夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

灰色の夢

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「タイガー。私、明日は学校行かないから」

あてがわれた自宅の自部屋で、北条加蓮はかたかたとノートパソコンをタイプしながら何の気なしに言葉を投げつけた。
画面には彼女が常駐しているチャットが映っている。
イマドキの若者らしく、ネットにもそれなりに適応している加蓮だが、これがまたなかなかに楽しい。
この行為が聖杯戦争と全く関係ないにしても、心の安定にはなる。

「……学生は学校に行くべきだぜ?」
「行った所で意味なんかないと思うけど。どうせ、抜けだしたら出席も関係なくなるんだし」

数時間前。彼女の耳にも聖杯戦争の開始を告げる通達は届いていた。
これより七日間、この街は戦争の舞台となる。
だが、加蓮からすると傍迷惑以外の何物でもない。
現状の所は他者を害することなくこの世界から抜け出せればいい。
願いもなく闘いを望むバトルジャンキーでもないのだ。

「少なくとも、学校に必ず行く必要性はないよ」

今まではモラトリアム期間であったことに加え、サーヴァントであるタイガーの意向があったので学校に通っていた。
こんな時にまで通わなくていいのに。
そんな愚痴をタイガーは飄々と受け流していたが、彼女の目から感じられる静かな決意は今まで通り受け流せそうにない。
のらりくらりと彼女の提言を躱してきたが、もう現界のようだ。

「それならさ。街でも出歩いて他の参加者を捜す方がいいじゃん」
「もしかしたら、参加者だって学校にいるかもしれないだろ?」
「……仮にいたとしても。戦闘になったら巻き込んじゃうし、何よりも学校で戦闘って目立ち過ぎっていうかさ」

ただダルいからという理由付けではなく、しっかりとした理論まで付随させてくる。
正直、タイガーとしてはマスターである加蓮には大人しく学校に行ってもらいたい。
その間、自身は街を見回って未だ邂逅せぬ参加者達と交渉をするなり、戦闘をするなりしていくつもりだった。
全部、自分が成し遂げる。聖杯戦争なんて血生臭い闘いは、彼女には似合わない。
そう、思っていた。


「タイガーの言ってることは正しいけど。それとは別に、私のことを学校に追いやることで、戦いから遠ざけようとしてるんでしょ」

だが、事態はそう安々と進まないようだ。
まさか、ここまでバレているとは。どうやら、眼前の少女は想定よりも聡明だったらしい。
娘と同じように接してきたが、やはり年代が違うとこうも食い違ってしまうのか。

「あのさ、そういう気遣い……いらないから」
「けどよぉ。やっぱり、マスターは戦いに出るべきじゃねぇって。何かあったら俺も嫌だしよ。
 そういう危ないことは俺が全部引き受けるからさ」
「そうやって、逃げてばかりじゃ何も始まらないじゃん。
 第一、タイガー一人に任せるとか私としては不安なんだけど」
「信用、してくれねぇのか?」
「……出会って数日しか経ってないんだよ? 心の底から信じれると思う?
 命の危機を助けたならともかく、私達はただ出会って話して意見を擦り合わせただけだし」

そっぽを向く加蓮の表情は猜疑的で、信頼の情が込められていない。
それは加蓮からしたら当然のことだった。
タイガーは護るだの助けるだの綺麗な言葉を並べ連ねているが、彼女からすると実際に護ってくれるかどうかすら定かではないのだ。
自分を置いて逃げるかもしれない、はたまた自分よりも適正のあるマスターがいたら裏切るかもしれない。
ヒーロー。彼のクラスからしてそんなことはありえない。
数日間、行動を共にして彼が不誠実なサーヴァントではないと加蓮もよく知っている。
けれど、そうであったとしても、確信は得られなかった。
所詮は他人だ。
他人の気持ちなど本当の所は、知ることなどできやしない。
そう、命の危機にでも晒されない限り、人間の本質は浮かび上がらないだろう。

――いっその事、死線に晒してしまおうか、この生命。

なんて、戯言。とてもじゃないが、タイガーには言えなかった。
死にたくはない。諦めたくはない。
自分の中で渦巻く葛藤の中で正しいのはどの選択肢だろうか。
きっと、それはタイガーにもわからない――北条加蓮が本当にしたいことだ。
もしもの話、聖杯を手に入れたら、諦めたはずの夢も取り戻せるのだろうか。


(その為には、タイガーを……)

末尾の言葉は、心中であっても言えなかった。
否、言えるものか。
それを想起してしまえば、もう戻れなくなる。
彼を切り捨てて、他のサーヴァントと契約するなんて世迷い事は、考えるな。
そもそも、優れたマスターとは言えない自分にサーヴァントが寄ってくるとは思えない。
現実的なプランじゃないのだ。

(馬鹿みたい。できもしないことを、考えるなんて)

可能性に蓋をしろ。その箱はパンドラの箱だ。
開けてしまえば、彼の夢を汚すことになる。

(タイガーは私を護ってくれている、それでいいじゃない。ヒーローは、正義の味方は……見捨てることができないから)

光り輝く彼の姿は、太陽のような存在で。
真っ直ぐに立ち、人々を救い続けた正義の味方は、どこまでも尊い。
きっと、その『夢』は皆が望んだものだから。
大団円のハッピーエンドの一端を担えるなら、それで満足だ。
生きて、帰るのだ。こんな偽りの街で死ぬことは、何の意味も成さない。

(うん、考えちゃ、駄目なんだ)

――――バッドエンドが待っている日常へと戻った所で、何の意味もないのに。

けれど、加蓮の頭は、やり直しという甘美なる願いをどうしても捨てきれない。

(…………また、諦めるの? あの時と同じように)

あの灰色に汚れた日常に帰って生きることに、加蓮は耐えられるのだろうか。
舞い込んできた希望を捨てて、陳腐な終わり方に、満足できるだろうか。
その問いに加蓮は答えられなかった。
夢もない、笑みもない、真っ直ぐに立てない。
そんな現実に戻ることの意味を考えてしまったら、北条加蓮は思考の海へと沈むしかなかった。










薄荷『今日は太郎さんだけしか来ませんね』

田中太郎『そうみたいですね、皆さん忙しいんでしょうか』

薄荷『あはは。まあ、気が向いた時に適当に駄弁る場所だし』

田中太郎『それもそうですね。けれど、二人で駄弁るというのも寂しいですね』

薄荷『まあ、これはこれでのんびり話ができていいんじゃない?』

田中太郎『のんびりと言っても、もう深夜ですけど』

薄荷『ちょっとの夜更かしぐらいは平気平気』

田中太郎『いやいや、寝た方がいいですって。自分、もう寝ますし』

薄荷『えー……』

田中太郎『えー……』

田中太郎『薄荷さんも寝た方がいいですって』

薄荷『まあもう少ししたら寝るし』

薄荷『健康第一』

田中太郎『こんな深夜にチャットをしてる時点で健康も何も』

薄荷『……まあ、今日ぐらいは早く寝てもいいかもだけど』

田中太郎『そうですよ。日々の生活をしっかりしないと』

薄荷『それよりも、今日は本当に誰もいないね』

薄荷『いつもいる【ちゃんみお】さんがいないのはちょっと寂しかったり?』

田中太郎『何かあったんでしょうかね』

薄荷『変な事件に巻き込まれていたりして』

田中太郎『まさか。こんな平和な街なのに』

田中太郎『では眠くなってきたんで、落ちます』

田中太郎さんが退室しました







とある安アパートの一室。
竜ヶ峰帝人はチャットを終え、そっとパソコンを閉じた。
本当の所はもっと続けても良かったが、これ以上続けると学校に支障をきたす。
偽りの街とはいえ、帝人は記憶を取り戻してからも学校に通うことをやめなかった。
それは染み付いた生活習慣も一因だが、もっと大事な理由がある。

「正臣、園原さん」

この偽りの街には二人がいた。
帝人が最も幸せだと感じていた時間が再現されていた。
高校二年だった現実世界とは違い、ここでは高校一年生として設定された帝人は最初は呆然としたものだ。
隣のクラスにいる彼らはまるで――現実世界の自分と杏里のようで。
そして、自分は一人消えていった正臣のようで。
これらも聖杯が指し示した理想の空間とでも言いたいのだろうか。

「…………っ」

ふざけるな、と叫び散らしたかった。
どれだけ似せても、どれだけ環境を整えても、此処では全てが偽りだ。
彼らと交わす言葉も、一緒に帰り道を共にすることも、自分に笑いかけるその笑顔も。
七日間だけ再生される虚像でしかないのだから。
故に、彼らに対して何を思おうが思わまいが関係ない。
ただ、今は生き残ることだけを考えればいい。

「割り切れる訳、ないだろ! 例え偽物でも、大切な友達なんだ」

此処にいる彼らが死んでも、現実の彼らには何も被害は及ばない。
聖杯戦争を繰り広げるにあたって、何の気遣いもいらないのだ。
それがわかっているはずなのに、帝人は彼らのことを人形とは思えなかった。
確かに生きて、笑って、自分を友人と見てくれる彼らは――紀田正臣であり、園原杏里だ。

「しかし、割り切らなければ死ぬのはマスターなんだがな」

そんな帝人を冷ややかな目で見るのは薄汚れた畳の上で寛ぐクレアだった。
彼のサーヴァントとして呼ばれ、勝利を約束した男は、今はのんきにお茶を飲んでいる。
その様はサーヴァントとは思えないぐらいに気楽な姿であり、正直不安だ。


「此処にいる人間は本物ではない。贋作に情を抱くぐらいなら、先行きをしっかりと整備しておくべきだ。
 仮に死んでも、マスターが住まう場所の本物は消えはしないのだから」
「けれど!」
「七日間だけの生命とこれから先も続く生命。同じ生命ではあるが、天秤の重さは偏っている。
 愚者は選べないまま死ぬが、賢者はしっかりと選んで生き残る。さぁ、マスターはどっちだ?」

ペラペラと喋るクレアにとって、人を殺すことなど造作にもない些末事なのだろう。
ごく当たり前の感性である帝人からすると考えもしないことを、彼は平然とやってのける。
マスターとサーヴァント。隔絶した感性を持っているとは思っていたが、ここまで違っているとは。

「僕は戦わなくちゃいけないんですか」
「言ったはずだ。選ばなければ死ぬだけだと。無論のこと、俺はマスターを護り抜く自信がある。
 だが、不測の事態はある。それこそ、マスターが戦うとかな。そのような事態を想定しないのは、さすがに楽観が過ぎるだろ?
 少なくとも、覚悟を決めているだけで三下よりは好ましい」

きっと、覚悟を決める時が来る。
竜ヶ峰帝人の曖昧になった境界線がはっきりと引かれる分岐点は、すぐそこに。
殺したくないと言っておきながら、心の奥底で沸き立つ歓喜の声は――聞こえないふりをした。



【C-5/北条加蓮の家・加蓮の部屋/一日目 深夜】

【北条加蓮@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:偽りの街からの脱出。
1.学校に行かない。街をぶらついてマスターを捜す。
2.タイガーの真っ直ぐな姿が眩しい。
3.また、諦めるの?
[備考]
とあるサイトのチャットルームで竜ヶ峰帝人と知り合っていますが、名前、顔は知りません。
他の参加者で開示されているのは現状【ちゃんみお】だけです。他にもいるかもしれません。
チャットのHNは『薄荷』。

【ヒーロー(鏑木・T・虎徹)@劇場版TIGER&BUNNY -The Rising-】
[状態]健康
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの安全が第一。
1.加蓮を護る。
2.何とか信頼を勝ち取りたいが……。
[備考]



【B-8/竜ヶ峰帝人のアパート/一日目 深夜】

【竜ヶ峰帝人@デュラララ!!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[金銭状況]割と貧困
[思考・状況]
基本行動方針:不透明。聖杯は欲しいが、人を殺す覚悟はない。
1.わからない。今はただ日常を過ごす他ない。
[備考]
とあるサイトのチャットルームで竜ヶ峰帝人と知り合っていますが、名前、顔は知りません。
他の参加者で開示されているのは現状【ちゃんみお】だけです。他にもいるかもしれません。
チャットのHNは『田中太郎』。

【アサシン(クレア・スタンフィールド)@バッカーノ!】
[状態]健康
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は俺が奪う。
1.とりあえず、マスターは護る。
2.他参加者、サーヴァントは殺せる隙があるなら、遠慮なく殺す。
[備考]

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アサシン(クレア・スタンフィールド)

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