「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-117

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【上田明也の探偵倶楽部after.act22~心に傷一つ~】

「ただいまー。」
「おお、帰ってきたぞ!」
「上田さん大丈夫でしたか!?」
「お兄ちゃんお帰り!」
「…………お帰りなさい。」

穀雨兄妹の父親と飲みに行って事務所に帰ってくると事務所の面々が俺を出迎えてくれた。
何故だか茜さんが少し元気がない。

「とりあえずお前らの親父と語り合ってきた。
 悪魔だから人間の常識とはずれてるけど結構良い奴だったぞ。」
「しかしハンニバルの実験に協力した訳だし……。」
「それもあいつなりに思うところがあったからなんだよ。
 それにそんな事言ったら俺とて殺人鬼、さっさと死んだ方が良い人種だ。」
「……それは」
「俺なんて所詮そんな人間だよ、今だってまともに生きているのが信じられない。
 何時どんな切っ掛けで悪にまた偏るかも解らない。」

茜さんは何も言わない。
何処か表情が虚ろだ。
俺を見ていないような気がする。
怖い。

「とりあえず疲れたから寝るぜ。」

俺はそう言って自分の寝室に逃げ込んだ。



「何であんな様子なんだ……?」

何か嫌なことがあったのだろうか?
俺が居ない間に事務所に何か有ったというのか?
いや待て、冷静に考えろ俺。
彼女が機嫌を悪くする時は大体俺がらみじゃないか。

「明也さん」

俺の部屋の扉が開く。
茜さんが立っていた。

「今、少しお話ししてもよろしいでしょうか。」
「は……はい。」

拒否できない。
目が怖い。
こんな時に限って子供達は事務所を開けてやがる!
くそっ、いつの間に手なずけた!
吉静は元々世話任せてたからとして、彼方とレモンまでどうやって手なずけた!
……ああ、あれか。あいつら母親居ないからな、母の愛に飢えていたところを上手く手なずけたのか。
完全に抜かった。
これでは俺の事務所における地位が低くなってしまうじゃないか。



「朝方、恐らく飲んだくれてのたれ死にかけて居るであろう明也さんを迎えに行きました。」
「はい」
「ところが明也さんは私の知らない女の人と歩いていました。」
「はい」

オワッタオワッタオワッタヨ
オワッタオワッタオワッタヨッタラオワッタヨ

「……ええ、嘘を吐かないのが貴方の良いところです。
 そして謝らないのは貴方の悪いところです。」
「…………。」
「あの女の人が誰だか知りませんが貴方があの状況で何もしなかったとは考えられないと思うのですよ。」
「……ごめんなさい。」
「いいえ、良いんですよ。
 貴方が女の人と見ると見境無く手を出してしまうような人間だったとしても私はなんら問題無いと思ってますからええ。
 只そうなると私の存在は一体何なのだろうと少し疑問に思ってしまう訳ですよ。」
「……?」

今回の説教は何時もと少し雰囲気が違うようだ。




「そもそも私は貴方に結婚しようと言われてそれに応じました。
 特にそのこと自体に疑問は持っていませんでした、ただ私は人間じゃないですし良いのかと正直疑問に思ってました。
 でも何故だかあり得ないはずの子供ができてしまっていたしそれが道理だと思ってその疑問はとりあえず脇に置くことにしたのですよ。
 都市伝説と人間のハーフについては昔から言われて居ますが私のように元々生物だったかどうかすら怪しい存在が、
 それこそ三流の都市伝説が人間と同じように理性も悟性も知性も得て人間と同じように子供まで作る。
 異常なことだとは思いました。異常だとは思いましたが契約者である貴方からそれを是と言われて私は従いました。
 貴方がそうしろと言うからそうしたのです。私はそもそもにおいて人を襲う以外に行動をプログラムされてなかったですし。
 そりゃあもう何の疑問もなく従いました。
 思えば契約当初は大量に注ぎ込まれる心の力のためにほぼ本能的に従っていたと言っても過言ではないですよ。
 犬が餌をくれる人間に尻尾を振るのとそうそう差はありません。
 でもそのうちに貴方に対して愛情も芽生えてきたりして、単に食事の為以上の何かが私を突き動かしていました。
 ある時、私のちっぽけな存在が貴方の力の大きさに耐えられなくなりそうになった時もありました。
 それは我慢して耐えられました。貴方の側に居る為なのだから、弱い自分が行けないからと一生懸命に。
 ある時、私は化け物だと罵られました。虫けらのように殺されそうになりました。
 貴方が助けてくれました。最初は打算程度で結びついたはずの繋がりだったのにそうやって助けてくれました。
 だから胸が痛むのも耐えられました。私は此処にいて良いのだと思いました。
 私は貴方の側に居て良いんだと、貴方は化け物であっても私を私のままに人間よりも愛情深く受け入れてくれるのだと、それは解ります。
 でもね、でもあんまりですよ。貴方は私を妻と呼んでしまったじゃないですか。
 いっそ奴隷や所有物だったならば楽だったでしょう。
 そういう関係だったとしても私は何一つ文句を言いませんでした。
 むしろ喜んで貴方の奴隷になって貴方の為に生き続けたでしょう。
 貴方の所有物になって貴方の望むように振る舞ったでしょう。
 そうしてくれたならば私は貴方の行動を見て一々悲しまないで済んだのです。貴方が妻という言葉を使ったから、私は今どうすればいいのか解らない。
 都市伝説という人の噂や言葉に影響されやすい生き物だからこそ、言葉に従って生きようとしてしまう。しかも貴方の言葉には不思議な力がある。
 貴方の勝手な行動を見過ごして、笑って家に迎えてやればいいと思う気持ちと、貴方に与えられた定義の間でなおのこと揺れなければいけない。
 文字通り身を引き裂かれるようなんですよ。私は一体どうすれば良いんですか?
 このままだと消えて無くなってしまいそうな気分なんですよ、ねえ。こんな状態になるならいっそ【お前は俺の所有物だ】と言ってしまってください。
 それでも私は貴方の為に貴方の子供も産みますし、貴方の為に力を使って貴方の為に死にますから、貴方が何を言ったところで今の生活は何も変わりませんから。」





「……えっと、ごめんなさい。
 自覚しないままに俺が茜さんをそこまで傷つけてたとはおもいませんでした。」

……説教どころの騒ぎじゃなかった。
俺は気付かないうちにとんでもないことをしてしまっていたようだ。

「……どっちなんですか?」
「茜さんは俺にとって大切な人です。
 だからその……、側に居て欲しいというか。」
「どういう存在として私は振る舞えば良いんですか?」
「それは勿論、上田明也の妻として、笛吹丁の妻としてだよ。」
「そうですか、解りました。」

それならといって茜さんは俺にゆっくりと近づいてくる。
彼女は思いきり手を振り上げて事務所中に響くくらいの大きな音で俺の頬を打った。

「少し外の空気でも吸ってきますよ。」

茜さんは部屋を出て行ってしまった。

と、まあここで彼女の後を追いかけられないのが物語の主人公とかでは普通ですが。
俺はド外道で恥知らずで人でなしな主人公(笑)ですから。
愛のままに我が儘に彼女の後を追いかけますよ。
ここで追いかけないとほら、なんていうか格好悪いじゃないですか。
もうとっくに格好悪いとかそういう問題じゃなくてさ。
もう格好悪いからこれ以上格好悪くなって良いかって言うとまた別問題じゃないですか。




「待ってくれ茜さん!」

事務所を出て走り始める。
流石都市伝説といった所か茜さんの脚は異常に速い。
普通に歩いているだけなのに中々どうして追いつけない。
茜さんが横断歩道を渡る。
彼女が渡り終えると同時にそこの信号が碧い光をチラチラと明滅させる。
俺も遅れてその横断歩道に入ったところで……

遠くからクラクションの音が聞こえる。
嘘だろ?
こんな馬鹿なことがあってたまるかよ。
彼女じゃなくて俺か、俺がこういう目に遭うなんて知らないぞ?
トラックがこちらへ迫ってくる。
近く、近く、大きくなる。
視界がふさがれる、ブレーキの音。
ああ、運転が下手なドライバーだ。
交通量が少ないのだからそこはブレーキじゃなくてハンドルだろうが。
80km/h以上は出ていないみたいだし、車も素直に言うこと聞くだろうが。
あー、あの缶コーヒー、徹夜で運転してきてたな?
トラックのマークから推測するに荷物は……
いかんいかん、つい推理したがってしまう職業病か。
茜さんはこっちに気付いてないな。
ブレーキ音に気付いて振り返るにはあとちょっと時間がかかりそうだ。
それにしても随分時間がゆっくりと流れるじゃないか。
まあ言語は思考の為のツールであるからして、言語を自在に操る俺は思考速度を他人より速くできるのは当たり前だが……。
なんてことを考えていると、巨大な鉄の塊が俺に直撃した。
【上田明也の探偵倶楽部after.act22~心に傷一つ~fin】

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