ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

箱――(白光)

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箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU



 【0】


 寝てばっかり?
 人間って普通はこのくらい寝るだろ。



 ◇ ◇ ◇



 【1】


「 ――友! 大丈夫か、助けにきたぞ。一緒にぼくたちの家に帰ろう 」
「 うに? なにいってんのさいーちゃん。ここ、僕様ちゃんの新居。眺めもよくてさいこーだぜー 」
「 そうか。じゃあお前だけは生き残れ、ぼくはここで朽ちる。でも、お前の中からは消えない 」
「 そういうきざっぽいの、いーちゃんには似合わないよ。でも悪い気はしないね、うん、僕様ちゃん惚れなおしちゃう 」
「 あっ、だめだ。この世界はもうお終いだ。二人で一緒に死のう。最後の最後に本当に宇宙を破壊してやろう 」
「 わー! いーちゃんが壊れた! ネガティブ! ネガティブいーちゃん、それでも僕様ちゃんを愛すの巻だね! 」
「 いっそ結婚しよう! ぼくたちは史上最後のアダムとイブだ。世界の終わりまでえっちぃことばっかしようぜ 」
「 おーいえー! 望むところだ! 僕様ちゃんの色香でめろめろにしてやるぜ! チキンじゃないいーちゃん好きっ! 」

 じたばた。
 じたばたばたじた。
 じたばたばたじたばたじたじたばたばた。

 毛布お化けにシーツお化け。
 蒼い色の少女が白に包まりベッドの上を転げ回る。

 それはもはや寝相が悪いの一言で済ませられるほどの有り様ではなく、ベッドの上はフェスティバル状態だった。
 容赦ない現実が襲い来る世界で、蒼色一人だけが夢心地。なにに阻まれるでもなく、大いに憚って、夢に浸る。
 現実逃避などではなく、これは待望。もしくはもっと根本的な、睡眠という名の行為。意味があるとすればそれだけ。
 多くの人間は夜に寝るものである。寝るのが遅けりゃ朝まで寝てる。起きるのがつらけりゃ昼まで寝てる。

 寝ながらに悶えるこの《死線の蒼》。
 いったいつまで寝ているのか。いったいいつになったら起きるのか。
 問題としては難問。しかし回答としては単純でいて明快。蒼色は白の部屋に、唯一の答えを提示する。

 ――いーちゃんが迎えに来てくれるまでだよ。

 白い部屋はうんざりする。漂白したような白の部屋に、《死線の蒼》が放つ色彩は強烈すぎた。
 白と蒼が混ざればどんな色に変わっただろうか。正解は蒼。どれだけ白の比率を多くしようと、蒼は白にはならない。
 ゆえに蒼は白になど構わずのさばり続ける。この領域は既に、白の寝室ではなく蒼の寝室であるから。

 蒼い髪が満ちる白のベッドを、まだ蒼には染まっていない白の扉が見つめた。
 この扉を開け放つ者は、まだ訪れない。訪れるまで蒼は退去を承諾しない。
 蒼に侵略されたままの白い部屋。ずっとこのままですか、と悩ましげに閉まる。

 この白い部屋とて、数十時間後には黒に侵略されてしまうのだ。

 いくら蒼とて、黒と混ざれば蒼を保てなくなってしまうだろう。

 ならばもし、そのときが来たのなら。蒼はどうなってしまうのか。



 ◇ ◇ ◇



 【2】


「――の名前を書き足しておくといい。全く無意味なこと、ではないだろう」

 天から降ってくるぶっきら棒だが親切なその言葉。神託などでは決してない、非情の通告。
 内容が内容なため、放送自体の原理を追求しようとする者はまずおらず、謎として永遠に放置される。
 科学の粋を結集して作製された超高機能拡声器か、はたまた対象無差別の広域テレパスか、
 それとも遠話の基礎を改良し範囲を拡大させた狐オリジナルの自在法か、よもやある国の伝統か。
 誰が興味を抱き、思索し、真相に辿り着くというのだろう。皆が皆、一秒後の自分を憂うこの土地で。
 余裕がある子は考えるべき。頭がいい子は考えるべき。たまの出番を考察にあててみろ、と。

「うにっ?」

 蒼色は――玖渚友は、一時的にだが目覚めた。

「んー……なんだか理不尽なお目覚め気分。いーちゃんいないし。この僕様ちゃんが、いーちゃん以外の目覚ましで起こされるだなんて……」

 仮説。放送の正体は“目覚まし時計”。六時間きっかりに行われるそれは、確かに優秀な目覚まし時計と言えよう。
 ただ、性能は些かきっかりすぎる。六時間後より早く起きたくても、六時間よりも長く寝ていたくても、融通が利かない。
 時間指定できない目覚まし時計など目覚まし時計にあらず。それは単なる騒音。寝ていたいのに起こされる、迷惑な騒音。
 しかも大切な部分は既に終わってしまっているようだった。

「むかつくー! 寝なおすー!」

 蒼色は再びベッドに沈み込んだ。あれだけじたばたとしわくちゃにされたシーツは、なおも柔らかさを失わない。
 蒼と白のグラデーション、いっそのことコラボレーション。時折蠢動してみせるのは、単なる寝返りなのだろうか。

 むくり。

 放送という名のぽんこつ目覚まし時計が鳴り終わり、数十分と数十秒後のこと。蒼色は再び起き上がった。
 不機嫌そうに白の壁面を眺め、睨み、見やり、一箇所だけ白とは言えないそこ、東を映す窓へと目を向ける。

「どうせだから、確認しておこうかな」

 たまの出番に一仕事、なんて思ったのかどうかは白にはわからない。蒼は白には理解できない色だった。
 蒼はどこまでも白に無遠慮で、その奔放さはむしろ自由の色。さて、この場合の自由の色とは何色か。はて。

「うんうん、ちゃんと黒い壁だね。夜のときは気づきにくかったけど、朝になったらくっきりだ」

 窓辺に立ち、東方へと繋がる風景に目を焼く蒼。その遥か先に水平線は見えず、代わりに“黒い壁”が聳え立っている。
 あれこそが、いずれの黒。いつか迫り来る黒。この蒼色とて、この白の寝室とて、未来には蹂躙してしまう無慈悲なる黒。

 窓は東側にしかついていない。ゆえに北と南と西は確かめようがなかったが、蒼は他三方にも黒い壁が立つと判ずる。
 つまり、世界の四方に黒い壁。夜の闇とは似て非なる漆黒。外界では何人の人間がこれに驚いていることだろうか。

「けどそれって、太陽の光が遮られてるってわけじゃないんだよね。天井はちゃんと空色だし」

 窓辺にむぎゅっと顔をくっつけて、蒼色は北でも南でも東でも西でもなく上、あるいは宇宙の方向を観察する。
 朝で、空、と言えば当然そこは青色。蒼ではない、空色と称すのが相応しかろうもう一つの青。雲が混じって白混じり。

「“蓋”は開いているわけだ。当然だね。蓋が開いてなけりゃ、“箱”に詰め物はできないんだから」

 ほわぁ~、とあくびをしながら語る蒼色。相槌を打つ隣人はそこにはおらず、孤独な講釈が続く。
 空には蓋。北と南と東と西と、それらの方角には壁。蓋と壁。蓋がなくて壁だけがあり、壁の数は徐々に増えていく。

 蒼色はこの世界を“箱”と仮定する。

「思索の時間です。考えるのは僕様ちゃん、寝ぼすけモード」

 以降は玖渚友の思考領域――才ある者にしか理解できないそれを極めて簡易に表した試行錯誤の結果。


「んー、今が六時半くらいだから……箱の中身はこんな感じーっと」


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 □□□□☆□
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「ここの☆んとこは僕様ちゃんの城。■はやられちゃった部分で、□はまだ無事なとこ。
 無事って言ってもずっとじゃないんだよね、これ。三日も経てば僕様ちゃんの城も含めてこうなっちゃう」


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 ■■■■★■
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「うわ、まっくろだ。時計回りにこう、ぐるーってなるから、猶予は意外とあるんだけどね。
 たとえば、僕様ちゃんのお城がだめになっちゃうのははじまりから51時間後のこと」


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「うにうに。最終的には刑務所の中に立てこもるのが一番安全かもね。あんまり居心地よろしくなさそうだけど。
 それにしたって僕様ちゃん、この部屋気に入っちゃったし。となると、いーちゃんはいつ頃ここに辿り着くだろう?」


 1)いますぐ    2)ずっと先    3)ぎりぎり    4)甲斐性なし
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「僕様ちゃん的には1番しかありえないんだけどなー。でもこの後二度寝するつもりだから、2番くらいが好ましくはあるかも。
 どうしよ。目印くらいつけといたほうがいいかな? けど手持ちのアレだと目印どころの騒ぎじゃなくなっちゃうし。
 うにー。拡声器かなんか欲しい感じかなー。探しに行こうかな、どうしようかな。摩天楼の中なら、探せばありそうだけど」


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「ああ、うん。そう。そうだね。詰め物が70時間分続いたら、最終的にはそうなる。周りは黒で、白はその一点だけ。
 黒い部屋に一箇所だけ白があるなんて、まるで今の僕様ちゃんみたいだね。こっちは白い部屋に蒼色だけどさ。
 けどね、違うよ。これは違う。僕様ちゃんはいーちゃんが来てくれるまではここにいるつもりだけど、
 その後もこの部屋に居続けるってわけじゃないんだよ。だからだから、最終的にはこうなる」


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 ■■☆■■■
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「☆は僕様ちゃんといーちゃん。他にも誰か残るかもしれないけれど、二人が二人でいるのは絶対条件だね。
 最終的には箱の中も□で埋まっちゃうだろうけど、そのとき☆がどうなってるかは――――ふわぁ~」


 以上が玖渚友の思考領域――誰の役に立つわけでもない、たまの出番に意味を持たせるための一考。

「眠い……僕様ちゃんの出番しゅーりょー。うに、よく働いた。んじゃ、寝るー」

 思考をやめた蒼色は再びベッドになだれ込む。ダイブとともにシーツを巻き込みでんぐり返し、白を纏った。
 そのまま奏でられる寝息の曲。ぐーぐー、と早くも熟睡しているようだった。玖渚友、寝るときはとことんまで寝る子である。
 それでも、いーちゃんが来てくれればすぐにでも起きるよ、と告げておいて。



 ◇ ◇ ◇



 【3】


 これより約63時間後――この“箱”の世界は“黒”に詰められ、“白”一点を唯一の光とする。
 その一点に“蒼”や戯言遣いが残れるかどうかは知れず、“蓋”が閉められる時をただただ待つ。

 6×6の構造は“□”に埋め立てられるか、“□”を残したまま上方の“蓋”を破壊してしまうか。
 玖渚友は、《死線の蒼》は真に“☆”足る存在と言えるのだろうか。“白”い部屋には知れない。

 摩天楼であり、最高級マンションであり、死線の寝室でもある、なのに“白”い部屋。
 たとえるなら“赤”と言える魔術師の音声を遮ってみせたそこは、狐の声だけは届けた。
 部屋に審議を問うほど無為なこともない。死線の寝室は何者にも侵されぬ不可侵領域。

 箱の中の箱――因果孤立空間“封絶”――滞在は三日までという旅人のルール。

 蒼色はいつ頃からこの部屋にいたのか、外の世界は本当に箱なのか、扉はまだ開けられたわけではない。
 蒼色一人、蚊帳の外に置かれた“ただ寝ているだけの存在”なのだとしたら――という仮定。
 起床を求めるのはお門違いなのか、白雪姫の眠りを覚ますあの原理は適用されるのか、考えよ。

 sleeping beauty――覚醒は超難易度――眠りという幻想を壊せるか――巡る――流れる。

 寝るのか起きるのか、枠内なのか枠外なのか、起きるのか起こされるのか、白いのか蒼いのか、
 光なのか闇なのか、開くのか開かないのか、生きているのか死んでいるのか、朽ちるのか果てるのか、
 いーちゃんなのか王子様なのか、蓋なのか栓なのか、櫃なのかサイコロなのか、□なのか■なのか、☆なのか。

 全部ひっくるめて、まあ、他愛のない戯言。

 出番の無駄遣い。
 出演料は二度寝のしあわせ。
 次の出番はたぶん、狐の目覚まし二回目に。

 人間、起きている間は発情期だから。らぶいお相手が来なければ、起きるに起きられない。
 寝るときは寝る。食べるときは食べる。それが蒼色のスタイル。白部屋に陣取ってまでの、流儀。
 次は昼。おなかが空く頃に、愛しのいーちゃんはどこでなににどれだけ触れているのでしょうか。

 東の窓から見える黒い壁はより鮮明に。北と南と西の壁も同じく鮮明に。見てはいないが見るまでもない。
 何色であろうと玖渚友は慌てない。慌てる玖渚友ならとうに果てている。白の部屋に保護されて。

 まるでこの部屋だけが別世界。



【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・朝】

【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
 基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
 1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
※第一回放送を聞き逃しました。



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