【上田明也の協奏曲23~生まれ変わる旋律~】
ある日のこと、お使いにやった穀雨兄妹が帰ってこない。
あいつらが帰って来ないと俺の大好きな獄炎麻婆豆腐が食えないのだ。
ちょうと甜麺醤を切らしていたのが痛かった。
よく考えればこんな時間に買い物なんて都市伝説に襲ってくれって言っているようなものだったのだ。
時刻はまさに逢魔が時。
魔に会うならば今しかない薄闇の時間。
まあ彼方が大抵の都市伝説に負けるとも思えないので俺はゆっくり彼らの帰りを待とうと思っていた。
あいつらが帰って来ないと俺の大好きな獄炎麻婆豆腐が食えないのだ。
ちょうと甜麺醤を切らしていたのが痛かった。
よく考えればこんな時間に買い物なんて都市伝説に襲ってくれって言っているようなものだったのだ。
時刻はまさに逢魔が時。
魔に会うならば今しかない薄闇の時間。
まあ彼方が大抵の都市伝説に負けるとも思えないので俺はゆっくり彼らの帰りを待とうと思っていた。
「上田明也ッ、居るか!?」
「よう、どうした橙?」
「急いで穀雨兄妹を迎えに行け!間に合わなくなるぞ!」
「間に合わなくなる?」
「とにかく急ぐんだ!」
「解った。サンジェルマンにも伝えておいてくれ。メル、俺と一緒に来い。」
「解りました所長。」
「急いで穀雨兄妹を迎えに行け!間に合わなくなるぞ!」
「間に合わなくなる?」
「とにかく急ぐんだ!」
「解った。サンジェルマンにも伝えておいてくれ。メル、俺と一緒に来い。」
「解りました所長。」
どうやら荒事になるらしい。
俺はすばやくコートを羽織ると事務所からでかけた。
俺はすばやくコートを羽織ると事務所からでかけた。
橙に指示されたとおりの場所にバイクを飛ばしていくとそこには穀雨兄妹が居た。
当然、彼らを危機に追い込んでいる人間も。
当然、彼らを危機に追い込んでいる人間も。
「あいつか……。」
『組織』の黒服H-No.1『ハンニバル』
またの名を『不死身の狂人』
彼は今まさにその手を吉静達に伸ばそうとしていた。
またの名を『不死身の狂人』
彼は今まさにその手を吉静達に伸ばそうとしていた。
「その手で、吉静ちゃん達に触れないでもらおう。」
俺は彼の前に立ちふさがると彼の目をジッと見据える。
嫌な目だ。
俺と同じように目的の為に手段は問わないタイプの人間に違いない。
だから嫌いなのか?
違うね。
俺は俺と同じような、いいやそれ以上にぶっとんだ人間に会えたら俺はどれほど幸福だろう?
たとえばあの禿げた黒服、たとえばあの殺人鬼、たとえばあのひとりぼっちの少女。
嫌な目だ。
俺と同じように目的の為に手段は問わないタイプの人間に違いない。
だから嫌いなのか?
違うね。
俺は俺と同じような、いいやそれ以上にぶっとんだ人間に会えたら俺はどれほど幸福だろう?
たとえばあの禿げた黒服、たとえばあの殺人鬼、たとえばあのひとりぼっちの少女。
「待たせたね吉静ちゃん、俺が君達を、助けに来た!!!」
「――――――――っ明也お兄ちゃん!!」
「――――――――っ明也お兄ちゃん!!」
俺がのこいつが嫌いな理由はたった一つ。
そう、こいつは俺の大切な人々を傷つけようとしている。
だから俺は、こいつを許さない。
だから俺は、こいつを許さない。
「メル、吉静ちゃん達を連れて逃げろ!」
「はい!……マスター、無茶はしないでくださいよ!」
「はい!……マスター、無茶はしないでくださいよ!」
メルが、彼方と吉静を回収していく
吉静が、上田を置いていくことを拒否するように叫んでいる声が聞えたが……今は、それに答える訳にも、いかない
吉静が、上田を置いていくことを拒否するように叫んでいる声が聞えたが……今は、それに答える訳にも、いかない
「ふむ?………君が、ハーメルンの笛吹きの契約者か」
「さて……どうだろうな。」
「さて……どうだろうな。」
メルが二人を運んで逃げたのを確認すると俺はハンニバルに向き直る。
それにしてもこっちの都市伝説だけが知られているのは厄介だ。
とりあえず相手の都市伝説を調べるとしよう。
先手必勝、俺はコートの袖に隠していた銃を取り出し…………
それにしてもこっちの都市伝説だけが知られているのは厄介だ。
とりあえず相手の都市伝説を調べるとしよう。
先手必勝、俺はコートの袖に隠していた銃を取り出し…………
?
右腕が軽い。
いいや、右腕がない。
この一瞬で距離を詰められて、腕を飛ばされた。
いいや、右腕がない。
この一瞬で距離を詰められて、腕を飛ばされた。
――――解った、この勝負、俺に勝ち目はない。
何分稼いで逃げられるだろうか?
いいや、逃がしてくれるだろうか?
何分稼いで逃げられるだろうか?
いいや、逃がしてくれるだろうか?
「このっ……!」
「遅い」
「遅い」
近接戦闘ならば村正を使えばいい。
あれならある程度はこいつとも渡り合える。
俺は村正に手をかけた。
あれならある程度はこいつとも渡り合える。
俺は村正に手をかけた。
だが、次の瞬間、視界が上下反転する。
やれやれ、俺の胴は真っ二つになった。
「検体の回収を、邪魔されては困るのだがね」
ハンニバルは俺が死んだと思ったらしい。
そのまま剣を鞘に収めてその場を歩き去ろうとする。
後ろから不意打ち?
いいや、無理だね。
こんな身体で何が出来る?
そのまま剣を鞘に収めてその場を歩き去ろうとする。
後ろから不意打ち?
いいや、無理だね。
こんな身体で何が出来る?
「…ま、て!」
「…?」
「…?」
俺に出来るのは醜く時間を稼ぐことだけだ。
あと一秒待てば、サンジェルマンが助けに来るかも知れない。
あと十秒待てば、俺の傷は『ハーメルンの笛吹き』の能力が進化して都合良く治るかも知れない。
そんな悪あがきを積み重ねて、あいつらが逃げ切れば、俺の勝ちだ。
あと一秒待てば、サンジェルマンが助けに来るかも知れない。
あと十秒待てば、俺の傷は『ハーメルンの笛吹き』の能力が進化して都合良く治るかも知れない。
そんな悪あがきを積み重ねて、あいつらが逃げ切れば、俺の勝ちだ。
ハンニバルは俺の姿を興味深そうに見下ろす。
何も言わずに肺を貫かれた。
焼けるように熱い、痛い、痛い、苦しい。
今すぐにでも逃げ出したい。
怖い。
何も言わずに肺を貫かれた。
焼けるように熱い、痛い、痛い、苦しい。
今すぐにでも逃げ出したい。
怖い。
「ふぅむ……はて、既に二度は殺したつもりだが……まだ、生きているか」
呼吸が上手くいかない。
精神が乱れている。
精神が乱れている。
「…さて」
俺の身体から剣が抜き放たれる。
呼吸を整えろ、感情を乱すな、痛くても怖くても、まだ負けちゃ駄目だ。
呼吸を整えろ、感情を乱すな、痛くても怖くても、まだ負けちゃ駄目だ。
「君は、何度殺せば死ぬのかね?」
「ハッ、知りたいか?」
掠れた声しか出ない。
だが構わない。
会話さえ出来れば俺の領域なのだ。
だが構わない。
会話さえ出来れば俺の領域なのだ。
「俺のハーメルンの笛吹きは操作能力以外にも面白い特性を持っている。
本体が大量にいる、すなわち群体なんだよ。」
本体が大量にいる、すなわち群体なんだよ。」
肺からの流血が塞がり始めている。
どうやら会話はなんとかできそうだ。
咳と共に大量の血液をはき出すと呼吸が一気に楽になった。
どうやら会話はなんとかできそうだ。
咳と共に大量の血液をはき出すと呼吸が一気に楽になった。
「群体型の都市伝説か、一度に全滅しづらいのが利点だが……
一体一体のパワーが弱すぎて戦闘には使いづらいな。」
「その通り。あ痛っ!」
「復活されては困るが君の話には興味が沸いた。
もっと話したまえ。」
一体一体のパワーが弱すぎて戦闘には使いづらいな。」
「その通り。あ痛っ!」
「復活されては困るが君の話には興味が沸いた。
もっと話したまえ。」
残った腕も落とされてしまった。
が、出血量は少ないし痛みも薄い。
武器を仕込んだコートも奪われた。
が、出血量は少ないし痛みも薄い。
武器を仕込んだコートも奪われた。
「あんたらの研究者の一部が使っている言葉で言うと……
属性は童話、形態は群体(レギオン)、モーメントは操作、都市伝説名『ハーメルンの笛吹き』ってところだな。」
「我々の分類とは少々違うな、それはF№の分類方法だ。」
「ああそう、それはまあどうでも良いんだ。」
属性は童話、形態は群体(レギオン)、モーメントは操作、都市伝説名『ハーメルンの笛吹き』ってところだな。」
「我々の分類とは少々違うな、それはF№の分類方法だ。」
「ああそう、それはまあどうでも良いんだ。」
狙い通り。
俺の“言葉”は相手の感情を加速する能力もある。
今は“興味”を加速させているのだ。
あとはこのまま時間を稼がせて貰おうか……。
俺の“言葉”は相手の感情を加速する能力もある。
今は“興味”を加速させているのだ。
あとはこのまま時間を稼がせて貰おうか……。
ゴスンゴスンゴスン!
このまま時間を稼いで助けを待つ、そう思っていた矢先だった。
突如、目の前をヒラヒラと大量の五寸釘が舞う。
俺が反応するよりもずっと早くハンニバルは剣でそれを……受けられない。
質量の無い釘。
そんな物を操れるのは俺の知り合いにはたった一人しか居ない。
このまま時間を稼いで助けを待つ、そう思っていた矢先だった。
突如、目の前をヒラヒラと大量の五寸釘が舞う。
俺が反応するよりもずっと早くハンニバルは剣でそれを……受けられない。
質量の無い釘。
そんな物を操れるのは俺の知り合いにはたった一人しか居ない。
「貴方は貴方は誰なのかな?」
釘が直撃した衝撃――まあ質量もないのに衝撃とは妙だが――でハンニバルは体勢を崩す。
「私の私のお兄ちゃんをこんなにボロボロにするなんて、
絶対に、許さない。
―――――――――絶対にだ。」
拝戸純、ひとりぼっちの異常な少女。
小学生程の背丈しかない彼女が、鬼の形相でハンニバルに向かっていた。
小学生程の背丈しかない彼女が、鬼の形相でハンニバルに向かっていた。
当然、彼女が敵う相手ではないが一瞬の隙はできた。
落とされていた腕をサンジェルマンから貰った薬ですばやくつなぎ止めると村正を握りしめる。
落とされていた腕をサンジェルマンから貰った薬ですばやくつなぎ止めると村正を握りしめる。
「お前、なんでこんな所に!?」
「お兄ちゃんの動向はいっつも把握してるよ、だって妹だもん!」
「いやいや、どう考えてもそういう問題じゃないだろ?」
「アハハ、でも情けないよねーお兄ちゃんの契約している都市伝説。
あの二人を送り届けた後自分も逃げちゃってるんだもん。
私は私はいつでもお兄ちゃんの傍に居るからね!」
「お兄ちゃんの動向はいっつも把握してるよ、だって妹だもん!」
「いやいや、どう考えてもそういう問題じゃないだろ?」
「アハハ、でも情けないよねーお兄ちゃんの契約している都市伝説。
あの二人を送り届けた後自分も逃げちゃってるんだもん。
私は私はいつでもお兄ちゃんの傍に居るからね!」
くそっ、ヤンデレ万歳ってことにしておいてやる!
「……ふむ、君程度の存在がどのように私を許さないのだね?」
「純、“隠れろ!”」
「解った!」
「純、“隠れろ!”」
「解った!」
ハンニバルは起き上がり純に剣を振るう。
その動きは矢張り速い、速いが彼女が居るのはそこではない。
彼の剣は見事に空振りした。
その動きは矢張り速い、速いが彼女が居るのはそこではない。
彼の剣は見事に空振りした。
「…………?」
「手品は一回きりだぜ、もう一勝負お願いするよ。
あんたが勝ったらさっきの話の続きだ。」
「いいや、君と“会話”するのは良くないと見た。」
「手品は一回きりだぜ、もう一勝負お願いするよ。
あんたが勝ったらさっきの話の続きだ。」
「いいや、君と“会話”するのは良くないと見た。」
そう言うと、ハンニバルは眼帯を外して周囲をクルリと見回した。
「冷静に考えればだよ、君の話は有益とは言えあの時急いで聞くべき話ではない。
戦闘後、君を首だけにでもして聞き出せば良い話だ。
なのに私は君の話に異常なまでに興味を示した。普段の私からすればあり得ない。」
戦闘後、君を首だけにでもして聞き出せば良い話だ。
なのに私は君の話に異常なまでに興味を示した。普段の私からすればあり得ない。」
再びどこからともなく釘が飛んでくる。
ハンニバルは簡単に全てを躱して見せた。
ハンニバルは簡単に全てを躱して見せた。
「純、深追いはするな!ネタが割れる!」
「もう遅い!そこの少女の居場所は、私の“眼”には見えている!
隠れるだけの能力ならば、私の“眼”からは逃れられん!」
「もう遅い!そこの少女の居場所は、私の“眼”には見えている!
隠れるだけの能力ならば、私の“眼”からは逃れられん!」
ハンニバルは純の居る方向に間違いなく向き直る。
それを止める為に俺は村正で斬りかかった。
袈裟切りを苦もなく受け流して反撃の一太刀を狙ってくる。
だが俺も村正との契約による補正を受けている。
今度はギリギリで見切ってそれをギリギリかすり傷で抑える程度のことはできた。
それを止める為に俺は村正で斬りかかった。
袈裟切りを苦もなく受け流して反撃の一太刀を狙ってくる。
だが俺も村正との契約による補正を受けている。
今度はギリギリで見切ってそれをギリギリかすり傷で抑える程度のことはできた。
「お前の会話、あの少女の存在の薄さ、どちらも都市伝説の気配を感じない。
思い出した、まえに見たF№の研究資料に有ったぞ!
都市伝説と契約もせずに妙な能力を持つ人間が居ると。
そうだ、奴らはそう言う人間を異常(アブノーマル)と呼んでいたな。」
思い出した、まえに見たF№の研究資料に有ったぞ!
都市伝説と契約もせずに妙な能力を持つ人間が居ると。
そうだ、奴らはそう言う人間を異常(アブノーマル)と呼んでいたな。」
ハンニバルの顔が歓喜に満ちる。
「良いぞ!非常に良い!貴重な献体が一度に二つも手に入るのか!」
ハンニバルが舞うような動きで剣を、三回突きだしてくる。
太刀筋の一つ一つが蛇のように曲がりくねる錯覚。
まるで剣が生きているようだ。
受けてもすり抜け、弾いても追いすがり、躱せば食らいつく。
何をしても剣を合わせる度に俺の傷が増えていく。
太刀筋の一つ一つが蛇のように曲がりくねる錯覚。
まるで剣が生きているようだ。
受けてもすり抜け、弾いても追いすがり、躱せば食らいつく。
何をしても剣を合わせる度に俺の傷が増えていく。
「言葉を使うお前、ハーメルンの笛吹きの契約者。
上田と呼ばれていたな?
お前は会話できなくては人の心を揺り動かせない。
しかも、私にそれがバレた以上、私はお前の話を聞かないし聞いても全部無視する。
それでお前はただの人だ。」
上田と呼ばれていたな?
お前は会話できなくては人の心を揺り動かせない。
しかも、私にそれがバレた以上、私はお前の話を聞かないし聞いても全部無視する。
それでお前はただの人だ。」
厳密には少し違う。
人間というのは思考するのにも言葉を使う生き物なのだ。
ある言語学者が言うには混沌とした思考に人間は言葉で区切りをつけているそうだ。
だから俺の言語使用能力は自分の脳内にだって及ぶ。
この一瞬の斬り合いの中でもこんなに大量のことを考えられているのはそれが理由だ。
人間というのは思考するのにも言葉を使う生き物なのだ。
ある言語学者が言うには混沌とした思考に人間は言葉で区切りをつけているそうだ。
だから俺の言語使用能力は自分の脳内にだって及ぶ。
この一瞬の斬り合いの中でもこんなに大量のことを考えられているのはそれが理由だ。
「次にお前、存在感の薄い少女。
純と呼ばれていたな?
お前は存在を気付かれづらいだけ、私の眼の前にはもっとも無意味な能力だ。」
純と呼ばれていたな?
お前は存在を気付かれづらいだけ、私の眼の前にはもっとも無意味な能力だ。」
カキィン!
村正が宙に舞う、駄目だ、村正を使っても勝てない。
ハンニバルの剣が俺の首に落ちてくる。
村正が宙に舞う、駄目だ、村正を使っても勝てない。
ハンニバルの剣が俺の首に落ちてくる。
ドスゥン!
突然、ハンニバルの頭上に自動販売機が落ちてくる。
彼は俺の首に向かっていた剣でそれを真っ二つにした。
切断されたペットボトルから大量の水が飛び散った。
彼は俺の首に向かっていた剣でそれを真っ二つにした。
切断されたペットボトルから大量の水が飛び散った。
「純、今の内に逃げろ!」
先ほど純が撃ち込んだ『丑の刻参り』が今更効いたようだ。
偶然が俺たちに味方してくれたらしい。
一瞬だけ、ハンニバルの視界が塞がった。
偶然が俺たちに味方してくれたらしい。
一瞬だけ、ハンニバルの視界が塞がった。
「嫌だ!お兄ちゃんを置いて逃げられない!」
しかし、そのチャンスを彼女は無駄にした。
「くっ、…………なんで!」
「だってお兄ちゃん一人で戦っているもん!
私も私もお兄ちゃんの傍に居たい!助けたい!
お兄ちゃんがずっと辛かったり痛かったりするのを隠しているの、私知ってるんだからね!
そんなお兄ちゃんを見てると私も悲しいんだよ!
だから頼ってよ!もっと信じてよ!
好きだ、愛してる、信頼している、って言っておいてお兄ちゃんは誰にも心を開いてない!
守るだけが愛情じゃないよ!」
「それでも、俺はお前を守りたいんだ。」
「だってお兄ちゃん一人で戦っているもん!
私も私もお兄ちゃんの傍に居たい!助けたい!
お兄ちゃんがずっと辛かったり痛かったりするのを隠しているの、私知ってるんだからね!
そんなお兄ちゃんを見てると私も悲しいんだよ!
だから頼ってよ!もっと信じてよ!
好きだ、愛してる、信頼している、って言っておいてお兄ちゃんは誰にも心を開いてない!
守るだけが愛情じゃないよ!」
「それでも、俺はお前を守りたいんだ。」
……その通りだ、俺は彼女に返す上手な言葉が見つからない。。
しかし俺はハンニバルと純の間に立った。
少なくとも今ここにおいて、俺は妹を守る義務がある。
しかし俺はハンニバルと純の間に立った。
少なくとも今ここにおいて、俺は妹を守る義務がある。
「何だ今のは?呪いの類か……。」
ハンニバルが剣を鞘に収めて目を閉じる。
それからすぐに何かガラスの割れるような音がしたかと思うと、純が悲鳴を上げて顔を押さえる。
彼女の両手の隙間から大量の血が流れていた。
それからすぐに何かガラスの割れるような音がしたかと思うと、純が悲鳴を上げて顔を押さえる。
彼女の両手の隙間から大量の血が流れていた。
「運を奪う呪いか。だがそれも呪いだと解れば問題ない。」
「呪い返しか……、大丈夫か純?」
「呪い返しか……、大丈夫か純?」
隙間から見た様子だと顔に傷を受けた訳じゃないらしい。良かった。
となるとあの大量の血は鼻血だろう。
だが都市伝説の呪い返しによるダメージならばそれは直接脳にダメージをおっていることになる。
だとすれば、今彼女は耐え難い激痛を受けているはずなのだ。
しかし、――――――――彼女は笑っていた。
となるとあの大量の血は鼻血だろう。
だが都市伝説の呪い返しによるダメージならばそれは直接脳にダメージをおっていることになる。
だとすれば、今彼女は耐え難い激痛を受けているはずなのだ。
しかし、――――――――彼女は笑っていた。
「痛い……、痛いよ……。
すごく、頭の中が熱くて、すごく痛いけど!!
これって私も私もお兄ちゃんと一緒に戦ってるってことだよね?
ほらお兄ちゃん、これで一緒だよ?」
「お前は何を…………、いや、そうだな。その通りだ。」
すごく、頭の中が熱くて、すごく痛いけど!!
これって私も私もお兄ちゃんと一緒に戦ってるってことだよね?
ほらお兄ちゃん、これで一緒だよ?」
「お前は何を…………、いや、そうだな。その通りだ。」
狂っている。狂っているが、それはきっとこの世界で誰よりも俺を愛している人間の言葉。
好きなのではなく、愛している、それならば俺は彼女の行いを否定することはできない。
覚悟を決めよう。
好きなのではなく、愛している、それならば俺は彼女の行いを否定することはできない。
覚悟を決めよう。
「純、一緒に戦ってくれ!」
「うん!」
「うん!」
もう一度ハンニバルの方へ向き直る。彼の構えに一分たりとも隙はない。
それにしても右腕が軽い。無いから当たり前か。
武器やパソコンを仕込んだコートはすでに奪われた。
あるのは村正一本のみ。
相手は剣士、今までに会ったことない位強い剣士。
剣士に剣で勝てる訳がない。
俺は死ぬのだろうか?
いくらメルとの契約で命を使いつぶせるとは言ってもこのまま血が流れ続ければ立っては居られない。
そうなったら今度こそお終いだ。
背中に感じるわずかな体温。
小さな身体、震えている、怖いのか?
そうだ、怖いんだ。
こんな小さな身体の何処に、あの剣鬼に立ち向かう勇気が、無謀があったのだろう?
そうだよな、こんな化け物怖いよな。俺たち人間だもの。
でもお前は戦ったんだ。
守りたい、今此処にいるこの少女を、俺を兄と慕う妹を。
守りたい、今何処かで逃げ続けている仲間を、俺を所長と慕う彼らを。
それにしても右腕が軽い。無いから当たり前か。
武器やパソコンを仕込んだコートはすでに奪われた。
あるのは村正一本のみ。
相手は剣士、今までに会ったことない位強い剣士。
剣士に剣で勝てる訳がない。
俺は死ぬのだろうか?
いくらメルとの契約で命を使いつぶせるとは言ってもこのまま血が流れ続ければ立っては居られない。
そうなったら今度こそお終いだ。
背中に感じるわずかな体温。
小さな身体、震えている、怖いのか?
そうだ、怖いんだ。
こんな小さな身体の何処に、あの剣鬼に立ち向かう勇気が、無謀があったのだろう?
そうだよな、こんな化け物怖いよな。俺たち人間だもの。
でもお前は戦ったんだ。
守りたい、今此処にいるこの少女を、俺を兄と慕う妹を。
守りたい、今何処かで逃げ続けている仲間を、俺を所長と慕う彼らを。
力が欲しい。まだ足りないのだ。
もっと!もっと!もっと!誰かを守れるだけの力を!
いいや違う、今の俺が欲しいのは…………そう、誰かと一緒に戦える力だ!
もっと!もっと!もっと!誰かを守れるだけの力を!
いいや違う、今の俺が欲しいのは…………そう、誰かと一緒に戦える力だ!
カチッ、と歯車が噛み合う。
そう願った俺の視界に映ったのは俺の持つナイフの上に座る小人達だった。
俺の契約する都市伝説『憑喪神』、ここまで姿がハッキリ見えたのは初めてだった。
俺の契約する都市伝説『憑喪神』、ここまで姿がハッキリ見えたのは初めてだった。
ハンニバルは再び剣を構えて俺たちの方に向き直る。
俺は残った左腕で村正をハンニバルに真っ直ぐ向ける。
俺は残った左腕で村正をハンニバルに真っ直ぐ向ける。
「かかってこい!」
ハンニバルが再び走り寄ってくる。
今度はやけにゆっくりしているような気がする。
と、思ったら急加速、純の方を先に狙うつもりか?
やらせはしない、仕込みを使うなら今だ。
今度はやけにゆっくりしているような気がする。
と、思ったら急加速、純の方を先に狙うつもりか?
やらせはしない、仕込みを使うなら今だ。
「今だ、憑喪神ィ!」
先ほど切り落とされた右腕がまるで生き物のようにハンニバルに飛びかかる。
袖に仕込んでいたナイフが動いているせいでそう見えるのだ。
そしてそのナイフを動かしているのは先ほどの小人達。
これこそが憑喪神。
俺の契約した最後の都市伝説だ。
袖に仕込んでいたナイフが動いているせいでそう見えるのだ。
そしてそのナイフを動かしているのは先ほどの小人達。
これこそが憑喪神。
俺の契約した最後の都市伝説だ。
そしてナイフを持った小人が、ハンニバルの身体に刃を突き立てた。
やっと、やっと一太刀加えられた。
ハンニバルはそのナイフを引き抜くと、傷口はあっという間に塞がってしまった。
やっと、やっと一太刀加えられた。
ハンニバルはそのナイフを引き抜くと、傷口はあっという間に塞がってしまった。
「ハハ、……今なら見える!」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「まだ都市伝説を持っていたのか……、憑喪神だと?
そんな物を従えているなんて報告は聞いてないが……。」
「そりゃあそうだ、俺はこいつを始めて使いこなしたんだぜ。」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「まだ都市伝説を持っていたのか……、憑喪神だと?
そんな物を従えているなんて報告は聞いてないが……。」
「そりゃあそうだ、俺はこいつを始めて使いこなしたんだぜ。」
先ほど奪われたコートから大量の銃器が飛び出してくる。
やはり、その一つ一つに小人達がついていた。
小人達はそれぞれ手に銃器を持つと、ハンニバルに向けてありったけの弾を撃ち込み始める。
やはり、その一つ一つに小人達がついていた。
小人達はそれぞれ手に銃器を持つと、ハンニバルに向けてありったけの弾を撃ち込み始める。
「ふうむ……、そういえば先ほど操作系と言っていたな。」
前から契約していた都市伝説ではあったが、まさかここまでのポテンシャルを持っているとは思わなかった。
しかしハンニバルは銃弾の嵐の中でも無傷で立ち続けている。
信じられないが剣を使うことすらせずに銃弾のスキマをかいくぐっているのだ。
しかしハンニバルは銃弾の嵐の中でも無傷で立ち続けている。
信じられないが剣を使うことすらせずに銃弾のスキマをかいくぐっているのだ。
「それでは、こういうのはどうだ?」
ハンニバルは銃弾の嵐をすり抜けて俺の所へ距離を近づける。
俺はその剣を村正で弾こうと……あれ?
心臓に剣が突き刺さる、村正が発動しないのだ。
俺はその剣を村正で弾こうと……あれ?
心臓に剣が突き刺さる、村正が発動しないのだ。
「ふん、同時発動は出来ないということか。容量の限界か?
今まででも何の加工もされてない只の人間としては十分破格だが……、それだけだ。」
「あっ……、れ?」
今まででも何の加工もされてない只の人間としては十分破格だが……、それだけだ。」
「あっ……、れ?」
視界がかすむ。
ハンニバルは彼を追尾する銃弾やナイフを回避する為にまた俺と距離を取った。
始めてこの状態になったから知らなかった。
憑喪神を使っている時にはで村正は発動できないらしい。
これが…………、俺の容量の限界か。
もはや血も大して出ない。
流れ尽くしたらしい。
相手はほとんど無傷だというのに酷い話だ。
ハンニバルは彼を追尾する銃弾やナイフを回避する為にまた俺と距離を取った。
始めてこの状態になったから知らなかった。
憑喪神を使っている時にはで村正は発動できないらしい。
これが…………、俺の容量の限界か。
もはや血も大して出ない。
流れ尽くしたらしい。
相手はほとんど無傷だというのに酷い話だ。
「お兄ちゃん!」
薄れていく意識が再びハッキリし始める。
そうだった、まだ倒れる訳にはいかない!
そうだった、まだ倒れる訳にはいかない!
肉体的な限界はもうすぐそこだ。
だが都市伝説同士の勝負は心の勝負、心が折れなければ負けはしない。
だから
だが都市伝説同士の勝負は心の勝負、心が折れなければ負けはしない。
だから
「純、もう倒れそうなんだ。身体を支えていてくれないか?」
「う、うん!」
「う、うん!」
支えて貰う。
純の小さな手が俺を支える。
誰かから支えられる体験がこれほど快いとは思わなかった。
恐怖から来た震えが収まっている。
そうか、守られるって、支えられるってこういうことか。
冷静になって辺りを見回すと憑喪神達はそこら中にいた。
見捨てられた自転車。
古い電信柱。
どこにだって小人達が座っている。
純の小さな手が俺を支える。
誰かから支えられる体験がこれほど快いとは思わなかった。
恐怖から来た震えが収まっている。
そうか、守られるって、支えられるってこういうことか。
冷静になって辺りを見回すと憑喪神達はそこら中にいた。
見捨てられた自転車。
古い電信柱。
どこにだって小人達が座っている。
「お前ら、助けてくれ。」
俺が今操っているのは、共に戦ってるのは人でも化け物でもない。
この世界に満ちている作られた物達、それと背中に居る妹だ。
俺の言葉に呼応して周りの様々な物体がハンニバルに向けて突撃を仕掛ける。
この世界に満ちている作られた物達、それと背中に居る妹だ。
俺の言葉に呼応して周りの様々な物体がハンニバルに向けて突撃を仕掛ける。
「おのれ……、この土壇場で悪あがきを!」
弾かれ砕かれ無意味すぎるくらいに無意味な物達の無意味な特攻は続く。
工場で量産され、捨てられたようなゴミも
誰かの手で丁寧に作られて俺に心から愛された刃物も
最新技術の粋をこらした銃器も
全てが同じようにハンニバルを目の仇にする。
工場で量産され、捨てられたようなゴミも
誰かの手で丁寧に作られて俺に心から愛された刃物も
最新技術の粋をこらした銃器も
全てが同じようにハンニバルを目の仇にする。
「純、ちゃんと支えていてくれよ!」
「解っているよお兄ちゃん!」
「解っているよお兄ちゃん!」
一人で戦ってきたと思ってた。
他人は利用する物だと思っていた。
だけど今俺は間違いなく誰かに支えられて、助けられている。
もう怖くない。
他人は利用する物だと思っていた。
だけど今俺は間違いなく誰かに支えられて、助けられている。
もう怖くない。
「今、殺してやるぞハンニバアアアアああアアあぁぁぁアルッ!」
あいつが再生能力を持っているというなら、再生能力を与えている何かごと攻撃に巻き込めばいい。
あいつ自身に再生能力が有るならそれを上回るスピードで攻撃を与え続けてやる。
此処まで来たら策なぞ不要。
今此処で、持てる力を全てぶつけるんだ。
人は、守る物が有る限り、そして誰かが傍に居てくれる限り、無限に強くなれることを教えてやる!
あいつ自身に再生能力が有るならそれを上回るスピードで攻撃を与え続けてやる。
此処まで来たら策なぞ不要。
今此処で、持てる力を全てぶつけるんだ。
人は、守る物が有る限り、そして誰かが傍に居てくれる限り、無限に強くなれることを教えてやる!
…………ドサッ
ってあれ?
散々格好良いことを言っておいてどうにも無様に俺は倒れているらしい。
純が俺を守るように俺の前に立っている。
あ、パンツ見えた。なるほど、ピンクか……。
憑喪神の姿が薄くなってくる。
どうやら本当に限界が来たようだ。
もうしゃべる元気もない。
それに気付いたハンニバルが今度こそ俺にトドメを刺しに来た。
ってあれ?
散々格好良いことを言っておいてどうにも無様に俺は倒れているらしい。
純が俺を守るように俺の前に立っている。
あ、パンツ見えた。なるほど、ピンクか……。
憑喪神の姿が薄くなってくる。
どうやら本当に限界が来たようだ。
もうしゃべる元気もない。
それに気付いたハンニバルが今度こそ俺にトドメを刺しに来た。
「よく頑張りましたねアキナリさん、おかげで良いデータがとれました。」
カコン、カコン、小気味の良い靴音。
流れるような金の髪、澄んだ声、青い瞳。
流れるような金の髪、澄んだ声、青い瞳。
「おや、もうしゃべる元気も無いのですか……。」
「お前はF-№0、……どうして此処に?」
「これはどうもハンニバル。いえなに、そこの二人は私の検体なんですよ。
だから少し戦闘データをとろうかなあ……と。」
「データを取る……か、何時から見ていた?」
「結構前から、貴方のデータも少しとらせてもらったりして。」
「嘘だな。」
「……はは、ばれてましたか。ところで彼らを回収してかまいませんか?」
「許さないと言ったら?」
「お前はF-№0、……どうして此処に?」
「これはどうもハンニバル。いえなに、そこの二人は私の検体なんですよ。
だから少し戦闘データをとろうかなあ……と。」
「データを取る……か、何時から見ていた?」
「結構前から、貴方のデータも少しとらせてもらったりして。」
「嘘だな。」
「……はは、ばれてましたか。ところで彼らを回収してかまいませんか?」
「許さないと言ったら?」
――――――――緊迫、サンジェルマンとハンニバルが鋭くにらみ合う。
「同じ研究者として、他人の物を横取りするのはルール違反だと言わせてもらいましょうか。」
「そんなの知ったことではないな。」
「もし研究者としてここで手を引かないというのならば……
『組織』のF-No.0として、ハンニバル・へースティングス、貴方を倒す。」
「俺を倒せるとでも?」
「ええ、たとえ上半身を吹き飛ばされても死なない貴方でも……。
下半身を吹き飛ばされれば死ぬんじゃないですかね?」
「そんなの知ったことではないな。」
「もし研究者としてここで手を引かないというのならば……
『組織』のF-No.0として、ハンニバル・へースティングス、貴方を倒す。」
「俺を倒せるとでも?」
「ええ、たとえ上半身を吹き飛ばされても死なない貴方でも……。
下半身を吹き飛ばされれば死ぬんじゃないですかね?」
サンジェルマンはハンニバルの腰を見つめていやらしく笑う。
パチン、指の鳴る音と共にサンジェルマンの背後の空間が歪み、戦闘機のような物が出てくる。
ハンニバルは剣を構え直す。
パチン、指の鳴る音と共にサンジェルマンの背後の空間が歪み、戦闘機のような物が出てくる。
ハンニバルは剣を構え直す。
「下半身?お前が見ている物はたった一つじゃないか?」
「さてどうでしょうね?それじゃ、……さよならです。」
「来い!」
「さてどうでしょうね?それじゃ、……さよならです。」
「来い!」
クルリ
サンジェルマンはハンニバルに背を向けた。
え?
サンジェルマンはハンニバルに背を向けた。
え?
「私、戦闘苦手ですから。」
「しまった、逃すかっ!」
「しまった、逃すかっ!」
サンジェルマンは俺と純を抱えるとすばやく戦闘機の出てきた穴の中に逃げ込んでしまった。
とりあえず、周囲の安全を確認した俺はそのまま意識を手放したのであった。
【上田明也の協奏曲23~生まれ変わる旋律~fin】
とりあえず、周囲の安全を確認した俺はそのまま意識を手放したのであった。
【上田明也の協奏曲23~生まれ変わる旋律~fin】