「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-86

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【上田明也の探偵倶楽部46~友よ~】

「……ガフッ。」

上田明久は戦士である。
誰よりも戦うと言うことに真摯な男だった。
強者と戦い弱者と戦い親と戦い子と戦い、
目の前に立ちふさがる物は
一切合切全部全体全般万般万端万事何もかもことごとくなべて
悉皆残らず余すところ無く漏れなく逐一すっかりそっくり洗いざらい一から十まで
戦士として打ち倒して、あるいは打ち倒されながらもここまで生きてきた。
負けることとて一度や二度ではなかった。
その度になんとか生き延びて強くなっていたのだ。
負けが彼を強くしていたと言っても過言ではない。

「息子やらの前で意地張ってたけど……。」

荒く息をする。
彼は生まれつき人より代謝速度が速い。
体内で代謝速度を上げることにより単体や無機化合物の毒以外ならほとんどの場合彼が死ぬ前に体内で分解することも可能なのだ。
更に言えば体内のエネルギー生産速度をあげたりすることで人間の限界を超えた動きさえも出来る。

「今回は流石に無理か……?」

つまらない死に方だな、と明久は笑った。





まあ戦いに明け暮れていた人生だ。
息子の女に毒を盛られて死ぬのも道理だろう。
そうは思ったが彼にはまだこの世に未練があった。

「まだ戦いたい奴が居るんだけどなあ……。
 そうだな、まだ死ぬ訳にはいかないか。
 それじゃあ、奇跡起こして生き返るとするか!」
「ふむ、で、どんな奇跡を起こすのか詳しく聞かせてください。」

明久が毒に苛まされる身体をおして立ち上がる。
それは奇跡なのだろうか、何時の間にか彼の目の前に医者が一人立っていた。

「…………もう起きたよ。解毒剤寄越しやがれサンジェルマン。」
「解りました、どーぞこれです。」
「えっ、注射タイプ?」
「熱喉鼻にすぐ効くタイプですよ?」
「風邪薬かよ。」
「名前はサンジェルル。」
「寒いネーミングセンスだ。」

明久はそれを迷い無く打ち込んだ。
彼の呼吸が一気に落ち着く。
ぼやけていた視界がまるで目から鱗でも落ちたかのように開いていった。





「おぉー、キリストもびっくりの奇跡だよ。」
「はっはっは、褒めてませんよそれ?」
「あっそう、それで?なんでわざわざ来たんだ。
 こんな珍妙な出来事が起きてるってことはお前の話していた聖杯を息子が手に入れたんだろ?」
 お前はそっちの用事で忙しいはずだ。」
「はっ……、笑わせないでくださいよ。友達を助けるのに理由なんて有りませんよ。」
「ふふ、全くだな、今はお前の言うことに全面的に同意してやろう。」
「でまあ用件なんですが。」
「おう、なんか助けられることがあるなら…………って お・い・こ・ら!」
「なんです?」
「理由要らないって言ったじゃん!理由無しで来たんじゃないの!?」
「理由はないけど用件はある。」
「無茶苦茶じゃねえか!」

忘れられがちだが上田明久は突っ込み属性持ちである。
しかもノリ突っ込み、誘い受け。
惚けっぱなしジャーマンスープレックスの彼の息子とは違うのだ。

「まあまあ落ち着いてください。
 どうしても教えて欲しいことがあってですね。」
「なんだよ。」
「……どうしてあの赤い部屋を見逃したんですか?」
「見てたのかよ。」
「最後の最後だけですけどね。久しぶりに貴方がぶち切れるところみました。」

それを聞いて明久はやれやれといった感じで首を振った。






「俺ってば人を愛することは罪って言ったじゃん?」
「ええ、言いましたね。」
「それは間違いない真理だと思う訳よ。
 でもそれを裁ける程俺は偉い人間ではない。
 だから俺の息子への愛故に俺を殺そうとしたあの茜とかいう外見年齢高校生くらいのピチピチギャルを殺す気にはなれなかった。
 あとあいつ優しいんだもん、あんな優しい奴殺したら良心の呵責で毎晩うなされるわ。」
「ピチピチギャルってなんですか。
 表現が古いですよ、十年以上前ですよ。
 っていうか彼女普段から赤いドレスですからギャルっておかしいですよ。」
「あとはあれかな。
 長年実戦を積み重ねてきた俺の観察眼が彼女は息子のパートナーにふさわしいと。」
「あー、拝戸君の劣化バージョンですね?」
「俺が元祖だからね!?」
「いえいえ、努力で至れる領域なぞ才能や異常には及ばない。」
「ハイハイ解りましたよ。お前の持論はもう充分だ。」
「まったくもう……それでなんですけどね。」
「ん?」
「彼女を見逃した本当の理由を教えてください。
 貴方の如き剣鬼がその程度の理由で彼女を見逃しはしないでしょう?」

その言葉を聞いた明久は小さくため息を吐く。
その場であぐらをかいて頭を抱え込んでしまった。




「……貴方は昔から嘘を吐くのが下手だ。
 下手な嘘つかない方が良いですよ?」
「努力してる。」
「いや勿論無料で教えろとは言いませんから。」
「解ったよ、教える。その前にお前の今回の目的を教えろ。
 前回の聖杯探求で俺たちに語った目的がメインなのは知っている。
 でも、おまけ程度の感覚でもう一つあるだろ?」
「まったく、貴方にだけは嘘を吐けませんね。」
「下手な嘘吐きに見破られる嘘なんてつくなよ。」
「嘘憑くのが下手なだけじゃないですか貴方。」
「そりゃあ、戦闘においては敵の嘘見破らないと死ぬからなあ。」
「敵を騙す為に嘘を吐く必要だって有るじゃないですか。」
「最強たるこの俺にそのような手は要らぬ。」

シニカルに笑う明久。
サンジェルマンは苦笑いである。

「その表情、本当に明也さんとそっくりですよね。」
「そりゃあお前血を分けた愛する息子だから。」

そう言った時のわずかな表情の変化をサンジェルマンは見逃さない。




「ねえ明久さん。」
「なんだ?」
「貴方、明也さんを殺す気無かったでしょ。」
「馬鹿野郎、勝負の結果だったらたとえ息子であっても……。」
「あっても?」
「あっても……、適当に痛い目みさせて……。」
「結局私の所に連れ込んだんじゃないですか?」
「う、うるせー。父親を切った俺が言うのもあれだけどよ。
 俺の美学では子が親を手にかけるのは許すが親が子を手にかけるのは……。
 嫌いなんだ、美しくない。勝負の末、明也が俺にトドメを刺すなら俺は喜んだ。涙したかも知れない。」
「それさえ聞ければ十分ですよ。貴方の秘密は推測できました。」
「にゃろう!ずるいぞ!」

明久はサンジェルマンを持ち上げるとユサユサ揺する。

「わっ、やめてゆすらないで!貴方力すごいんですから!」
「じゃあさっさとお前の聖杯にかける願いをはきやがれ!」
「解りました!
 じつはですね、私の契約者を確保しようと思ってたんですうううううう!」

その言葉を聞いた明久はサンジェルマンを地面におろした。
サンジェルマンは目を回したらしくフラフラしてる。





「……お前を受け止めきれる容量を持った人間ってことか?」
「ええ、地球上には居ません。
 というか組織の№0クラスの都市伝説と契約できる人間なんて居る訳がない。」
「でも聖杯に願うのはお前の恋人の蘇生……。
 あ、今お前地球上には居ないと言ったよな?」
「ええ、地球上に居ないなら呼び出せばいい。
 データとして出てるんですよ、古代の人間の方が現在の人間より容量が大きい。」
「そいつの“心の器”がお前と適合すると?」
「ええ、完璧です。私と彼女の相性はもう本当に完璧。
 契約者無しで私はこれだけの力を持っていますからね。
 契約者さえ居れば私は神ならぬ身にして天上の意志に拮抗するだけの力を手に入れられますよ。」
「っていうか女だったんだ。」
「えっ、何それ失礼。私はノーマルですよ。
 ただほら、彼女居ない間に別の女性を愛するのも、ね。
 男ならノーカン!」
「いやっ、そんな親指突き立てて言われても困るから。
 それにしてもサブとメインが一つになってたか……合理的だね。」
「サムズアップ!」
「あと男ならノーカンについては勢いでごまかせると思うなよ?」

サンジェルマンはやれやれとでも言わんばかりに肩をすくめる。




「ところで、貴方が茜さんを見逃した理由は解りましたけど……。
 私にお願いって?」
「うん、それがだなあ……。」

話を変えたサンジェルマンに明久は何も言わない。
明久としてもそっちの方が話の本筋なのだ。
彼はサンジェルマンに何かを耳打ちする。

「え……。」
「だってお前そろそろ組織抜けるんだろう?
 信用できねーよ。『組織』と不可侵条約結んでた太宰をぶっ殺した件もあるし信用できないだろ。」
「ええええええ!?
 いやそうですけど!そう言われると反論できませんけど!」
「嫌って言ったら殴るぞ、恋人の元にちょっと早く送り込んでやるぞ。」
「……解りました。そこらへんはなんとかします。」
「はっはっは、すまんなあ。」
「じゃあ用件も済みましたし、貴方を元の次元に戻しますよ?」
「応、頼むぞ友よ。」
「友ねえ……、やれやれだ。」

またもシニカルに笑う上田明久。
苦笑いのサンジェルマン。




「ところでサンジェルマン。お前力を手に入れて何するのよ?」
「そんなの簡単……、彼女を幸せにします。この世界で、今度こそ。」
「そうか、勿論それも愛故の行動だよな?でもその為にお前も色々犠牲にしたよなあ?。」
「ええ、でも構わない。彼女を愛してるので。」
「良い答えだ。それじゃあ愛の名の下に存分に罪を犯せ。
 愛する者を守る為、存分に傷つけ、血を流せ、明日の為に戦い抜け。」
「胸にひとひらの痛みだけは忘れないで生きていきたいと思いますけどね。」
「餞別だ、貸してやる。」

一陣の熱い風が吹く。
それは雲を吹き払い、朝焼けの光を聖杯世界に届けた。
明久は茜の手によって使用を妨げられた刀をサンジェルマンに投げ渡す。
それは曇り一つ無い白塗りの鞘に収まったとてつもなく巨大な剣だった。

「俺の持つ中でも最強の剣だ、受け取れ友よ。ただし返せ。」
「ありがとうございます、……それじゃあ行きますね。」
「行ってこい。」

サンジェルマンが指を鳴らすと明久はあっという間に聖杯空間から現実に送り返されていった。
それを見届けたサンジェルマンは覚悟を決めたように残月を仰ぐ。

「さて、次は明也さんの所だ。奥の手の準備も出来たばかりですしね。
 “彼女”の復活……、それと茜さんの保護も最重要課題ですね。」

そう言うや否やサンジェルマンの姿もまた煙のようにその場から消えていった。
【上田明也の探偵倶楽部46~友よ~fin】

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