夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

開戰

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聖杯によって形作られた冬木にも季節はあり、日が沈んでからも夏の暑さが入り込んでくる時期だ。
現在時刻は深夜に差し掛かろうとしているが、夜の冬木は生暖かい空気に支配されていた。
しかし、そんなぬるい気温など気にせず、ミサカはタオルで自分の体を拭きながらリビングに入る。
床にある扇風機のスイッチを入れ、風力を最大まで強め、涼しい風に吹かれて気分をリフレッシュさせる。
リビングに備え付けてあるテレビは消されたまま。
扇風機の羽が回る音と、隣にいるエレクトロゾルダートがかけている掃除機の音がうるさく鳴っていた。
ミサカの傍らには、いつの間にかペットの黒猫が鳴き声を上げてミサカの隣に座っている。
扇風機の風を一緒に浴びようとしているようにも見える。

ここはミサカが聖杯から住居として与えられたマンション。ゾルダート達以外に同居者はおらず、戸籍上は一人暮らしである。
ここが学園都市ではないからか、それともミサカの通う学園の地位がそんなに高くないからか。
姉のように学外寮のような場所に住むわけにはいかなかったらしい。

ふと、身震いしてしまう。
猫が心配そうにミサカを見上げるが、ミサカは小さく口を緩めて猫の首筋を撫でてやる。
猫への「大丈夫だ」という意思表示だ。
この震えは特別な事情からくるものではない。
単にミサカは寒いから震えているだけだ。
ミサカは掃除機を回しているゾルダートを見やり、

「着替えを用意するのを忘れていました。ミサカの下着とパジャマをもってきてくれませんか?とミサカは掃除中であるのを申し訳なく思いながらお願いしてみます」

と要請した。
寒さの原因は、風呂上がりに一糸纏わぬ姿で扇風機の風を受けているからに他ならない。
要するにミサカは全裸であった。
年頃の女子ならば羞恥心で爆発してしまいそうな状況の中を平気でいられる。
ミサカには羞恥心というものを持っていなかった。

「了解しました」

ゾルダートはそんなミサカを見て、顔を赤くすることなく、かといって鼻の下をのばすことなく掃除機の電源を切り、着替えの入っている棚へと向かう。
ゾルダートにもどこか人としてなくてはならない感情が欠落していた。

「人数が多いと楽でいいですね、とミサカは少し殿様気分に浸ってみます」

猫の体を撫でながら、扇風機の風力を『弱』まで弱める。
ゾルダート達には数の多さを利用して家事を任せてある。
特に掃除、洗濯、ペットの世話は全て彼らに一任している。
洗濯物の中にはミサカの下着も含まれているが、ミサカは気にしていない。

「こちらでよろしいでしょうか?」

しばらくすると、ゾルダートが着替えを持ってくる。
その中には下着も入っており、所謂縞パンという縞模様の入ったパンツが着替えの束から覗いていた。
パジャマも今どきの中学生が着るには些か子供っぽいといえるデザインで、薄い黄緑色の生地に印刷されたカエルのシルエットが可愛らしい。
ミサカはゾルダートから着替え一式を受け取り、彼の目の前でパジャマへと着替える。
時計が日付の移り変わりを知らせるために鳴りだしたのは、ミサカが上着のボタンをつけ終わろうとしたときだった。


◆ ◆ ◆


『第一の夜を盲目の生贄達が踊り狂う。遍く願いよ、輝くが良い。これこそが、聖杯戦争の始まりである』

突如頭の中に響いてきた謎の声を反芻する。
ミサカの目が険しいものに変わる。

「ついに始まるのですね、とミサカは聖杯戦争の渦中にいることを実感します」

モラトリアム期間はミサカにとって夢のようだった。
特に、友人の南条光との思い出はかけがえのないものであった。
叶うのなら、このまま楽しい日々が続けばいいと思ったこともあった。
しかし、数日のモラトリアム期間の末に頭の中で轟いた、戦争の始まりを告げる合図。
それは見たことのないものに溢れた新世界での生活を謳歌していたミサカを現実に引き戻した。

『今後の方針を整理を行うので全員、ミサカのいるマンションの駐車場へ集合してください、とミサカは念話を介し、ゾルダート全個体に呼びかけます』
『了解。しかしミサカ、ミサカと我々は念話でコンタクトを取れます。それは二度手間なのでは?』
『方針とは別に渡したい物があるのです、とミサカは付け加えます』

ミサカはすぐさま、見張りや家事を任せておいた全ゾルダート20体をマンション下の駐車場へ集める。
それを隣で聞いていて行動に移ったのか、ついさっきまで隣で掃除機をかけていたゾルダートはもういない。
恐らく、霊体化して下の階へと向かったのだろう。
ミサカの個室で済ましてしまってもよかったが、ゾルダート20体を一部屋に押し込むには少し窮屈すぎるのだ。

ミサカは駐車場へ向かう前に『渡したい物』を取るためにクローゼットへ寄る。
ミサカが前にしたクローゼットは奥行きが深く、見た目からしてかなりの収容スペースを誇っている。
木製の扉を開くと、目に飛び込んで来たのは学園の制服に、姉の趣味に沿った私服。
服を払いのけるとその奥には――真っ黒な銃器の数々と1などの数字を象ったペンダントが大量にあった。ミサカの『渡したい物』は後者にあたる。
銃器はというと、サブマシンガンのような学生鞄に隠し持つことができるような武器から、対戦車ライフル『バレットM82A1』を改造した『鋼鉄破り』まである。
聖杯戦争を生き残っていくにはサーヴァントに頼るだけでなく、マスターの自衛及び攻撃能力も重要になってくる。
いずれ使うことになるだろう。度重なる一方通行との戦闘経験から容易に察することができた。

とはいえ、今必要なのはミサカが両手で取り出したペンダントの束のみ。
ある目的のために大金をはたいて極秘に入手したアクセサリーだ。
ゾルダート達を待たせているせいで人の目につくのを避けるために急いで部屋を出た。

「パジャマ姿ですが、ゾルダートを駐車場に長居させるわけにはいきません、とミサカは駆け足でマンションを降ります」

パジャマは思いの外動きやすかった。


◆ ◆ ◆


「揃っていますか、とミサカはゾルダートが20体いることを確認します」

ミサカが駐車場に降りると、20体のゾルダートが横1列に並んで整列していた。
手を後ろで組んでいて、どこを見ているか分からない無機質な表情はどことなく威圧感を与える。
ミサカはゾルダートを一通り見回すと、手元にあるペンダントの内、『7』の形をしたペンダントを取り出して口を開く。

「まず渡したいものですが、コレになります、とミサカは数字のペンダントをゾルダートに見せます」
「それが我々に渡したい物…?」
「はい。これを各自一つずつ身に着けてください、とミサカはゾルダートにペンダントを渡します」

そう言ってミサカは近くにいたゾルダートに歩み寄り、『7』のペンダントを渡す。

「しかし、何故――」
「プレゼントです、とミサカはいいから受け取れと『ゾルダート7号』へペンダントを押し付けます」
「…7号?」

ペンダントを受け取ったゾルダートはミサカに7号と呼ばれたことを不思議に思う。
エレクトロゾルダートには個体差などほとんどない。
その個体はあくまで『エレクトロゾルダート』というクローン集団の中の一体であり、いくらでも代わりがいるのだ。
元々ゲセルシャフトでは、電光機関のリスクを数で補うために生み出された存在であるがゆえ、電光機関を使えて戦うことができればそれ以外はどうでもよく、
エレクトロゾルダートは『妹達』のように番号すら割り振られていなかった。
しかし、ミサカはそんなゾルダートに『妹達』のような検体番号を授けようとしていた。

「全員、実体化するときは数字のペンダントを首にかけてください、とミサカはお願いします」

この判断の元となったのは、ミサカの想い人でありヒーローでもある上条当麻からのプレゼントだ。
ハート型のネックレスだった。上条が姉と見分けをつけるためにと買ってくれた。
本当は指輪が欲しかったのだが、それでも上条からのプレゼントは素直に嬉しかった。
だからミサカも、エレクトロゾルダートへペンダントをプレゼントして個体ごとの区別をつけようとしたのだ。

「ペンダントの数字が自分の番号です、とミサカは『ミサカ一〇〇三二號』と呼ばれていたことを例にゾルダートへ検体番号を与えます」

そう言ってミサカはペンダントをかけたゾルダート1人1人に「あなたは1号です、とミサカは――」「あなたは18号――」とペンダントの数字を指さして、ゾルダートに自分の号数を認識させる。
ゾルダートの属するクラスは「レプリカ」だが、いつまでも『総称』で呼んでいると個体の識別ができない。
誰が何号か分かるように号数を指定しておけば、真名を明かすことなく個体ごとに指示を送れる。
また、ミサカとしてもゾルダート達を生命を持つ『個』として見ていきたいという思いがあったので、ゾルダートの個体識別はその第1歩でもあった。

「これからは対応する号数を呼ばれたときは自分のことだと思ってください、とミサカはゾルダートに確認を取ります」
『Jawohl!』

どうやら、ゾルダート達はそれを受け入れてくれたらしい。
ミサカはこのことがうまくいったことに内心で小さく喜びながらも、いよいよ本題に入る。

今のミサカの中で重要なのは生きて帰ること。
恩人に救ってもらった命を簡単に失うのはまっぴらだ。
聖杯を勝ち取れば帰れるかもしれないが…それは即ち、他のマスターを皆殺しにすることになる。
その選択肢を選ぶことは絶対に避けたい。そんな血生臭い手段で生還なんてしたら、姉に怒られてしまう。
ならば残りの選択肢は、この空間から脱出するか、戦争自体を終わらせるかの2択に絞られる。
そのためには協力者が欲しいところだが、まだ他の組の情報が少ない。
まずは周辺に偵察隊を派遣し、サーヴァントがいるか確認すべきか。

「朝までですが、1号から12号はスリーマンセル(三人一組)で小隊を組んで、それぞれ別の方向へ霊体化して偵察に出向いてください、とミサカは指示します」
「了解」
「ですが、危険を感じたらすぐに逃げてください、とミサカは付け足します」
「あくまで目的は偵察ですね?」
「はい。サーヴァントの気配を感じたら帰還するぐらいでいいです、とミサカは指令の詳細を述べます」

今必要な情報は、この周辺のブロックにどれくらいの主従がいるかを把握することだけでいい。
サーヴァントは互いの発する魔力で気配を察知できるという。
偵察に出すと逆にこちら側が気づかれる可能性もなくはないが、エレクトロゾルダートは数十体召喚できる分、
1体あたりの魔力消費は非常に軽く、その分1体の秘める魔力もかなり薄いはずだ。
ならば、魔力が薄い分、アサシン程ではないが多少は気づかれにくいのではないか、とミサカは仮説を立てた。

「残った者は何をすれば?」

残りの8人の中で13号がミサカに問う。

「万が一のため13号から20号は私の元にいてください、とミサカは敵襲を警戒します」

聖杯戦争が始まって早々に暴れまわる者もいないとは限らないため、ミサカは最低限戦える人数を手元に置いておいた。
いざ戦闘になっても、魔力には余裕があるため少なくともあと30体は召喚できる。
個体識別用のアクセサリーを揃えるのが大変そうだが。

「ではミサカ、我々は偵察に行きます」
「いってらっしゃい、朝までには帰ってくるのよー、とミサカは家庭のお母さんみたくゾルダートを見送ってみます」

1号から12号のゾルダートは霊体化し、駐車場から姿を消した。
3体は東へ。
3体は西へ。
3体は南へ。
3体は北へ。
ミサカの指示通りスリーマンセルで偵察に向かった。

「…本当に帰ってきてほしいです、とミサカは遠い目をします」

ゾルダートはサーヴァントとはいえ、1人1人の能力は非常に弱い。
三騎士と真っ向勝負になれば、ひとたまりもないだろう。
固有のペンダントを持ち、号数を持つエレクトロゾルダートは『エレクトロゾルダート』の中でも彼らだけだ。
偵察くらいで大げさかもしれないが、ミサカは『世界にひとりしかいない』彼らの無事を願っていた。

【C-6/御坂妹のマンション・駐車場/1日目・深夜】

【御坂妹@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]パジャマ
[道具]特になし
[金銭状況]普通(マンションで一人暮らしができる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界へ生還する
1.協力者を探します、とミサカは今後の方針を示します
2.そのために周辺の主従の情報を得る、とミサカはゾルダートを偵察に出します
3.偵察に行ったゾルダート達が無事に帰ってくるといいのですが、とミサカは心配になります
[備考]
  • 自宅にはゴーグルと、クローゼット内にサブマシンガンや鋼鉄破りなどの銃器があります
  • 衣服は御坂美琴の趣味に合ったものが割り当てられました
  • ペンダントの購入に大金(少なくとも数万円)を使いました
  • 自宅で黒猫を飼っています

【レプリカ(エレクトロゾルダート)@アカツキ電光戦記】
[状態](13号~20号)、健康、無我
[装備]電光被服
[道具]電光機関、数字のペンダント
[思考・状況]
基本行動方針:ミサカに一万年の栄光を!
1.ミサカに従う
2.ミサカの元に残り、護衛する
[備考]
  • ミサカの家の家事(特に掃除、洗濯、ペットの世話)を任されています

【レプリカ(エレクトロゾルダート)@アカツキ電光戦記】
[状態](1号~12号)、健康、無我、スリーマンセル、単独行動
[装備]電光被服
[道具]電光機関、数字のペンダント
[思考・状況]
基本行動方針:ミサカに一万年の栄光を!
1.ミサカに従う
2.他のサーヴァントの偵察
3.危険を感じる、サーヴァントの気配を確認する、朝になるのいずれかがあれば、ミサカの元へ帰還する
[備考]
  • 三人一組になってB-6、C-5、C-7、D-6へそれぞれ向かいました。
  • どのゾルダートがどの地域へ向かったかは後の書き手さんにお任せします

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