは何かやることがあってそれで生かされてきたんだろうと思うときがある。
そうでもないとやってられない。
「私、この三日間ネトゲーやってないんですよ。」
「へぇ、そいつぁ驚きだ。」
えらいな、と言いつつ頭を撫でようとしたが身体が思うように動かない。
血が足りない。
「まあほとんど廃人だから三日ぐらい放っておいても誰にも抜かれませんよ。」
「大したもんだ。」
ふと、俺は思い出した。
「茜さん、寂しいから一緒に寝てくれ。」
「はい?」
「俺は小学生の間ずっとぬいぐるみが無いと眠れなかったんだ。」
「……寂しがり。」
「寂しがりは人の美徳だ。だから他者と繋がっていられる。」
茜さんはごそごそとベッドに入ってきてくれた。
この際点滴も少し抜いておこう、死にはしないはずだ。

「俺は悪人だからさ。」
背中に茜さんのぬくもりを感じながら語る。
「絶対に泣かないように決めているんだ。」
「なんですかそれ?」
「だって泣くのは正義の味方の役目だろう?
 人の悲しみに涙してあげられるのは善人だけだろう?
 悪人になったなら笑うべきなのさ。
 泣きたくないから誰かを傷つけるんだもの。
 傲岸不遜に笑って笑って、幸せに生き続けなければ傷つけた人間にも申し訳が立たない。
 あんたの幸福うばっといてこの様でした。
 なんて格好が付かない。」
「良いじゃないですか、格好が悪くたって。」
「悪人はね、常にクールでスタイリッシュじゃないと駄目なんだ。
 誰もが思いつかないような方法で悪事を働いて高笑いと共に去っていく。
 そういうのが有るべき姿なんだ。
 だって悪人が泥臭くたって誰も心惹かれないだろう?
 見た人間が思わず見惚れるような凄惨さと凄絶さと優雅さを必要とするんだよ。」
「真面目すぎ。」
怒られてしまった。
真面目すぎか……。
普段の態度は軽くなるように真剣に務めているんだが……。
これは自分の性分なのだから許して欲しい。
「そんなに真面目にやっていたら何時か限界が来ますよ?」
「そうだな、人間は幾らでも大きく成長できるが所詮は有限の存在だ。
 絶対に、たとえ那由他の先でもそこに限界は来るからな。」
世界が羨む敵役の自分でも限界がある。
最近すっかり忘れていた。

「頑張って下さいよ。」
「そうだな、俺の怪我は何時になったら動ける程度に治るんだ?」
「貴方の身体のことくらい貴方に聞きなさい。」
やれやれだ。
「まったくだな、じゃあ今すぐ動くとしよう。」
「いや、それは!!」
「あと一日しか余裕がないんだろう?」
「そうですけどぉ……。」
「助けたいものは全部助ける!壊したいものは全部壊す!」
止めるのも不可能だと判断したらしい。
茜さんはため息を吐くと俺をベッドから助け起こす。
「それじゃあ行ってくるわ。」
返事も聞かずに俺は赤い部屋を飛び出した。


さて、一方その頃。


神社の境内で、一人の男が走っている。
全身白のスーツに金髪碧眼の彼はそのぼろぼろの姿から解るように敗走していたのだ。
彼の名前はサンジェルマン伯爵。
古今無双の錬金術士だ。
とはいえ、それと彼が戦闘を得意とするかはまったく関係がない。
ていうか滅茶苦茶弱いのだ。
まあ確かに彼が本気を出せばとてつもないことが出来るのだろうが、それは未来にどんな影響を与えるか解らない。
だから彼は基本的に自分で動くということが出来なかった。
彼を追うのは真っ黒な影。
近くに居る人々などに乗り移り、成り代わりその人々を人質にしてサンジェルマンを追い詰めていた。
「「「にげないでよ……。」」」
子供達の声。
それらは全て黒い影の中から現れて周囲に残響する。
「くそ……、やはりやるしかないか。良いでしょう、私の宝物庫に納められたコレクションを見せてあげます。」
サンジェルマンは祈るように手を合わせる。

地面が揺れる。

「良いでしょう、私の都市伝説を使うときが来たようです。」
「「「遊んでくれるのおにいちゃん……?」」」
「遊びは終わりです。貴方は貴方が主と慕うものの所に帰りなさい!」
「「「じゃあ水遊びしましょう?」」」
「――――――え!?」
サンジェルマンが何かするよりも早く、地面は真っ二つになっていた。
そもそもハーメルンの笛吹き男とは一瞬にして130人の子供が消失した事件が元ネタだ。
子供達は死んだとも遠い土地に移民したとも言われているが……
今、ハーメルンの笛吹きが使った能力はその死亡説の中でも“土砂崩れ説”を応用したもの。
サンジェルマンはその圧倒的なまでに強力な都市伝説を使う前に大口を空けた地面の中に飲み込まれたのだ。
「っつぅ!水遊びじゃないじゃないか!」
崖に捕まりながら叫ぶサンジェルマン。
「「「違うよ、水遊びだよ!」」」
とにかくこの穴に飲み込まれれば危ない。
そう思ったサンジェルマンは今度こそ自らの都市伝説を呼び出そうとし始める。
彼の手に黄金の光が灯る。
「来たまえ、黄金……ゲホッ!ゴホゴホッ!」
「「「ほら、水遊びだよ!」」」
突如、水も何も無いところだというのにサンジェルマンの肺の中に水が満ちた。
「これは……溺死説の力か!?」
「「「みんなで一緒に遊びに行くんだよ、どこか遠くに遊びに行くんだよ?」」」
声はなおも続く。
何者でもない影の中から、まるで遊びに興じる子供のような声で。
「行くならば貴方達だけで行きなさい!それに他の人々を巻き込む権利はない。」
空を裂く音と共にサンジェルマンの手の中から黄金のロケットが飛び出す。
それに引き上げられてサンジェルマンは地表になんとか戻ってきた。

「仕方がない、今度こそ本気で決めましょう。
サンジェルマンが今度こそ都市伝説の発動の準備をする。
「「「もっと遊ばないの?」」」
「――――――え?」
それは例えるなら地球が一瞬で一週分の自転を終えてしまったかのような感覚。
大穴から登ってきたサンジェルマンが目にしたものはひたすらに巨大で巨大な岩石の固まりだった。
「ああ……。」
迫る。
迫る。
巨岩が迫る。
それはメリメリと濡れた木を無理矢理折るような音を上げながら
額にめり込んで彼を再び地の底にたたき落とす。
ゴォン!
その夜、学校町に一つ大きな山が出来た。
しかも神社の境内に。
【上田明也の協奏曲14~夜の帳と極楽鳥~fin】

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