「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-115

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
【上田明也の探偵倶楽部after.act20~笛吹探偵事務所の悪魔率がオーバーリミットです~】

「おい所長、明日の午後からは事務所に居ろ。」
「どうした?依頼(デート)の予定が有ったのに一体何なんだ。」
「うむ、穀雨兄妹の親が来る。」
「…………マジで。」
「マジマジ。」

笛吹探偵事務所の便利担当僕らのレモンちゃんからそんなことを教えられたのは良く晴れた土曜日のことだった。

「もっと早く教えろよ。」
「いや、今やっと予知ができた所なんだって。」
「じゃあ早速準備しないとな。」
「何の?」
「いやほら、歓迎の準備。どんな奴なの?」
「あー、……えっとなあ。」
「いや悪魔だという話は前に聞いたぜ。」
「うむ、それはそうなのだが……。」
「ん?」
「悪魔の中でも特にアレな部類というか……。
 ぶっちゃけるとベリアルという悪魔と言うことが解ってな……。」

ベリアル、確かあれだ。元天使で人間の女性と子作りするぞツアーを主催して神様にしばかれた奴だ。
それともソドムとゴモラを堕落させた奴だったっけか。どっちだっけ……。
…………どのみちぴったりじゃないか。
…………どのみちぴったりじゃないか!
ハンニバルの実験にいかにも協力しそうな奴ではある。
どうやって高位の悪魔なんか実験に引き入れたのだろうかと疑問に思っていたが……
なるほどね、それならば全て納得できる。





「とりあえず何準備すればいいの?」
「そりゃあ魔方陣とか……。暴れられても困るし。」
「暴れたら殴り倒せばいいから良いんだよ。ていうかそもそもお前歓迎する気無いだろ?」
「いやそりゃあだってお前、自分の子供をあんな状況でも放置してたんだぞ?」
「だって悪魔だぞ?当たり前じゃん!」
「人の親のやることじゃないね。」
「悪魔で親だからな、そいつは。人間の常識で考えるなよ。
 化け物は所詮化け物だ。そこら辺は実際話あって共通のルールを一つ一つ探るしかないだろ。
 こっちのルールを押しつけるのは良くないぞ?
 そもそも茜さんだって今でこそ人間じみてるけど最初はひどかった。
 こっちが一つ一つ教えていかないと人間とは全然別の行動原理で動くし。
 最初の人を襲っちゃいけませんって指導が一番大変だった思い出があるぜ。」
「ふぅん……。」
「まあとりあえず酒でも飲んで腹を割って話せば仲良くなれるだろ。
 そこら辺は人間も悪魔も変わらないらしいし。
 と言う訳でちょっとお酒とお茶買ってくるね。
 それと明日は吉静ちゃんは避難させておけ。
 茜さんとお前でお守りしてろ。」
「歓迎するんじゃないのか?」
「おいおい平和ぼけしてるんじゃないのか?相手は享楽と退廃の主だぞ。
 そんな相手の前に女性陣をさらせるかって話だよ。相手は悪魔だ。」
「……むう。」
「だからお前は駄目なんだ、化け物は化け物って割り切って、その上で付き合っていくのが大事なんだよ。
 嫌だよねー一つの常識の中でしか生きていけない人種って。」

誰に言うとでもなく呟いてから俺は部屋を出た。
レモンがかなりイラッとした表情でこっちを睨んでいた。




さて、翌日。
俺は大量の酒を買い込んでゆっくりと客人を待っていた。
時刻は丁度午後六時。
俺の隣には彼方が固くなって座っている。

「……親、といってもなあ。」

こいつのこんな複雑そうな気持ちを秘めた表情は珍しい。
今更何をしに来たのだ、とでも思っているのだろうか。
可愛い子供の顔を見に来たのだろう。
それだけだ、それ以上でもそれ以下でもない。

「まあ、あれだ。素直に父と呼べないだろうが良いじゃない。
 ちょっと会って話するくらい。
 でもあれだぞ、親子喧嘩は止めてね。」
「……はい。」

駄目だなぁ、悪魔相手にそんな余裕のない態度だとつけ込まれる。
まだ子供だしそこらへんは言ってもしょうがないか。
時計の針が七時になると同時にドアがゆっくりと開く。
どうやら来たようだ。





「ようこそ、笛吹探偵事務所へ。御用向きはなんでしょうかね、ベリアルさん。」
「少し子供に会いに来た、居るかね?」

ドアの向こうに立っていたのは思わず見とれてしまうような美青年だった。
夕暮れに立ち上る陽炎のようにつかみ所が無く、一輪の薔薇のように鮮やかな美貌を持つその男は心にしみこむ声で俺に問いかけてきた。

「ああ、彼だよ。」
「……ほう、父である私に似て良い男に育ったものだな。」

彼方を舐め回すように見つめるベリアル。
蛇のように赤い舌で唇を舐めている。
息子を見ると言うよりは女を品定めして居るみたいだな。

「貴方たちに男や女があるとは知らなかったよ。」
「笛吹君だったね、息子達を育ててくれて礼を言うよ。そして少々その認識が違っているから訂正させてもらおうか。
 我々には男や女が有るんじゃない。」

ベリアルの姿が一瞬だけ闇に包まれる。
それが晴れるとベリアルの姿は一瞬で女性に変わった。
先ほどの金髪の青年の姿から白い肌はそのままに黒髪の和服女性に変身した。
おお、幼女も良いがこういうタイプも嫌いじゃないぞ。

「男でも女でもあるのだ。この姿はこの国の伝統に合わせてみた。」
「……成る程。」
「でもまあ私のことは父と呼びたまえ、彼方。」

おお、彼方がすごく嫌そうな顔をしているぞ。
珍しいなあ、写真に撮っておきたいなあ。



「だそうだぜ、彼方。お前から何か彼に話すことはないか?」
「僕は……、僕からは話すことは有りません。」
「そうか、それは残念だ。」
「まあ会ったばかりで中々打ち解けづらいというのもあるでしょう。
 よろしければ酒なんかいかがでしょうか。
 良いのを仕入れておりますが。」
「ふむ、それは興味深い。
 ……だが給仕をする女が居ないと言うのが気になるな。
 それに、だ。私はまだ娘、吉静にも会ってないぞ。」
「彼女ですか、彼女は丁度私の妻と出かけていましてね。」
「ふぅむ、ならばまあ良いか。それにしても君は妻帯者だったのか。」
「ええ、もう少しで子供が生まれるのですよ。」
「……ああ、そうか。それはめでたい。」
「生まれてこなかったものは幸いである、なんて神の子は言いましたね。」
「自分の子供が生まれるのにそんなことを言う親は珍しいな。」
「こんなろくでなしの息子です、幸せだとは思えない。」
「くくく、面白いことを言う。」

できるだけ彼方に話が振られないように話題を逸らす。
大人しい性格だけに我慢しているが正直積もる話もあるようだ。

「とりあえず娘はそのうちにするとしてだ。
 我が息子よ、女遊びは覚えたか?」

残念!逸らしきれなかったようだ!
そして質問これかよ!会って最初なのに重たい空気も何も無いよ!
こいつ絶対空気読んでない!あえて空気読んでない!





「女性と遊びで付き合うようなことは僕はしていません。」
「いやーこいつ固いんですよ。俺も何度かもうちょっと肉食系になれと言っているんですけどね。」
「肉食系?」
「ああ、そう言う言葉があるんですよ。
 異性に対して積極的な人の総称っていうか。」
「なんだ、異性に対して積極的なのは当たり前ではないか。
 その程度のことにわざわざ名前をつけるとはなんとまあ今の時代の人間は……。」
「寒い時代でしょ?」
「ああ、許されないな。ちょっとこの町をソドムとゴモラにしてくるしか無い。」
「ストップストップ、この町はわりと倒錯してるんで安心してください。」
「ならば良しとしておこうか。」
「あ、そういえば酒有るんで飲みませんか?」
「うむそれでは貰おうか。」

俺は冷凍庫からウイスキーを持ってくる。
瓶の表面に薄く氷が張るほどキンキンに冷やしたものだ。
中のウイスキーはとろみがついている。
グラスも冷凍庫でしっかり冷やしている。
そのグラスの中に大きな氷を一つ入れてウイスキーを注ぐ。

「…………。」
「お気に召しませんでしたか?」
「笛吹君、もうちょっと酒は下品にいかないか?
 こういう上品な飲み方はどうも好かん。」
「いや、初対面同士ゆっくり行きましょうよ。夜は長いんだ。」

最初から悪魔のペースに付き合うと倒れるのは俺だ。
悪いが出だしはゆっくり行かせてもらおう。





「……人間の酒蔵にしては良いものを揃えているな。」
「お気に召したようで何より。」
「しかし女が居ないのが残念だがなあ?」
「町に出ましょうか?」
「不細工な女を出す店であれば承知せんぞ?」
「それよりも俺はうるさい女の方が嫌いですね。
 酒は女性をつまみに飲むもので、顔も大事ですが口を開かれると味が半減だ。
 ま、気の利いたことを言える娘なら歓迎ですが。」
「ふむ、駄目だな、お前の飲み方は上品ぶってて。」
「良いところのおぼっちゃんですから。」
「はっは、そうかそうか。息子よ、お前は飲まないのか?」
「……僕はまだ二十歳前ですし。」
「なんだ、法律なんて気にするな。馬鹿馬鹿しい。」
「彼方、ドーナツを持ってこい。あれはウイスキーに合う。」
「解りました。」
「ドーナツ?合うのか?」
「ええ、あの甘みが中々どうしてたまらない。」
「ほぅ、面白いな。」

彼方がドーナツを持ってくる。
おお、不機嫌そうだ。
なんて不機嫌そうな顔なんだ。
母親の件とかが気になっているんだろうな……。
でも悪魔だしそういうことは普通考えないと思うんだよな。
なんてことを言ったら怒るか。




「うむ、美味い。」
「でしょう?」
「面白いものだな、子供の食べるものだと思っていたが……。」

チラッとボトルを見る。
何故か空になっていた。

「おっと、もう無くなってしまったか。」
「じゃあ次はこれだ。」

日本酒の瓶を台所から持ってくる。
大吟醸白竜、高知の酒だ。
タマネギを細く刻むとアンチョビの缶を開けてその上に乗せる。
そして缶をストーブの上に置く。

「つまみか、中々美味そうだな。」
「日本にもこのアンチョビと似たようなつまみが有りましてね。
 この酒はそれと飲むものなんですが今回はアンチョビで代用です。」
「悪くない、それは悪くないぞ。」

缶の油の中から泡が立ち始めると缶をストーブから降ろしてテーブルに置く。
ベリアルは箸を使ってそれと日本酒を楽しみ始めた。
……箸、使えたんだ。
彼方は一応ウーロン茶を飲んでいる。
こいつもこう言う時くらいは酒を飲んで欲しいものだ。





「息子は普段どうしているんだ?」
「あー、この事務所の副所長として働いていますね。」
「そうかそうか、しかしこんな子供に任せて良いのか?」
「心配無いです。ぶっちゃけ人材不足ってのも有りますけど、彼方君は優秀ですし。」
「顔には俺一人で充分だからどうでも良いと書いてあるが……。」
「その二つに大きな違いは……」
「有るだろう。それに幾ら優秀と言っても酒も女も知らないようではなあ?
 どうみても半人前だろうよ。どうだ?これから夜の町に繰り出さないか?」
「悪くないですね。只この国では彼方くらいの子供は俺たちの行く店には行けませんよ。」
「やはりソドムるか……この町。」
「止めてくださいね。」
「ゴモっても良いんだけど。」
「どっちも駄目です。」
「はっはっは、冗談だよ。流石にこの町でやるのは怖い怖い。」

それにしても彼方君もうちょっと話して欲しい。
いや、正直むかついているのは解るんだけどさ。
でも悪気が有った訳じゃないのは今の雰囲気でなんとなく掴んでいるだろうしさ。
……駄目か。

「どれ、じゃあちょっと君の方から話を聞こうか。
 息子はまだ固いしなあ、酒を飲めないというのはこれだから良くない。」
「じゃあ大人だけで外で飲み直しますか?」
「まあ良いだろう。」

ベリアルが重たい腰を上げる。
ちなみにここから先の会話は全て日本語以外の言語で行われているのであしからず。





「とまあそう言う訳で女は小さいのが一番です。
 できれば小学校にも入っていないくらいの小さいうちから丁寧に懐かせてですね……。」
「お~、いける口じゃないか君ィ!」

二時間後、俺とベリアルはすっかり出来上がっていた。
ノリノリで好みの女性のタイプなどについてまで語り合っていた。

「さっきまでの大人しい態度とは真逆だな!
 中々どうして堕落してるじゃないか!」
「いやいや俺なんてベリアルさんには適いませんよ。」
「何度でも言うけど人間の女は良いんだよ、愛らしい。
 なんと言っても壊れるからねちゃんと。
 壊しても壊してもピンピンしてる悪魔とかとは違うよ。
 だからこそ丁寧に扱おうという気にもなる訳だ。
 とはいっても魔女の相手は正直嫌なんだよね。
 あいつら偉そうだし、どうせ他の悪魔がヤった後だし。
 やはりやるなら乙女だよ、その点ハンニバルの計画は素晴らしかった。
 か~な~り、楽しませて貰ったよ。最初に悪魔の姿でやったのが個人的には壺だったね。」
「良いなあ、そういうの一遍やってみたい。泣き叫ぶのをガンガン行くのもまた一興ですよ。」
「何を言っているんだ、君のさっき話していた細君との新婚旅行の話も中々だったよ。
 人間なのにそこまで業が深いんだから君には地獄に是非来て欲しいよ。」
「そいつぁ面白そうだ、でもまだまだ勘弁ですけどね。」
「少年もいけるようになった話はもう一度効かせて欲しいくらいだ。」
「愛ですよ愛。でも決して男が良いんじゃないってことだけは宣言させて貰いましょうか。」
「ああ、オトコノコなのにこんな可愛いなんて!だろ?」
「そうそう、その罪悪感がまた最高な訳で。ちゃんと女装させないと気分が出ないんですよ。
 あくまで女の子が好きなのに男の子でしてしまっているって罪悪感がミソですから。」





「その為だけに男の子を求めるってのが良い感じで堕落だよなあ。」
「四人ぐらい買って、妻は縛りっぱなしでお預け喰わせてから五人で楽しんだりとかしたんですよね。」
「お預けか、中々悪くはないな。」
「ええ、結局彼女はショタコンに目覚めましたとさ。」
「おおぅ……。」
「ちなみに彼女、小さい女の子もいけます。」
「なんと、素晴らしいな。じゃあ娘の具合はどうだ?」
「手は出してませんよ。」
「出してないの!?」

いや、ガタンと椅子をならして立ち上がるレベルのことなのか?

「だってほら、流石にまだ子供過ぎますし。彼女の人生をこれ以上おかしくするのもあれですし。」
「じゃあ息子は、彼方には?」
「さっき見たとおり堅物ですからね、あいつ彼女が居るから他の女性に興味示さないんですよ。」
「なんだと!?そこら辺で種を撒き散らしてこそ正しい堕落した人間の男だ!
 そんな真面目で潔癖な子供はパパの子じゃあありまっせん!
 とりあえずその彼女を堕落させざるを得ないな。そしたらもっと彼方もエロくなるだろ。」

おお、キャラがぶれてきた。
酒が回ってるらしい。

「俺だって彼方に女装させた状態で口では言えないような事したかったんですよええ!
 あと吉静ちゃんをペロペロしたかった!」
「愛に溢れてるじゃないか!良いぞ、お前みたいな男が二人の親代わりで良かったよ!
 人間の癖になんて悪魔みたいなことをいうんだ!この悪魔め!すばらしい!」

俺まで何を言っているのだ。でも普段から思っていたことだから仕方ない。





「穀雨ちゃんに手は出したいがこれ以上女性関係が増えると収拾が付かない!」
「馬鹿者!収集なんて付けるものではないぞ!」
「しまった!収集なんてつけなきゃ良かったのか!」
「悟ったね!」
「今俺は悟った!」
「よしよし、解ってるじゃないかもっと飲め!」
「良し来たいくらでもいってやるぜ!」

俺は近くにおいてあったボトルをラッパ飲みする。
ベリアルもなんか96%と書いてあるボトルをがぶ飲みしていた。

「ぶっちゃけ今まで君がやった中で一番インモラルな行為はなんだい?」
「えー、元殺人鬼の俺にそれを聞きますか?」
「人間なんて若い時は思わず過ちを犯してしまうものさ。
 まあこの場合犯したのは……」
「ストーップ、流石にストーップ。俺はそれについてはやってません。」
「駄目?」
「駄目駄目、知り合いに専門家が居るからそいつに聞いてくれ。」
「ふむ、まあ試したけどあれも中々良いものだと思ったよ、私は。」
「俺はごめんですね、生きているの相手じゃないと興奮しません。
 俺の個人的に一番インモラルだった体験は……あれですね。
 妹が居るんですけど、彼女とキスした時がどんなアブノーマルなのより心臓がばくばく言いましたね。」
「ほうほう。」
「しかも俺そいつが妹だって知らなくって。」
「おお、王道じゃないかそれ。」

彼方が居たら語れないレベルの会話が延々と続く。日本語で話してたら大変なことになっていただろう。
お互いヤバイくらい酒が回っていて完全に頭の螺子が外れていた。



梯子三件目。
話題は俺の仕事についての話になっていた。

「探偵ねえ、探偵がそこまで儲かるとは思わなかったよ。
 というかさ、君は探偵を名乗っているが、魔術師じゃないのか?」
「違いますよ、父祖代々只の人間です。」
「そのわりには君の事務所、いやあのビル全体が魔力で満ちているじゃないか。
 中々居心地が良かったぞ。あそこで商売すればさぞ金運に恵まれようよ。」
「正直に言うとかなり儲かってますね。
 魔力が満ちている件については事務所の人間が何の因果か悪魔に縁のある奴らばっかりですからね。
 それで地脈が微妙に変わって気の吹きだまりのような場所になっているとか。
 友人の魔術師に少し調整して貰いましたけどまあ手を付けないで」
「ほうほう。地上だとあれ程魔力が芳醇な場所も無い物なのだよ?」
「あれですよね、魔術を前提とした一種の封建制とも言えなくもない。」
「あれ程魔力が濃厚なのに人外の類は全く寄りついてないからこの町で商売をするなら確かに良い場所なのか。
 それを提供すればまあ確かに儲かるか。」
「自分より上位の悪魔の家でたむろする悪魔は居ないでしょう?」
「まったくだ。君の友人の魔術師とやらにも会ってみたいね。」
「ああ、あいつ引きこもりなんで多分出てきませんよ?」
「そうか、それは残念だ。でもあれだけ魔力に満ちてたら子供には有害じゃないか?」
「彼方はもうそんな歳じゃないですし、吉静だって貴方の娘です。
 もう一人も名前は出せませんが悪魔関係の契約者ですから。」
「それならばむしろ環境としては良いのか。」
「ええ。」

話が一段落してふと気がつくとウォッカの瓶が空になっていた。
お気に入りのズブロッカをもう一本注文して飲み始める。




梯子六件目。

「いや……、でも実際感謝してるのよ。あの子達を育ててくれて。」
「つっても誘拐したようなものですしね。」

俺にしなだれかかる和服の美人。
無論ベリアルさんである。

「生まれてみれば解るけど血を分けた子供って気になるものなのよ?
 解るかなこれ。」
「まあもうそろそろ生まれるんで解ると思います。」
「基本放置だったけどそれだって愛してなかったからじゃないし。
 あの二人の母親はまあ大して感傷も感情も無いんだけどさ。
 子供だけは別なんだよねえ。」
「それ絶対彼方に伝わってないですよ。」
「え~、せっかく女遊びやら酒やら教えてやろうと思ったのに。」
「それが悪いんですよそれが。」
「え、なんでなんで?」
「人間の常識ではそういうものなんです。」
「そうなのか。」
「今度彼方に会ったら母親のことを愛していたと言っておいた方が良いですよ。
 それで今まで会えなくて済まなかった、とか言っておくのがまあ人間の常識です。」
「え~、そうなの?なんで人間ってそんなこと気にするのかね。」
「弱い生き物ですから。弱いから、ルールとか倫理とか常識に縛られなきゃ生きていけない。」
「なるほどねえ。そういうものか。」

少し考え込むような素振り。
まあそもそもの考え方が違うのだ、相手の考え方を受け入れるには時間が要る。




「そもそも私が子供を作ってみようと思ったことには理由が有るんだ。
 ハンニバルの計画に乗った理由だよ。」
「ほう、きになりますね。」
「かつて、元は人間だった子供を、皆で育てた事があった。今でも、その子供がかわいくて仕方ない……自分も、子供がほしくなった。
 自分自身の血を引く子供が。この願いは、罪かね?」
「いえ、素晴らしいと思いますよ。生物として正しい。」
「だろう?だから作った訳だよ。
 まあバタバタして中々会えなかった訳だが。」
「良いじゃないですか。今こうして会えるようになった訳だし。」
「半分人間だと面倒だな。君に指摘されるまで彼方が怒ってる理由もわからなんだ。」
「まあ俺の妻も都市伝説だから解ります。
 確実に異質な存在が子供って言うのはなかなか戸惑いますよ。」
「まだ生まれてないのにか?」
「ええ、今の時点で既に人間の常識からは外れてて困ってます。」
「お互い中々どうして苦労しているな。」
「他人から見れば巫山戯るなと思われそうですがね。」
「はっはっは、全くだ。」
「今度子供作る時は赤ちゃんの時からつきっきりで世話してやればいい。
 そしたらこういう面倒は起きませんよ?」
「あっ、それは良さそうだな。」

お互いにグラスの酒を飲み干す。
会計を済ませると俺たちは次の店に行った。



梯子……、もう数えるのが面倒だ。
話の御題がもうベリアル先生のマニアックプレイ講座になっていた。

「まあ何を言いたいかというと獣姦最高。」
「いやあ……未知の領域。」
「鶏が一番やりやすい。」
「ほうほう。」
「人間を操って馬でやらせた時はひどかったな。」
「どうなったのよ?」
「蹴られた、蹴られて遙か彼方に吹っ飛ばされた。」
「……怖いね。死ぬよねそれ。」
「まあ全盛期は牛とか山羊とか安定だったな。
 豚もマニアックな人気があった。
 でもやっぱり鶏最強伝説。でも卵の殻には注意な。」

天使のような外見でここまでえぐい事言われると……
なんかもう一周回って気分が良い。

「もはや人間の好み云々を超えていたのね。」
「いや、悪魔としては人間も獣も変わらないし。」
「……あぁ。」

思わず納得してしまった。
なんかもう堕落の極みとかで許される問題じゃない気がする。




その後店を出て時計を見ると午前三時だった。
……頭が痛い。

「しかしあれだな、笛吹君。君は堕落しないな。
 堕落しないと言うよりは最初から堕落しきっているからこれ以上墜ちないというか。」
「まあ性的な堕落を司る悪魔と一対一で飲んでいるのに驚くほどマイペースなのは認める。」
「なんだ、敬語も抜けてきたな。そっちの方が気安くて良いぞ。」
「じゃあマイペースでいかせてもらうぜアーちゃん。」
「アーちゃんか、可愛いなそれ。じゃあ私ものんたんと呼んでやる。」
「のんたんです!」
「あーちゃんです!」
「二人合わせて……」
「――――ヘルアライアンス」
「怖いわ!」

二人で肩を組んでふらふらと夜の町を歩く。
このおぼつかない足取りでは家に帰れる気がしない。
困ったことにその辺りから俺の記憶はぶっつりと途切れているのだ。
【上田明也の探偵倶楽部after.act20~笛吹探偵事務所の悪魔率がオーバーリミットです~fin】



【上田明也の探偵倶楽部after.act21~翻り、昼帰り~】

「…………はっ!」

俺は見知らぬベッドの中で眼を覚ました。
同じ布団の中で人らしきモノがもぞもぞ動いている。
思い出せ俺、昨日は確か穀雨兄妹のパパンが事務所に来て……
なんか一緒に飲んでいたら意気投合してしまって……
夜中の三時まで飲んでいて足下おぼつかなくなって……

「……うん。」

俺の服がベッドの横に脱ぎ散らかされている。

「…………うん。」

そういえば少々尻がヒリヒリする。

「………………うん。」

でもそのわりには体中にエネルギーが満ちているというか……。
あれだけ飲んだのに何故か頭も冴えている。




昔、メルンとの契約が生きていた頃。
俺はサンジェルマンに都市伝説について学んでいた。
その頃の記憶がふと蘇る。

「悪魔の能力と言っても貴方は悪魔じゃない。
 自ら魔力を生成することは出来ない。」
「ならばどうすればいい?中々この身体は気に入っているんだが。
 夜になっても目は効くし、耳も鼻も人の数十倍。
 そう、晶に潰された目が見えるというのが素晴らしい。
 少々切られても殴られても痛みも感じないしな。」
「悪魔の血を飲むか……。」
「飲むか?」
「まあ、とりあえず体液を摂取すればオッケーです。
 そもそも契約時に都市伝説は人間の精神エネルギーを肉体的なエネルギーにする訳です。
 貴方は肉体エネルギーに変えて貰ったそれを摂取すればいい。
 たとえばメルさんからとかね。何時もやってるじゃないですか。」
「ああ、そういうことね。」

……そういうことか、そういうことなのか!
だからあれだけ飲んだ後なのにこれだけ元気なのか。




隣で寝ているベリアルがもぞもぞと動く。
女性状態で出てきて欲しい。
この際だから途中で一回尻であれだったらしいことまでは忘れよう。
でも朝目覚めたら全裸の男が隣に居るってのは精神衛生上最悪だ。
死にたくなってくる。

「ん、む~……。」

あ、起きた。
布団をはねのけて彼女は状態をがばっと起こす。
良かった!女性状態だった!

「おぉ、おはよう。」
「おはよう。」

ベリアルは裸のままフラフラと歯を磨きに行く。
そこで俺は何かがおかしいことに気がついた。
そう、ベリアルの股間がおかしい。
本来付いているはずのないモノが付いている。

「どうした笛吹君?」
「いや、あのそれ……。」
「ああ、一々消すのが面倒だったからなあ。
 良いじゃないか、割と喜んでたし。」
「そ、そうだっけか……。」

おぉ……。
おぉぅ……!




まあしかしその程度のことに動揺する俺ではない。
どうせ自由業だし予定はない。
ここまで帰りが遅れていれば一周してセーフな筈だ。
歯を磨きながらベリアルに話かける。

「これからどうするの?」
「うむ、帰ろうかと思っていたが……。」
「時間があったらもう一回ぐらいしていかないかい?」

毒を喰らわばなんとやら。
こうなったらいけるところまで行ってやるとしよう。
ベッドに腰掛けているとベリアルが上からのしかかってくる。

「しかし半分だけ悪魔とは難儀なものだな。
 魔力を間接的にしか摂取できないとは……。」
「いやほら、それくらいは問題無いよ。別に死ぬ訳で無し。
 本当に必要になったら溜めていた分使えば良いんだ。」
「そんなもんか。」
「そんなもんさ、便利な道具ってだけ。」
「まあこっちも都合良く使わせて貰っている訳だしな。」
「利害が一致すると言うことは共通の価値観を持っていると言うことだ。
 共通の価値観を持っている存在同士は自然と親密になれる。」
「まあそこについては異論はないな。だが利益だけでは心は結びつくまいよ。」
「まったくだ、人間でも利益で繋がるのは短期間だ。
 その短期間の間に価値観を統一して、心理的な距離を縮めるということが重要なんだ。」
「心心と馬鹿の一つ覚えのように言うだけでも、利益利益と賢しらぶっても、どちらでも駄目なのだよ。」
「そういうことだな。」



しばらく二人でそのまま脚を絡み合わせながら何気ない四方山話を始める。
好きな料理とか、最近見ているテレビ番組の話とか、漫才がつまらないとか。
そんな話をしながらもベリアルと俺は淡々と行為を続けていた。
お互いに満足すると、シャワーを浴びてからホテルを出た。

「じゃあまた会いに来るぞ。」
「ああ、今度は娘の方とも会ってくれ。あんたは信用できると解ったしな。」
「今度来たらあいつらに弟か妹が出来ているかも知れないな。」

ホテルを出る時のベリアルは男だったのでパッと見では完全にホモカップルである。
……泣けるねえ。

「良いよ、どうせ弟が一人出来ているんだ。
 一人や二人増えたところで何一つ問題は無いさ。」
「今度はマニアックなプレイも楽しみたいものだ。」
「俺もそっちのが良いが……、まあ俺は人間だ。
 手加減してくれ。」
「まあ我慢しておいてやろうか、人間にしては体力有るからそれだけでまあ悪くないし。
 今度は馬にでも化けてやろうか?」
「そりゃあ面白そうだ。」

そう言うと俺とベリアルはそれぞれ別々の道に歩いていった。
【上田明也の探偵倶楽部after.act21~翻り、昼帰り~fin】

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