夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

鶴翼出撃

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「それで、索敵はしているのか」
「ええ。各地に分散させているけど……期待はしないでよ?」

陽の光が差し込む早朝。スタンと瑞鶴が真っ先に行ったのは情報収集だった。
瑞鶴の弓から放たれた矢が索敵機へと変化し、蒼空へと散っていく。
飛行機を操縦する妖精達は街で何か異変が起こっていないか入念に確かめているようだ。

「始まった瞬間から血気盛んに戦っているなんて、多分ありえないと思うし」
「そうか? 逆にアピールしているかもしれないぞ? 何処の世界でも、戦うのが好きで好きでたまらないって奴はいるだろ」
「…………そういう手合は無視する方向で。勝手に自滅でもしてくれることを願っているわ」

げっそりとした顔をしながら椅子の背もたれに手をかけている瑞鶴に、スタンは曖昧に笑う。
改めて瑞鶴の姿を見ると、どう考えても不機嫌気味な普通の女の子にしか見えない。
モラトリアム期間からそうだったが、彼女はサーヴァントと感じさせない気さくさでスタンに接してきた。
英霊と呼ばれるのだから常に厳かな態度を取り、愛嬌なんて何処かへ投げ捨てたものだと思っていた身としては拍子抜けだ。
もっとも、接しやすいことにはこしたことがないので、スタンはこれでいいと納得している。
七日間という限られた期間ではあるが、彼女とは一心同体で戦うのだ。
少しでも距離を縮めて、連携を取れるようにしておきたい。

「大体、私達は直接戦闘するってタイプじゃないの。遠距離から漁夫の利で掻っ攫うのが似合ってるよ」
「そうだな。ともかく、しばらくは家に籠城だな。幸い、設備は整っているから困らないし。
 というか、俺が元いた所よりも居心地がいいぞ? 羨ましいったらありゃしないぜ」

スタンがいた世界とは違って、ここは一般的な家にも水道その他諸々が完備している。
富豪でも王族でもないのに快適な暮らしを送ることができるとは、偽りの世界とはいえ中々に侮れない。

「暮らしもちょっとした遊びに回れる程度。学校っていっても、聖杯戦争があって絶対に行かなくちゃって訳でもないからな」

今、スタン達が居を構えているのは小さなアパートのワンルームだ。
部屋も狭く、二人で暮らすには少しばかり広さが足りないけれど、瑞鶴はいざとなれば霊体化できるので特段に困ってはいない。
スタンに割り振られた役割は、【一人暮らしの学生】である為に裕福な暮らしとは言えないが、元いた世界の水準からすると標準を超えている。


「マスターさんがいた世界と勝手が違うもんねー。私が手取り足取り教えてなきゃ、赤っ恥ね」
「うっせぇ。教えるって言っても、俺がオロオロしてるのを見て面白がってた癖に」
「そうだったかしらねぇ~。私と遊び回っていた時に目をキラキラさせていたのは誰だったでしょう?」

見たこともない食べ物、娯楽施設が密集した繁華街、多くの人が通う学校など、目に映るもの全てが彼らにとって新鮮だった。
最初の頃は、サーヴァントとして呼ばれた瑞鶴が聖杯から与えられた知識を元にして色々と主導権を握っていた。
生活に慣れる、ある程度の地理を知っておくといった節もあるが、瑞鶴はスタンを全力で振り回していた。
再度繰り返すが、スタンにとって瑞鶴はサーヴァントとは思えない気さくさだ。
天真爛漫に笑う彼女の姿は、置き去りにした幼馴染を想起させ、少しだけ胸を痛ませる。
感傷だ。深く想うと、重りになる。

「ったく、悪趣味め」
「うっさい、マスターさんだってぶつくさ言いながらも楽しんでたじゃない」

元の世界と勝手が違う部分も、瑞鶴がフォローしてくれたことで今ではそこまでの違和感がない。
ただ、外出する時は必ず帽子をかぶらなければならないというのは少し窮屈ではあるが。
どうやらこの世界ではスタンのように耳が飛び出ている種族はいないらしい。
そうなると、耳を出したままだと明らかに目立つ。他のマスターからも目をつけられるだろう。
このことに気づいていなければ、スタンは開幕の合図を待たずに脱落していたかもしれない。

「そりゃあそうだろ。……俺とお前は、その、なんだ……パートナーだし」
「にへへっ、照れてやんの」
「わ、悪いかよ!」
「いーや、可愛いもんだっ。からかいがいがある」

何だかんだ言いながらも、瑞鶴はスタンが知らない現代知識を上手くカバーしてくれている。
もっとも、けらけらと笑う彼女の姿を見ていると考えすぎかとも思う。
彼女なりに暗くなりがちな雰囲気を払拭すべくわざと明るく振舞っている。
そうであるならば、彼女は大した役者ではあるけれど。

「ともかく! ……始まったんだよな」
「ええ。通達にあった通りよ。私達は何が何でも生き残らなくちゃいけない。
 マスターさん、改めて聞くけどさ。他者を犠牲にしてでも生き抜く覚悟はある?」
「当たり前だ。願ったからには、戦うさ。それが、俺の役目だから」

ふふんと挑発的な笑みを見せる瑞鶴は、スタンを見定めている。
自分が導くに足るマスターか、と。
上等だ、スタンは間髪入れずに見返して言葉を投げつけた。


「ナメんなよ。ここに来た時点で覚悟はできている。誰が相手であっても戦うさ」
「よろしい。それでこそ、私のマスターさんだよっ」

やはり、彼女を引いて正解だった。
スタン一人では定まらない覚悟も、彼女と一緒なら狙いが正確になっていく。
些か負けず嫌いで子供っぽい所もあるが、それもまた愛嬌だ。
追想。彼女を見ていると、元の世界にいるであろうアリーザを思い出す。
負けず嫌いな性格に真っ直ぐな心。
思い込んだら一直線である幼馴染と瑞鶴には似通った所があるからか、接しもしやすい。

「やっぱすごいよ。アーチャーは。俺なんかと違ってしっかりしてるもんな」

故に、スタンは瑞鶴のことを素直に賞賛する。
口ではどれだけ大きなことを言おうが、自分はまだ半人前。
彼女のように確固たるものがないのだから。

「……私はマスターさんに褒められる程、できたサーヴァントじゃない」

しかし、彼女はバツが悪そうに顔を背けてしまう。
その表情には陰りが見られ、目の光も心なしか薄い。

「私は座に入る前からずーっと戦ってきたの。みっともなく足掻いて、泣き喚いて…………沈む間際まで」

瑞鶴の口から語られるのは彼女のルーツとも言える過去。
鉄屑になるまで勝ちを諦めなかった苦い、過去。

「そして、こんな身体になってもまた戦った。往生際悪すぎっていうかさ、何か……マスターさんにみっともないって思われてそうでさ。
 でも、私はその選択が正しかったって信じてるんだよね。
 どんな御託を言われても、何もせずに終わるのなんて認めたくない」

はにかむように笑う瑞鶴の姿は数秒前に見せた凛々しさの欠片もなく、等身大の少女だった。
否、幾ら膨大な過去があろうとも、彼女は少女の形をしたサーヴァントなのだ。
拙い。これはその部分を気遣えなかった自分の落ち度だ。
サーヴァントという超越した立場であっても、人並みに悩むし不安になる。
どうして、自分は気づけなかったのか。
これだからいつまでたっても半人前を抜け出せない。


「奇跡に縋ることで過去をやり直せるなら、私は迷わず縋るわ。
 生きてさえいれば、やり直せさえすれば――チャンスは残るんだから」

自分を片手で撚る力を持っていようとも、瑞鶴だって内面は同じだ。
悔いに縛られ、藻掻いていることに、変わりはないのだから。

「ねぇ、マスターさん。幻滅した? こんな諦めの悪い女は嫌いかしら?」
「まさか。俺は瑞鶴のそういうとこ、結構好きだぞ」

だからこそ、ここは即答しなければならない。
これから先、瑞鶴と共に歩いて行く為にも。
そして、何よりも。スタン自身がそう在りたいから。

「俺が認めてやるよ。アーチャー……瑞鶴がすげぇ頑張って戦ったことが正しかったって。
 他の奴等が負け犬だの往生際が悪いだのぶつくさ言った所で知った事かよ。
 つーかさ、奇跡に縋っていいじゃんか。やり直してぇって思うのは悪くねぇんだ!」

迷い無く、信じたい。
彼女が望んだ願いが間違いでないことを。

「だからさ、俺のサーヴァントはかっこ悪くなんかねぇ」

きっと、何度繰り返してもこの言葉だけは間違いではない。
それだけは、この偽りの街の中であっても真実だと信じている。

「…………ありがと」

自分らしくもない。いつもならば、戸惑いながらだったり、ここまではっきりと言葉に出来ないものだが。
やはり、聖杯戦争という異常な空間にあてられたのか。
言葉に出さないと伝わらない。
サーヴァントとの相互理解が大切なこの戦いでは、主従の仲を深めるのも重要なピースだ。


「さてと、どうすっか。とりあえず、索敵はしてるんだろ?」
「まぁね。それよりも、マスターさんは学校に行かないの?
 せっかくだし、行ってみたら?」
「行けると思うか? この頭は目立つし、もし学園にマスターがいたらヤバイだろ」

少しずつでいい。
彼女と一緒に、自分自身がどう在りたいかも見つけていこう。
この戦いで勝ち残ることで、わかるなら。
その時は、きっと――スタン達は笑えるはずだから。

「そんなの幾らでも誤魔化しが効くとは思うけど、うーん……どうする?」
「それじゃあ……」

だから、今だけは互いの手を離さない。
固く握り締めた絆を、絶対に壊してなるものか。



【B-5/アパート・スタンの部屋/一日目 午前】

【スタン@グランブルーファンタジー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]剣
[道具]
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1.学校に行くか、それとも?
[備考]

【アーチャー(瑞鶴)@艦隊これくしょん】
[状態]健康
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1.マスターさんと協調。
2.序盤は戦闘を避け、情報収集に徹する。戦うとしても、漁夫の利狙い。
[備考]
艦載機(索敵)を飛ばしています。

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