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連載 - ハーメルンの笛吹き-56

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匿名ユーザー

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【上田明也の探偵倶楽部32~彼の名前は~】

「……というわけで。
 この一見不可能に見える密室殺人、神によって行われた物なんかじゃなく、
 じつは一人の人間によって行われたとても悲しい事件だったのですよ。
 証拠はこの船の厨房に落ちていた物を私の助手が発見してくれました。
 そう、被害者の安田さんを刺し殺した……銀のナイフがね!」
「な、なんだってー!
 そんなトリックが有ったのか!
 そして無いと思っていた凶器がこの豪華客船の厨房にあっただなんて!」
「私には最初から解っていました。
 このナイフは捨てられない。
 何故ならこのナイフは安田さんと犯人である……、そう、貴方だ。
 鈴木さん、貴方の思い出の品ですからね!」
「確かに、俺が安田をやった……。でもなんでその話を?」
「この船の船長が教えてくれましたよ。」
「くそっ……、余計なことを……!」
「我々が幾ら操作しても解らなかったことをこんなにも簡単に……!
 さすがは本職の探偵といった所かな、笛吹君。」
「警部、それにしてもこんなことでは学校町署に靴が幾ら有っても足りませんよ。
 それでは私たちは部屋に戻らせて頂きます。」

名探偵笛吹丁、今日も華麗に難事件を解決する、の巻。
きゃー、ウスイサンカッコイー!とか心の中で思いながら俺は悠然と豪華客船の広間を後にする。
後ろについてくるのは助手の穀雨彼方。
笛吹探偵事務所の副所長である。
真面目に働くので最古参のメルを追い抜いて最近出世したばかりだ。







「だが探偵さんよ、あんた一つだけ見落としていることがあるぜ。」
「なんだ?」
「それは……トリックだ。
 アンタの考えるようなすげえトリックなんて俺の頭じゃ思いつかねえ。」

犯人の男が急にべらべらとしゃべり出した。
これは追い詰められた人間独特の開き直りという奴だろうか。

「いやあそれでもすげえよ。
 確かに、犯人は俺なんだ。
 方法は間違えどあんたは真実を指摘した訳だ。
 いやーまいった、これで俺は豚箱行きなのかな?」

男の身体が急に大きく膨らみ始める。
これは……都市伝説の気配?

「でもそれは嫌だしよぉ、しかたねーよなあ。
 うん、しかたねーよ。
 どうしよーもねえもんなあ!
 あの男の時と同じさ!
 しかたねーから!惰性で!とりあえず適当にやってやるよ!」

男の身体から銀色の毛が生える。
咆哮と共に男はオオカミに変貌した。






「おらあ!」

狼男のキバが警部に襲いかかる。
彼が都市伝説の手にかかるのは困るな。
俺は近くに立っていた警官の銃を盗み取るとすばやく狼男の目に向けて撃ち込んだ。
ピシュ
軽い音がすると同時に狼男は頭を抱えて転がった。

つぎに足の関節に照準を向けて残った弾丸を全て撃ち込む。

全てが終わってから警官は銃を盗まれたことに気がついた。

「何をやっているんですか笛吹さん!」
「人殺し、もしくは狼狩り。」
「そうじゃなくていつの間に銃なんて盗んだんですか!」
「俺の友人の知り合いに、かの有名なルパン三世の孫の従妹がいてね。
 泥棒のコツを教えて貰ったんだ。じつは俺の妹なんだけど。」
「だ~か~ら!」

次の瞬間。
狼男の身体が跳ね上がる。
彼の牙は今度は俺に向けられているようだ。
彼方が隠し持っている剣に手をかけるが、俺はそれを制止した。

狼男は拳を大きく振りかぶって俺に殴りかかってくる。







拳はまっすぐまっすぐ俺に迫る。
しかし、横から伸びてきた女性の細い腕がそれをいとも容易く止めた。

「よう、久しいね。」
「何時でも何処でもピンチに陥っているね。」
「いやぁ、こうでもしないと誰かに愛されてるって実感がわかないのよ。」
「ゆがんでらぁ。」
「解ってて助けに来るお前も相当だよ。」

女性は狼男の腹に強烈なボディブローをたたき込む。
ぐらついた狼男の足に俺は別の警官から盗み取った銃と弾丸を撃ち込んだ。
勿論、先ほどと同じ場所。

「警部、そいつが動けないうちにさっさと逮捕するなり『組織』に連絡するなりしてくれ。
 あと関係者の記憶の処理もお願い。
 俺はこの美人なお姉さんを部屋に連れ込んでお楽しみとしゃれ込むから。」
「解った。……しかし、また都市伝説か。この町は一体どうなるんだろうね。」 
「どんどん狂っていくんじゃないですか?」
「はぁ……、やれやれだ。」

クルリ、と後ろを振り返って女性に手を差し出す。

「それではお姫様、こちらへどうぞ。」
「お姫様に怪物倒して貰う王子様が何処に居るってさ。」
「彼方、そこらへんで遊んでろ。お小遣いは大量にくれてやる。」
「え、ちょ所長!?」

そう、女性の名前は明日晶と言った。




とりあえず俺は俺と彼方が泊まっている一等客室に彼女を招いた。

「……随分長い間姿消してたじゃないか。」
「………………。」
「なんだ、怒ってたのか……。煙草吸って良い?」
「………………。」
「おいおい、どうした?」
「すまんね、ちょっと頭冷やしてた。」

彼女は怒った時いつも無表情になる。
そして、「頭冷やしてた」とだけ言うのだ。
パン、と小気味いい音がして明日姉の拳が俺の頬にめり込んだ。
俺に対して怒って、殴ってくれる人間が居るなんて、少し幸せだ。

「……ごめん。なんか腹立って。」
「かまわんよ。女に殴られるのは慣れている。」
「あっそ。なんかそれもむかつく。」
「ごめんごめん、ところで何でいきなり姿消したのよ?
 レモンが何か良く解らないこと言っていたけど?」
「ああ、私が死ぬって予言だろ?
 あの子がね、泣いて言うんだよ。
 お前を助けに行くなって。」






「ふぅん、それは妙だな。あいつは俺の為なら人の命なんて簡単に切り捨てると思ってた。」
「ははは、あたし愛される女の子だから。」
「女の……子?」

もう一発平手打ちされた。
痛いけれど気持ちいい。

「というかね、私はもう正直死にたい気分なんですよ。」
「奇遇だな、俺も死にたい気分だった。」
「あんたはいーじゃん、そこそこ人生楽しんでるんだから。
 私なんて正義の味方の夢に破れた上にあんな弱々しかった弟が自分より上手にそれをやってるんだよ?
 恥ずかしくて死にたくなるわ。
 それもこれも委員長のせいだ。そう思うと怒りがこみ上げてくるんですよね。」
「俺だって飛行機のパイロットになりたかったんだよ。
 都市伝説との契約が無ければまだ右目の視力0.03だぞおい?
 探偵業務さえおぼつかんわ。」
「あーそうですか!
 とりあえずあの時私があんたを助けに行ってたら私はバラバラにされてたそうです!
 あのハンニバルとか言う奴に切り刻まれてたらしいです!
 ついでに委員長が怒りの力でスーパーサイヤ人になってたらしいです!」
「はふぅん。
 ……えっ、何それ怖い。
 俺って月見ると大猿になったりするの?」
「委員長のお父さんだってサイヤ人みたいなもんじゃない。」
「あいつはもう何かそもそも違う。人とつく種族名でカテゴライズしちゃいけない。」
「めっちゃマッチョじゃん、分身するじゃん、水面歩くじゃん!」
「だからあいつの話はするな!」




「えー、すっごい面白い人なのにー!絶対あの人波紋法体得してるって-!」
「ったくもう……、冗談に聞こえないないだろうが。
 それよりさっさと俺に話したい用件とか言うのを言えよ。
 だからこんな豪華客船で仕事してる探偵に会いに来るなんて連絡入れたんだろ?
 ていうか豪華客船で探偵と長時間一緒の部屋とか死にたいの?」
「あ、そうだった。私結婚するわ。国中さんって人だ。
 彼の妹の佐織さんと友達でね。
 結構まめに付き合おうだのなんだの口説かれてたからまあ良いかなって。」
「ああ、……小学校の時からの女友達が結婚する話とか聞くだけで死にたいな。」
「いや、さっき話したレモンちゃんが委員長との昔の縁なんぞ忘れて、
 これからは普通に幸せに生きろってね。
 これもやっぱり泣きながら言うんだよ。
 ああいう妹欲しかったわぁ。」
「あ、そういえばお前レモンに彼氏っぽい何か出来たの知ってる?」
「え、誰それ。」

コンコンコン

ドアが三回ノックされる。

「今は入って大丈夫だよん。」
「所長、とりあえず飲み物買ってきましたよ。」
「紹介するぜ明日、こいつは穀雨彼方、レモンの彼氏的なあれだ。
 うちの事務所で副所長をやっている。」
「其処になおれ小僧。」
「へぇ!?」

すまない彼方……。
後で謝るから許してくれ……。







「レモンちゃんとは清い付き合いかな?」
「汚くて何が悪い!」
「上田さん声真似しないでください!
 そもそも付き合ってるとかそういうんじゃないですから!」
「ほう、じゃあレモンと俺の会話を記録したボイスレコーダーを再生してみよう。」

ポチッとな。

「おいレモン、彼方ってぶっちゃけどうよあいつ?」
「んー……優しい。お前よりずっと優しい。
 優しくされたことって無いからなあ私。
 でも別に好きって訳じゃないからな?友達ってだけだからな?」

カチッとね。

「黒だろう?」
「黒だね、恋する乙女ボイスだわこれ。」
「二人とも何言っているんですか!」
「ま、落ち着け彼方、これはすでに質問じゃない。」
「その通り、これは……」

「「判決だ」」

明日と二人で正義の味方のまねごとをしていた頃を思い出す。
あの頃も二人でこう言っていた物だ。





「あんまりだ……。」

さて、数時間後。
関係について根掘り葉掘り聞かれたあげく両サイドから

「さっさと性的な意味でやっちまえ!」
「大切に丁重に扱わないとぶっ殺す!」

と正反対のようで居て正反対でも無いような
まるで俺と明日晶の関係のような
そんなことを延々わめかれ続けた彼方君は疲労の極みにたっしていた。
明日姉は俺と話がしたかっただけらしく俺と彼方に俺の愚痴を言うだけ言うと帰ってしまった。

「終わっ……た。」
「もう終盤お前と関係なかったよね、話題が。」
「ところで明日さんの用件ってなんだったんですか?」
「ああ、あいつ結婚するんだって。国中佐織の兄貴と。
 あいつら知り合いだったなんて知らなかったわぁ……。」
「国中……?」
「ああ、そーだよ。もしかしたらこれは少し調べなきゃいけないかもなあ。」
「国中佐織って確か所長が最初に!!」

「ああそうだよ。」

懐かしい名前だ。
一年前か?

「国中佐織は、俺が都市伝説の力で最初に殺した人間だ。」
【上田明也の探偵倶楽部32~彼の名前は~】

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