【上田明也の探偵倶楽部47~無可知・無価値・夢価知~】
「……今度は何処だよ。」
「私にも解りません。」
「やあやあやあ!おめでとう!
ここに来た人間は久しぶりだよ!」
「猫だ!」
「あ、ユティさんじゃないですか!」
「ユティ?違う違ーう、私は聖杯そのものだ。
今は彼女の姿を借りているだけだよ。」
「私にも解りません。」
「やあやあやあ!おめでとう!
ここに来た人間は久しぶりだよ!」
「猫だ!」
「あ、ユティさんじゃないですか!」
「ユティ?違う違ーう、私は聖杯そのものだ。
今は彼女の姿を借りているだけだよ。」
何時の間にか俺と茜さんはステンドグラスで天井を覆われたドームの中に立っていた。
これもまた聖杯の力なのだろうか?
これもまた聖杯の力なのだろうか?
「まあ、あれだ。とにもかくにも聖杯の試練突破、おめでとう。」
「聖杯の試練?」
「そうだよ、さっきまで受けていたのは聖杯の試練って奴さ。」
「俺の場合は親父との戦闘だったとでも言うのか?あれは俺の願いじゃなかったのか。」
「そうだね。まあとりあえず試練をクリアしたから此処にいるんだし、好きな願いを願えばいい。」
「願い、ねぇ……。」
「聖杯の試練?」
「そうだよ、さっきまで受けていたのは聖杯の試練って奴さ。」
「俺の場合は親父との戦闘だったとでも言うのか?あれは俺の願いじゃなかったのか。」
「そうだね。まあとりあえず試練をクリアしたから此処にいるんだし、好きな願いを願えばいい。」
「願い、ねぇ……。」
俺は悩む。
俺に願うべきことなんてないのだ。
俺に願うべきことなんてないのだ。
そもそも、俺は恵まれた人間だ。
努力すれば欲しい物は大抵手に入る。
そんな俺がわざわざ聖杯に望んでまで欲しいものはない。
努力すれば欲しい物は大抵手に入る。
そんな俺がわざわざ聖杯に望んでまで欲しいものはない。
「ねぇ、願い事って幾つまで?」
「えーっと……特に決まってないかな。」
「ああ、そう。じゃあまずはサンジェルマンって奴の彼女だかを生き返らせてくれない?」
「名前は?」
「知らん!そこらへんは融通効かせろ!」
「無茶苦茶な……、とりあえずやってみるよ。」
「えーっと……特に決まってないかな。」
「ああ、そう。じゃあまずはサンジェルマンって奴の彼女だかを生き返らせてくれない?」
「名前は?」
「知らん!そこらへんは融通効かせろ!」
「無茶苦茶な……、とりあえずやってみるよ。」
猫耳姿の聖杯を名乗る少女はパチンと指を鳴らす。
この程度で本当に願いが叶ったというのだろうか。
この程度で本当に願いが叶ったというのだろうか。
「これで多分大丈夫、願いは叶った。」
「じゃあ次いってみるか次、茜さんなんか有る?」
「えー、私は特にないんですけどねえ……。」
「欲のない人間が聖杯を手に入れるのはいつものことだけど……今回はひどいな。」
「なんだよユティもどき、語尾ににゃんも付けなければ関西弁も喋らないって詐欺を働いた上で文句を言う気か?」
「いや、いいんだけどさ……。」
「俺には願いが無いんだ!仕方ないだろうが!」
「じゃあ次いってみるか次、茜さんなんか有る?」
「えー、私は特にないんですけどねえ……。」
「欲のない人間が聖杯を手に入れるのはいつものことだけど……今回はひどいな。」
「なんだよユティもどき、語尾ににゃんも付けなければ関西弁も喋らないって詐欺を働いた上で文句を言う気か?」
「いや、いいんだけどさ……。」
「俺には願いが無いんだ!仕方ないだろうが!」
その言葉を聞いた瞬間、聖杯の表情が変わる。
「それは嘘だね、君の願いを受けてもう聖杯は動き始めている。」
「……どういうこと?」
「君自身が言っていたじゃないか。
願いが解らないから聖杯に願いを叶えさせて自分の願いを確かめると。
聖杯の試練には自らの願いを自覚させる働きもあるそうだが……。
君だって気付いてるんじゃないか?君の願いごと。」
「俺の……、俺の願い事か。」
「幼い子供を愛して、妹を愛して、人外を愛して、愛して愛して愛されたくて。
誰をも理解して愛せるが、誰からも理解されず一人寂しく生き続ける。
君だって不公平だとは思っていたはずだ。
そんな幼い怒りが、絶望が、君の中には渦巻いていてそれを発散させる時を待っている。」
「…………勝手なことを言うな。」
「君の父でさえ、君の大量殺戮を君自身の怒りの感情の発露ではなく、
一時的に都市伝説に自我を浸食されたからだと思っていたんだぜ?
君は全く持って自分の意志で罪もない人々を殺しまくってたのにさあ。
ここまで誤解されてるって悲しいと思わなかった?」
「まあ、親父はメルが俺をそそのかしたと思ってたな。
でも、誤解なんて今に始まったことじゃない。」
「明也さん、そこの失礼な奴の言うことなんて聞く必要ないと思いますよ。」
「まあまあ、話だけは聞く価値がある。必要は無いけどな。」
「やれやれだな。私に感謝こそすれそこまで酷いこと言う人間は居なかったぞ?」
「気にするなよ、どうせ人間の戯れ言だぜ。
ところで俺の願いを受けて聖杯は何をしようとしてるんだ?」
「ああ、その話を忘れていた。」
「……どういうこと?」
「君自身が言っていたじゃないか。
願いが解らないから聖杯に願いを叶えさせて自分の願いを確かめると。
聖杯の試練には自らの願いを自覚させる働きもあるそうだが……。
君だって気付いてるんじゃないか?君の願いごと。」
「俺の……、俺の願い事か。」
「幼い子供を愛して、妹を愛して、人外を愛して、愛して愛して愛されたくて。
誰をも理解して愛せるが、誰からも理解されず一人寂しく生き続ける。
君だって不公平だとは思っていたはずだ。
そんな幼い怒りが、絶望が、君の中には渦巻いていてそれを発散させる時を待っている。」
「…………勝手なことを言うな。」
「君の父でさえ、君の大量殺戮を君自身の怒りの感情の発露ではなく、
一時的に都市伝説に自我を浸食されたからだと思っていたんだぜ?
君は全く持って自分の意志で罪もない人々を殺しまくってたのにさあ。
ここまで誤解されてるって悲しいと思わなかった?」
「まあ、親父はメルが俺をそそのかしたと思ってたな。
でも、誤解なんて今に始まったことじゃない。」
「明也さん、そこの失礼な奴の言うことなんて聞く必要ないと思いますよ。」
「まあまあ、話だけは聞く価値がある。必要は無いけどな。」
「やれやれだな。私に感謝こそすれそこまで酷いこと言う人間は居なかったぞ?」
「気にするなよ、どうせ人間の戯れ言だぜ。
ところで俺の願いを受けて聖杯は何をしようとしてるんだ?」
「ああ、その話を忘れていた。」
聖杯は少し困ったような顔で笑った。
「君は、君の無意識が望んでいる願いは……破滅だ。
こんな自分無くなってしまえ、って感じの。」
「でも明也さんはすごく前向きですよ?」
「彼の自己肯定はそれに対する反動形成。
無意識に今の自分を否定し続けるからこそ勤勉でも居られるしね。」
「ああー、俺の勤勉さのルーツはそこにあったのか。」
「で、君の無意識は世界に変革を求めている。
誰も傷つかない世界へとね。」
「聞く限りでは良いことに聞こえますね。」
「俺も同意だよ茜さん、でも変革には痛みが付きものだ。
なんせ変わるって事は自分を殺すことだからね。」
「そう、聖杯はこの世界を殺そうとしてるんだよ。」
「えっ。」
「嘘……。」
『その子の言うことは本当だよ、大変だネー明也ちゃん。』
『でも私は君みたいな環境のせいで歪んでしまったけど本当は善良な人間が大好きだから、君の幸せを心から応援してるんだ。』
『さてさて、自分のせいで世界が滅びかけている気分ってのはどんなもんなんだい?』
『できれば後学の為に教えて欲しい物だね』
「――――誰だあんた!?」
『私の名前は……秘密、Fさんって呼んでくれれば良いや。』
『都市伝説「サンジェルマン伯爵」の契約者だ。以後よしなに』
こんな自分無くなってしまえ、って感じの。」
「でも明也さんはすごく前向きですよ?」
「彼の自己肯定はそれに対する反動形成。
無意識に今の自分を否定し続けるからこそ勤勉でも居られるしね。」
「ああー、俺の勤勉さのルーツはそこにあったのか。」
「で、君の無意識は世界に変革を求めている。
誰も傷つかない世界へとね。」
「聞く限りでは良いことに聞こえますね。」
「俺も同意だよ茜さん、でも変革には痛みが付きものだ。
なんせ変わるって事は自分を殺すことだからね。」
「そう、聖杯はこの世界を殺そうとしてるんだよ。」
「えっ。」
「嘘……。」
『その子の言うことは本当だよ、大変だネー明也ちゃん。』
『でも私は君みたいな環境のせいで歪んでしまったけど本当は善良な人間が大好きだから、君の幸せを心から応援してるんだ。』
『さてさて、自分のせいで世界が滅びかけている気分ってのはどんなもんなんだい?』
『できれば後学の為に教えて欲しい物だね』
「――――誰だあんた!?」
『私の名前は……秘密、Fさんって呼んでくれれば良いや。』
『都市伝説「サンジェルマン伯爵」の契約者だ。以後よしなに』
シンデレラのような青いドレスを着た女性が何時の間にか俺たちの後ろに立っていた。
女性、とは言ったがそれはドレスを着ているからそう判断しただけだ。
中性的な顔つきなので晒しを巻いて男装でもされたら見分けが付かない。
女性、とは言ったがそれはドレスを着ているからそう判断しただけだ。
中性的な顔つきなので晒しを巻いて男装でもされたら見分けが付かない。
『さて、今回私がここに来たのは君に説教をする為だ。明也ちゃん。』
『先ほどから私の都市伝説が聖杯から出て行こうとする化け物を食い止めているんだが……、そいつらがまったく止まらない。』
『だから元から断つ必要があると思ってね。といっても殺しはしないよ?』
『君が死んでも君の願いは生き続ける。』
『君が、君自身の願いを完全に殺さなければ、聖杯から出てくるあの化け物は消えないだろうね。』
「聖杯から出てきている化け物?」
『ああ、サンジェルマンは空亡とか呼んでいたよ。太陽を司る化け物だとか。』
『まあ彼も化け物だけどね。』
『先ほどから私の都市伝説が聖杯から出て行こうとする化け物を食い止めているんだが……、そいつらがまったく止まらない。』
『だから元から断つ必要があると思ってね。といっても殺しはしないよ?』
『君が死んでも君の願いは生き続ける。』
『君が、君自身の願いを完全に殺さなければ、聖杯から出てくるあの化け物は消えないだろうね。』
「聖杯から出てきている化け物?」
『ああ、サンジェルマンは空亡とか呼んでいたよ。太陽を司る化け物だとか。』
『まあ彼も化け物だけどね。』
恐らく彼女がサンジェルマンの恋人なのだろう。
だが……、それならサンジェルマンを化け物呼ばわりするというのも変な気がする。
だが……、それならサンジェルマンを化け物呼ばわりするというのも変な気がする。
『あひゃひゃひゃ、化け物は化け物じゃーん。』
『何勘違いしてんの?明也ちゃんはほんとおばかさーん。』
『受け入れろよ、都市伝説は化け物だ。』
『ねぇ、そこの赤い女の子。』
「…………そうですけど、でも。」
『でもなんだい?』
「おい、Fだかなんだか知らないけど失礼な奴だな。」
『君こそ何か勘違いしてるよ。君は化け物を悪い物か何かのように思ってないか?』
「いや、別に……。」
『何勘違いしてんの?明也ちゃんはほんとおばかさーん。』
『受け入れろよ、都市伝説は化け物だ。』
『ねぇ、そこの赤い女の子。』
「…………そうですけど、でも。」
『でもなんだい?』
「おい、Fだかなんだか知らないけど失礼な奴だな。」
『君こそ何か勘違いしてるよ。君は化け物を悪い物か何かのように思ってないか?』
「いや、別に……。」
そう言われてみると、そんな気もする。
『受け入れろよ、化け物でもそこの赤い少女は心優しい存在だ。』
『解らないなりに君を受け入れようとしている。』
『そんな善良な生き物を人間じゃないからって受け入れないつもりは無いだろ?』
『そう、明也ちゃんは心優しい人間だ。私は知っている。』
「そうか……?俺なんて人殺しだぜ。」
『なら君みたいな人殺しを愛してくれる存在が居るだけで充分じゃないか。
『私みたいな屑でもサンジェルマンが居てくれるように、君みたいな人でなしでも茜ちゃんが居る。』
『そう、君は幸せなんだ。』
『どんな存在であれ、愛してくれるならばそれを無条件に受け入れるべきなんだよ。』
『解らないなりに君を受け入れようとしている。』
『そんな善良な生き物を人間じゃないからって受け入れないつもりは無いだろ?』
『そう、明也ちゃんは心優しい人間だ。私は知っている。』
「そうか……?俺なんて人殺しだぜ。」
『なら君みたいな人殺しを愛してくれる存在が居るだけで充分じゃないか。
『私みたいな屑でもサンジェルマンが居てくれるように、君みたいな人でなしでも茜ちゃんが居る。』
『そう、君は幸せなんだ。』
『どんな存在であれ、愛してくれるならばそれを無条件に受け入れるべきなんだよ。』
どんな存在でも愛してくれるなら受け入れよう。
それ以外何も期待しない。
それは優しさに聞こえるが……、結局相手になんの望みも懐いていないってことで。
相手に絶望してるって事で……。
それ以外何も期待しない。
それは優しさに聞こえるが……、結局相手になんの望みも懐いていないってことで。
相手に絶望してるって事で……。
『なんでこんな雑談してるのかって言うとサンジェルマンからの私へのお願いでね。』
『明也ちゃんのその青臭い絶望そのものを私が絶望させて空亡だかを元から断つんだって。』
『ほら、世界を滅びろって無意識に思ってるならこの世界は素晴らしいって思えばその願いも終わるでしょ?』
『で、明也ちゃんにそう思わせるには私の「下から目線性悪説」が有効らしいから。』
『さぁ、明也ちゃん。そして茜ちゃんも。』
『その巫山戯た絶望を私の異常で非情にぶち殺してあげる。』
『思いっきりへこんでいってね!』
『明也ちゃんのその青臭い絶望そのものを私が絶望させて空亡だかを元から断つんだって。』
『ほら、世界を滅びろって無意識に思ってるならこの世界は素晴らしいって思えばその願いも終わるでしょ?』
『で、明也ちゃんにそう思わせるには私の「下から目線性悪説」が有効らしいから。』
『さぁ、明也ちゃん。そして茜ちゃんも。』
『その巫山戯た絶望を私の異常で非情にぶち殺してあげる。』
『思いっきりへこんでいってね!』
決めポーズまで決めて朗らかに笑うその女性は死んだ魚を見る死にかけた蛸の中の寄生虫のような
どす黒くて薄暗くてグロテスクなくらいに淀んだ暗い目をしていた。
【上田明也の探偵倶楽部47~無可知・無価値・夢価知~fin】
どす黒くて薄暗くてグロテスクなくらいに淀んだ暗い目をしていた。
【上田明也の探偵倶楽部47~無可知・無価値・夢価知~fin】