「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-47

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【上田明也の探偵倶楽部23~暗路夜行~】

~前回までのあらすじ~

何処にでも居る普通の私立探偵「上田明也」は
大金持ちの都市伝説コレクターでなにやら怪しげな陰謀を画策する男、
「サンジェルマン伯爵」に依頼されて、「朝比奈秀雄」の制御下から離れたドラゴン達を秘密裏に回収に動き始めることになる。
その依頼の開始直前で彼に恨みがある黒服に襲われたが無事に返り討ちにした上田明也は、
黒服からとても口では言えないような方法で情報を引き出した後に、
黒服達の配置の間隙を縫って夜の町を闊歩するのであった。

~前回までのあらすじオワリ~




「さてと、向坂君、今回は君がとても重要な任務を帯びているのだが良いだろうか?」
「へ?簡単な仕事って言ってませんでした?
 都市伝説退治のついでに荷物運びちょっと手伝うだけって……。」
「いや、これから退治に行く都市伝説ってドラゴンなんだよ。」
「…………え?」
「そういえば言ってなかったっけか?」
「はい、まったく聞いていません。」
「そいつはタラスクスと呼ばれているドラゴンだ。
 口からは猛毒の息を吐き、
 身体からは燃えさかる分泌物を出し、
 鋼も弾く甲羅とビルもなぎ倒す怪力を持つ、
 亀型のドラゴンだね。」
「…………わたし聞いてない!」
「ああ、言わなかった!」
「この外道!」
「安心しろ、女性一人竜から身を守る程度、俺には造作もない。」
「所長言ってることは格好良いんですけどわりと最悪です。」
「わりとじゃない、間違いなく最悪だ。」

少し長めの髪をオールバックにした鋭い目の青年と、
ショートカットで背は低めのマフラーをした可愛らしい高校生の少女が二人連れで歩いている。
年の差から色々と誤解を受けそうだが彼らの間には特に何もない。
強いて言えば少女の姉をこの青年が殺したのだが……
まあその事実に少女が気づかない限りそれは何の意味も無い因縁であろう。




「タラスクスはその性質上、聖女とか汚れ無き乙女に弱い訳ですよ。
 俺の知り合いって探偵という仕事柄上汚れだらけの乙女だらけなんですよ。」
「え、恋路ちゃんとか私と違って戦闘までこなせるじゃないですか。」
「…………冷静に考えてだぞ。」
「冷静に考えて、ですか?」
「あの明日真とはいえ恋人と水入らずで同居してるんだぜ?
 ……何もない訳無いだろ。」
「――――――――!」

ところがどっこい何もないのだが彼らは何も知らない。

「その上、あいつは一応都市伝説だ。
 乙女カテゴリーに入るのか限りなく怪しくてしょうがない。」
「言われてみれば……。」
「という訳で俺に頼めるのはお前しか居なかった訳だ。」
「まあ、まさかあそこの子供二名には頼めないですしねえ。
 ていうか彼女らは一体何者なんですか?
 学校行っている様子もないし~、……まあバイトが立ち入れる話じゃないですけど。」
「都市伝説関係者だよ、故有って俺が預かっているの。」
「ふぅむ……。」
「さて、もうそろそろ着くぞ。準備しておけ。」

上田は向坂にバッグから瓶を取り出して投げ渡す。
それをキャッチした向坂はラベルを見てふむふむと頷く。




「聖水……ですか。」
「まだ瓶は開けるなよ、かけられると俺にもダメージが入るんだそれ。」
「笛吹さん悪魔か何かなんですか?」
「契約した都市伝説の問題だよ、おかげで身体が丈夫になったから文句は言えないさね。」
「これが本当の悪魔が来たりて笛を吹くですね!」
「はいはい、そうだねそうだね。あと十字架もってきてくれた?」
「これですか?」

何気なく十字架を上田に向ける向坂。
当然十字架も駄目な上田はもの凄い勢いで向坂から距離を取る。

「解った、解ったからしまってくれ。」
「本当に駄目ですねぇ、……色々と。」
「否定はしないからすぐにしまえ、as soon as possible!」
「その無駄な発音の良さに感激です。
 我が校の英語教師も裸足で逃げ出すレベルですよ。」
「良いから早く!」
「はいはい……。」

向坂が十字架をしまったことを確認すると、笛吹はすぐに向坂の傍に戻った。
本当に十字架が駄目らしいと知って向坂はにやにや笑っている。




「とりあえずターゲットが出てきたら俺がそいつを引きつけている間にそれを向けろ。
 動きを止めるはずだ。
 次に動きを止めたターゲットにその瓶に入った水をかけろ。
 そうしたら後は俺が全部こなすから。」
「わ、解りました。」
「……済まないな、これも町を守る為なんだ。」
「いえいえ、良いんですけど……。この仕事が終わったら……。」
「バイト代なら弾むぜ?命の保証はあるとはいえ危ない仕事には変わりないから。」
「うーん、そうじゃなくてえ…………。」
「なんだ?」
「いや、笛吹さんってどんな過去を過ごしてきたのかなって?
 付き合っていた女の人とか?友達とか?
 あと前ちょろっとだけ話していた大学時代の話とか?
 ちょっと気になったりして。」

上田は意外そうな顔で向坂を見つめる。
その後、一瞬だけ優しい顔をしたかと思うといつもの彼に戻ってしまった。

「……まあ良い、そのうち“ゆっくり”聞かせてやるよ。」
「“ゆっくり”聞かせてくださいね!」

参ったぜ、とでも言わんばかりの顔でため息を吐く上田。
しかし向坂はそれには気づかない。




ところで二人は先ほどから川縁を歩いていた。
勿論それは狙いの竜に遭遇する為なのだが、
二人の歩く春先の川辺には水のせせらぎと星の瞬きが心を和ませる美しい風景が広がっていた。
月影が水面に映ってその周りをゆらゆらと魚が泳いでいる。
チャプン、と魚が撥ねる度に月も揺れる。
魚の動きを見て上田は何かに気づいたらしい。
ゆっくりと川に近づいていく。

「そうだ、向坂よ。月が欲しくないか?」
「へ?月ですか?」
「そうだよ、月だ。」
「まあ……、あったら欲しいですけど……。」
「そうかあ……。」

上田は川の中の様子をチラっとのぞき見る。
ハーメルンの笛吹きとの契約で強化された彼の聴覚には、
魚たちの跳ねる音以外にも別の呼吸音が捉えられていた。

「じゃあちょっと待ってろ、月をとってくるよ。」
「はぁ……。」

上田は川に近づいて手のひらで水を掬う。
その手の中には小さな水たまりが出来ていた。
そしてそこには綺麗な月が映っている。




「ほら、近づいて見てみろよ。」
「わあ綺麗!」
「だろ?」

川辺に立つ上田にゆっくりと近づく向坂。
彼はいきなり彼女を抱き寄せる。

「わわわわわ!何しているんですか笛吹さん!わたしまだ未成年!」
「静かにしろ、タラスクスが近くに居る、俺が引きつけている間にさっき言った通りのことをしてくれ。
 恐らくドラゴンなんて都市伝説の枠の外の生き物は俺でも十秒稼げるかどうかだ。
 その十秒の間に全部終わらせてくれよ。
 今回はお前が頼りだ、信頼してるぜ。」
「…………え、あ、なんかすいません。」
「来るぞ、あと三秒、二秒、……。」

上田が小さく息を吸う。
先ほどまで五月蠅かった魚の跳ねる音はもうしない。
一瞬だけ、向坂が瞬きをしている間に戦いは始まっていた。
彼女が目を開けるとワニのような巨大生物が上田に向けてまっすぐ爪を繰り出していたのだ。





ガイィィイイイン!
上田は爪による第一撃を蜻蛉切で器用に斜め後ろにそらす。
戦う前からすでに力比べをすれば敵わないと悟ったのだろう。
攻撃をいなされたことによる驚きがその竜――タラスクス――にほんのわずかな隙を作る。

「向坂!」
「はい!」

その一瞬の隙を突いて向坂が十字架をタラスクスに向けて突き出す。
上田の顔も日焼けしたように真っ赤になっていくがタラスクスはそれを見るなり足が完全にすくんでしまったようだった。
それを見た上田は村正をしまうと今度は着ていたコートの裏から二丁のサブマシンガンを取りだした。
H&K MP7
H&K社がFN社のP90への対抗馬として、1999年に『PDW』の名で発表された、携帯用の小型サブマシンガン。
のちに『MP7』と改称され、更にトライアルを経て改良された『MP7A1』が現行の生産型となっている。
非常に小柄ながら、同社のG36譲りのロータリーロックボルトとガスオペレーション機構を備える。
装弾数は限界ギリギリ40発。
貫通力が高い為に少々使いづらいところもあるが、
今回のような化け物相手であればそれがむしろ功を奏すとも考えられた。

嵐のような銃撃に竜の動きですら止まる。

その間に向坂境は聖水を投げつけた。

直撃。
竜は情けない声を上げてその場にうずくまった。





「笛吹さん、やりまし……キャッ!」

上田は素早く向坂を突き飛ばす。
次の瞬間、川面が炎に包まれた。
タラスクスはどさくさに紛れて川に自らの分泌物を流していたのだ。
上田と向坂が先ほどまで居た場所も当然火の海に包まれる。

「くそ……、悪あがきしやがって!」
「笛吹さん!笛吹さん!」
「大丈夫だ、燃えた位なら死にはしない!
 それよりももうちょっと離れていろ!
 あとリュックから聖水の追加出しておけ!あとは耳塞いで物陰に隠れていろ!」

そう言い終わるか終わらないかのところでタラスクスの爪が笛吹に伸びる。
手持ちの銃器を捨てて素早く村正に持ち変える上田。
素早く振り抜いてタラスクスの爪を破壊しながらも村正を真上にはじき飛ばされる。
だが、それすらも読んでいたと言わんばかりに彼は素早くナイフを投げつけた。
そのナイフ全てに青白い光が灯ったかと思うと滅茶苦茶な軌道でタラスクスに襲いかかる。
落ちてきた村正を拾うとそれにまで青白い光をともしてタラスクスに投げつけた。
村正、通称蜻蛉切は空を裂いて飛ぶ最中にも加速を続けてタラスクスを貫いた。
それを確認した笛吹はコートを脱ぐと、裏側に着いていたピンのような物を抜き取ってタラスクスに投げつける。

ゴゥン、と爆音が轟く。
川の水が強烈な勢いで炎ごと吹き飛んだ。
そしてその中心にはナイフとワイヤーで雁字搦めに縛られたタラスクスが居る。





「向坂、今だあああああああ!」
「うう……、耳がキーンとして何も聞こえない。」
「しまった…………!」

ハーメルンの笛吹きと契約し、悪魔の身体を借り受けた上田と違い、
向坂境はあくまで只の女子高校生だ。
そもそも耳を塞いでいても手榴弾の轟音で耳が痛いに決まっている。
この状況で彼女に確実に指示をこなしてもらう為にはハーメルンの笛吹きの能力を使うしかない。
だがそれは当然彼女に自分の正体に関するヒントを与えることになる。
迷えば迷うほどタラスクスは竜の名前に恥じない再生力で傷を癒し始める。
その前に聖水の力で動きを止めて、向坂に前もって持たせていたある物で完全に動きを停止させるしかない。
上田明也は一瞬だけ迷った。
だがそんな迷いこそがもっとも愚かと決断した彼はハーメルンの笛吹きの能力を発動させる。

今度こそ聖水が向坂の手でタラスクスに直撃する。
タラスクスの動きが完全に沈黙したと同時に向坂の首のマフラーがタラスクスの身体をぐるぐる巻きにして陸に引きずりあげた。

このマフラーは上田がサンジェルマンのコレクションから借り受けた物で、
元々はタラスクスを退治したとある聖人の帯に使われていた物だったのだ。
だが当然その事実を向坂は知らない。





【……おのれ、昔と同じ方法で我が輩ともあろう者が封じられようとは。】
【それは間違いだ、昔と同じ方法だから封じることが出来たんだ。】

マフラーに縛られて指一本動かせなくなったタラスクスを見て上田は安堵のため息を吐く。
今回の戦いは中々疲れたらしい。
古いラテン語で話し始めるタラスクスに上田は彼の言語知識を最大限に生かして応えた。

【ふん、小賢しいことを言う童だ。】
【お褒めにあずかり光栄でございます、ご老体。】
【我が輩を再び封印しようと言うのか?】
【いいえ、貴方様には外の世界で自由を享受して頂きたく存じ上げます。】
【ふん、その気持ち悪い言葉遣いをやめよ。おぬしの狙いを話せ。】
【…………それじゃあさっくり行かせてもらいます。
 あんたに会ってもらいたい人間が居る。
 今からあんたを迎えに行くからそいつの話を聞いて欲しい。】
【よかろう、どうせ教会で長年封印されるよりはマシじゃ。】
【ありがとう。】
【それよりおぬし強いのう、鈍っていたかも知れんが手加減したつもりは無かったんじゃが……?
 さてはそこの女を守る為に気合いが入っていたのか?
 なんじゃなんじゃ、見た目に反して意外と優しい奴じゃのう。】
【そんなんじゃあないってばさ。】

どうやら目の前の竜は自分たちと話し合うつもりはあるようだ。
そう思った上田はサンジェルマンの携帯に電話をいれると気絶した向坂の介抱を始めることにした。
タラスクスはその様子をにやにやしながら見つめているのであった。

【上田明也の探偵倶楽部23~暗路夜行~fin】

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