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化語(バケガタリ)

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化語(バケガタリ) ◆LxH6hCs9JU



 暗澹たる空には闇の帳がかかり、直下で蠢く者を密とする。
 のっぺりした容貌の男が一人、沈痛な面持ちで死者のむくろを運んでいた。
 名を如月左衛門。甲賀卍谷衆が一人にして、変顔の忍者である。

 左衛門が慎重に運ぶは、彼の忠臣にして甲賀卍谷衆が頭目、甲賀弦之介の遺体であった。
 四肢をもがれ、首を失い、それはそれは見るも無残な亡骸であったが、左衛門に泣き言はない。
 左衛門の後ろでは、髭面の男がいやらしい笑みを浮かべながら歩き付いていた。
 彼奴の名はがうるん――仏を辱めることに一切の躊躇もなき卑劣漢である。

 甲賀と伊賀あいまみえる忍法殺戮合戦の折、左衛門が巻き込まれたのは別の争乱であった。
 うぬら、座椅子を奪い合わん――服部家無縁の輩に生殺与奪の権利を剥奪され、左衛門は酷く憤慨した。
 だが、好都合でもある。ここには朧ら伊賀者も多く集っているがゆえ、争乱に紛れれば絶好の好機也!
 否、好機云々にほくそ笑む己が愚鈍であったのだと、弦之介のむくろに詫びを入れつつこれを葬った。

 舞台の端、飲み込まれれば一巻の終わりであろう黒き壁を前にし、左衛門は弦之介をこれに投げ入れたのだ。
 絶対に露見してはならぬむくろ、埋没する一寸先は闇……だからこそ好都合。
 長年のあいだ仕えてきた君主に、追悼の意を告げ、また別れも告げる。

 ああ、それにしても……。

 忌々しい……実に忌々しい……後ろのがうるんなる男がこれ忌々しい……。

 如月左衛門が忠臣、甲賀弦之介の首を抱えるは――甲賀者ではなくこのどことも知れぬ馬の骨なのだ!

 忌々しい……なんと忌々しい……呪詛の念で人が殺せたならば、なんと良きことか。

 忍法怨念縛り――死なれよがうるん。うぬの辿ろう黄泉路は闇なれど。――



 ◇ ◇ ◇



 甲賀弦之介の《境界葬》が終了した後、ガウルンと如月左衛門の原野での会話である。

「おなごに化ける……ともなれば、いささか面倒であろうよ」

 と、如月左衛門が言った。
 おなごに化ける。つまりは、女性に変装する。性別を偽るともなれば、それはたしかに容易ならないだろう。
 さすがのジャパニーズ・ニンジャも女には化けれないってか、とガウルンは嘲笑気味に言い返した。

「面相が問題なのではない。厄介なのは髪よな。少々の長さならば伸ばすこと容易じゃが……おぬしの言う千鳥なるおなご。
 これはいかほどか……ほう。腰ほどとな。ますますもって面倒な……完璧に化けるとなれば、皮を剥ぎ被る必要とてあろうな」

 と、如月左衛門が言った。
 ガウルンが左衛門に化けて欲しいターゲットは現状二人。カシムとウィスパードの女――相良宗介と、千鳥かなめである。
 女性である千鳥かなめの外見的特長を言葉で説明すると、左衛門はやはり難しいとこれを返した。
 長髪のおなごは厄介極まりない。毛皮を被るとまではいかずとも、かつらをこしらえる必要があろうよ、と。

「逆に、男ともなれば容易なものよ。その相良なる男、体格のほどはどうか。ほう、おれとさして変わらんとな。
 ならば結構。我が同胞に鵜殿丈助なる太っちょの男がいたが、あれほどになるとおれでも難しくなってくるのでな」

 と、如月左衛門が言った。
 左衛門の忍法はあくまでも顔だけを変えるものである。となれば、体格のほうはどうにもならないのだろう。
 標的と比較すれば左衛門の体格に無理はないが、意外と融通が利かないんだな、とガウルンはこれをなじる。

「ああ、丈助は太っちょのなかの太っちょだったゆえ。それはそれは、並大抵の太っちょではなくての。
 少々の背丈くらいならほれ、間接を外し骨を伸ばすことでどうとでもなる。心配せずとも上手くやってみせよう」

 と、如月左衛門は自信ありげに言った。
 仕事柄、間接外しの技など見るに珍しいものでもない。しかしそれで体格を変えるともなれば、目を見張る。
 髪は最悪短くしたとしても問題はないだろうし、胸には詰め物をすればいい。女に化けることとて、不可能ではないのだ。

「だが、気にかかるのは声……そしてしゃべりかたよの。男であろうが女であろうが、一度覚えた声を真似ることなんぞ容易い。
 まあ、女の声色は男と比べつかれるが、些細なことよ。声を真似きれたとて、話し方で見破られることこそ心配と言えよう」

 と、如月左衛門はガウルンの声で言った。
 違和感もない、完璧な自分の声が返ってくる。いや、違和感ならあった。その時代錯誤な口調だ。
 ジャパニーズ・ニンジャの掟かなにかだろうか。用いる言語こそ日本語だが、この左衛門の喋りは妙に芝居がかっている。

「がうるんよ。おぬし、なにゆえそのような珍妙な言葉遣いを用いる? いったいどこの者じゃ?
 ……聞かぬ名よの。しかし不思議と、おぬしの言葉を理解できておるのは……まこと奇怪な」

 と、如月左衛門は訝りながら言った。
 すべての言葉をそっくりそのまま返したい、とガウルンは顰め面を見せながら思った。
 カシムに化けるにしても千鳥かなめに化けるにしても、たしかにこの喋り方ではすぐにバレてしまうだろう。
 どうにかして矯正させる必要があるか、とガウルンは面倒くさそうにぼやいた。

「ところでがうるん。おぬしにはおれの化けの皮が剥がれる瞬間を見られたが……どうじゃ?
 今度は実際に、おれの顔が変わる瞬間を拝みたくはないか? 変ずる顔は、そう――うぬの顔じゃ」

 と、如月左衛門が言った。
 不意の提案に、ガウルンはなるほどと唸る。妙案かもしれない。
 カシムにとっても千鳥かなめにとっても、ガウルンは顔を合わせたくはない存在として認識されているだろう。
 そんな顔が、いざ対面となった折に二つ聳えていれば……相手方の驚く様を想像しただけで、楽しくなってくる。

 しかしガウルンは、その手には乗らねぇよ、と如月左衛門の案を一蹴した。
 左衛門がどのようにして顔を変えるのかは知っている。変わるべき顔をまず泥につけ、型を取るのだ。
 この提案をのむということはつまり、ガウルンが自らの意思で泥土に顔を埋める必要がある。
 それは左衛門にとって好機以外のなにものでもないだろう。なにしろこの男、ガウルンに対し純然たる殺意を秘めているのだから。
 泥土に顔を埋めた瞬間、そのまま頭を押さえつけ窒息死させようという左衛門の魂胆がみえみえだった。

「……まあよいわ。機会はその、相良や千鳥の顔を手に入れてからで遅くはあるまい。
 是が非にでも、おぬしに見事なものと言わせてみせようぞ。おお、そのときが楽しみじゃ。――」

 と、如月左衛門は本心を語るでもなく言った。
 白々しい。ガウルンは我慢し切れず、声に出して左衛門の白々しさを嘲笑った。
 いつ噛み付いてくるとも限らない下僕。しかし首輪を繋ぐのは頑強な鉄のリードだ。
 主君たる甲賀弦之介の首を抱えるガウルンに、左衛門はどこまで逆らえるものか……それがおもしろくもある。

「してがうるん。どこへ向かう? ……しがいち、とはまた、奇異なことを申す。
 ふん。不知ではあるがそれも仕方なかろうよ。ここは、卍谷とは空気が違いすぎるでな」

 と、如月左衛門は尋ねつつ言った。
 とりあえずは町に出よう。このような人気も薄い原野では、獲物も見つかりにくいというもの。
 市街地に向かうと言っただけで首を傾げる左衛門の馬鹿さ加減に、わずかながらの不安を覚えつつも。
 おいおい大丈夫かぁ、と零してガウルンは移動を開始する。



 ◇ ◇ ◇



 原野を越え、景色が移り変わると同時に驚愕が生まれた。
 立ち並ぶ民家の様は、如月左衛門にとってまさに都……を越える、魔都と称すに値すべきものであった。
 彼の知らない言葉で説明するならば、カルチャーギャップ。ここは、左衛門にとっては未来の街並みなのだ。

「なんと。不気味じゃ……まるで土塀の上を歩いておるような……なんと不気味なことか……。
 しかしこれはことぞ、がうるん。おれの忍法は粘度の良い泥がかなめゆえ、このような地面では。――」

 と、如月左衛門は地面の感触を確かめつつ言った。
 彼が土塀のようと言い表す足元の石畳は、現代においてはアスファルトという名を持つ。
 雨天時の泥寧化や乾燥時の砂塵、車両の走行等に耐え得るための一般的な舗装であり、日本では珍しいものでもない。
 この男、ジャパニーズ・ニンジャと思いきや辺境の原住民かなにかなのか……、とガウルンは頭を抱えた。

 たしかにこのような硬い地面では、左衛門の言うとおり変顔の忍法も役立たずとなるだろう。
 だからといって騒ぎ立てるほどのことでもない。泥土が必要になったらば、そのつど町から出ればいいだけのこと。
 ゆえに市街地の中心までは足を伸ばさず、山のふもと辺りでの活動を徹底する、とガウルンは説いた。

「ほほう……いや、それならば文句もない。多少は窮屈でもあるがの、そこは我慢しようかい。
 物見遊山としゃれこむわけではないが、いやはやこれほどの奇観、めったに拝めはしないだろうよ」

 と、如月左衛門は周囲を物珍しそうに眺めながら言った。
 なんという田舎者だろうか。世界各地を渡り歩いてきたガウルンとて、これほど妙な男は見たことがない。
 いや、この反応はもはや異常ですらある。まるで、生まれてきた時代を間違えたかのような……。

 ……と考えたところで、所詮は些事。
 いずれは殺す、その程度の男なのだから、彼の生まれに疑問を抱いたところで甲斐もない。
 大切なのは殺すまでの間、この男をどう御するか。左衛門の忍法は、ガウルンの趣向にとてもよく合う。
 彼の顔を利用し、カシムや千鳥かなめを欺き、そして生まれる反応が、ガウルンは見たくて見たくて仕様がないのだ。
 その一瞬のためならば、多少は面倒であっても狂犬を飼い馴らすこと躊躇わない。
 それほどのサディストなのである、このガウルンという男は。

 まず手にかけるは、カシムか千鳥かなめか、それとも御坂美琴や例のガキと面識を持つ者か。
 想像するだけで下卑た笑いが滲み、気分が高揚してくる。

「殺すのはかまわんが、顔を潰しはせんでくれよ。深い傷などあればまこと厄介なものでな。
 いや、元来のものであるならかまわん。しかし化けるのが目的とあらば、気をつけるべきぞ」

 と、如月左衛門は忠告として言った。
 変顔の術理は聞いた。万が一額に穴でもあけてしまえば、それすらもかたどってしまうのが左衛門の忍法。
 多少の傷ならば泥土で型を作る際に修正できるだろうが、大きなものとなると厄介なのは容易に想像がつく。
 カシムなどは元々生傷の耐えない男であり、顔にも傷があったが、逆にそれすらもかたどれることを称賛するべきだろう。

「すぐに殺すのもまずい。声はもとより、しゃべりかたの癖なども覚えておかねばならぬからな。
 顔を変える。――これのみならば容易なものじゃが。縁者を欺くともなれば、さらに心得る必要があろうな」

 と、如月左衛門はしつこくも忠告として言った。
 この時代錯誤の男に、カシムや千鳥かなめの喋り方を一からレクチャーするというのも骨が折れる。
 理想としては、標的を捕らえ、左衛門の目の前でいくらか喋らせてから息の根を止める。といったところだろうか。

「別に死人でなくともよいぞ。寝込みをさらい、泥土に顔を埋め型を取るでも良し。そこは任せる。
 ふっ、目覚めたところで瓜二つの顔があるともなれば、何者も奇声を上げずにはいられなんだろうよ」

 と、如月左衛門は付け加えて言った。
 名も知らぬ輩ならともかく、カシムや千鳥かなめをすぐに殺してしまうというのも惜しい。
 どうせならばたっぷりと怨嗟の声を上げさせ、その身を堪能しつくした上で殺したいものである。

「してがうるん。このままあたりを練り歩き獲物を探すか? それともなにかあてがあるか?
 はしっこ……とな。ふうむ、弦之介様を葬ったあの壁か。たしかに気にかかるしろものではあるが」

 と、如月左衛門は西の方角を見やりつつ言った。
 ガウルンたちがいるこの場所は、地図で確認すれば南西の端――すぐ隣に黒い壁が聳える地区である。
 一見して人の立ち寄ることも少なそうな地域ではあるが、ガウルンはここで待ち伏せするのも良しと考えた。
 なにしろこの会場は絶海の孤島というわけではなく、黒い壁とやらも遠目では夜空にしか映らないのだ。

 ならば誰かしらがこう考えるはずである――西へ抜ければ、この場から脱出できるのではないか。

 火事場から逃げ延びようとする野うさぎをしとめる。簡単なダック・ハント。
 夜が開け、日が昇れば黒い壁も存在感を表し始めるだろうから、狩るなら夜間のほうが都合がいい。
 待ちの戦法は正直退屈ではあるものの、それも朝までと考えれば苦ではない。
 それまでは――

「いや、まことあっぱれな男よな。少々、おぬしにも興味が湧いてきた。どうじゃろうがうるん。
 弦之介様の首を返さんか? なに、即座に斬りかかろうことなんぞあるまいて。おれはおぬしを買うておる」

 ――傍らの復讐心に滾る男を、せいぜい手懐けておくとしよう。




【E-1/一日目・早朝】



【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲 ガウルンに対して警戒、怒り、殺意
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:当面はガウルンに従いつつも反撃の機会をうかがう。
2:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
3:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました

【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(中)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:夜が明けるまでは待ち伏せしに徹し、会場の端から逃げようとする者を襲撃する。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。
3:それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
4:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
5:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心には向かわないにようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。



※弦之介の首なし死体は黒い壁の向こう側に葬られました。



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