「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-95

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
【上田明也の探偵倶楽部after.act4~こぼれた砂の最後の一粒~】

聖杯を巡る戦いの間にメルは俺の側を離れていっていた。
まあ今の俺はもう冷酷な殺人鬼なんかじゃない以上、俺と居るメリットも無いか。
俺はあいつに獲物を与え、あいつは俺の怒りを発散させる力を与え。
乾いた物を互いに満たし合う、ギブアンドテークなだけの関係。
結局その程度だったのかもしれない。
ちなみに拝戸がメルと契約するしないで現在は揉めているそうだ。

「で、回想終わり。」
「何を言っているんだお前?」
「ちょっと感傷に浸っていたんだよ、その間に逃げれば良かったのに。
 突き出されるのは警察、それとも組織、どっちが良い?」
「ますますお前が何言っているのか解らないなあ。」
「証拠は挙がっている。お前が宝石店から大量の宝石を盗んだこそ泥だろう?
 “牛の首”契約者さんよ。
 正体不明の特性を使えば足が着かないとでも思ったのか?」
「…………ばれてたのか。」
「お前みたいな子供まで契約犯罪なんてね、世も末だ。」

目の前に立っているのは高校生くらいの男性。
外見は真面目そうだがこれでも“牛の首”の契約者である。
正体不明に加えて人食いや怪力の特性を持っている厄介な敵である。
契約者さえ一級品ならば、だが。




「だがおっさん!あんたに何が出来るって言うんだ!
 この牛の首は俺の声を聞かせるだけで相手が恐怖にかられて何も出来なくなる能力もあるんだぜ!?」
「おっさん、ねえ。まあ許そうか。もう妻子持ちな訳だし。」

俺はそのままスタスタと少年に歩み寄る。
どうみても只の子供なのだ。
何を恐れる必要があるというのだ。

「って……おい、なんで近づいてこれるんだよ?」
「いや、だって怖くないし。」
「来るんじゃねえよ!」
「いや、行くよ。捕まえるから。」
「何と契約してるんだよ!?おかしいだろうが!
 牛の首の話を聞いても恐怖で精神を乱さないようになる都市伝説って――――!」
「いや、違うんだよね。俺頭おかしいから。別に精神攻撃なんて怖くないの。
 契約している都市伝説は赤い部屋。
 被害者の居た部屋が血で赤く染まっていたという逸話から相手を流血させたりできてね。
 契約の副作用から少々力が強くなっているが……。
 まあそれは所詮その程度のことだろ?」

愛する茜さんの顔だけを脳裏に浮かべる。
そうすることで都市伝説【赤い部屋】単体の力を極限まで引き出す。
この状態だと瞳が赤く染まって見えるそうだ。

「う、うわぁぁぁああ!」

牛の首の契約者は恐怖にかられて俺に飛びかかってくる。
だがまるで素人の動きなので見切って躱すことは容易い。
すれ違いざまに彼の足を指でなぞる。
そこから真っ赤な血が噴き出した。






「さぁ少年、このまま赤くなりたいか?」
「…………あ、う。」
「立てないならば良い、盗んだ宝石はもう勝手に回収したから君に拷問をするつもりはないしね。」

腰を抜かした少年に手をさしのべる。
駄目だ、子供ができると思ってからと言う物子供に甘くなってしまった。
自分の子供の頃を思い出せば子供だからと言って戦闘時に優しくする必要が無いことは解るはずなのに。
最近では子供相手に欲情する罪悪感でコミックLOの定期購読までやめてしまったのだ。
俺がさしのべる手を掴むこともなく少年はやぶれかぶれで殴りかかってきた。
それを咄嗟にパソコンで受け止める。
そのパソコンの形はとても奇妙だ。
液晶に浮かぶ赤い部屋のポップアップ。
キーボードがあるはずの場所にはYesと書かれた巨大なボタンが一つだけ。
まるで盾みたいなデザインだ。

「ふむ、まだやる気があったのか。」
「こんなところで捕まってたまるかよ!」
「いいや、捕まっておけ。今ならまだ取り返しがつくんだから。
 そんな台詞は取り返しがつかなくなってから吐くものだよ。」

赤い部屋のポップアップが消え去る。
それと同時に液晶画面から真っ赤な手が大量に出てきた。

「な、なんだよこれ!?」
「赤い部屋だろ、お前がイエスを押すから悪いんだ。まあ少し中で反省してな。」

逃げようともがく暇もなく、牛の首の契約者はパソコンの中に引きずり込まれてしまった。
このまま真っ赤にしても良いのだがそうすると依頼成功にならない。
こいつはパソコンの赤い部屋に閉じ込めたまま持ち運びして組織に引き渡して、
依頼人にはこいつの盗んだ宝石を返して、それで依頼は終了だ。




「さて、今日の仕事は終わりっと。」

パソコンを懐にしまって歩き始める。
探偵の仕事はビルの経営より地道で稼ぎも少ないが中々どうして充実感がある。
警察よりも自由に、組織よりも勝手に、都市伝説の事件に関与できるというのは中々悪くないものだ。
多重契約より単一契約の方が都市伝説の力を引き出しやすい。
当然のことである。
そもそもほとんどの人間が単一契約しかできないのだ。
そして多重契約できる人間がたった一つに契約を絞った時、
通常では考えられないレベルでの都市伝説との同調が可能になるらしい。
それが今の俺、とサンジェルマンは言っていた。
多重契約のハイパワーさは無い代わりにたった一つの都市伝説の力を極限にまで引き出している。
ある意味俺の特化した才能にぴったり合っている状態なのだそうだ。
この眼が赤くなるのだけは少し恥ずかしいのだが……まあそれはそれか。

「帰りはラーメンでも喰っていくか……な!?」
「飯……、腹減った……。」

ボソボソと聞こえるつぶやき。
チラッと路地裏を眺める。
男とも女ともとれる外見の人間らしき何者かがそこで倒れていた。
間違いない、新手の都市伝説だ。気配はないがそうに違いない。

「おい、あんた大丈夫か?」
「腹減った……。」
「解ったよ、ついてこい。なじみの店が有るんだ。」

厄介ごとが飯の種である探偵稼業。
俺は迷わずそいつを助けることにした。


ラーメン屋の暖簾をくぐると店主がいつも通り暇そうに座っていた。

「おおっ!?笛吹さんどうしたんだい?」
「いや、厄介事(メシ)の種がそこらへんに転がっていたんで……。」
「…………。」
「この人には味噌大盛り細切れチャーシュー葱マシマシの背脂アリアリで頼む。
 俺は魚介醤油メンマ多めな。」
「あいよっ!」
「それとビールと餃子、先にお願いできるかな?」
「よしきた、ちょっと待っててな。」

さて数分後、俺の餃子とビールは出てくると同時にすべて奪われていた。
何時の間にか俺の魚介醤油まで喰われており、結局俺は同じラーメンを三度頼まねばならなくなった。
一体どれほどの間こいつは物を喰ってなかったのだろうか。

「おいあんた、俺は私立探偵の笛吹丁っていうんだけどさ。
 あ、ちなみにこれ名刺ね。……名前を教えてくれないか?」
「ん……あれ、あんた誰だ。今までの記憶がすっぽり抜けてて……。」
「笛吹丁、探偵だ。」
「おー名刺だ。成る程成る程、それで、なんで俺は探偵さんと飯喰ってるんだ?」
「空腹で倒れていたから俺がラーメン屋さんに連れてきた。」
「そうだったのか!そりゃあありがたい!」
「それで名前を……。」
「ああ、俺の名前は禰門椿、格闘家だ!」

格闘家、また妙な身分の相手と知り合った物だ。
まあ私立探偵を名乗る自分も人のことは言えないが。
こうなれば乗りかかった船だ、最後まで助けることにしよう。
とりあえずこいつに今晩宿の当ては有るのだろうか、と本人も気にしていないようなことを俺は真剣に悩み始めたのである。
【上田明也の探偵倶楽部after.act4~こぼれた砂の最後の一粒~fin】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー