「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-108

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【上田明也の探偵倶楽部after.act13~上田君はしばらくお休みなようです~】

「ま、待て!話せば解る!離せ、離すんだ茜さん!」
「何を言ってるんです、話も離しもしませんよ?」
「あっ、腕が!腕が逆の方向に……、あ、あ゛あア゛アァァア!」

コキッ
一月一日、新年を迎えた笛吹探偵事務所に高らかに鳴り響く骨の音。
そう、新年早々上田明也の腕が真っ二つになった音である。

「ふぅ……すっきりした。これに懲りたらあんまり節操ない真似はしちゃ駄目ですよぉ?」

普段はPSPより重たい物を持たない筈の茜さんである。
彼との契約でパワーアップしているせいか滅茶苦茶強い。
手加減していたのに必死で逃げる上田を楽にねじ伏せてしまった。
この際だから腕ポキの原因についてはハッキリ言ってしまおう。
彼の浮気が発覚したのである。
流石に身重の妻が居る状態でやらかした以上弁護の余地は無しだそうで彼の父もサンジェルマンも弁護してくれなかった。
しかし上田はあまり反省してない。後悔はしている。

「……ごめんなさい、反省しています。」

上田は関節が死ぬほど痛い筈なのだが、怖いほど冷静な対応である。
恐らく冷静なのはアレだろう。
この状況を危機と認識しているからで……

「それじゃあ次は下も行きますよアキナリさん、良い声聞かせてくださいね?」



茜さんはガッと上田の首を掴んだ。その体を頭上高く持ち上げていく。
神に生贄を捧げる儀式の始まりのようだった。
茜さんは上田が浮気相手から貰ったらしいベルトをむしりとり握り潰した。
握られている首に激痛が走った。
が、のどが潰れて声が出せない。

「あっ、いけない。これじゃあ悲鳴を聞けませんね。
 まあ良いか、離しも話もしませんから。
 言葉なんて無くても通じ合えるし側に居られますよね。」

――おれは誰なんだ? ――
と上田は思った。
これはおれじゃない。こんなおれが、おれであるはずがない。
茜さんがは上田の右足をたたき割った。
もうなんの痛みも感じなかった。
――これはおれじゃない――

上田の体温が急に下がり始めた。契約による身体への負荷だった。
常人ならば既に死んでいるレベルのそれ。
上田の膨大な容量はそんな身体への強烈な負担をおさえていたのだ。
しかし今の死にかけた彼に身体への負荷を抑える精神力はない。
そして身体を押さえつけられ、寒さも震えることもできない。
茜さんは、上田をアッパー気味に殴りつけた。
だらっと、赤い血が上田の口から零れる。
上田は急速に子供時代に戻っていく自分を感じた。
悪戯して調子に乗りすぎて父親に殴られていた頃の自分、反省してないくせに泣いて謝っていた自分。
上田はそんな子供の頃に戻っていた。





「ん?」

穀雨彼方は笛吹探偵事務所の副所長である。
しかし彼は所長室には入らないようにと言われて居た。
それでも所長が断末魔を上げたならばとりあえずは様子を見に行くべきであると判断した。
彼は職務に忠実だったと行っても何ら問題無いだろう。
だがそれが常に正しいとは限らない。

「上田さん!大丈夫で……」

ドアを勢いよく開ける彼方。
ドアは勢いよく何かにぶつかる。
ドアにぶつかった何かは勢いよく転がってそのまま目を回して倒れてしまった。

「キャー!あ、明也さん死なないで!貴方にはまだ子供が……!」
「ごふっ……。まさか彼方にトドメを刺されようとは……。」
「わわわわわわ!?何が有ったんですか上田さん!」

彼方が目にしたのは、四肢の関節が全てあらぬ方向に曲がった上田明也だった。

「ああ、彼方……。事務所とレモンはお前に任せた……。
 お金は使いすぎるな、あと良かったら茜さんと……多分大丈夫だけど俺の子の面倒を……ガクリ」
「上田さああああああああああああん!?」

上田の視界は真っ黒に染まった。




数日後、笛吹探偵事務所事務室。

「さて、所長の寝正月が確定してしまったので僕たちが頑張らなくてはいけません!」
「おーう……。」
「吉静も頑張るよ!」
「全員私よりも年下だと……。大丈夫かな?」

笛吹探偵事務所は基本的に上田明也が居なくてもなんとかなる。
調査はレモンがやればいい。都市伝説退治は彼方がやれば良い。事務作業は向坂がやれる。
さらに大人に見えるように変装することで依頼人から直接依頼を受けることすらできる。
実は彼女は演劇部所属なのだ。
ただし、上田明也はそれらを全て一人で出来る。
故に居なくてもなんとかなるが、居なければ事務所が忙しくなる。

「でもレモンちゃん、私たち全員子供だよ?大丈夫なの?」
「それなら問題無い、依頼はお前が受け付けるし、荒事には丁度良い奴を呼んでおいた。」
「あけましておめでとう!」
「あっ、恋路ちゃん!?」
「なんで俺までここに……くそっ。」
「明日君まで……?」
「私が呼んだ、二人とも自宅が半壊して修繕費やら新しい家具やら必要なのだそうだ。」
「なにやってんの二人とも!?」
「いや、正月二日目に遅い大掃除を始めてたら……。」
「いきなり人形が動き始めて……。」
「まさか正夢になるとは思わなかったよ。カメンライダーダブルカックイイヨネ。」
「そしてこっちのバイトが組織の仕事より割が良かったからさ……。」

近所に住んでいるという向坂ちゃんが苦笑いで二人を見ていた。





「とりあえず今日の仕事は新年で調子に乗っている野良都市伝説の駆除だ。
 近くの神社では初詣の際に被害が多数報告されたそうだな。
 見張り役が居るらしくて組織の人間が来るとすぐに逃げてしまうらしいところから私たちが行くことになった。
 明日真、恋路、彼方、三人はそれぞれ私が指定するところで待機していてくれ。」
「解りました。」
「了解したよ。」
「く……、ナズェヤツニキョウリョクセニャナランノジャ」
「アスマ、フィギュアの修繕費どうするの?
 貯金してた分も使っちゃってたんでしょ?
 ストーブもないまま冬は越せないよ。」
「さてさて、それじゃあ行ってきますね橙さん。」
「おう、行ってこい。」
「あれ?レイモンは行かないのか?お前強いじゃないか。」
「私は非戦闘員だ、あと無事に終わったら全身複雑骨折してる笛吹をからかわせてやるから頑張れ明日真。」
「解った頑張る!」
「…………。」
「単純だろ?私の恋人。」
「まあそういうのは嫌いじゃない。」
「やらないぜ。」
「明日君ロリコン!?」
「ナズェソウナルンデスカ!」
「明日さん、事と次第によっては許しませんよ。」
「くそっ!ナデナンダダリカゴタエデグダザァイ!」

明日真の悲痛な叫びが事務所に谺した。





一方その頃
上田明也が眼を覚ますとそこは普段の寝室だった。
部屋に茜さんが入ってくる。
茜さんは小さな鏡餅をテーブルに置いた。
あまり飾り付けのない、ほとんど裸の鏡餅だった。

「あけましておめでとうございます。明也さん。」

茜さんは暗がりのベッドに向かって声をかけた。
ベッドの上でもぞもぞと人間の形を保ってるだけの上田明也が動いていた。

「どうしたの、明也さん?なにも心配することはないんですよ?」

茜さんはもがき続ける上田明也の体を抱いた。

「私が守ってあげるから。ずっと……ずっと……」

ひとつだけ飾られた小さな橙が、鏡餅の頂上で光っていた。

「テレビの前の皆さん最後に一つだけ、これからはもげろ、じゃなくて折れろ、で充分だと……。」
「誰と話してるんですか明也さん?もしかして悪夢でも?
 うなされてましたからね……。
 でもそんな弱い事じゃ駄目ですよ、お父さんになるんですから、ねぇ?」
「……(この状況が悪夢とか言っちゃいけないんだよなあ)。」

お腹の子供に向けて語りかける茜さんを見て、流石の上田も自分の行為を反省し始めていた。

【上田明也の探偵倶楽部after.act13~上田君はしばらくお休みなようです~fin】

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