「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-39

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
【上田明也の探偵倶楽部】

「こんにちわ皆さん、上田明也です。
 探偵兼殺人鬼なんて因果な商売やっていると人の死に立ち会う機会が多いんですよ。
 俺が殺す相手はみんな死ぬときはそれはそれは間抜けな顔をして死んでいきます。
 なんでなんでしょうね?
 死ぬって解ってないんじゃないですかね?
 俺はどうにも最悪で最悪な悪人なんですが常に死んだらどうなるんだろうって考えて居るんですよ。
 まあろくな死に方はしないと思いますが……そうですね。
 ちょいと贅沢を言うなら出会った物全てに感謝しながら死にたいですね。
 だって生きている事ってそれだけで掛け替えのない奇跡だとおもいません?
 明日にでも死ぬかもしれない自分が今ここで生きている。
 さいっこうですよ、生命賛歌ですよ。
 とまあ思わされたお話です。それではどうぞ。」


【上田明也の探偵倶楽部13~Viva la Vida~】

「と言うわけでやってきましたアメリカはニューヨーク!
 時刻は午前の十時です。」
学校町に早春の風が吹き抜ける頃。
俺達はアメリカに到着していた。
「うわー……、外国の人が一杯居るよおにいちゃん!」
「違うなあ穀雨ちゃん。俺達が外国人なんだ。」
「でもわたしは日本人だよ?」
「はっはっは、ここはアメリカだぜ?アメリカなら日本人は外国人さ。」
「そっか……。」
首をかしげる穀雨。
あまり納得できていないようだ。
「さて、迎えの人間が来ている筈なんだがなあ?」
穀雨をおんぶするとそこら辺を歩き回る。
俺に依頼をした、とある権力者によるとここに迎えの人間が来ている筈である。

「こんにちわ、笛吹様でしょうか?私、今回FBIから派遣されましたユナ・オーエンと申します。」
上田がクルリと後ろを振り返ると綺麗な金髪を短く切った黒服の女性が立っていた。
ちょっと怖い印象の人だ。
「黒服……組織じゃねえよな?」
「どうなさったのですか?」
女性は日本語を一生懸命勉強したのだろうが、英語で話した方が楽だろう。
『こんにちわ。なんでもありませんよ。会話は英語で大丈夫です。』
「穀雨ちゃんもちゃんと挨拶しなさい。」
そう考えて俺は英語で返事をした。
そして穀雨にも挨拶を促す。
「こんにちわ!」
穀雨の可愛らしい様子を見て女性の表情がほころんだ。
意外と可愛い物好きなのかもしれない。
もしかして同族なのかもしれない。

「英語で話せるなら楽だとは思いますが……。大分なまっている物ですから。」
『構いませんよ。』
「それでは……。」
女性はコホンと咳払いをする。
『日本の方だと聞いていてまったがずいぶん流暢な英語だがね。
 何処で習ったんだてか?』
やべぇ、聞き取り辛い………。
少々焦った。
黒服の女性の話す英語は典型的なニューヨーク訛りだったのだ。
『子供の時に少しイギリスに留学したことが有るんですよ。』
『そうだったんだてか。
 それなら通訳は必要なさそうだみゃあ。
 ところでそちらの女の子はどちら様だてか?』
女性は俺が背中に負ぶっている穀雨を見て尋ねる。
『ああ、娘です。』
アメリカ旅行中はこれで通すことにした。
『子連れ狼けゃあ?』
『あれ、意外と時代劇マニア?』
『水戸黄門と遠山の金さんが大好きだがね。』
先程までの意見は訂正しよう、意外と接しやすい人だ。

「お兄ちゃん、穀雨は英語わかんないよー!」
「ああ、ごめんごめん穀雨ちゃん。」
穀雨が頬を膨らませている。
「そういえば穀雨ちゃんって肉まん食べたいって言ってたよね?」
「うん!」
怒った顔が一瞬でパァッと輝く。
子供は単純だ。
其処が良いんだよ。
「よし、それじゃあこのお姉ちゃんに連れて行ってもらおうか。」
「お姉ちゃん連れて行ってくれるの?」
「ちゃんとお願いしますをするんだぞ。飛行機で教えただろ?」
『おねえちゃん、NYのほくとしんけんにつれていってください。』
穀雨も上田に教えて貰ったとおりに拙いながらも英語を話す。
「あら、穀雨さんは英語がお上手なんですね。
 お父様に教えて貰ったのですか?」
「お父さんじゃなくてお兄ちゃんだよ!穀雨にお父さんは居ないもん!」
女性が困惑した顔を上田に向ける。
『色々込み入った事情がございましてですね……。まあ師匠と弟子というかなんというか……。』
『若いのにずいぶん苦労なさっとるようだがね………。』
くそっ、可哀想な人を見るような目で俺を見るな!
いやロリコンと思われるよりはまだマシではあるのだがそれでもだ!

『ま、まあとりあえず行きましょうよ。
 確か今日はまだ依頼の日ではないんですよね?』
とりあえず話題をすり替えてみる。
『そうだぎゃあ。明日だがね。』
「北斗神軒行きたいー!」
「穀雨さん、北斗神軒がどんな店かは知っていますよね……?」
「ああ、その子世紀末レベルの麻婆豆腐を簡単に平らげますよ。」
「――――――えぇ!?数多のニューヨーカーを卒倒させたあの店の世紀末レベルを!?」
「だから大丈夫です。俺の真似して辛い物食べ始めたら耐性がついたみたいで……。」
『東洋の神秘だぎゃあ………。
 車は駐車場に停めてあるのでついて来て下しゃあ。』
「解りました。行くよ穀雨。」
「はーい!」
ユナの先導にしたがって俺達は駐車場に向かった。
駐車場には立派なメルセデス・ベンツのSクラスが停めてあった。
「それではNY観光にご案内いたします。」
そう言うとユナは車を発進させた。

「とりあえずお昼には少し早い時間ですが北斗神軒にもう行きますか?」
「はい、機内食も悪くはなかったんですが……。
 この子が食べ盛りなもので……。」
「麻婆豆腐!麻婆豆腐!」
穀雨がわめいている。
まったく可愛い奴め、なで回すぞこの野郎。
「解りました。それでは行きましょう。」
道路は平日の昼間の為かわりと空いている。
それ程苦労もなく北斗神軒に到着しそうだ。
「ところでユナさん。」
「どうしたんです?」
「今日はお仕事じゃないんですか?」
「休暇扱いになっています。」
「きゅうかってなぁに?」
「お休みのことだよ。」
「お兄ちゃんはお仕事で来たのにユナさんはお休みなの?」
「はっはっは、穀雨ちゃん、あまり面倒なことは聞いてはいけない。」
「むにゅー……。」
あくまで“休暇”扱いなのだ。
都市伝説のことが公になってはいけない。
それはアメリカでも同じらしい。

俺の親愛なる友人サンジェルマン伯爵によれば都市伝説は広く世に知られるべきだという。
それによって人間は都市伝説に恐怖し、都市伝説は人間により存在を保証される。
正直人間に得があるのか解らない関係性だが人間には物凄いメリットが生まれるそうだ。
俺は興味がないが彼の思想に賛同する人間も多いらしい。
俺みたいにこいつの保護下で活動している契約者や都市伝説も沢山いるという。
「つきましたよ、北斗神軒ニューヨーク支店です。」
北斗神軒と書いているがその上にはおもいっきり『ドラゴンボール』と書いてあった。
どちらかにして欲しい。
「わぁい!」
穀雨が走り始める。
「おっと、急に走ると危ないよ。」
すかさず彼女を抱え上げるとユナさんと店に入った。
『へい、いらっしゃい!あちらのテーブル席にどうぞ!』
北斗神軒はNYでも満員だった。
外国人にもこの味がわかるとは思ってなかったが意外とそれは誤りだったのかもしれない。

『ご注文は如何いたしますか?』
チャイナドレスを着たお姉さんがやってきた。
『えっと、炒飯セットで』
ユナさんは普通のメニューを頼んでいる。
残念だ。
『麻婆豆腐スーパーサイヤ人10バージョン、鷹の爪マシマシで。』
『――――――――――――!?』
店員さんにドン引かれた。
貴様の店のメニューじゃろうが。
「激辛ラーメン聖帝レベル!お兄ちゃん、鷹の爪入れても……?」
「駄目。お前にはまだ早い。」
「たべたい~!」
「仕方ないなあ………。駄目!」
「えー!」
皆さんご存じだろうか?子供を甘やかして得になることは絶対にない。

『激辛ラーメン聖帝レベル』
穀雨の代わりに俺が注文を言った。
『以上で注文はよろしいでしょうか?』
『はい。』
店員のお姉さんは厨房に向けて今のメニューを伝える。
その瞬間、店内にどよめきが広がった。
『スーパーサイヤ人10だってよ?』
『あの日本人か?大方30分以内に完食できたら無料ってのに釣られたんだろ?』
『狂ってやがる!』
『どうせ何も知らない馬鹿だろう。』
『そんなことよりチェリーパイ喰おうぜ!』
『欧米か!』
『ちょっと見に行こうぜ!』
麻婆豆腐が俺のテーブルに着く頃にはちょっとした人だかりが出来ていた。

「こりゃあ二人に迷惑かけちまうなあ。俺だけ別の席用意して貰うよ。」
「……狙ってたんじゃないんですか?」
「いやまあね。」
『店長、別の席用意してくれ。』
俺がそう言うと日本の北斗神軒の店長にそっくりな男性――日本の店長の弟らしい―――が別の席を用意してくれた。
『麻婆豆腐スーパーサイヤ人10バージョンになります。』
店長自らが麻婆豆腐を運んでくる。
『せいぜいがんばれよ!』
『期待しないで見ているぜ!』
観客のヤジが五月蠅いがまあ良い。
喰い尽くしてくれる。
俺はレンゲを煮えたぎる麻婆の中に突っ込むと勢いよくかき混ぜ始めた。
実は俺は猫舌なのだ。
辛いのは大好きだが熱い物はまったく喰えない。
俺がしばらくかき混ぜ作業を続けているとどんどんヤジが増え始めた。
『一口もくわねえとはどういうことだ?』
『びびってんのか!』
『それでもサムライか!』
『ちょっと待ってろお前ら!』
まったく、五月蠅い奴らめ。

『店長、ラーメンどんぶりをもって来てくれないか?』
『わかったが……何に使うんだ?』
『いや、観客にサービスでもしようかなあと。』
しばらくすると店長は巨大なラーメンどんぶりを持ってきた。
『ありがとよ。』
俺は店長に礼を言うとその中に激辛麻婆豆腐を流し込む。
煮えたぎる溶岩の如き唐辛子の鮮烈な赤、山の中を流れる清流の如き豆腐の白、
さらに絶妙にくずされて肉汁を迸らせる挽肉。
どれをとっても完璧な麻婆豆腐だ。
ここで始めて、レンゲにそれをすくい取り、貪る。
「――――――旨い!地獄のように、美味い!」
俺はおもわず叫んでいた。
口の中では熱を帯びた細胞の一つ一つが苦しみ蠢いている。
それは昔やったキャンプファイヤーの火の粉の如くパチパチと弾ける刺激。
これだ。
これが生きている実感という物だ。
人間という物の確かな証明だ。
こんな、料理の味付け程度のことに俺の心は確かに躍っている。
嗚呼駄目だ。
もう止められない。
溢れ出る感情のままに俺は麻婆豆腐を飲み込み始めていた。

熱い。
溶けた黄金を直接身体の中に流し込まれているようだ。
観客が何か言っているがそんなことは関係無い。
俺の中に流れ込む味の黄金は今確かに至福という題名の彫刻を形作っているのだ。
俺が麻婆なのだろうか?
麻婆が俺なのだろうか?
もはやその問にすら意味は無い。
全身を支配する激辛の感覚だけが宇宙に満ちる。
これが中華4000年の歴史。
否、歴史の向こう側だ。
人々の、世界中のありとあらゆる人々の帰るべき原初の海。
“これ”が“それ”だ。
もう一度言おう、“これ”が“それ”だ。

熱い。
胃袋で止まったと思った辛さが今度は真逆の方向に駆け上ってくる。
それは脳髄へと到達してそのまま肉体を突き破る。
もはやそれは熱いなどと言う言葉でも形容しがたいのかもしれない。
だが勿論、痛いなんていう言葉であらわすのはあまりに月並みであることもまた事実だ。
だから俺はこう言いたい。
熱い。
この熱さは物理的な物では無い。
激辛にかけた男達の志、時間、技術、その全てを含めて熱いのだ。
真っ赤に燃え上がる炎の熱さではない。
全てを完全にエネルギーへと変換して静かに燃える蒼い炎。
そういう辛さだ。
発散する辛さではなく内側に内側に収縮していく辛さ。
それは自己の内面と対峙する時にも似た暗く、しかし嫌ではない気分を俺に与える。
そうだ、これは俺に喰われることで始めて完成するのだ。
作るだけではなく、喰うことによって料理とは始めて完成するのだ。
俺の為に麻婆は居るし、麻婆の為に俺は居る。
そう、そうなのだ。
すべてが………一つ、なのだ。

しかしそんな至福の時間にも終わりは来る。
麻婆は無くなってしまっていたのだ。
人々の歓声が聞こえる。
ああ、天国の門がそこまで迫っているようだ。
俺のような人間の為にこそああいう場所は有るに違いない。
惜しみない拍手の雨は俺を激しく包み込む。
だがこの中の誰が知っているだろうか?
俺は苦行に耐えたのではないことを。
むしろ、静かな感動に打ち震えていたことを。
『あんた、名前はなんて言うんだ!』
『笛吹丁、通りすがりの探偵さ。』
それだけ答えると、俺はゆっくりと崩れ落ちた。
遠くから鐘の音が聞こえる。
世界はこんなにも美しい。
【上田明也の探偵倶楽部13~Viva la Vida~】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー