「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-127

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匿名ユーザー

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【上田明也の探偵倶楽部after.act30~まだまだ旅行中~】

「さ、イルカイルカ!」
「待て茜さん。」
「なんですか?」
「なんかこの水族館にテロリストが入り込んでるらしいんだよ。」
「え?」
「ちょっと待ってろ、今レモンに電話かける。」

 携帯電話を使って橙に連絡を取る。
 安全に帰るための方法をとりあえず聞いておこう。

「おいレモン」
「爆弾が一階の男子トイレと二階のお土産物店に設置されている。
 両方とも紙袋で解りやすい位置にある。
 赤い部屋の能力で一時的に収容しておけ。
 あとは徒歩で帰れる。
 銃を持ってるだけの只の人間を屠るくらいならお前一人で充分だろう?」
「了解。お前の能力は相変わらずチートだよな。」
「土壇場で使えないんだけどな。あとお前に先ほどメモを渡した男だが……」

 発砲音が聞こえる。
 どうやら急がなくてはいけないらしい。

「そいつ俺より強い?」
「いいや。」
「じゃあその話は後で聞こう。」

 俺はとりあえず逃げ惑う人々をかき分けて近くの土産物店に寄ることにした。
 店には銃を持った三人の男が立っていた。






「えーっと、これだな。」
「はい、中でなんか音聞こえますし。」
「おいお前ら!止まれ!」

 銃を持った男達を無視して俺達は店の中へ進む。
 そして一つ目の爆弾を赤い部屋の中に回収した。

「何してるんだ、止まりやがれ!」

 男は茜さんに銃口を突きつける。

「邪魔です。」

 茜さんは銃口を飴細工のようにねじ曲げて男の金的を思い切り蹴り飛ばす。
 しつけの途中の子犬と同じ悲鳴をあげて男はその場に崩れ落ちた。

「このや……」

 仲間と思しき男が茜さんに向けて銃弾を放つ。
 軌道もタイミングも解っている。
 俺は前もって銃口の前に立ち塞がってその銃弾を掴み取って、赤い部屋の中に送り込む。
 赤い部屋は応答した人間を異空間に連れ去る都市伝説だが無生物ならば応答そのものが要らない。
 銃弾程度触れさえしてしまえばもう異空間に送り込める。

「――――――なにを!?」

 右腕で男の髪を掴む。
 服に仕込んでいたスイッチを押すと服の袖に仕込んだ改造パイルバンカーがうなりを上げる。
 爆音、その刹那に男は頭皮を引きちぎられながらも運良く壁に叩き付けられた。





「た、助け……」

 銃を持った大の男がみっともなく命乞いをしている。

「良いよ、じゃあどっか行けよ。」
「ひい!」

 男はこちらを向いたままじりじりと後退する。
 曲がり角までたどり着いたところで彼はやっと俺たちに背を向けて走り出した。
 俺は赤い部屋の能力でマイナスドライバーを取り出し、思い切り男に向けて投げつけた。
 ドライバーは地球上ではあり得ない動きをしながら男を追いかけ、追いついた。

「ぎゃああああああああ!」
「あっれ、当たり所不味かったかな。気をつけてたつもりなのに。」
「吉静ちゃんと約束してますしね。」
「うん。」
「「殺さないって。」」
「明也さん武術を習っていたんじゃないですか?」
「習ったからこそ使わない。あれは親子喧嘩用として教えて貰ったんだ。」
「訳解らない。」
「男の世界だよ、男の。」

 パイルバンカーをしまうと俺と茜さんは一階の男子トイレまで歩き始める。
 一階にも武装をした男が沢山居た。
 この国の治安はどうなっているのだ。





「人質を解放しなさい!」
「我々の要求は逮捕された幹部の解放と燃料の入ったヘリコプターだ!」

 遠くから警官と犯人グループのやりとりが聞こえる。

「要求がのまれない場合、この水族館にいる人間は我々と共に死んで貰うことになる!」

 ああー、その為の爆弾か。

「お前ら何をやっている!」

 武装をした男の一人に見つかる。
 静止の命令を完全に無視して茜さんがノリノリで走り始めた。
 お腹の子供に触るので正直止めて欲しい。

「よっと!」

 茜さんの飛び膝蹴りが男の顔に直撃する。
 そのまま茜さんは男の頭を足で挟んで身体を捻り、男を頭から地面に叩き付ける。

「やれやれだな……。」
「二階が大変なことになっている!」
「あいつらだ!あいつらがやったんだ!」

 後ろからも大量の男達が現れた。
 どうやら少々困ったことになったようだった。 




「茜さん。」
「はい。」
「あとは任せて休みなさい。休んでくださいお願いします。」
「えー。」

 コートを翻して茜さんの小さな身体を包み込む。
 まるでブラックジャックみたいだと笑われるコートなのだが防御力の高さというわりと真面目な着用理由がある。
 特殊な繊維で作られているので衝撃を分散してかなりのダメージを防いでくれるのだ。
 しかも天女の羽衣のように軽い。

「喰らえ!」

 恐れているのだろうか、男達は俺に近づかない。
 銃弾が雨あられの如く俺たちに向かってくる。
 触れた側から銃弾は消し飛んでいく。
 茜さんへの銃弾も事情はまあ大体同じだ。
 彼女だって俺と同じ事を集中していれば出来る。
 しかもあのコートのおかげで少しくらいミスしてもダメージは無い。

「ごちそうさまでした。」

 銃弾が無意味だと言うことを知ると男達はナイフで襲いかかってきた。




「俺たちは導師様に認められた正義の戦士なんだ!怯むことはない、行くぞ!」
「正義語るより肉でも食いたまえよ、その方が余程力が付くしやる気も出るぜ。」

 シャツに付けていた二本のガラス瓶を背後の男達に向けて投げつける。
 それが割れたと同時に炎が男達を襲った。

「うわあああああ!」
「熱い!熱いよおお!」
「目がああああああああ!」
「恐れるな!死ねば天国に行けるぞ!」
「この世にもう天国も地獄も極楽も有るのに、死んで何処に行くんだ?」

 つぎに地面を強く踏みつける。
 するとその衝撃でピンの抜けた手榴弾がズボンの裾から落ちてきた。
 それを蹴り飛ばす。

「お母さん!お母さあん!」
「男なら死ぬ前に名前を呼ぶ女くらい幸せにしてやれよな。」

 茜さんに渡したコートを手にとってそのコートと自分を盾にして破片から彼女を守る。
 こんなところでこんな惨めな目に遭う暇があったらそのお母さんとやらに花の一つでも買えという物だ。





「一人くらい死んだか?」
「まあ構わないでしょう。」
「そうだな。」

 コートをあらためて着るとそこから巨大な鉈を取り出す。
 まあこれ以上敵は居ないだろうが念のために持っておこう。

「う……。」

 足下でうめいている奴をスパイクの付いた靴で踏みつけ肩胛骨を砕く。
 肉を裂く懐かしい感覚、骨の砕ける聞き慣れた音。
 狂ったように叫びながら襲いかかってくる男。
 仲間を盾にして無事だったらしい、そいつの攻撃を姿勢を低くして躱してから脚を鉈で真っ二つにする。
 炎で焼かれ足りなかったらしい奴は胸部に仕込んでいた火炎放射器でヤキを入れ直した。
 肉を焦がす匂いもそういえば久し振りだ。
 最近崩れ気味だったキャラが少しずつ戻ってくる。

「挽肉になってハンバーグにされるなんて、屑にはお誂え向きだな。
 どんな屑肉でもこれなら食べられるし。
 ……こんだけやれば崩れたキャラも元通りだな。
 さて、改めて行こうか。」
「はい!」

 俺と茜さんは男子トイレにたどり着いた。
 問題無く爆弾を回収すると俺たちはイルカのプールに向かった。
 どうせ乗りかかった船だ、最後まで見ていこう。
 曲がり角を曲がると見覚えの有る男女二人組に出会った。





「おやおや、さっきの人。」
「だから逃げてくれって言ったじゃないですか……。」
「善良な市民はこうして無傷だぜ?爆弾も今処理し終わったところだ。」
「何が善良な市民ですか?これで警察病院に収容しなきゃいけない人が増える……。」
「どうせなら殺せと?」
「そうそう、それができないなら人間の起こした事件は人間に処理させろって話ですよ。
 貴方達が出てきちゃったせいで組織の介入の余地が出来てちゃったんですよ。そうすると上司にしかられる訳で……
 まあそのおかげで犯人の隙突いて人質も確保できたし、警察としてはもう事後処理全部組織に任せるのが最善なんですけどね。」
「寺門さん……、殺せは無いんじゃない?」

 男の方は先ほど俺にメモを渡した奴。
 女の方は……

「いえいえ、悪党なんぞすべからく死ぬべきですよ華恋さん。」
「人が死ぬのは良くないよ。悪党でも傷つくのは嫌だと思うよ。」

 隻眼隻腕の少女、俺の古い知り合い、名前は冬木華恋、昔俺の両腕を奪おうとして失敗した少女だった。
 思えばその事件が起きたのも水族館だった。
 妙な因果である。

「俺はそこの寺門君とやらにある一点を除いて賛成だぜ。」
「こりゃあ嬉しいね。」
「連続殺人犯に賛成されても?」
「貴方と私は思想的には近いと思ってたんだが。
 あの不良一掃計画?あれは私も手伝いたかったくらいですよ。
 実際治安も良くなりましたし、もう一回やってくださいよ、手伝うんで。」
「あんなの偶々だよ、都市伝説に吸収させてもできるだけ心が痛まない人間にしようと思っただけだ。
 ちなみに赤い部屋は知名度が高いのでもうあんな無差別殺人はやりません。」

 俺と寺門の会話を聞いて華恋が頬を引きつらせている。




「俺はこう思っている。」
「なんです?」
「所詮この世は弱肉強食、死すべきは弱い人間だ。」
「成る程成る程。それもまた有りですよね。
 それが貴方の妥協しない生き方だというならそれもありでしょう。」
「あんたの主義と折り合い付けるとしたら、
 弱いから悪に墜ち、弱いから俺に食われる、だから俺が悪人を食ったように見えただけだ。」

 悲しい話だけどな、と付け足す。
 弱肉強食、どの道それが事実なのだから俺はそれに従って生きるだけだけれども。

「やっぱり、あの時に貴方を殺して……!」

 茜さんが俺と華恋の間に立つ。

「貴方が華恋さんですか……、ずっと思ってたんですけど貴方ずるいですよ。」

 茜さんは唐突に言い放つ。

「え?」

 華恋は思わぬ方向からの言葉に戸惑う。
 俺は嫌な予感で震える。
 まだまだ俺の危機察知能力は捨てた物じゃないらしい。
 役に立つかは別として。




「誰も傷つかない、皆が幸せになるなんてありえませんよ。
 都合の良い絵空事謳うのも大概にしてください。
 それでどうしようもなくなったら目立つ人を血祭りに上げて満足ですか?
 一人で衆愚制始めているだなんて冗談じゃない。
 私は貴方みたいに勝手な人が嫌いです。」

 茜さんは「勢いで言ってしまったどうしよう困ったなあ」という顔だ。
 しかし彼女自身の意志がどうあれ、それは華恋には一番刺さる一言なのだ。
 もっと悪いことに茜さんは絶対にそのことに気がついていない。
 寺門と目が合う、俺に向けて任せたとでも言うように敬礼すると彼は迷うことなく逃げ出した。
 頼むから俺達も逃がして欲しかった。

「貴方みたいにこの人を利用しようとする人が!
 貴方みたいにこの人を恐れた人が!
 貴方みたいにこの人を排除しようとする人が!
 この人の優しさを奪ったんだ!」

 茜さんの目がどうみてもテンパっている目だ。
 頼むからそんな状況で物を言わないで欲しい。
 華恋の肩が震えている。

「お前が上田明也のなんなのかは知らないけど……!
 お前に……!お前に……!
 お前に只の人間の、私の気持ちが解って溜まるかああああああああああ!」

 華恋の絶叫が水族館の中で谺した。

【上田明也の探偵倶楽部after.act30~まだまだ旅行中~fin】

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