ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

人をくった話―Dig me no grave―(後編)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可

人をくった話―Dig me no grave―(後編) ◆ug.D6sVz5w



「――式!?」
 茫然自失のままに、先ほど黒桐幹也と別れた地点を目指して駆けていた白純里緒の頭に、その声はビックリするくらいに大きく響いた。

「……なんだ幹也の妹じゃねえか」

 白純は足を止めると、未だに距離が離れているにもかかわらず、油断無く身構える三人へと視線を向ける。

 ――幹也の妹。
 ――銃を構える金髪の外人。
 ――油断無く無手で身構えている金髪の、ただしこちらは染めたものに過ぎない男。

「……へえ」
 小さく笑みを浮かべると、白純はぺろりと唇をなめた。

「――いえ、違うわ。……あなた誰?」
「……」
 白純はそれに答えない。
 その様子に三人が三人とも警戒のまなざしと、そして敵意を向けてくる。

 ――それが実に心地いい。
 頭に上っていた血がスムーズに流れ始める。

 そうだ、よくよく落ち着いて考えてみれば、まだ「特別な存在」になってはいなかった黒桐幹也の価値なんて、白純里緒には二の次だ。
 今の彼がそれよりも必要とするのは彼と同じく外れてしまった仲間。彼と同じ殺人鬼である両儀式こそが彼にはもっとも必要なのだ。
 ――だから鮮花の、幹也の妹の言葉は彼の耳にひどく障った。

「式じゃない、か。はっ! お前、あの幹也の妹のくせにずいぶんと見る目がねえなあ」
「……っ! どうしてわたしを、そして幹也を知っているのよ! ――まさか」
 はっ、と何かに気がついたように目を見開く鮮花を見て、白純は大きく笑った。
 ああ、やはりこいつは幹也の奴とは大違いだ。
 的外れにも程がある。

「――は、ははは、あはははははははははははっははははは!
 やっぱりお前、幹也と全然似てねえよ。――鈍すぎる」
 その言葉に何をどう勘違いしたのか、鮮花は刺すような目で白純をにらむ。
「――殺す!」
「――はっ! 面白い――やって見せろよ!」
 言うが早いか、白純里緒は獣のように路面を走り出した。
 そのヒトでは有り得ない速さに真っ先に反応したのは土御門だ。

「っ! 下がれ!」

 走り出そうとした鮮花を引止め、クルツに向かって彼は叫ぶ。
「クルツ!」
「お…………うえっ!?」
 土御門の叫びに応じて、エアガンを構え、放とうとしたクルツの表情が驚きに彩られる。
 クルツの動きを察知した、その瞬間に敵の動きは蛇へと変わった。
 低く、速く、のたくるように蛇行を繰り返すケモノの動きは、鮮花はおろか、土御門やクルツでさえも捉えきれない。
 銃口を向けることも、その動きに反応することさえもできぬままに、間合いはあっという間に狭められて――
 三匹の獲物が白純の間合いの中に入ったその瞬間、あたかも爆ぜるかのような勢いで、蛇の動きは肉食獣のものへと再び変わる。

「――くあっ!」 
 そして苦鳴が響いた。
 ケモノの間合いに捕らえられたその一瞬、
 傭兵としての直感に、魔術師としての経験に、それぞれ従うがままに大きく回避行動をとることができたクルツと土御門とは違って、鮮花はその行動が遅れた。
 故にケモノの一撃を避ける事はできずに、駆け抜けざまに放たれたナイフの一閃によって左腕を切り裂かれていた。
 傷はそれほど深くは無い。が、皮一枚といったわけでもない。
 事実、咄嗟に傷口をおさえた右手から零れるように流れた血が彼女の左腕を紅く、赤く染めあげていく。

「……ちっ! おい、大丈夫か?」
「う、っく……ええ」
 注意の大半を相対する相手に向けながらも、二人は鮮花の様子をうかがう。鮮花も痛みに顔を歪めながらも応えてみせる。

 ――その一方、ケモノの方はというと、一撃を放った後、追撃を避けるかのように斬りつけた勢いそのままに大きく前方へと跳躍した。
 それは明らかに普通では有り得ない動作だった。ほんの一跳び、それにもかかわらず、それだけで数メートルの距離を稼ぐと余裕を持って彼は振り向き、ニヤリと笑みを浮かべた。

 その笑みを見て、彼らは悟る。

 ――次は本気、今よりも速い攻撃が来る。

「…………ヤバイな。どうする、土御門?」
 冷や汗を流しながらクルツは言う。

 相手の戦闘能力は予想を大きく越えていた。
 万全の装備があるというのならばともかく、今の彼らの武装、彼らの能力であの相手にここまでの接近を許してしまった時点で、”詰み”だ。
「にゃー、俺に聞かれても困るぜい。……そうだな、こういっそバラバラに逃げ出して運悪く襲われた一人を囮に逃げ出すってのはどうだ?」
 土御門の言葉にも力は無い。
 そんな男二人をよそに、鮮花は一歩前に出る。
「お断りよ。わたしは例え刺し違えることになろうと幹也の仇を取るんだから!」
 彼女の瞳は純粋な憎悪に燃えている。

「…………」
「…………」
 そんな彼女の様子に二人は黙り込み、そしてはあ、と溜息をついた。

「しゃーねえ、付き合うか」
「にゃー、ま、確かに逃げ切れる可能性もそんなに高いわけじゃねえ」
 そう言うと二人は改めて身構えた。

 ……そんな言葉とは裏腹に、二人の思いはちらりと、目配せをするだけで一致した。二人の思いは鮮花を捨て石にすることに決まった。
 彼女が襲われている間に二人は逃げる、そんな生ぬるい話ではない。
 土御門も、クルツも鮮花を利用して、この強敵を排除する、そう決意したのだ。

 確かに彼らでは先の動きも捉えられなかった以上、本気でくる次の攻撃、より速い攻撃をどうにかできる可能性は低い。
 しかし、相手に重しがついているとなると話は別だ。
 人間の肉というものは意外と抵抗が強く、また人一人分の重量は重い。
 それがどういう事かというと、だ。
 つまり相手が本気で来る、止めを刺しに大きく斬りつけてくる瞬間こそが彼らにとっては最大のチャンスということにもなる。
 襲われる相手の重量と、その肉の抵抗は同時に奴を地獄へと引き摺り落とす重りへと、なる。

 そして戦場での鉄則は弱い奴から確実にしとめること。
 奴にとっても先の交錯でこちらの戦闘能力はほぼ、筒抜けだろう。ならば狙われる相手なんて、一人しかいない。

「覚悟は決まったか? なら、行くぜ!」
 そして、彼らの様子を余裕を持って、眺めていた白純も全員が再び身構えたのを見て、再び彼らへと躍りかかる。
 土御門達の予想したとおり、その動きはさっきの一撃をなお上回る速さ。
 先ほどの攻撃がケモノのような速さというならば今度の攻撃はケモノ以上。

 狙いは――言うまでもなく、黒桐鮮花

「あぶねえっ!」
 予想通りの動きに土御門とクルツも動く。
 セリフだけは仲間を気遣う、しかし実際には鮮花を救うには一拍遅く、その隙を突くには最適のタイミングで彼らも走る。

 そして、鮮花は。
 いかに相手が速かろうとも、反応できない動きをしようとも、鮮花とてむざむざ殺されるつもりは無い。
 交差必殺。
 相手が自分を狙うつもりならば、その瞬間に自分の攻撃だって、あの相手へと当たるはず。
 彼女は拳を握り締め、
「AzoLto――」
 拳の着弾を確認する前に、詠唱を解き放つ。
 彼女の呪文にしたがって、火弾が生まれ――拳も火弾も空を切った。

 鮮花が一撃を放ったその瞬間に、相手はスピードは落とさず、ただ姿勢のみをさらに落とすことで低く放たれた鮮花の一撃をかいくぐったのだ。

「――――っ!」
 見下ろす鮮花と見上げるケモノ、刹那の間に両者の視線が交錯する。
 鮮花の総身を悪寒が襲う。

「――――」
 ……声は、出なかった。
 腹部を貫く衝撃にただ、肺の中の空気が圧迫されて出ていき、げえっ、とそんな音が漏れただけ。
「「な!?」」
 だから代わりに響いた声は土御門とクルツのもの。
 理由は異なれど、まったく同じ驚愕の声を二人は漏らした。

 クルツの驚愕は自分目掛けて、吹っ飛んできた黒桐鮮花に驚いて。
 そして、土御門の驚愕は――自分目掛けて襲い掛かってくるケモノの姿に驚いて。 

 鮮花の一撃をかいくぐった相手は、手にしたナイフで鮮花を貫くことなく、体当たりを食らわせると――いや、体当たりをしたかのような勢いで鮮花にぶつかり、
そのまま彼女の体を足場にして土御門の方へと勢いを殺さずに方向転換を果たしたのだ。

「……っ!」
 蹴り飛ばされた鮮花がクルツへと衝突し、二人まとめて吹き飛ばされる光景を視界の端に捉えながら、土御門の脳裏を死の予感が埋め尽くし――
(……舞夏っ!)
 彼が守るべき、大事な妹の姿を思い出し、土御門は一撃を放つ。
 だが、相手は火弾と拳の双撃すら容易く回避してのけた猛獣だ。
 いかに土御門の攻撃が鮮花より速く、鋭い一撃であろうとも、彼に避けれぬ道理はない。

 ――そんなことは土御門自身わかっていた。

(――甘いんだよ!)
 土御門の拳は空を切る。
 ケモノがはっきりと笑みを浮かべるのが見えた。
 だが、彼の攻撃はここからが本番なのだ。
 空を切った拳は勢いを殺さず、いやむしろその速度を増して弧を描く。
 先の一撃が高速ならば、この一撃はまさに神速。
 敵の後頭部へと一撃は叩きつけられる――

 ――事はなかった。
「ば……ま……」
 鮮血と共に土御門の口から言葉が零れる。
 引かれる拳の速度さえなお上回り、白純の一撃は駆け抜ける勢いそのままに、今度は間違いなく土御門の腹部を貫いた。

「く…………う……」
 人一人分、××キログラムがぶつかった衝撃とその痛みに顔をしかめつつ、クルツはそれを見届けた。
 この距離、この状態ではとてもではないが、想定していたような攻撃を加えることは不可能だった。
 こうなってしまっては、逃げることさえできるかどうか。
 最悪というのも生ぬるい状況の悪さにクルツは歯噛しみした。

 ――しかし、彼はまだ知らない。
 この状況はまだ最悪ではなかったことを。

「よお、遅かったじゃねえか」
「…………?」

 不意に、土御門を貫いたその体制のままでケモノは先ほど自分が向かってきた方角を向くと、にやりとそんなことを言って笑った。
 どうしようもなく嫌な予感を感じながら、クルツもその方向を向く。

「冗…………まじか……」
 絶望的な呟きが知らず、彼の口から漏れる。
 道路を小走りにやってきたのは一人の長身の男だ。

 派手なアクセサリー。
 赤く染めた長い髪。
 おまけに右目の下にはバーコードの刺青。

 そんな容貌の男、見覚えは無かったが、聞き覚えはあった。

 魔術師、ステイル・マグヌス。

 この瞬間をもって、状況は最悪になったというべきだった。

「逃げるぞ!」
「う……」
 そう叫ぶと、クルツは鮮花の体を無理矢理引き起こすと駆け出した。
 土産代わりに銃以外の支給品、缶ジュースの内二本を取り出すと投げつける。
「ガラナ青汁」「いちごおでん」
 二十本のジュースの中から選んだ、とりわけ禍々しい雰囲気の二本のジュースはその中身を散らしながらも狙い外さずケモノの元へと飛んでいき、
「ぐあっ!?」
 悲鳴が聞こえた頃には、路地裏に飛び込んだクルツと鮮花は最初の曲がり角を曲がったところだった。
 いつ、追いつかれるのかわからない、恐怖と絶望に満ちた逃走を続けることしばらく、それは数分か、それとも数十分か。

「はぁ……はぁ……」
「くっ、まけ、たのか……?」
 曲がり角があれば曲がり、必死に走りつづけた彼らは堀へと到達したところでようやく一息つく。
 クルツは注意深くあたり様子をうかがってみるが、とりあえず彼のすぐ側で、荒い息をついている鮮花以外には人の気配は無い。
 はあ、と安堵の息をついたところで隣の鮮花が彼をにらみつけてきた。
「……なんで!」

「ああ?」
「何で、逃げるのよ! あいつは、あいつらは幹也の仇なのに!」
 そんな彼女の言葉をクルツは鼻で笑った。
「何言ってんだ? 一緒に走って逃げたのは鮮花ちゃんだぜ?」
「そ、それは! その……」
 鮮花は言葉に詰まる。
 それはそうだ。彼らが逃亡した時間はそれほど短い時間ではない。
 しかし、彼女は走って、逃げつづけた。

 そんな様子の彼女にクルツはさらに言葉をかける。
「なあ、鮮花ちゃん。君がやりたいのは敵討ちなんであって自殺じゃないだろう?」
「……?」
 クルツが何を言いたいのかわからずに、疑問の表情を浮かべたままで、とりあえず鮮花は頷いた。

「仇はわかった。それが簡単に殺されるような相手じゃないこともわかった。じゃあ、やるべきことは一つだろ?
 確実に奴らを殺せるだけの準備を整える、違うか?」
「でも、そんなのどうやって……?」
 それを聞かれて、クルツはにんまりと笑った。
「プランはあるぜ。とりあえず、ここを目指す」
 そう言いながら彼はがさがさと地図を取り出すと、その一点を指し示した。
「え? ここって」
 鮮花はさらに疑問を浮かべた。
 クルツが指し示したのはエリアE-5、摩天楼。鮮花がスタートした場所だった。
「今更あそこに何の用があるというんです?」
「今の俺たちに必要なのは武器、とりわけ飛び道具の類だ」
 クルツは言う。
 それは確かに間違ってはいない。
 制限されていようともあれだけの運動能力を持つ相手がいるのだ。今後の状況如何ではより高い能力を持つ相手と戦う可能性も考慮するべきで、そんな相手に接近戦を挑むのは自殺行為以外の何ものでもない。

 しかし、と鮮花は言う。
「でも、ここに集められた施設のほとんどは日本のものが基本です。……銃や殺傷能力を持つ武器が売っているとは思えませんが?」
「ふっふっふっ、まだまだ甘いな鮮花ちゃん」
 しかし余裕たっぷりにクルツは笑った。
「どういうことですか?」
「例えばさっきの喫茶店、ちゃんと皿やら何やらが揃っていただろ?」
 言われてみて思い返せば確かにそうだ。
「ええ、それが何か?」
「俺と土御門の奴が最初に詳しい情報交換をした家もそうだった。それこそ少し前まで住んでいた奴がいたみたいにいろんな道具が残されていた」
「回りくどい話は結構です。結論から言ってください」
 強い口調の鮮花にしょうがねえなあ、とクルツは笑うと答えを言う。
「摩天楼の高層マンション。どう考えたって金持ち専用の場所だ。そして基本的に家や施設にはさまざまな道具が残されたままだ。そん中の一軒ぐらい狩猟ややばい趣味をお持ちの方がいてもおかしくない」
「あ……」
 言われてみればそのとおりだ。
 そしてクルツは続けて言う。
「ああ、ちなみに鍵とかそういうのは基本的には心配いらないだろ。これまでのところ全部鍵はかかっていなかったからな。そんな中で鍵がかかったところがあれば……」
「そこには誰かがいる。場合によってはその人の支給品を《譲ってもらう》という手もありますね」
「そういうこと、じゃあ行こうぜ。いつまでもここにいたんじゃ追いつかれるかもしれねえ」
 そうして二人は行動を再開する。
 その前にクルツは一つ、缶ジュースを取り出すと堀へと投げ捨てる。

「……? 何をしているんですか?」
「別に、ここで死んだわけじゃないけどあいつへの手向けってところかな」

(じゃあな、土御門。俺は死なねえ)
 中身の入った缶ジュースはとぷん、と堀に沈んでいった。


【D-4/ホール東の堀付近/一日目・朝】


クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ 、疲労(中)、復讐心
[装備]:エアガン(12/12)
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:摩天楼に向かい、マンションエリアを物色して銃器を入手する。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:ガウルンに対して警戒。
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。


黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:腹部に若干のダメージ、疲労(大) 、強い復讐心
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇をなんとしても取る。
1:土御門と行動。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。



 ◇ ◇ ◇


「……ぐ……う」
 ずるり、と腹部を貫いた腕が引き抜かれて、土御門の体が力なく地面へと落ちた。
 そんな彼には構わずに
「ぐっ、あいつら、何をぶつけやがったんだ」
 顔を、体を塗らしたジュースを拭いつつ、不機嫌に白純里緒は吐き捨てる。
 味も、匂いも不愉快だ。

「何をしている、猛獣」
「よお、遅かったじゃないか魔術師。約束どおり襲われたから殺してやったぜ」
 全身を多少拭った後で、最後に頭から支給品の水をかぶると、白純はステイルへと話し掛ける。

「見ただろ? あと逃げた獲物も二匹いる。さあ、殺しに行こうぜ」
 このコンクリートの密林は彼にとっての狩猟場だ。
 例えどれほど逃げ出そうとも、逃げ切れる道理はどこにも無い。

「待て」
 しかし、意気揚々と追跡をしようとした彼をステイルは呼び止める。
「何だ、魔術師? 言っておくが逃げた奴らも俺に危害を加えたんだぜ」
「そうか」
「ああ、気はすんだか? なら俺は行くぜ?」
 そう言うと今度こそ里緒は背を向けて、
「ま、今となってはどうでもいいんだけどね」
 背後から聞こえた言葉にどうしようもない悪寒に襲われた。

「炎よ(Kenaz)―――――」
 聞こえてくる言葉は先ほども聞いた魔術師の呪文。

「魔術師――!」
 振り向く、その一瞬の動作が致命的なロスとなった。

「――――――――巨人に苦痛の贈り物を(purlsazNaupizGebo)!」

 それはつい先ほども里緒が見た光景。
 火の粉を散らしたオレンジのライン。
そして轟と爆発し一直線に生まれた摂氏3000度の炎の剣。
それを構え、振るうのは『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』の名を持つ魔術師、ステイル=マグヌス

 ただし先ほどとは違う点もある。
 一つは彼の体勢。振り向こうとした今の体勢はさっきよりも悪い。
 もう一つはステイルはすでに炎剣を振るっている!

「くそっ!」
 それでもケモノの運動神経はギリギリのところで炎の剣を回避することを成功させていた。
 ――だが、ギリギリでは逃げ切ったことにはならない。

「――がっ!?」
 剣が白純の体のわずか前を通り過ぎた瞬間に、炎剣は爆発し、その爆風に吹き飛ばされた白純は炎と共に手近なビルの壁面へと叩きつけられた。

「な……んの、何のつもりだ! 魔術師ぃ!」
「へえ、やっぱりしぶといな」

 痛みをこらえて叫ぶ白純を興味深そうにステイルは見る。
 その瞳は檻の中のモルモットを見るような、無慈悲な色をたたえている。

「こたえろ! 何のつもりだ!」
「うーん、まあ一言で言うとだね。猛獣ならばともかくとして、誰彼構わず噛み付くような狂犬はいらないってことさ」
 言うとステイルは無造作に近付いてくる。

「くそっ! 畜生! ちくしょう!」
 白純はうめく。
 彼の体に刻まれたダメージは大きかった。
 なんとか身を起こしはしたものの、がくがくと震える足にはまともな機動力は残されては、いない。

「じゃあな、猛……いや、違うね。じゃあな、狂犬」
「うわわああああああぁぁああああ!」
 絶叫をあげつつ、白純は体を横に転がした。

 ――奇跡が起きる。

 ステイルの一撃は見事に空を切った。
 勝機はいま、ここしかない。
 即座に彼は身を起こし―― 

「灰は灰に―――(AshToAsh)
  ―――塵は塵に―――(DustToDust)
    ―――吸血殺しの紅十字―――(SqueamishBloody Rood)!!」

 奇跡が起きるのは一度だけ。
 二本目の炎剣は白純の体を捕らえ、次の瞬間、彼の体は爆炎に包まれた。

「ま、まるっきり役に立たなかったわけじゃないし、これぐらいが妥当なところかな?」
 もはやぴくりとも動かない、右腕を完全に炭化させた白純に向かって取り出した、一つまみ分のブラッドチップを取り出すと、彼の周囲にぱらぱらと撒き散らして、ステイルはケモノに背を向ける。

 そのまま彼が歩み寄ったのはつい先ほど腹部を貫かれた土御門の元だ。
 ステイルは土御門の腹部から胸にかけて開いた5つの穴を見て軽く眉をしかめた。

「まだ、生きているかい? 土御門」
「にゃー……使い魔の手綱ぐらいはきちんと握っていて欲しいものだぜい……」
 ステイルの言葉に力なく土御門は応じた。
 彼の下の地面はすでに赤く染まっている。

「ま、僕も今それを思い知ったところだよ」
「遅いっての……」
  そう力無く毒づいてから

「良いか、ステイル……」
 土御門はステイルに先の放送を聞いて、より深まった考察を伝える。

「聞いたとおり、ここが異世界とか言うのは間違いないぜい……。けほっ、ってあんまり余計なことを言っている余裕は無いみたいだにゃー」
 げほっ、と土御門は一度大きく咳き込み、そして言葉を続ける。

「結論だけいうと、やつらの力は魔術が基本かもしれないし、科学技術かもしれない。
だから、だ。可能な限り、禁書目録と、レベル5、御坂はなるべく死なないようにした方がいいぜい……。
ま、……あの……海水の話を信じるなら……俺たちの世界からきた人間だけに、てめえが知らない名前だと御坂美琴白井黒子だけを会場内に残せば、
かみやんの「幻想殺し」で状況を、どうにかできる可能性はある……」
「なるほどね」
 短くまとめた土御門の言葉にステイルは理解を示した。

「礼代わりというのもおかしな話だが、止めはいるか?」
「けっこうだぜい……、魔力は無駄遣いするもんじゃない、ぜい……」
「そうか」

 それだけ言うとステイルは土御門に背を向けて、歩き出した。

「ぁ」
「…………」
 歩きながらも彼は静かに考え込む。
 土御門が短くまとめて伝えた言葉、それを解釈すればインデックスをただ一人の生き残りにする以外の、脱出の為に彼ができることが二つあることがわかる。
 ただし、その方向性は正反対といえるものだ。

 一つは機械や、魔術、そのほかありとあらゆる異能に対して何らかの知識を持つ人間を可能な限り生かしておくこと。
 一つ一つの知識では皆無に見える脱出のための手段も、それぞれの知識の穴を別の知識によって埋めていくならば、
彼の同僚、神裂のようにそうすることで打開の道が開く可能性はひょっとしたらあるかもしれない。
 だが、そうでない可能性もある。

 そして、もう一つの道は彼らの世界以外の人間を皆殺しにすること。
 今更あの《人類最悪》が嘘を言うとは思えないし、完全に元通りにまで威力を高められた「幻想殺し」ならばあの壁を打ち破ることはできるかもしれない。
 何よりこのプランの場合は、失敗に終わってもインデックスをただ一人の生き残りにするのが簡単だという点がメリットだ。

「――僕は、どうするべきなんだろうね」
 幻想殺しの少年ならば迷うことは無いであろう、この問いの答えを求めて魔術師は一人、町をさ迷っていく。


【D-4/ホール西の道路/一日目・朝】 


ステイル=マグヌス @とある魔術の禁書目録】
[状態] 健康
[装備] ルーンを刻んだ紙を多数(以前より増えている)、筆記具少々、煙草
[道具] デイパック、支給品一式、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
1:どうする……?
2:上条当麻へ鬱屈した想い……?
3:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。



◇ ◇ ◇


 ――そしてしばしの時が過ぎ。

「ふう、ステイルの奴はようやく行ったか」
 血色こそはよくないものの、土御門元春はゆっくりと、その身を起こした。
「くっ、いやあ、危ないところだったぜい」
 そんなことを呟く彼の腹部からはすでに血が流れていない。よくよく見れば傷口をかさぶたとは違う、薄い膜のようなものが覆っていた。
 これこそが土御門が魔術と引き換えに手に入れた超能力。

 レベル0の肉体再生(オートリバース)。

 傷口に薄い膜を張る程度が限界のしょぼい能力ではあるが、今はその能力によってかろうじて命をつなぐことができていたのだ。文句の言葉なんて出てくるはずが無い。

「ふう、ステイルの奴はとりあえず北に向かったか。とりあえず次の放送で名前を呼ばれる誰かが治療してくれたって事にするかにゃー。
そしてその誰かは治療した俺をかばって殺人者と戦って死亡した。……うんうん、美しい話だぜい」

 そして、その能力をステイルに明かさなかったのはこれは彼にとっての切り札でもあるからだ。
 この力によって、魔術の使用も何とか耐え切ることができるが、それを前提にされるというのも勘弁願いたい。
 他の人間よりかはましというだけで、魔術の使用が命にかかわるのは彼もまた同じなのだから。

「さてと、もう少し傷が回復したらクルツ達を追うか」
 先ほど逃亡していった同行者達のことを土御門は考える。
 さいしょのほうの道取りは見えていたが、その後どこまで彼らが走っていったのかはわからない。
 とはいえまあ、あれほど余裕が無い状態での逃走劇だ。
 そこかしこに彼らの痕跡は残されているだろう。

 ――今の彼にできることはほとんど無い。

「んじゃ、少し休むか」
 とはいえ、まあ、このまま路上で休むというのはありえない。
 土御門はゆっくりと手近なビルの中へと歩いていった。


 【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0~2、H&K PSG1(5/5)@ 予備マガジン×5
[思考・状況]






――ぞふり。

 不意に、そんな衝撃が足元に走った。

「……ん?」
 疑問に思って、視線を下に向けようとして――バランスを崩して土御門は地面に倒れこむ。

「あ……、あ……?」
 声が、漏れる。

 ――足首から、先はなくなっていた。

 その事実を視認した瞬間、

「ぐわああぁあぁああぁぁあああああAAAAあああっ!?」

 閉め忘れた水道のように無くなった足首から大量に血が噴出し、激痛が脳髄で炸裂する。

「て、め――!?」

 最後まで言い切ることはできなかった。
 襲撃者の姿を視認した瞬間、それは相手が彼目掛けて飛び掛ってきた瞬間でもあり、

――相手の爪が土御門の喉を刺し貫いた瞬間でもあったからだ。

(んで、なんでおまえが!)
 襲撃者を視認して、土御門の脳裏を疑問が埋め尽くした。そこにいたのは死んだはずの人物だったからだ。
とはいえ、土御門の疑問は一瞬後には霧散した。

回答が与えられたわけではなく――疑問を抱くだけの余裕が彼から消えてしまったために。

(~~~~~~~~~Ma、いKKkkkkkkkkkA!!!!)
 全身を蹂躙される。 
 文字通り生きながら食われるおぞましさと、それを上回る激痛。
 思考は形にさえなっていなかった。


 早朝の町には似合わない無気味な音が響いていた。

 ごしゃり。
 ぺきり。
 ぱき。
 ぐしゃ。
 ずるずる。
 ぐちゃ。

 人一人分の肉体、その大半を十分少々で食い散らかすと、ふらふらとケモノは路面へと出た。

 白純里緒、魔術師の炎剣をその身に浴びて、それでもなお彼は生きていた。

 ステイルが犯したミスは二つ。

 一つはケモノの生命力を見誤ったこと。
 例えば、サメなどは例え心臓を抉り取られようともしばらくは生き続けるほどの強い生命力を持っている。ありとあらゆるケモノの特性を併せ持つ白純里緒の生命力はそれに劣るものではない。
 だが、逆にそれだけでは右腕を完全に消し炭に変えられて、全身遍く炎に包まれて行動不可能なまでのダメージを受けていた彼は、遠からず死んでいたこともまた間違いのない事実。
 だからそれがステイルが犯した二つ目の失敗。
 白純里緒が欲していたブラッドチップは起源覚醒のために必要な道具であるよりも先に、強力な麻薬であり、そして理性を吹き飛ばす強力な毒物であった。

 だが、毒はまた薬にもなる。

 ブラッドチップはまた強力な代謝促進作用も併せ持っていた。その効果の程は額から頬までをナイフで深々と切り裂かれた黒桐幹也がその命を取り留めるほど。

 ばら撒かれたブラッドチップを摂取することでケモノは急速に回復をはたしていた。

「……ロして……」
 ぶつぶつと呟きながら白純里緒は歩き出す。
 その歩みは少し前までとは比べ物にならないほど、ゆっくりとたどたどしい。

「こ…………や……」
 しかしそれは当然といえる。
 いかに代謝が促進されようと彼が受けたダメージは極めて甚大なものであったし、炭屑とかした右手は失ったままだからだ。

「殺してやるぜ! 魔術師いぃぃ!!」
 だが、そんなことは関係がない。
 今の白純を突き動かすのはただの怒りそれだけだ。

 かくして、手負いのケモノは野に放たれた。



土御門元春@とある魔術の禁書目録 死亡】


【D-4/ホール南の道路/一日目・朝】


白純里緒@空の境界】
[状態]:右腕消失、聴覚低下、右半身を中心に広範囲の火傷、薬物摂取、判断能力の低下、強い殺意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:殺す!!!
[備考]
※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦
※名簿の内容は両儀式黒桐幹也の名前以外見ていません
※全身に返り血が付着しています


[備考]
白純里緒のデイパック、中身は基本支給品(未確認支給品0~1所持。名簿は破棄)が入ったものとアンチロックドブレード@戯言シリーズがホール南の道路に放置されています。
※ 付近のビルの側の一つに大量の血痕と、土御門元春の体の一部、そして土御門のデイパックが残されています。



前:破と獣と炎の狂想曲 ステイル=マグヌス 次:愛憎起源 Certain Desire.
前:破と獣と炎の狂想曲 白純里緒 次:愛憎起源 Certain Desire.
前:明日の君と逢うために 黒桐鮮花 次:A new teacher and a new pupil
前:明日の君と逢うために クルツ・ウェーバー 次:A new teacher and a new pupil
前:明日の君と逢うために 土御門元春 死亡
ウィキ募集バナー