「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-123

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
【上田明也の探偵倶楽部after.act26~上田明也の~】

電車が揺れる、僕らを乗せて。
電車が揺れる、僕らの重みに耐えかねて。
自意識過剰で重たすぎるから電車は僕らを投げ捨てた。

「良いなあー電車の旅。」
「うっぷ……。エ、エチケット袋……。」
「え?」
「あ、ごめんなさい、もう限界……」
「うわああああああああ!」

※少々お待ちください

「……本当に、ごめんなさい。」
「いや、良いんだ……、誰が悪かったわけでもない。
 事故だったんだよ、事故だったんだ……。
 個室で良かった……、個室で本当に良かった……!」
「これ普通の席でやってたら大惨事でしたね。」
「ていうか大惨事だよ。どうするんだよこれ。」
「ひぃ、ごめんなさい!」
「いや別に良いんだけどさ、綺麗にもしたし。」

なんていうかこう、漫画やアニメで言えば画面が黒く反転するレベルの大惨事である。




地下鉄のホームで俺を襲った謎の刺客を赤い部屋の異空間に監禁したまま、俺と茜さんの度は続いていた。
各駅停車の超豪華な寝台列車でいく優雅な旅である。
部屋が少々駅弁と胃散の混じったあれな匂いがしているが……
まあ茜さんに汚いところなんて無いよチュッチュくらいのことを言わねば男が廃れるという物だ。
先ほどのことについては気にしない方針で行こう。

「うぅ……旅の初っぱなからこんなことになるなんて……。」

さて、どうやって話を切り替えた物か。
あいにく風景は山の中、トンネルを抜けたりなんかしているところだ。
とくに盛り上がる要素もない。
駅弁の話題とか今はアウトだ。
美味しかったね、けど吐いちゃったね、とか洒落にならない。
そうだな、とりあえず……

「茜さん」
「はい」
「俺ってさ、人間としてかなり最低な部類に入ると思うのですよ。」
「でも私は貴方が好きですよ。」

真面目な話をし始めてみた。

「そう言ってくれるのは茜さんくらいだ。
 子供の頃から悪い事しては説教されたり殴られたりしてたんだけどさ。
 そうされればされるほど反発する気持ちばかりが強くなって行ってさ。
 そんな気持ちだけに身を任せて俺は取り返しのつかないことをしたわけです。」

真面目な話と言ってもあれである。子供の教育方針である。




「だから俺は子供を殴ることだけは絶対するまいと思っているのですよ。
 暴力を振るうのは仕事だけで充分です。
 殴らなきゃ駄目だ、なんて痛みの押しつけあいだよ。
 親に怒られて殴られる痛みを知れば自分の子供なんてとてもじゃないが殴れない。
 痛い目に遭うのは俺で終わりにしたいんだ。」
「そういえば探偵業ってあんな荒っぽいものだっけ?って言いたくなるほど荒事多いですからね。」
「……探偵小説って知っているか?」

すぐに脇道に逸れる。

「なんですそれ?推理小説じゃないんですか?」
「それの原型さ。
 推理小説はこの探偵小説の推理ギミックのみを抜き出した物。
 探偵小説は純粋に“推理も含めた”探偵の活躍を描くわけだよ。」
「ほうほう。」
「探偵小説なら、謎の探偵が出てきて悪い奴をぶっ飛ばすだけでも良いのさ。
 月光仮面だって探偵だし、それこそ怪人二十面相が出てくる明智小五郎の話とかも推理より明智小五郎の格好良さを描くのがメインだ。
 明智さんは大人向けの作品だと真面目に探偵やってるよな。
 でもD坂は理不尽すぎると思うの。」
「つまり探偵という職業は……」
「冒険活劇の主人公に丁度良い仕事ってこと。
 自由業だしね。」
「なるほど!」

よし、話題が切り替わった。車内販売のカートが来る。
320円の海鞘の燻製を買った。
一緒に日本酒も買おう……かと思ったけど茜さんの前で酒飲むのもあれだな。
素直にお茶にしよう。



「そういえば気になってたんですけど、明也さんの能力の使い方って偏りがありますよね。」
「しかたあるまい、それしかできないんだし。」
「不便じゃないんですか?自分の身体の脆弱さとか。」
「俺も後から勉強して強化系に死ぬほどなりたいと思ったけどね。
 それでも操作能力にピンポイントに偏ってなければ俺は死んでいたと思うよ。」
「そうなんですか?」
「だってさ、出せる場面が限定されていても100の力が最初から使えればさ。
 それを出せる場面にさえ持っていけば勝てる訳よ。
 ところがどんな場面でも10の力を出せるだけじゃ絶対に勝てない相手が居る。」
「ほうほう。」
「それに、どんな能力も極めれば全部同じさ。」
「と、言いますと?」
「身体能力を強化すれば早く動けるよね?」
「ええ。」
「じゃあ重力操作能力を最高出力と最高精度で絞って発動させて、光を屈折させてみよう。
 そうすると時間の歪みが生じるんだよ。
 まあ俺はまだ出来ないけれど出来れば身体能力の強化は要らなくなるよね?」
「いやまあ……。でもそんなの」
「俺はやってきたんだよ。やって、それでも駄目な時は必死に逃げて、それで生き残ってきた。」

やらなきゃ殺される。
契約者を見たら全部敵だと思え。
誰一人として信用するな。
使える物は何でも使え。
たった一つ、自分の欲望を満たすために。
それの為に払った代償は右目一つどころじゃなかったけど。
見合う物はきっと得られた。



「…………。」
「そうやって生きていく日々の中で、あの赤い部屋だけは安らげる場所だった。
 あの真っ赤な部屋で落ち着ける時点でもうどうかしてるけど、
 それは生まれつきなんだろうな。」
「それなら良かった。」
「ん?」
「明也さんが辛い時に、私はそれを知らなかったけれども、
 そんな私でも貴方の居場所になれたのならば、それは素敵なことだと思うんです。」
「ああ、そうだな。単に『何かをしたい』っていう欲望を満たしていくだけじゃ満足できなくてさ。
 なんていうかそこに居るだけで良い居場所っていうか。
 ただ包まれている安堵だけを感じていられるのって人間には一番大事なことだと思うんだよね。」
「そうなんですか?」
「人間には都市伝説と違って存在意義となるプログラムが無い。
 強いて言えば繁殖と個体の維持か。
 でもそれは都市伝説だって似たような物だしねえ。
 人間は自分で『誰々は何処何処でどうするもの』っていうのを決めなくちゃいけない。」
「でもそれって素敵ですよ。
 都市伝説みたく契約しなくても自分のありようが自由に決められる。」
「そうかな?その自由に耐えかねる人の方が多い。
 封建制度は決して古くて愚かな制度だとは言えないよね。」
「折角人間に生まれたのに勿体ない話ですね。」
「人間なんて偉い物じゃない。駄目で馬鹿でどうしようもなく自分勝手。
 期待なんてどう間違っても出来る物じゃない。
 俺は人間一般については絶望しているよ。
 固有名詞の茜さんとか、彼方とか、素敵な人は沢山居るけどね。
 全部混ぜれば結局黒さ。
 俺はその中の綺麗な物だけすくい取りながら辺りにちりばめて生きていく。
 その為だから努力するし、強くなれるし、優しくなれる。
 そして得た幸せがまた俺を本当の意味で優しく強くしてくれる。」


「まあ我ながら、恵まれた人間の戯れ言にしか聞こえないがね。」
「……辛かったんじゃないですか?世の中最低だって思いながら過ごすなんて。」
「うん、辛かった。でも自殺とかするのは間違ってる気がした。
 自分の物語をバッドエンドにしたくなかった。
 誰もが理不尽でねたまれるくらい幸せになりたかった。
 でも一生懸命何かを続けるって辛いんだよね。
 それにさ、俺がハッピーエンドにたどり着けたなら他の人だってたどり着けるよ。
 バッドエンドにハッピーってラベル貼ってお終いにするようなことしないで済む。
 そう考えれば俺みたいな奴でも希望になれるんて思ってみたりね。
 俺みたいな悪人にも来るんだからハッピーエンドはある。
 それにたどり着けるかは解らないけど。
 ま、俺に言わせれば世の中に善も悪も無くて、夜の星のように人々が集まって居るだけだと思うんだ。
 それを誰かが勝手に星座みたく善悪で区切ったんだ。」
「わーハズカシイ。」
「でしょ?」
「でもまあそんなもんですかね?」
「そうだよ。」
「簡単にまとめてくださいよ。」
「貴方が私のハッピーエンド。」

ふふふ、恥ずかしくなってきた。
でもこういうのもなんだか悪くないのかも知れない。
【上田明也の探偵倶楽部after.act26~上田明也の~fin】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー