「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-59

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
【上田明也の探偵倶楽部35~君の願いを僕の祈りを~】

COAと呼ばれるネットゲームをやったプレイヤーの中で行方不明者が続出している。
そのような噂が出始めてからすでにいくらかの時間が経っていた。
俺はその噂を調査する依頼を受けてCOAの世界に都市伝説「赤い部屋」の力で入り込んでいた。
今回の舞台は冬の国である。
その中でも北の果て、最北の村に俺達は足を運んでいた。

「おお、そこの旅の方、今我々の村では巨大な竜と狼の群れに悩まされているのです。
 どうかお助けください!」
「ニア『はい』」
「……ニアってなんでしょう?」
「勘違いだ、俺は『はい』としか言っていない。
 ゲーム世界なんだし細かいことは気にするな!」
「……そうですか。」
「おお、ありがとうございます旅のお方!
 竜はこの先の洞窟に隠れ住んでおります!」
「いえいえ構うことはありませんよ、私は世の為人の為に旅しているのですから。
 さ、行きましょうか茜さん。」
「あ、待ってください旅の方この先は!」
「いざ行かん、無限の彼方へ!」
「あーあ、行っちまった……。」

この世界で俺はいかにも徳の高そうなお坊さんのふりをしている。
特に理由はないが西遊記を気取りたくなったのだ。
丁度俺の契約した都市伝説の「赤い部屋」が使うPCの鎧の下は獣人っぽい姿なので今の俺はまさに三蔵法師のような雰囲気だった。






「明也さん、このクエストが終われば聖杯までは残りわずかです。
 途中で邪魔が入らなければすぐにでも目的の物は手に入るでしょう。
 でも…………。」
「でも?」
「最初、ここに来た目的って行方不明者の捜索じゃなかったですかね?」
「ああ、そういやそうだったね。
 でも誰々を助けてこいとは言われていない。
 むしろ聖杯を見つけてくることの方が優先だぜ?」
「どうせ本物の聖杯じゃない、玩具なのにですか?
 現実に持ち出せても大した意味が有るとは思えないんですけど……。」
「うーん、俺の予想だけどね。
 確かにあれは偽物の聖杯だろう。
 何の魔力も奇跡も帯びていないかもしれない。
 でもあれを聖杯と見なしてサンジェルマンが何か細工をすれば、
 聖杯を呼び出す道具にはなるんじゃないかな?」
「そんな滅茶苦茶な話が有りますか?」
「ああ、無いね。
 もしそうなったとしても土壇場で俺がそれを奪う。
 まあ本当の理由なんて結局暇潰しなんだよ。
 俺も暇、奴も暇、黙って暇するくらいならそんな妙な物の探求にかけた方が生産的だよ。」
「堕落してますねえ……。」
「高みに登った人間にしか堕落は許されないんだ。
 堕落は高等な人間の特権だよ。」







下らないことを喋り続けながら旅は続く。
村を出るとそこは一面の銀世界。
氷と雪とでがちがちに固められていた。
この前まで居た砂漠とは打って変わって今度の旅は極寒の大地。
この先はあまりの暴風雪で移動もままならないようだ。

「犬ぞりとか……必要じゃないですか?」
「くっ、駱駝一号を乗り捨てたのが失敗だったか。」
「だから連れて行こうと言ったじゃないですか!」
「おおい旅の方!
 ここから先は犬ぞりがないと進めないよ!
 ソリなら家にあるから買っていくかい?」
「っくそ!ドンピシャじゃないか!
 どうせこの村で手に入るんだろう犬ぞり!?」
「いいえ、少し戻った森林地帯でわんこを買わないと……。」
「なんでそういうこと言わないのかな茜さん?」
「言いましたよ、明也さんが聞いてないだけです!
 クリア経験者の話はちゃんと聞いてください!」
「くそっ、こうなったら……!」
「あっ、危ない!」

俺は足が凍るように冷たくなるのにも構わずに雪の嵐の中に踏み出した。







白い嵐の中に黒い影が舞う。
一匹、二匹、三匹、その影は時と共に増えていく。
雪原―――彼等の狩猟域――の中に一人迷い込んだ哀れな獲物を確実に仕留めるという意志の下でその個体共は群体になる。
黒い影、ここら一帯を縄張りにする狼たちはその時、紛れもなく飯にありついたと思い込んでいた。
そしてついに功を焦った一匹が獲物に飛びかかり、
それに続いて二匹目三匹目が飛びかかり、
大量の狼たちが雪原に迷い込んだ男に襲いかかった。
だが、群れのボスだけは違った。

彼は気付いていたのだ。

ガチャリ
弾丸が装填される音

まあ気付いていたところでどうしようもない。

背後で起こった爆音に振り返る狼たち。
音の中心には哀れな姿で転がる彼等のリーダーと、この俺上田明也。

「はっはっは、この俺様がこれからは群れのリーダーだ!」

バリバリ日本語なのだがどうやら狼には通じているようだ。
何匹かの狼は俺大して戦意むき出しである。

「文句のある奴は全員かかってこーい!」

そう言う前に何匹かの狼は俺に飛びかかってきた。








さて十分後
俺は先ほどの村に無事帰ってきていた。

「……ただいまー。」
「おお旅の人、お連れさんが心配していたよ……ってうわ!?」

村のおじさんが凝視しているのは俺についてくる狼の群れだ。
普段襲撃に悩まされている村人はさぞ肝が冷えたに違いない。

「おっさん、犬ぞり売ってくれ。」
「あと俺の連れも呼んでおいてくれ、今からこいつらにソリ引っ張らせるから。
 村には入らない方が良いだろう?」
「あ、ああ急いで呼んでくるよ。」

さて、これであとはドラゴンを倒すだけだ。
俺はそう思って煙草を一服することにした。
気付くと俺の後ろに子供が一人立っていた。
男の子だ。
ヤケに暗い眼をしている。

「あの、お兄さん?」
「ん、どうした坊主。」
「お兄さんって…………、ハーメルンの笛吹き男?」
「いいえ、僧ですよ。」

俺の正体を知っている?
妙なガキだ、幸い穀雨も居ないし……殺そう。
俺は迷うことなく冬の大気に冷えたモーゼルの引き金を引いた。








冬の澄んだ空気に殺伐とした銃撃の音が響く。
何度でも何度でも、有らん限りの弾を撃ち込む。
俺も流石にこれだけで少年の命を刈り取れるとは思っていなかったが……

「これは、へこむぞぉ?」
「お兄さんがハーメルンの笛吹き男なら、僕のおじいちゃんの仇だよ。」

俺が撃ち込んだ銃弾を少年は全てつかみ取っていた。

「だから、僧だよって言っているじゃねえか!
 何か文句有るのか?」
「わかったよ、そうなんだね。」
「そうじゃねえ!僧なんだ!」

次の瞬間、少年は見た目からは予想も出来ないような動きで殴りかかってきた。
その拳は俺の顔面に触れる直前で見えざる手に弾き飛ばされる。

「……糞餓鬼め、人間のくせにこの俺に都市伝説使わせやがって。
 恨みなら買う覚えは幾らでもあるが雑魚らしく素直に近代兵器でくたばりやがれ。」

俺はスカイフィッシュの都市伝説で少年の身体を思い切り弾き飛ばしたのだ。
しかし、本来であればスカイフィッシュの速度で少年の身体は両断される筈だった。
目論見が外れた、か。
異常に丈夫だ。
丈夫ではあるが、都市伝説の気配は感じない。
そもそも都市伝説の気配が無かったからここまで丈夫だとは思わなかったのだ。





「お前のせいでおじいちゃんが死んだんだ!」
「おじいちゃんおじいちゃんうるせえよ!
 可愛い女の子でもないくせにおじいちゃん連呼するんじゃねえ!
 きもいわ!ていうか老若男女殺しまくっているから誰のことかしらねえし!」
「馬鹿にするな!僕にとっておじいちゃんはたった一人だったんだ!」
「あ、でもお前女装させれば結構可愛いなあ。
 良いぞ、俺の命をいつも狙う女装っ男。
 毎晩悔しさに歯がみしながらも快楽に溺れていく訳だ。
 良いぜ良いぜ、お前、かかってこいよ。
 返り討ちにして下僕にしてくれる。」
「…………?」
「あ、ごめんね。まだ早かったよね。
 大丈夫、君を足腰経たなくしてからゆっくり教え込んであげるから。
 無論、身体にな。
 さーかかってこい糞餓鬼、お前のおじいちゃんの仇は多分俺だ。」
「やっぱりそうなんじゃないか!
 あの金髪のおにいちゃんの言うとおりだっ――――――!」

其処まで少年が言いかかったところでスカイフィッシュの一撃が入る。
今度は良いところに直撃したらしく、赤い血が……?
違う。
血の色が違う。
白い、真っ白だ。

「……お前、人間か?」
「知らないよ、僕は金髪のお兄ちゃんにこの力を貰ったんだい!」

成る程、俺の為に面白い趣向を用意してくれたらしい。
俺は中々気の利く友人をもてたようだ。







「そうかー、じゃあ残念ながらそのお兄ちゃんは俺の友達だ。
 君はきっと俺に遊ばれる為に力を与えられたかわいそうな子だよ。」
「そんなことないもん!
 金髪のお兄ちゃんは人殺しなんて許せないって言っていたもん!」
「そーなのかー、じゃあもっと残念なことに君も人を殺そうとしている訳だ。」
「――――――――――!?」
「もっと気になるんだけどさ、君のおじいさんってそもそも人だったのかな?
 人殺しが許せないんだよね?
 まあそうだよね、その感覚は普通だ。
 でも君のおじいさんはじつは邪悪な悪魔で世界征服を狙っていたと言ったら信じるかな?」
「そ、そんな馬鹿なこと……」
「ああ、あり得ないね。だって今の嘘だもの。
 君のおじいさんは俺の手にかかってそれは残酷に死んだよ。」

酷い嘘だ。
俺はさっきまでお前の爺さんなんて覚えていないと言ったのだ。
その通り、俺はまったくこの可愛らしい少年の祖父など覚えていない。

「でまあここで質問。
 君は人殺しについてどう思っているんだ?
 人殺しが許せないんじゃないだろう?
 おじいちゃんを殺した人間が許せないだけだ。
 俺が人間を殺した事なんてどうでも良いと思っている。」
「そ、そんなの、人を殺しちゃ駄目じゃないか!」
「じゃあなんでお前は俺を殺そうとしているんだ!
 矛盾しているじゃないか!え?
 俺は良いと思ってるね、俺にとって邪魔なんだから人の一人や二人勝手にオッ死ねと思ってるよ。
 お前は人を殺せないなら俺を殺すな!俺こそが間違いなく人間だ!」 






「ぼ、僕は人だって殺せるもん!お前はじいちゃんを殺したじゃないか!」
「この人でなしが!お前のお父さんお母さんはそんなことさせる為にお前を生んだんじゃねえ!
 お前に幸せになって貰う為に生まれてきたんだ!」
「お前を殺さなきゃ僕は幸せに……」
「なれないと思うか?
 逆に聞くぜ、いくら仇でも人を殺してしまったお前を受け入れてくれる人間は居るのか?
 お前の両親ですら人殺しのお前を受け入れてくれないだろう。
 お前は人を殺さない方が幸せになれる!
 さぁ殺すな!全力で俺を殺すな!」

そう言って俺は自らの身体に深くナイフを突き立てた。

「ほら、見ろ!
 見てみろ!これが人間の身体だ!
 血がどくどくと流れている。
 このまま放っておけばあと数分保たずに死ぬ!
 お前の仇はこんなにあっけなく死ぬんだ!
 そしてこんなあっけないものを殺すだけでお前の人生もあっけなくお了いになる!
 嫌だったらさっさと助けでも呼んでこいよ!
 ほら!急げ!
 このまま見捨てたらお前は人殺しだぞ?」
「う、う、うわあああああああああああああああ!」 
「ほら、やっぱり殺せないんじゃないか糞ガキめ。
 だったら人を助けて生きて行きなさい。
 その方が君に向いている、さあまずは俺を助けたまえ。」

少年は助けを求める為に村の中に走っていった。
それを確認してから俺は自分の身体に回復薬をかけた。






五分後
俺は村の人と茜さんを連れてきた少年に説教と言う名の洗脳を始めていた。
村の人にはさっさと帰って頂いた。

「そうだよ、『君は人なんて殺せない心優しい男の娘』だ。
 良かったね、君の手が赤く染まらなくて俺はとても嬉しいよ。
 そのまま『復讐なんてやめるんだ』。
 君のおじいさんを殺してしまったことは俺も正直悪かったと思っている。
 今からでも謝らせて欲しいくらいだよ。
 君の体を弄った男について俺は知っている。
 俺の昔なじみの友人でね。
 先ほど言った通り彼の娯楽の為に君に何かして俺と戦わせていただけだと思うんだよ。
 あいつは俺のことを憎んでいたからなぁ……。
 まずは俺と一緒に来い。
 そして布団を敷こう、な?
 そういえば君は俺の名前を知らなかったね。
 俺の名前は笛吹、笛吹丁だ。
 さあついてきなさい、あと君の名前も教えてくれよ。」
「え、ああ…………。僕の名前は……」

少年が口を開いた瞬間だった。
彼の身体が一瞬で火に包まれる。
彼の命が燃え墜ちる。

「―――――――!?」
「裏切り者め…………、簡単に踊らされやがって!」






今度は俺と同じくらいの年頃の男性が村の入り口に立っていた。
腕に炎を纏っているところから見ると少年を灰に変えたのはどうやらこいつらしい。

「しかもサンジェルマンまで俺たちを騙していたっていうのか!?
 まあ良いや、ハーメルンの笛吹き、名前は笛吹丁だな……。
 覚えたぞ!」

そう言うと男はもの凄い速さで逃げ出した。
俺に勝てないと踏んだのだろうか?

「待て!」

と言って待つ道理はない。
男は一瞬でその場から消えてしまった。

「チッ、おいそこのガキ!
 大丈夫、……じゃあねえな。
 ゲームの世界だから死んでいるのかどうか解らないが……。
 もしかして俺余計なこと言っちゃったかな?」
「明也さん……。」
「ん、この子供はまあどうでも良いよ。
 それよりも我が友の実験の邪魔しちゃったかもしれないのが心苦しいなあ……。
 さっ、急いでドラゴン狩って現実世界に戻ろうぜ。あいつから今の奴らについて話聞かなきゃ。」

その時茜さんは泣くような脅えるような顔をして俺を見た。
彼女の気持ちは解るのだが、同じ気持ちになれる訳じゃない。
彼女もまた俺の気持ちなんてわからないのだ。
ああ、俺の気持ちを解らない奴なんてみんな居なくなっちゃえば楽だろうに。
【上田明也の探偵倶楽部35~君の願いを僕の祈りを~fin】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー