少年達が願いに懸ける想いは狂気であるのか。
片や、空。片や、少女。
どちらの少年の譲れぬモノを糧に剣を振るう。
銀色の閃光が二つ、交差する。
昼間の明るい時でも、誰も通りかからない森の中、木々の合間を縫って動き続ける彼らは、もう止まれない。
少年達は剣に己の願いを込める。この先への道を掴み取るべく、命を懸ける。
片や、空。片や、少女。
どちらの少年の譲れぬモノを糧に剣を振るう。
銀色の閃光が二つ、交差する。
昼間の明るい時でも、誰も通りかからない森の中、木々の合間を縫って動き続ける彼らは、もう止まれない。
少年達は剣に己の願いを込める。この先への道を掴み取るべく、命を懸ける。
「お前がローディである限り、結果は変わらない」
振るわれる剣を軽々といなして、金髪の少年――ボッシュは不敵に笑みを浮かべる。
自分が負けるとは思っていない、未来はとっくに決まっていると言わんばかりの表情だ。
対する少年、スタンの顔は険しく、これから起こるであろう剣劇に顔を顰めている。
自分が負けるとは思っていない、未来はとっくに決まっていると言わんばかりの表情だ。
対する少年、スタンの顔は険しく、これから起こるであろう剣劇に顔を顰めている。
「ローディ? 何が何だか知らねえけど……ッ! やってみなくちゃ、わからねぇだろ!」
「いいや、わかるさ。ローディである以前の問題だ」
「いいや、わかるさ。ローディである以前の問題だ」
互いに上段から剣を振るい、接触。
じりじりと鍔迫り合いを繰り広げ、再度離脱。
互角、とは言えない。事実、彼の振るう剣には余裕がある。
切羽が詰まったスタンの剣では、届かないであろう。
じりじりと鍔迫り合いを繰り広げ、再度離脱。
互角、とは言えない。事実、彼の振るう剣には余裕がある。
切羽が詰まったスタンの剣では、届かないであろう。
「お前、本気で戦う気がないだろ」
「そんなことねぇ!」
「はっ……口では何とでも言える。全く、どいつもこいつも、腑抜けた奴等しかいないらしい。これだと、アイツに追い付くのは楽勝か」
「そんなことねぇ!」
「はっ……口では何とでも言える。全く、どいつもこいつも、腑抜けた奴等しかいないらしい。これだと、アイツに追い付くのは楽勝か」
加えて、スタンは眼前の少年が途方もない力を持っていることを肌で感じていた。
それはまるで、彼の世界にいる化物――星晶獣のようで。
彼の内側にある“何か”が気になって仕方がない。
その“何か”が呼び声を上げているとさえ錯覚してしまうぐらいに、スタンは眼前の死合に集中できていなかった。
それはまるで、彼の世界にいる化物――星晶獣のようで。
彼の内側にある“何か”が気になって仕方がない。
その“何か”が呼び声を上げているとさえ錯覚してしまうぐらいに、スタンは眼前の死合に集中できていなかった。
「冥土の土産に嘲りをくれてやる。お前の剣には決定的に、殺意が足りていない」
そして、告げられた言葉にスタンは微かに身震いをする。
その通りだ。内包するものがとてつもない力であったら。
もしも、星晶獣と同じ力であったら。
幾つもの仮定が頭の中でぐるぐると回り、思い切り良く戦えない。
その通りだ。内包するものがとてつもない力であったら。
もしも、星晶獣と同じ力であったら。
幾つもの仮定が頭の中でぐるぐると回り、思い切り良く戦えない。
「腰抜けに程があるな。願いの有無なんて関係なしに、戦わなければ生き残れない」
スタンには殺意が足りない。
この世界で出会った人達――八神はやてに前川みく。
彼女達は普通の女の子で、殺される理由なんて何もなくて。
だけど、争わなくてはならない。たった一つの椅子を巡って、自分達は殺し合わなくてはならない。
この世界で出会った人達――八神はやてに前川みく。
彼女達は普通の女の子で、殺される理由なんて何もなくて。
だけど、争わなくてはならない。たった一つの椅子を巡って、自分達は殺し合わなくてはならない。
「この世界では戦いこそが肯定される」
「……っ!」
「事実だろう。お前は何を勘違いしているんだ?
俺達がしているのは戦争だろ? 勝つ事以外に価値なんてある訳がない」
「……っ!」
「事実だろう。お前は何を勘違いしているんだ?
俺達がしているのは戦争だろ? 勝つ事以外に価値なんてある訳がない」
その思いは昨晩のチャットにてますます強まっていた。
人を傷つけることを是とするこの世界は、スタンにとっては厳しすぎた。
臆病で、根性なし。
されど、大切な人のことをちゃんと想える彼にとって、何かを切り捨てて生きていくには足りないものがある。
他者への害意が、彼には足りなさすぎた。
人を傷つけることを是とするこの世界は、スタンにとっては厳しすぎた。
臆病で、根性なし。
されど、大切な人のことをちゃんと想える彼にとって、何かを切り捨てて生きていくには足りないものがある。
他者への害意が、彼には足りなさすぎた。
「絆なんて陳腐なものを育む為に、こんな所に来たのか?
なら、さっさと死ねよ。そんなどうでもいいものを振りかざして、俺を阻むな」
なら、さっさと死ねよ。そんなどうでもいいものを振りかざして、俺を阻むな」
まだ、捨てられない。過去の否定を胸に秘めて戦うと誓っても、拭えない優しさはある。
そんな簡単に忘れられるなら、捨て去れるなら苦労はしない。悩んで、悔やんで、諦めて、その果てにこの戦争へと辿り着いたのだから。
その苦悩は簡単にはいなくなってはくれないのだ。
そんな簡単に忘れられるなら、捨て去れるなら苦労はしない。悩んで、悔やんで、諦めて、その果てにこの戦争へと辿り着いたのだから。
その苦悩は簡単にはいなくなってはくれないのだ。
「だんまりか。そんな様だと、願いを叶えることも、這い上がることもできるはずのないか。
劣等だと思っていたが、ここまでとはな」
劣等だと思っていたが、ここまでとはな」
願いの為に、人を殺す。そして、聖杯を手にした果てに、やり直す。
大切な人の笑顔を見たいから、聖杯を望む。
大切な人の笑顔を見たいから、聖杯を望む。
「敵にも成り得ない屑なんだ……戦えないなら、不相応に聖杯を望むな。
蓋を開けてみたら、何も入っていない空っぽのゴミ箱だなんて、笑えてくるよ」
蓋を開けてみたら、何も入っていない空っぽのゴミ箱だなんて、笑えてくるよ」
得られる結果には自分の幸せがなくとも。
それで、満足だ。満足でなければならない。
願いの成就。全てが終わる時、スタンの居場所はない。
それで、満足だ。満足でなければならない。
願いの成就。全てが終わる時、スタンの居場所はない。
「きっと、お前の願いも、大したものじゃないんだろうな」
剣の切っ先が迫る。それは躱さなければ致死の一撃であり、このまま何も抵抗しなければ自分は死ぬ。
これ以上抗った所で何をなせる。この苦しみを抱え続けて何を示せる。
これ以上抗った所で何をなせる。この苦しみを抱え続けて何を示せる。
――諦める時だ。
最後は好きな女の子のことを考えて、死ぬ。臆病者にしては上等な結末ではないか。
「死ね」
それでも、右手を、伸ばして。最後に浮かんだものは、やはり
アリーザがいて、アリシアがいて。誰も欠けることがなかった陽だまりが、脳裏に浮かぶ。
捨て去ると決めたはずだ、その場所にふさわしい人間はもっと他にあると諦めたはずだ。
アリーザがいて、アリシアがいて。誰も欠けることがなかった陽だまりが、脳裏に浮かぶ。
捨て去ると決めたはずだ、その場所にふさわしい人間はもっと他にあると諦めたはずだ。
(それでも、俺は――――俺はっ!)
改めて、強く念じる。その願いの為に死ぬなら、本望ではないか。
戦って、負けて、死ぬ。この戦争でスタンという少年は、大切な女の子のことを想って散る。
報われなくとも、自分は最初の思いを貫き通したのだ。
戦って、負けて、死ぬ。この戦争でスタンという少年は、大切な女の子のことを想って散る。
報われなくとも、自分は最初の思いを貫き通したのだ。
……これで、いいよな。
(しにたく、ない)
――――いい訳、ないだろうが!
「あ、ァあ、あァ!」
突き出された刺突を弾き、本能的行動で地面を蹴り、後退する。
吐き出される息は断続的で、平常とは言い難い。
剣を握り締める力は掌に血が滲む程強く、滴り落ちる汗は数滴にも及ぶ。
死にたくない。ただそれだけで、今の自分は此処にいる。
最後の瞬間、考えたのは――自分のことだった。
誰かのことを想って死ぬなんて、夢想譚は所詮空想である。
ヒーローのような死に方なんて、自分にはできない。
吐き出される息は断続的で、平常とは言い難い。
剣を握り締める力は掌に血が滲む程強く、滴り落ちる汗は数滴にも及ぶ。
死にたくない。ただそれだけで、今の自分は此処にいる。
最後の瞬間、考えたのは――自分のことだった。
誰かのことを想って死ぬなんて、夢想譚は所詮空想である。
ヒーローのような死に方なんて、自分にはできない。
(どうして、死ななくちゃいけない)
英雄でもなく、勇者でもない。
血統も家柄もごく普通の一般人が、できるものではなかった。
血統も家柄もごく普通の一般人が、できるものではなかった。
(どうして、諦めなくちゃいけない)
こんな思いでは願いを紡げない。今の自分は間違っている。
彼らを捨て去ろうとしている自分を否定する為の思考に、引き寄せられている。
彼らを捨て去ろうとしている自分を否定する為の思考に、引き寄せられている。
(どうして、譲らなくちゃいけない)
もし本当に彼らを捨て去るのであれば、その行動の残酷さを、きちんと理解しなければならない。
自分がいない世界、彼女達がそれを是とするのか。
そして、スタン自身がそれを許せるのか。
自分がいない世界、彼女達がそれを是とするのか。
そして、スタン自身がそれを許せるのか。
(ああ――――そうか。そういうことか)
いくら強くても、自分では護れない。傍にいる資格がない。
そんな理屈なんてどうでもよかった。
口では犠牲になると言いながら、結局自分はどうしても捨てきれなかったのだ。
あの場所、あの日常、大切であった人達。全部、スタンにとって拭えないものだった。
大切で、失いたくないもの。自分の命を引き換えにしてでも、奪われたくなくて。
そんな理屈なんてどうでもよかった。
口では犠牲になると言いながら、結局自分はどうしても捨てきれなかったのだ。
あの場所、あの日常、大切であった人達。全部、スタンにとって拭えないものだった。
大切で、失いたくないもの。自分の命を引き換えにしてでも、奪われたくなくて。
(俺は、自分の大切な居場所を誰かに譲れる程、大人じゃなかったんだ)
それらを他者に譲って満足できる訳がなかった。
自分が紡いだものを捨てることの重さ、そして代償を正しく理解できていなかった。
その代償を払える程、スタンは我欲を捨てきれなかった。
自分が紡いだものを捨てることの重さ、そして代償を正しく理解できていなかった。
その代償を払える程、スタンは我欲を捨てきれなかった。
(俺が……他でもない、俺自身が、アリーザを護りたかった)
ちっぽけで俯いてばかりの自分。
そんな自分を変えたくて、変わりたいと願って。
強くて、かっこよくなりたかった。
誰かの特別になりたかった。
揺らぎなんてものはない、そんなお伽噺の中にいるようなヒーローになりたかった。
そんな自分を変えたくて、変わりたいと願って。
強くて、かっこよくなりたかった。
誰かの特別になりたかった。
揺らぎなんてものはない、そんなお伽噺の中にいるようなヒーローになりたかった。
「奪われて、たまるかよ」
ぼそりと口から吐き出された言葉に込められた想いこそが、きっと本当の願い。
大切な少女を救える、強さ。
誰かが代わりに護る? ふざけるな、全部、自分が護る。
誰よりも、どんな英雄よりも、勇者よりも――強くなって、彼女を背に追いやれるような強者へと!
星晶獣なんて軽く蹴散らせる狂気にも通じる強さがスタンは欲しい。
大切な少女を救える、強さ。
誰かが代わりに護る? ふざけるな、全部、自分が護る。
誰よりも、どんな英雄よりも、勇者よりも――強くなって、彼女を背に追いやれるような強者へと!
星晶獣なんて軽く蹴散らせる狂気にも通じる強さがスタンは欲しい。
「俺の居場所は、俺だけのものだ。譲ってなんか、やれない……!」
その為に、聖杯が必要なら、スタンは戦おう。
戦いの果てで、黄金の奇跡を掴むことで、世界すらも凌駕しよう。
剣も振るおう、血が滲んでも、気合で振ろう。
痛みなど知った事か、強くなる為ならもう迷いはない。
覚悟は定まった。負けられない、戦わなくてはいけない理由はこの胸に刻み込んだ。
この魂を焦がす焔は既に自分の中で燃え広がっている。
先程までは震えて、揺らぎがあった切っ先は既に真っ直ぐと敵へと向いている。
人を斬るという重みも理解した。殺すことで喪うものもきっとあるだろう。
されど、スタンにとって願いを捨てることはもっと重かった。
これから自分は明確な敵意を以って、人を殺す。
自分の手を血で汚すことを心から、受け入れる。
戦いの果てで、黄金の奇跡を掴むことで、世界すらも凌駕しよう。
剣も振るおう、血が滲んでも、気合で振ろう。
痛みなど知った事か、強くなる為ならもう迷いはない。
覚悟は定まった。負けられない、戦わなくてはいけない理由はこの胸に刻み込んだ。
この魂を焦がす焔は既に自分の中で燃え広がっている。
先程までは震えて、揺らぎがあった切っ先は既に真っ直ぐと敵へと向いている。
人を斬るという重みも理解した。殺すことで喪うものもきっとあるだろう。
されど、スタンにとって願いを捨てることはもっと重かった。
これから自分は明確な敵意を以って、人を殺す。
自分の手を血で汚すことを心から、受け入れる。
「まだ、俺の道を阻むのか」
「阻むさ……っ、何度でも!」
「阻むさ……っ、何度でも!」
その強さが、褒められる形で得た強さではないのはわかっている。
汚れきった手で掴む奇跡が、上等な結末を与えてくれる保証なんてない。
アリーザ達が望む強さでないことも重々承知の上で、スタンは強くなりたい。
それでも、強くなりたい、と。誰にも負けない、鬼神の如き強さを欲しいと焦がれるのだ。
汚れきった手で掴む奇跡が、上等な結末を与えてくれる保証なんてない。
アリーザ達が望む強さでないことも重々承知の上で、スタンは強くなりたい。
それでも、強くなりたい、と。誰にも負けない、鬼神の如き強さを欲しいと焦がれるのだ。
――だから、最強を手に入れにいこう。
スタンという臆病で弱い少年が、納得できる形で彼女達の傍にいるには、強くなくてはならない。
自分がそうしたいから。アリーザの為ではなく、自分がそうでなくては許せないから。
誰にも負けないぐらい強くなって、彼女の横にいる。
それは空に謳う十天衆のように。強くなくては護れない世界があるから。
自分がそうしたいから。アリーザの為ではなく、自分がそうでなくては許せないから。
誰にも負けないぐらい強くなって、彼女の横にいる。
それは空に謳う十天衆のように。強くなくては護れない世界があるから。
「怖いとか、辛いとか、どうだっていい。
俺は誰よりも、強くなる。聖杯を使ってでも、強くなる。そうならなきゃ、俺は……俺の世界を護れない」
俺は誰よりも、強くなる。聖杯を使ってでも、強くなる。そうならなきゃ、俺は……俺の世界を護れない」
数分前まで全身に残留していた迷いは、とっくに消えていた。
この身体は剣を振るい、強さを目指す者として適応している。
この身体は剣を振るい、強さを目指す者として適応している。
「この聖杯戦争を勝ち抜いて……俺は、アリーザに追いつくよ」
「…………追い付く、ね」
「…………追い付く、ね」
どんな手を使ってでも、強くなる。
奇跡を司る聖杯を手に入れたら、きっとありとあらゆる脅威から彼女を護ることだってできるし、悩むことなんて何もなくなる。
前を征く彼女がもう不当な危難に巻き込まれることのないようにだってできる。
奇跡を司る聖杯を手に入れたら、きっとありとあらゆる脅威から彼女を護ることだってできるし、悩むことなんて何もなくなる。
前を征く彼女がもう不当な危難に巻き込まれることのないようにだってできる。
「何にせよ、邪魔だよ、お前。勝つのは、俺だ」
「そうだな。俺もお前が邪魔だ。それと、勝つのはお前じゃねぇ、俺だよ」
「そうだな。俺もお前が邪魔だ。それと、勝つのはお前じゃねぇ、俺だよ」
その為に、眼前の敵を屠る必要があるなら、そうするだけだ。
そして、此処が聖杯戦争である以上、戦闘は止まらない。
元より、二人には止まるつもりはなかった。
余力がある内に、敵を斬る。
黄金の奇跡を掴み取るべく、彼らは直走るしかないのだから。
そして、此処が聖杯戦争である以上、戦闘は止まらない。
元より、二人には止まるつもりはなかった。
余力がある内に、敵を斬る。
黄金の奇跡を掴み取るべく、彼らは直走るしかないのだから。
――だから、殺す。
彼らは同時に地面を蹴り、剣を上段より振り下ろす。
そして、接触と同時に離脱。次いで、再度の接触。
その繰り返しが数秒にて、数度行われる。けたたましく、二つの閃光が空を切り砕く。
両者共に、狙いは致命の一撃を与えられる心臓である。
通常の人間であれば、心臓をぶち破れば死ぬ。この剣を突き立てれば、殺せるのだ。
そして、接触と同時に離脱。次いで、再度の接触。
その繰り返しが数秒にて、数度行われる。けたたましく、二つの閃光が空を切り砕く。
両者共に、狙いは致命の一撃を与えられる心臓である。
通常の人間であれば、心臓をぶち破れば死ぬ。この剣を突き立てれば、殺せるのだ。
「ローディ風情が、俺をてこずらせてくれるな!」
しかし、ボッシュの剣から振るわれる刺突、薙ぎを慎重に捌くだけでもギリギリである。
相対しているからこそわかる。眼前の彼は決して口先だけではない。
幼少の頃より、積み重ねた経験、技量があるのだろう。
誰かを踏み躙ってでも願いの為に突き進む覚悟。
自分だけではなく、彼もまた、願いを持ち、聖杯を必要とする者である。
誰だって何かを背負っている。
戦わなくては生き残れない、戦わなくては願いを叶えられない。
相対しているからこそわかる。眼前の彼は決して口先だけではない。
幼少の頃より、積み重ねた経験、技量があるのだろう。
誰かを踏み躙ってでも願いの為に突き進む覚悟。
自分だけではなく、彼もまた、願いを持ち、聖杯を必要とする者である。
誰だって何かを背負っている。
戦わなくては生き残れない、戦わなくては願いを叶えられない。
(そうだ、誰だって死にたくない。俺だって、こいつだって。
他にも、高尚な願いを持ってこの戦争に臨んでいる奴だっているかもしれない。
やむを得ずこの戦争に臨んでいる奴だっているかもしれない。
…………はやてちゃんのように、前川さんのように)
他にも、高尚な願いを持ってこの戦争に臨んでいる奴だっているかもしれない。
やむを得ずこの戦争に臨んでいる奴だっているかもしれない。
…………はやてちゃんのように、前川さんのように)
この戦争の参加者が、心から戦いを肯定する人間ばかりではないこともスタンは知っている。
八神はやてのように家族を慈しむ者であったり。
前川みくのように友人を案じる優しき者であったり。
武器を振るい、戦うことを選べない彼女らを、護る選択肢こそが勇者であり、英雄なのだろう。
アリーザがいたら、きっとそういった皆が幸せになれる可能性を信じるに違いない。
八神はやてのように家族を慈しむ者であったり。
前川みくのように友人を案じる優しき者であったり。
武器を振るい、戦うことを選べない彼女らを、護る選択肢こそが勇者であり、英雄なのだろう。
アリーザがいたら、きっとそういった皆が幸せになれる可能性を信じるに違いない。
(そんな人達を――俺は殺すと決めた)
けれど、スタンはその可能性よりも自分の欲望を手に取った。
最後の一人となって聖杯を取ろうと決めた。
誰かの為ではなく、自分の為に。
何もできない自分を払拭し、前へと進むべく、スタンは剣を握る。
強くなければ、傍にいることすら敵わない。
あの居場所を護れず、膝を屈するなんて、認められるものか。
だから、戦うことを胸に刻んだ。
振り向かず、全速力で走り切って、奇跡を掴み取る。
前へと、一心不乱に突き進む。
恐怖を願いの強さで踏み越えられた今なら、刃が届くはず。
最後の一人となって聖杯を取ろうと決めた。
誰かの為ではなく、自分の為に。
何もできない自分を払拭し、前へと進むべく、スタンは剣を握る。
強くなければ、傍にいることすら敵わない。
あの居場所を護れず、膝を屈するなんて、認められるものか。
だから、戦うことを胸に刻んだ。
振り向かず、全速力で走り切って、奇跡を掴み取る。
前へと、一心不乱に突き進む。
恐怖を願いの強さで踏み越えられた今なら、刃が届くはず。
「苛立たしいんだよ、ローディが願いを持つなんて烏滸がましい!」
その為には、今繰り広げられている剣閃の雨を潜り抜けなければならない。
このまま剣撃を凌ぐだけではジリ貧である。
一刻も早くこのマスターを殺して、瑞鶴を援護しなければならないのだ。
彼女達が離れてから結構な時間が経ったのだ。残された時間はもう少ないであろう。
一旦、距離を置き一息。地力で劣る自分が勝つには運が必要だ。
相手がまだ自分のことを侮っている、この瞬間こそが勝機。
長引いてしまうと、此方が競り負ける。
このまま剣撃を凌ぐだけではジリ貧である。
一刻も早くこのマスターを殺して、瑞鶴を援護しなければならないのだ。
彼女達が離れてから結構な時間が経ったのだ。残された時間はもう少ないであろう。
一旦、距離を置き一息。地力で劣る自分が勝つには運が必要だ。
相手がまだ自分のことを侮っている、この瞬間こそが勝機。
長引いてしまうと、此方が競り負ける。
「俺の全力を、想いを込める!」
疾走開始。スタンは持ち前の素早さを活かし、一足にて、間合いに入る。
対するボッシュもスタンが大技を繰り出してくるだろうことはわかっていた。
しかし、その構えは不動。全部受けきってみせるという意志の表れであろう。
互いの剣には魔力が宿り、今か今かと開放を待ち望んでいる。
スタンは疾走の勢いのまま空中に飛翔。そして、くるりと回転しつつ全力の振り下ろしを放つ。
対するボッシュもスタンが大技を繰り出してくるだろうことはわかっていた。
しかし、その構えは不動。全部受けきってみせるという意志の表れであろう。
互いの剣には魔力が宿り、今か今かと開放を待ち望んでいる。
スタンは疾走の勢いのまま空中に飛翔。そして、くるりと回転しつつ全力の振り下ろしを放つ。
「ベリテェッ!」
「獣剣技――――!」
「獣剣技――――!」
対するボッシュも一点集中とばかりに、剣を構え、貫き通す。
二つの力が衝突し、破裂する。空気が巻き上げられ、地面が震える瞬間こそが――!
二つの力が衝突し、破裂する。空気が巻き上げられ、地面が震える瞬間こそが――!
「クラージュァッ!!!!」
「弐獣葬ッッ!!!」
「弐獣葬ッッ!!!」
――世界が一変するその時である。
互いの攻撃は相殺され、二人は勢いのまま吹き飛ばされる。
殺すと誓った一撃だった。されど、その切っ先は相手へと届かない。
両者もどかしさを感じつつも、再び空いた距離をどう埋めるべく思考する。
コンマ一秒、奇しくもスタンとボッシュの思考は一致した。
殺すと誓った一撃だった。されど、その切っ先は相手へと届かない。
両者もどかしさを感じつつも、再び空いた距離をどう埋めるべく思考する。
コンマ一秒、奇しくもスタンとボッシュの思考は一致した。
「っらァ!!!」
「ふっ!!!」
「ふっ!!!」
接近して、叩き斬ればいいだけだ、と。
上段、下段、左右と閃光が入り乱れ、衝撃音と金属音の多重奏が奏でられる。
是非もなし。傷を付けて無理矢理にでも隙を作る。
突きのフェイントからの横薙ぎをバックステップで回避しつつ、スタンは次なる一手を剣に込めた。
何の変哲もない風塊の一撃――ライオットソード。
もっとも、これは牽制のようなものだ、相手を倒せるとは欠片も思っちゃあいない。
上段、下段、左右と閃光が入り乱れ、衝撃音と金属音の多重奏が奏でられる。
是非もなし。傷を付けて無理矢理にでも隙を作る。
突きのフェイントからの横薙ぎをバックステップで回避しつつ、スタンは次なる一手を剣に込めた。
何の変哲もない風塊の一撃――ライオットソード。
もっとも、これは牽制のようなものだ、相手を倒せるとは欠片も思っちゃあいない。
(少しでも、相手の余力を削れたら……!)
ライオットソードで相手のガードがぐらついている内に、もう一度斬り込む。
先手必勝。今度こそ勝負を決めるべく、スタンは剣に力を込める。
先手必勝。今度こそ勝負を決めるべく、スタンは剣に力を込める。
「…………っ!?」
そう思っていた矢先のことだった。
ボッシュは近くの木々を切り倒し、後ろへと撤退していくではないか。
分が悪いと思ったのか、それとも何か危難を感じたのか。
ともかく、相手はこの戦場を離脱しようとしている。
追いかけるべきか。それとも、留まるべきか。
高揚した戦意は追撃を主張しているが、頭の片隅にある冷静さはその選択肢を押し留めていた。
ボッシュは近くの木々を切り倒し、後ろへと撤退していくではないか。
分が悪いと思ったのか、それとも何か危難を感じたのか。
ともかく、相手はこの戦場を離脱しようとしている。
追いかけるべきか。それとも、留まるべきか。
高揚した戦意は追撃を主張しているが、頭の片隅にある冷静さはその選択肢を押し留めていた。
(いや、これ以上の戦闘はキツいか。無理をする必要はない)
思考を重ねるにつれ、冷静さを取り戻したスタンは、そのまま自分も撤退することに決めた。
ひとまずは引き分けた。一対一で死なずに戦えたという戦果を今は良しとしよう。
目の前の勝負に勝つことではない、最後まで生き残ることこそが聖杯戦争では重要なのだ。
強くなろうという熱い心だけではない、戦局を見極める冷静な判断力。
それもまた、強くなる過程では不可欠である。
ひとまずは引き分けた。一対一で死なずに戦えたという戦果を今は良しとしよう。
目の前の勝負に勝つことではない、最後まで生き残ることこそが聖杯戦争では重要なのだ。
強くなろうという熱い心だけではない、戦局を見極める冷静な判断力。
それもまた、強くなる過程では不可欠である。
「次は、殺してみせる」
口から出た言葉は自然と剣呑なものであり、瑞鶴辺りが聞いたら血相を変えて心配する程に殺意が満ちていた。
何かを得るには、何かを捨てなければならない。
仕方ないと割り切って剣を振るうのは本来の彼を知る者からすると、考えつかないものであり。
殺す。そう言ったスタンの横顔は、アリーザ達が望む姿ではないと、今のままでは理解できないだろう。
否、それを理解する機会はもう永久に来ないのかもしれない。
強くなることへの欲望を知り、受け入れた彼が元に戻ることはきっと、ない。
強さを求めて、大切なものを少しずつ捨てて。その果てで、全てを失くして、死ぬだろう。
何かを得るには、何かを捨てなければならない。
仕方ないと割り切って剣を振るうのは本来の彼を知る者からすると、考えつかないものであり。
殺す。そう言ったスタンの横顔は、アリーザ達が望む姿ではないと、今のままでは理解できないだろう。
否、それを理解する機会はもう永久に来ないのかもしれない。
強くなることへの欲望を知り、受け入れた彼が元に戻ることはきっと、ない。
強さを求めて、大切なものを少しずつ捨てて。その果てで、全てを失くして、死ぬだろう。
■
(油断が過ぎたか。魔力を喰われて、本来の戦いをこなせないなんてな)
舌打ちをしながら、ボッシュはある程度の距離を稼いで、一息をついていた。
本来の状態であるなら、撤退など選ばないが、今のボッシュはサーヴァントを使役するマスターだ。
心置きなく、相手を殺すまで戦闘は到底できたものではない。
無論、殺せる者は殺すが、先程の相手は少し手間がかかる。
そして、分かれて動いているブレードトゥースが激戦を繰り広げているのか、些か、魔力を消費しすぎた。
このままでは万が一の場合もある。負けるつもりこそないが、不測の事態に陥って討ち取られるなど、笑い話にもならない。
業腹ではあるが、念には念を入れて、だ。
本来の状態であるなら、撤退など選ばないが、今のボッシュはサーヴァントを使役するマスターだ。
心置きなく、相手を殺すまで戦闘は到底できたものではない。
無論、殺せる者は殺すが、先程の相手は少し手間がかかる。
そして、分かれて動いているブレードトゥースが激戦を繰り広げているのか、些か、魔力を消費しすぎた。
このままでは万が一の場合もある。負けるつもりこそないが、不測の事態に陥って討ち取られるなど、笑い話にもならない。
業腹ではあるが、念には念を入れて、だ。
(また、俺は逃げた。戦略上仕方がないとは言え、逃げたことに変わりはない。
あいつは、絶対に殺す。俺の道を阻むだけではなく、汚点に成り得るなら尚更、殺さないと……)
あいつは、絶対に殺す。俺の道を阻むだけではなく、汚点に成り得るなら尚更、殺さないと……)
生きていたら、何れまた相対することもあるだろう。
いいや、生きていて貰わなくては困る。
前日に逃げた主従含めて、邪魔な人間は全て蹂躙しなければならない。
それぐらい、できなければ、リュウには追いつけない。
未開の空を開いたであろう彼に及ぶだけではない、追い抜くぐらいのことをしなければ、ボッシュはの真の意味で勝者足りえない。
いいや、生きていて貰わなくては困る。
前日に逃げた主従含めて、邪魔な人間は全て蹂躙しなければならない。
それぐらい、できなければ、リュウには追いつけない。
未開の空を開いたであろう彼に及ぶだけではない、追い抜くぐらいのことをしなければ、ボッシュはの真の意味で勝者足りえない。
「次は、殺す」
ボッシュが目指すのはただ一つ。
リュウの背中を追い越し、今度こそ自分が勝つこと。
聖杯戦争など、あくまで過程だ。自分が到達すべき世界は、願いは、別にある。
空が開けた世界で、もう一度決着を。
今度こそ、自分が勝つ。何度だって、勝つまで。
リュウの背中を追い越し、今度こそ自分が勝つこと。
聖杯戦争など、あくまで過程だ。自分が到達すべき世界は、願いは、別にある。
空が開けた世界で、もう一度決着を。
今度こそ、自分が勝つ。何度だって、勝つまで。
――それが、“俺”だ。
瞬間、胸の奥底で、“何か”が脈動した気がした。
今はまだ眠っている、それでいて、雌伏の時でいる“何か”。
まだ、機は熟していない、と。
運命にたしなめれたかのように、その脈動は一瞬にて終わった。
今はまだ眠っている、それでいて、雌伏の時でいる“何か”。
まだ、機は熟していない、と。
運命にたしなめれたかのように、その脈動は一瞬にて終わった。
【C-7/二日目 午後】
【スタン@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(大)
[令呪]残り三画
[装備]剣、ギターケース
[道具]教材一式
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取り、強くなる。
1.誰が相手でも、殺す。そうするだけの願いがある。
[備考]
[状態]魔力消費(大)
[令呪]残り三画
[装備]剣、ギターケース
[道具]教材一式
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取り、強くなる。
1.誰が相手でも、殺す。そうするだけの願いがある。
[備考]
【ボッシュ=1/64@ブレス オブ ファイア V ドラゴンクォーター】
[状態]魔力消費(極大)
[令呪]残り3画
[装備] 獣剣
[道具]ロッドケース
[金銭状況]奪った分だけ。今は余裕がある。
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、空を見に行く。
1.撤退。次にスタンと相対した時は殺す。
[備考]
NPCを何人か殺害しています。
バーサーカーを警戒しています。
[状態]魔力消費(極大)
[令呪]残り3画
[装備] 獣剣
[道具]ロッドケース
[金銭状況]奪った分だけ。今は余裕がある。
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、空を見に行く。
1.撤退。次にスタンと相対した時は殺す。
[備考]
NPCを何人か殺害しています。
バーサーカーを警戒しています。
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ボッシュ=1/64 | :[[]] |