「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-36

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【上田明也の探偵倶楽部10~後の始末~】
【この物語は只の結果で原因です】

穀雨を孤児院から誘拐して、探偵事務所に戻ると、事務所の中には誰もいなかった。
置き手紙が一つだけ残っている。
サンジェルマンからの手紙だ。
あの野郎、今まで何処に居たんだ?
メルを治療するからしばらく帰ってこないそうだ。
村正の傷は余程治りづらいのだろう。
さて、悲しいことに所長がボロボロで帰宅したというのに迎える者は誰もいない。
誰もいない。
そっちの方が落ち着く、と、……一瞬思ってしまった。
やはり自分は他人と一緒に居るのが苦手らしい。
「ただいまー、おかえりー。」
自分にお帰りを言いながら応接室のソファにどっかりと座り込む。
口裂け女にやられた腹の傷からは、未だに血が流れているようだ。
サンジェルマンから貰っていた薬を塗り込むと痛みが退いてきた。
血も笑えるほどにピタリと止まった。
「痛いなあ、すげえ痛い。」
涙がこぼれるほど痛い。
そうだ、さっさと茜さんから穀雨ちゃんを返して貰わないといけないな。
所長室に入ってパソコンを起動させる。
「茜さん、穀雨ちゃんはどうしている?」
「ぐっすり眠ってます。」
画面の奥には確かに穀雨が眠っていた。
少々人間を捨てた甲斐があったというものだ。

「今からそっちに送りましょうか?」
「いや、今誰かに襲撃を喰らうと守りきれる自信がない。」
茜さんがめざとくコートに滲む血の跡を見つける。
「……大分、無茶したみたいじゃないですか。死んだら泣きますよ。」
無茶はしたつもりはないが……、都市伝説の使いすぎだろう。
かなり反動が大きいみたいだ。
「俺の愛する人を誰も泣かせないと決めたから、無茶するんだよ。」
「まぁ、格好良いですね。」
おやおや、目が笑ってらっしゃらない。
「駄目か?」
「これっきりにして下さい。さっきの戦闘は明らかに余計でしょう?」
「そうだな、少し眠らせてくれ。」
「まったくもう………。」
穀雨のベッドを整えに行く茜さん。
いやはや、面倒ばかりをかけてしまうようだ。

パソコンの電源をオフにするとゆっくりと目をつむる。
あの神社でメルを貫いた時、自分の身体に入ってきた影。
あれは間違いなく悪魔だった。
だから今、俺の身体には悪魔が入り込んでいる筈だった。
それはハーメルンの笛吹きという都市伝説を飲み込もうとしたのだから当然とも言える。
先程、付喪神が意識を失っていない状態でもある程度自在に使えたのは、悪魔の力で出力を上げたからなのだろう。
ここで一つ疑問が生じる。
じゃあ、今は俺に悪魔を奪い取られてしまっているメルは一体何者なのだろう?
ハーメルンの笛吹きを構成しているのは笛を吹いて子供達を死に誘う悪魔や死神だった筈だ。
構成要素の大部分が今は契約者である俺の方に来ている。
あれでは彼女は……そう、クリームのないシュークリームのような物では無いか。
ハーメルンの笛吹きとラベルが貼られただけの何かだ。
強いて言うなら詐欺だ。
まあそれを言えば俺なんてわさびの入ったシュークリームのような物である。
人間というラベルの貼られただけの何かだ。
今時バラエティーの罰ゲームにも出てこない。
シュークリームなどと言っていると腹が減ってきた。
何か食べようとキッチンに向かった丁度その時、来客を告げるチャイムが鳴った。

「笛吹探偵事務所です。本日のご依頼は?」
応接室に向かい、事務所のドアを開けると恰幅の良い初老の男が立っていた。
こんなときに客が訪れるとは間が悪い。
その上、常連の客だ。
「笛吹君、そこまで畏まらなくても良いよ。
 君と僕との仲じゃないか。」
彼は所謂「都市伝説のことを知る一部権力者」という奴で、
都市伝説関係の事件の情報を手に入れると俺に解決を依頼するのだ。
彼から銃器を買っていることもある。
「そう言って頂けると信用信頼して頂けているようで嬉しい物です。
 ……それで、今日の依頼は?
 狼男の退治?吸血鬼の封印?それとも多すぎる口裂け女の間引き?」
「はははは、ちょっと違うんだよ。
 ……っとその前にお茶にでもしないか?
 美味しいケーキを買ってきたのだよ。」
「そりゃあ素晴らしい。学校町スイーツ系男子会会長様推薦となればさぞかし良い味なんでしょうね。」
「勿論、食器を出して貰えるかな?」
「ちょっと待ってて下さい。」
男は嬉しそうにケーキを取り出し始める。
お得意先との付き合いも大事な仕事である、と俺は自分に言い聞かせながら食器棚に向かった。

「えーっと……。」
こういう時は銀食器でも出すのが相応しいだろう。
そう思って俺は棚の奥にあった銀食器に手を触れた。
バチィン!
高圧電流でも流されたような音が辺りに響く。
触れた右手が非常に熱い。
「どうしたんだい笛吹君?」
「いえ、何でもありません。」
まあ悪魔だから仕方がないか。
どうやら銀などにはさわれないらしい。
普通に陶器の皿を使うことにした。
「ほぅ……。洋菓子に和風の皿とはなかなか面白い趣向だね。」
「ははは、こういうのも偶には良いかなあと……。」
「おや、火傷でもしたのかい。その右手。」
今ので火傷になっていたらしい。
「いや、昼間に料理に失敗しましてね。」
「そうか、それだけなら良いんだ。それじゃあこのケーキを食べながら仕事の話と行こうか。」
「今回も美味しい話であることを期待していますよ?」
「はっはっは、任せておいてくれ。」
男は愉快そうに笑うとケーキを皿の上に盛り始めた。
その間に、俺は普段使わないフォションの茶葉を使って紅茶を淹れることにした。

それから数時間後。
「……おはようございます。」
「……お兄ちゃんどうしてここにいるの?」
穀雨ちゃんがやっとお目覚めになった。
「それには深い深い訳があるんだよ。」
「あと、ここはどこ?」
ああ、やめてくれ、そんな真っ直ぐな瞳で見つめないでくれ。
「えーっとですね。お兄ちゃんの秘密基地なのですよ。」
「なんでわたしはお兄ちゃんの秘密基地に居るの?」
「穀雨ちゃんの居た所が悪い人に襲われてしまってね……。
 すんでの所でお兄ちゃんが止めたんだけど穀雨ちゃんが居る限りそいつらが孤児院を狙い続けるみたいだったんだよ。
 で、お兄ちゃんが一旦穀雨ちゃんを預かると言うことに……。」
「じゃあ私の家族になる予定だった人達はどうなったの?」
「……その人達が悪い人に殺されちゃってね。
 お兄ちゃんが来た時に……。」
さっくりと殺しました、ごめんなさい。
「センセー達は?」
「センセー達もそれと殆ど一緒に……。」
大人の目撃者は都合悪かったのでつい……、ごめんなさい。
「……解った。」
どうやら納得してくれた様子だ。
少なくとも嘘はついていないので許して欲しい。
君を攫った事実ばかりは墓場まで持っていくつもりなんだ。
「お兄ちゃんと一緒に居てくれるかい?」
「うん、お兄ちゃんが好きだから良いよ!」
……少しは悪い事した甲斐があったかな。

「とりあえずお腹減ってないかな穀雨ちゃん?」
「うーん、そういえばお腹空いた。」
昼からずっと食べていないのでお腹が減っている筈である。
恐らく食べてくれるだろうと思い、俺は夕飯を勧めた。
「解った、それじゃあ肉まんでも食べないかい?」
「わーい!肉まん大好き!」
良かった、やはり肉まんは好きらしい。
茜さんにお願いして準備して貰うことにした。
「茜さーん、肉まんお願い!」
「解ったー!」
キッチンから茜さんの声が聞こえる。
ハーメルンの笛吹きを取り込んだせいか、俺の容量には余裕が生じていた。
その結果、赤い部屋に増改築を行うことが出来たのである。
今では赤い部屋もプールや車庫まで完備するちょっとした別荘レベルに広がっていた。
「軽くミスター・プレジデントだよな……。」
ポソリと呟く。
「お兄ちゃん、みすたーぷれじでんとって何?」
「ああ、お兄ちゃんの好きな漫画に出てくる超能力の名前だよ。
 今度貸してあげよう。」
「いらなーい。」
「ジョジョを貸そうとして断られたのは生まれて二度目だよ……。」
「アキナリ、穀雨ちゃん、肉まんできたよー!」
「わーい!」
失意のどん底に居る俺を無視して穀雨ちゃんは肉まんに走っていった。
やれやれ、これだから世の中はやっていられない。

食事中。
肉まんを頬張って満足そうにしている穀雨ちゃんに俺は聞いた。
「穀雨ちゃん、聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「なぁに?」
「あら、穀雨ちゃんもの食べながら口開いちゃ駄目だぞ。」
「ごめんなさーい。」
「よし、ちゃんとごっくんしてから返事するんだぞ。」
「はーい!」
穀雨ちゃんはずいぶん茜さんに懐いているな。
ちょっとばかり嫉妬してしまう。
「二人とも仲良いなあ……。」
「アキナリさんったら妬いてるんですか?」
「私ね、茜お姉ちゃんに餃子食べさせて貰ったのー!」
おのれ、食い物で釣ったか。
「胃袋キャラでキャラが立つのか……?」
「良いじゃないですか、唯ちゃんが普段出てこないことですし。」
「ねえお姉ちゃん、胃袋キャラってなにー?美味しいの?」
「食べてるだけでキャラが立つ美味しい役所ですよー。」
「いや、美味しいの意味違うから!」
「じゃあ私胃袋キャラ食べるー!」
「突っ込み役が足りねえ!」
話そうと思ってたことが全然話せない。
まあ楽しく会話するのも悪くないか。
思えばこういう会話のある素敵な食卓も最近は中々無かった。

「さて、それじゃあさっきの話なんだけどさ。」
気を取り直して話題を戻す。
「うん。」
「穀雨ちゃん、アメリカに行ってみる気はないかい?」
食卓がいきなり静かになる。
まあ当然か。
未練はなかったようだが生まれ育った環境からいきなり離れて、しかも日本からも一旦離れようと言われているのだ。
「アキナリさん、それってどういうことですか?」
茜さんが説明を求めてきた。
俺もさっき聞かされたばかりの話なのだ。
「ああ、さっき探偵事務所のお得意様から頼まれたんだよ。
 アメリカにしばらくの間渡って、そっちで調査して欲しい事件があるってさ。」
「じゃあその間ここはどうするんですか?」
「有能な探偵代理を知っている。そいつに探偵業務は任せることにしている。
 助手も貸し出すし、探偵業務のノウハウは簡単なマニュアルにして渡す予定だ。」
「向こうに滞在する目処はついているんですか?」
「ああ、俺の友人に明日晶ってプロのライダーが居る。
 そいつがアメリカに今、住んでいるんだ。もうokは貰っている。」
「……今更アキナリさんが有能な人間だって設定思い出しました。」
「俺は何時だって有能だぜ。」
だから、だからこそ問題は穀雨ちゃんにある。
精神的に不安定だと思われる彼女がついてきてくれるかどうかが重要なのだ。
そこ以外はどこで仕事しようと俺は何でも出来る。

「……ねぇお兄ちゃん。」
話を一気に進めすぎてしまったのだろうか?
彼女は何から俺に聞けば良いのか解らないに違いない。
「どうしたんだい?穀雨ちゃん。」
「アメリカってどこ?バスで行けるの?」
ああ、そこからだったか。
「アメリカっていうのはこの世界地図で……、ほらここに有る。
 で、今お兄ちゃん達が居る所はここ、日本ね。」
「へー……。車でどれくらいかかるの?」
「車じゃなくて飛行機かな?」
「アメリカ行くときに飛行機に乗れるの!?」
目を輝かせている。
やはり子供というのは純粋で愛らしい物だ。
「ああ、乗れるよ。飛行機で十二時間位かかるかな?」
「十二時間って幾つ数えたら終わるの?」
「60の2乗×12だから、43200数えたら終わりだね。」
「私、100までしか数えられないよ。」
「じゃあ100を432回数えたらお終いだ。」
「432回も数えられないよー!」
「じゃあお兄ちゃんが数えておいてあげよう。」
「じゃあ行く!」
「よーし、それじゃあ5カ国語を自在に操るお兄ちゃんが向こうに着くまでに簡単な英語も教えてあげよう。」
「英語?」
「そうだよ、アメリカの人と話すんだから英語じゃないと。」
「穀雨面倒臭いの嫌だー。」
「なぁに、簡単だよ。聞いてりゃ覚える。じゃあ食べ終わったし食器片付けようか。」
俺は穀雨の頭を優しく撫でると彼女と茜さんの分の食器を台所に運んで洗い始めた。

「さて、そろそろ行かないと。」
「あれ、もう行くんですか?」
「穀雨ちゃんに毒だろう。」
「そうですね……。」
赤い部屋はそもそも都市伝説によって作られた異空間だ。
契約者である俺は幾ら居ても問題無いしむしろ怪我の直りとかが速くなるので心地よいのだが、
都市伝説とはあまり関係のない穀雨ちゃんが何時までも居て良い場所ではないのだ。
「ここ、お兄ちゃんの秘密基地じゃないの?」
「お兄ちゃんの秘密基地だから穀雨ちゃんをあまり入れて居るわけにはいかないんだよ。」
「えー!ずるいー!」
口をとがらせて怒る穀雨ちゃん。
唇奪いてえええええ!!!のだが紳士的に己を抑える。
「お兄ちゃんが死んだらこの秘密基地もあげるよ。」
「えー、お兄ちゃん死ぬのは嫌!」
「どうしたんですアキナリさん急に?」
「いや、何時何があってもおかしくないからさ。」
「笑えない話ですね。」
「可笑しくないだろう?それじゃあ。」
穀雨ちゃんを抱えると俺はそのまま赤い部屋を出ることにした。

「ここって探偵物語みたーい!お兄ちゃん、ここ何処?」
赤い部屋を出ると、俺達はすぐに探偵事務所に辿り着いた。
いかにも探偵事務所な雰囲気が全開の為に穀雨ちゃんは感動してあちこちを見て回っていた。
「ずいぶん古いの知っているな!?お兄ちゃんの基地だ。」
「秘密基地じゃないの?」
「ああ、ここにはお客さんが来るからな。」
「どんな人?悪い人?」
「お兄ちゃん、これでも出来損ないの正義の味方だから良い人が助けを求めに来るんだ。」
「デキソコナイってどういう意味?」
「駄目駄目って意味かな?」
「お兄ちゃんは駄目じゃないよ、穀雨を助けてくれたんでしょう?」
本物の正義の味方は目の前の一人以外のみんなも救うんだよ。
そう言いたかったがそれを理解させるのは……俺には余りに辛い。
「そうだな、ところで穀雨ちゃん。都市伝説って知っているかい?」
「知らないよ、何それ美味しいの?」
「いや、あんまり美味しくないなあ。」
今は彼女に正義の味方よりも都市伝説について教えることが優先だ。

「例えばさ、お兄ちゃんこの前穀雨ちゃんにキーホルダーあげたよね。
 まだ持ってる?」
「うん、有るよ!」
そういって嬉しそうにキーホルダーを見せてくれた。
肌身離さず持っていてくれたようで結構。
これが無かったら彼女を無事に孤児院から連れ出せなかった可能性もある。
死人部隊とかによる電波ジャックで赤い部屋を呼べなくなったりすればあの時の作戦はそれだけで揺らぐ。
そう、忌々しいがあのスーパーハカーが出てきても危なかったのだ。
移動には階段を使っていたから不意打ちであの不幸気取り……気取りではないな、
とにかくあいつが敵対していたらとか、
今まで出会った都市伝説であの時の俺を殺す算段は俺でも幾らでも立てられる。
結局、運を味方につけるのが一番効果的でリスクの無い策なのだ。
沢山の戦闘を経験しているとそう思わざるを得ない。
「穀雨ちゃん、それが都市伝説だ。」
「え、そうなの?」
「ああ、都市伝説っていうのは簡単に言うとお化けみたいな物なんだよ。
 この町には沢山いて、人々を襲ったりしているんだ。
 穀雨ちゃんの孤児院を襲ったのもそれと同じ奴らだ。」
というか俺である。
にわかに彼女の顔がひきしまる。
やはり孤児院を襲われたという話はショックだったのだろう。

「都市伝説って悪い物なの?」
「そういう奴が多いね、だけど悪い都市伝説ばかりでもないんだよ。
 例えば穀雨ちゃんの持っているウサギのしっぽは穀雨ちゃんに幸運を与えてくれるだろう?」
「うん!」
返事が良い子は大変宜しい。
お兄ちゃんはそう言う子が大好きだ。
オレンジジュースを用意して穀雨ちゃんにすすめる。
「とりあえずそれでも飲みながら話を聞いていてね。長くなるから。
 確かに都市伝説は人に危害を与える者が多い。
 でも人間だって黙ってやられつづけている訳じゃない。
 一部の人間は都市伝説と仲良くなってその力を貸して貰っているんだ。
 お兄ちゃんもその一人でね、さっきの茜お姉ちゃんの力を貸して貰っている。」
「茜お姉ちゃんも都市伝説なの?」
「ああ、そうだよ。赤い部屋って都市伝説さ。」
「どんな都市伝説なの?」
「赤い部屋は好きですか?って聞いて、はいって答えた相手を赤い部屋の中に呼び込む能力なんだ。」
色々血なまぐさい応用が有るんだがそれは黙っておくことにした。
彼女と茜さんの為にもそれが一番だ。

「ふーん……。」
「お兄ちゃんは都市伝説の力で悪い人を捕まえて回ったりしているんだよ。
 あとは事件に都市伝説の力が関わっているか調べたりね。」
探偵の仕事をしているとそういう物が飛び込んでくるのだ。
「今度のアメリカ行きもそれだと思って欲しい。
 アメリカで起きている都市伝説がらみの事件で、
 俺みたいな組織に縛られないフリーな(しかも有能な)人材が必要だったんだろう。
 結構荒事が多くなるんだが……、それも今の穀雨ちゃんには必要な経験だ。」
「ねえお兄ちゃん。」
「どうした?」
「アメリカに肉まん有るの?」
「多分有ると思うなあ……。」
「無かったら行かないよ!」
それは困る。
俺が居なくなれば一体誰が彼女を守りきれるのだ。
「ある!ぜったい有る!だからアメリカには行こう!ね?」
「わかったー、じゃあ行く。」
俺は胸をなで下ろした。

「それでね、英語中国(含四川)語ロシア語スペイン語日本語の五カ国語を自在に操るお兄ちゃんが
 穀雨ちゃんに英語を教えたいんだけど、それ以上に都市伝説のことについても穀雨ちゃんには勉強して欲しい。」
「なんで?」
「穀雨ちゃん、今何歳だっけ?」
「6才。」
6才だなんて俺が最も欲情する年頃ではないか。
今から衣服剥いて襲ってしまおうかな。
いや、それだけは駄目だ、落ち着け俺。
しかし良く良く見るとぷるんとしたほっぺにみずみずしい唇、
それに黒く湿った瞳はなかなかどうして胸が躍る。
あ、口汚れてるから拭き取ってあげないと……いや、駄目だよ!
そういうエッチィ拭き取り方は絶対駄目!
「6才か、お兄ちゃんの経験上都市伝説と一度関わった人間は二度とそこから離れられない。
 穀雨ちゃんが一度都市伝説に狙われた以上、次がある可能性だって充分ある。
 だからお兄ちゃんと一緒に都市伝説と戦う方法について勉強して欲しいんだよ。
 穀雨ちゃんにはまだ長い時間があるからね。」
「……そうなの?」
「無理にとは言わないし、できるだけお兄ちゃんも責任とって戦うけど……。
 お兄ちゃんは正義の味方としては無能も良いところだからね。」
「ムノウってなに?」
「駄目駄目。」
「お兄ちゃん駄目じゃないよ!」
また、そう言ってくれるのか。
彼女は何度だって俺を肯定してくれるのか。
それはなんて地獄なんだろう。

「そうか、でも穀雨ちゃんにも自分や誰かを守れる力を持って欲しいんだよ。
 アメリカには日本以上に様々な都市伝説が居る。
 それらの相手をすることは君のこれからの人生に於いても重要な経験になる。」
こんな俺だと何時か失敗するから。
それに、わずかなりとも悪魔の肉体を手に入れた自分では不可能なこともあるかもしれない。
たとえば十字架を運べと言われたらそれは穀雨に任せるしかないわけで。
そう言う意味でも彼女をアメリカに連れて行っておきたかった。
「解った。」
どうやら納得してくれたようだ。
「よし、じゃあ都市伝説への対処法はアメリカへ渡る準備のついでに教えてあげよう。
 とりあえず今はそのウサギの尻尾だけ持っていてくれ。
 それは持っているだけで大抵の悪い物と会わないようになるから。」
「解ったよ!」
ニコニコと笑顔で答える穀雨ちゃん。
なんでこんなにも可愛いのだろうか。

「じゃあ今日は最後に大事なことを一つ教えよう。
 結局ね、都市伝説っていうのは使い方なんだよ。
 どんな都市伝説でもそれを生かせる使い方がある。
 人に迷惑かけるのも人の為になるのも都市伝説と仲良くなった自分自身が決めることさ。
 兎の尻尾だって使い方によっては人を傷つける。
 人を襲う都市伝説も人を守る力に変えられる。
 一番重要なのは都市伝説を使う人間の生き様だよ。
 これだけは覚えておきなさい。
 人間に意味は無い、人間が意味を作るんだ。
 具体的に言うと人間って都市伝説に比べてずっと弱いけれども
 人間しか都市伝説と仲良くなってその力を引き出してやれないってことね。
 本当はもっと意味があるんだけど……それはまあ穀雨ちゃんが探してくれ。」
都市伝説次第で力の振るい方を変える自分が良くも言った物である。
まあそれは都市伝説の存在意義を積極的に作っていると考えても良いのだが。
「難しいけど……解ったよ!」
「まあ今は理解する必要は無いよ。
 よし、それじゃあ今日は寝ようか。向こうにベッドがあるからそれ使って。」
「お兄ちゃんかお姉ちゃんと一緒じゃないと嫌だー!」
これは……フラグか!?
いや違う、落ち着け俺。
「解った、じゃあお兄ちゃんお仕事の電話したら一緒に寝てあげるからそれまで待ってね?」
 ほら、歯磨きしてきなさい。」
「はーい!」
穀雨ちゃんが洗面所に向かったのを見ると俺は携帯電話を取りだした。

電話帳のアドレスの中から我が愛しの助手の電話番号を探す。
「おい、向坂か?」
「はい、こんな時間にどうしたんですか笛吹さん?」
「探偵事務所空けなくちゃならなくなったわ。」
「はぁ!?どゆことですか?」
「アメリカから依頼だよ。二月終わりくらいから事務所空けるから、
 お前のクラスの正義の味方に探偵代理やってくれないか聞いてみてくれない?
 一応所長代理として座ってくれているだけで良いから。
 助手は俺の用意した奴に、お前だってもうまるっきり素人じゃないだろう?
 俺の貸した物使えば都市伝説相手に身を守るくらいできるし。
 気張ってくれよワトソン君。」
「もう……、そんなこと言っても急すぎますよ!
 てかアメリカってなんですか!
 仕事がワールドワイドすぎます!」
「一ヶ月もあるんだ、なんとかなるだろう。
 依頼主はバイトのお前には名前を明かせない偉い人だ。
 高校卒業してここの正社員になるならその時教えてやっても良い。」
「私はパティシエになるんです!」
「スイーツ(笑)」
「あー!馬鹿にしたー!」
「とりあえずあの正義の味方を連れてこい!話はそれからだ!」
「お兄ちゃん早く一緒に寝ようよ-!」
あ、穀雨ちゃんったらもう歯磨き終わっちゃった。
今の声は向坂に確実に聞かれたな。
俺の未来がすごい勢いで閉ざされる音がする気がする。

「所長、妹さんいらっしゃったんですか?
 ていうか妹さんですよね?
 小さな女の子を連れ込んでおにいちゃんと呼ばせているとかいうんじゃないですよね!?」
すごい勢いで真相に切り込んでくる助手。
流石我が助手だ。
「うるせーちがうわ馬鹿!」
その憶測は正解である。
「それじゃあ切るぜ!風紀委員の明日真によろしくつたえておけ!」
プツッ
とりあえず話を切り上げる為に無理矢理電話を切った。
「お兄ちゃん誰と話してたの?」
「お兄ちゃんの助手だよ、仕事の出来ない奴なんだこれが。」
「でも馬鹿って言っちゃ駄目だよ!」
……怒られた。
俺に対して怒るとは中々良い根性しているじゃないか。
でも可愛いから許す。
「解った、次から気をつける。」
「じゃあ良いよ、それより早く寝ようよ!」
「解った解った。」
やれやれ、という顔をしながら内心超テンションあがってる俺。
決していやらしいことはしていないので誤解無きように。
【上田明也の探偵倶楽部10~後の始末~fin】

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