夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

鬨の声を放て

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だれでも歓迎! 編集
  ぺた。

  少考、ぺた。

  長考………………ぺた。
  間をおかずぺた。

  沈黙。


「うう……」


  唸り声がひとつ。
  声を上げたのは烏帽子を被った妙齢の女性。
  彼女が美しい眉根を潜めてじっと睨みつけるのはコンビニで手に入るようなマグネットタイプの将棋盤。

  盤上は、ルールを知るものならば誰が見ても見事の一言で表すだろう。
  駒はまだいくつも残っている。だが玉将に逃げ場はない。完全に詰みの状態だ。


「ありません……ああ、もう! 悔しい、悔しい、悔しいですわぁ~~~~~~!!!!!
 なんで勝てませんの!? イエヤスさんにも、ノブナガさんにもにも負けたことありませんのに!!」


  ぷりぷりと可愛らしく怒りをぶつける女性・アーチャー(今川ヨシモト)。
  いつも通りのババアヅラをした女性・千鳥チコ
  彼女らは酔い覚ましの頭の体操も含めて、二人で将棋を打っていた。
  盤を挟んで三戦構え、結果は……言うまでもないだろう。


「こう見えても、元『女流名人』だからね。つまり、昔々は『世界で一番強い女』やってたんだ、今はこんなナリしててもさ」


  チコがタバコに火をつけながら語る。
  瞳には、少しだけノスタルジックさを感じさせる輝きを湛えながら。


「くぅ、なんなんですの! 何処からでも、どんな手からでも攻めてくるなんて! 待ってくださいと頼んだのに待ってくれませんし! 卑怯ですわ!!」

「そりゃそうさ。攻めなきゃ終わりでしょ。どんな時代だって、女は」

「だとしても、規格外過ぎますわ! ……貴女、本当に人間ですの? 中になにか別の生き物が入っているとか」


  冗談とも本気とも取れない一言。
  その一言にチコが微笑い、細めた目を少しだけ開く。


「さあね……ただ、私(あたし)はそういう風に作られた」
「攻めて、攻めて、攻め潰す。それが私の知ってる戦い。わかりやすいでしょ?」


  チコの一言で雰囲気が変わる。
  二人の間に流れていた空気が少しだけ鋭さを増し、冷える。

  しん、と静まった部屋。
  チコが息を吸うたびに、ちり、ちり、と音を立ててタバコが小さくなっていく。
  思わず見とれてしまいそうになるほどの優雅な身のこなしでアーチャーが湯呑の中に注がれていた茶を飲む。

  タバコが灰皿に押し付けられてもみ消され、湯呑が置かれる。
  一段落が済んだ。お遊びは終わりだ。ここからは、『準備』だ。
  切り出したのはアーチャーだった。

「攻めるんですのね。その言い方ですと」

「当然」


  広げていたマグネット将棋盤から一枚一枚丁寧に駒を拾いながらチコが答える。


「なんたって七日間だ、様子見なんて言ってたらあっという間に時間切れでしょ」


  パタンパタンとマグネット式の将棋盤を畳んで、代わりに地図を広げ、ついでに茶請けの和菓子を置く。
  どちらもチコが、昨日の飲み屋歩きの帰りにコンビニに寄って買ったものだ。
  チコは新しいタバコを吸いながら、アーチャーは和菓子を食みながら地図を眺める。


「ねぇ、アンタ……アーチャーさ。この街で、何処が一番『目立つ』と思う?」

「何処、と言うと」

「どこブッ壊してやったら、血の気の多い奴らが誘い出せると思う?」


  急に飛び出す物騒な言葉。
  アーチャーは顔色一つにこう答えた。


「やはり橋では? 地図の上でもよく目立ちますし、河を通ることの出来る唯一の場所。
 ここを壊せば、きっと大々的に報じられるのではないでしょうか」


  アーチャーが大福の粉が付いた指でさしたのは、新都と深山町を繋ぐ唯一の橋。
  確かに目立つ。ここを壊せばまず間違いなく大半の参加者が『何かある』と近寄ってくるだろう。
  しかし、チコはこの案を却下した。


「橋は確かに目立つけど、『逃げ』の要になる場所でもある。片方の町で起こる戦争に『巻き込まれたくない』なんて腐った考え方してる奴を撃つのにちょうどいい場所でしょ。
 だから、あえて残しておく。あえて残しておいて、夜にこそこそ渡る奴が居たら遠くから鴨打ちにする。そのほうが、旨味がある」


  チコも橋を破壊する作戦も考えていた。
  新都と深山町を繋ぐ橋は地図の上でも目立つ、破壊すればすべての参加者に情報が知れ渡るだろう。
  巨大な橋すら破壊する宝具が放たれたと聞けば、参加者をおびき寄せるいい餌になる。

  だが、橋を破壊した場合、リスクが大きい。
  まず分断して以降、対岸に渡れなくなるのが面倒だ。
  もし対岸の方に参加者が残っていたらそれだけで膠着状態が生まれてしまう。
  橋もなしに渡るとなれば確実に目立つし、逆に他の参加者からの攻撃のいい的になる。
  壊すのは片方の街から完全に参加者が消えたあと、逃げ場なしの最終ラウンドを始める時に、だ。

「それもそうですわね。では、学園ではどうです? ここなら必ず人目に付きますし、人が多い分話が伝わるのも早いかと」

「へぇ」


  いい案だ。チコは素直にそう思った。
  C-2地区にある学園は小学校・中学校・高等学校が集まっている。
  人目につく・話題になるという点でいうなら、街中でところかまわず撃つよりも効果が望めるかもしれない。


「いいじゃない、学園」

「的も大きくて狙いやすいですし、狙う際の遮蔽物も少ないですから、かなり遠距離からの狙撃が可能ですわ」


  『海道一の弓取り』。
  視力・射程距離・命中にAランクの補正を与えるアーチャー特有のスキル。
  これを活用すれば、大きな的ならばかなり遠距離から撃ち抜けるだろう。
  学園ほどの大きさならば、だいぶ大雑把に狙える距離からでも狙撃が可能になる。
  それこそ、エリア一つを超えるような超ロングレンジからだろうと。

  そこまでを見越しての『学園撃ち』。
  ひとつ気になるのは、人が居る場所を狙撃して破壊した際のルールへの抵触であるが……


「校舎を狙わず、無人の校庭を狙えばいいだけですわ!
 校庭なら破壊したところで誰にも危害は及びませんし、いざとなったら『弓の練習をしていて失敗してしまっただけですわ!!』で押し通せますもの!」


  というアーチャーの一言で得心がいった。
  勿論、このアーチャーの言葉が彼女の腕前同様的の芯を射抜いているかどうかは分からない。
  もしかしたら校庭狙撃だけでもルールへの抵触とみなされてルーラーがチコたちに接触を図ってくるかもしれない。
  そうなるとさすがにアーチャーが言うような稚拙な言い訳では誰も信じてくれないだろう。
  だが、人も建物も傷つけず、地面を(かなり深々と)えぐり(結構デカデカと)割るだけ。明確なペナルティの対象にはなりえないはずだ。

「じゃあ、それで行こう。
 今から、深山町まで行って、射撃に持って来いなビルを探して、そこから学園の校庭に向かってアンタの宝具の『烈風真空波』を撃つ。
 それから参加者が釣れるのを待つ。出てこなかったら……別の良さそうな場所で同じことするしかないかな」


  良さそうな場所、の候補は意外と少ない。
  考えつくのは人の出入りの多い病院のような施設、もしくは都心の駅前だ。
  どちらもNPCに被害が及ぶ可能性があるため、チコとしてはできるだけ避けたい所である。
  博打を打ち続けることも危険を伴う。
  どうにか一発で釣り上げられればいいのだが、そこは神様の采配次第だろう。


「心得ました。それで、マスターはその間なにを?」

「私? 私はその辺ぶらぶらしとくよ。
 ビルの上で一緒にいる所を見られると都合が悪いし、襲われた時に逃げ場に困るからね」

「でも、別行動は別行動で少々危なっかしくありません?
 狙撃を行って、偵察まで行うとなると結構な時間別行動しなければなりませんし、その間にマスターが襲われてしまう可能性もあるのでは?」


  確かに可能性はないとは言い切れない。
  学園に向けて宝具を放った際の魔力の反応で、チコの居場所に気づいて迫ってくる参加者が居るかもしれない。
  チコは四十のババアだ。しかもヤニとアルコールにまみれた不健康尽くしの体の。
  走れば五秒で息切れを起こすし、コケただけでぎっくり腰や骨折を起こして身動きがとれなくなってもおかしくない歳だ。
  襲われれば確実にヤバい。だがチコは退かない。


「私を探して追っかけてくれるんならそれもまたあり、じゃない。私に近づいてくるってことは、アンタの射程距離に居るってことでしょ。
 私が危なくなったらアンタが助けてくれればいい。信頼してるよ」


  さらりと出された命の全てを預けるという旨の言葉。
  急な無茶ぶりだが、アーチャーは少しもたじろがない。

「軽く言ってくれますわね」


  わりと天真爛漫で図太くて子供っぽい雰囲気の抜けない彼女とて、戦国時代を駆け抜け天下泰平を成し遂げた武将だ。
  戦いの呼吸を知っている。戦場の空気を知っている。戦争の流れを知っている。
  知った上で、生き、勝ち、天下の頂点まで詰めた。

  アーチャーは今までとは一切違った凛とした表情とよく通る声で、忠告をし。
  そして、弓兵としての誇りを乗せて、一言加える。


「ならばひとつ約束を。なにがあろうと私の視界の死角には入らないでください」
「それを守っていただければ、どんな窮地にもこの矢を届けて差し上げましょう」


  生前、天下の覇を争っていた大剣士を、鎚兵を、槍兵を、魔術師を、扇戦士を、双剣士を、暗殺者を、砲撃手を、爪術士を、斧兵を。
  そして邪悪な意志を持つオウガイ、ムラサメ、ついでにコタロウの三人を射抜き平伏させた弓矢。
  アーチャーはその矢の向かう先について、絶対の自信がある。
  だからこそ女の身でありながら『弓兵』として英霊の頂まで上り詰め、『海道一の弓取り』という弓を操るものとして最高クラスとも言えるスキルを手に入れた。
  その逸話とスキルは、アーチャー『今川ヨシモト』の誇りだ。
  その『今川ヨシモト』の誇りにかけて、もう一言を付け加える。


「全幅の信頼、大いに結構ですわ! だからどうか、約束を違わぬよう、お気をつけくださいませ」


  アーチャーの言葉に、チコはただ黙って頷く。
  そこにもう、余計な言葉はいらなかった。

  ◆


「それにしても、マスター、少し生き急いでいません? 自棄の捨て鉢はみっともないですわよ」


  あれから数分後。
  出発前にテーブルを片付け、軽く部屋内の掃除をしながらアーチャーが言う。
  さっきの凛とした雰囲気はどこへやら、少しだけ間の抜けた声。
  喋る内容も、戦争の方針への提言というよりは女同士の他愛のない世間話のようなもの。完全にスイッチが切れてしまったらしい。


「これっぽっちもヤケじゃない。私はただ、勝負してるだけだよ」

「勝負っていっても、こんな自分から危ない橋を渡りに行く必要もないでしょうに」

「危ないなんて言ってたら、戦争なんてしてらんないわ」
「それに」
「ぶっ潰してやるって決めたんだ。真正面から行くのがスジってもんでしょ」


  チコがにやりと笑う。
  彼女の中に流れている、血よりも濃い『鬼』の系譜は、退かず攻めろと彼女に語り続けている。
  ならば今は、それに従うまでだ。彼女はそう判断を下した。

  アーチャーがくすくす笑う。どうも彼女の琴線に触れる何かがあったらしい。


「私、そういうわかりやすい答えは大好きですわ!」

「じゃ、そろそろ行くか」

「ええ、参りましょう!」

  地図を畳んで、身支度を整える。
  財布や時計といった最低限の荷物と、アーチャーが『絶対、絶対、忘れちゃ駄目ですわよ!』と言って聞かなかった和菓子を幾つか。
  そして、戦争に向かう心構えをその胸に抱き。
  部屋から出て、しっかり施錠をし。  
  さあここからは戦場だと息を呑み、再度気合を入れなおして進もうとして。


「あ、もし、マスター」


  不意にアーチャーから声を欠けられた。
  何事かと振り向くと、そこには。


「将棋、次は負けませんからね!」


  胸を張り、いつも通り一切曇りのない自信満々の表情でびしと指をさして宣言するアーチャーの姿があった。
  少しだけ沈黙が流れ、思わず吹き出したチコの笑い声で破られる。


「帰ってきたらもう一回コテンパンに叩きのめしてあげるわ」

「望むところですわ! 今度は私が華麗なる勝利を収めて差し上げますわよ!」


  ただ単にアーチャーが空気が読めない負けず嫌いなだけなのかもしれない。
  でも、もしかしたらアーチャーなりの気遣いなのかもしれない。
  どちらにせよ、アーチャーのお陰で体中に不自然に篭っていた力が抜けた。
  程よい緊張感だけが残り、最高のコンディションに近づいた。

  チコ自身、出会ってから日が浅いのでアーチャーがどんな人物なのかはまだ掴みきれていない。
  それでも今から死地に赴こうという状況でこの余裕。そして狙ってやったのだとすればその気配りも。
  なんとも頼りになる相方じゃないか。

  チコはまた少し笑うと、霊体化していく彼女に手を振りながらその場を離れた。


「さあ、戦争の始まりだ」


  時計は朝八時少し前を指している。
  過去への恩讐と未来への欲望が集まり渦巻くこの仮初の街に鬨の声が響き渡るまで、そう時間はかからない。

【B-9/マンションの一室(チコの部屋)前/1日目 午前】

【千鳥チコ@ハチワンダイバー】
[状態]二日酔いによる軽い体調不良(午前中に完治)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]財布や腕時計など遠出に役たつ物が入ったバッグ、マグネット将棋セット、和菓子いくつか
[金銭状況]無駄遣いしても生活に苦がない程度。
[思考・状況]
基本行動方針:攻めて、攻めて、攻め続ける。攻めの手を切らない。
1.移動。ヨシモトから見える範囲でぶらつく。
2.校庭襲撃終了後、参加者が発見できたら彼らを襲撃。
 発見できなかった場合、別の場所を襲撃。襲撃場所は深山町に限定。
3.夜間の戦闘に備えて仮眠を取るタイミングを図る。

[備考]
※マグネット将棋セットとは、原作中で澄野久摩が使っていたようなコンビニで売られている簡素な将棋セットです。
 特に力はありません。そしてこの備考は次回以降消していただいて結構です。
※自宅から交通機関を利用して、狙撃場所まで移動します。
 遅くとも正午には狙撃ポイントを見つけて狙撃を行います。
※校庭狙撃がルールに抵触する可能性も考えています。ただ、この一撃でペナルティを受けるほどではないとも考えています。


【今川ヨシモト@戦国乙女シリーズ】
[状態]霊体化
[装備]ヨシモトの弓矢
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従いますわ!
0.次は勝ちますわよ、マスター!
1.C-2を襲撃出来る場所(できるだけC-2から離れていることが条件)に行き、そこから宝具『烈風真空波』をC-2・学園の校庭めがけて放つ。
 その後、チコと共に場所を移して校庭の様子を観察。
2.参加者を発見した場合チコに報告、襲撃準備を整える。
 発見できなかった場合、別の場所を襲撃。襲撃場所は深山町に限定。
3.同時に、チコの周囲を警戒。サーヴァントらしき人物がいたらチコに報告して牽制を加える。
4.夜間、遠方からC-7の橋を監視。怪しい動きをしている人物が居れば襲撃。

[備考]
※本人の技量+スキル「海道一の弓取り」によって超ロングレンジの射撃が可能です。
 ただし、エリアを跨ぐような超ロングレンジ射撃の場合は目標物が大きくないと命中精度は著しく下がります。
 宝具『烈風真空波』であろうと人を撃ちぬくのは限りなく不可能に近いです。

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000:黄金のホーリーグレイル-what a beautiful phantasm- 千鳥チコ 029:願い潰しの銀幕
アーチャー(今川ヨシモト)

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