ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
FRAGILE ~さよなら月の廃墟~
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FRAGILE ~さよなら月の廃墟~ ◆MjBTB/MO3I
少女達は、温泉に到着した。
そして入り口近くで、無残な姿に成り果てた人間らしきものを発見した。
嫌な予感が過ぎった。櫛枝実乃梨の友人である北村という名の学生のことが気になったのだ。
今すぐ室内へと突入し、現状を知るべきだろう。
そして遂にいざ突撃。と言わんばかりにそれぞれが一歩踏み込んだときである。
放送が始まった。
放送では、人名が十も並んだ。
その中には少女達が知る者の名が含まれていた。
最後の名は、今まさにやっと会えると思った相手である。
他の二人とて、ここにいる二人の少女にとって、絶対に欠けてはならぬ存在であった。
茨の道を突き進もうと意気込んでいた最中に出鼻を挫かれたばかりか、親愛なる仲間かつ恋敵である少女を失い、動揺するシャナ。
故に何がなんだかわからない、といわんばかりに呆けたまま放送を聞き終わった櫛枝実乃梨。
学園のクラスメイトの名が並べられなかったことに安堵はするも、だが周りの少女二人の反応を見たことで迷い、沈黙する木下秀吉。
三者三様。反応多々。
だがこうしてはいられないのが現実。
少女達は室内へと飛び込んだ。
シャナは櫛枝実乃梨と共に北村祐作の遺体を目撃した。入り口の"あれ"と比べ綺麗なのが救いか、と考えるのが精一杯であった。
櫛枝実乃梨は沈黙し、遺体を眺めるばかり。
木下秀吉は居なかった。思うところがあったのか、シャナと櫛枝実乃梨には着いてきてはいなかったのだ。
ここでの反応も、三者三様。
そしてシャナは櫛枝実乃梨に自分をしばらく一人にするよう懇願され、承知する事となる。
奇しくも民家での会話の後の如く、一つの施設の中で再び離れ離れとなった少女達。
物語は、そこから始まる。
◇ ◇ ◇
温泉に到着した途端、私達はとんでもないものを見た。
そしてそれを見た瞬間、私達はとんでもない放送を聴いた。
そして急いで建物の中に入ったとき、信じられないものを、見た。
そしてそれを見た瞬間、私達はとんでもない放送を聴いた。
そして急いで建物の中に入ったとき、信じられないものを、見た。
もう、いつもの櫛枝実乃梨としての私は、ここで既に崩れてた気がする。
混乱するしかなくて、もう何もいえなかった。唐突過ぎて涙すら流れなかった。
何もかもが嘘だと信じていたかったけど、そうはいかなかった。
なんで? どうして? いつ? なにが? 一体?
色々な疑問系の言葉が浮かぶけれど、喉から向こうには出て行かない。
本当にショックなことが起こるとさ、言葉って出ないものなんだね。
今やっと実感したよ。おかげでわかったよ。
混乱するしかなくて、もう何もいえなかった。唐突過ぎて涙すら流れなかった。
何もかもが嘘だと信じていたかったけど、そうはいかなかった。
なんで? どうして? いつ? なにが? 一体?
色々な疑問系の言葉が浮かぶけれど、喉から向こうには出て行かない。
本当にショックなことが起こるとさ、言葉って出ないものなんだね。
今やっと実感したよ。おかげでわかったよ。
だからさ……ねぇ、誰か教えてよ。
今から私に答えを。誰でも良いから、答えを聞かせて。
今から私に答えを。誰でも良いから、答えを聞かせて。
なんで、どうして、北村くんは死んでるの?
放送とかいうやつでそう言われて、そんで温泉についてみたら中で倒れてて。
いや、それだけじゃなくて、温泉の入り口には誰か知らない人が血を流して倒れてて。
その人、もう体中傷だらけで、その所為でどんな姿してるのかも解り辛くなってて。
北村くんはお腹刺されて痛そうで、放送でも呼ばれて。
どうしてこんな事になってるの? ここってさ、何なの?
それに……それだけじゃ、ない。
いや、それだけじゃなくて、温泉の入り口には誰か知らない人が血を流して倒れてて。
その人、もう体中傷だらけで、その所為でどんな姿してるのかも解り辛くなってて。
北村くんはお腹刺されて痛そうで、放送でも呼ばれて。
どうしてこんな事になってるの? ここってさ、何なの?
それに……それだけじゃ、ない。
「高須……くん、まで……っ!」
どうして高須くんの名前まで呼ばれちゃってるの? どうして今? よりによって今?
あのさ、放送で呼ばれたって事は、死んでるって事だよね? そういう事だったよね?
あのさ、放送で呼ばれたって事は、死んでるって事だよね? そういう事だったよね?
駄目だよもう。北村くん、駄目だよ。最初は放送が嘘かもしれないって望みもあったのに。
それなのに、北村くんが放送の言うとおり死んでたんなら、信じるしかないじゃん。
大丈夫大丈夫、って言えないじゃん。
どうして一気に居なくなるの? どうして一緒に消えちゃったの?
大河が泣くよ? あいつ泣き虫なの知ってるよね? それなのになんで死ぬの?
お前らそんなことがわからないような馬鹿じゃねえだろ……!
それなのに、北村くんが放送の言うとおり死んでたんなら、信じるしかないじゃん。
大丈夫大丈夫、って言えないじゃん。
どうして一気に居なくなるの? どうして一緒に消えちゃったの?
大河が泣くよ? あいつ泣き虫なの知ってるよね? それなのになんで死ぬの?
お前らそんなことがわからないような馬鹿じゃねえだろ……!
駄目だ、もう駄目だ。
あんなに言い聞かせてたのに、誰も欠けちゃ駄目なんだって解ってたはずなのに。
出鼻を挫かれたとか、そんなレベルじゃない。最初から駄目だったんだ。
もう駄目だ。あの時の私は、もうどこにも居ない。
あんなに言い聞かせてたのに、誰も欠けちゃ駄目なんだって解ってたはずなのに。
出鼻を挫かれたとか、そんなレベルじゃない。最初から駄目だったんだ。
もう駄目だ。あの時の私は、もうどこにも居ない。
ねぇ、北村くん、お願い。また名前を呼んでよ。
櫛枝! って、元気良くさ、呼んでよ……呼んで! 呼べよ!
いつもみたいに……ねぇ、解るよね!?
そうじゃないと、さっきも言ったけど、高須くんまで死んじゃったんだって余計に実感しちゃうじゃんか!
起きてよ、死んだなんて嘘だって立ち上がって言ってよ! あんたクラスのボスだろ!?
櫛枝! って、元気良くさ、呼んでよ……呼んで! 呼べよ!
いつもみたいに……ねぇ、解るよね!?
そうじゃないと、さっきも言ったけど、高須くんまで死んじゃったんだって余計に実感しちゃうじゃんか!
起きてよ、死んだなんて嘘だって立ち上がって言ってよ! あんたクラスのボスだろ!?
大丈夫だって、言ってよ。
起き上がって、何事もなく、さ。名前、呼んでよ……。
起き上がって、何事もなく、さ。名前、呼んでよ……。
◇ ◇ ◇
櫛枝実乃梨の懇願に合わせ、シャナと我は共に別の場所に移動した。
とは言え室内であることには変わりは無く、彼女の見えぬ場所に移動しただけの事である。
因みに木下秀吉も何か思うところがあったのか、全員での死体発見後には外へと退出していた。
その行動に至ったのは、櫛枝実乃梨に気を使った事も起因しているであろう。
同時に先刻の櫛枝実乃梨の如く、独りで整理するためか。
まあ、そんな事は良いのだ。
とは言え室内であることには変わりは無く、彼女の見えぬ場所に移動しただけの事である。
因みに木下秀吉も何か思うところがあったのか、全員での死体発見後には外へと退出していた。
その行動に至ったのは、櫛枝実乃梨に気を使った事も起因しているであろう。
同時に先刻の櫛枝実乃梨の如く、独りで整理するためか。
まあ、そんな事は良いのだ。
さて。
我等がこの温泉という施設に到着した時刻、あの"人類最悪"と名乗りし男の"放送"が開始された時刻。
これは正しく同刻。一点のずれも無い、ある種"偶然の無駄遣い"とでも言えるものであった。
ではその放送などと言う悪趣味かつ不愉快極まりない催しの開始と
目の前に存在する亡骸との邂逅までもが同刻であったのも、偶然というものなのであろうか。
シャナが辺りを警戒する中、放送を聴いたことで激しく動揺したらしい櫛枝実乃梨が無防備にも建物に突入し
あまつさえ知り合いであったという少年の遺体をも発見してしまったのも、偶然と呼ぶべき事象なのであろうか。
ではその放送で他に高須竜児という名と、この我とも深い関わりを持つ少女、吉田一美の名が同時に呼ばれたのは?
よりにもよってこの様な悲劇が、"間髪入れず"という言葉が良く似合う程に重なったのは?
悩ましいことに、実に腹立たしい事にそれらすらも是。偶然であろう。
我等がこの温泉という施設に到着した時刻、あの"人類最悪"と名乗りし男の"放送"が開始された時刻。
これは正しく同刻。一点のずれも無い、ある種"偶然の無駄遣い"とでも言えるものであった。
ではその放送などと言う悪趣味かつ不愉快極まりない催しの開始と
目の前に存在する亡骸との邂逅までもが同刻であったのも、偶然というものなのであろうか。
シャナが辺りを警戒する中、放送を聴いたことで激しく動揺したらしい櫛枝実乃梨が無防備にも建物に突入し
あまつさえ知り合いであったという少年の遺体をも発見してしまったのも、偶然と呼ぶべき事象なのであろうか。
ではその放送で他に高須竜児という名と、この我とも深い関わりを持つ少女、吉田一美の名が同時に呼ばれたのは?
よりにもよってこの様な悲劇が、"間髪入れず"という言葉が良く似合う程に重なったのは?
悩ましいことに、実に腹立たしい事にそれらすらも是。偶然であろう。
何もこうまで重なる事は無いのではなかろうか。
入り口には誰とも知れぬ人間の骸。
放送で流れしは、事実であると認めるにはあまりにも酷であろう名の羅列。
建物の中に隠されていたのは、櫛枝実乃梨の友人らしき少年。これもまた骸。
更には鷹の屍骸と何者か……の、骸。
ここまで連続して事件が起こるとは我も想定外であった。正しくこれは"まさかの出来事"である。
結局は我も油断、もしくは楽観視に近いものを抱いていたのだ。今更の事ながら理解する事が出来た。
何たる失態か。これでは天罰神の、アラストールの名が泣くというものではないか。
放送で流れしは、事実であると認めるにはあまりにも酷であろう名の羅列。
建物の中に隠されていたのは、櫛枝実乃梨の友人らしき少年。これもまた骸。
更には鷹の屍骸と何者か……の、骸。
ここまで連続して事件が起こるとは我も想定外であった。正しくこれは"まさかの出来事"である。
結局は我も油断、もしくは楽観視に近いものを抱いていたのだ。今更の事ながら理解する事が出来た。
何たる失態か。これでは天罰神の、アラストールの名が泣くというものではないか。
放送を聴いたシャナは沈黙を貫いていた。否、沈黙せざるを得なかったという表現が正しいであろう。
無理も無い。あの吉田一美が死んだという信じ難き悲報が届いたのだ。
シャナの"友人"という言葉には収まりきらぬ程に関わった人間。
一人の調律師との邂逅によって、この世界における"我々の領分"にまで踏み込まざるを得なくなってしまった人間。
だがそれでも強く生きていた。シャナと遜色無き程に堅き決意に満ちたあの眼は、美事な宝石とも呼べよう。
我も認めた、坂井悠二も認めた、"蹂躙の爪牙"や"不抜の尖嶺"も、そしてシャナも認めた強き少女。
そして同時に、ある種"あのシャナの最大の宿敵"と化して立ち塞がる事ともなった人間。
その様な、我々にとっては云わば"特別の存在"の内の一人であるあの吉田一美が、我々の及び知らぬ場所で命を落とした。
腹立たしい。と同時に、哀しく思う。吉田一美の死自体にも、そしてシャナがそれに心傷める姿を見せられる事にも。
"人類最悪"よ、やはり貴様の名は貴様に相応しい。全く以って最悪である。
無理も無い。あの吉田一美が死んだという信じ難き悲報が届いたのだ。
シャナの"友人"という言葉には収まりきらぬ程に関わった人間。
一人の調律師との邂逅によって、この世界における"我々の領分"にまで踏み込まざるを得なくなってしまった人間。
だがそれでも強く生きていた。シャナと遜色無き程に堅き決意に満ちたあの眼は、美事な宝石とも呼べよう。
我も認めた、坂井悠二も認めた、"蹂躙の爪牙"や"不抜の尖嶺"も、そしてシャナも認めた強き少女。
そして同時に、ある種"あのシャナの最大の宿敵"と化して立ち塞がる事ともなった人間。
その様な、我々にとっては云わば"特別の存在"の内の一人であるあの吉田一美が、我々の及び知らぬ場所で命を落とした。
腹立たしい。と同時に、哀しく思う。吉田一美の死自体にも、そしてシャナがそれに心傷める姿を見せられる事にも。
"人類最悪"よ、やはり貴様の名は貴様に相応しい。全く以って最悪である。
「アラストール……」
シャナが、ようやく口を開いた。だがその声色からして宜しくない。
何を言おうとしているかは想像がつかぬが、だが内容が正負どちらに傾いたものかは想像がつく。
何を言おうとしているかは想像がつかぬが、だが内容が正負どちらに傾いたものかは想像がつく。
「最低だね、私……最低だ」
やはり、そうか。自分をそう責め立てようと言うのか。
その様な姿は見たくは無い。炎髪灼眼の名に似合わぬぞ。
責めるにはまだ早い。一つも取りこぼさぬ様に茨の道を進むという姿勢は確かに見た。
何、決して仕方が無かったとは言わぬ。互いに覚悟は足りなかったのだ。
次回からは気をつけよ、という言葉は不適切であろう。故に今は何も言わぬ。
笑えなどという無理難題を押し付けるつもりも無い。
正直我も今、何を言うべきか言葉に詰まっておるのだが……。
お前があの覚悟を表現したあの言葉をお前自身が嘘にする事を、我は望んでおらぬだけなのだ。
もう何も言うな。シャナよ、あの時の民家での事は何……
その様な姿は見たくは無い。炎髪灼眼の名に似合わぬぞ。
責めるにはまだ早い。一つも取りこぼさぬ様に茨の道を進むという姿勢は確かに見た。
何、決して仕方が無かったとは言わぬ。互いに覚悟は足りなかったのだ。
次回からは気をつけよ、という言葉は不適切であろう。故に今は何も言わぬ。
笑えなどという無理難題を押し付けるつもりも無い。
正直我も今、何を言うべきか言葉に詰まっておるのだが……。
お前があの覚悟を表現したあの言葉をお前自身が嘘にする事を、我は望んでおらぬだけなのだ。
もう何も言うな。シャナよ、あの時の民家での事は何……
「違う!」
違う?
「違う……私、もっと醜いこと、凄く酷いこと考えた! 最低なこと、考えたの……。
私、一美が死んだって言われたとき……一瞬だけど、少し、安心した自分が居た……!
一美とは正々堂々勝負するって、闘うって言ったのに、そんな事考えた!
そんな事で勝っても誰も嬉しくないのに……これなら私の元に来てくれるんじゃないかって……そんな……!」
私、一美が死んだって言われたとき……一瞬だけど、少し、安心した自分が居た……!
一美とは正々堂々勝負するって、闘うって言ったのに、そんな事考えた!
そんな事で勝っても誰も嬉しくないのに……これなら私の元に来てくれるんじゃないかって……そんな……!」
湧き上がり吐露された感情は、我の予期せぬものであった。
シャナがフレイムヘイズとは違う、"人間"へと近づいている事は理解していた。
だが、それ自体は決して間違ったものだとは我は思っておらぬ。
近づいた事を否定一辺倒で台無しであると考えようとは露にも思わん。
だが人間に近づく事が、シャナにこれ程の感情を抱かせるものであったとは予測出来なかった。
シャナがフレイムヘイズとは違う、"人間"へと近づいている事は理解していた。
だが、それ自体は決して間違ったものだとは我は思っておらぬ。
近づいた事を否定一辺倒で台無しであると考えようとは露にも思わん。
だが人間に近づく事が、シャナにこれ程の感情を抱かせるものであったとは予測出来なかった。
「軽蔑、した……? って、聞くまでも無い、か。
ねぇ、私って、こんなのだったかな? もう、自分が解らない……!」
ねぇ、私って、こんなのだったかな? もう、自分が解らない……!」
否。そんなことは無い、と我は全力でそう考える。
シャナよ、少し気が動転しているだけなのだ。何も自分を傷つけることは無い。これは一時の気の迷いではないだろうか。
恐らくは吉田一美も、遠くでそう考えているであろう。あの少女は人の心を理解する事に長けた人間であると我は認識している。
問題ない。何も、問題はないのだ。
シャナよ、少し気が動転しているだけなのだ。何も自分を傷つけることは無い。これは一時の気の迷いではないだろうか。
恐らくは吉田一美も、遠くでそう考えているであろう。あの少女は人の心を理解する事に長けた人間であると我は認識している。
問題ない。何も、問題はないのだ。
だが、それをどう伝えれば良いものか。
我は最近、口下手だと思い知らざるを得なかった。
千草殿も居らぬ今、果たしてどの様な言葉が適切であるのかがどうにもわからぬ。
話し方次第では、相手と自身の抱く感情に齟齬が発生するかもしれん。それが、今の我には怖い。
千草殿も居らぬ今、果たしてどの様な言葉が適切であるのかがどうにもわからぬ。
話し方次第では、相手と自身の抱く感情に齟齬が発生するかもしれん。それが、今の我には怖い。
嗚呼、正にここに千草殿さえ居れば。
◇ ◇ ◇
どうにも中に入る気にはなれんし、かと言ってあの無残な姿にされた誰かを見る気にもなれん。
故に結局、仕方が無いので玄関に留まっておった。これが木下秀吉の限界、と言ったところ……か。
温泉の奥まで進んでいったのは櫛枝とシャナ、そしてアラストールのみ。
情けなくも、ついていく気にはなれんかった。流石に入り口で"あれ"なら、嫌な予感もする。正直見たくはない。
あの二人もなかなか戻ってこん時点で、大方察せられるというもの。
おったのであろうな……仏さんが。
故に結局、仕方が無いので玄関に留まっておった。これが木下秀吉の限界、と言ったところ……か。
温泉の奥まで進んでいったのは櫛枝とシャナ、そしてアラストールのみ。
情けなくも、ついていく気にはなれんかった。流石に入り口で"あれ"なら、嫌な予感もする。正直見たくはない。
あの二人もなかなか戻ってこん時点で、大方察せられるというもの。
おったのであろうな……仏さんが。
なめておった。
ああ、全く、本当に自分は馬鹿じゃったな。
皆には心配せんでも良いと思っておった。自分はどうにかなると、思っておった。
危機感が無かった。楽観視しかしておらんかった。なんという痴れ者か、ワシは。
自分で自分に腹が立つ。放送曰く、今は現にあの女子らの仲間が死んだのだ。
……それを確認する勇気は今はないのじゃが。駄目人間じゃな……全く。
皆には心配せんでも良いと思っておった。自分はどうにかなると、思っておった。
危機感が無かった。楽観視しかしておらんかった。なんという痴れ者か、ワシは。
自分で自分に腹が立つ。放送曰く、今は現にあの女子らの仲間が死んだのだ。
……それを確認する勇気は今はないのじゃが。駄目人間じゃな……全く。
不幸中の幸いというか、地獄に仏とも言える事といえば、明久と姫路が死んでおらぬらしい事か。
……それ故にシャナと櫛枝から離れたいと思ってしまう部分もあるのじゃが。
何故だか後ろめたく感じてしまうが……それは明久と姫路に対する最低な罵りじゃな。
すまぬ二人とも。これでは"どちらかでも死んだ方が良かった"と戯言を発すると同義であった。
……全く。十分に心乱されておるな、ワシも。
……それ故にシャナと櫛枝から離れたいと思ってしまう部分もあるのじゃが。
何故だか後ろめたく感じてしまうが……それは明久と姫路に対する最低な罵りじゃな。
すまぬ二人とも。これでは"どちらかでも死んだ方が良かった"と戯言を発すると同義であった。
……全く。十分に心乱されておるな、ワシも。
しかし、明久と姫路は大丈夫じゃろうか。今回の出来事は他人事とは思えぬ。いや、思ってはいかん。
心配じゃ。居場所さえわかっておったらすぐに駆けつけたいのが本音と言わざるを得ぬ。
二人が存命である事自体は判明しておるが、二人がどの様な状況に立たされているかは解らんのだ。
今頃何をしておるのだろうか。悪意ある人間に追われてはいないか。
ここでは文月学園での様においそれと召喚も出来ぬし、苦戦は必至であろう。
いや、そもそも明久が使役するもの以外の召喚獣は常人に対しても何の意味も成さぬ。
戦力にならんのだ、最初から。
学園の外では、教師が居らぬ場ではワシらはただのヒト。こんな悪意に満ちた場では、もしやすると……。
心配じゃ。居場所さえわかっておったらすぐに駆けつけたいのが本音と言わざるを得ぬ。
二人が存命である事自体は判明しておるが、二人がどの様な状況に立たされているかは解らんのだ。
今頃何をしておるのだろうか。悪意ある人間に追われてはいないか。
ここでは文月学園での様においそれと召喚も出来ぬし、苦戦は必至であろう。
いや、そもそも明久が使役するもの以外の召喚獣は常人に対しても何の意味も成さぬ。
戦力にならんのだ、最初から。
学園の外では、教師が居らぬ場ではワシらはただのヒト。こんな悪意に満ちた場では、もしやすると……。
じゃが、明久は苦境に立たされた際には、常に知恵と勇気で乗り越えておった。
あやつには天稟がある。いざというときの大胆な行動と閃きはまさにそれじゃ。
断言しよう。テストの得点だけでは表現出来ぬ何かを、あの男は持っておる。
何せその姿には男のワシでも惚れ込んでしまいそうになるものじゃ。女子達もまんざらではなかった様じゃしな。
……それでも今回ばかりは不安を抱くしかないのが現実なのじゃが。
あやつには天稟がある。いざというときの大胆な行動と閃きはまさにそれじゃ。
断言しよう。テストの得点だけでは表現出来ぬ何かを、あの男は持っておる。
何せその姿には男のワシでも惚れ込んでしまいそうになるものじゃ。女子達もまんざらではなかった様じゃしな。
……それでも今回ばかりは不安を抱くしかないのが現実なのじゃが。
しかし、それよりも更に心配なのは姫路じゃ。
あやつは優しい。優しすぎる。こんな場所では悪い虫に纏わり付かれるのではなかろうか。
明久も心配なのは確か。しかし姫路の場合は更に上を行く。嫌な予感すらする。
稀に暴走する事はあれど心は澄んでおる。そんな女子がこんな場所に放り込まれては……。
…………やめよう。もうやめじゃ。きりが無い。無さ過ぎる。
あやつは優しい。優しすぎる。こんな場所では悪い虫に纏わり付かれるのではなかろうか。
明久も心配なのは確か。しかし姫路の場合は更に上を行く。嫌な予感すらする。
稀に暴走する事はあれど心は澄んでおる。そんな女子がこんな場所に放り込まれては……。
…………やめよう。もうやめじゃ。きりが無い。無さ過ぎる。
相変わらず入り口からは、もうシャナと櫛枝の姿は見えぬ。
かなり奥の方まで進んでいったのであろう。もしくは見えぬ角度に存在する部屋にでも入ったか。
暫く戻ってこんという事は、やはり……。
いっそ温泉に入って気分転換でもしていた、とかいうことであれば良いのじゃが。
いや、流石に緊張感に欠けるか。
こんな場所で服を脱いで武器を置いて、というのも些か危険であるとも思えるしのう……うむ、そうじゃな……服、を……。
かなり奥の方まで進んでいったのであろう。もしくは見えぬ角度に存在する部屋にでも入ったか。
暫く戻ってこんという事は、やはり……。
いっそ温泉に入って気分転換でもしていた、とかいうことであれば良いのじゃが。
いや、流石に緊張感に欠けるか。
こんな場所で服を脱いで武器を置いて、というのも些か危険であるとも思えるしのう……うむ、そうじゃな……服、を……。
…………服?
考えないようにしておった不安が蘇る。
我慢が出来なくなって衝動的に建物から外へと出て行き、ワシは再び外の遺体の方へと向かった。
十秒も経たず現場に到着し、ワシは再びこの凄惨な現場を眺める。
目的は遺体の観察にあらず。もっと違う、目的。
我慢が出来なくなって衝動的に建物から外へと出て行き、ワシは再び外の遺体の方へと向かった。
十秒も経たず現場に到着し、ワシは再びこの凄惨な現場を眺める。
目的は遺体の観察にあらず。もっと違う、目的。
「やはりか! 視界に入れておいて気付かぬとは……ワシの大馬鹿め……!」
そう、ワシは目先の衝撃に気圧された所為で気付けなかった"それ"を、思考を巡らせた事でようやく気付けた。
故に、"それ"を実際に確かめる為に、考えを確実にする為にワシは現場へと戻ってきたのだ。
そして見つけた。ワシに対し延々と不安を煽っておったものの正体。それが、改めて目の前に現れた。
しかし、これには気付かなかったほうが良かったのかもしれん、とも思ってしまう。
流石に、"これ"は……遺体の近くにあった、"これ"は!
故に、"それ"を実際に確かめる為に、考えを確実にする為にワシは現場へと戻ってきたのだ。
そして見つけた。ワシに対し延々と不安を煽っておったものの正体。それが、改めて目の前に現れた。
しかし、これには気付かなかったほうが良かったのかもしれん、とも思ってしまう。
流石に、"これ"は……遺体の近くにあった、"これ"は!
この"文月学園の制服"の存在は、あまりにも酷ではないか!
上下揃った衣服、そして何故だか一緒に置かれていた下着。
それらのサイズから体躯を想像すれば、姫路の姿が即座に浮かび上がる。嫌でも浮かび上がってしまう。
いや、もしやワシ以外にも"名簿に名が刻まれておらぬ者"がおるのやもしれん。
勿論そうだとしても由々しき自体なのじゃが……この服のサイズ等を見ては、とてもそうは言えぬ……!
日頃から姫路の姿は明久達と共に見てきたのだ。それに実際に名簿に名前が乗ってしまっておるのだ!
他の誰かの可能性を考えるなど、愚かな現実逃避以外の何物でもないではないか!
しかし、そうなると……
それらのサイズから体躯を想像すれば、姫路の姿が即座に浮かび上がる。嫌でも浮かび上がってしまう。
いや、もしやワシ以外にも"名簿に名が刻まれておらぬ者"がおるのやもしれん。
勿論そうだとしても由々しき自体なのじゃが……この服のサイズ等を見ては、とてもそうは言えぬ……!
日頃から姫路の姿は明久達と共に見てきたのだ。それに実際に名簿に名前が乗ってしまっておるのだ!
他の誰かの可能性を考えるなど、愚かな現実逃避以外の何物でもないではないか!
しかし、そうなると……
「何故、服だけが……?」
ハッキリ言って理解に苦しむ。これが姫路のものであるならば、何故放置されているのか。
裸で逃げたというのか。しかしその様な羞恥心の欠片も無いような行動に出る女子では決して無いというに……。
裸で逃げたというのか。しかしその様な羞恥心の欠片も無いような行動に出る女子では決して無いというに……。
「まさか……」
まさか、この今死んでいる男が姫路を襲ったとでも言うのか。
そしてこの斧のような奇妙な形をした刃物で男を斬り、良心の責務に耐えられなくなった、とか。
いや、もしくは温泉に入っていた際に第三者に襲われた、とか。またはその第三者に……。
そしてこの斧のような奇妙な形をした刃物で男を斬り、良心の責務に耐えられなくなった、とか。
いや、もしくは温泉に入っていた際に第三者に襲われた、とか。またはその第三者に……。
いや、よく考えればこの衣服は姫路の物ではあれど、姫路のものではないのではないか?
例えばこの男が、もしくは第三者がこの制服を支給品として引き当て、「必要ない」と捨てたのかもしれん。
しかしそうなるとおかしい。何故"人類最悪"はそんなものを支給するのか。
ある人物が着ていた衣服が支給されたところで、サイズが合わねば宝の持ち腐れに他ならぬ。
ワシらの支給品にはピンからキリまで種類があるといえど、不自然に過ぎる。
果たしてここまで多数にとって使えぬ可能性の高いものを支給することなど有り得るのか。
やはり、遺憾な事ではあるが……この制服は、姫路の物である可能性が……。
ええい! 結局のところワシの直感は、姫路が何か危険な領域に足を突っ込んでいると叫んでいるわけじゃな!
これが姫路の着ていたものであったと認めるのは癪じゃが……しかし、もうワシもわかっておるのだろう……?
例えばこの男が、もしくは第三者がこの制服を支給品として引き当て、「必要ない」と捨てたのかもしれん。
しかしそうなるとおかしい。何故"人類最悪"はそんなものを支給するのか。
ある人物が着ていた衣服が支給されたところで、サイズが合わねば宝の持ち腐れに他ならぬ。
ワシらの支給品にはピンからキリまで種類があるといえど、不自然に過ぎる。
果たしてここまで多数にとって使えぬ可能性の高いものを支給することなど有り得るのか。
やはり、遺憾な事ではあるが……この制服は、姫路の物である可能性が……。
ええい! 結局のところワシの直感は、姫路が何か危険な領域に足を突っ込んでいると叫んでいるわけじゃな!
これが姫路の着ていたものであったと認めるのは癪じゃが……しかし、もうワシもわかっておるのだろう……?
もう、いてもたってもおれぬ。
袋に手を突っ込む。目当てはエルメス。あのバイク、でなくモトラド。
理由は単純。質量、重量を無視して再び出てくるこのモトラドに言伝を頼む為じゃ。
そして遂に「うおっ、まぶしっ」と呟きながら登場したエルメス。
ここに来るまでに袋に入ったままであった所為で、少し状況がわかっておらぬようだが仕方が無い。
理由は単純。質量、重量を無視して再び出てくるこのモトラドに言伝を頼む為じゃ。
そして遂に「うおっ、まぶしっ」と呟きながら登場したエルメス。
ここに来るまでに袋に入ったままであった所為で、少し状況がわかっておらぬようだが仕方が無い。
◇ ◇ ◇
最初に動いたのは、木下秀吉。
◇ ◇ ◇
アラストールには、悪いことをした。
フレイムヘイズとしても、人間としても駄目な感情を、吐き出してしまった。
こんなことは初めてだ。アラストールをここまで困らせてしまうなんて、最悪だ。
アラストールは何も言わない。やっぱり、軽蔑したのかもしれない。
フレイムヘイズとしても、人間としても駄目な感情を、吐き出してしまった。
こんなことは初めてだ。アラストールをここまで困らせてしまうなんて、最悪だ。
アラストールは何も言わない。やっぱり、軽蔑したのかもしれない。
どれくらい時間が経っただろう。櫛枝実乃梨がこっちに来る様子も無い。
それに今やっと気付いたのだけれど、木下秀吉は着いてきていなかったのかここにはいない。
相変わらず、アラストールと二人きり。
それに今やっと気付いたのだけれど、木下秀吉は着いてきていなかったのかここにはいない。
相変わらず、アラストールと二人きり。
あんな事を言った手前、どうしよう。
本当は今すぐエルメスも含めた五人で集まって、話をするべきなんだと思う。
でも櫛枝実乃梨は今は"あんな状態"だ。
木下秀吉も、仲間が死んだわけではなかったらしいけど、それでもショックなんだろう。
かく言う私も、今はどうしても動く気にはなれない。理性では早くどうにかするべきだって、わかってるのに。
ばらばらだ。皆、心がばらばら。虚しく時間だけが過ぎていく。
本当は今すぐエルメスも含めた五人で集まって、話をするべきなんだと思う。
でも櫛枝実乃梨は今は"あんな状態"だ。
木下秀吉も、仲間が死んだわけではなかったらしいけど、それでもショックなんだろう。
かく言う私も、今はどうしても動く気にはなれない。理性では早くどうにかするべきだって、わかってるのに。
ばらばらだ。皆、心がばらばら。虚しく時間だけが過ぎていく。
…………悠二が死んでたら、私はどうなってたんだろう。
と、不吉なことを考えようとした時、変化が起こったことに私は気付いた。
足音が聞こえる。しかも間隔は短く音は大きい。まるでそう、走っているような。
聞こえたのは櫛枝実乃梨がいた方角!
足音が聞こえる。しかも間隔は短く音は大きい。まるでそう、走っているような。
聞こえたのは櫛枝実乃梨がいた方角!
「シャナ!」
「う、うん! でも何が……!?」
「う、うん! でも何が……!?」
アラストールが叫び、それを合図に私は急いで廊下を走る。
思えば無意識に随分と気を利かせ過ぎたのか、足音の元への道のりは妙に遠い。
それでも櫛枝実乃梨の元へ急ごうと走り続けると、遂に視界の端でその本人の姿を捉えた!
どこに向かっている? どうして走っている? 後者の疑問は解けないけれど、前者だけならわかる。
思えば無意識に随分と気を利かせ過ぎたのか、足音の元への道のりは妙に遠い。
それでも櫛枝実乃梨の元へ急ごうと走り続けると、遂に視界の端でその本人の姿を捉えた!
どこに向かっている? どうして走っている? 後者の疑問は解けないけれど、前者だけならわかる。
「櫛枝実乃梨! 独りでどこに行くの!?」
彼女は、外に出ようとしていた。
建物の奥に位置していた殺人現場から、走って、外に。
建物の奥に位置していた殺人現場から、走って、外に。
「こら! 待って! 待て!」
ソフトボールとかいうスポーツらしきものをやってると言ってた所為か、櫛枝実乃梨は人間の中では足が速い部類に位置していた。
ひ弱な人間だったら追いつけないかもしれない。でも私はフレイムヘイズだ。大丈夫。
最初に面食らった所為でかなり距離は離されている。もう相手は外に出てしまったけれど、私はまだ室内。入り口には少し遠い。
けれどこれで追いつけないわけがない。ここで足止めされたりしない限りは、必ず!
ひ弱な人間だったら追いつけないかもしれない。でも私はフレイムヘイズだ。大丈夫。
最初に面食らった所為でかなり距離は離されている。もう相手は外に出てしまったけれど、私はまだ室内。入り口には少し遠い。
けれどこれで追いつけないわけがない。ここで足止めされたりしない限りは、必ず!
◇ ◇ ◇
次に動いたのは、櫛枝実乃梨。
最後が、シャナ。
◇ ◇ ◇
モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)としては、僕を巧みに扱ってくれる人に乗ってもらうのが一番なんだけど。
いやはや。
僕を最初に引き当てた子はいなくなっちゃうし。勿論言伝はきちんと預かったし言う通りにするけど、放置はないんじゃないの?
やれやれ。
北村って人はどうなったのかな。結局ここにはいなかったんだろうか。じゃあ暫くしたら、結局また手押しか袋の中か。
あーあ。
いやはや。
僕を最初に引き当てた子はいなくなっちゃうし。勿論言伝はきちんと預かったし言う通りにするけど、放置はないんじゃないの?
やれやれ。
北村って人はどうなったのかな。結局ここにはいなかったんだろうか。じゃあ暫くしたら、結局また手押しか袋の中か。
あーあ。
っと、あれ? 誰か出てきた。櫛枝実乃梨(注・人間。シャナを先生と呼ぶものだけを指す)か。どうしたんだろ。
あのさ、言伝預かってるんだけど。木下秀吉から。おーい。
……あらら、聞かずに行っちゃった。凄い走ってるよ。体力持つのかな。
参ったな。早速約束を違えちゃったよ。これが"ファッションニッポンビビル"ってやつ?
あのさ、言伝預かってるんだけど。木下秀吉から。おーい。
……あらら、聞かずに行っちゃった。凄い走ってるよ。体力持つのかな。
参ったな。早速約束を違えちゃったよ。これが"ファッションニッポンビビル"ってやつ?
あ、もう一人出てきた。今度はシャナ(注・フレイムヘイズ。いざという時に髪の毛が燃えるものだけを指す)か。
こっちも走ってる。早く止めないと。って、あら? 勝手に止まってくれた。
え? 木下秀吉(注・人間。性別が秀吉のものだけを指す)? どうしていないって? ああ、それを今から言うところ。
こっちも走ってる。早く止めないと。って、あら? 勝手に止まってくれた。
え? 木下秀吉(注・人間。性別が秀吉のものだけを指す)? どうしていないって? ああ、それを今から言うところ。
あの子さ、ちょっと人探しに行ってるから。
しばらく見つからなかったら戻ってくるってさ。
後、勝手に行ってごめん、だって。
しばらく見つからなかったら戻ってくるってさ。
後、勝手に行ってごめん、だって。
え? いや、何で止めなかったんだって言われてもさ。こっちにも事情があるんだって。
急に外に出されたと思ったら言伝だもの。誰が? って、だから木下秀吉が。本人が。
それにほら、そもそも人間にはそれぞれ不可侵的な自由を持つ権利があると思うしねー。
って……あらら、また行っちゃったよ。
急に外に出されたと思ったら言伝だもの。誰が? って、だから木下秀吉が。本人が。
それにほら、そもそも人間にはそれぞれ不可侵的な自由を持つ権利があると思うしねー。
って……あらら、また行っちゃったよ。
やれやれ。
あれ? 僕今度こそ放置?
◇ ◇ ◇
私は、我慢が出来なかった。
北村くんが死んだ理由に、一歩だけでも近づきたくて。
でもあの温泉は"全部が終わってしまった跡"だったから、じっとしてても意味が無いって、そう思った。
北村くんが死んだ理由に、一歩だけでも近づきたくて。
でもあの温泉は"全部が終わってしまった跡"だったから、じっとしてても意味が無いって、そう思った。
私は、私自身が、この櫛枝実乃梨がここまで我慢弱い人間だとは、自分でも思わなかった。
気がついたら走ってた。後ろから先生が何かを言いながら追いかけてきたけど、答える時間も惜しかった。
それに、答えたら、もう走れなくなる。皆に止められる。そう思った。
だから全部を無視して、私は今こうして走り続けるんだ。
気がついたら走ってた。後ろから先生が何かを言いながら追いかけてきたけど、答える時間も惜しかった。
それに、答えたら、もう走れなくなる。皆に止められる。そう思った。
だから全部を無視して、私は今こうして走り続けるんだ。
目的はただ一つ。北村くんの事を教えてくれたあの二人に会う。それだけ。
私達の話を聞いてくれたあの二人は、北村くんと一緒にいたと言った。
皆で一緒に話をしてたと言った。なら何故、どうしてあんな事になってるの?
直球に言う。私はあの二人を疑ってる。
北村くんを、そしてあの入り口にいた"誰か"と、更に室内にいた"誰か"を"あんな風にした"犯人だと、考えてる。
勿論あの二人が犯人じゃないって考えてる部分もある。出来るならそうであった方が嬉しいとも思う。
でも、駄目だ。あの温泉からやってきた二人が、私の頭の中でどうしてもちらつくんだ。
誰もいない建物。物言わぬ死体。そんな大変な事態が起こってた場所から来た、二人。
もう、怪しすぎるよ。
皆で一緒に話をしてたと言った。なら何故、どうしてあんな事になってるの?
直球に言う。私はあの二人を疑ってる。
北村くんを、そしてあの入り口にいた"誰か"と、更に室内にいた"誰か"を"あんな風にした"犯人だと、考えてる。
勿論あの二人が犯人じゃないって考えてる部分もある。出来るならそうであった方が嬉しいとも思う。
でも、駄目だ。あの温泉からやってきた二人が、私の頭の中でどうしてもちらつくんだ。
誰もいない建物。物言わぬ死体。そんな大変な事態が起こってた場所から来た、二人。
もう、怪しすぎるよ。
ねぇ、教えてよ。あのとき私達と話してたとき、北村くんの事を教えてくれたとき、本当は心の底で笑ってたんじゃないの?
今から行っても無駄だけどな、って裏で悪態をついてたんじゃないの? ねぇ、どうなの?
二人ともいい人だと思って話してたよ? だから、あの時は何も思わなかったけど!
もう、どんどん怪しく思えてって仕方が無いよ。違うんだって信じたい自分もいるけど、不甲斐無いよ。
今から行っても無駄だけどな、って裏で悪態をついてたんじゃないの? ねぇ、どうなの?
二人ともいい人だと思って話してたよ? だから、あの時は何も思わなかったけど!
もう、どんどん怪しく思えてって仕方が無いよ。違うんだって信じたい自分もいるけど、不甲斐無いよ。
それに、怖い。
北村くんが死んだ。高須くんが死んだ。いきなり、何の前触れも無く死んだ。死んじゃった。じゃあ次は?
大河は? あーみんは? どうなるの? こんな場所なんだよ? あの高須くん達が死んじゃったんだよ?
会いたいに……会いたいに決まってるじゃん! ちょっと無謀かもだけど、少しでも早く会いたいって思うじゃんか!
じゃあどうする!? 探すよ! そりゃ探すってば!
北村くんが死んだ。高須くんが死んだ。いきなり、何の前触れも無く死んだ。死んじゃった。じゃあ次は?
大河は? あーみんは? どうなるの? こんな場所なんだよ? あの高須くん達が死んじゃったんだよ?
会いたいに……会いたいに決まってるじゃん! ちょっと無謀かもだけど、少しでも早く会いたいって思うじゃんか!
じゃあどうする!? 探すよ! そりゃ探すってば!
「櫛枝実乃梨!」
唐突に声が聞こえて、振り返る。声を追って無意識に視線を向けた先はすっかり明るくなった空。
薄い蒼、なんていう目に優しい絨毯の中に、よく目立つ紅がある。あれは……先生!
薄い蒼、なんていう目に優しい絨毯の中に、よく目立つ紅がある。あれは……先生!
逃げ切れるなんて思ってなかったけど、逃げ切りたかった。
エルメスと何か話してたようだからいけると思ったんだけど。
なんて事を考えてる内に、先生が近づいてきた。
エルメスと何か話してたようだからいけると思ったんだけど。
なんて事を考えてる内に、先生が近づいてきた。
タックルをかまされた。地面にそのまま倒れた所為でめっちゃ痛かった。
◇ ◇ ◇
エルメスから木下秀吉の弁を聞いたとき、私は愕然としてしまった。
どいつもこいつも、なんで勝手に行動するの? 私に着いてて欲しいって言ったのはそっちなのに!
勝手に私から逃げてしまう二人には怒りを通り越して呆れの念すら生まれそうになる。
何で、どうして皆そうやって自分勝手に行動をするの?
何でも許されると思ってるの? フレイムヘイズは聖人君子じゃないのよ?
どいつもこいつも、なんで勝手に行動するの? 私に着いてて欲しいって言ったのはそっちなのに!
勝手に私から逃げてしまう二人には怒りを通り越して呆れの念すら生まれそうになる。
何で、どうして皆そうやって自分勝手に行動をするの?
何でも許されると思ってるの? フレイムヘイズは聖人君子じゃないのよ?
なんで、勝手に、行くの。どうして、何も、言わないの。
我慢出来ないのは、こっちも、一緒なんだってば!
我慢出来ないのは、こっちも、一緒なんだってば!
櫛枝実乃梨の姿が見えなくなったのは私を撒くためにどこかに入り込んだから。私はそう結論付けた。
ならもう良い。怒った。本気で鬼ごっこしてやる。問題ないわ。空から見ればどこにいたって同じ!
ならもう良い。怒った。本気で鬼ごっこしてやる。問題ないわ。空から見ればどこにいたって同じ!
というわけで、とっ捕まえたわ。
空を飛んで暫くして、相手の姿をどうにか目撃。それからタックルして、停止。簡単だった。
このフレイムヘイズから逃れようなんて甘いのよ。ハニートーストより甘々。
このフレイムヘイズから逃れようなんて甘いのよ。ハニートーストより甘々。
「なんで、よ」
そう、甘い。全部甘い!
……そんな甘々な考えで、どうして勝手に行くの?
……そんな甘々な考えで、どうして勝手に行くの?
「自分だけ悲しいなんて、思ってるんじゃないわよ」
我慢出来そうに無いのは、おまえだけじゃない。
現に、木下秀吉だって勝手に出て行った!
現に、木下秀吉だって勝手に出て行った!
「皆が揺れてるときに、もっと揺さぶるような事……っ、するな!」
「……!」
「……!」
言いたい事を全部言えた訳じゃない。けれど、言葉はここで止まってしまった。
正直、疲れた。一美が死んで、木下秀吉と櫛枝実乃梨は勝手に暴走して。
でもその理由は私も理解できるものだから、余計に"たち"が悪くて。
だから、もっとやりようはあったんだろうけど、叫んでしまったから。
次の言葉が咄嗟には出てこなくなってしまって、だから沈黙してしまった。
正直、疲れた。一美が死んで、木下秀吉と櫛枝実乃梨は勝手に暴走して。
でもその理由は私も理解できるものだから、余計に"たち"が悪くて。
だから、もっとやりようはあったんだろうけど、叫んでしまったから。
次の言葉が咄嗟には出てこなくなってしまって、だから沈黙してしまった。
相手は何も言わない。私が何も言えないのも重なって、静かだ。
空気が重い。居心地が悪い。
ちょっと、何か言いなさいよ。返事ぐらい、しなさいよ。
ねぇ、早く。ちょっと。人の話聞いてるの!? 答えて櫛枝実乃梨!
空気が重い。居心地が悪い。
ちょっと、何か言いなさいよ。返事ぐらい、しなさいよ。
ねぇ、早く。ちょっと。人の話聞いてるの!? 答えて櫛枝実乃梨!
「先生は! 先生はさ……今の放送聞いて、どう思った?」
「……え?」
「……え?」
突然、質問された。
答えは単純。"とても悔しくて腹立たしい、そう思った"だ。
けれどそれがなんだって言うの?
答えは単純。"とても悔しくて腹立たしい、そう思った"だ。
けれどそれがなんだって言うの?
「吉田一美って、女の子だよね? 先生の、友達なんだよね?」
だから、それが、何。まさか男が死んだら悲しくて、女だったら別に良いっていうつもり!?
「そんな極論じゃない! でも、でもさ、じゃあ今放送でっ、吉田一美だけじゃなくて坂井悠二って人も呼ばれてたら!?」
「……ッ!?」
「私ね、なんとなくわかってたよ。先生さ、その坂井くんの話をするとき、凄く嬉しそうだった……!
自分では冷静にしてるつもりだったんでしょ!? 甘いよ、先生。女子の嗅覚なめんなよ、先生。
勿論他の知り合いの話をするときもなんやかんやでポジティブだったけど……その坂井くんって時だけは違ってた!」
「う、うるさいうるさいうるさい! そんな事……!」
「そんな事、ある!」
「……ッ!?」
「私ね、なんとなくわかってたよ。先生さ、その坂井くんの話をするとき、凄く嬉しそうだった……!
自分では冷静にしてるつもりだったんでしょ!? 甘いよ、先生。女子の嗅覚なめんなよ、先生。
勿論他の知り合いの話をするときもなんやかんやでポジティブだったけど……その坂井くんって時だけは違ってた!」
「う、うるさいうるさいうるさい! そんな事……!」
「そんな事、ある!」
急にどうしたのよこいつ。なんで、そんな事言うの。
違う、そんなの知らない。なんなの、見透かしたような事ばかり喋って。
それになんでそんな突飛な質問するの!? そんなの、そんなの考えたくないのにッ!
ねえアラストール! アラストールも何か言ってよ!
違う、そんなの知らない。なんなの、見透かしたような事ばかり喋って。
それになんでそんな突飛な質問するの!? そんなの、そんなの考えたくないのにッ!
ねえアラストール! アラストールも何か言ってよ!
「すまぬ……言葉が見つからん」
「アラスト……っ!」
「しかしこれだけは言わせて貰う。冷静になるのだシャナよ。
櫛枝実乃梨の今の言葉、決して否定は出来ぬ。自らの今までの行動を顧みてみよ」
「それ、は」
「今の姿には、シャナらしさが見えぬ。どちらに向いても、奇妙な姿にしか移っておらん……!」
「アラスト……っ!」
「しかしこれだけは言わせて貰う。冷静になるのだシャナよ。
櫛枝実乃梨の今の言葉、決して否定は出来ぬ。自らの今までの行動を顧みてみよ」
「それ、は」
「今の姿には、シャナらしさが見えぬ。どちらに向いても、奇妙な姿にしか移っておらん……!」
確かに私は、悠二が、その、えっと、好き、だけど! でも、でもだからって、でも!
なんで、一美やヴィルヘルミナ、千草くらいにしか言ってないことを、今日初めて出会ったばかりの人間が、それを……!
なんで、一美やヴィルヘルミナ、千草くらいにしか言ってないことを、今日初めて出会ったばかりの人間が、それを……!
「それを踏まえて、もう一度訊く。先生が私と同じ状況に立たされたら、どうする?」
「同じ……」
「うん、同じ状況に。私は今ね、北村くんと、好きだった人が……高須くんがいっぺんに死んで、悲しいんだよ!
そう、私はね、高須くんが好きなんだよ! 先生以外にはオフレコ、大サービスで話してやるよ! 好きだよ!
でもさ、私なんかよりももっと可愛くて素敵でお似合いな女の子が今いるの!
その二人は絶対欠けちゃいけないって思った。より一層そう思った! 先生達と話してたときも、考えてた!
でも、でももう欠けちゃった……大河の、私の、大事な存在が、いきなり、消えた……っ!
それに、それに北村くんだって! 私のクラスの皆にとっても大事な奴だったんだ! 知らないだろうけどさ!」
「同じ……」
「うん、同じ状況に。私は今ね、北村くんと、好きだった人が……高須くんがいっぺんに死んで、悲しいんだよ!
そう、私はね、高須くんが好きなんだよ! 先生以外にはオフレコ、大サービスで話してやるよ! 好きだよ!
でもさ、私なんかよりももっと可愛くて素敵でお似合いな女の子が今いるの!
その二人は絶対欠けちゃいけないって思った。より一層そう思った! 先生達と話してたときも、考えてた!
でも、でももう欠けちゃった……大河の、私の、大事な存在が、いきなり、消えた……っ!
それに、それに北村くんだって! 私のクラスの皆にとっても大事な奴だったんだ! 知らないだろうけどさ!」
……でも、そうだとしても!
「だからって……! じゃあ、おまえ達を護るって決意した私の立場は……!」
「だから私は今、一番のヒントを持ってるはずのさっき会った二人を探しに行こうとしてる!
危険かもしれない! でも、行かなきゃ二度とチャンスは来ない気がする! どうしようもないの!
犯人もわからない。じゃあ北村くんと話してたって言うあの人達は何!? わからないなら……会うしかない!
もう自分が止められないの……こうでもしないと、私が私じゃなくなってしまいそうで、全部失ってしまいそうで、怖いの!」
「だから私は今、一番のヒントを持ってるはずのさっき会った二人を探しに行こうとしてる!
危険かもしれない! でも、行かなきゃ二度とチャンスは来ない気がする! どうしようもないの!
犯人もわからない。じゃあ北村くんと話してたって言うあの人達は何!? わからないなら……会うしかない!
もう自分が止められないの……こうでもしないと、私が私じゃなくなってしまいそうで、全部失ってしまいそうで、怖いの!」
櫛枝実乃梨の捲くし立てる言葉には納得出来る部分もある。
それに言いたい事もわかる。どうしようもない状況を看破したいと思う気持ちは、わかる。
でも、だからって……! こんなの、滅茶苦茶じゃない!
それに言いたい事もわかる。どうしようもない状況を看破したいと思う気持ちは、わかる。
でも、だからって……! こんなの、滅茶苦茶じゃない!
「せめて北村くんの事だけは知りたいから……高須くんの助けに欠片も間に合わなかったから、せめて……。
ねぇ、これはいけない事なの? もし今の放送で吉田一美って子と一緒に坂井くんの名前が呼ばれてたら、先生ならどうしてた?」
ねぇ、これはいけない事なの? もし今の放送で吉田一美って子と一緒に坂井くんの名前が呼ばれてたら、先生ならどうしてた?」
それは、私は……私だったら……!
「で、温泉にその一美さんの死体があって、事件を解くためのカギがないノーヒントの状態だったら!?
ねぇ、先生だったらどう思う!? どんなに冷静に取り繕っても……先生、結局、私と同じと思う……!」
ねぇ、先生だったらどう思う!? どんなに冷静に取り繕っても……先生、結局、私と同じと思う……!」
もうアラストールは沈黙に徹してしまった。
櫛枝実乃梨の言葉には、横槍を入れるのは許さないという意志が見えていたから。
そして今、そんな強い言葉が向けられている私は……私は……私まで、言葉に詰まってしまった。
……そうだ、結局そんな"仮"の話も考えないようにしてたんだ、私は。
急に引きずり出されてしまった。答えが出せなくて封印していた"IF"が、ここに来て私に牙を向けた。
櫛枝実乃梨の言葉には、横槍を入れるのは許さないという意志が見えていたから。
そして今、そんな強い言葉が向けられている私は……私は……私まで、言葉に詰まってしまった。
……そうだ、結局そんな"仮"の話も考えないようにしてたんだ、私は。
急に引きずり出されてしまった。答えが出せなくて封印していた"IF"が、ここに来て私に牙を向けた。
もしかしたら、って考えてしまう。
今はともかく、これからも私は冷静に動こうと考えていた。
自分がしっかりしなくてどうするんだって、そう考えていた。
けれど、それはあくまで"考えていた"だけ。
もしものときのイメージトレーニングなんかをしていたわけじゃない。
自分がしっかりしなくてどうするんだって、そう考えていた。
けれど、それはあくまで"考えていた"だけ。
もしものときのイメージトレーニングなんかをしていたわけじゃない。
「先生、どうなの?」
「私は……」
「答えてよ」
「私は、私も確かにそうよ! おまえに言われた通り! 悠二のことが、その……そういうことよ!
だからでも、だからって私は! 私はおまえみたいに……無謀なことは、私は……そんな……しな、い」
「なんで最後自信無さげに言うの? 私を説き伏せようとしてた先生は、どこに行ったの? ねえっ!?」
「私は私よ! 私は……だって…………っ!」
「私は……」
「答えてよ」
「私は、私も確かにそうよ! おまえに言われた通り! 悠二のことが、その……そういうことよ!
だからでも、だからって私は! 私はおまえみたいに……無謀なことは、私は……そんな……しな、い」
「なんで最後自信無さげに言うの? 私を説き伏せようとしてた先生は、どこに行ったの? ねえっ!?」
「私は私よ! 私は……だって…………っ!」
相手の声が怒号に変わっても、私は声を荒げるだけで……いや、それすらも続けられなくなって答えられなかった。
私には、私には自負があった。悠二も一美も、皆護ってみせる! って意志もあった。気合もあった。自信もあった。
せめて自分が目に見える範囲の全てを護ろう。そう考えていた。だから闘えた。フレイムヘイズの力を行使して、戦った。
でも、気付けばこんな場所にいて離れ離れ。贄殿遮那まで無くなってて、頼りになるのは一振りの木刀。
けれど、それでも私は決意した。櫛枝実乃梨達と共に行くのが茨の道と解っていても、そうしようと考えた。
仲間は誰一人欠けない、そんな理想へと辿り付く為に必死に走ろうと決めた。
でも、駄目だった。少し時間が経ったら"吉田一美が死んだ"なんて報告されて、いきなり計画は無に消えた。
いきなりすぎて、出鼻を挫かれて、こんな事が今までに無さ過ぎて、どうすれば良いのか。
私には、私には自負があった。悠二も一美も、皆護ってみせる! って意志もあった。気合もあった。自信もあった。
せめて自分が目に見える範囲の全てを護ろう。そう考えていた。だから闘えた。フレイムヘイズの力を行使して、戦った。
でも、気付けばこんな場所にいて離れ離れ。贄殿遮那まで無くなってて、頼りになるのは一振りの木刀。
けれど、それでも私は決意した。櫛枝実乃梨達と共に行くのが茨の道と解っていても、そうしようと考えた。
仲間は誰一人欠けない、そんな理想へと辿り付く為に必死に走ろうと決めた。
でも、駄目だった。少し時間が経ったら"吉田一美が死んだ"なんて報告されて、いきなり計画は無に消えた。
いきなりすぎて、出鼻を挫かれて、こんな事が今までに無さ過ぎて、どうすれば良いのか。
私は、慢心していたのかもしれない。
心のどこかで、不幸なんて全て切り伏せられると妄信していたのかもしれない。
"櫛枝実乃梨や木下秀吉にも大切な人や好きな人がいるだろうからそう決めた"?
その志は結構だけど、なまじ大事な存在がいる所為でこんな暴走を起こされる可能性を考えなかったの?
……答えが出ない。はっきりとした言葉で表現が出来ない。感情の篭った問いに、全く答えられない。
そうか、アラストールもこんな感じだったのかな。それに、あの時あんな事言ったから、余計に。
心のどこかで、不幸なんて全て切り伏せられると妄信していたのかもしれない。
"櫛枝実乃梨や木下秀吉にも大切な人や好きな人がいるだろうからそう決めた"?
その志は結構だけど、なまじ大事な存在がいる所為でこんな暴走を起こされる可能性を考えなかったの?
……答えが出ない。はっきりとした言葉で表現が出来ない。感情の篭った問いに、全く答えられない。
そうか、アラストールもこんな感じだったのかな。それに、あの時あんな事言ったから、余計に。
「先生。いや……シャナ。今はシャナっていう。"本当のシャナ自身に言いたい"から」
櫛枝実乃梨の声が、重い。
「私は、"決めた"。立ち止まりそうになったらまず"決める"のが私のやり方だから。
そしていつでもはっきりとする。はっきりと立って、はっきりと返事する。
でも先せ、シャナは、ハッキリしてないよ。今の放送と私の質問で揺れちゃったって、わかるよ」
そしていつでもはっきりとする。はっきりと立って、はっきりと返事する。
でも先せ、シャナは、ハッキリしてないよ。今の放送と私の質問で揺れちゃったって、わかるよ」
空気も、重い。
言い返せない。
言い返せない。
「でも、私はその気持ちもわかる。っていうか、今の私の質問はちょっと、いや、かなり卑怯だとも自分で思う。
感情に任せてるんだなって自分でも理解してる。でもこの質問は、私の我侭かもしれないけど、シャナに"答えて欲しかった"!
あやふやな、揺れてるシャナに、自己矛盾って奴に囚われそうになってるシャナには私は止められないし、止められたくない!」
感情に任せてるんだなって自分でも理解してる。でもこの質問は、私の我侭かもしれないけど、シャナに"答えて欲しかった"!
あやふやな、揺れてるシャナに、自己矛盾って奴に囚われそうになってるシャナには私は止められないし、止められたくない!」
いつから、私はこんな弱い奴になったんだろう。
「私を止めたいって思うなら、模範的な先生なんかじゃない"本当のシャナが決めてから"にして。
私は行くね。言ってなかったけど、大河とあーみんだって探したいんだ、私。だから、うん。それじゃ」
私は行くね。言ってなかったけど、大河とあーみんだって探したいんだ、私。だから、うん。それじゃ」
そう言えば私も"もう決めた!"の一点張りで、ヴィルヘルミナと言い争ったことがあったっけ。
ああ、悠二に好きって言うって決めた時だ。今の状況は、それと一緒なんだ。
今は私があの子で、ヴィルヘルミナが私。
ああ、悠二に好きって言うって決めた時だ。今の状況は、それと一緒なんだ。
今は私があの子で、ヴィルヘルミナが私。
「いつかまた……それまでさよなら、シャナ」
櫛枝実乃梨が走っていく。私は、立ち尽くすだけだ。
西へ西へと進んでいくあいつの姿が豆のようになって、消えた。
西へ西へと進んでいくあいつの姿が豆のようになって、消えた。
……。
結局私は何がしたくて、本当のところ私には何が出来たんだろう。
何が間違って、何が正しいんだろう。
何が間違って、何が正しいんだろう。
ああ、でも、一つだけわかる。
結局私、遠まわしに言われちゃったんだ。
「お前に私の気持ちはわからないんだ」
って。
◇ ◇ ◇
"SIG SAUER MOSQUITO"。それがエルメスと一緒に支給されたこの銃の名らしい。
いや、一緒にとは言ったが別にセットで着いていたわけではない。
むしろセットにされてたのは予備の弾であって、そういうわけではない。
単にワシにはきちんとした武器もあったという事じゃ。うむ、それだけの事。
いや、一緒にとは言ったが別にセットで着いていたわけではない。
むしろセットにされてたのは予備の弾であって、そういうわけではない。
単にワシにはきちんとした武器もあったという事じゃ。うむ、それだけの事。
その拳銃を護身用として持ち、ワシは走る。射撃の経験? あるわけがなかろう。
つまりは、辺りに悪意ある何者かが潜んである可能性を考慮した上で、姫路を探しておるのだ。
そうでもせんと今は自分自身を納得させられぬ故に、ワシは独りでこうしている。
シャナに櫛枝よ、勝手をしてすまん。
つまりは、辺りに悪意ある何者かが潜んである可能性を考慮した上で、姫路を探しておるのだ。
そうでもせんと今は自分自身を納得させられぬ故に、ワシは独りでこうしている。
シャナに櫛枝よ、勝手をしてすまん。
そして姫路よ、もしも近くにいるならば、どうか、どうか、出てきてくれる事を望む。
本当に、望む。
本当に、望む。
◇ ◇ ◇
先生は……シャナは、もう追いかけてこない。
何度か後ろや空を振り返るけど、着いてきてない。
何度か後ろや空を振り返るけど、着いてきてない。
まるで試合中、いや、それ以上に走っている気がする。
いや、いつもそうか。私、騒いではしゃいでばっかだった。
楽しかったな。高須くんがビックリしてたり、北村くんが「いつも楽しそうだなあ」と一緒に笑ってたり。
大河も可愛いやつだよなー。あーみんもあれはあれでナイス。
いや、いつもそうか。私、騒いではしゃいでばっかだった。
楽しかったな。高須くんがビックリしてたり、北村くんが「いつも楽しそうだなあ」と一緒に笑ってたり。
大河も可愛いやつだよなー。あーみんもあれはあれでナイス。
もう、そんな"いつも"には戻れないね。
ねぇ、戻れないんだよね?
だってもう、さっき言ってた四人の中でもう二人死んじゃったよ。
あの男前の二人組が、死んじゃったんだよ。
大河とあーみんだって、悲しむ。私だって悲しい。
もう戻らない。元のあの楽しいグループは、無くなった。
物を壊すのは簡単だけど、直すのは大変なんだから。
だってもう、さっき言ってた四人の中でもう二人死んじゃったよ。
あの男前の二人組が、死んじゃったんだよ。
大河とあーみんだって、悲しむ。私だって悲しい。
もう戻らない。元のあの楽しいグループは、無くなった。
物を壊すのは簡単だけど、直すのは大変なんだから。
「やだ……やだ、よ……やだよお!」
そんなことはもう、解ってるのに。
だからせめて大河とあーみんは、って思ってるのに。
その為に走ってるのに……!
だからせめて大河とあーみんは、って思ってるのに。
その為に走ってるのに……!
「あうっ、あ……うあぁああぁあ……」
なんで今更、泣いてんの? 前見えないじゃん……やめろよ、私。
走りながらそんなの、みっともないよ……前、見えないよお……。
走りながらそんなの、みっともないよ……前、見えないよお……。
◇ ◇ ◇
温泉は再び静寂に包まれる。
残ったのは暇を持て余したモトラドのみ。
もはやこの建物は、骸のみが佇む寂しげな廃墟の様。
手がかりを追う櫛枝実乃梨。
それを追えなかったシャナ。
見えざる姫路瑞希の影を追う木下秀吉。
再びの集結は、あるのだろうか。
【E-2/一日目・朝】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。はずだったが。
1:???
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭~クリスマス(11~14巻)辺りから登場。
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。はずだったが。
1:???
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭~クリスマス(11~14巻)辺りから登場。
【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:全身各所に絆創膏
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。つもりだったのだが。
1:上条当麻、千鳥かなめを捜索。西に向かう。
[備考]
※少なくとも4巻付近~それ以降から登場。
[状態]:全身各所に絆創膏
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。つもりだったのだが。
1:上条当麻、千鳥かなめを捜索。西に向かう。
[備考]
※少なくとも4巻付近~それ以降から登場。
【E-3/一日目・朝】
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:SIG SAUER MOSQUITO(10/10)
[道具]:デイパック、予備弾倉(数不明)、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
1:姫路瑞希の捜索。発見次第温泉に戻る。しばらく探して見つからない場合も温泉に戻る。
2:エルメスの乗り手を探す。
[状態]:健康
[装備]:SIG SAUER MOSQUITO(10/10)
[道具]:デイパック、予備弾倉(数不明)、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
1:姫路瑞希の捜索。発見次第温泉に戻る。しばらく探して見つからない場合も温泉に戻る。
2:エルメスの乗り手を探す。
※エルメス@キノの旅がE-2の温泉入り口前に放置されています。
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