夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

Re:try

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
「昨晩は手酷くやられたな、アサシン」

 太陽の光が眩しい二日目の朝、一組の主従が対策を練るべく言葉を交わし合っていた。
紫杏は剣心から昨晩の顛末を全て聞いている。
生前の宿敵と戦い、そして敗北に屈した。
それでも生き残ってしまった末路を余すことなく、情報として手に入れた。

「すまない、生前の因縁に囚われ過ぎた。俺は冷静さを欠けていた」
「まあ、過ぎてしまっては仕方ないことだ。次からは気をつけたらいい。
 死なないで帰ってきた、加えて失態を隠さず告げてくれた。それだけで、十分と評価に値するよ」

 もしもの話、剣心が事の仔細――敗北を隠していたならば、信用できない、相棒としては落第点だった。
別に、紫杏は負けるなというつもりはない。生き残ることを最優先に考えてくれたらいい。
この戦争は純粋な勝ち負けで成り立ってはおらず、最後まで立っている者こそが、真の勝者として扱われる。

「必ず勝つ必要なんてない。無論、勝てる勝負、避けれない勝負は取りに行きたいが、無理はしたくない。
 この戦争はまだその域には達していない。まだ時期が早い」

 生き残る。死んでしまってはどれだけ高尚な理想を抱いていようとただの負け犬である。
勝利に酔いしれる高揚はない。敗北に悲嘆を重ねる憂いはない。
機械のように、自分達はやらなくてはならないことをやるだけだ。
世界の平和を願うこと以外は許されない。悠然とそびえ立つ真実から目を逸らすことはあってはならない。
自分の幸せなどとっくに枠組みの外に弾き飛ばされている。
いつか想ったであろう大切な人も、かつて得た答えも。
全ては過去の泡沫となって消えていく。

「この立場は便利だ、情報も集まり、潤沢な資金もある。
 今はまだ執着に値するものだ。少なくとも、一週間の前半はロールプレイしてもいいかと思うぐらいはな」
「行方をくらましては面倒なことになるから、という事も踏まえてか」
「そういうことだ。それに、この都市では若手の女社長として顔が広まっている。
 そんな女がいきなりいなくなりでもしたら、面倒なことになる。
 理由付けは色々とできるが、それをするにも枷はある」

 些末なことだ、自分の幸せなんて。
世界にはそんなスケールでは測れない、最悪の未来が待っている。
元より、負った咎から逃げるつもりはない。
やるべきことをやった後に裁かれる覚悟はとっくに刻んでいる。

「社長に自由なんてないことはわかってはいるんだがな。
 けれど、それもまた仕方がないことだと許容するさ」

 徹頭徹尾、紫杏はこの戦争に勝つことだけを考える。そして、その先にある絶望を回避した未来を。
そこに自分の居場所はないと理解しても尚、世界が正されることを望む。
もはや、その願い以外、自分には何も残っていない。
例え何を犠牲にしようとも、神条紫杏は破滅の運命を変えてみせる。

 ――――悪を担い、正義を成す。

 誰もがやりたがらないことであっても、その方法が唯一残っているものならやるだけである。
是非もない、と。
相棒に告げ、紫杏は今日も暗躍する。
向かう先で起こる戦いなど知らず、彼女は自ら虎穴に飛び込んだ。
数時間後、戦火の炎を上げる研究所へと、一組の主従が歩を進めた。






◆ ◆ ◆






 平和とは、何か。
キリヤ・ケイジという青年が聖杯に懸ける願いはギタイを撃滅させることだ。
そして、それが平和に繋がると信じている。
人類の脅威として、世界中のあらゆる所で跋扈する化物――ギタイ。
ケイジも、仲間達も。人類の全てが彼らを憎んでいるだろう。
戦争を引き起こしているのはあいつらだ、あいつらさえ滅ぼせば世界は平和になる。

 ――本当に?

 戦争はなくならない。例え、化物を根絶しようとも人は憎しみ合う。
ほんの些細なことで、同じ基地に所属する兵士達同士でさえも争うことを始めてしまうのだ。
現に、ループの中では、食事の際浮かべていた表情が気に入らないといった理由で、ケイジも兵士と言い争ったこともあった。
もしも、聖杯を手にしてループを抜け出したとしても。
絶望は果たしてなくなってくれるのか。クソッタレで、掃き溜めのような戦場はいつまでも続くのではないか。

(帰った所で、楽園はない。ぼくを待ってくれているのは戦場だけ。
 それも、とびっきりにスパイスの効いたループで、脱出方法は見当もつかなくて)

 聖杯という奇跡で、絶望は塗り替えられるのか。
尽きぬ疑問はケイジの頭を悩ませ、精神を疲弊させていく。
加えて、“一人”で戦わなくてはならないという困窮した現状が、辛い。
あのサーヴァントには欠片も信頼性が湧かないし、できることなら早めに排除したいくらいだ。

(――それでも、生き残らなくちゃいけない)

 しかし、最悪を通り越して絶望的なこの状況であっても、ケイジは諦めはしていない。
どれだけの絶望を重ねたと思っている。何度無様な死を迎えたと思っている。
その果てに掴んだループ脱出のチャンスなのだ、絶対に逃せない。
聖杯とやらを完全に信用する訳ではないが、もしもその奇跡がループを脱出してかつ世界を平和にできるものならば。

(生き残る過程で聖杯を手に入れることができたら、大助かりだ)

 絶望を祓う光を聖杯が担うなら、自分の命を賭けるのに、不足がない。黄金の奇跡、必ずやこの手で握ってみせる。
今はまだ、偽りの日常を過ごしているが、直に戦争はやってくる。
戦場に逃げ場はない。どこにいようが、戦わなくちゃいけない時は必ずある。
ぎゅっと手を握りしめ、ケイジは今日も模擬戦に挑む。
このロールを投げ出すにはまだ早い。
昨日のように他の主従との接点を何としても持たなければならないが、好き勝手に動くのは愚策だ。
慌てず、見極める。
それにしても、相方であるイカれたサーヴァントは今も何処で何をやっているのやら。
彼ならば、その変容技術を活かして自分の傍にいる可能性だってある。
聖杯戦争の主従は何だかんだで目立つ。自分に付いていたら、昨日のように獲物が引っかかるかもしれない。

(あのサーヴァントも、もっと扱いが効く道具だったらよかったのに)

 もっとも、わからないことを考えた所で仕方がない。
自分には危害を加えぬよう令呪で命令しているのだから安心であるはずだ。
今日もひとまず、日常を繰り返そう。戦闘ジャケットに着替えて、模擬戦を行うという繰り返し。
近接戦闘だからか危険性の増す武器を今日は扱うことになるが、自分とリタであるならば大丈夫であろう。
寸止めもできるぐらいの技量を両者持っているはずだし、この世界では初めて、バトルアクスを扱えるクソッタレ記念日なのだ。
薄く嗤って、ケイジは白の壁で覆われた大部屋で、リタと相対する。
そういえば、と。ケイジは考える。
今日はいつもよりも静かだ。研究員達が記録を取ろうと忙しなく動いている姿を見ない。
このジャケットスーツを着るまではそれなりに闊歩していた記憶があるのに。

(……何かがおかしいな)

 目の前にいるリタ・ヴラタスキの偽物と、いつも通り模擬戦を。
そう思っていたケイジもさすがに今の状況がどこかズレているということを考え始めていた、
どうも拭えぬ何かが警鐘を鳴らしている気がしてならない。
これまで潜り抜けた戦闘経験からなのか、眼前にいるはずの戦闘ジャケットの人間がリタではない気がするのだ。

「前準備はもう十分だろう――――それじゃあ、楽しませてもらおうか」

 湧き出た違和感を払拭すべく、リタへと声をかけようとするが、その動作を遮るように、劈くような轟音が響いた。
リタであるはずの相手が床にぶち込んだ杭が地面を大きく削ったのだ。
彼女の腕に装備されているパイルドライバは当然、模擬戦で使うようなちゃちなものではなく実戦向きに開発されたものだ。
加えて、返ってきた野太い声から危機感を感じたケイジは瞬時に後退し、自分の武器であるバトルアクスを構える。
模造武器ではあっても、ケイジが“本気”で扱えばそれはもう人殺しの凶器と成り得る。

「よォ、坊主。ちょいと踊ろうぜ? ンな警戒してねぇでよ、お前がいつも通りやっていることをやりゃあいいんだ。
 おっと、お助け下さいって泣きつくのはやめておいた方がいいぜ? それなりに粘ってもらわなきゃ俺が困るんだわ」
「そいつはどうも。わざわざ言う手間が省けたよ、ファックユー」
「口が悪い坊主だ。今からあの世への片道切符を渡されるんだから潔くいこうや。
 いつものお遊びとは違って命懸けなんだ、気張ってこいよ。文句を言うならこの街で起こっている“戦争様”に言ってくれ」
「その口ぶり…………読めたよ。あんた、聖杯戦争の参加者だな?」
「へぇ、ご同類かい。そいつはまた、お誂え向きじゃねぇか!」

 聖杯戦争はとっくに日常を侵食していた。
眼前の『本物』がそれを証明してくれている。
どれだけ拒絶しようとも、戦争は向こうからやってきた。
これから始まる命懸けの死合を乗り越えなくては未来がない。
そして、それは敵としてここに立っているアリー・アル・サーシェスも同じだ。
愉悦溢れる戦争を求めて、面白おかしく戦いたいと願って。
戦いこそが人の全てであると謳う戦争屋は迷いがない。

「んじゃ、始めようか……! 聖杯戦争ォ!」

 戦争をよく知る二人が害意を持つ敵に対して、やることなんて一つだけだ。
ケイジが武器であるバトルアクスを強く握りしめるのと同時に、マスター同士の戦闘が始まった。

「やっぱり素人じゃないのかよ、めんどくさいっ!」
「たりめぇだろうが! じゃなきゃ、こんなもん着て戦闘なんざできっかよォ!」
「イカれた奴め。ぼくを巻き込まないで勝手に何処とも知れない所で死んでくれたらよかったのに」
「ボケが、こんなおもしれぇ祭り――最後まで堪能しなきゃ損だろうが!
 つーか、イカれてなきゃこんな戦争に参加しねぇよ、馬鹿が! テメェも同類だろうが!
 聖杯なんてよくわかんねぇもんを欲しがってる狂人が常識を唱えてるんじゃねぇよ!!!」

 ケイジは先手必勝とばかりに疾走し、武器であるバトルアクスを袈裟に振り下ろす。
サーシェスは袈裟の一撃を紙一重で躱しつつ離脱。挨拶代わりの一撃を応酬しながら二人の戦士は部屋を駆け回る。
バトルアクスを乱雑に振り回すケイジの攻撃を、サーシェスはうまく受け流しながら返しの蹴撃を数度放つ。
しかし、ケイジもサーシェスが手練だとわかっているからなのか、その反撃は安々と躱す。
互いの一撃は重くとも、芯には到底届かず。戦闘ジャケットにて上がった身体能力により、一撃をもらうだけでも命取りである。

「頼むから、俺が満足するまでは死んでくれるんじゃねぇぞ? 歯ごたえがなさすぎるってのも困るんだからなァ!」
「知るかよ、そんなこと。生憎と、男に食われる趣味は欠片も無いんでね」
「はっ、よく吠えた! いいぜ、テメエの実力が偽物か、本物か。簡単に潰れてくれるんじゃ、舞台をお膳立てした意味もねぇもんだ!」

 くるりとバトルアクスを片手で回した勢いで刺突を繰り出しつつ、重ねた思考は不利を導き出す。
相対している敵は歴戦の勇士であり、一筋縄ではいかないと結論を付けたケイジの頬には一筋の汗が垂れる。
もっとも、負けるつもりは欠片もない。戦う以上は勝ちにいく。
前へ、ただ前へ。刺突からの流れるような連撃――薙ぎ払い。
地面を削りながら荒々しく吹き荒ぶバトルアクスはケイジの手によって一撃必殺の魔技を生み出す武具となっている。

「いいさ、踊ってやるよ。その前に、一つだ」
「あん?」
「一つ、答えろ」

 ループの中で身につけた力を存分に発揮しつつも、ケイジの頭に浮かぶことは別にあった。
眼前の敵に、サーシェスに聞かなくてはならないことがある。
相手の態度からしてきちんとした返答が返ってくるとは思えないが、一応だ。

「そのジャケットの持ち主はどうした?」

 あの真面目なリタがこんな悪党にジャケットスーツを貸すはずもなく。
例え、偽物であろうとも、彼女の芯にある強さは変わらない。
戦場で雄々しく戦う彼女を、この戦争狂が放置しているはずもないのだから。

「ああ、あのちびっ子か。――――“美味しかった”ぜ?」

 そして、その一言でケイジは全てを理解した。
戦いがなくとも。ギタイがいなくとも。この偽りの世界であっても。
リタ・ヴラタスキは奪われる側に追いやられてしまったのだ。
別に、護るつもりはなかった。一週間の期限が終わったら消えてしまう存在だ。
彼女のことを何も知らない癖に、悲しむのはお門違いである。

「………………そうか」

 けれど。しかし。だが、とケイジは小さく言葉を口ずさむ。
過ぎった彼女の顔は何故か儚げに笑みを浮かべたものであり、こんな下衆でイカれた奴なんかに殺されていい人間ではなかった。
例え、自分の知らぬリタ・ヴラタスキであっても。この世界にいる彼女は確かに生きていた。
幸せに生きていたリタを地獄へと蹴り落とした彼を、ケイジが許せるかというと、否だった。

「ありがとう、よくわかったよクソッタレ。できる限り、数秒でも早く死んでくれ」
「は、ははっ! その返しは中々に唆るぜ、坊主。いいぜ、喧嘩なら幾らでも買い叩いてやる。ついてこれなくてべそをかくんじゃねぇぞ!!」

 戦う理由が一つ追加された。
眼前の敵はこの世界に来て、ケイジが初めて心から殺していいと思った相手である。
ならばこそ、容赦はない。どんな平和主義者が乱入してこようが、必ず殺す。
こいつは生かす価値が欠片もないんだとわかったからこそ、バトルアクスを握る手には力が幾分が増やされる。

「そんなに戦争が好きなら、あの世で好きなだけやっていろ」
「威勢の良さだけは百点満点だな、その殺気だけで何人殺してきたよォ!」

そうして、ケイジとサーシェスは咆哮を上げながら、戦闘へと没頭していった。






◆ ◆ ◆






「あの駄犬め、見境なしになるのが速すぎる」

 サーシェスの仕掛けた戦争で研究所が大騒ぎになったのと同時、紫杏達は早急にこの場からの離脱に行動を移していた。
研究員は逃げ惑うも、サーシェスのサーヴァントによっていともたやすく討ち取られていく。
いち早く、緊急避難用の経路へと向かい、この戦場を脱出しようと決断した判断はやはり間違っていなかった。
それは付き従う剣心も異存はなく、今は実体化して辺りを警戒しつつ、奇襲が来ても対応できるよう刀の鞘には常に手を伸ばしている。
できることなら、この際にサーシェス主従を始末しておきたい所だったが、剣心の消耗ぶりを考えて紫杏は逃げの一手を優先した。
その選択に、剣心も異論を挟むことはない。自分のことは自身がよく知っている。
外面こそ無傷であるが、内面は昨夜の斎藤との死闘で消耗したものが戻りきっていない。
無理をしてサーシェス主従を狙いに行く必要はない。
そもそもああいった手合は他の主従と勝手に戦闘を巻き起こして、死んでくれるだろう。
いつの時代も狂人と真正面から相手取っていいことなんてありやしないのだ。

「駄犬といえども、油断はできないな。しっかりと足止めを用意している所が憎らしい。
 下がれ、ますたあ。俺の後ろから離れるなよ」

 加えて、あの狂人は頭がよく回るらしい。
自分達が逃走経路として控えていた通路に対して、正確に外敵を設置している。

「やあ。こうして直に会うのは初めましてかな」

 粘ついた声に道化師の格好をした不遜なサーヴァント。
道化師――キルバーンは手をひらひらと振りながら親しげに寄ってくる。
元々自分達のことを怪しいと思われていたのか、マークされていたのだろう。
剣心は鞘に収まっていた日本刀を即座に抜き、疾走。
その首へと目掛け、刀を横薙ぎに振るう。

「せっかちだなあ、自己紹介ぐらいはしてもいいんじゃないかな?」
「ほざけ。貴様のような外道と語る言葉はない。楽に殺してやるから今すぐにでもその口を閉じろ」
「手厳しいね。ボクは君達にはまだ何もしてないんだけど?」

 当然、相手も黙って受け入れるはずもなく腰に下げたサーベルを刀に押し当てて、斬撃を受け止める。
瞬間、膠着状態が続くと思いきや、刀は秒を待たずに反転。
反対の首を狩ろうと銀線を描くが、空を斬るのみ。
剣心は舌打ちと共にそのまま流れるように連撃を放つも、サーベルによって弾かれる。
手強い。僅かな交錯ではあるが、眼前の敵は簡単に打ち崩せるものではないらしい。
宝具の強さではなく培った技量で戦う剣心にとって、キルバーンは些かやりにくい。
くるりと手首で回されたサーベルに斬撃を受け止められつつも、冷静さは失わない。
願いは熱く滾らせようが、放つ剣閃は静かなる氷の冷たさを纏わせて。
どれだけの剣閃で敵を殺せるか、不殺を誓ったはずの侍は似合わぬ算段に思考を裂く。

「だんまりかい? 酷いなあ、ボクも君と変わらぬ人殺しだというのに。
 おや、ちょっと鉄面皮が崩れたね? どうして、と。君は問いたい訳だ。
 何、簡単なことさ。ボクと君は何せ、『同類』なんだから」
「その口、閉じろと言ったはずだ」
「閉じないさぁ! こうやって英霊同士の交流を深めるのも聖杯戦争の醍醐味なんだ。
 まずはその刃を鞘に収めて、言葉を語らおう。君も理性無き狂戦士という訳ではないんだからさ」
「語る言葉はない、そういったはずだ。そこまで死にたいならばいいだろう。
 殺してやろう、道化師。末期の言葉も残さずに散っていけ」

 このままでは殺し切れないと判断をしたのか、剣心は飛天御剣流の技を混じえつつ攻めの手を増やしていく。
故に、これより先は死闘であり、第三者は視認もできぬ領域へと駆け上がる。
相手がその速さに乗れぬならそれまでのこと。疾く、その首をはねて勢いとせん。

「わからず屋だなあ。ボクは話がしたいと再三に言っているはずだけど」

 刹那、虫の知らせなのか身の危険を感じ、後方へと跳躍するも、剣心の身体には既に大きな切り傷が迸っていた。
攻撃の動作は見えず、聞こえもしない。これは何か奇術であるか。
表情にこそ出さないが厄介極まりない攻撃と判断し、キルバーンの危険度を数段跳ね上げる。

「率直に言おう。ここはボクのマスターには内密に、手を組まないかい?」
「何を口走るかと言えば。もはや死合うしかない状況で怖気づいたか」
「先に襲い掛かってきたのは君達だろう? ボクはあくまで迎撃しただけ。
 落ち着いて話したいが為に武器を手に取っただけにすぎないよ」

 へらへらと笑い声を上げるキルバーンに対して、剣心は警戒心を更に引き上げつつ先程の見えない斬撃について考察する。
風による遠隔的な攻撃か、それともあのサーベルに見えない刀身を伸ばす機能がついているのか。
はたまた、見えない刃を生み出し、それを飛ばす能力なのか。
見えない斬撃のからくりを解かない限りは、切り刻まれるだけだ。
まだトリックを見破られていない余裕もあるのだろう、キルバーンの態度には余裕がある。

「君達にとって、悪い話ではないはずだろう。ここで戦闘を回避できるんだからさ。
 真っ向勝負なんて効率が悪いだろう、こういうのは漁夫の利を狙ってスマートに殺していこうよ」
「……そうだな、貴様の言ってることは確かに正しいよ」

 避けられるならば、ここでの戦いなんて避けるべきだ。
紫杏を連れて、この戦場から一刻も早く脱出しなくてはいけないと理性では結論を下している。

「しかし、貴様の用意した交渉の机はきな臭い。
 生前に謀略が跋扈していた世界で飽きる程見てきたよ、約束など反故にして襲い掛かってくる輩は」
「おいおい、ボクがそうだとでも?」
「自覚できていないなら鏡で自分の顔を見ることだな。
 はっきり言おうか。貴様は何の信念もない愚物だよ。破綻が見える交渉など、論ずるに値しない」

 しかし、剣心の直感が告げているのだ。
眼前の道化師は欠片も信頼に値しない下衆な英霊である。
背中など安易に見せてみろ。その瞬間、サーベルを振るって切りかかってくるに違いない。

「あらら、残念だねぇ、交渉決裂ってとこかな」

 言葉とは裏腹に粘ついた笑い声を漏らし、サーベルをくるくると回す姿から自分の読みが当たっていたことを剣心は確信した。
いけしゃあしゃあと剣を持つ手で同盟を差し伸べてくるなんて油断も隙もあったものではない。

「まったく、これだから話が通じない英霊は嫌になっちゃうよ。それじゃあ、お望み通り捻じ伏せるとしようか。
 不本意な争いなんだ、君をいたぶってしまっても仕方がないよねぇ?」

 結局はこうなってしまう。
宿敵のように、一本気のある英霊ばかりが座にいる訳ではない。
濡れる血がまた、増える。斬って、殺して、泰平の世を築く為にも。

 ――もはや、その願いがとっくに叶っていることからは目を背けて。

 斎藤と交わした言葉など、この世界で見たものなど、知らぬ、聞こえぬ、見えもせぬ。
願いの為に刀を振るうと決めた以上、立ち止まることは許されない。
この聖杯戦争で途中下車など、端から認められるはずもないのだから。






◆ ◆ ◆






 奔る、趨る、疾走る――――!
バトルアクスを縦横無尽に振り払いつつ、二人の戦士が戦場で交差する。
サーシェスの連撃を迎撃と回避で掻い潜り、カウンターの横薙ぎ一閃を放つ。
しかし、その一撃を読んでいたのか、一閃は相手を欠片も削ることなく、空を切る。
戦闘が始まってどれだけの時間が経ったか。
悠長に時計を見る余裕もなく、体感で数えるしかないが、既に数十分はこうして武器を振るい合ってる気さえ感じてしまう。
戦況はどちらにも優勢へと傾かない互角であった。
眼前の男は紛れもなく戦いの天才だ。言動からして、各地を渡り歩く傭兵とは推測していたが、その中でも間違いなく一流である。
勘、経験、センス。どれを取っても高水準にまとまっており、隙がない。
ケイジも幾つものループを経て経験を積み、勘とセンスを鍛え上げたが、彼程の領域となると首を傾げてしまう。
膨大な経験で勘とセンスをカバーしている。本物を見てしまうと、そう認めるしか無いのだ。
無論のこと、その二つもケイジは悪くはない。しかし、常人よりは高いが、サーシェス程ではなかった。
戦争の権化、戦争を心から愛しているアリー・アル・サーシェスという男はこと戦いに関しては追随を許さない。

「最初は威勢だけがいいゴミクズと思っていたんだが、俺の直感も鈍ったのかねぇ。
 殺し合った今ならわかるぜ。お前の身のこなしは戦に初めて臨むルーキーじゃねぇ。
 経験したな? 地獄をよ。全く羨ましいったらありゃねぇなァ」
「そんなに経験したいなら代わってやりたいよ……とびっきりでファック連呼しても飽き足りないぐらいのやつを、ね」
「おうよ。聖杯が本物だったらそういった願い事もアリだな。
 しかし、このスーツの慣らし運転程度に思っていたんだが、存外やるもんだ」

 化物め。小声で口走った悪態は、バトルアクスによる地面を削る音によって掻き消された。
横から縦へ。右と見せかけて左。フェイクを混じえた斬撃をサーシェスは悠々と躱していく。
攻めきれない。ケイジは現状の苦境に舌を打つ。
此方の回転により遠心力を高め振り下ろした必殺は致命には届かず、それどころか反撃までしてくる。
普通の兵士であるならば、数度は楽に殺せた。熟練の兵士であっても、何度かは致命を叩き込めたはずだ。
しかし、敵は未だ健在であり、隙あらばこちらを食い殺そうと武器を振るう。

「一発必中、必殺の一撃を躱してみせろや! そら、動きが鈍ってるぞ、プロフェッショナルさんよ!」

 そして、ケイジの体内警報が危険水域を振り切った。肉体は理性が命令を下すよりも早く退避を選択。
一跳びで十メートルほどの距離を確保する。
ギタイとの戦いで鍛えた能力、直感でサーシェスの攻撃を避け続けるケイジも、既に一流の域に達している。
あくまでサーシェスと比較したら劣るのであって、彼自身はもう強さの頂きに手が届きかけている。

「………クソ、がっ!」
「いくら意気込んでも無駄だぜ。そもそもテメエからは本気ってもんが感じられねえ。
 絶体絶命の窮地、頼る縁は何一つありはしないってか。人生絶望投げやりに生きてますってか?」

 一秒前までいた場所に杭が刺さっているのを尻目に、バトルアクスを再度構え、疾走。
奮って、振るって、声を上げて。キリヤ・ケイジの全てを懸けて戦っているはずなのに。
アリー・アル・サーシェスには届かない。まだ、彼を凌駕するには時間と経験、そして――気力が必要だった。

「ざけてんじゃねぇぞ、ボケが。馬鹿にしてんのか。
 機械みたいに武器を振るうだけで人間味が何一つありはしねぇ。獲物としちゃあ落第だぞ、あァ?」

 サーシェスからするとキリヤ・ケイジには本気で生きようとする気力がない。
それがつまらない。サーシェスを見ているようでその実、全く見ていない。
アリー・アル・サーシェスのことを、聖杯戦争のことを欠片も眼中に無いことが気に入らない。

「死んだように生きていて楽しいかよ、坊主。
 願いに焦がれるでもなく、戦いに埋没していくでもなく。
 中途半端にただ生きているだけで、いつ死んでもいいやってか。嬲っても楽しくねぇんだよ、ンな奴はよ」

 要は、本気を出さないで全てを懸けている“ふり”をしているケイジが気に入らない。
平坦な感情で武器を振るっている敵など殺しても面白くないのだ。
リタという少女に対して語った時は一瞬感情を露わにしたが、ケイジは基本的に無感動な反応しか返さない。
こんなにも楽しい戦争に参加しておきながら、悲嘆に暮れるでもなく、焦燥に迫られているでもなく。
何も、感じていない。サーシェスから見ると、キリヤケイジは生きた死人――ゾンビのようなものだ。

「身勝手な理由だな」
「たりめーだろうが。こんな頭のおかしい戦争に乗る奴なんか、総じて最低最悪のクソ野郎だよ。
 とはいえ、ここまで面白い祭りに参加しねぇってのはクソ野郎にすら値しねぇと思うがな。
 古今東西、過去現在未来を巻き込んだスケールのでかい戦争なんだ。
 一生に一度経験できるかもわかんねぇんだ、本気にもなる」

 嬲るなら、人間に限る。
戦火に焼かれて苦悶の声を上げて死んでいく。
街も含めて、人の営みが一瞬で崩れていくあの光景こそが我が渇望。
この平和ボケした街が戦火に焼かれて狂っていくのを何よりも楽しみにしているサーシェスだからこそ、騒乱を巻き起こす。、

「それじゃあよぉ。テメェは何になら、本気になる。
 本気で追い求めるものもないのに、この戦争を勝ち残れるとでも思ってやがるのか?」

 アリー・アル・サーシェスという人間は既に完結している。
自分の欲望に忠実で、それを裏切ることは決してしない。
他者に染まらず、確固とした自我を持っているからこそ戦い続けることができるのだから。

「言い訳こいて本気になれない半端者が、俺に勝てると思ってんじゃねェぞぉぉぉぉッ!!!!!」

 故に、改めて。サーシェスはケイジが気に入らない。
流されるがままに戦う腑抜けなど、相手をしても楽しくはない。
相対するなら生きのいい獲物の方がずっといい。

「…………ふざけるなよ」

 その身勝手な論理はケイジの心に火をつける。
本気になってない、と。サーシェスは言った。
どれだけ苦痛を伴ったかも知らないでいけしゃあしゃあと勝手なことを。
本気で戦って、何度も死の苦痛を味わって、解決方法がまるでない絶望的なループに投げ出されて。
それでも、生きようと戦い続けた自分の何が悪いのか。
否、一片足りとも、悪い所などありやしない。

「ああもう、返したい言葉とか、お前なんかとは違う願いだったりとか。
 色々とあるけど。長々とぶつけたいものがあるけど。
 どうでも良くなった。そんな言葉でお前をどうにかしようなんて思わない」

 終わらない苦痛に疲れ果てて、聖杯を願ってしまったことを間違いなんて言わせない。
経験した者にしかわからない最悪を、大したことがないと、本気ではなかったなどと片付けられるなんてあってはならないことだから。

「殺してやる。力が正義の世界なんだ、それで言葉は十分足りるだろう?」
「はっ、いい面になったじゃねぇかよ! さっきよりはよっぽど生きる気概がある!」
「当たり前だ。自慢じゃないけど、この世界でぼくは誰よりも生きたいと願っている自信がある」

 生きるということに嘘も真もない。
残酷なれど確かな芯を持つ事実は、ケイジを強くした。
どんなことをしてでも、生き残る。戦友の屍を越えてでも、教えを乞うた上官を喪うとしても。
だから、その願いすら踏み躙るなら。あの繰り返しを軽んじる奴等が相手なら。
キリヤ・ケイジは鬼になろう。聖杯戦争を勝ち残り、奇跡を手にしてクソッタレなループを終わらせよう。

「邪魔だから、消え失せろよ」

 手始めに、ムカつく外敵を排除することから取り組もう。
そう思った瞬間、身体は勝手に動き、一迅の颶風となってケイジは疾走していた。
擦り切れた骨身に鞭を打ちつつも、バトルアクスをサーシェスへと袈裟に振り下ろす。
それは無骨で、余分がなく、故に何より効率的な一撃だった。
後少し、サーシェスの反応が遅れていたら、彼の身体を真っ二つに断ち切っていただろう。
流麗さなど端へと捨てた殺す為だけに鍛え上げた技能。
その真髄を、サーシェスへと刻み込むべく直走る。

「面白くなってきた、もっとぶっ飛んでいこうかっていきたいが、時間だ。
 名残惜しいんだが、この続きはまた今度だな」
「ふざけてるのか、手前勝手に襲いかかっておいて逃がすはずがないだろう」
「そろそろ慣らし運転もいい頃合いだし、他の主従も騒ぎを聞きつけてやってくるかもしれねぇ。
 戦うのはいいが、こんな早くから乱戦なんてもったいねえ。
 それに、気づかねえのか。お前のジャケットの動き――鈍り始めたぞ」

 その指摘は的を得ており、ケイジの動きは先程と比べてほんの僅かではあるが、鈍りを見せている。
昨日起こった現象と同じものなのだろう。
不本意ながら、元いた世界のジャケットよりも性能が低いのはケイジも知っての通りであり、激しい動きの連続にジャケットの性能がついてこれないのだ。

「対して、俺のは万全なんだ。戦うメリットを考えられねぇ能なしじゃねぇだろ、お前は」
「なら、その前に決着をつける。あんたを速やかに殺す」
「生憎と、相討ち覚悟の玉砕に付き合う気はねぇんだよ、ばぁか。
 死にてぇなら一人で勝手に踊って死んどけや、なぁ!!!!」

 サーシェスは背に隠し持っていた軽機関銃を乱射しつつ後退していく。
戦闘ジャケットは銃弾程度を防いでくれるが、それでも、全くの隙を生まない訳ではない。
ほんの数秒。それだけあれば、サーシェスには十分であった。
弾丸の切れた軽機関銃をケイジに投げつけ、脇目も振らずに逃走を始めた。

「それと、放っておいていいのかい! 俺が奪ったジャケットの持ち主さんをよぉ!」
「…………っ」

 その言葉で、ケイジの中で充満していた殺意が一瞬、掻き消えた。
サーシェスが投げかけた言葉、その意味を考え、追いかけようと動いていた足が止まる。
顧みる必要はない。どうせ、もう手遅れだ。そもそも元の世界でちょっと一緒の戦場で戦っただけの仲なんだ、どうだっていい。
そう思っていながらも、ケイジの心には何故かリタ・ヴラタスキが映っている。
自分でも説明がつかない靄が、残っているのだ。
だから、追いかけることができなかった。
まだ捨てきれない、擦り切れていない人間性の証だというかのように。
結局の所、キリヤ・ケイジは自らが思う程、人間性を排除することが徹底できなかっただけなのだ。






◆ ◆ ◆






「さて、見えない刃に切り刻まれる気分はどうだい?」
「……最悪、だな」

 血塗れの剣士と目立った手傷を負っていない道化師。
奇しくも、アサシン同士の死闘となったが、戦況は一方的なものであった。
見えない刃に翻弄された剣心は長所である俊敏性を活かせず一方的に切り刻まれる。
卓越した剣技で致命傷こそ避けてはいるが、このままだと危うい。

(ほんの少しの傷を付けただけにも関わらず、刀が鈍らへと変わった。
 これも宝具か、それともただの特性か。どちらにせよ、決めるなら一撃必殺しかない)

 加えて、キルバーンの身体に流れるマグマの血が攻めの手を鈍らせる枷として、剣心にのしかかる。
おそらく、刀の強度から推測するに、有効となる斬撃はただの一度。それを以って、この刀は形を成すことなく崩れ落ちるだろう。
最悪の場合、令呪による回復、強化といった手段もあるが、相手の手の内を知らぬ今、安易に切っていい手札ではない。

「それでも、折れずに戦う。全く、理解できないね」
「貴様に理解されたくて剣を振るってる訳ではない」

 後ろに退路はない。護らなくてはならないものを放って逃げる程、剣心は塵芥ではなかった。
強く地面を蹴って間合いを縮める。身体はまだ動く。ならば、剣を振るえ。
譲れぬ矜持が胸にある限り、抜刀斎という呪いが植え付けられている限り。

「そこを退け、道化師」

 花弁の如く、剣閃が虚空に咲き誇る。その花の数、合計三つ。
心臓、頭部、胴、と。どれも一撃で葬れるだけの鋭さを備えた一撃である。
傷を負っても尚、失わぬ眼光の力強さ、正しく人斬りの頂点に到達した日の本の侍。
剣戟を数度打ち合った所で見極めるのは困難な刃の嵐を、キルバーンは時に後退し、時にサーベルを盾にしつつ凌いでいく。

「おお、怖い怖い」

 キルバーンのおちょくるような言動を無視し、剣心はひたすらに致命の最適解たる一撃を叩き込む。
甲高い金属音をかき鳴らしながら剣閃の嵐は激しさを増していく。
手にする刀と同化したかのような眼光は強さを更に鋭敏にしていき、熾烈な剣戟の応酬を通しても変わらない。
これが並の人間であるならば、睨みつけられただけで気絶してしまうだろう。
対峙しているだけでも相当なプレッシャーを感じるであろうに、キルバーンは飄々とした態度を崩さず、平面を保っている。
魂が磨り減るとさえ錯覚してしまう重圧感など物ともせずに、彼は言葉を紡ぐ。

「そんなこわい顔じゃあ小さな子に嫌われちゃうよぉ~、もっと笑顔じゃないとさぁ~」

 こんな言葉一つでは揺らがないとわかっていながらも、道化師の性なのか。
キルバーンの軽口は止まらなかった。
知った事か、勝手に言わせておけばいい。剣心からすると彼の口から吐き出される言葉など心底どうでもいい。
人斬り抜刀斎は曲がらない。ただ、明日の平和の為に。少しでも、現実が理想へと近づけるように。
もはや、それ以外に自分に残されたものなど何一つ無いのだから。

(斎藤。新時代はとっくに実現しているなんてこと、わかっているさ。
 桂さん達が、俺達が、血反吐を吐きながら礎となって願いは現実へと浸透した。
 他でもない、平和の為に人を斬り続けた俺だからこそ、その光景は刻まれているさ)

 辿った未来では戦乱こそ終わらないが、人々はしっかりと前へ進んでいる。
それぐらい、剣心にもわかる。
この偽りの街で、人々の営みを見て、望んだ未来の欠片は確かに繋がっていることを改めて知った。

(だが、『俺』にはこれしかないんだ。この願いを携えて刀を振るうことしか、『人斬り抜刀斎』には許されないんだ。
 止められるものではない、諦められるものではない、捨てられるものでは、ない……!)

 それでも、まだ足りないと人斬り抜刀斎は叫んでいる。
恒久の平和を。更なる繁栄を。人々の笑顔を。
それは、願いを叶えて尚、振り払うことができない呪いなのだろう。
振るう刀に揺らぎなし。傷つこうが構いやしない、飛天御剣流に曇りは微塵も見られない。

(悪を斬ろう。善を斬ろう。人斬りに居場所などない。得たはずの幸せも、置いていこう。
 その果てに、俺の、俺達の目指した平和があると信じて――――進んでいこう)

 振るわれたサーベルを躱し、横に一閃。次いで流水のように変幻自在の連撃を重ねるように。
上体を曲げ、軽業師のように次々と斬撃を躱すキルバーンの嘲笑を無視し、剣心はひたすらに命を燃やして斬り続ける。

(この道を、俺は歩み続けると決めたんだ)

 かつて愛した女性と、いつの時か愛するであろう女性。
二人が願った自身の幸せは何処にいったのか。
嗚呼、思い出すことはあれど、今の自分は捨てるのだろう。
平和を作る為だけに生きる人斬りには不要だから。
さぁ、まだ脚は動くし、手は刀を握れるのだ、やることは一つだけだ。

「叩き、斬るっ!!!!」

 妄執そのものが形取ったかのような横顔が、裂帛の一声と共に決意を示した。
力強い一刀がキルバーンのサーベルを押しのけて、仮面へと届く。
しかし、それ以上は伸びず、刃は仮面の表面に傷をつけるだけに留まった。
そのまま斬り落とそうと刃を反転させるも、そこまではくれてやらないのか、刃は空を切る。

「黙ってあしらっていたらいい気になって……! 調子に乗るなよ、屑が!!!!!!!」

 そして、連撃はこれ以上続かなかった。
怒声と共に見えない刃――ファントムレイザーが剣心の身体へと迸り、そのまま深く突き刺さる。
致命傷は何とか刀で防ぐも、到底無視できない傷を負ってしまう。
忙しなく動いていた剣心の身体が止まったその隙を、キルバーンは逃さなかった。
力強い蹴りが剣心の腹へと刺さり、感覚さえ失う程にくるりと回る。
その勢いは後方にいた紫杏の横を突き抜けて、地面に激突するまで数十メートル。床を削りながら、吹き飛んでいく。
慣性を使い果たして、漸く止まった頃には剣心の身体は血塗れで見るに堪えないものであった。

「さてと、邪魔者はいなくなった。ようやく落ち着いて話ができる」
「ふむ、貴方の目的は最初から私であった、と」

 キルバーンはゆっくりと歩みを進め、サーベルを鞘へと仕舞いひらひらと手を振る。
敵意はないということなのか、紫杏へとにこやかににじり寄ってくるキルバーンは先程とは別人のようだ。
理性の混じった声で交渉を投げかけてくる彼に、一考の余地があると判断したのか紫杏は彼の言葉を遮らなかった。

「ええ、あのアサシンは堅物で話が通じないとは思っていたんだ。キミはそんなことはないよね、神条紫杏」
「話の内容次第だな。貴方の陣営と同盟、だったか。
 我慢ができず襲い掛かってきた主様の件はどうするつもりだ?」
「そうそう。ボクもマスターの戦争狂いについてはほとほと困っちゃってさ。
 本当はこんな風に研究所を襲うなんてしたくはなかったんだよ。運悪く、キミ達とも遭遇してしまったしね」

 どの口が言う。紫杏は内心で眼前の道化師が放つ言葉に反論を唱えたが、口に出した所で場が好転する訳でもなし。
ひとまずは彼が口走る戯言にでも耳を傾けることにする。
加えて、背後にいる剣心がダメージから回復するまでの時間稼ぎも兼ねて。

「要は手を切りたいんだよ、マスターと。ボクは戦争好きのバーサーカーじゃない。
 利を見て柔軟に。戦いなんて最小限で切り抜けたい怠け者なんだ」
「では、今のお前は勤労意欲絶賛高まり中の主殿に釣られて、渋々動いていますということか」

 以後も彼は主が如何に面倒くさいか、自分が苦労しているかといったこれまでの随想を長々と語る。
あの狂犬はどうやら好き勝手に気の赴くままにやりたいことを最優先で取り組んでいるらしい。
らしいと言えばらしいが、それを制御する側となっては心身共に磨り減る一方である。

「だから、私達と手を組みたい。内密に隠れ蓑を作りたかった」
「そういうこと。効率良くスマートな振る舞いができる主従とボクは仲を深めたかった」

 しかし、その交渉は最初から破綻していると剣心は言った。
緋村剣心はキルバーンの存在を何一つ信じていない。
言葉でこそ、合意を得られど、後で反故にされると信じ切っていた。
もっとも、交渉事が本業ではない彼に何もかもを投げっぱなしにするのは些か格好悪い。
むしろそういったものは自分こそが担当するべきなのだ。

「君のサーヴァントは聞くまでもなく大反対なんだろうけどね。
 失礼しちゃうなあ、ボクを一見して外道と呼ぶのはいただけない」
「外道であろうが、目的を果たした者こそが正しいし、達成できないのなら意味はない。力がなくては何も護れない。
 努力よりも結果が重んじられる、不正をしてでも勝ちを取る、世界はそういったものを是としているからな」

 例え、誰もが尊んだ正義であろうとも。力がなければただの空想に過ぎない。
そして、人間という生き物は常に取捨選択を強いられている。
正義か、悪か。世界は結果を重要視したがる。

「その通り。いやぁ、話が通じる主様は素晴らしい。
 どうだろう、後ろに転がっている塵芥なんか無視して、ボクに鞍替えしないかい?
 というか、それが本題なんだよね。ボクとしては悪くない提案だと思うんだけど」
「つまり、お前はこの聖杯戦争を勝ち抜ける自信があるということか。大きく出たな」
「それだけの自負があるからね。というよりも、君のお抱えしてる奴より、ボクはよっぽど強いよ」

 不誠実が蔓延り、正当な努力は報われない。 
結果こそが重要であり、伴わない過程に意味はなかった。
どれだけの善行を積もうが、大きな力の前では容易く踏み潰される。
自分のいた世界は正しさを嫌っていた。

 ――世界は正されなければならない。

 そんな歪みのある世界が許せなかった。
正しいことが褒められない世界が嫌いだった。

「なぁ、アサシン。貴様は聖杯に何を願う?」

 人は愚かで浅ましい。
人類という種族が滅びるまで、互いを蹴落とし、憎しみ合う。

「ヒ・ミ・ツと言いたい所だけど、今のボクは機嫌がいい。
 特別に答えてあげるよ、感謝してね」

 もしかしたら、世界は滅ぶべきなのかもしれない。
救う価値なんてないのかもしれない。

「穏やかに日常を謳歌しているであろう物語の主人公を絶望に叩き落とすこと。
 ボクはそのことだけを考えてッ! 今、ここに、いる!!」

 けれど。けれど。けれど――――。 

「キミも、見たことがあるだろう? 正しさを振り回す奴等を。
 馬鹿みたいに正義を掲げて、人々を救済する勇者達のことを。
 ボクは悪徳を好む道化師故に、そういった王道の御伽噺が気に入らない。その正義を踏み躙る為に、英霊として蘇った」

 それでも、世界を救う――歴史の修正、人理修正を掲げたのはきっと、神条紫杏が真面目な子供であったから。
衝動を抑えて現実の不条理を肯定してやれる程、我慢強くなかったから。
誰かがやらなくてはならない命題から紫杏は逃げたくなかった。

「不条理で、醜い世界なんだ。ボクらも好きに踏み潰そうじゃないか?」
「そういうことか。よくわかったよ、悪徳の道化師。
 貴様が下劣な悪を名乗るなら、見過ごすなんてできないな」

 世界は救われなくてはならない。
他ならぬ、人間の手で完膚なきまでに。
遥か未来まで続く泰平の世を奇跡を以って創造する。
その根源にあるのは、誰かの笑顔を護りたいという純粋な意志であって。

「それに、私のサーヴァントはまだ負けていない」

 ――――だから、私/俺達は惹かれ合った。

「遅いぞ」
「すまない」

 瞬間、閃光がキルバーンへと幾重にも迫る。
まさか立ち上がるとは思っていなかったのか、キルバーンは態勢を崩しつつも後ろへと下がり、斬撃の網を何とか躱す。
生き汚さの塊、と。キルバーンは悪態をつきながら、鞘にしまっていたサーベルを再度抜き放つ。

「もちろん、まだ戦えるだろう?」
「当然だ」
「傷の程は?」
「深手ではある。だが、行けるさ」

 血を滴らせ、断続的に息を吐き出して。
緋村剣心は、まだ生きている。刀をしっかりと握り締めて、戦っている。
眼光は先程よりも鋭く釣り上がり、戦意は増している。

「傷は度外視していいなら、強めるべきは他だな」
「一瞬でいい。奴を倒すまで効能が効けば終わる」

 長々とした言葉は不要だった。
キルバーンを殺す。悪を成して悪を滅する。
今までやってきたことと何の変わりもない。
紫杏も、剣心も。見知らぬ誰かの笑顔を踏み躙る悪党を見逃すなんて許せない。
やらなくてはならないことから逃げるのは、到底できやしなかった。
今まさに、諸悪の根源たる道化師が眼前にいるのだ。
やることは一つだけ。その刃を振るい、道化師を断首しよう。

「令呪をもって命じる。貴様の持ち得る全ての才覚、経験を総動員して奴を討て」
「その命――――確かに受け取った」
「はっ、ははははっ! 主従揃って馬鹿だなあ!!!
 これまでの過程を省みてボクに敵うとでも!? 勝機もない戦いに臨むなんて、ああ全く!!!!
 馬鹿は死なないと治らないねぇ、は、ははっ、はははははっ!!!」

 我らは悪を為して悪を滅し、未来を求める者。
自分達の救う世界に、彼のような悪はいらない。
交わす言葉は、これ以上は過分である。
愚直に、いつものように。この血濡れの刃で正義《悪》を執行する。

「いいよ、君達はつまらない! さっさと切り刻まれて、死ねよ!
 この聖杯戦争には馬鹿しかいないのかなあ!!! 反吐が出る、殺してやる、奪ってやる、とことん、全部ッ!!!!!」

 指揮者のように手を振るい、キルバーンは再びファントムレイザーを剣心の進行上に設置する。
見えぬ刃を剣心は読むことができない。今度こそ、彼の息の根を止めるべく入念に。
そうして刻まれた所を串刺しにして晒して、無様な最後を迎えさせよう。
これこそが、愉悦。キルバーンの笑みに含まれた悪徳が膨れ上がっていく。

「なるほど、そこか」
「はぁ……っ!?」

 しかし、キルバーンの思惑とは裏腹に、剣心はファントムレイザーを的確に躱していく。
先程までは為す術もなく苦しめられたものを、いとも容易く攻略する。
当然、その回避は生半可なものではなく、最初からできることではなかった。
令呪により強化された身体能力、侍としての心眼。
そして、相対したことによりキルバーンの心理、戦術を把握した複合的な要素。
幾つも重ねた末に、剣心は彼の見えない罠を打ち破れるようになった。
綱渡りのような絶技で、奇術を全て踏み越えていく。

「ふざ、ふざけるなよ、何で躱すんだよ、ボクの、ボクの必殺だぞ!?」

 キルバーンには理解できなかった。
格下の暗殺者如きが自分を追い詰めるなんて考えもしなかったことだから。
ただ刀を振るうしか能がない英霊などまともに相手をするにも値しない。
本調子でこそないが、やられる要素は少しもなかったはずだ。

「ああ、もう苛立たしい。それなら、燃え盛る業火で――――っ!」
「遅い」

 キルバーンの行動は何もかもが遅すぎた。
彼が次の手段に移る頃には剣心は既に詰みへと手をかけていた。
ファントムレイザーの網を踏み越え、間合いは一足一刀。

「お前は、聖杯戦争を、人間を舐めすぎだ」
「ほざけぇぇぇぇぇえええっっ!!!!!」

 怒声と共に振るわれた感情任せのサーベルの軌道は読みやすく、傷ついた身体であっても悠々に躱す事ができた。
そのまま反転しつつ、遠心力を乗せた一閃を放つ。
飛天御剣流、龍巻閃。銀光はキルバーンの首元をするりと抜けて、見事彼の身体は二つに分かたれた。
最後まで負けることを予測していなかったのか、キルバーンの顔は最後まで憤怒と羞恥心に満ちた醜いものであった。

「終わりだ、道化師」

 これにて決着はつけられた。
道化師と侍の喰らい合いは侍が制し、一幕降りることになる。
手に持った刀は刃がなくなっており、使いものにならないのは一目瞭然である。
主には申し訳ないが、暫くの暇を必要とするだろう。
ゆっくりと紫杏の方へ振り返り、戦果を告げようと一歩を踏み出した時。

「な、に?」

 体内を突き破る冷たい異物に、驚愕を隠しきれなかった。
思いも寄らぬ所――まさか床下から刃が這い出るとは思っていなかったのか。
突然過ぎる刺突に、剣心は身動きが取れずに硬直する。
鋭敏になった直感からすんでの所で霊核こそ躱したが、刃は腹部に深く突き刺さり、身動きが取れない。
突き破られた腹部から刃をそのまま横に引き抜かれる。

「俺は、まだ――ッ!」

 何の反撃もできぬまま死ぬのは、認めない。
剣心はぶらさげた鞘を引き抜き、強く振り払うが所詮は死に体の破れかぶれ。
その一撃は容易く受け止められ、再度刃が突き刺さる。
視界の向こうで紫杏が令呪を発動させようとしているが、きっと間に合わないだろう。

「ここまで、か」

 結局、何も変わらない。
余力を残していなかった剣心が抵抗などできるはずもなく、倒れ伏す。
奇跡へと辿り着くことなく、志半ばで潰えることになる。
これが末路なのだ。血濡れで、本来とは違う有様に成り果ててまで求めた夢の終わり。
霞む視界の先にいる紫杏を見て、力及ばず倒れる自分の不足を呪う。
しかし、心の何処かで安心している自分もいた。
漸く、休むことができる。
歪められた自分を、これ以上陽の目に晒さずに済む。
緋村剣心が至ったものとは程遠い最後だが、これもまた宿命というやつなのだろう。

(なぁ、斎藤。それでも、俺は、諦めたくなかったんだ。この道が間違いじゃないって信じたかったんだ)

 ふと見上げると、金髪の男が刃に変えた右腕を振り下ろそうとしている。
きちんと首も狩ってトドメをさすのだろう。
入念な手口、まさしくこの男もまた暗殺者であると確信した剣心は最後に、嗤う。
闇に生きた緋村抜刀斎らしい、誰にも看取られないくたばり方だ。

 ――これが、人斬りらしい報いを受けた結末だろう、抜刀斎。

 ひどく疲れた笑みを浮かべながら、剣心はそのままゆっくりと目を閉じる。
できることならば。次があるならば。本来の緋村剣心として、何かを為したいものだ。
血染めの刃すら失った剣客は、どうしようもないくらいに孤独だった。






◆ ◆ ◆






 こうなることは最初からわかっていたのかもしれない。
心の片隅で、疑心はあった。心底聖杯の存在を信じてはいなかった。
上げ連ねれば、理由は幾らでもある。
だが、ここで死ぬのは偏に運がなかった。それに尽きるのだろう。
紫杏は特に失態をするでもなく、冷静さを失うこともなかった。
それでも、死ぬ時は死ぬし、幾ら運が悪くとも無様に生き延びる時はとことん生き延びる。
ああ、この世界はいつだってそうだ。
どれだけの努力を積み重ねても、たった一つ。
一つのミスで全てがご破算になってしまう。
仕方がない、とは言いたくなかった。
努力には報いを。正当な見返りが返ってくる世界。
そんな正しさを自分は欲しかった。

「聖杯戦争のマスターだな、排除する」

 眼前の金髪の男――T-1000は剣心を退け、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。
流体の右腕を鋭い刃へと変えて、自分を殺そうとする彼を前に、紫杏は冷静だった。
表情一つ変えず、そっと溜息。
容赦をしてくれるなんて楽観は考える価値もなく。神条紫杏は此処で死ぬ。
敏腕女社長の立場を駆使して下準備をした手間も、苦労して集めた各主従の情報も全てが泡沫となって消えていった。

「結末は結局、変わらず。全く、何だったのかな」

 いつか見た夢の始まり。その終わりを迎える場所がこのような訳も分からぬ世界であるなんて。
それもまた、仕方がないと片付けなくてはならないのだろう。

「しかし、それもまた……あたし、か」

 迫る刃を、受けて、血塊を吐き出して。
死の間際になって尚、世界を正したい、救いたいという願いに色褪せは欠片もなかった。
何度だって。やり直したって。命を賭したって。怖くたって。辛くたって。
神条紫杏はこの選択を選び続けよう。もしも、三度目のやり直しがあったとしても。
迷うことなく、世界を正すと叫ぶだろう。
誰かを救いたければ、誰かを犠牲にするしかない。
紫杏はやり直したいと言った。救済を心に据えた。
この街の犠牲を踏み越えても、愚か者の道を進むと決めた。そして、同じように願いを叶いたいと焦がれる愚か者に当たり前のように踏み躙られた。
ただ、それだけの話であった。






◆ ◆ ◆






「さてと、戦果は上々。欲しかったものは手に入れて、慣らし運転も済んだ。
 お前達はどうだよ、ちゃんと狩ってきたか?」
「勿論さ。抜かりはないよ」

 無事にケイジから逃げおおせたサーシェスは研究所の外にて待機していたピロロと互いの顛末を報告し合っていた。
キルバーン、ピロロにはケイジ以外の人間の始末、そしてこのジャケットスーツを知る者を数名か拉致するように伝えてある。
今、彼が運転しているトラックのボディの中には拉致した人間が放り込まれている。
目が覚めたら適当に尋問、拷問などで心を折ってからジャケットスーツについて色々と聴き込むつもりだ。
そういった荒事で役立つ知識も腐る程に実践してきたのだから、今回も同じようにするまでである。

「ところで、キルバーンはどうした? 姿を見せないでどこで油を売っているんだよ」

 ケイジは知る由もなかったが、ジャケットの不調はサーシェスにもあった。
彼らの本気についてこれなかったのだろう、これに関しては追々調節していく他ない。
今回の騒動で色々と奪ってきたものを有効活用して、更なる戦乱へと羽ばたかなければならない。

「裏で後始末をしているよ、もうちょっとしたら来るんじゃないかなぁ」
「おう、そうか」

 そして、キルバーン達の首尾も上々であるなら言うことはない。
これにて今回は自分達の勝利で一応の決着はつけられた。

「――――なんて、大人しく信じると思ったかよ。令呪を以って命じる。俺の質問には全部正直に答えろ」

 そんな甘い予測を、サーシェスは欠片もしていなかった。
魔力の消費、キルバーン達の暗躍、彼らのごまかしを薄々気づいていたが、これ以上は認められない。
そろそろ彼らがひた隠しにしていた真実に踏み込む時が来たのである。

「な、何を」
「お前が悪いんだぜ? 秘密を抱えるのは別に構いやしねぇ。
 結果さえ出したら詮索なんて必要がないことだからな」

 ファントムレイザーは補充した。研究員を喰らい、何とか戦えるまでにキルバーンを戻した。
これでもピロロは頑張った方だ。そんな裏事情をサーシェスは何も知らない。
彼らを万全であると“勘違い”しているのだ、当然である。

「だが、お前らは遊びすぎだ。戦争、舐めてんじゃねぇぞ。
 全部洗いざらい話してもらうぜ。いいや、話さざるをえないよなあ。
 今のお前は魔力も枯渇寸前で俺を殺したら即座に消滅だ。リベンジできずに惨めな消滅、なんて本意じゃないだろ?」

 だが、その勘違いに踊らされるのもここまでにしよう。
ここから先はもうそんな甘い先見では生きてはいけない。
戦争の熾烈さは更に増し、いつまでも余裕とはいえなくなる。
不確定要素は排除しておきたい。
それは、キルバーン達のことも同じなのだから。
使えない、面白くない駒であるなら、切り捨てるのは自分の方だ。
戦争狂は次の戦争に向けて、再び牙を研ぐ。
愉悦を、もっと阿鼻叫喚を。
逃してやったケイジも、今度は容赦なくぶち殺そう。
くつくつと。低い笑い声がトラック内で浸透し、消えていった。



【神条紫杏@パワプロクンポケット11 死亡】
【アサシン(緋村剣心)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 消滅】




【B-8/とある研究施設 /二日目 午後】

【キリヤ・ケイジ@All you need is kill】
[状態]疲労(大)
[令呪]残り二画
[装備]戦闘ジャケット、バトルアクス
[道具]
[金銭状況]同年代よりは多めに持っている。
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に生き残って、ループを打ち破る。
1.聖杯を取る。その過程で邪魔をする主従は殺す。特にサーシェスは絶対に殺す。
2.アサシン(T-1000)と他のマスターを探す。
3.サーヴァントの鞍替えを検討中。ただし、無茶はしない。というより出来ない。
4.非常時には戦闘ジャケットを拝借する。
[備考]
1.ケイジのループは157回目を終了した時点なので、元の世界でのリタ・ヴラタスキがループ体験者である事を知りません。
2.研究施設を調べ尽したため、セキュリティーを無効化&潜り抜けて戦闘ジャケットを持ち去る事ができる算段は立っています。


【アサシン(T-1000)@ターミネーター2】
[状態]正常、『???』の姿に擬態
[装備]警棒、拳銃
[道具]『仲村ゆり』の写真
[思考・状況]
基本行動方針:スカイネットを護るため、聖杯を獲得し人類を抹殺する。
1.多種多様な姿を取って、情報を得る。
2.マスターらしき人物を見つけたら様子見、確定次第暗殺を試みる
ただし、未知数のサーヴァントが傍にいる場合は慎重に行動する。
3.「仲村ゆり」を見かけたらマスターかどうか見極める。
[備考]
キリヤ・ケイジの私物に液体金属の一部を忍ばせてあるので、どこにいるかは大体把握しています。
アサシン(キルバーン)の身体に液体金属の一部を忍ばせてあるので、どこにいるかは大体把握しています。
なお、魔力探知などにより忍ばせた液体金属が気付かれてしまう可能性があります。


【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]魔力消費(大)、大型トラックを運転中
[令呪]残り二画
[装備]
[道具]銃火器、ナイフなどといった凶器、戦闘ジャケット、パイルバンカー
[金銭状況]当面は困らない程の現金・クレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:戦争を楽しむ。
1. ピロロから事の真実、隠し事を全て聞く。
2.カチューシャのガキ(ゆり)が生きていたら遊ぶ。
[備考]
カチューシャの少女(ゆり)の名前は知りません。
銃器など凶器の所持に関しては後続の書き手にお任せします。
大型トラック内に研究員数名、戦闘ジャケットなどを確保しています。


【アサシン(キルバーン)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 】
[状態]全損
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:――。
1. ――。
[備考]


【アサシン(ピロロ)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]魔力消費(極大)精神疲労(極大) 『サーシェスの質問には全て正直に答える』
[装備]いつも通り
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに付き合い、聖杯戦争を楽しむ。
1.あわわわわ。
[備考]




BACK NEXT
060:その願いは冒涜 投下順 062:審判の刻
060:その願いは冒涜 時系列順 062:審判の刻

BACK 登場キャラ NEXT
050:それは終わりの円舞曲 神条紫杏 GAME OVER
052:そしてあなたの果てるまで(前編)
052:そしてあなたの果てるまで(後編)
アサシン(緋村剣心)
042:生贄の逆さ磔 キリヤ・ケイジ 062:審判の刻
056:無間叫喚地獄 アサシン(T-1000) 062:審判の刻
057:戦の真は千の信に顕現する アリー・アル・サーシェス :[[]]
アサシン(キルバーン) :[[]]
アサシン(ピロロ) :[[]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー