「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-94

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【上田明也の探偵倶楽部after.act3~戦闘はやる気の問題~】

久しぶりに実家に帰ってきた。
俺たち女中の杏奈さんに案内されるまでもなく親父が普段から居る和室に向かった。
ふすまを開けるとサムライポニーテールの大男が茶を飲んでいた。

「と、まあそう言う訳で只今父さん。」
「お邪魔いたします。」
「おお、来たか嬢ちゃん。この前は見苦しいところを見せてしまったから気にしてたんだぜ?」
 そして息子よ、……お前に言うことは特にない。
 いやー、それにしても彼女美人さんだなあ。
 俺ももうちょい若ければ……、なんてな。冗談冗談、あはは。
 母さんの若い頃よりずっと可愛いわ。お前が俺に似て美形で良かったぜ。
 母さんに似られたらどうしようかなあと……」
「自分の妻に対して今とんでもない事言ったよね?
 ていうか母さんを不細工扱いしたら罰当たるよね絶対。」
「気にするなよ。不細工だのなんだのは関係ない。
 結局は気に入るか否かだ。俺としてはああいうタイプ好みじゃないんだよね。
 隙がなさ過ぎてつまらないっていうか。」
「明也さんのお母様ってどのような方なんですか?」
「一般人。」
「え?」
「ちなみに弟も居る。」
「えええ!?」
「一般人。俺に似てでかくなったんだが顔は母親似だ。
 アメフトの選手としてアメリカで活躍してる。」
「ええええええ!?」
「茜さん、何に対する『ええええええ!?』かな。」

これではまるで俺の家が人外魔境みたいじゃないか。



「いや、明也さんの育った環境なんだからきっと人外魔境に違いないと……。」

おお、予想通りの返事。
少しばかりため息を吐く。
もう少し涙がタンクに溜まっていたら溢れていたところだ。

「こいつは環境が悪くてこうなったんじゃない。
 根っこから駄目な奴だったからこんな面白可笑しい奴になったんだ。
 そもそもあの二人には非日常を追い求めるモチベーションがない。
 本当に一般人、故に都市伝説を扱う才能がない。
 モチベーションとは即ち才能だからな。
 こいつが自分で格闘技とかやらないのに近いものがある。
 身体は並以上なんだけどなあ?
 やる気さえあれば俺が少し鍛えても良い程度には良い体だ。
 まあ堕落しきってるのは生まれつきだけどなー。」

父親にまでこの言われようだ。
泣ける、今の俺ならば部屋の隅で三角座りで泣ける。
人を罵るのがそんなに楽しいかこの人非人共め。

「成る程成る程、確かに環境如きで左右されるような人に思えないですしね。」
「解ってるじゃないか、流石我が息子の嫁だけはある。」

どうやら楽しいようである。
今なら満ちる悲しみを昨日の世界にすら届けられる気がする。





「あと俺を仇と付け狙っていた奴も我が息子の嫁がトドメを刺したらしいな。」
「え?」
「アレ実は俺が呼んでたんだよね、お前らが勝手に仕留めちゃうとか残念。
 駄目だぜ馬鹿息子~、身重の妻に戦わせるとかお前は鬼か悪魔か両方か?」
「成り行きだよ成り行き。ていうかなんで茜さんがトドメ差したって解ったんだよ?」
「いやそれは血の臭いがだなあ……練り切り?」
「それはお菓子だ。成り行きね。」
「そういえば昔からカクレンジャーごっことか好きだったよねおまえ。」
「それはなりきりだ。」
「バイトが忙しいんだよなあ~。」
「それはキリ丸だ!……キリしか合って無いじゃねえか!
 だから成り行き!」
「そうキリキリするなよ。」
「キリキリなんて言わないから!俺は今ピリピリしてるの!」
「この場合ピリピリどころかイライラじゃないでしょうか。」
「……そうかな。」
「そうです。」
「まあそれはそれとしてだ。なんでお前らは急に訪ねてくるんだよ。
 一言言っておけば幾らでも準備なんてできるのに。」

そう、そういえば俺たちは何も言わずいきなり遊びに来たのだ。
まあ親子なんだから許して欲しい。

「良いんだよ、ちょっと近くを通りかかっただけだから。」
「ったく……、まあ良いや、話したいことあったし。おい杏奈!お茶淹れろお茶!」
「そんな良いですよ、どうぞお構いなく……。」
「承りました旦那様。」

しばらくすると先ほどの女中さんがお茶を運んでくる。
絶妙な温度だ、旨い。




「さて、今日お前らを呼んだのは他でも無い。
 上田家もちょいと特殊な事情を抱えていてなあ。
 放逐された身とはいえその長男の伴侶となる以上茜さんにもその事情を……。」
「確かさっきまで『なんでお前らは急に訪ねてくるんだよ』とか言ってたよね?
 そしてなに?今更何?
 俺ってば元々『一般人出身で意味不明の巨大容量持ち+天性の都市伝説の戦いに対する才能』ってキャラだったんだけど?」
「良いんだよ、これから重要な話するんだから、雰囲気出るだろ?
 あとキャラ立てなんて下らないこと気にするな。どうせもう最終回も終わったんだ。」
「最終回?まあ良いや、その家の特殊な事情ってなんだよ。
 俺なんてサンジェルマンから聞くまで自分の家は普通の家だと思ってたんだけどな。」
「いやあ、お前さ。
 父親が会社社長という職についてるわりには日曜日とか家でゴロゴロしすぎじゃね?
 って思わなかったか?」
「いや、母さんが実務は全部仕切ってるし、どうせお飾りなんだろうとばかり。
 ていうか逆タマ?お爺ちゃんには気に入られてたみたいだし。
 あっ、そういえばお爺ちゃんには会ってないなあ……。最近元気してる?」
「お前も親父に向けて逆タマとか結構良い根性してるよな。
 表出るか?やるか?
 手抜かり無く手抜いてやるから殴らせろよ。」
「二人とも喧嘩はやめてくださいよ?」

茜さんがこっそりスカートの中に手を忍ばせる。
だが彼女の様子がおかしい。みるみるうちに表情が青くなっていく。

「奥様、あまり危険な物を持ち込みやがらないでくださいませ。」

女中の杏奈さんが茜さんのナイフを持っている。
どうやら何時の間にかスリ取っていたらしい。





「いや、俺がスカートの中に手突っ込むとセクハラじゃん?」
「問題そこ?」
「お返しいたしますね奥様。」
「ていうかワタシ奥様?」
「旦那様のご子息の奥様でしたら奥様だと杏奈はプログラミングされております。」
「私が……奥様。」

茜さんがニヤニヤしている。
嬉しいらしい。

「でだ、上田家についてこってり話すぞ。ED後の裏話みたいなもんだから適当に聞き流せ。
 この前俺が負けたら話すって言っていた話とも関わりがあるし。」
「おう、それじゃあ聞くぞ。
 杏奈さん、カルピスのよく練った奴を頼む。
 レモンありありの水マシマシに氷を刻んだ奴をたっぷり入れてくれ。」
「良く練った……カルピス?」
「カルピスって練るもんだろ?」
「おいおいどうしたんだ杏奈、まさか今まで俺に出したカルピスは練ってなかったのか!?
 サンジェルマンの馬鹿め!プログラミングが不完全じゃねえか!」
「杏奈さん駄目ですよ、カルピスは練らないと。」
「……あ、杏奈はカルピスを練る事くらい知ってますよ!」

杏奈さんは頬を赤らめたまま台所に行ってしまった。

「おい馬鹿息子、カルピスを練るってなんだよ。」
「明也さん、私もそんなの聞いたことないですよ。」
「寡聞にして俺も知らないのだなあ。」

口から出任せを言ったら二人が乗ってくれるとは思わなかったのだ。
遠くから杏奈さんが台所の壁に頭を打ち付ける音が聞こえた。




さて数分後。

「そもそも上田家ってのはこの学校町とは縁もゆかりもない家だ。
 戦国時代より前から続く普通の武家の家柄でこそあれ都市伝説の力とも関係はない。
 一子相伝の剣術とかも伝わってるけど大したことないしお前には教えないから安心しろ。」
「なんだよそれ。大したことないのかよ。」
「大したことないってのは嘘。飛天御剣流ほどじゃないけどすごい。
 お前には教えないが……そいつに教える。」

父が茜さんのお腹を指さす。
ああ、だからこの馬鹿親父は孫が出来て喜んでるのか。

「長男は性格ひん曲がってるし次男は優しすぎるし。
 教えてもしょうがないじゃないか。」
「まあ…………。」
「で、俺は若い頃に武者修行してまわってたんだけどウダウダの間に親父が死んでな。
 日本に帰ってきたのよ。この間にサンジェルマンと出会って都市伝説の力を知ったんだ。」
「ほっほう。」
「その後明也さんのお母様に出会ったのですか?」
「その通り、ところがそのお母様の実家が厄介でな。」
「川白家って……普通の家だったような気がするけどなあ。」
「川白っていうのがまずそもそも違ってなあ。
 あれ本当は河伯って書くんだよ。」
「え?」
「ご存じなんですか明也さん。」
「いや知ってるも何も…………。」

この町で探偵をしている以上、知ってるも何も無い。
学校町の五大旧家の端に名を連ねる家じゃないか。





「そう、五大旧家の一つの長女、河伯葵。俺はあいつの外見じゃなく中身に惚れたんだ。
 何処までもノーマル、普通、並、なんの間違いもなく凡人。
 外見こそちょっと人目を引くらしいがそんなのこの世の享楽を全て知った俺に言わせれば下らん。
 あいつは最高だ。普通であるが故に、な。」
「ちょっと待て親父。じゃあ癸酉の奴の赤い髪は病気じゃなくて……。
 それに俺の所に一度獄門寺の奴が依頼を持ち込んできたこともそれ関係か?」
「あれは河伯の“血が濃い奴ら”の特徴だ。
 久しぶりに出たらしいからあの爺さん喜んでたっけか。
 獄門寺の関係は知らない、癸酉の奴が紹介した可能性は有る。
 とにかく俺は刀一本で娘を頂きに来たぞぉ!って殴り込んだ訳よ。
 で、あの爺さんや癸巳叔父さんを相撲で張り倒してゆうゆう葵を掠ってきたと……。」
「聞いてねえぞ……。」
「その頃にはすでにお前が葵の腹の中に……」
「だらしなさは遺伝ですか……。」
「旦那様も旦那様のご子息もその辺りグダッグダですね。
 女性の敵じゃないですか。」
「おい馬鹿親父、お前のせいでこのざまだぞ。」
「いや、俺は悪くない。悪いのは美しすぎる世の女性達だ。」
「やめろそれ以上口を開くな、どんどん俺たちの駄目駄目な所が世間様に発覚する。」
「おいおい、人気投票とかあったら順位ダダ下がりじゃねえの?」
「勿論だろ?女性票は期待するな。」
「まあ良いや、ちなみに河伯の家の異能は完全に父系遺伝だからお前にはまったく影響を与えてない。」
「そうなのか。」
「そうなのさ。で、話したいことはもう一つ。」

コホンと咳払いしてから親父は緑茶を飲み干す。





「ぶっちゃけ俺も修行の名の下にわりと好き放題してるからさ。
 結構いろんな人から恨み買ってるのよ。」
「さっきの訳もわからないまま割烹着着たお姉さんに銃殺されたお兄さんとか?」
「ああ~、顔見てないから解らないけど……、その鋏ってそいつが持ってた奴?」
「そうそう、ついでに奪ってきた。」
「なら昔果たし合いで倒した武術家の弟子の類かな……。」
「恨みが俺に行くかもしれないって?」
「いや、お前は大丈夫だろ。
 お前の息子については気をつけた方が良いと言っているんだ。」
「ああ、そういうことか。」
「まあ俺の孫を守る為の策ぐらい俺だって既に巡らせている。」
「俺の時見たくサンジェルマンに任せればどうとでも……。」
「駄目だ、そいつがお前の“異常”に準ずる性質を持っているとは限らない。
 そういう特殊な性質がないとF-№の濃いメンバーとはやっていけねえよ。」
「そう言われてみればそうか。」
「おう、エーテルとかって奴が組織に居てな。
 そいつが茜さんの戸籍を用意しておいてくれたんだが、そいつの所属するE-№に俺の孫は預けさせたい。
 まだ話してないけど頼めばなんとかしてくれる気がする。」
「あの戸籍ってエーテルさんが用意してくれたんですか?」
「おう、言わなかったっけ?」
「おかげでパスポートとれたから嬉しかったぜ。
 エーテルが準備してくれたってのは聞いてなかったなあ。
 今度お礼言いついでに遊びに行こう。」
「待て馬鹿息子、お前一応組織から警戒対象にされてるんだからな?」
「良いよ、パソコンからにゅるっと出てくるから。あいつのメルアド知ってるし。」
「え、お前ら仲良いの?」
「マブダチ。」
「どこまで信じれば良いんだ……。」

結構真面目に親父は頭を抱えていた。





「待ってください、勝手に話を進められると困ります。」
「その通りだぞ、俺と茜さんの子供のことを親父が勝手に決めるな。」
「くそっ、俺はお前らのことを思って行動したつもりだったけど確かにお節介だったな!」
「聞き分け良いな!?」
「そりゃあもう、自分が悪かったらすぐに反省するよ。俺は。」
「とにかく、この子のことは私たちで決めます。」
「そうだそうだ!」
「お前茜さんの尻馬に乗ってるだけじゃねえか。」
「そりゃあ毎晩……。」
「言わせねえよ!?」
「言わせませんよ!?」
「安易な下ネタは良くないような気がします。」
「あらやだ俺ってばフルボッコじゃないすか。」
「まああれだぜ息子よ、何が言いたいかっていうとだ。
 親の因果は概ね子供に行くから注意しろよってことさ。」
「……解ったよ。」

出来ればそうなって欲しくはないなあ。
なんて自分らしくもないことを考える。
COAの事件の後でどうやら自分もすっかりぬるくなってしまったようだ。
まああんなもん見せられたら少しは考え方も変わるか。




「そういやお前結構強くなったよな。」
「馬鹿言うな、俺はデチューンしたんだぜ。弱くなってるはずだ。」
「いいや、今の方が強い。なんなら試してみるか?」
「んなこと……。」

目の前の男はシニカルに笑う。
身体から殺気がほとばしっていた。
このままだと茜さんが危ない。
自然に右手が動いてテーブルの向こうの父を殴り飛ばしていた。
思い切りのけぞって床に頭を打ち付ける父。

「ほら見ろ、反応速度が段違いだ。」
「いやいやいや、なにやってんだよ親父。」
「お前に強さのなんたるかを理解しておいてほしくてな。
 戦闘における勝利とは即ちモチベーションの勝利だ。
 そう言う意味で守るものを手に入れたお前は弱くなったと同時に最強にもなった。
 ってことを理解して欲しかったのよ。」
「……そっかい。」
「ああ、一見すると昔の触れれば切れる鋭さは見えなくなったが……。
 お前は今の方が強い、お前の本来持つ静かな強さっつうの?それが出てるよね。
 俺みたいな派手なタイプとは違う強さだよな、レアなんだから大事にしろよ。
 解りやすい強さと違って勝負が成立するってのは良いことだ。
 俺みたいな解りやすい強さは相手が逃げ出しちまう。」
「よく知らないけどそうなのか?」
「そうだ、久しぶりに空手ごっこやろうぜ。
 昔は駄目だったけど今のお前のモチベーションならすぐに帯くれてやれる程度にはなるよ。」

強さに価値など無いと思う自分としては甚だどうでも良い話だ。
だが父が起き上がって空手の構えを取り始めた以上、俺には少しだけ親孝行する必要が出来たらしい。
【上田明也の探偵倶楽部after.act3~戦闘はやる気の問題~fin】

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