「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-75

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【上田明也の協奏曲31~月夜に悪魔と踊ったことは?~】
ある日の午後、サンジェルマンが俺の探偵事務所を訪れていた。
彼は俺に伝えたいことがあったらしい。

「ああ?
 純が入院ってどういうことだよ入院って!」
「いえ、私もついさっき知ったところでしてね?
 橙さんの能力だと彼女の動向を探れないでしょう?」
「仕方ないなあ……、とりあえずお見舞い行ってくれば良いのか?」
「お見舞い、も、そうなんですが……。」

そこでサンジェルマンが黒い封筒の中から一枚の便箋を取り出す。
中には俺が始末すべき相手の名前が書いてある。

「『組織』だと始末できない仕事です。私たちは手を出さないという約束になっているので。」
「とか何とか言って、お前がした実験の後始末だろう?
 そんなことやってるとそのうち『組織』から切り捨てられるんじゃねえの?」
「もう彼等とは充分利用しあいました。
 何時切り捨てられても悔いはない。
 そもそもイクトミが私をA-№0だかに紹介した時からこうなるのは解って……」
「解って?」
「解っていました。」
「ダウト、お前がそんなこと考えていたとは思えない。
 どれだけ時間があったって人間ならば考えられないことは考えられないんだ。」
「私人間じゃないです。」

俺は黒い封筒をその場で開けて、ライターの炎で焼いてしまった。







俺は事務所をサンジェルマンに任せると仕事道具一式を持って拝戸純が入院している病院に向かった。
彼女は階段から足を踏み外し足の骨を折ってしまったそうである。
彼女が入院しているのは学校町のとある病院。
そこの院長は腕も良く、人格者で近所ではそこそこ評判なのだそうだ。
しかしこの病院には、一つ妙な噂があった。
『ここの院長は金を払われれば悪人をこっそり病院で保護している。』
それ自体は根も葉もない誹謗中傷言いがかりの類で、
昔気まぐれに嗅ぎ回ってみたが証拠をでっちあげすることすらできなかった。
だが、その途中で俺は一つの妙な事実を発見した。
『ここの病院に来た患者の中で死んだ者は誰も彼もが一度ならず悪事に手を染めたことがある』
それが俺の発見した“事実”だった。

或る者は精神病棟で首を吊り

或る者は退院した帰り道でトラックに撥ねられ

或る者は手術中に心臓麻痺でこの世を去った

妙なことに、それまで罪を疑われたが潔白だと思われていた人間が、
そこの病院に関わって死んだ後に悪事の証拠が発見されるということまで起きている。

この病院には何か有る。
だがそれに関わる必要は無い、というのが今までの俺の結論だった。
しかし拝戸純がその病院に入院してしまったならば話は別だ。
彼女を純真無垢な罪のない小市民というのはあまりに無理がある。
理由は彼女の都市伝説だ。






拝戸純の持つ都市伝説は『丑の刻参り』
それそのものはハッキリ言うが恐るるに足りない。
並外れた強運の持ち主相手に使えば自分が自爆するし、
そもそも戦闘になったところで彼女自身の『人に意識して貰えない』体質さえなければ攻撃を当てられさえしない。
だが、それは俺のような強い人間に対しての話だ。
そもそも呪いなどというものを、強運も何も無い一般人が撃ち込まれたらどうなるだろう?
運を根こそぎに奪い取られて理由も解らずに死ぬ。
しかも周囲の人間を道連れにして。
拝戸純はその恐怖を知らずに私怨の為に護身の為に呪いを振りまいた。
それによって命を奪い取られた人間はかなりの数に上るだろう。

もしその病院の中に居る誰かが拝戸純の行いを見抜く能力を持っていたら?

俺が病院で起きている事件の犯人だったら確実に純を殺すだろう。
彼女のような存在は生きているだけで危険すぎる。
彼女に悪意がないからこそ、その行為に歯止めはきかないのだ。





「ああ、すいません。
 ここって何病棟ですかね?」
「え、小児科病棟ですが……。
 お見舞いの方ですか?」
「はい、622号の病室ってどこですかね?」

俺は病院の中をぐるぐると回っていた。
道に迷ったのだ。

「622号は小児科にはありませんね、あるのは整形外科じゃないですかね?」
「あれ、骨折って整形外科なんですか?」
「それはそうですよ、……良ければ案内しましょうか?」

年の頃はまだ三十才にもならない、若い看護師。
ああ嫌だ、看護婦と呼ばないと何か気持ち悪い。

「お願いします、妹なんです。」

とても親切な看護婦だ。
素直に感謝しよう。
もうこの病院も迷うに良いだけ迷った。






「ここです、お名前は合ってますか?」
「はい、さっき話した通り拝戸純で合ってます。
 私は彼女のバイト先の店長でしてね、彼女には色々手伝って貰っているんです。」
「失礼ですがお仕事は?」
「探偵です、良ければ名刺どうぞ。
 ストーカーとか彼の浮気とかに困っていたらご連絡ください。
 名刺を見せていただければ料金もお安くしますので。」

俺は彼女にトランペットの印刷がされた名刺を渡すと、病室のドアを開けた。

「あっ、お兄ちゃん!」

病室に入るとすぐに純の嬉しそうな声が響いた。

「あら、笛吹さんじゃないですか、お仕事は大丈夫ですの?」
「これはどうも、拝戸さん。」

そこには拝戸純の母親もいた。
拝戸直と拝戸純、仕事柄シリアルキラーには沢山会ってきたが、
その中でも中々悪質な殺人鬼二人の母親。
どんな異常者なのだろうかと期待していたが、彼女は至って普通の母親であった。
普通であるが故に、俺の言葉を簡単に信じて、騙された。
彼女は純が俺の事務所でバイトしていることに何の疑問も持たなくなってしまっていた。





「それではもうそろそろ依頼があるので……。」
「わざわざお時間をおかけさせて、すいません。」
「いえ、自由業ですから時間はどうとでもなりますよ。」

少しばかり世間話に興じていると予想以上に時間が過ぎていた。
次の仕事の予定があるのだ。
俺はそそくさと病室から出て行った。

その時、一人の老人とすれ違う。
胸のネームプレートには院長『太宰龍之介』と書かれている。
一瞬だけ眼と眼があった。
彼は何かに驚いている。
まるで古い友人に思わぬ場所で会ってしまったような眼だ。
しかもその古い友人には何か因縁があるような……。

まあ良い。
この男が『しょうけら』と『病院の死神』の契約者であることは解っている。
それはサンジェルマンの黒い封筒の中に入っていた便箋に書いてあったことだった。






その晩
それはそれは月が綺麗な晩

「秋の夜の月の光はきよけれど 人の心の隈は照らさず」
「お兄ちゃん何を言っているの?」
「人って解らないなあと思ってさ。」

俺は再び彼女の病室に入りこんでいた。
彼女の『人間に意識されづらい体質』は物を隠す際にも有効に働く。
俺はベッドの下に居るだけで看護婦達の巡回をそれはそれは簡単に回避することができた。

「それで、私の命を狙っている人が居るって本当?」
「ああ、早ければ今晩にでも来る筈だ。」
「ふぅん……。」
「ヤケに反応が薄いな、お前殺されるかもしれないんだぞ?」
「…………だって私には関係ないもん。」

関係ない、か。

「ん。」
「どうしたの?」
「廊下から足音が近づいてくる。恐らくここの院長だ。
 サンジェルマンの話ではそこそこ戦闘もできるらしいが……。」
「違う、違うよ、そっちじゃない。」

突然こいつは何を言い出すのだろうか?
俺がそう思って口を開こうとした瞬間、全身を悪寒が走った。
密度の濃い殺気だ。







「―――――――窓ガラスの方向!」
「くそっ!」

スカイフィッシュを何体も展開して防壁を作り出す。
だが髑髏のマスクを付けた黒マントは窓ガラスごとそれをすり抜けて俺の方へ迫ってきた。
サンジェルマンの報告と違う?
マントの中から人間の物と思えない鋭い爪が伸びてきた。
こちらの攻撃をすり抜けるならば、こちらにも手はある。

BANG!

その黒マントの爪が俺に突き立てられる瞬間、俺は銃をその箇所に向けて撃った。
狙いは的中、爪が割れて俺は間一髪で命を拾う。

「非実体化ができるとは聞いていないな……。」

髑髏のマスクの奥から赤い瞳が光る。

「……しょうけらか?」
「ほほう、これに気付くとは思わなかった。」
「人間の罪を見抜く、そして鋭い爪、さしずめそのマントと仮面の下は化け物か?」
「くく、良いセンスだ。流石は明久の息子か……。」
「まあぶっちゃけ情報提供者が居ただけだがね。」

こいつ、俺の親父の名前を知っている?
そもそも俺が上田明久の息子であることを知っている?
まあ良い、その理由は今の戦闘にまったく関係ない。





「お前なんで親父の名前を!?」
「そんなことはどうでも良い、大事なことはお前が罪を犯しているかいないかだ。
 たとえ誰であってもこの瞳から罪を隠すことは出来ない。
 お前も、その娘も……!」

戦闘には関係ないが、驚いたふりだけはする。
人間らしい感情が少しだけ有るふりをする。
それが後から重要になってくるのだ。
さて、この間合いで都市伝説を使う余裕はない。
この手の相手には村正が有れば丁度良いのだがあいにく持ってきていない。
病室の暗闇に銃弾と爪が交差する。
ここまで暗いと俺の視力では何も見えないはずなのだが、不思議と相手の居場所はわかった。
ハーメルンの笛吹きとの契約で五感がより鋭く研ぎ澄まされている。
いよいよ身体が人間離れしてきたらしい。
俺は銃を捨ててナイフで髑髏の男との格闘を始めた。

「お前は、自らの為に人を殺した、騙した、裏切って破滅させた。
 そして其処の娘は無自覚に人を殺し続けている。
 お前らは二人とも死に値する罪を犯しているんだ。
 悪だよ、間違いなく悪だ。お前らはこの社会にいてはいけないんだよ。」

爪が俺の頬を掠る。
メルから無理矢理悪魔の力を引き出して一瞬でそれを治療した。
そして一瞬だけ実体化した隙をついて俺は男の手首の筋に切りかかる。






「そもそも、悪だからといって何故社会に居てはいけない?
 俺以外の人間は俺にとって全員俺を楽しませる為の道具じゃないか。
 そいつら相手に悪事を働いたとしても俺が楽しめたならば俺は許される。」
「悪いことをしてはいけない。
 明久にそう教わらなかったのか?」
「教わったよ、でも学ぶ気は最初から無かった。
 ……まああれだ。そう熱くなるなよ爺さん、ただのジョークさ。」
「本当に手遅れだなあ、糞ガキ。」

俺のナイフは簡単に回避された。
一瞬で俺の後ろに回り込む死神。
殺られる、と確信した。
奴も、殺った、と確信しただろう。
だが俺の予測は間違っていた。

ザクッ

身体に鋭い刃物が突き刺さる音。
心臓が燃え立つように熱い。
だがその時、俺は死神の片腕をナイフで叩き斬った。





「そこからまだ動くのか……!?」
「あいにく契約のせいでなかなか死にづらくなっていてね。」
「化け物め……!」
「笑えよ、とある企業の御曹司からしがない私立探偵だ。
 将来有望な好青年からサイコパスのシリアルキラーだ。
 でも俺は幸せなんだ。
 今俺は生きている、俺は俺の好きな物の為に自分の思うまま生きている。
 親父を知っているんだろう?
 俺は確かに屑で化け物だが親父にも手に入れられなかった宝物を手に入れたんだ。
 今俺は生きていてすごく楽しい。」
「自分の楽しみの為に他人にどれだけの犠牲を強いたと思っているんだ!
 お前が少し我慢すればどれだけの人間が幸せになれたと思っている!」
「そんなの、知らないよ。
 逆に聞かせてくれ、なんで俺が我慢しなきゃいけない。
 誰にも理解されず、求められず、こいつだって同じだ。
 本性を隠しながら周りと折り合いをつけて死ぬほどの孤独の中で生きているんだ。
 俺は憎いよ。
 お前らみたいなさも自分は一般市民の味方ですって顔をして、
 俺たちみたいな外れ者を虐めて喜ぶ加虐趣味者共が憎いよ。
 お前らの愛する一般市民ごと嬲り殺してやる。
 お前らが身に受けるのは俺の怒りだ。
 他ならぬ俺が怒り、俺が許さず、俺が殺す。
 どうせ一人やってしまえばあとは一緒だ。
 もう境界を越えてしまったならば恐れることは何も無い。」







「巫山戯るな、その為に死んで良い命など無い。
 お前は一人の人間だ。
 一人の人間の感情で死んで良い命なんて無いんだ。
 たった一人の裁量で命の価値を決められるほど、
 人間が偉くなれると思うなよ?」
「お前、さっき俺のことを化け物と言ったじゃないか。」
「――――つまらないことを。」
「It’s a joke、あんまり本気になるなよ。
 だがあんたに一つ質問がある……、人間の価値って平等なのか?」
「いいや、不平等だ。だがそこまで大きな差はないよ。」
「次にお前は『無価値という意味では』と言う。」
「無価値という意味ではな。
 …………はっ、味な真似を。
 お前の価値観の異常は父親とはまた違うらしいな。
 どのみち、社会にとって有害極まりないのだがまあ良い。
 ―――――――――死ね。」

マントから出てきた死神の鎌が俺に襲いかかる。
俺の治癒力を見てから出したと言うことはあれには治癒を阻害する効果があるのだろう。
実体化のタイミングを見計らってスカイフィッシュで叩き落とす。

「死神の力、人殺しを忌み嫌うくせに自分はその手を真っ赤に染めやがって。」
「Will all great Neptune's ocean wash this blood Clean from my hand?
 No, this my hand will rather The multitudinous seas incarnadine,
 Making the green one red.
 だが私は構わない。私が一人殺す度に安心して明日を迎えられる人が一人増える!」





「明日、ねえ。
 くだらない。
 明日なんて、人々が夢見る明日なんて下らないよ。
 Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow
 Creeps in this petty pace from day to day
 To the last syllable of recorded time;
 And all our yesterdays have lighted fools
 The way to dusty death. Out, out, brief candle!
 Life's but a walking shadow, a poor player
 That struts and frets his hour upon the stage
 And then is heard no more.
 俺以上の花形役者もおるまい。
 この世なんぞ夢だジョークだコメディーだ。
 ならばとびっきりのユーモアでおもしろおかしく生きていけばいいじゃねえか。
 腹が立てば殴る。
 嬉しかったら歌う。
 悲しかったら泣く。
 他人の為に一人こっそり働き続けるなんて下らなさすぎる。
 マクベスの夢を見るならせめて楽しもうじゃないか。
 幕が下りても喝采が残れば俺の勝ちだ!」

刃と刃がぶつかって火花を散らす。
互いに都市伝説の力で人間の常識を越えた身体能力が手に入っている。
勝負は持久戦にもつれ込む、とは思わない。
相手は所詮『病院の死神』、俺がその気になれば一瞬で膠着は崩せる。






「この世の中はお前一人の為の物じゃない。
 と言っても通じないんだろうな。」
「ああ、この世は俺の為にこそ有る。
 正確に言えば
 この世は『この世は俺の為にこそ有ると確信している人間』の物だ。」
「狂人の論理だ。」
「いいや、強靱な論理だろう。」

死神が俺の所まで一気に踏み込み、鎌を振り下ろす。
俺はカウンターを狙って懐に飛び込んだが…………
俺の攻撃は奴の身体をすり抜けた。

「――――――――実体化していない!?」

そして死神は彼女の元に向かう。

「キャッ!」

鎌が突き刺さる、鎌が突き刺さる、でも俺じゃない。
少女の身体に死神の鎌が突き刺さった。
俺にはすぐに解った。
彼女は死んだのだ。





「まずは一人、そして!」

ガキィン!
再び金属のぶつかり合う音。
そして服の袖に隠し持っていた俺の仕込みボウガンが死神の髑髏の仮面をたたき割る。
仮面の下の、矢に貫かれた素顔は哀れなくらい年老いた老人のそれだった。

「……何故動揺しない!」
「人が死んだくらいで動揺していたら戦闘者として失格だよね。」
「お前を慕っている少女ではなかったのか!?」
「違うよ、そいつは俺のことなんか好きでも何でもない。」

だって……

「キャーーーーーーーー!」

唐突に悲鳴が響く。
病室のドアが開いて……、ああ昼間の看護婦じゃないか。
さっきの足音はこれだったのか。

「何?」
「しまった!一般人に見られたぞ!」
「そうかそうか、ところで死神。」

俺は仕込みボウガンの影に隠していたスイッチを押した。

「Have you ever danced with devil in the moonlight?」






そもそも、俺は昔からこの病院について調べていた。
そんな俺がこの病院で道に迷う?
あり得ない。
じゃあ何故俺はふらふらとこの病院をうろついていたのだろう?
答えはたった一つ。病院の死神を攻略する方法。
『この病室を病院じゃなくする方法を実現する為だ。』
低く響く爆薬の夜想曲。
俺たちの居る病棟の一部だけが病院ではなく瓦礫へと変貌していく。
一応下の階に居る患者だけはこっそり避難させてあるので人的被害は無い、筈。
強いて言えばそこの看護婦が巻き添えになるがそこらへんは、許せ。
都市伝説同士の戦いの場に迷い込んだお前が悪い。

「ぬ、うおわぁああぁぁああ!?」

病院の外に出れば死神の力は使えない。
それがサンジェルマンから聞いた太宰龍之介の弱点だった。

俺はスカイフィッシュを使って真夜中の空を悠然と滑空する。

墜ちていく。
太宰龍之介が、名も知らぬ看護婦が、そして拝戸純のふりをしていた肉片が。
……駄目だ、やはりあの看護婦を見捨てるのは性に合わない。
俺は全力で彼女の元まで飛んでいくと、彼女の手を掴んだ。

遙か下で老人が一人、ミートパイの素に変わる。







「そうだな、君にだけは真実を伝えようか。」
「あ、あ、…………!」
「怖くて何も言えないだろうからまあ黙って聞いていてくれ。
 あそこの院長は悪人を殺すことを生き甲斐にする正義の味方のなり損ないさ。
 そして俺の親父の古い友人の一人。
 あいつはある日、都市伝説っていう不思議な力を与えられてそれで今みたいになってしまったらしいね。
 悪人への憎しみだけで自らの力を振り回す化け物だよ。
 そしてその対象が偶然にも俺の妹に向かってしまった。
 俺は妹を守る為に彼女に似せたホムンクルスを知り合いの錬金術師に作ってもらって、
 それをダミーにしてあいつをおびき寄せようと思った。
 うまくいったよ、遺伝子的には変わらないからなあ。
 魂なんて物もDNAで説明できるのかも知れないね。
 どうせ試験管の外だと半日も保たない存在だ。
 彼女もオリジナルを守る為の駒になれて幸せだったに違いない。
 でまあ俺が動揺すると思い込んでいるあいつにそのホムンクルスを殺させて、
 そのうえで平然としながらとどめの一撃を撃ち込む。
 病院の外じゃあ、あいつも哀れな爺さんだ。
 あの高さから落下して、しかも瓦礫に直撃しちゃあ生きては居ないだろうね。」
「なん、で…………。」
「なんでって、何が?」
「なんでそんなことを?」
「言ったじゃないか、妹を守る為だ。
 一般人の犠牲者は多分0、我ながら良い仕事だったと思っているよ。」
「そうじゃ、なくて、そうじゃ、そんなんじゃ、はは……。
 あははははは……。
 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
 良いんですよねー!こんな簡単なものですよね人の命なんて!」






狂ったかしらん。
どうしよう、これは悪いことをしてしまった。

「あー、良かった。
 人の命が尊かったらどうしようかと今まで悩みながら生きていたんです!
 私馬鹿だから考えても考えても解らなくって!
 人の命が尊いとかって根拠も解らないですし!
 ありがとうございます探偵さん!
 わたし、人間の価値が良く解りました!
 院長先生みたいな人でもあんな死に方するんですから、
 誰がどう死のうが問題無いですよね!
 はは、アハハハハハハハハハハ!キャハハハハハハハ!」

ふらふらと立ち上がって彼女は病院の方に歩き始める。
まだ狂ったような笑みを顔に浮かべている。

「ありがとう探偵さん、このお礼は何時か必ずします!
 長年の疑問がやっと片付きましたわ。」
「この後どうする気だい?」
「病院に戻って毛がしている人を探さないと、私看護師ですから。
 探偵さんのことは言わないから安心してくださいね!」

そう言うと彼女はその場を歩き去ってしまった。
不思議と、俺は彼女を止められなかった。
仕方が無い、事務所に帰ってココアでも飲むとしよう。
優秀な助手である彼方君ならきっとココアを作って待ってくれている筈だ。
【上田明也の協奏曲31~月夜に悪魔と踊ったことは?~fin】

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