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連載 - ハーメルンの笛吹き-72

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【上田明也の協奏曲28~悲劇悲喜劇ソーマトロープ~】

遡ること一年前。
それは上田明也が殺したとある女性の葬式会場でのことだった。

「…………佐織。」

死体のない葬式。
其処に死の実感などない。
男性は妹の名を呟いた。

参列客はすでに帰って、斎場には泣き崩れる彼の両親しか居ない。
彼と、彼の妹の両親しか居ない。

陰鬱な気分を紛らわす為に煙草を吸おうと彼は少し外に出た。
彼が斎場のドアを開けると背の高い白人男性が立っていた。

「国中佐織のお兄様ですね?」
「……妹の知り合いですか?」
「はい、今日は貴方にお話ししたいことがあって来ました。」
「なんでしょう?」
「貴方の妹さんの死は、事故ではありません。
 警察や、とある組織によって一部真相が隠されているのです。」
「……どういうことですか。」
「詳しく話を聞いて頂けるならばこの番号まであとでお電話ください。
 私も彼女の仇を追っている人間です。」

それだけ言うと背の高い白人男性はその男に背を向けて歩き去った。




壮年の男性
その母とおぼしき女性
その妻とおぼしき女性
その息子とおぼしき少年
そして、その父とおぼしき死体

「おじいちゃん!おじいちゃん!」
「警察が見つけた時にはすでに息が……。」
「なんでおじいちゃんがこんなことに……。」
「偏屈だし性格も悪かったけど、それでも、悪い人じゃなかったのに……。」
「いったいお義父さんに何が有ったと言うんですか!?
 ひき逃げにでも有ったんですか?」
「ぱっと見た感じだとそう見えるのですが……。
 全て人間の手で行われています。
 余程恨みがある人間の手による物としか思えません。
 もしくは猟奇殺人か……。」

それを聞いた瞬間、“おじいちゃんだったもの”の“妻だった女性”は昏倒した。

「犯人はまだわかっていません。」

結局、それが警察の出した結論だった。







「ねえ君、おじいちゃんを殺した犯人を知りたくないかい?」

それから数日経った後の話だ。
公園で一人寂しく遊ぶ少年に声をかける男が居た。

「知らない人と話すなって言われているもん。」
「そうか、じゃあお兄さんは警察の人だ。
 警察の人でも話しちゃ駄目かい?」
「…………。」
「おじいちゃんを殺した犯人が見つかりそうなんだよ。」
「……ほんと?」
「ああ、ただしとても危険な奴なんだ。
 恐らく今日の午後三時頃に西区に現れるという情報を掴んでいる。
 彼が逃げ出したらまた町は大変なことになるから、
 君は絶対に外出しちゃいけないよ?
 これはお兄さんと君だけの秘密だ。
 良いね?秘密だよ。」
「…………………………秘密。」

満足げに男は頷くとその場を去った。
かくて少年の運命は大きく動き出す。






「明久さん、お久しぶりです。」
「ふん、珍しい顔だな。葵、茶の準備を頼んだ。」
「あら、お客様ですか?お待ちくださいね。」

上田と表札のかかった和風の邸宅、その客間で碧眼金髪の男が正座していた。
向かい合うのは見上げるほどの大男。
上田明久と呼ばれている。

「どういう用件だサンジェルマン?」
「貴方の息子さんのことです。」
「ああ、あいつか。」
「彼が私の研究のテーマにピッタリの人間でしてね。」
「ふふん、あいつはもう駄目だよ。
 間違いすぎている。いや、あいつにとっては正解だからこそそれが問題なのか。
 それにしてもなぁ……、俺と違って最後の最後で踏みとどまれなんだ。」
「おやおや、息子さんに大して随分冷たいじゃないですか。
 あいつはもうダメだなんて子供に対する言葉とは思えませんね。」
「似ているから解るんだよ。
 俺にあった物があいつには無い。
 解っているだろうお前だって……!」

明久は拳をテーブルに思い切り叩き付けた。
テーブルがその拳の形にへこんだ。





「……おっと、いかんな。感情が高ぶるとすぐこれだ。」
「そういう性格が私は好きですよ。冷静に見えてクールなその性格。」
「冷静に見えて熱い、じゃないのか?」
「熱い人間だったらとっくに家を出て息子さん探しに行くでしょ?
 無駄だとも考えないで。」
「まぁね。ああ、そうだ。
 あいつにこれ渡しておいてくれない?」

明久は服の袖から小刀を出してサンジェルマンに渡す。
それは明久が彼の父から貰った刀だった。
刀の名前は『蜻蛉切』と言った。

「昔は槍だったんですけどねえ……。」
「使えない武器に意味は無い、それにその気になれば一瞬で槍の姿に戻る。」
「成る程、解りました。」
「で、あいつがそれが使いこなせるようになったら俺に教えてくれ。」
「何する気ですか?」
「そりゃあお前バトルだろ、俺の息子は俺より強くなるに違いない。
 俺より強い奴と戦えれば俺はもっと強くなる。」
「ふふ……、変わりませんね。
 貴方も貴方で本当に異常だ。」
「ていうかその刀俺嫌いなんだよね、暗くて。
 お前と会った頃から使っているこれが一番好きだ。」

明久は客間に飾っていた刀を抜き放つ。
彼がその刀を抜いた瞬間に水しぶきが散った。
明久の顔に浮かぶ笑みはもはや父親のそれではない。
戦いにのみ悦びを見いだす戦士のものだった。





血に染まったクラブの一室。
そこから全力で走り去る二人の男女の後ろ姿をサンジェルマンは見ていた。

「さて、彼らにも働いてもら……。」
「チッ、酷い目に遭ったぜ!」
「おっともう来たか?」

サンジェルマンはボソリとつぶやくと急いでその場を離れた。
今、彼は上田明也に姿を見られる訳にはいかなかった。

数日後、彼はとあるデパートのエレベーターの前に立っていた。

「さて、橙さんの予知によればここに……。」

エレベーターの階数表示がどんどん彼の居る階の数字に近づく。
しかし、エレベーターは彼の前を通り過ぎた。

「……失敗した?」
「そのようですね、№0」
「まあこんなことも有りますよ。
 幸い手駒は揃っています、計画の完成は近い。」

自分の部下に向けて
否、自分自身に向けてそう呟くと彼はまた人混みの中に消えた。





良く晴れたある日の午後

「俺思うんだよね。復讐って意味ないよ。」
「敵討ちに来た人間片っ端から殺しておいて何を言っているんですか。」
「だから言ってるじゃん、意味は無い。」

サンジェルマンは彼の居城に友人を一人招いていた。
その友人はとても饒舌な男だった。

「意味は無い、ですか。意味は無いなら何故貴方の所に人々は仇を討ちに来るんです?」
「そりゃあお前、先に進めないからさ。
 そいつを殺してすっきりしないとその後生きていけない。
 それだけのシンプルな理由、もしくは」
「もしくは?」
「只の馬鹿。」
「はっ、そりゃあいい。」
「ああ、もしくは『馬鹿だから意味のない復讐でもしないと人生に区切りを付けられない』とか。」
「散々ですね、サスケ君に謝ると良い。」
「お前ジャンプ派なのかよ……。」
「おや、じゃあ貴方は何派なんですか?」
「ジャンプ派だ。」
「じゃあ良いじゃないですかジャンプ派同士仲良くしましょうよ。」
「まったくだな。」

二人はどちらからとなく笑い始めた。
笑って、笑って、心からおかしくてしょうがないかのように笑った。





「そういえばお前が前に話していた聖杯って手に入れたらどうなるの?」
「さぁ、願いが何でも叶うんじゃないですか?」




「それ、ダウト」



友人の意地悪な笑顔にサンジェルマンは苦笑した。


「……やっぱり解りますか。」
「いや、願いが叶うってのは嘘じゃないだろうさ。
 でも今の俺にはそれほど願いも無いし……、ああそうだ。」
「ん?」
「聖杯に俺の願いを問うてみよう。」
「それは良いと思いますが、捕らぬ狸の皮算用って知ってます?」
「俺なら手に入るよ。
 だって聖杯なんて無くても俺の願いは俺の力で叶うもの。
 だから、俺が思っても見なかった俺の願いを聖杯に問いたいんだ。」







サンジェルマンにはその友人が気まぐれに探索を始めた聖杯の正体を知っていた。
たしかにそれは願いを叶える器だ。
だがそれは…………

「上田さん、貴方がもし聖杯にたどり着いたとして。貴方は命を落とす危険があります。」
「ああ、そう。それは退屈しなさそうだ。聖杯の中身は教えるなよ?つまらん。」
「貴方が大事にしているメルさんや茜さんにも危険が及ぶかも知れませんが……。」
「メルはしらんが茜は望むところだろう。
 悲劇だが、悲劇のヒロインは満ち足りた気分になるし。
 なにより俺が居る限り最後は何時だってハッピーエンドさ。」
「ふっ、まあ止めはしませんけどね。貴方だと本当にたどり着いてしまいそうで……。」
「たどり着けないと思うか?
 そのCOAとやらの聖杯は偽物だろうが俺は俺が生きている間に聖杯なんて楽々見つけてやるよ。
 賢者の石の事件も手伝ってやったじゃねえか。」
「たどり着いてしまったら……。
 たどり着いてしまったら、その時はこれと再び契約し直してください。」
「……村正じゃねえか。」
「ええ、貴方の手持ちで聖杯に対抗できる都市伝説はそれだけです。」
「ふぅん……。まあ預かっておくよ。
 それ持ってるとなんか親父思い出すし。」
「おや、貴方お父さんのことを嫌いだと言っていませんでしたか?」
「嫌いだよ、嫌いだけど……。俺みたいなのを成人まで育てたんだぜ?割と尊敬している。」

上田明也らしくない。
否、ハーメルンの笛吹きに歪められていただけで上田明也とは本来こういう人間だったのか?
サンジェルマンの興味は尽きなかった。
でも、彼がたどり着くことに失敗することに失敗したら……
それだけが彼の恐れていることだった。
【上田明也の協奏曲28~悲劇悲喜劇ソーマトロープ~fin】

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