【上田明也の探偵倶楽部25~友と語る日~】
雨の日は憂鬱だ。
数日前、黒服Xとやらにボコボコにされてからという物、少々気が塞いでいた。
幸い、相手の気まぐれで生きて帰ることができたものの、町のど真ん中で巨大な烏賊を呼べる相手なんて、
……もう二度と戦いたくない。
しばらくたこ焼きもイカ刺しも塩辛も烏賊素麺も食えなさそうである。
あんなぬちょぬちょねばねばした生き物なんぞ二度と関わってなる物か。
数日前、黒服Xとやらにボコボコにされてからという物、少々気が塞いでいた。
幸い、相手の気まぐれで生きて帰ることができたものの、町のど真ん中で巨大な烏賊を呼べる相手なんて、
……もう二度と戦いたくない。
しばらくたこ焼きもイカ刺しも塩辛も烏賊素麺も食えなさそうである。
あんなぬちょぬちょねばねばした生き物なんぞ二度と関わってなる物か。
さて、そんな憂鬱な俺も少しばかり気分の良くなる来訪者が目の前に一人。
「何時か話した女性遍歴でも聞かせてもらおうかと思ってね。」
「良いぜ、おいレイモン、お茶持ってこい。金色の缶に入ってる奴だぞ、玉露って書いてある奴だぞ。」
「はーい、しかしどうしたんだ大事なお客さんか?
予約は無かったが…………。」
「ああ、俺の友人だよ。」
「それは珍しい。」
「良いぜ、おいレイモン、お茶持ってこい。金色の缶に入ってる奴だぞ、玉露って書いてある奴だぞ。」
「はーい、しかしどうしたんだ大事なお客さんか?
予約は無かったが…………。」
「ああ、俺の友人だよ。」
「それは珍しい。」
そっけなくそれだけ言うとレイモンは事務所の奥に引っ込んでしまった。
どうやら彼女と同じ年頃の少女と俺が仲良さげにしているのが気に入らないようだ。
どうやら彼女と同じ年頃の少女と俺が仲良さげにしているのが気に入らないようだ。
「うちの事務所の助手、優秀だし、何より可愛いだろう?」
「へぇー……。」
「なんだ、不潔な物を見る目で見るな。まだ手は出していない。」
「そうですかー。」
「安心しろ、これからもっと不潔な話をしてやるから。」
「ほうほう、それは楽しみ。」
「へぇー……。」
「なんだ、不潔な物を見る目で見るな。まだ手は出していない。」
「そうですかー。」
「安心しろ、これからもっと不潔な話をしてやるから。」
「ほうほう、それは楽しみ。」
コトン
お茶が二つ置かれる。
どちらもすぐに飲めるように少しぬるめになっている。
客に出す茶であっても猫舌たるこの俺の好みの温度である。
お茶が二つ置かれる。
どちらもすぐに飲めるように少しぬるめになっている。
客に出す茶であっても猫舌たるこの俺の好みの温度である。
「よし、それじゃあ始めようか。まずは小学生の頃からだ。」
できるだけ邪悪そうに笑うと俺は声の調子をすこし高めに変える。
少しだけ高い音の方が人は違和感を持たずに聞いてくれるのだ。
そこから徐々に徐々に低音に変えて相手の心の内側に踏み入っていく。
そうしてこそ、人の心は“揺れる”。
少しだけ高い音の方が人は違和感を持たずに聞いてくれるのだ。
そこから徐々に徐々に低音に変えて相手の心の内側に踏み入っていく。
そうしてこそ、人の心は“揺れる”。
「あの頃、俺は学級委員長だった。
親に言われたとおり真面目で良い子、成績も優秀。
小学生らしく飛行機のパイロットになるという立派な夢も持っていた。
小学校の頃なんて足が速いか勉強ができるか芸能人の話に詳しいか顔が良いか喧嘩が強いかで人気が決まる。
足やら顔やらなんて努力に限界があるからな。
俺はクラスでそこそこの地位を保つ為に日夜努力を欠かさなかったよ。」
「ふむふむ、それで女性遍歴は?」
「ああ、バレンタインデーは結構チョコもらっていたな。
先輩のお姉様や後輩からも大量にもらったよ。当時はロリコンじゃなかったし嬉しかった。
でも誰か特定の女性と付き合っていた訳じゃなかったのを覚えている。
むしろ俺の周りの女性を喧嘩させてカオスになるのを楽しんでいたっけ。」
「うわぁ……。」
「紅組、白組、とかやってクラスの女子が二組に分かれるように誘導したっけ。
チョコは余ったから隣の五月蠅い犬に食わせた。
それからすぐに静かになってくれてありがたかったっけか。」
「それは酷いね。」
親に言われたとおり真面目で良い子、成績も優秀。
小学生らしく飛行機のパイロットになるという立派な夢も持っていた。
小学校の頃なんて足が速いか勉強ができるか芸能人の話に詳しいか顔が良いか喧嘩が強いかで人気が決まる。
足やら顔やらなんて努力に限界があるからな。
俺はクラスでそこそこの地位を保つ為に日夜努力を欠かさなかったよ。」
「ふむふむ、それで女性遍歴は?」
「ああ、バレンタインデーは結構チョコもらっていたな。
先輩のお姉様や後輩からも大量にもらったよ。当時はロリコンじゃなかったし嬉しかった。
でも誰か特定の女性と付き合っていた訳じゃなかったのを覚えている。
むしろ俺の周りの女性を喧嘩させてカオスになるのを楽しんでいたっけ。」
「うわぁ……。」
「紅組、白組、とかやってクラスの女子が二組に分かれるように誘導したっけ。
チョコは余ったから隣の五月蠅い犬に食わせた。
それからすぐに静かになってくれてありがたかったっけか。」
「それは酷いね。」
酷いね、なんて言う割には面白くてしょうがないって顔をしている。
それでこそ我が友人たり得るというものだ。
そうだ、友人と言えば大事な女を一人語り忘れていた。
それでこそ我が友人たり得るというものだ。
そうだ、友人と言えば大事な女を一人語り忘れていた。
「そういえばこの前、明日の話をしたっけか?」
「ああ、正義の味方?」
「あいつに姉が居るんだよ。」
「へぇ、その人ももしかして正義の味方なの?」
「うんにゃ、正義の味方“だった”。
俺が悪人をやめると同時にあいつも正義の味方をやめた。
そいつとは小学校の頃に知り合ったんだよ。
俺の“話”を聞いても思うとおりに操られてくれなかったから興味は持ってたんだよね。
それで偶然同じ中学校にあがったから話すようになったりして。」
「ふーん、で、付き合ったの?」
「ああ、三又かけてた。」
「ふぅ…………。」
「そして3日でばれた。でも本命は明日だったからね!?
他は遊びだったよ?
そもそも浮気に気づいたのってあいつだけだったし!」
「馬鹿だ……、ていうか正義の味方と悪人のくせに良いの?
恋愛なんかしちゃっていて。」
「敵か味方かなんて関係ない、邪魔だったら消しにかかれば良いじゃない。
お互いの間に愛があれば主義主張なんて軽い軽い……と。
ちなみに俺が都市伝説の存在を知ったのはその頃。」
「意外と遅いね、笛吹さんみたいな人だったらもっと早くから知っている気がしてたけど。」
「はん、何が現れようと俺(キョウジン)は俺(キョウジン)なのだよ。
そのせいで人生が変わるなんて事はない。」
「ああ、正義の味方?」
「あいつに姉が居るんだよ。」
「へぇ、その人ももしかして正義の味方なの?」
「うんにゃ、正義の味方“だった”。
俺が悪人をやめると同時にあいつも正義の味方をやめた。
そいつとは小学校の頃に知り合ったんだよ。
俺の“話”を聞いても思うとおりに操られてくれなかったから興味は持ってたんだよね。
それで偶然同じ中学校にあがったから話すようになったりして。」
「ふーん、で、付き合ったの?」
「ああ、三又かけてた。」
「ふぅ…………。」
「そして3日でばれた。でも本命は明日だったからね!?
他は遊びだったよ?
そもそも浮気に気づいたのってあいつだけだったし!」
「馬鹿だ……、ていうか正義の味方と悪人のくせに良いの?
恋愛なんかしちゃっていて。」
「敵か味方かなんて関係ない、邪魔だったら消しにかかれば良いじゃない。
お互いの間に愛があれば主義主張なんて軽い軽い……と。
ちなみに俺が都市伝説の存在を知ったのはその頃。」
「意外と遅いね、笛吹さんみたいな人だったらもっと早くから知っている気がしてたけど。」
「はん、何が現れようと俺(キョウジン)は俺(キョウジン)なのだよ。
そのせいで人生が変わるなんて事はない。」
化物に人生は変えられない。
人の生を変えるのは何時だって人だけだ。
人の生を変えるのは何時だって人だけだ。
「俺は明日の都市伝説退治を手伝っていた。
明日真とあいつの都市伝説である恋路の関係みたいな感じだったっけか。
だからあいつら殺す気になれなかったんだよな。
むしろ好きだったぜ、ああいうの。
俺が近くの人々の心を玩具にするのを黙認してもらう代わりに、俺はあいつが日々との日常を守ることを手伝っていた。
あの頃、俺は本気であいつが好きだった…………。」
「でも結局別れたんでしょう?」
「ちょっと色々あってさ。
俺が遊んでた女の子が都市伝説のチカラで明日を殺しそうになってね。
土壇場で無能力者の俺が明日を庇ったんだよ。
あの頃の俺は常々『チカラなんて要らない』って豪語していたからな。
何の能力も持たなかった俺が都市伝説と渡り合った姿と、それを呆然と見つめるあいつらの姿は愉快だったぜ。
ああー、でも傑作だったのは『人間を攻撃する事なんてできない』って泣きじゃくる明日かな?
なんだかんだであいつは弱いんだから、俺が居ないと駄目なんだよなあ。
不完全、失敗作、ジャンク、出来損ないの正義の味方。
でも、土壇場で誰かを守るなんて考えてしまった俺は、それ以上に悪人失格。
世界で最低最悪の生物である人間の中でも特に悪い物にすらなれなかった。
その時気づいたんだ、俺はもはや人間以下だ!ってね。」
明日真とあいつの都市伝説である恋路の関係みたいな感じだったっけか。
だからあいつら殺す気になれなかったんだよな。
むしろ好きだったぜ、ああいうの。
俺が近くの人々の心を玩具にするのを黙認してもらう代わりに、俺はあいつが日々との日常を守ることを手伝っていた。
あの頃、俺は本気であいつが好きだった…………。」
「でも結局別れたんでしょう?」
「ちょっと色々あってさ。
俺が遊んでた女の子が都市伝説のチカラで明日を殺しそうになってね。
土壇場で無能力者の俺が明日を庇ったんだよ。
あの頃の俺は常々『チカラなんて要らない』って豪語していたからな。
何の能力も持たなかった俺が都市伝説と渡り合った姿と、それを呆然と見つめるあいつらの姿は愉快だったぜ。
ああー、でも傑作だったのは『人間を攻撃する事なんてできない』って泣きじゃくる明日かな?
なんだかんだであいつは弱いんだから、俺が居ないと駄目なんだよなあ。
不完全、失敗作、ジャンク、出来損ないの正義の味方。
でも、土壇場で誰かを守るなんて考えてしまった俺は、それ以上に悪人失格。
世界で最低最悪の生物である人間の中でも特に悪い物にすらなれなかった。
その時気づいたんだ、俺はもはや人間以下だ!ってね。」
「いや、……それはむしろ誇るべきなんじゃないの?」
俺は静かに首を横に振る。
「違うんだ、俺はあの時に大事な物を沢山失っちまった。」
ため息を吐いて外を眺める。今でも少し胸が痛んだ。
「その時にした怪我が原因でね、俺の視力ってば片目だけ一気に落ちちゃったんだよ。」
友が首をかしげる。そうだな、はっきり言うべきか。
「解った、はっきり言おう。」
やはりこういう話を子供に聞かせるのは気分が良くない。
が、これ無しで俺の女性遍歴は語れない。
が、これ無しで俺の女性遍歴は語れない。
「俺はあの時あの場所の明日晶のせいで、飛行機のパイロットになるって子供の頃からの夢を失った。」
「……それは辛かったね。」
「いいや、胸は痛むが辛くはない。俺はそれで明日晶を救えたんだ。
俺は始めて心が満たされる感覚を覚えたね。
その時から俺は、自分にとって大切な人の為に生きようって思ったんだ。
その為なら何を失っても痛くない、夢さえも。
むしろ、失えば失うほどに心は満たされていく気がするよ。」
「……それは辛かったね。」
「いいや、胸は痛むが辛くはない。俺はそれで明日晶を救えたんだ。
俺は始めて心が満たされる感覚を覚えたね。
その時から俺は、自分にとって大切な人の為に生きようって思ったんだ。
その為なら何を失っても痛くない、夢さえも。
むしろ、失えば失うほどに心は満たされていく気がするよ。」
そうなのだ。
あの事件を切っ掛けに、俺は悪人をやめた。
抜け殻のように、自分の能力を使って人々が幸せに暮らせるように努めた。
あの事件を切っ掛けに、俺は悪人をやめた。
抜け殻のように、自分の能力を使って人々が幸せに暮らせるように努めた。
「で、高校時代。
責任感じたのか明日はアメリカに行っちゃった。
俺も某有名進学校に行って女性とは縁が無かったし初めての挫折もあったがそこそこ楽しく暮らした。
自分に正直に生きるってのがあれほど辛いなんて思わなかった。
だからやっぱり抜け殻みたいに生きたら楽になれたよ。
で、楽したまま大学に行った。
H大学って知っているか?
この町の近くに有るんだが……。」
「ああ、H大学?商学部と法学部が有名だね。」
「そう、そこだよ。国語と英語だけは得意だったから。」
「笛吹さん予想以上にインテリだったんだね……。勉強は得意そうだと思ってたけど。」
「勉強解らなかったら教えてやるよ。」
「はは……、そのうちね。」
「大学時代は女をとっかえひっかえ、まあ構内では真面目で通してたけどな。
ここでもう一人女にであう。
路傍に捨てられた子犬程度には可愛い奴でな、勢い余って家族捨てちゃった。」
「え!?」
「だから今の俺は天涯孤独の身の上だよ。
いい女でな、俺に久しぶりに生きている実感を思い出させてくれたよ。
大学も抜けたから誰かに会わせて生きる必要も無いしなあ!
誰を殺しても誰を生かしても誰に殺されても誰に生かされても自由!
俺の異能も発揮し放題!
俺はこうなる為に生きてきたってやっと解ったよ。
まあこの後も俺を殺しに来たから口説き落としてやった女とか色々居るけどプライヴァシー保護の為秘密だ。」
責任感じたのか明日はアメリカに行っちゃった。
俺も某有名進学校に行って女性とは縁が無かったし初めての挫折もあったがそこそこ楽しく暮らした。
自分に正直に生きるってのがあれほど辛いなんて思わなかった。
だからやっぱり抜け殻みたいに生きたら楽になれたよ。
で、楽したまま大学に行った。
H大学って知っているか?
この町の近くに有るんだが……。」
「ああ、H大学?商学部と法学部が有名だね。」
「そう、そこだよ。国語と英語だけは得意だったから。」
「笛吹さん予想以上にインテリだったんだね……。勉強は得意そうだと思ってたけど。」
「勉強解らなかったら教えてやるよ。」
「はは……、そのうちね。」
「大学時代は女をとっかえひっかえ、まあ構内では真面目で通してたけどな。
ここでもう一人女にであう。
路傍に捨てられた子犬程度には可愛い奴でな、勢い余って家族捨てちゃった。」
「え!?」
「だから今の俺は天涯孤独の身の上だよ。
いい女でな、俺に久しぶりに生きている実感を思い出させてくれたよ。
大学も抜けたから誰かに会わせて生きる必要も無いしなあ!
誰を殺しても誰を生かしても誰に殺されても誰に生かされても自由!
俺の異能も発揮し放題!
俺はこうなる為に生きてきたってやっと解ったよ。
まあこの後も俺を殺しに来たから口説き落としてやった女とか色々居るけどプライヴァシー保護の為秘密だ。」
気分が良くてたまらないという風に笑う。
笑う、嗤う、狂ったように嘲笑う。
他ならぬ己を笑い飛ばす。
笑う、嗤う、狂ったように嘲笑う。
他ならぬ己を笑い飛ばす。
ガチャ
「あ、その女が帰ってきた。」
「……ああ、そういうことか。」
「所長、頼まれてた鷹の爪買ってきましたよ―。
ってあれ?」
「紹介しよう、我が友よ。俺の契約する都市伝説だ。」
「えっと……、こんにちわ。」
「友さんですね?お話は聞いています、私のことはメルって呼んでください。」
「芽瑠?」
「メルだよ、メル。
ところでちょうど良く鷹の爪も届いたところだし……。
麻婆豆腐、――――――――――――――食うか?」
「……ああ、そういうことか。」
「所長、頼まれてた鷹の爪買ってきましたよ―。
ってあれ?」
「紹介しよう、我が友よ。俺の契約する都市伝説だ。」
「えっと……、こんにちわ。」
「友さんですね?お話は聞いています、私のことはメルって呼んでください。」
「芽瑠?」
「メルだよ、メル。
ところでちょうど良く鷹の爪も届いたところだし……。
麻婆豆腐、――――――――――――――食うか?」
その瞬間、事務所に沈黙が広がる。
友はしばらく思案するような素振りを見せた後
友はしばらく思案するような素振りを見せた後
「――――――――――――――頂こう。」
俺はゆっくりと頷くとエプロンを着けて台所に立った。
とりあえず俺は本物の麻婆豆腐を親友に食わせねばならないのだ。
メルは危険な気配を感じ取るとレイモンの所に素早く逃げ出した。
とりあえず俺は本物の麻婆豆腐を親友に食わせねばならないのだ。
メルは危険な気配を感じ取るとレイモンの所に素早く逃げ出した。
【上田明也の探偵倶楽部25~友と語る日~fin】