「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-84

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【上田明也の探偵倶楽部44~茜空に舞う花びらのような~】

それは男の人の出てくる夢だった。
その人は車に乗っていて、そのハンドルを震える手で握っている。
場所は広めの駐車場。首無しライダーがその人の車を囲んでいた。
車の後部座席には中学生くらいの女の子が座っている。彼女はシートベルトをつけて震えている。
少し視点を後ろにずらすと、白いはずの車に赤い斑点がいくつも吐いていることに気付く。
辺りに散らばるバイクの残骸。
道路のあちこちに残るタイヤ痕。

「またかよ、また戦わなくちゃ駄目なのかよ。
 俺はもう嫌だったんだ。
 高校に行く時に決めたんだよ、もうあんな化け物と関わらないって。
 俺の人生はあの時もう終わったんだ。
 だからもう嫌なのに!嫌なのに!
 適当な大学出て適当に親の仕事継いで適当に幸せに他人を見下しながら生きていこうと思ってたのに!
 晶の馬鹿ももう居ないんだ!
 俺に関わるんじゃねえよ!」

次の瞬間、車はまるで生き物のような動きで首無しライダーに襲いかかる。
一切ブレーキをかけることなくわずかな段差を利用して方向転換しているのだ。
首無しライダー達はあっという間に轢き殺されてしまった。






「めーちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫だよ。」
「顔真っ青だよ。」
「そっか。」
「私もう寝て良い?」
「良いよ。」

少女は平然としていた。
表情に恐れの色がありありと浮かんでいる男とは全く違う。
それにしても強い。
本格的に戦闘の訓練を積んだ人間でも都市伝説を契約無しで倒すのは大変なのに。
この男はあんな恐慌状態で蹴散らしてしまった。
あれじゃあまるで人間と言うより都市伝説そのものだ。
男は何を思ったのか眠っている少女の座っている客席に座り始めた。

「……寝てるな。」

男は少女の頬をつつき始めた。
何処とは言わないがすりすりしたりくんかくんかしたりし始めた。
私の知る人間の中で子供相手にこんな危ないことをする人は一人しか居ない。

「ご褒美のちゅー…………。」

なんてこったい。
あどけない子供のファーストキスを寝てる間に奪っちゃった。
それだけならまだしも手をスカートの下に伸ばして……





「ってちがあああああああああああああううう!」
「うわっ!?」

隣で寝ていた明也さんが眼を覚ました。
何やら絶叫してる。

「違う!違うんだ!俺はそこまでしていない!
 いくら何でも俺だってそこまで駄目じゃないぞおおおお!」
「どうしたんですか、明也さん?」
「……夢か。いや、なんでもないんだ。」
「ラストダンジョンに入ってから変ですよ?」
「なんか敵の顔が全部今まで殺した人に見えるんだよね……。」
「……精神的に重傷じゃないですかそれ?」
「知らないよ、この程度気にするまでもない。」
「重傷じゃないですか。一旦引き下がっても良いんですよ?」
「嫌だ、聖杯を手に入れて……」
「明也さんにも願いがあるんですか?
 自力じゃなくて聖杯に祈らねば叶えられないような望みが。」
「…………解らない。でも聖杯を手に入れれば」
「“あの時もう終わった”人生をまた始められるんですか?」

その言葉を聞いた瞬間、明也さんの表情が変わった。
一瞬脅えるように、そして私をとがめるように、

「見たのか?」

とだけ聞かれた。私は何も答えられなかった。





「……十分休んだし、もう行くか。ついてきてくれ。」
「待ってください、一旦引き返すか……行くにしてももうちょっと休まないと。
 今の明也さんは……何か危うい気がします。」
「来ないなら俺一人で行くから良いよ。どうせこの先が聖杯城とやらなんだろ?」

そう言うと明也さんは一人で休憩していたセーブポイントから出て行ってしまった。
私は引き留めようと手を伸ばしたけど……駄目だった。
私の腕は彼に届かなかった。

「よっし、それじゃあ今日も殺して殺して殺して殺して殺してみようか。」

彼の声が塔の中に虚しく響く。
それと同時にモンスター達の悲鳴が上がった。
悲鳴を頼りに私は急いで駆け上がる。
……そういえば、なんで私は彼の夢を見たんだろう。
夢を操る能力なんて私も彼も持っていない。
それこそ前に戦ったヨハネルト=ラハイだかでも無い限り。
待てよ?
明也さんはヨハネルト=ラハイを倒した後にその短剣を奪い取っていた。
それが彼に悪影響を与えているんじゃないだろうか?
そうと解ったらこうしては居られない。
もっと急いで彼に追いつかなくては。
今の彼を助けられるのは私だけなのだ。






「明也さん!明也さん!」

走る
走る
敵の片付いた廊下を全力で走っても戦いながら移動している彼には追いつかない。
まるで自分と彼の関係みたいで少し笑える。
きっと私は彼に追いつくことなく走り続けて燃え尽きるに違いない。

でもその前に

「―――――――――明也さん!」

彼を助けたい。
それが私の生きた証になるから。
例え私が真っ白に燃え尽きたとしても、真っ赤な部屋で漫然と生きるよりはきっと素敵だ。

開き駆けた扉の前で足がもつれて転ぶ。
顔をあげた私が見たのは銃撃で両目を潰されたラスボスの首を短剣で引きちぎる明也さんだった。

「やっと追いついたか……。
 見てくれよ茜さん、赤い部屋の身体機能強化能力も引き出せたんだぜ?
 ほら俺って主人公体質だからピンチでこそパワー発揮しちゃうみたいで……」
「何言っているんですか!そんな無茶なことしてたら危ないです!」

私は明也さんに抱きつく。
そしてヨハネルト=ラハイの短剣を奪い取るとすかさず二つに折った。




「茜さん、一体何を――――――!
 何を……。
 いや、俺だ。
 俺は、俺こそ何をしていたんだ。」

明也さんの瞳から焦りと恐怖が消え去る。

「やっと、正気に戻りましたね?」
「らしいな……。ありがとう。」

「にゃーはははははははははは!
 甘い!
 甘い!
 良いにゃ良いにゃそういう甘いの大好きだにゃ!
 ウチはそこのお姉さんを全面的に応援しちゃうんだにゃん!」

「は?」
「へ?」

「サンジェルマンの縁の契約者やろ?
 あいつには特に何かある訳じゃないけど二人とも面白そうだから面白い物見せたるわ。
 ちょっとこっちにきんさい。
 ウチの名前は……、そやねユティとでも呼んでくれたらええ。」

抱き合っている私たちを猫耳の女の子が見つめていた。
とりあえず恥ずかしかったので私は明也さんから離れた。
【上田明也の探偵倶楽部44~茜空に舞う花びらのような~fin】

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