(大丈夫かなぁ……)
朝の光が窓から差し込み、机の上を明るく照らす。
学ぶならじめじめとした天気よりもカラッと晴れている方がいい。
そう考えると、今日は天気絶好の授業日よりである。
しかし、南条光の表情は優れず、机に項垂れている。
それは朝の登校から、昼休みの今に至るまで変わらずにいた。
彼女の頭の中にある懸念は昨夜会った少女のことだ。
這いずり回りながらも、逃げようと藻掻き、生き抜いた少女。
光が気絶から目を覚ました後も、彼女は一向に目覚めなかった。
学ぶならじめじめとした天気よりもカラッと晴れている方がいい。
そう考えると、今日は天気絶好の授業日よりである。
しかし、南条光の表情は優れず、机に項垂れている。
それは朝の登校から、昼休みの今に至るまで変わらずにいた。
彼女の頭の中にある懸念は昨夜会った少女のことだ。
這いずり回りながらも、逃げようと藻掻き、生き抜いた少女。
光が気絶から目を覚ました後も、彼女は一向に目覚めなかった。
(負った傷もそうだが、あの少女――今に至るまで碌に寝ていなかったのだろう。
上手く化粧で隠していたが、色濃い隈がある。
眠れず街を駆け回って、戦って、そして精神的にも肉体的にも限界を迎えたのだから、無理はない。
今日一日近くは目を覚まさないとみていいだろう)
上手く化粧で隠していたが、色濃い隈がある。
眠れず街を駆け回って、戦って、そして精神的にも肉体的にも限界を迎えたのだから、無理はない。
今日一日近くは目を覚まさないとみていいだろう)
連れ帰った少女は、光が朝登校する時も、未だベッドの上で寝息をたてており、しばらくは起きない様子であった。
できることなら、自分達が遭遇した主従以外のことなど、聖杯戦争について色々と聞きたかったのだが、仕方がない。
できることなら、自分達が遭遇した主従以外のことなど、聖杯戦争について色々と聞きたかったのだが、仕方がない。
(そっか……。帰ったら目を覚ましてるといいな。今晩は三人で美味しいご飯を食べよう!
元気の源は食事から、だし!)
(ああ。蓄えは潤沢にある。出し惜しみは無用だ)
元気の源は食事から、だし!)
(ああ。蓄えは潤沢にある。出し惜しみは無用だ)
まだ自己紹介も情報の交換も願いの有無もしていない、知らない少女を勝手に家に上げても良かったのか。
そういった不安は微塵も光は感じなかった。少なくとも、彼女はあの死神のように汚い真似は絶対にしないはずだ。
少なくとも、朦朧とした意識で『ありがとう』と声を振り絞った少女の真摯な想いに嘘はない。
だから、光は彼女のことを信じるに足ると判断し、家へと連れ込み、念入りに手当をすることにも何の異存もなかった。
そういった不安は微塵も光は感じなかった。少なくとも、彼女はあの死神のように汚い真似は絶対にしないはずだ。
少なくとも、朦朧とした意識で『ありがとう』と声を振り絞った少女の真摯な想いに嘘はない。
だから、光は彼女のことを信じるに足ると判断し、家へと連れ込み、念入りに手当をすることにも何の異存もなかった。
(それよりも、マスターは平気か? 体調面を顧みて、学校も休んでよかったはずだ)
(いいや、ちゃんと出とかないと。此処にはミサカ達がいる。
もしも、アタシのいない時、学校が襲われて、皆が死んだら……アタシは一生後悔する。
それだけは嫌だ、後悔が残る生き方は絶対にしたくないから)
(そうか。そう言うなら、従おう。されど、無茶はすれど無理は禁物だ。
お前は一人ではない、私がいる。そのことを努々忘れるな)
(いいや、ちゃんと出とかないと。此処にはミサカ達がいる。
もしも、アタシのいない時、学校が襲われて、皆が死んだら……アタシは一生後悔する。
それだけは嫌だ、後悔が残る生き方は絶対にしたくないから)
(そうか。そう言うなら、従おう。されど、無茶はすれど無理は禁物だ。
お前は一人ではない、私がいる。そのことを努々忘れるな)
もしもの話を考え出すときりがないが、この学校は聖杯戦争の参加者からすると襲うのにうってつけだ。
現に、前日も校庭への狙撃をはじめとした戦闘の兆候を示すものが何件もあった。
もうその侵食は光の身近にまで迫っているのだ。
現に、前日も校庭への狙撃をはじめとした戦闘の兆候を示すものが何件もあった。
もうその侵食は光の身近にまで迫っているのだ。
(ネギ先生……あの人は、マスターだったのか?)
(今となってはわからずじまいだが、その可能性はある。
考えても詮無きことではあるがな、生きていたら再び相見えるだろう)
(今となってはわからずじまいだが、その可能性はある。
考えても詮無きことではあるがな、生きていたら再び相見えるだろう)
そして、ネギ・スプリングフィールドの行方不明がそれを物語っている。
何も怒らないまま、日常が過ぎていくならどれだけよかったことか。
誰も知らぬまま、戦争はこれからも続いてく。
その度に人は死に、誰かの願いは潰えて果てるのだ。
止めなくては。当初に抱いた決意を再度固めて、光はごしごしと目を擦り、立ち上がる。
隣の席でいそいそとお弁当の準備をしているミサカの怪訝な死線も無視して、教室の外へと歩を進める。
何も怒らないまま、日常が過ぎていくならどれだけよかったことか。
誰も知らぬまま、戦争はこれからも続いてく。
その度に人は死に、誰かの願いは潰えて果てるのだ。
止めなくては。当初に抱いた決意を再度固めて、光はごしごしと目を擦り、立ち上がる。
隣の席でいそいそとお弁当の準備をしているミサカの怪訝な死線も無視して、教室の外へと歩を進める。
「お昼は取らないのですか、とミサカは問いかけます」
「いんや。ちょっとリフレッシュに屋上で太陽を浴びてくる。
とはいっても、すぐ戻るから!」
「相変わらず元気だねぇ。うんうん、その元気を分けてもらいたいよ」
「紗南は徹夜でゲームをしているからであり、やめたら元気になりますよ、とミサカは改善策を打ち出します」
「いやいやいやそんなことはできないし、やらないよぉっ!」
「いんや。ちょっとリフレッシュに屋上で太陽を浴びてくる。
とはいっても、すぐ戻るから!」
「相変わらず元気だねぇ。うんうん、その元気を分けてもらいたいよ」
「紗南は徹夜でゲームをしているからであり、やめたら元気になりますよ、とミサカは改善策を打ち出します」
「いやいやいやそんなことはできないし、やらないよぉっ!」
肩をこきこきと鳴らしながら、光は廊下に出て屋上へと続く階段を登っていく。
こういう時こそ、日光を浴びて思考を切り替えるべきだ。
自分は物事を難しく考えることが得意ではない。
頭で考えるよりも、先に行動してしまうタイプだということも自覚している。
だから、とりあえず動く。内に秘めたもやもやも発散して、次に活かす。
アイドルとして活動していた時から、自分はずっとそうだった。
ヒーローになりたい。誰かの笑顔を護れる強さを誇りたい。
そんな想いを燃料にして走り続けてきた。
この聖杯戦争内でも、その誓いは変わらない。
こういう時こそ、日光を浴びて思考を切り替えるべきだ。
自分は物事を難しく考えることが得意ではない。
頭で考えるよりも、先に行動してしまうタイプだということも自覚している。
だから、とりあえず動く。内に秘めたもやもやも発散して、次に活かす。
アイドルとして活動していた時から、自分はずっとそうだった。
ヒーローになりたい。誰かの笑顔を護れる強さを誇りたい。
そんな想いを燃料にして走り続けてきた。
この聖杯戦争内でも、その誓いは変わらない。
(まだ、頑張れる! まだ、大丈夫!)
聖杯戦争の参加者である自分達はサーヴァントがいるから護りはある。
突然の危険に対して、対処することができるが、他の人達は違う。
予兆もなく襲い掛かってくる危難から逃れる術は、一般人にはない。
自分達の巻き起こす戦争の余波は何も知らない一般人が全て被るのだ。
だから、自分だけではなく、彼らも含めて護ろうと光は決意した。
突然の危険に対して、対処することができるが、他の人達は違う。
予兆もなく襲い掛かってくる危難から逃れる術は、一般人にはない。
自分達の巻き起こす戦争の余波は何も知らない一般人が全て被るのだ。
だから、自分だけではなく、彼らも含めて護ろうと光は決意した。
(例え、一週間で消える人達であっても、今を生きているんだ)
ヒーローを目指しているからこそ。
人として、絶対に越えてはいけない境界線だからこそ。
南条光は聖杯戦争を認めない。
血を流し、涙を落とすのは、もうたくさんだ。
犠牲を強いるこの戦いを、正義の味方は真っ向から否定しなくてはならない。
人として、絶対に越えてはいけない境界線だからこそ。
南条光は聖杯戦争を認めない。
血を流し、涙を落とすのは、もうたくさんだ。
犠牲を強いるこの戦いを、正義の味方は真っ向から否定しなくてはならない。
(偽者であっても、最終的には死ぬ命であっても、尊ばれるべきなんだ)
どうか、この世界が幸福のまま終わりますように。
必ず来る別れであっても、その結末が変わらないとしても。
生まれた絆は絶対に裏切らない。
交わした言葉はきっと、この胸の中にいつまでも残っている。
建て付けの悪い扉を潜り抜け、屋上から見上げる空は現実と何一つ齟齬がない。
青色と白が混ざり合ったあの空は偽物であれど、本物だ。
そして、肌で感じるじっとりとした暑さも、そうだ。
屋上には、もう真夏と変わらないくらいの熱があった。
今日は湿度が少し高い。梅雨が完全に抜け落ちていないのもあるのだろう、大気が水分を蓄えているのかもしれない。
夏はゆっくりと、確実に進行している。後、数日もたてば、屋上の世界は、完全な夏に組み込まれるだろう。
しかし、それはタイムリミットのない世界での話だ。
一週間という機嫌を過ぎると、この夏も終わってしまう。
肌に感じるそよ風の心地よさも、照りつける太陽光も、全部がなかったことになるのだ。
偽物として、たったの一組以外は処理される。
必ず来る別れであっても、その結末が変わらないとしても。
生まれた絆は絶対に裏切らない。
交わした言葉はきっと、この胸の中にいつまでも残っている。
建て付けの悪い扉を潜り抜け、屋上から見上げる空は現実と何一つ齟齬がない。
青色と白が混ざり合ったあの空は偽物であれど、本物だ。
そして、肌で感じるじっとりとした暑さも、そうだ。
屋上には、もう真夏と変わらないくらいの熱があった。
今日は湿度が少し高い。梅雨が完全に抜け落ちていないのもあるのだろう、大気が水分を蓄えているのかもしれない。
夏はゆっくりと、確実に進行している。後、数日もたてば、屋上の世界は、完全な夏に組み込まれるだろう。
しかし、それはタイムリミットのない世界での話だ。
一週間という機嫌を過ぎると、この夏も終わってしまう。
肌に感じるそよ風の心地よさも、照りつける太陽光も、全部がなかったことになるのだ。
偽物として、たったの一組以外は処理される。
――ミサカ達が偽者だとしても、友達だから。
この世界でできた大切な友達。
この聖杯戦争に巻き込まれなければ、きっと出会うこともなかった少女達と友達になれたことを、光は嬉しく思う。
何もかもが偽りで無駄だった、なんて言わせるものか。
この聖杯戦争に巻き込まれなければ、きっと出会うこともなかった少女達と友達になれたことを、光は嬉しく思う。
何もかもが偽りで無駄だった、なんて言わせるものか。
(アタシだけは絶対に、否定しない)
正義の味方としてではなく、南条光として。
この世界に住まう人々を肯定しようと決めたのだから。
この世界に住まう人々を肯定しようと決めたのだから。
「よしっ、やってやるぞぉぉぉぉ!!」
その為に、自分は此処にいる。
力を貸してくれるサーヴァント――ニコラ・テスラも手を伸ばしてくれている。
光は一人ではない。だから、まだ走れるし頑張れる。
内に灯る輝きは色褪せることなく、今も煌々としている。
ひとまずは、自分の目的を再確認できた。最初から変わっちゃいない。
正義の味方として、行動する。誰かの犠牲を強いる聖杯なんて破壊する。
力を貸してくれるサーヴァント――ニコラ・テスラも手を伸ばしてくれている。
光は一人ではない。だから、まだ走れるし頑張れる。
内に灯る輝きは色褪せることなく、今も煌々としている。
ひとまずは、自分の目的を再確認できた。最初から変わっちゃいない。
正義の味方として、行動する。誰かの犠牲を強いる聖杯なんて破壊する。
「っせーな、暑苦しい声出してんじゃねーよ。寝ていたのに、目が冴えちまった」
心にある靄も振り払った所で、さて戻るかといった時。
後ろから甲高い声が聞こえ、思わず後ろを向くと、苛立たしげな少女が此方を覗いていた。
ちょうど光の視界に入らない所――影がかかっている場所で昼寝でもしていたのだろうか、その表情は優れたものではなかった。
目を細め、顔を顰めつつも、少女はゆっくりと立ち上がり、じろりと視線を向ける。
後ろから甲高い声が聞こえ、思わず後ろを向くと、苛立たしげな少女が此方を覗いていた。
ちょうど光の視界に入らない所――影がかかっている場所で昼寝でもしていたのだろうか、その表情は優れたものではなかった。
目を細め、顔を顰めつつも、少女はゆっくりと立ち上がり、じろりと視線を向ける。
「はっ、誰かと思ったら南条か。いきなり屋上で選手宣誓たぁ、今日も元気に正義の味方ってやつか?」
「えーと……」
「長谷川千雨だよ。お前のクラスメイトだ…………って言っても、話したこともねぇ奴なんざすぐ出てくる訳ねーか」
「えーと……」
「長谷川千雨だよ。お前のクラスメイトだ…………って言っても、話したこともねぇ奴なんざすぐ出てくる訳ねーか」
長谷川千雨。
和気藹々、どいつもこいつもヒャッハーな精神を持っている中で、唯一といっていいぐらい特徴のない生徒だ。
個性的なクラスメイトが多い中、彼女はただその光景をいつも腹立たしく見ている。
いつも仏頂面でこの世の中全てが下らないと言わんばかりに、表情を顰めているのが印象に残る。
そもそも、ここ最近は学校にも登校していなかったので、あくまで薄っすらとしたものだけど。
和気藹々、どいつもこいつもヒャッハーな精神を持っている中で、唯一といっていいぐらい特徴のない生徒だ。
個性的なクラスメイトが多い中、彼女はただその光景をいつも腹立たしく見ている。
いつも仏頂面でこの世の中全てが下らないと言わんばかりに、表情を顰めているのが印象に残る。
そもそも、ここ最近は学校にも登校していなかったので、あくまで薄っすらとしたものだけど。
「ご、ごめん」
「謝る必要はねーよ。被害者、私だけだし。まあ忠告しておくと、叫びたいなら周りを見てからにしな。そうじゃねーとキチガイに見えるぞ?」
「謝る必要はねーよ。被害者、私だけだし。まあ忠告しておくと、叫びたいなら周りを見てからにしな。そうじゃねーとキチガイに見えるぞ?」
苦々しげに溜息をつきながら、千雨はポケットから眼鏡を取り出し、めんどくさげにかける。
もう夏にもなるというのに長袖のシャツを着ているのは日焼けが嫌なのだろうか。
そして、その様子から彼女は此処で本当に寝ていたのだろう。
如何にも気怠そうに。そして、面倒くさそうに。
これ以上話すことはないと言わんばかりに、千雨は先程まで寝ていた場所へと戻っていく。
もう夏にもなるというのに長袖のシャツを着ているのは日焼けが嫌なのだろうか。
そして、その様子から彼女は此処で本当に寝ていたのだろう。
如何にも気怠そうに。そして、面倒くさそうに。
これ以上話すことはないと言わんばかりに、千雨は先程まで寝ていた場所へと戻っていく。
「あ、あの長谷川は、ずっとここで寝ていたのか?」
「あ? んだよ、悪いか」
「いや、授業はちゃんと出た方がいいかなって」
「あんなもん、出席日数がギリ足りてたらいいんだよ。偶に来てみたらいつも通り、ふざけた光景で時間の無駄だったな。
気色わりぃったらありゃしねぇ。必要なプロセスとはいえ、くだらない」
「あ? んだよ、悪いか」
「いや、授業はちゃんと出た方がいいかなって」
「あんなもん、出席日数がギリ足りてたらいいんだよ。偶に来てみたらいつも通り、ふざけた光景で時間の無駄だったな。
気色わりぃったらありゃしねぇ。必要なプロセスとはいえ、くだらない」
心底吐き気がすると言わんばかりに、千雨の表情は暗く濁っていた。
両の瞳には憎しみさえこもっていて、有無も言わせぬ空気があった。
彼女達に何の価値もない。言外にそう言ってるのだ。
両の瞳には憎しみさえこもっていて、有無も言わせぬ空気があった。
彼女達に何の価値もない。言外にそう言ってるのだ。
「そこまで言うこと無いだろ! 皆いい奴等なんだ、長谷川がそこまで言う奴等じゃない!」
そして、光はその言葉を見逃すことができなかった。
クラスメイトは自分にとって大切な日常の一つであり、護らなくてはいけないものだ。
彼女達がいるからこそ、戦える。護るべきものがあるから正義の味方は生きていけるのだ。
クラスメイトは自分にとって大切な日常の一つであり、護らなくてはいけないものだ。
彼女達がいるからこそ、戦える。護るべきものがあるから正義の味方は生きていけるのだ。
――何もない、必要とされない、そんなことはない。
自分がやらなくてはならない、成し遂げねばならない。
世界の全てがその選択を否定しようが、南条光だけは肯定しようと決めた。
正義の味方として行動することが正しい、と。
世界の全てがその選択を否定しようが、南条光だけは肯定しようと決めた。
正義の味方として行動することが正しい、と。
「はいはい、悪かった悪かった」
加えて、南条光として、眼前の少女が吐き捨てた言葉を許せなかったこともあるのだろう。
自分が大事にしている宝物をバカにされたかのように、ムキになってしまったのだ。
背を向ける千雨に光は追い縋り、彼女の右腕へと手を伸ばす。
ぎゅっと握り締め、彼女を振り向かせる。まだ話は終わっていない、と。
しかし、彼女からの反応は意外なものであった。
自分が大事にしている宝物をバカにされたかのように、ムキになってしまったのだ。
背を向ける千雨に光は追い縋り、彼女の右腕へと手を伸ばす。
ぎゅっと握り締め、彼女を振り向かせる。まだ話は終わっていない、と。
しかし、彼女からの反応は意外なものであった。
「いっつ……っ!」
顔を苦痛に歪め、千雨は伸ばされた手を強引に振り払う。
そう、思わず『右手』で振り払ってしまった。
そう、思わず『右手』で振り払ってしまった。
「長谷川、お前は……っ」
当然、その甲――令呪の紋様を、光は見逃さなかった。
自分にも同じく刻まれた証。聖杯戦争に関わっているという絶対的な証拠。
それが、眼前の彼女にあるという事実。
自分にも同じく刻まれた証。聖杯戦争に関わっているという絶対的な証拠。
それが、眼前の彼女にあるという事実。
「その反応――ったく、巡り合わせっていうのは随分とクソッタレらしいな」
口元を歪ませ、肩を竦める少女を前に、光はぎゅっと手を握りしめる。
相対してまったからには、もはや衝突は避けられない。
護らなくては。この学校を戦場にさせないように、場所の移動を提案しなくては。
相対してまったからには、もはや衝突は避けられない。
護らなくては。この学校を戦場にさせないように、場所の移動を提案しなくては。
「おっと、サーヴァントはなしだ。お互い此処で戦いとなっちゃあ面倒になる。
それぐらいは正義の味方志望の子供でもわかるだろ?」
それぐらいは正義の味方志望の子供でもわかるだろ?」
そんな思惑を浮かべていたが、千雨から発せられた言葉は意外にも穏健なものであった。
どうやら、所構わず戦うといった悪鬼羅刹の類ではないらしい。
どうやら、所構わず戦うといった悪鬼羅刹の類ではないらしい。
「まあ、そういうこった。何、この世界は狭いんだ。
いつか“戦う時”は来る。焦って戦う必要なんてねーだろ?」
いつか“戦う時”は来る。焦って戦う必要なんてねーだろ?」
これ以上話すことはないと言わんばかりに、千雨は光に一瞥もせず屋上を去ろうとする。
「ちょっと待て! まってくれ! まだ、話は終わっていない!
お互い、話すべきことがあるだろう!?」
お互い、話すべきことがあるだろう!?」
しかし、光からすると話すことは山程ある。
聖杯戦争を通じて、ようやく他のマスターと会話ができるのだ。
未だ目を覚まさぬゆりはともかくとして、やっと、だ。
きちんと言葉を介して自分の思いを伝えたら、協力してくれるかもしれない。
聖杯戦争を通じて、ようやく他のマスターと会話ができるのだ。
未だ目を覚まさぬゆりはともかくとして、やっと、だ。
きちんと言葉を介して自分の思いを伝えたら、協力してくれるかもしれない。
「はっ、お前の戯言なんて聞く価値があるとは思えねぇな。正義の味方を自称してる奴が言いそうなことなんて、猿でもわかる。
大方、聖杯戦争なんて許せない、皆で協力しよう、って所か? 救えねえアホだな、耳が腐るっつーの」
「それの、何がおかしいんだよ……っ! お前は、人を殺してなんとも思わないのかよ!!」
「おかしいに決まってるだろうが。どいつもこいつも譲れねえ願い背負って走ってんだ。
その邪魔をする奴に対して、いい顔をすると思うか? 人殺しの是非なんざとっくに考えてる暇はねぇよ」
大方、聖杯戦争なんて許せない、皆で協力しよう、って所か? 救えねえアホだな、耳が腐るっつーの」
「それの、何がおかしいんだよ……っ! お前は、人を殺してなんとも思わないのかよ!!」
「おかしいに決まってるだろうが。どいつもこいつも譲れねえ願い背負って走ってんだ。
その邪魔をする奴に対して、いい顔をすると思うか? 人殺しの是非なんざとっくに考えてる暇はねぇよ」
伸ばした手を拒否されようが、南条光はそれでも、と。
その対象は味方だけではなく、敵にも伸ばすつもりであった。
誰かの犠牲を強いる聖杯なんて不幸を生むだけだ、と。
その対象は味方だけではなく、敵にも伸ばすつもりであった。
誰かの犠牲を強いる聖杯なんて不幸を生むだけだ、と。
「見知らぬ誰かさんの命と大切な願い、どっちが重いかなんてはっきりしてるだろうが。
その過程で、いちいち振り向いていたらキリがない。
倫理観なんざ何の役に立つ? 正義の味方さん――――てめぇが必要とされる道理はないな」
「ふざ、けるな! それでも、人には越えたら駄目な境界線があるだろ!
個人の勝手で他の人を不幸にするなんて許されるはずがない!」
「――許されるさ。此処はそういう世界だ。
争って、奪って、願いを叶えることが正しいんだからな。
つーか、そうしないと“先”がない、未来がない。
生憎と、自分の命を捨ててもいいぐらい好きな奴は此処には“いない”んだよ」
その過程で、いちいち振り向いていたらキリがない。
倫理観なんざ何の役に立つ? 正義の味方さん――――てめぇが必要とされる道理はないな」
「ふざ、けるな! それでも、人には越えたら駄目な境界線があるだろ!
個人の勝手で他の人を不幸にするなんて許されるはずがない!」
「――許されるさ。此処はそういう世界だ。
争って、奪って、願いを叶えることが正しいんだからな。
つーか、そうしないと“先”がない、未来がない。
生憎と、自分の命を捨ててもいいぐらい好きな奴は此処には“いない”んだよ」
そんな綺麗事を、千雨は丁寧に切って捨てる。
正義なんていう陳腐な妄念は、聖杯の前では塵芥に等しい、と。
ぐらりと揺らぐ光の根幹を、千雨は容赦なく糾弾する。
正義なんていう陳腐な妄念は、聖杯の前では塵芥に等しい、と。
ぐらりと揺らぐ光の根幹を、千雨は容赦なく糾弾する。
「間違ったやり方で願いを叶えるなんて……!」
「大事なのは過程じゃなく結果だ。手段を選んでられる程、余裕がない奴等に説教してこいよ。
返されるのはきっと、敵意だけだぜ?
「大事なのは過程じゃなく結果だ。手段を選んでられる程、余裕がない奴等に説教してこいよ。
返されるのはきっと、敵意だけだぜ?
正しいことはいつだって気持ちのいいものだ。
人から感謝され、笑顔を生む輝きだ。
諦めなんて努力で払拭できる。何れは来る淘汰も、絆の力で抗える。
人から感謝され、笑顔を生む輝きだ。
諦めなんて努力で払拭できる。何れは来る淘汰も、絆の力で抗える。
「押し付けるなよ、てめぇの理想論を。
少なくとも、私からすると南条……てめぇの想いを理解することなんて到底できねーな」
少なくとも、私からすると南条……てめぇの想いを理解することなんて到底できねーな」
このままではいけない。これ以上、言葉を紡ぐと――飲み込まれる。
光は何か、明るくて柔らかな会話を探した。
理想と優しい願いで塗り固めた、御伽話のような話をしたい。
自分の願いが間違っていない事を証明する為にも。
しかし、口から漏れ出すのは微かな呻き声だけであり、千雨の言葉を明確に否定するものは生まれなかった。
だって、それは心の奥底で、光も仕方がないと認めていた事実だから。
自分が一番大事だという保身は間違っているのか。
聖杯へと縋る程に疲れ果てた人間に対して、諦めるなとはっきりと言えるのか。
正しさは、正義は、理想は、時として人を傷つける刃となる。
光は何か、明るくて柔らかな会話を探した。
理想と優しい願いで塗り固めた、御伽話のような話をしたい。
自分の願いが間違っていない事を証明する為にも。
しかし、口から漏れ出すのは微かな呻き声だけであり、千雨の言葉を明確に否定するものは生まれなかった。
だって、それは心の奥底で、光も仕方がないと認めていた事実だから。
自分が一番大事だという保身は間違っているのか。
聖杯へと縋る程に疲れ果てた人間に対して、諦めるなとはっきりと言えるのか。
正しさは、正義は、理想は、時として人を傷つける刃となる。
「傲慢だよ、てめぇの正義は」
このような形でなければ、光の正義は輝きとして、周りを強く照らしていただろう。
正しさ、尊さ、優しさには、無条件で肯定されるだけの価値がある。
諦めずに前へと進む不屈の決意は戦うにあたっての糧に成り得ただろう。
しかし、この世界は紙風船のように脆く、ちょっとの衝撃を与えたらすぐに崩壊してしまう泡沫の舞台である。
光の願いは、きっと受け入れられない。その輝きの強さに耐えれる程、人は強くない。
その正義は、深いものでも、強固なものでもない。
どこにだって簡単に転がっているような正義だ。いずれはぐしゃぐしゃとまるめて、ゴミ箱に捨てられてしまうような。
されど、そんなか細い正義ですら、この偽りの世界では“強すぎる”のだ。
正しさ、尊さ、優しさには、無条件で肯定されるだけの価値がある。
諦めずに前へと進む不屈の決意は戦うにあたっての糧に成り得ただろう。
しかし、この世界は紙風船のように脆く、ちょっとの衝撃を与えたらすぐに崩壊してしまう泡沫の舞台である。
光の願いは、きっと受け入れられない。その輝きの強さに耐えれる程、人は強くない。
その正義は、深いものでも、強固なものでもない。
どこにだって簡単に転がっているような正義だ。いずれはぐしゃぐしゃとまるめて、ゴミ箱に捨てられてしまうような。
されど、そんなか細い正義ですら、この偽りの世界では“強すぎる”のだ。
「じゃあな、正義の味方。そうやって、否定をし続けたらいい。
最後まで、貫いて、その両手を血で濡らしても尚、同じことがほざけるなら――本物だろうよ」
最後まで、貫いて、その両手を血で濡らしても尚、同じことがほざけるなら――本物だろうよ」
南条光という人間は強い。
不測の事態に巻き込まれようとも、芯にある真を忘れ得ぬ強さを持っている。
そして、その真を広げ、前へと走れる少女である。
不測の事態に巻き込まれようとも、芯にある真を忘れ得ぬ強さを持っている。
そして、その真を広げ、前へと走れる少女である。
「ああ、でも」
長谷川千雨の放つ言葉はきっと、この世界に蔓延する正しさだ。
誰も彼もが肯定するしかない、正義だ。
自分の持つ正義とは違った“正しさ”である。
誰も彼もが肯定するしかない、正義だ。
自分の持つ正義とは違った“正しさ”である。
「そうなっちまったら、お前――――もう、正義の味方じゃねぇか。
私と同じ、“殺人者”だよなぁ」
私と同じ、“殺人者”だよなぁ」
その“正義”の果てに何が待っていようとも。
正義を呪う無尽蔵の奇跡が充満していようとも。
彼女の総てが反転し、輝きを無くすまで。
穢れ切った正義の味方として、堕ちていく。
世界の敵として、背負う覚悟なくしては結果は生まれない。
立ち去っていく千雨を前にして、光ができたことといえば、ただ――倒れない。
それだけしかできない、ちっぽけな正義の味方であった。
正義を呪う無尽蔵の奇跡が充満していようとも。
彼女の総てが反転し、輝きを無くすまで。
穢れ切った正義の味方として、堕ちていく。
世界の敵として、背負う覚悟なくしては結果は生まれない。
立ち去っていく千雨を前にして、光ができたことといえば、ただ――倒れない。
それだけしかできない、ちっぽけな正義の味方であった。
【C-2/学園(中等部校舎屋上)/二日目 午後】
【長谷川千雨@魔法先生ネギま!】
[状態]覚悟、右腕上腕部に抉傷(応急処置済み)
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]ネギの杖(家に放置)
[金銭状況]それなり
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に生き残り聖杯を手に入れる。
1.もう迷わない。何も振り返らない。
2.南条光は気に入らない。
[備考]
この街に来た初日以外ずっと学校を欠席しています。欠席の連絡はしています。
C-5の爆発についてある程度の情報を入手しました。「仮装して救助活動を行った存在」をサーヴァントかそれに類する存在であると認識しています。
他にも得た情報があるかもしれません。そこらへんの詳細は後続の書き手に任せます。
ランサー(金木研)を使役しています。
朝倉和美(NPC)に情報収集の依頼をしています。彼女に曰く二日目早朝にはある程度の情報が纏まるものと予測しています。どの事件のどの程度の情報が集められるかに関しては後続の書き手に任せます。
[状態]覚悟、右腕上腕部に抉傷(応急処置済み)
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]ネギの杖(家に放置)
[金銭状況]それなり
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に生き残り聖杯を手に入れる。
1.もう迷わない。何も振り返らない。
2.南条光は気に入らない。
[備考]
この街に来た初日以外ずっと学校を欠席しています。欠席の連絡はしています。
C-5の爆発についてある程度の情報を入手しました。「仮装して救助活動を行った存在」をサーヴァントかそれに類する存在であると認識しています。
他にも得た情報があるかもしれません。そこらへんの詳細は後続の書き手に任せます。
ランサー(金木研)を使役しています。
朝倉和美(NPC)に情報収集の依頼をしています。彼女に曰く二日目早朝にはある程度の情報が纏まるものと予測しています。どの事件のどの程度の情報が集められるかに関しては後続の書き手に任せます。
【ランサー(金木研)@東京喰種】
[状態]???、全身にダメージ(回復中)、疲労(小)、魔力消費(中)、『喰種』
[装備]
[道具]なし。
[思考・状況]
基本行動方針:誰が相手でも。どんなこと(食人)をしてでも。聖杯を手に入れる。
1.もう迷わない。何も振り返らない。
2.今日は休息に充てる。
[備考]
長谷川千雨とマスター契約を交わしました。
[状態]???、全身にダメージ(回復中)、疲労(小)、魔力消費(中)、『喰種』
[装備]
[道具]なし。
[思考・状況]
基本行動方針:誰が相手でも。どんなこと(食人)をしてでも。聖杯を手に入れる。
1.もう迷わない。何も振り返らない。
2.今日は休息に充てる。
[備考]
長谷川千雨とマスター契約を交わしました。
【南条光@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[金銭状況]それなり(光が所持していた金銭に加え、ライダーが稼いできた日銭が含まれている)
[思考・状況]
基本行動方針:打倒聖杯!
1.聖杯戦争を止めるために動く。しかし、その為に動いた結果、何かを失うことへの恐れ。
2.無関係な人を巻き込みたくない、特にミサカ。
[備考]
C-9にある邸宅に一人暮らし。 仲村ゆりを保護しています。
異界を認識しなかったことにより、その精神にも影響は出ていません。
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[金銭状況]それなり(光が所持していた金銭に加え、ライダーが稼いできた日銭が含まれている)
[思考・状況]
基本行動方針:打倒聖杯!
1.聖杯戦争を止めるために動く。しかし、その為に動いた結果、何かを失うことへの恐れ。
2.無関係な人を巻き込みたくない、特にミサカ。
[備考]
C-9にある邸宅に一人暮らし。 仲村ゆりを保護しています。
異界を認識しなかったことにより、その精神にも影響は出ていません。
【ライダー(ニコラ・テスラ)@黄雷のガクトゥーン ~What a shining braves~】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]メモ帳、ペン、スマートフォン 、ルーザーから渡されたチャットのアドレス
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、マスター(南条光)を元いた世界に帰す。
1.マスターを守護する。
2.負のサーヴァント(球磨川禊)に微かな期待と程々の警戒。
3.負のサーヴァント(球磨川禊)のチャットルームに顔を出してみる。
[備考]
一日目深夜にC-9全域を索敵していました。少なくとも一日目深夜の間にC-9にサーヴァントの気配を持った者はいませんでした。
個人でスマホを持ってます。機関技術のスキルにより礼装化してあります。
キルバーンに付着していた金属片に気付きました。
[状態]健康
[装備]なし
[道具]メモ帳、ペン、スマートフォン 、ルーザーから渡されたチャットのアドレス
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、マスター(南条光)を元いた世界に帰す。
1.マスターを守護する。
2.負のサーヴァント(球磨川禊)に微かな期待と程々の警戒。
3.負のサーヴァント(球磨川禊)のチャットルームに顔を出してみる。
[備考]
一日目深夜にC-9全域を索敵していました。少なくとも一日目深夜の間にC-9にサーヴァントの気配を持った者はいませんでした。
個人でスマホを持ってます。機関技術のスキルにより礼装化してあります。
キルバーンに付着していた金属片に気付きました。
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059:壊苦/会苦の剣士達 | 投下順 | 061:Re:try |
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048:遺児 | 長谷川千雨 | :[[]] |
ランサー(金木研) | :[[]] | |
052:そしてあなたの果てるまで(前編) 052そしてあなたの果てるまで(後編) |
南条光 | :[[]] |
ライダー(ニコラ・テスラ) | :[[]] |