夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

泡沫の心

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 思えば、それは朝の何気ない会話が原因であった。

『きちんと食べないとお腹壊してまうからな』
『コーヒーだけじゃあかんよ、ギー』

 この世界に来てから何度も繰り返されたやり取りだ。朝食を食べろというはやてと、それをやんわりと流すギーの、いつものやり取り。
 だが今朝だけは違った。聖杯戦争の開始を告げられ、気が立っていたのかもしれない。今になって思えば随分と浅慮だったと言わざるを得ないが、後悔先に立たずだ。

 ―――別段困りはしない。

 そう思ってしまった。
 口には出さなかった。それでも、彼女は顔から察したらしい。
 目は口ほどに物を言う、とははやての国の言葉だそうだ。おかげで随分とへそを曲げられた。はやても口には出さなかったが、顔で表現した。
 ……結局、ギーははやての作った朝食を口にした。いつもより気持ち多く食したつもりだが、それでもはやての機嫌は完全には直らなかったようで。

 そして。

「やっぱり朝は気持ちええなー」
「……」

 そして、二人は近くの公園にやって来ていた。
 ギーははやての乗る車椅子を押しながら、小さな公園の中を歩いていた。静けさ充ちる緑と陽光だけがそこにはあった。池の水面には一切の波紋もなく、聞こえる音は鳥の声だけ。
 誰もいない。公園には誰一人として。
 ギーと、はやて以外には。

 朝の失態の結果、散歩という名目ではやてを連れて行くことになってしまった。元々ギーは一人で周囲を偵察するつもりだったがはやてもそれに付いていきたいと言い出したのだ。
 無論最初は拒否したが、連れて行かなければ勝手についていくと言って聞かず。一人で勝手に行動されるよりはマシと、ギーはしぶしぶはやての同行を許したのだった。

 車椅子に乗るはやては、常の日常と変わらずニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
 聖杯戦争のことなど知らぬ存ぜぬとでも言うかのように、そこには何の不安も高揚もありはしない。
 いっそ不自然なほどに。はやては顔を曇らせることはない。

「……はやて」
「んー? どうしたんギー?」
「……いや、なんでもない」

 声をかけようとして、やめる。
 戦争は既に始まっているのだと、突きつけることができなかった。いい加減に目を覚ませと、叱咤することができなかった。
 絶えられない現実から目を背けることへの非難など、ギーにする資格はない。
 インガノックでは、誰もが《復活》の日に起きた全てから目を背け生きてきた。それと、何の違いがあるというのか。

「んー、まだ人はおらへんなぁ。スタン君と会えるかもって思ったんやけど」

 見れば、はやてはきょろきょろと誰かを探しているようだった。だがあいにくと公園にはギーたちしかいない。

「スタン?」
「うん、とっても優しい人でなー」

 嬉しそうに話す内容を聞けば、車椅子が溝に嵌ったところを助けてくれた青年らしい。近くに住んでいるかは分からないが、こうして出歩いていればまた会えるのでないかと。はやてはそう語った。
 恐らくはNPCの誰かか。この街に多く存在する人形。それらは特定の思考パターンを植えつけられただけの存在だが、しかし一見しただけでは本物の人間と寸分違わないほどのものだ。
 しかし、どこまで行っても個我のない影法師でしかなく。いくら真に迫ってもそれは偽者に過ぎない。彼女の紡いだ友誼も、同様に。

「うーん、やっぱり住所でも聞いとったほうが良かったんやろか」
「……」

 はやての笑顔も、スタンという名の青年も、この都市さえも。全ては偽りだ。ここにはそれしかない。
 だからこそギーははやての送還を望むけれど。しかし今は、それができる手段もなければ当てもない。
 結局自分ひとりでは何もできないのかという無力感に苛まれるが、だからといってそれが諦める理由になりはしない。
 しかし、ふと思うのだ。
 虚構の都市、冬木。全てが嘘で塗り固められたようなこの都市で、果たしてはやてが救われるような、偽りではない真実はあるのだろうかと。

(……そんなものが無くとも、人は生きていける。溺れかけた魚が水面で息をするように)

 この都市の多くをギーは知らない。だがそれでも構わないと思う。はやてが救われさえするのならば。
 この少女を無事に外へ送り出せるのならば、自らがどうなっても構わないと。

「……はやて、そろそろ家に戻ろう」
「えー、まだ来たばっかやん! ほんませっかちやなぁ」

 ぶうぶうと文句を言うはやてを尻目に、ギーは車椅子の進路を帰路へと向ける。
 座る彼女はどうにもご立腹なようだが、既に聖杯戦争が始まっているのだから無闇な外出は控えたいところだ。
 こうしている間にも何時サーヴァントに襲われるか分かったものではない。はやてが危険に抗う術を持たない以上、最大限の安全策を取るのは当たり前だ。

 どこか可愛らしく暴れるはやてを抑えつつ、公園の出口に差し掛かった。
 その瞬間。


《こわいものが、来るよ》


 語りかける声が背後から聞こえて。
 はっとした時には全てが遅かった。

 正体不明の衝撃がギーを襲い。数瞬後、遅れて鳴り響いた炸裂音が、静かな公園を包み込んだ。

◇ ◇ ◇

(くっだらねー……)

 照りつける朝日に目を細めながら、学校へと続く道を歩く少女が一人。霧嶋董香は肩からバックを提げ、気だるげな歩調で道を行く。
 思うのは、戦いが始まったにも関わらず何も代わり映えのしない日常風景に対する悪態と、覚悟が決まらない自分への自嘲だ。
 午前0時、聖杯戦争の開始を知らせる不気味な声を、トーカは確かに聞き届けた。モラトリアムは終わりを告げ、既にこの街に安全な場所など存在しなくなったと、頭では分かっているつもりなのに。
 それでもなお、学校へ向かう自分は一体何なのだろうか、と。

 無論、極力怪しまれずに潜伏するというのはマスターが取るべき基本にして最大の戦術だ。だからこそ「学生」という与えられた役割に従って通学するのも、無為に見えてある程度は理に適った選択だと言える。
 しかしトーカが学校へと行く理由は、そんな合理的な考えから生み出されたものでは決してない。

(依子がいるから……だよな、多分)

 小坂依子。元の世界でのトーカの親友だ。偽りのこの世界においても、彼女は何故かトーカのクラスメイトとして学校に在籍していた。
 通う学校もクラスメイトの大半も見覚えがないほどに変わりきったこの世界で、唯一変わらない日常の象徴が彼女だった。モラトリアムの数日間、トーカの心が潰れなかったのはひとえに彼女の存在が大きい。
 元気で明るい依子はここでも変わりなくて。全部作り物だし記憶の違いから話を合わせるのが面倒な部分もあったけど、それでも大分救われたのは事実だ。

(でも、それも今日で終わりだ)

 聖杯戦争が始まった以上、状況は嫌でも動く。今はこうして悠長に潜伏という名の日常を選択できているが、場合によっては学校など行かずに戦わなければならない場面も多々あるだろう。
 普通に学生でいられる時間は、長くとも今日までだ。覚悟が決まらずとも戦いは始まる。それに対する気構えだけはしておかなくてはいけないだろう。

"マスター、ちょっといいかな"

 頭の中に直接声が響く。偵察に出ていたアーチャーの声だ。
 アーチャーにはこの数日間、単独での索敵を任せている。結果は芳しくなかったが、それでもアーチャーの忠実な働きが見れただけでもトーカにとっては収穫だった。
 アーチャー―――ヴェールヌイのことを、トーカは未だ信頼しきれていない。仲が悪いとか方針が食い違っているなんてことは決してないが、命を預ける以上それとこれとは話が別である。
 それでも、アーチャーがマスターに忠実であることは理解できた。表情こそ乏しいが意外と感情は豊かだし、信頼というものをとても大事にしているということも、分かる。
 だからこそ、トーカもアーチャーのことを心から信頼できるようになりたいと、そう思っていた。
 だがそれは胸の片隅で燻る感情に過ぎない。今はそんなことは表には出さず、平静を装いながらアーチャーの念話に応える。

"アーチャー? 何かあったの?"
"ああ。サーヴァントを見つけたよ。それと多分、そのマスターも"

 一瞬、心臓が跳ねたような感覚があった。とうとうサーヴァントを発見したのだという事実を前に嫌でも緊張していく。
 逸る気持ちを抑え、努めて冷静にアーチャーへと返答する。

"それで、そのサーヴァントとマスターの特徴は?"
"サーヴァントは白衣のような外套を纏った若い男。こうして見る限りだと戦闘能力は高くないようだ。マスターは幼い少女だね。車椅子に乗っている"

 思考が停止する。

 ―――子供が、マスター?

 歩む動きがピタリと止まる。全く予想していなかったことがいきなり飛び込んできて、まるで不意打ちでも食らったかのような錯覚すら感じる。
 ある意味で、最も恐れていた事態が真っ先に起きてしまった。もしもの話だと見てみぬ振りを続けてきた疑問。ヒナミのような子供がここに招かれていたらどうするのか、本当に殺せるのかという葛藤。
 視界がぼやける。体から力が抜ける。ふらふらと、近くの塀に肩を寄りかからせ、トーカは嘆息する。傍を通りがかった中年の男性が何事かとトーカのほうを見るも、気だるい女子高生が気まぐれにふざけているとでも解釈したのかそのまま去っていった。

"マスター、大丈夫か?"

 アーチャーの声が響く。抑揚こそ少ないが、こちらを慮っていることは伝わってくる。パスを通じて分かってしまうほどに動揺していたのか。
 思うように動かない体を無理やり立たせ、念話に応じる。悩んでる暇も余裕も自分にはないのだと、心に言い聞かせて。

"心配なんか必要ねえよ。それより、アンタそこから狙えるか?"
"サーヴァントとマスターを、かい? 可能だよ。何なら今すぐにでも仕掛けることもできるけど、マスターはどうしたい?"

 淡々と返ってくるアーチャーの言葉は、確かな自信に裏打ちされた力強いものだ。狙撃できるというのも嘘ではないだろう。
 ならば指示すべきことはひとつだ。

"仕掛けるに決まってんだろ。ただ……"
"ただ?"
"……マスターの女の子は、できるだけ傷つけないようにしてくれ"

 搾り出すように、そんなことをアーチャーに伝える。なんとも甘ったれた、偽善者のような言葉だ。言ってて自分でも吐き気がしてくる。
 「できるだけ」、それが今のトーカにできる最大限の譲歩だ。勝ち残るという決意と、幼い子供を殺したくないという気持ち。板ばさみになる心が出した、どっちつかずの答え。

 アーチャーは"了解"とだけ短く返すと、そのまま念話を打ち切った。狙撃の準備をするのだろう、念話をしたままなのは邪魔なはずだ。
 緊張の糸が途切れ、再度体から力が抜ける。しかし今度は寄りかかることもなく、そのまま学校を目指して足を動かした。
 自分が目指すべきは聖杯の獲得。ここで腑抜けるわけにはいかないのだと、気持ちを新たにして。

◇ ◇ ◇

"了解"

 短く伝えて、念話を断ち切る。マスターからの指示が出た以上、ここからは戦争の時間だ。
 今ヴェールヌイがいるのは山の中腹だ。そこに身を潜めつつ、眼下に存在する敵サーヴァントの姿を視界に収める。外見は外套を纏った痩身の男、公園内をマスターの少女が乗った車椅子を押しながら歩いている。これは勘でしかないが、男からは所謂戦いの気配というものが微塵も感じられない。恐らくクラスはキャスターかアサシンか、常道から離れた行動から少々信じがたいが、まず三騎士でないことは確かだろう。
 あのサーヴァントを発見できたのは実のところ偶然に近い。マスターの生活圏にほど近いこのエリアは今まで何度も偵察していたが、今朝に限ってあのサーヴァントが無防備に出歩いていたのだ。

 狙うべき敵を視界の中央に定めながら、ヴェールヌイは武装を展開する。
 『兵装・砲雷撃戦』。ヴェールヌイが持つ宝具の、その一端。か細い右腕に付属する形で長大な艦載砲が出現する。
 現れた兵装の名は12.7cm連装砲。50口径三年式12.7センチ砲を元にした、駆逐艦たるヴェールヌイの主砲だ。

「さて、やりますか」

 軽い調子で言うと、サーヴァントの男へと照準を合わせる。本来狙撃には適さない砲塔であっても、弓兵のクラスたる彼女の手にかかれば必中の魔砲と化す。
 彼我の相対距離は約800m。動く的ならともかく、この程度ならば狙いを外すことなどありえない。
 だけど。マスターの頼みを果たせるかどうかは分からないな、とヴェールヌイは考える。ヴェールヌイは弓兵のクラスではあれど実態は駆逐艦、狙撃や暗殺よりも大火力による殲滅が主な戦法だ。展開される武装とて、本来は対人など想定されていないものばかりである。
 端的に言ってしまえば、火力を絞った手加減など門外漢なのだ。ヴェールヌイの砲はサーヴァントのみを貫けど、その余波だけでも常人を傷つけるには十分すぎる。
 そんなことはマスターのトーカとて百も承知だろう。その上でもなお、甘さを捨て切れていないということか。

(……まあ、マスターのそんなところは嫌いじゃないよ)

 嫌いではない。その優しさは在りし日の姉妹の一人を思い出させる。故にこそ、殊更にあの無愛想なマスターのことを守り抜きたいと切に思うのだ。
 そのためならば―――眼前の敵を打ち倒すことに否やはない。

「―――Ура!」

 か細い体からは想像もつかないほどの大呼を上げ、同時に連装砲から砲弾を射出された。反動により腕が跳ね上がり、長い白髪が流れるようにたなびく。
 弾丸は音速を遥か超越し、男の頭部に吸い込まれるように直進する。既に、これを回避できる道理など何処にも存在しなかった。

◇ ◇ ◇

 乾いた音が響き渡る。
 放たれた砲弾は真っ直ぐに男のサーヴァントへと突き進み、そこに破壊と空気の爆ぜる音を巻き起こした。
 もたらされた衝撃により粉塵が舞い上がり、マスターの少女は車椅子から投げ出される。幸運にも、どうやら怪我はないようだ。
 終わったと、そう思った。誰もが、男の頭部を砲弾が粉砕したのだと。
 ヴェールヌイも、投げ出された少女でさえも。状況の把握に程度の差はあれど、誰もが男の身に致死の危険が到達したのだと理解した。

 疑う者はいない。この場には誰一人として。
 ギーと、鋼の"彼"以外には。

「……これは」

 だが、しかし。
 粉塵が晴れる、そこに、男は立っていた。
 その顔は砕けることなく、血の一滴も流すことなく存在した。砲弾は、男の身に何一つ破壊をもたらしていない。
 見れば砲弾は中空へと固定されていた。何もない空間に縛り付けられたように動きを静止させられている。
 いいや違う、目をこらせばそこに何かがあると分かった。人ではない、サーヴァントでもない。それは、男の背後から伸ばされていた。
 鋼の腕。半透明に出現したそれが、背後から伸びる腕が、砲弾を鷲掴みに捕まえていた。

「失敗、か。だけどあれは……」

 突然現れた鋼の腕が何なのか、ヴェールヌイには判断がつかない。その一瞬の遅れが、男に次の行動をさせる余地を与えることになる。
 いつの間にか男の右目には光り輝く幾何学模様が浮かんでいて。そのまま顔をこちらに向けた。
 目が、合った。男は確かに、遠く離れたヴェールヌイを視認した。察するにあれは強化魔術か、視力を強化してこちらを見ている。位置は完全にばれたと見て間違いない。

(まずいな、これは)

 あのサーヴァントの背後から現れた腕、未だ全貌は露わになっていないが、それでも規格外の力を内包していることがここからでも分かる。
 召喚型の宝具か、それとも何かしらの魔術か。正体は掴めないが、自分が次に取るべき方法は分かりきっている。

(今すぐここから撤退を……!)

 すなわち、即時離脱。相手がこちらの位置に気付いている以上、一箇所に留まるのは愚策でしかない。そもそもアーチャーの本分はアウトレンジからの一方的な射撃であり近接戦闘に不向きな以上、サーヴァントに接敵されることは死に直結する。
 こちらは機動力に優れているわけではないが、幸いにしてここは山中。地の利を活かせばいくらでも逃げ道はあるはずだ。瞬時に思考を纏めたヴェールヌイは踵を返し、木々の死角に飛び込もうとした。

 しかし。

「え……?」

 思わず声がついて出る。ヴェールヌイの視線の先では、鋼の腕を現出させたサーヴァントがマスターの少女を抱きかかえ、そのまま反対方向へ跳躍していた。
 反射的に再度砲口を向けるも、一息の間もなく、彼らの姿は建物の影へと消えていった。
 完全に、姿を見失ってしまった。

"……アーチャー、どうなったんだ?"

 呆と立ち呆けるヴェールヌイにトーカから念話が入る。
 いかんいかんと頭を切り替えると、ヴェールヌイは簡潔に状況を伝える。

"すまないマスター、相手には逃げられたよ。敵の戦力を過小評価した私のミスだ"
"……そっか。まあ気にすんな"

 ぶっきら棒に返されるその言葉からは、額面通りヴェールヌイを気遣っていることが伝わってくる。同時に、傍から聞いても分かるほどの安堵の念も。
 年端も無い少女を傷つけることがなかったからという無意識がそうさせていると気付いていないのは、当のトーカだけだ。

(やっぱり、マスターは優しいな)

 無自覚に胸を撫で下ろしているトーカの声を聞き、思う。
 その優しさは誇るべき長所だ。偽善と言われようと温いと言われようと決して恥じるべきものではないし、そんなマスターだからこそヴェールヌイも力を貸そうと思えたのだから。
 だが、しかし。

(それでも優しさは、甘さは、戦場では命取りになる。マスター、貴方は……)

 情に流されて勝ち残れるほど戦場は甘くは無い。このままでは、この優しい少女はいつか必ず大切な何かを失う羽目になる。
 だからこそ。剣を取るか、道を閉ざすか、遠くない未来において少女は決断を迫られるだろう。
 願いと心のどちらも手に入れられるほど、この世界は優しくないのだから。

【C-4/通学路/一日目 午前】

【霧嶋董香@東京喰種】
[状態]健康、魔力消費(極小)
[令呪]残り三画
[装備]なし。
[道具]鞄(ノートや筆記用具など学校で必要なもの)
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り聖杯を手に入れる。しかし迷いもある。
1.学校に行く。
2.少女(八神はやて)を傷つけなかったことに対する無自覚の安堵。
[備考]
  • 詳しい食糧事情は不明ですが、少なくとも今すぐ倒れるということはありません。詳細は後続の書き手に任せます。

【D-4/山の中腹/1日目 午前】

【アーチャー(ヴェールヌイ)@艦隊これくしょん】
[状態]健康
[装備]12.7cm連装砲
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターと共に戦う。
1.ひとまずマスターの元まで戻る。
2.マスターの心情に対し若干の不安。
[備考]
  • マスターの少女(八神はやて)とサーヴァントの男(キャスター・ギー)を確認しました。






◇ ◇ ◇

 先の公園からそれなりに離れた、エリアにして【C-5】に当たる住宅街。
 都市部の喧騒とは無縁なその場所の、更に奥まった人気の無い路地に、二つの人影が落ちてきた。

 痩せた男と、それに抱きかかえられた少女。共に鋼の腕に掴まれて、常人の目には留まらないほどの速度で地面に降り立つ。
 ギーと、その主たる八神はやてだ。一本だけ存在する鋼の腕は、ギーの宝具たる『赫炎切り裂く無垢なる声』の限定顕現。"彼"が警告してくれなければ間に合わなかった。
 役目を終えた鋼の右腕が霧散する。右腕が消えると同時、その手に握られていたものが地面に落ち、硬質の重たい音が周囲に反響する。
 人の掌にも余るほどのそれは、少し転がったかと思うと魔力を散らして宙へ溶けていった。かのサーヴァントが放った巨大な弾丸、いや砲弾か。単なる幻想生物が相手なら一度に10は屠れるだろう暴威を持つ致死の砲弾。まともに食らえば、サーヴァントたるこの身であっても生きていられたかどうか。
 それほどの暴威を以てしてもなお、この砲弾が白髪の少女の本気であるとは到底思えなかった。恐らくは、これが牽制代わりの一発でしかないということは容易に想像がつく。

(武器から推測するに恐らく彼女はアーチャーか。単独行動と狙撃に優れた、アサシンに次いでマスターの暗殺に適したクラス……厄介だな)

 腕の中で震えるはやてを宥めながら、ギーは考える。高い索敵能力を持つアーチャーのクラスのサーヴァントに捕捉された今、無闇に街に出るのは見つけてくれと言っているようなものだ。更に聖杯戦争においてはマスター殺しに特化したアサシンも複数存在することが予測される以上、尚更外出するのは悪手と言える。
 やはり、はやてを外に出すべきではなかったのだ。

「大丈夫、もう心配は要らない」

 そう声をかける。腕の中の少女は未だに恐怖に震えているが、今は悠長にここに留まるべきではないことは重々承知している。
 はやてを抱きかかえると、そのまま路地へ走り出す。先の公園を背に、できるだけ遮蔽物に隠れるように。

(サーヴァントの襲撃……分かってはいたがもう聖杯戦争は始まっている。これ以上の甘えは許されないか)

 そして当然のことながら、多くの主従は聖杯の獲得を目指して行動するのだろう。ギーのように、この世界からの脱出を望む主従など他にいるかどうか。
 信じられないとまでは言わないが、それでも全てのマスターとサーヴァントは殺し殺され合う間柄なのは確かだ。問答無用でこちらを殺しにかかってくる者も当然いるだろう。

 故に考える。世界からの脱出が叶わず、周りを敵に覆い囲まれたその時は。

(はやてを優勝させる……それも考えなければならないかもしれないな)

 その選択肢も、頭の片隅に入れておく必要があるだろう。
 そのためには、全てのマスターを……

(いいや、マスターは殺さない。僕と同じサーヴァントだけを排除する)

 ギーは決して人を殺さない。法も人倫も意味をなさない異形都市インガノックにおいて、ギーはただそれだけは破るまいと誓っている。
 だがサーヴァントは―――自分も含め、既に死んでいる者ばかりだ。死人は、正しく人ではない。
 死者を殺したところで元の死体に戻るだけだ。何の矛盾も、問題もない。
 何の、問題も、ない。

 ―――サーヴァントだけを排して。それで何になるのか。
 ―――違う、違うともギーよ。それは逃避というものだ。それでは何処にも辿り着けない。
 ―――勝ち残れるのは一組だけだ。生き残れるマスターは一人だけなのだ。

 何かが囁くような声を聞いた気がした。道化師ではない。それは地の底から呻くような声。
 例えて言えば。異形の鐘が空に鳴り響くような、声。
 微かに耳に残る幻聴を振り払い、ギーは路地を駆ける。朝の人が混み合う時間帯だというのに、不思議とそこには誰の姿もなかった。



 二人は気付かない。自分達がどれほどに危うい立場に在るのかを。
 深い霧の中をもがくように。悪い夢の中で悶えるように。彼らは何も掴めない。
 互いが互いに知らぬ振りをして、互いが互いに理想を押し付けて。都市の真実になど目をくれることはない。

 結局のところ彼らは自分に都合のいいものしか見えていない。ただの哀れな、盲目の生贄でしかないのだ。

【C-5/人気の無い路地/1日目 午前】

【八神はやて@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]軽度の恐慌状態、魔力消費(小)、下半身不随(元から)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[金銭状況]一人暮らしができる程度。
[思考・状況]
基本行動方針:日常を過ごす。
1.戦いや死に対する恐怖。
[備考]
  • 戦闘が起こったのはD-5の小さな公園です。車椅子はそこに置き去りにされました。

【キャスター(ギー)@赫炎のインガノック-what a beautiful people-】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:はやてを無事に元の世界へと帰す。
1.はやてを安全な場所まで連れて行く。
2.白髪の少女(ヴェールヌイ)を警戒。
3.脱出が不可能な場合ははやてを優勝させることも考える(今は保留の状態)。
[備考]
  • 白髪の少女(ヴェールヌイ)を確認しました。

BACK NEXT
005:穿たれた夢-シンデレラは笑えない- 投下順 007:鬨の声を放て
004:探し物は見つかりましたか? 時系列順 007:鬨の声を放て

BACK 登場キャラ NEXT
000:黄金のホーリーグレイル-what a beautiful phantasm- 八神はやて 019:盤面上の選択者達
キャスター(ギー)
霧嶋董香 014:再会:re
アーチャー(ヴェールヌイ)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー