夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

プラスチックのようなこの世界を

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「0時を回ったネ」

扉を開け、キャスター――超鈴音が声をかける。
湯気が立ちこめるバスルーム。
その中で、彼女のマスター・神楽坂明日菜は何をするでもなく立ち尽くしていた。

「ゲーム開始ヨ、明日菜サン」

ざあざあと音を立て、シャワーが明日菜の頭を打つ。
もうたっぷり20分はこうして立ち尽くしていた。
未だにシャンプーすらしていない。
それをする気力すらなかった。

「覚悟は出来たかネ?」

死に損なったあの日から、もう何日も経過していた。
けれども未だに腹は決まらず、何も進展せずにいる。

殺したくない――その想いは、ずっと変わらなかった。
死にたくない――その願いは、ずっと変わらなかった。

その2つは、決して両立することが出来ない。
死にたくなければ、殺すしかない。
殺したくなければ、死ぬしかない。
その残酷な二者択一に答えを出すには、あまりに時間が足りなかった。

「……わかんない」

正直に、明日菜が答える。
気分転換にと薦められた入浴ですら、心を落ち着かせてくれなかった。
時間だけが、頭皮の表面を滑り、水と共に流れ出ていく。
奥に溜まったモノを掻き出すことすらせずに。

「ちょっとだけ……幸せだった」

けれども、そんな宙ぶらりんのままでは、この戦争は戦い抜けない。
それが分かっているから、まだ上手く言葉にならないのに、明日菜は口を開いた。
そして鈴音も、その言葉を黙って聞いている。

「あのガキンチョがからかわれながら先生をしてて、木乃香や刹那さんが笑顔で話しかけてくれて」

それは、極当たり前の日常だった。
ちょっと前――体感的には、ほんの数日前だ――までは、毎日のように体験していたそんな日常。
失う覚悟を決めて、それでもやっぱり未練があって、無理矢理奪われた日常。

「諦めたはずなのに、諦めきれてなかった世界がそこにはあって」

ネギが、いる。
木乃香が、刹那が、皆がいる。

「ちょっとだけ、この世界にずっと居たいなとも思って」

どんなに頑張っても、一週間しかこの世界は保たれない。
それは知っていた。
でも――だからこそ、この世界が少しずつ愛しくなっていた。

「戦いなんてなくっても、この世界に居られるならそれもいいかもってさ」

それは、後ろ向きで弱い考えだ。
そうは思うも、鈴音は明日菜の言葉を否定したりしない。
それどころか相槌一つ返さずに、開け放たれた扉の向こうで真剣な顔で見つめてくるだけだった。

「でもさ……やっぱり、偽物の世界なんだよね……」

どれだけ想っても、この世界の“皆”は偽物であり、そこにあるのは偽りの日常だ。
そのことは、ずっと頭の中にあった。
だから居心地が悪かった。この世界の居心地が良ければ良いほど、それ以上に居心地が悪くなっていた。

「いいんちょとの喧嘩も、木乃香とのボケツッコミも、全部、さ……」

大切な人とのやりとりで、それをとても痛感した。
雪広あやかは、生前の時にしたやりとりと同じことをしてくれている。
だがしかし、彼女を取り巻く人間や、喧嘩するときの野次馬なんかには、見たことのない生徒ばかりだ。
中には見知った顔もいるが、そのほとんどと、スムーズにやりとりが出来ない。

「だからかな……どうしても、皆にちょっと、違和感があって」

ちょっとずつ、知っている皆と違う。
ネギも、何だか少し過剰に甘えている気がする。
千雨なんかとも今までより距離を感じるし、刹那に至っては過剰にコミカルになっている気がした。
あと、千雨に至っては、何か髪の色が違う。なんと緑色じゃない。
真面目ぶりながら小学生からずっと緑に染めているのが彼女の特徴だったというのに。

「違和感、ネ」

鈴音が、ようやくここで返事を返す。
この世界への違和感は、鈴音にだって勿論あった。
鈴音と明日菜で記憶している“麻帆良学園”が違うのだから、両者ともに違和感を抱かない世界なんてありえないのだが、
それにしても鈴音の知っている学園生活とは異なる点が多すぎた。
まるで、他の人間の思い出や記憶を混ぜこぜにしたかのように。

「参加者の特定を避けるためか、はたまたその逆か知らないガ、元いた世界の完全再現ではないらシイ」

単純に参加者全員の記憶と記録を再現したから歪になったのか、それとも他の理由があるのか。
そんなことは分からないし、まだ分からなくて問題無いと鈴音は思っている。
それを考えるとすれば、明日菜の腹が決まって、ある程度他の情報も得た後だ。
今の段階でソレを考えても、答え合わせのしようのない仮定を量産するだけである。

「私にとっては、あの美空サンが自然なのだけどネ」

明日菜の中の違和感を決定的なものにしたのは、春日美空の存在だった。
控えめに言って『アッパッパー』な性格をした美空の言動は、明日菜の知る美空のソレとは程遠い。
確かにイタズラ3人組ではあるものの、陸上と宗教に対しては真摯だった印象がある。
少なくとも、あんな全てマリアに宣戦布告のファックオフをぶちかますような感じの性格はしていなかった。

「やっぱり……ここじゃないんだって……」

細かな所が、全然違う。
そして、ふとしたことで、それを痛感させられてしまう。
ここを新たな居場所と思うには、あまりに違和感が強すぎた。

「ここは、私の願う場所じゃないんだ……って……」

ずっと、あの寮で暮らしてきた。
でもこの場所では、自分に不釣り合いな豪邸を割り振られている。
朝早く起きてバイトに行くこともないし、起きたら木乃香が料理をしていることもない。
やたらと広い風呂に入ってても、今こうして超が乱入したくらいで、誰も突撃してこない。
お風呂でドタバタも起きないし、あの騒がしい日常とは、遠くかけ離れていた。

「それでいい。それでいいんだヨ」

例え殺し合いがなくとも、ずっとこの世界には居られなかっただろう。
愛していたあのクラスが、ここには無いのだ。
いや――無いだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
鈴音が知っている人のいない麻帆良学園でなんとかやってこられたように、いっそ未知の世界ならば第二の人生を送れていたかもしれない。

けれどもここには、皆がる。
愛した人の紛い物が、ここには存在しているのだ。
そんな場所で何年も居続けるなんてこと、覚悟を決めた鈴音でも耐えられるかどうか。

「やっぱり、まだ、殺したくなんてないよ……でも……」

ゆっくりと、明日菜が振り返る。
シャワーの水が頬を伝った。

「帰りたい」

シャワーのせいで、泣いているのか分からない。
それでも、その言葉を胸の奥から出した明日菜の心情は、その表情で十分窺い知る事ができた。

「死にたくないだけじゃない……」

言葉に出せど、その感情は胸の内から言葉と共には出て行かない。
むしろ言葉に出すほどに、心と身体を埋め尽くしていくようだった。

「帰りたいよ……麻帆良に……皆のとこに……」

明日菜のよく知るネギや刹那、千雨や美空のいる世界に。
バイトバイトの極貧生活ながら、木乃香と共に朝食を取れるあの世界に。
歪でちゃちな作り物の世界なんかじゃなく、たくさんの日々と想いを重ねて作られた、愛してやまないあの世界に。

「でも……だから……」

帰りたかった。
あの世界に、というのもあるが、それ以上に――あの輪の中に。

「いいヨ、無理して言わなくて」

明日菜の言葉を、鈴音が打ち切る。
後に続く言葉は分かりきっていた。
皆の居た世界に帰ってあの輪に戻りたいからこそ、人は殺せないというような言葉だろう。
人を殺してしまったあと、あの日のように笑う自信も、皆の中に笑顔で戻れる自信もないから。

「明日菜サンの気持ちが知れただけで、良しとするネ」

鈴音にとって、明日菜が不殺の宣言をするのは好ましいことではない。
迷うだけなら、殺したくないという我儘の段階ならばどうにでもできるが、強く決意されてしまうと厄介だ。
ルール上黙って殺されてやるわけにはいかない以上、どこかしらで一人は殺さねば願いを叶えることなど出来ない。
言葉に出して、その意志を強められては困る。


「大急ぎで誰かを仕留めなきゃいけないようなルールでもないし、まだまだ時間はタップリあるヨ」

早々に動くメリットもあるが、今はまだデメリットの方が大きい。
窮地に陥って反射的に相手を殺してしまうような精神状態の時ならともかく、
窮地に陥ってそれでもなお殺したくないで武器を捨てかねない状況での他マスターとの接触は避けたい。

「動くのは後半からでも遅くはないヨ」

鈴音は、とうの昔に受け入れている。
自分本位な願いのために、他者を犠牲にすることを。
自分の愛した世界が変わり、自分の愛した世界と違う別の何かになることを。

「今は英気を養うといいネ」

そしてそのうえで、鈴音は望むことにしたのだ。
多くの犠牲の果てに、自分の愛した者達が、自分の愛した世界とは違う歪んだ世界で幸せそうにする未来を。

「疲れていても、ちゃんとシャンプーとリンスはした方がいいヨ?」

だから、鈴音は無理に明日菜に言い聞かせることまではしない。
いずれ明日菜も、自分と同じように考える可能性がそこにはあるから。
だから、ウインクを軽くして、冗談めかしてバスルームを後にする。

「髪は女の命だからネ」

無理して屈服させたり、争ったりする必要はない。
必要に迫られてもいないのに、明日菜の気分を害してまで今すぐ腹を決めさせることはない。
幸いにも、マスターとサーヴァントの関係。
戦う必要なんてないのだ。
それに――

「それじゃ、ごゆっくり」

マスターとサーヴァントである以前に。
共に聖杯戦争で戦う仲間である以前に。
クラスメートであり、そして、あまり深く関わったわけじゃないけれど、でも。



二人は、友達だったから。



【B―6/神楽坂明日菜の家/1日目・深夜】

【神楽坂明日菜@魔法先生ネギま!(アニメ)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]すっぽんぽん
[道具]髪の毛以外は鈴や陰毛に至るまで無し
[金銭状況]それなり
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
1.皆がいる麻帆良学園に帰りたい
2.でもだからって、そのために人を殺しちゃうと……
[備考]
  • 大きめの住宅が居住地として割り当てられました

【キャスター(超鈴音)@魔法先生ネギま!】
[状態]健康
[装備]自室だし、多少はラフだヨ
[道具]自室だし手にしているものはないけど、ある程度手の届く範囲には置いているネ
[思考・状況]
基本行動方針:願いを叶える
1.明日菜が優勝への決意を固めるまで、とりあえず待つ
2.それまでは防衛が中心になるが、出来ることは何でもしておく
[備考]
ある程度の金を元の世界で稼いでいたこともあり、1日目が始まるまでは主に超が稼いでいました

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