「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-113

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【上田明也の探偵倶楽部after.act18~神と天使と悪魔~】

「激しくごま油挽肉包んでく」
「いつもと変わらぬ夕餉」
「テッテレレてーててー」
「遙かに続いてく鍋振りの中で」
「僕らはラー油入れてる」
「テッテレレテーテテー」
「豆板醤の量は」
「少し多めで」
「何時までも守りたい」
「家庭の味を」
「激辛麻婆麻婆ファイヤー」
「匙を握りしめて今」
「ジューシー挽肉豆腐山椒」
「彼方は喰ってくれるさ」
「死屍累々晩飯」
「レモンは家出始めた」

本日の晩飯は麻婆豆腐だ。
危険を察知してレモンは組織の先輩の所にプチ家出している。
彼方は喰ってくれていると期待していたのだが妹を置いてレモンと逃げ出してしまった。
家に残っているのは茜さんと穀雨だけである。
まああの二人だったら仲良いし、問題無いか。
そんなことを考えながら俺は買い物から帰ってきていたのだ。
そうそう、麻婆豆腐を称える歌はそのうちネットで配信されるさ。
是非ともダウンロードしてくれ。






普段は通らない近道。
その日は何と話の気まぐれで通った。
夕暮れが綺麗だった。
汚い町の雑踏がここだけを忘れたかのように避けている。
誰も彼もに忘れ去られたが故にどこまでも無垢な場所。
まだ子供だった頃から町に出てはここでこっそり悪いことをしていた物だ。

「ああ、……綺麗だな。」

どうして今自分は此処にいるのだろう。
思ったよりも遠くまで来てしまった。
懐かしい子供の頃には戻れない。

「あ、居た居た。明也さん、早く帰ってきてください。」
「あれ?なんで此処解ったのさ?」
「穀雨が前に見つけたんだよ!」
「おや穀雨ちゃんまで迎えに来てたのか。」

だからせめて、この手にある物だけは守ろうと思ったんだ。

「―――――――――――――!」

そんな時、何処かから発せられる濃密な殺意、殺気。
近いな、少し様子を見ておくか。





「茜さん、穀雨ちゃん、先に帰って麻婆豆腐を作っていてくれ。」
「どうしたんです?」
「いや、何か厄介ごとが起きて居るみたい。ちょっと様子を見てくるよ。」
「放っておいて帰りましょう?危ないことに首を突っ込んじゃ駄目ですよ。」
「悪いな、厄介ごとに首を突っ込むのが仕事なんだ。
 できるだけ急いで帰ってくるから、麻婆豆腐作っておいてくれ。」
「早く帰ってこないと肉豆腐にしますよ?」
「穀雨は肉豆腐も好きだよ!」
「はっはっは、それは困るなあ。それじゃ、急いで帰ってくるよ。」
「お願いしますよ?」
「穀雨との約束だよ、お兄ちゃん!」
「解ってる。それじゃあこの豆腐、持って帰っておいて。」

俺は二人と別れて殺気を感じた方向へ足を運んだ。
近づくにつれて打撃音や金属音が聞こえてくる。
誰かが戦っている。

「マリア・ディーフェンベーカーですか………惜しい人間を亡くした者です。神に愛され、神を愛した少女。素晴らしい才能の持ち主でした」
「……しら、じらしい……っ」
「私は、彼女を殺した訳ではありませんよ?…あれは、そう…………不幸な事故、というべきでしょうね」
「ふざ、けんな……っ、てめぇ、が……殺したような、もんだろうが……!」

あれは……樹さんじゃないか。
誰か、男と戦っている。
下手に手を出す訳にも行かないし、少し気配を殺して様子を見るか。







「そうですか、そこまで、わかっていますか………だが、だからどうだ、と言うのです?私は神の奇跡を体現する者。神そのもの……私の意思こそが、神の意思そのものなのですよ」
「……ってめぇ……!?」
「まぁ、カインに関しては……本当なら、とっくに手駒に加えておきたかったところなのですがね。はて、あれはどこで、姉以外の心の支えを得たのやら………早急に、そちらを潰さなければなりませんね」

戦闘は予想以上に一方的だった。
何せ相性が悪すぎるのだ。
樹さんは格闘家だ。格闘家、否、武術家にとっては間合いこそが戦闘において最も重要な要素である。
自分の間合いで戦えない格闘家はその力を半減させる。
敵は何かしらの空間操作系統の能力を持っているらしい。
しかもそれだけではない。
何かしらの形で攻撃をカウンターする能力も持っている。
そうやって考え事にふけっている内に樹さんの首に男が鎌を振り下ろそうとする。

俺は気配を完全に立ったまま樹さんの所に駆け寄り、男の目を突いて、その隙に樹さんを鎌の届かないところに蹴り飛ばした。

「ぐおっ!?」
「……なんだ?」

目から真っ赤な血を流したまま辺りを確認する男。
カウンターと言っても、何が起きているか解りさえしなければ反撃は不可能だ。
しかも俺は今、気配を隠してしまう異常な少女『拝戸純』の異常を模倣している。
俺の位置はまだ捉えられていないはずだ。
懐からMP7を取り出して男の腹に突きつける。

この距離ならばカウンターもできない。

俺は引き金を引いてありったけの弾を男の腹にたたき込んだ。






男はその攻撃で派手に吹っ飛ばされる。
内蔵もごっそり持って行かれただろう。
だが、先ほどの妙な能力のことも考えればあの程度で死ぬとは思えない。

「樹さん!大丈夫か!」
「笛吹か?なんでここが解った……?」
「偶然近くに居た!」
「ちっ、さっさと逃げろ!こいつやばい……ぞ!」
「樹さん、大分出血が酷いぜ。もう喋らない方が良い。」

男が内蔵のない身体のまま立ち上がる。

「……お前、何者だ?」

さっそく目は再生している。
生も死もまるでチグハグ、ペテンみたいな男だ。
正直、俺の方がお前は誰かと聞いてやりたいのだが我慢しておこう。
何故なら問われれば名乗るのが俺の流儀だからだ。

「通りすがりの……、契約者だ!
 お前が誰かはどうでも良いが、樹さんの因縁の相手ということは……。
 マリアさんの仇ってところか?
 だったら乗りかかった船、依頼のアフターサービスでお前をここで殺さねばならないな。」

堂々と名乗ったように見えてまったく名乗ってない。
だって名前覚えられるの嫌だもの。





「笛吹、良いからさっさと逃げろ……!」
「樹さん、赤い部屋は好きですよね?
 【返事は、『はい』か『イエス』で】」
「えっ、いやまあ赤は好きだが……。
 ん、何言っているんだ俺?
 うわ、やめろ、待て笛吹!お前一人で戦ったら……!」

俺の都市伝説と関係ない異常な能力【説解】は言葉を通じて他人の心に切り込み、それをいじくり回すことができる能力だ。
人が思っても居ないことや隠していたことを自在に話させることもできる。
本来は誰の心でも開くことが出来る上に動物とすら話せるだけの万能言語能力なのだが修行でここまで成長させたのだ。
全てを言い終わる前に樹さんは「赤い部屋」の中に吸い込まれていった。
とりあえず事情のある依頼人を匿うためのコテージにワープさせたし大丈夫だろう。

「さて、これで樹さんの安全は確保したと……。」
「だからといってお前の安全が確保された訳ではなかろう。」
『いや、言っておくけど俺は強いぜ。』
「む?」
『あんたの国の言葉で話してやる。やっぱ好きに話せないのはきついだろう?』

俺は相手の日本語の微妙な訛りや肌の色から推理して奴を勝手にイギリス人だと断定した。
ということは奴の母国語は英語か?
俺の異常は相手の国の言葉を使った方が効きが良い。
だから相手に気を遣う振りして少しでも小細工させて貰うとしよう。

『幸い俺は大抵の国の言葉を話せる、どうだ?』
「……それなら私も一緒だ、が。」
『面白そうだ、のってやる。』

男の内蔵が早くも再生した。成る程、再生能力を持っているのか。





「アァァァァアアンクゥ!」
「クエッ!クェッ!」

胸に仕込んだパソコンが輝く。
中からCOAで俺に懐いて、そのまま都市伝説の身体を得て俺についてきた黄色い鳥が現れる。
別に契約をしている訳じゃないのでパワーは微妙である。
アンクは男に蹴りかかろうとするが何をトチ狂ったのか俺の方に向かってくる。

「うわっ、戻れ!」

すかさず赤い部屋でアンクを元居た電脳空間に戻す。

『不意打ちか。まったくもって卑怯だね。』
「卑怯もらっきょうも大好物さ。」
『誘っておいて日本語を使うのかい?』
『今のは日本語で言わないとニュアンスが正確に伝わらない。』

今のを見る限り、認識や距離感、攻撃対象までずらす能力が有るらしい。
ということは今使っている純の異常に加えて攻撃時は別の異常を使うべきだろう。
しかも俺が直接攻撃する必要がある。
彼女の兄、拝戸直、直接会った回数は少ないので模倣は不完全だが……不可能ではない。

『行くぞ、徹底的に芸術的に文学的に、死んで貰おう。』

俺は赤い部屋の釘を強化した投擲用の剣を手に持って男に飛びかかった。





何度か金属音が響く。
男の顔には薄い戸惑いが見える。
俺の心を読む能力が無ければ解らないレベル。
どうやら拝戸兄妹の異常を併用すればこのカウンター能力は躱せるらしい。

ただ
純ならば近づいても気付かれることすらなく攻撃を加えられるだろうし、
兄の方ならば近づきさえすれば死神の能力と併用して一撃必殺の攻撃を打ち込めるはず、
所詮は模倣故にスペックが劣る。
また、代謝をあげると同時に精神を戦闘向きに作り替える親父の異常も近接戦闘を支えてはいるが本物の力強さにはほど遠い。
所詮は模倣、本物の30%程度しか力を出せない。

首に向けて放たれる鎌。
逆に近づいて男の鼻に頭突きを喰らわせる。
何回か打ち合って解ったがこいつは俺と同じトリッキーな能力の行使を得意とするタイプだ。
ならば相性が良い。
ダメージを与えられないことさえ除けば圧倒的に優勢だ。
なんとも素晴らしい、絶望的な戦況じゃないか。
勝てる気がしない。



『これでも……、喰らえ!』

奴の手足に釘をたたき込む。
男は近くの壁に叩き付けられてそのまま釘でくくりつけられた。
さらに、赤い部屋の奥から蜻蛉切が飛んでくる。

「来たか!」

契約を仮の状態にまで抑えて普段は赤い部屋に封印している蜻蛉切。
正宗とセットで重力を操り、癒えぬ傷まで相手に与えられる。
少しばかり身体に負担がかかるがこれで一気に決めるとしよう。
俺は村正・蜻蛉切に心の力を流し込んで小刀から槍の形に戻し、
男に向かって真っ直ぐに投げつける。
蜻蛉切は誤ることなく男の胸を貫いた。

『まるでイエス・キリストじゃないか。
 まあ、村正の傷まで癒せる自己再生能力なんて無い以上、復活は無理だけど。』

男は目を瞑ったままだ。
俺はトドメを刺すために大量の釘刀を展開して真横から男に近づく。
突然、男の目が開いて

『まるで?違うな。私は……“神”そのものだ。』

頭上から鎌が落ちてくる。
咄嗟に躱すが胸に掠った、ヒリッとした痛みが走る。
自慢のスーツがこれでは台無しだ。
男が蜻蛉切を抜いて投げ捨てると彼の身体は何事も無かったかのように再生している。




『女じゃなくて良かった。バトル漫画見てるといつも思うんだよね。こういうのって。』
『少々お前のことを舐めてかかっていたようだ。早々に死んで貰おう。
 ……お前の場所は、そこか。』

男の顔から余裕ぶった笑みが消えた。
俺が居ると錯覚しているらしい方向を見つめている。
何かしらの魔眼系の能力か?
だが純の異常で認識をずらされている以上、俺を正確に認識は出来ない。

『その能力は無駄らしいぜ。』
『ふん、だったらこうすれば……』

空間の持つ雰囲気が変わる。
異界を発生させる能力か?

「俺流赤い部屋、発動。」

男の手で世界が作り替えられていく。
だが作り替えられていくのと同じ、否、それ以上のスピードで男の世界が緋色に染め上げられる。
これがアンチ異界系都市伝説用カスタムバージョンの「赤い部屋」だ。
こいつの作った世界の支配権は今現在、俺にある。

『なんだこれは?』
『知らないのか、日本では最強の都市伝説と謳われる「赤い部屋」の能力だ。』
『なん……だ、と?』

男の頭がある空間を押しつぶす。
だがやはり、あっという間に再生された。






しかし、本当に何をしても死なない男だ。
殺しても死なない、か。チグハグだ。
そもそも奴には攻撃をチグハグにする能力が有る。

『この国では「赤い部屋」の契約者とだけは戦闘してはいけない。
 っていう教えが伝わっているんだぜ?
 こいつの真の力を見た物は生きて帰れないからな。』
『まだその都市伝説には力があるというのか?ふん、随分と自信過剰な物だ。』
『お互い様だろう?』

ならば自分の死や、ダメージすらチグハグにできるのか?
だったらこいつがダメージをチグハグにしている所に回復を打ち込めば倒せる?
いや、そもそもだ。
こいつが今生きていること自体がチグハグの結果という可能性も有る。

だったら打つ手は一つ。

だがその手を俺は持っていない。
……どうしよう。

『だがたった一つの力に頼っていたところで限界は見えている。』
『否、一つの力を極めれば即ちそれが最強になる。』
『愚かな、多重契約の利点を知らぬ訳ではあるまいに。』
『一つの存在を信じる心の強さを知らない訳ではないだろうに。』

格好良く啖呵を切ったところで、まずは逃げるか。

「…………ってあれ?」





逃げようとしても赤い部屋の空間移動能力が発動しない。
異界系統の能力が干渉し合っているのか、面倒なことになった。
ならばこいつを突破して逃げるしかないのだろう。
だがいくら会心の一撃をたたき込んでも倒れない相手にどうやって勝てば良い……?
隠し球を使っても良い頃だな……。

「こうなったら樹さん、あんたの技借りるぜ……。」

これから使うのは樹さんに教えて貰った格闘術に俺なりのアレンジを加えた技。
赤い部屋の能力で部屋の内部に溜めていた爆発物などを周囲に放ち、大爆発を起こすというものだ。
無生物なら出せることは……手榴弾が懐から出てきた、たった今確認終了。
これならば少なくとも爆発の間にこいつから逃げることはできる。

「無差別格闘笛吹流、奥義夜叉……」

『ああ、其処にいたのか?道理で姿がぼやけている訳だ。』
『え?』

視線が合う。
この戦いの間で始めて奴と俺の目と目が完全に重なった。
視線が合った瞬間、奴はとても嬉しそうに微笑んだ。

『まあその程度か。長くは使えない技らしいな。良く保った方だと思っておこう。』

……奴の瞳が、一瞬だけ光ったような気がする。
体中から血の気が引いていく、一体何が起きているのだ?
視界が一気に暗くなる。なんだこの状態、経験したことがない。経験したことが……。
経験したことが……。ああ、見た者を死に追いやる魔眼って奴か?
それに気付いて抵抗しようと思ったのと、意識が完全になくなったのとはほぼ同時だった。




「…………ここは?」
「んにゃ、久し振りじゃないですかマスター。」
「メルじゃないか。じゃあなんだ。ここは地獄か。」

気付くと、俺は聖杯内部にそっくりなステンドグラスに囲まれたドームの中に居た。
ここが地獄なら綺麗な地獄もあった物だ。

「私はメルではありません。
 ハーメルンの笛吹きの悪魔の中で、マスターに取り込まれた部分なのです。
 それとここは地獄じゃなくて貴方の心の中。」
「ああ、そういえば俺取り込んでたね、悪魔の要素。
 あとここが俺の心の中なら表現は地獄で正しいと思うぜ。」
「聖杯の力を受けたせいで一時弱まっていたのですが……。」
「ああ、影響がまた強くなってるのね。」
「はい、マスターが死んだせいで。」

ああ、やっぱ死んだのか俺。
事務所の仕事まだ溜まってるのにな。
あとまだ可愛い女の子を口説きたかった……。

「まあすぐに復活しますよ。安心してください。」
「え、そうなの?」
「だって私たちが助けますから。」
「そうか、それはありがたい。」
「いえいえ、私たちには恩がありますから。」




「どうせだからついでにお土産をあげましょう。
 貴方は私たちに良くしてくれましたしね。
 主人格は不満で貴方の所から離れてしまったようですケド。」
「らしいね、土産か。一体何だ?」
「ちょっとしゃがんで。……これですよ。」

メルの顔が近づく、相変わらず人形のようなかわいらしさだ。
唇と唇が触れた。

「これでオッケー。悪魔の力、存分に召し上がれ。」
「これで何が起こると言うのだ?」
「これで貴方の言葉は本物の奇跡を紡ぐ。
 ハーメルンの笛吹き、ここに来てついに特質系の発現だ。」
「契約も無しにか?」
「それが取り込むと言うことです。
 おや、もう時間か……。それじゃあまた逢いましょう。」
「もう時間なのか、最後に一言良いか?」
「ええ。」
「愛してるぜ。」
「私もです。」

視界が真っ白に染まった。




「……あぅ。」

爆発で辺り一帯の地面が真っ黒になっている。
俺の身体も一部が黒く焦げていた。
男はすでにいなくなっている。

「……まだこんな時間か。」

茜さん達と別れてまだ三十分しか経ってない。

「急いで……、帰らないと。」

痛みはない。
悪魔の力で怪我はあっという間に修繕されていく。

「まずいなあ……。怒ってるかなあ?」

俺は事務所に向けての帰り道をフラフラと歩き始めた。
ああそうだ、樹さんの治療に急いで向かわないと……。
携帯もパソコンも壊れているせいで使えない。
とりあえず事務所に帰らなくてはならないようだ。
【上田明也の探偵倶楽部after.act18~神と天使と悪魔~fin】

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