ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
愛憎起源 Certain Desire.
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愛憎起源 Certain Desire. ◆LxH6hCs9JU
殺人鬼は鬼なんかじゃない。
誰よりも人間らしい人間なんだ。
ただ、他の人間よりもちょっとだけ器が小さかっただけ。
小さい器に大きい感情を盛れば、それは溢れて零れる。
愛情であれ憎悪であれ、溢れた感情は痛みに変わる。
誰よりも人間らしい人間なんだ。
ただ、他の人間よりもちょっとだけ器が小さかっただけ。
小さい器に大きい感情を盛れば、それは溢れて零れる。
愛情であれ憎悪であれ、溢れた感情は痛みに変わる。
耐えられない。
この感情に耐えられない。
ならいっそ殺してしまおう。
この感情に耐えられない。
ならいっそ殺してしまおう。
ほら、感情豊かな人間だ。
鬼なんかじゃない。鬼なんかじゃないよ。
どうしようもないくらいに、人間じゃないか。
鬼なんかじゃない。鬼なんかじゃないよ。
どうしようもないくらいに、人間じゃないか。
ああ、けどさ。
それは違う、それは違うよ。
殺人は人間だからこその行いだ。
きみのそれは、違う。
殺人は人間だからこその行いだ。
きみのそれは、違う。
それはただの殺戮だ。
違いなんて、それだけ。
/愛憎起源
◇ ◇ ◇
「――たとえ君はすべて忘れてしまうとしても、僕はなに一つ忘れずに君のために生きて死ぬ」
今でも一字一句違えることなく覚えている、そのセリフ。
まだ僕が『味方』であった頃、彼女に立てた誓いの言葉。
まだ僕が『味方』であった頃、彼女に立てた誓いの言葉。
それは己の命よりも重く、彼女の『敵』であろうと志した起因でもあり、今の僕の存在意義とも言えるものだ。
ここでさえ、この異常な環境下でさえ、そう在ろうとした。彼女の命を守ることこそが、僕の行動理念だから。
ここでさえ、この異常な環境下でさえ、そう在ろうとした。彼女の命を守ることこそが、僕の行動理念だから。
口元にあてがった煙草が、酸素を得て輝きを増す。
先端から灰色の煙が舞った。広間に靄が満ちる。
ああ、最高だね。
ニコチンとタールがない世界は地獄だ、と僕は考える。
僕が死んだときは、願わくば煙草のある天国へと昇りたい。
先端から灰色の煙が舞った。広間に靄が満ちる。
ああ、最高だね。
ニコチンとタールがない世界は地獄だ、と僕は考える。
僕が死んだときは、願わくば煙草のある天国へと昇りたい。
標的を天国へ逃がすような真似はしない――それが『必要悪の教会(ネセサリウス)』の始末人である僕の矜持だ。
この場合、標的とするべきは誰なんだろうね。駆除すべき異端信者なんてこの地にはいないだろうに。
もちろん、彼女に害を為す存在は滅すべきだろう。それで事が片付けば、僕もこんなに悩みはしないんだが……。
この場合、標的とするべきは誰なんだろうね。駆除すべき異端信者なんてこの地にはいないだろうに。
もちろん、彼女に害を為す存在は滅すべきだろう。それで事が片付けば、僕もこんなに悩みはしないんだが……。
“結末”について、考える。
これから三日、いや、あともう二日と半日ほどか。
『人類最悪』の背後に立つ者が定めたタイムリミットは、今も刻々と迫っている。
もし仮に、僕と彼女、あるいは彼と彼女がそこまで辿り着けたとしたら……いったいどんな“結末”が待ち受けているのだろうか。
『人類最悪』の背後に立つ者が定めたタイムリミットは、今も刻々と迫っている。
もし仮に、僕と彼女、あるいは彼と彼女がそこまで辿り着けたとしたら……いったいどんな“結末”が待ち受けているのだろうか。
“海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り”
放送では、『人類最悪』がそんな戯言めいた言葉を残していった。
口を滑らせるだの解釈は任せるだの、まるで僕たちにヒントを与えるかのように。
口を滑らせるだの解釈は任せるだの、まるで僕たちにヒントを与えるかのように。
『人類最悪』という男について、僕は詳しく知らない。
単なる言葉遊びにも思えるそれには、どんな意図が含まれているのか。
推察はし切れない。希望的観測を抱いて溺死する趣味はないからね。
だが僕の同僚である土御門元春は、こんな推論を立てていたな。
単なる言葉遊びにも思えるそれには、どんな意図が含まれているのか。
推察はし切れない。希望的観測を抱いて溺死する趣味はないからね。
だが僕の同僚である土御門元春は、こんな推論を立てていたな。
“僕たちの世界から来た人間だけを会場に残せば、上条当麻の『幻想殺し』でどうにかできるかもしれない”
彼女の命を最優先に考えていた僕では、導き出すことはできなかった上等な仮説だ。
『人類最悪』の戯言を信じるなら、この会場には別々の世界に住まう人間たちがひしめき合っているらしい。
SFっぽい解釈をするなら、パラレルワールドか。いや、パラレルワールドというよりはアナザーワールドかな?
あの狂犬にしても、『幻想殺しの眼』を持つ少女にしても、まったく認知外の存在と言えるだろうし。
『人類最悪』の戯言を信じるなら、この会場には別々の世界に住まう人間たちがひしめき合っているらしい。
SFっぽい解釈をするなら、パラレルワールドか。いや、パラレルワールドというよりはアナザーワールドかな?
あの狂犬にしても、『幻想殺しの眼』を持つ少女にしても、まったく認知外の存在と言えるだろうし。
土御門はそんな別世界の住人たちがひしめき合うこの状況を、“海水魚ばかりの水槽”と考えたのだろう。
不要な海水魚たちを駆除していき、やがて生き残りが僕たち淡水魚だけになれば、水槽の塩分濃度は元に戻る。
そうすれば、おそらくその効力はセーブされているだろう『幻想殺し』も十全となる。
不要な海水魚たちを駆除していき、やがて生き残りが僕たち淡水魚だけになれば、水槽の塩分濃度は元に戻る。
そうすれば、おそらくその効力はセーブされているだろう『幻想殺し』も十全となる。
つまり、“同胞以外を皆殺しにすれば、制限されている力は元に戻る”――と、そんなところか。
まあ確かに、僕の『魔女狩りの王(イノケンティウス)』や彼女の『首輪』すら殺してしまう彼の右手だ。
なにができても不思議じゃないし、しかしだからといって安易に頼る気にもなれない。そんな曖昧で謎に満ちた力。
『人類最悪』の話の信憑性と天秤にかけて、僕が傾くべきはどちらの皿だろうか。
なにができても不思議じゃないし、しかしだからといって安易に頼る気にもなれない。そんな曖昧で謎に満ちた力。
『人類最悪』の話の信憑性と天秤にかけて、僕が傾くべきはどちらの皿だろうか。
決まっている。
彼女が生きるほうだ。
彼女が生きるほうだ。
口の端にあった煙草を指で挟み、一息。
暗がりの広間に、灰色の煙が漂う。
どんな状況下であっても、ニコチンは安らぎをくれる。
まったく、この世は天国だよ。
暗がりの広間に、灰色の煙が漂う。
どんな状況下であっても、ニコチンは安らぎをくれる。
まったく、この世は天国だよ。
「――どこに隠れてやがるッ! 隠れてねェで出てきやがれクソ魔術師ィィィ!!」
さて。
どういうからくりを使ったかは知らないが、しぶといことにあの狂犬はまだご存命らしい。
始末を怠ったつもりはないのだけれどね。なにかしら、急速に傷を治す手立てでも持っていたのか。
獣の生命力というものは侮りがたい。理解したよ。理解したから、もう一度だけ相手をしてやる。
どういうからくりを使ったかは知らないが、しぶといことにあの狂犬はまだご存命らしい。
始末を怠ったつもりはないのだけれどね。なにかしら、急速に傷を治す手立てでも持っていたのか。
獣の生命力というものは侮りがたい。理解したよ。理解したから、もう一度だけ相手をしてやる。
おまえみたいな狂犬、野放しにはしておけないんだよ。
彼女に噛み付かれたら迷惑だ。
彼女に噛み付かれたら迷惑だ。
◇ ◇ ◇
遭遇した。
山を下りてからのことだった。
堀の外側の住宅街を歩いていたら、だった。
山を下りてからのことだった。
堀の外側の住宅街を歩いていたら、だった。
「うわっ」
朝っぱらからご近所迷惑な野郎がいるな、と思ってホイホイ歩いていたらこれだ。
目の前の曲がり角からいきなり、猫が茂みから飛び出してくるみたいに、人が走ってきやがった。
まあそれだけなら別に「うわっ」なんて声上げねーんだけどよ。
困ったことに、そいつ猫でも人でもなさそうなんだわ。
目の前の曲がり角からいきなり、猫が茂みから飛び出してくるみたいに、人が走ってきやがった。
まあそれだけなら別に「うわっ」なんて声上げねーんだけどよ。
困ったことに、そいつ猫でも人でもなさそうなんだわ。
「うわぁー……また厄介なもんと目が合っちまったな」
まずそいつ、性別が不明だった。一見しただけじゃ男か女かわからない。
つーのも格好が全裸に近かったからだ。いや、全裸なら全裸で一目瞭然なんだが、こうも黒くなってたらな。
つーのも格好が全裸に近かったからだ。いや、全裸なら全裸で一目瞭然なんだが、こうも黒くなってたらな。
ところどころ布きれみたいなもんは見えるが、踊ればボロボロ零れるんじゃないかってくらい炭化しちまってる。
右半身なんかもっと酷いな。右肩からなんかぷらぷらしてるが、ありゃ腕じゃないだろう。竹炭か?
火傷っていうか焼き損ないっていうか、ウェルダンじゃなくどっちかっていうとレアだな。
右半身なんかもっと酷いな。右肩からなんかぷらぷらしてるが、ありゃ腕じゃないだろう。竹炭か?
火傷っていうか焼き損ないっていうか、ウェルダンじゃなくどっちかっていうとレアだな。
ま……要するに焼かれたんだろ、こいつ。火遊びが好きな誰かさんによ。
エグイ殺し方しやがるぜ。殺しきれてないところが一層エグイ。
あー、なんか魔術師とか叫んでやがったが、そいつが犯人か?
で、こいつは最後の力振り絞ってその魔術師に復讐を――と。
エグイ殺し方しやがるぜ。殺しきれてないところが一層エグイ。
あー、なんか魔術師とか叫んでやがったが、そいつが犯人か?
で、こいつは最後の力振り絞ってその魔術師に復讐を――と。
「…………ッ」
「おいおいなんだよ、こっち見るなよ。俺は魔術師なんか知らないぞ」
「……ロす……っ」
「ったく、わざわざ曲弦師を避けて来たってのによ。不幸すぎるだろ、俺」
「…………してやるよ」
「言葉通じてるか? 右の耳が焼かれてるなら左から話しかけてやろうか?」
「ぶっ殺してやるよ、魔術師ィィィ!!」
「だから魔術師じゃねーって」
「おいおいなんだよ、こっち見るなよ。俺は魔術師なんか知らないぞ」
「……ロす……っ」
「ったく、わざわざ曲弦師を避けて来たってのによ。不幸すぎるだろ、俺」
「…………してやるよ」
「言葉通じてるか? 右の耳が焼かれてるなら左から話しかけてやろうか?」
「ぶっ殺してやるよ、魔術師ィィィ!!」
「だから魔術師じゃねーって」
聞く耳持たずか。ますますもって厄介だな。
しかし本気で俺を魔術師なんかと勘違いしてるのか、こいつ?
俺は人殺すのにメラとかファイアとか使ったりしねーって。使えねーし。
外見が似てるのかね。その魔術師とやらも、俺みたいに顔面刺青だったりするのかもしれない。
だとしたらぜひ会ってみてーや。んでもって、この焼き残しの後始末を頼みたい。
しかし本気で俺を魔術師なんかと勘違いしてるのか、こいつ?
俺は人殺すのにメラとかファイアとか使ったりしねーって。使えねーし。
外見が似てるのかね。その魔術師とやらも、俺みたいに顔面刺青だったりするのかもしれない。
だとしたらぜひ会ってみてーや。んでもって、この焼き残しの後始末を頼みたい。
「――――」
『そいつ』は声にならない声を上げて突っ込んできた。
やれやれだぜ、なんて余裕ぶったセリフを吐く暇もないってか。
やれやれだぜ、なんて余裕ぶったセリフを吐く暇もないってか。
俺はベストのポケットに右手を突っ込み、一本のナイフを取り出す。
刃渡りはほんの八センチ程度。パン切り用のナイフだからしゃーない。武器っていうよりは食器だものな。
ただまあ、こんなもんでも『ナイフ使い』が持てばダムダム弾程度の凶器にはなる。
安易に人を殺すわけにはいかない今なら、かえって都合がいいくらいだ。
刃渡りはほんの八センチ程度。パン切り用のナイフだからしゃーない。武器っていうよりは食器だものな。
ただまあ、こんなもんでも『ナイフ使い』が持てばダムダム弾程度の凶器にはなる。
安易に人を殺すわけにはいかない今なら、かえって都合がいいくらいだ。
突っ込んできた『そいつ』の攻撃を、ひらりひらりと後退しながら避ける。
得物はなし。武器といやぁ、その左手に備わった獣の爪くらいなものだ。
腕の振りは速いし、四肢が万全なら厄介だったろうけどよ。左一本なら凌ぐのは軽い。
得物はなし。武器といやぁ、その左手に備わった獣の爪くらいなものだ。
腕の振りは速いし、四肢が万全なら厄介だったろうけどよ。左一本なら凌ぐのは軽い。
しかしなんなんだろうね、こいつ。
こんだけの重傷でまだ生きてるってのも不思議だが、あの左手の爪は異常だろ。
あれじゃ人間っていうより肉食獣だぜ。触れれば抉られる。こんな上等なナイフで受けるとなると、ちと躊躇っちまうな。
こんだけの重傷でまだ生きてるってのも不思議だが、あの左手の爪は異常だろ。
あれじゃ人間っていうより肉食獣だぜ。触れれば抉られる。こんな上等なナイフで受けるとなると、ちと躊躇っちまうな。
というわけで、俺は避ける。ことごとく避ける。相手を嘲弄するように避ける。
左足で跳んで右足で着地する。顔面を狙う爪をナイフで弾く。反撃は入れない。
避けに避けて、ときどき弾いて、それでも『そいつ』はしつこく迫ってきた。
ああ、もうなんか面倒だわ。『こいつ』のことはストレートに『ケモノ』と呼称しよう。
なんだか知らねーが、もう人間やめてるだろうがよ。おまえ。
左足で跳んで右足で着地する。顔面を狙う爪をナイフで弾く。反撃は入れない。
避けに避けて、ときどき弾いて、それでも『そいつ』はしつこく迫ってきた。
ああ、もうなんか面倒だわ。『こいつ』のことはストレートに『ケモノ』と呼称しよう。
なんだか知らねーが、もう人間やめてるだろうがよ。おまえ。
っていうか、人間じゃないんなら別に殺しても問題ないんじゃねーか?
あの赤いバケモンと約束したのは、あくまでも『人は殺さない』ってことだけだ。
なら『ケモノ』の一人や二人殺したって、約束を破ったことにはならないだろ。
……解釈の仕方がご都合か? ま、なんにしても。
あの赤いバケモンと約束したのは、あくまでも『人は殺さない』ってことだけだ。
なら『ケモノ』の一人や二人殺したって、約束を破ったことにはならないだろ。
……解釈の仕方がご都合か? ま、なんにしても。
「おまえ、わかってんのか?」
とりあえずはコミュニケーションだろ。
人間なら、言語機能は最大限に活用しなきゃな。
戯言は得意じゃねーんだが、まあ一応だ。
人間なら、言語機能は最大限に活用しなきゃな。
戯言は得意じゃねーんだが、まあ一応だ。
「自分の身体のことなのにわかんないのか? 俺なんか襲ってる場合じゃねーだろうがよ」
これも今さらだけどよ。目の前のケモノは誰がどう見ても死に体だ。精神が肉体を凌駕している、ってなところか?
本人が口で言ってるよう、『魔術師をぶっ殺す』って意志だけでなんとか生き永らえている。
怒りに塗れた復讐鬼ってのは怖いもんだ。なにも殺人鬼に八つ当たりして殺されたくなんかないだろうに。
本人が口で言ってるよう、『魔術師をぶっ殺す』って意志だけでなんとか生き永らえている。
怒りに塗れた復讐鬼ってのは怖いもんだ。なにも殺人鬼に八つ当たりして殺されたくなんかないだろうに。
「こっからだと、たしか北のほうに病院あったろ。悪いこと言わねーから行っとけ。もう手遅れかもしれないけどよ」
堀とは反対側の方向を指差し、教えてやる。
ケモノは頭から突っ込んできた。もちろん避ける。
ケモノは頭から突っ込んできた。もちろん避ける。
「人の話を聞かねーやつだな」
嘆息する。
厄介ごとは背負いたくないし、約束破んのも癪だからできればトドメは刺したくない。
だからってこのまますたこらさっさってのもな。街で猛獣が暴れてんのを知りながら放置なんて気が引ける。
始末をつける義理もないし、他の誰かに被害が及ばぬようにって柄でもないが、まあ理由があるとすればだ。
厄介ごとは背負いたくないし、約束破んのも癪だからできればトドメは刺したくない。
だからってこのまますたこらさっさってのもな。街で猛獣が暴れてんのを知りながら放置なんて気が引ける。
始末をつける義理もないし、他の誰かに被害が及ばぬようにって柄でもないが、まあ理由があるとすればだ。
なんとなく、だな。
そりゃそうさ。いつだってそうだよ。人殺すのにいちいち高尚な理由なんていらないだろ。
楽しいから。嬉しいから。安心するから。
正義のため。大儀のため。愛しい女のため。
模範解答はいろいろあるよ。そりゃ結構。
俺はそいつら全員変態だと思うがね。
楽しいから。嬉しいから。安心するから。
正義のため。大儀のため。愛しい女のため。
模範解答はいろいろあるよ。そりゃ結構。
俺はそいつら全員変態だと思うがね。
ここで俺がこいつを殺したからって、実は得るものなんてなにもない。
別に命が追い詰められてるって状況でもないんだから、命が助かるってわけでもないしな。
全身焼け爛れで荷物なんかも持ってないし、本当に無価値だな。価値なんて求めないけどよ。
別に命が追い詰められてるって状況でもないんだから、命が助かるってわけでもないしな。
全身焼け爛れで荷物なんかも持ってないし、本当に無価値だな。価値なんて求めないけどよ。
まったく、傑作だぜ。
つまるところ約束だとか自己防衛の手段だとか障害の駆除だとか、そういうのはどうでもいいんだよな。
要は殺すってことだ。要さなくてもそれだけだ。
殺人鬼は人を殺す鬼と書くが、その正体は人を殺す人であり、そして俺は殺人鬼だ。
要は殺すってことだ。要さなくてもそれだけだ。
殺人鬼は人を殺す鬼と書くが、その正体は人を殺す人であり、そして俺は殺人鬼だ。
殺し合いだろうがなんだろうが、それは変わらないだろ。
いや――別にこれは、殺し合いってわけじゃないんだっけか?
けどま、殺し合う気で俺を襲ってくるやつがいるんだ。
いや――別にこれは、殺し合いってわけじゃないんだっけか?
けどま、殺し合う気で俺を襲ってくるやつがいるんだ。
応えてやるべきだろうよ。
お望み通り、いや魔術師ではなく。
殺人鬼として、な。
お望み通り、いや魔術師ではなく。
殺人鬼として、な。
◇ ◇ ◇
――ボクはいったい、なにをしているのだろう。
白純里緒が人間を襲う中で、ふとそんなことを考える。
彼は、いやもしくは彼女は、だろうか。
襲っている相手の姿すら、きちんと知覚できない。
視界が歪む。音が聞こえにくい。風景が霞んでいた。
肉体にだいぶガタがきているな。もう長くは持たない。
彼は、いやもしくは彼女は、だろうか。
襲っている相手の姿すら、きちんと知覚できない。
視界が歪む。音が聞こえにくい。風景が霞んでいた。
肉体にだいぶガタがきているな。もう長くは持たない。
ボクにしても、俺にしても。
この殺し合いの結末がどうであれ、もう限界はすぐそこまで迫っている。
そのわずかな時を――ボクは、あるいは俺は、どう生きるべきだ?
この殺し合いの結末がどうであれ、もう限界はすぐそこまで迫っている。
そのわずかな時を――ボクは、あるいは俺は、どう生きるべきだ?
いや。
違った。
違った。
ボクなんて存在は、とっくのとうに死んでいるのだった。
おそらくはあの瞬間、黒桐幹也の名前が放送で告げられて。
彼は特別ではないからと執着をやめ、両儀式を求めたそこで。
ボクという白純里緒は消えて、俺という白純里緒が確立した。
おそらくはあの瞬間、黒桐幹也の名前が放送で告げられて。
彼は特別ではないからと執着をやめ、両儀式を求めたそこで。
ボクという白純里緒は消えて、俺という白純里緒が確立した。
じゃあなんで、ボクはまだ――ここに存在していられるのだろうか。
ボクは黒桐幹也を欲した。
起源に覚醒し、衝動に打ち負けたボクは、彼の前でのみ白純里緒に戻れた。
起源に覚醒し、衝動に打ち負けたボクは、彼の前でのみ白純里緒に戻れた。
俺は両儀式を欲した。
同類よりももっと高潔な仲間として、殺人鬼である彼女を追い求めた。
同類よりももっと高潔な仲間として、殺人鬼である彼女を追い求めた。
殺人衝動を持つ俺は――たしかに白純里緒なのだろう。
殺し合いの隅で幹也の言葉を反芻するボクは――白純里緒なのか?
殺し合いの隅で幹也の言葉を反芻するボクは――白純里緒なのか?
「上等だぜ――」
声が聞こえる。
白純里緒と対峙する者の、冷え切った声だ。
突き刺さる殺意が妙に心地よい……そうか、これは殺意か。
白純里緒と対峙する者の、冷え切った声だ。
突き刺さる殺意が妙に心地よい……そうか、これは殺意か。
じゃあ、白純里緒は俺なんだな。
なんだ。
結局のところ、一瞬だったじゃないか。
なんだ。
結局のところ、一瞬だったじゃないか。
死に掛けの白純里緒は、幹也の幻影なんかじゃなく、仲間を求めている。
それはかつて恋焦がれた相手、両儀式であるのかもしれない。
しかしこの場は、名も知らぬ殺人鬼へと衝動が向いていた。
それはかつて恋焦がれた相手、両儀式であるのかもしれない。
しかしこの場は、名も知らぬ殺人鬼へと衝動が向いていた。
「――殺して解して並べて揃えて晒してやるよ」
ああ、素敵だ。
感覚も不鮮明になってきたってのに、やけに透き通って聞こえる。
おまえはいったい誰だ。幹也じゃないだろう。なら式か。それともあのクソ魔術師か。
感覚も不鮮明になってきたってのに、やけに透き通って聞こえる。
おまえはいったい誰だ。幹也じゃないだろう。なら式か。それともあのクソ魔術師か。
誰でもいい。
もう、なんでもいいや。
とにかく殺したい。
応えてくれるんなら願ってもない。
もう、なんでもいいや。
とにかく殺したい。
応えてくれるんなら願ってもない。
――殺して噛んで砕いて呑んで喰らってやるよ。
白純里緒の起源はどこまでいってもそれだ。
ケモノは今さら、ヒトになんて戻れない。
ケモノは今さら、ヒトになんて戻れない。
白純里緒の身体が弾む。
腰を捻りながら、右腕を振り上げようとした。
感覚も反応もなかった。
燃えたんだったな。
なら左だ。
左腕を殺人鬼の顔面目掛けて伸ばす。
派手な刺青が垣間見えた。
爪が顔の肉を削ぐ、そんな感触は一切残らなかった。
左腕は空を切ったのだ。
殺人鬼の手元がきらりと光った。
太陽光が反射して、それがナイフだとわかる。
ナイフは剥き出しになっていた俺の胸を浅く撫で、血風を巻き上げた。
痛みを感じる暇もなく、身体は動き続けた。
致命傷でないなら動くさ。
目の前にいるだろう殺人鬼に向かって、飛びかかる。
全体重を乗せて、そこからじっくり嬲り殺しにしてやろう。
そんな魂胆は見透かされていたのか、俺は大地を滑った。
すぐに起き上がり、感覚を研ぎ澄ませる。
殺人鬼を探す。
背後にいた。
振り向き様に爪で切り裂く。
当たらない。
喉に激痛がきた。
鋭いなにかが声帯を潰したような感触。
叫んだ。
音が出ていたのかはわからないが、とにかく叫んだ。
ヤバイな、感覚がもうほとんど残っていない。
殺人鬼の位置がわからない。
姿が見えない、声が聞こえない、動きが読めない。
我武者羅に、唯一の武器である左腕を振るった。
ひうん――と音が鳴った。
俺の左手が、爪のある左手が吹っ飛んだ。
手首のやや上あたりから鮮血が噴き出す。
火傷の痛みがまだ残ってるってのに、これだよ。
爪を失った獅子に残されたものっていったらなんだ。
牙だ。
今となっちゃ俺はもう、殺人鬼だから。
ケモノと大差ないヒトだから。
人を殺す鬼だから。
殺し方なんて選ばない、殺せればそれでいい。
殺してすぐに喰えるからむしろ都合がよかった。
最後の力を振り絞って、殺人鬼を殺しにかかる。
殺人鬼はどこだ。
そこか。
白純里緒は大きく口を開け――――
腰を捻りながら、右腕を振り上げようとした。
感覚も反応もなかった。
燃えたんだったな。
なら左だ。
左腕を殺人鬼の顔面目掛けて伸ばす。
派手な刺青が垣間見えた。
爪が顔の肉を削ぐ、そんな感触は一切残らなかった。
左腕は空を切ったのだ。
殺人鬼の手元がきらりと光った。
太陽光が反射して、それがナイフだとわかる。
ナイフは剥き出しになっていた俺の胸を浅く撫で、血風を巻き上げた。
痛みを感じる暇もなく、身体は動き続けた。
致命傷でないなら動くさ。
目の前にいるだろう殺人鬼に向かって、飛びかかる。
全体重を乗せて、そこからじっくり嬲り殺しにしてやろう。
そんな魂胆は見透かされていたのか、俺は大地を滑った。
すぐに起き上がり、感覚を研ぎ澄ませる。
殺人鬼を探す。
背後にいた。
振り向き様に爪で切り裂く。
当たらない。
喉に激痛がきた。
鋭いなにかが声帯を潰したような感触。
叫んだ。
音が出ていたのかはわからないが、とにかく叫んだ。
ヤバイな、感覚がもうほとんど残っていない。
殺人鬼の位置がわからない。
姿が見えない、声が聞こえない、動きが読めない。
我武者羅に、唯一の武器である左腕を振るった。
ひうん――と音が鳴った。
俺の左手が、爪のある左手が吹っ飛んだ。
手首のやや上あたりから鮮血が噴き出す。
火傷の痛みがまだ残ってるってのに、これだよ。
爪を失った獅子に残されたものっていったらなんだ。
牙だ。
今となっちゃ俺はもう、殺人鬼だから。
ケモノと大差ないヒトだから。
人を殺す鬼だから。
殺し方なんて選ばない、殺せればそれでいい。
殺してすぐに喰えるからむしろ都合がよかった。
最後の力を振り絞って、殺人鬼を殺しにかかる。
殺人鬼はどこだ。
そこか。
白純里緒は大きく口を開け――――
――――また燃えた。
◇ ◇ ◇
「――炎よ 巨人に苦痛の贈り物を(Kenaz PuriSazNaPizGebo)」
詠唱を終え、発動させる。
ルーンを刻んだ紙が猛然と燃え盛り、一本の剣に変ずる。
それは炎によって形成された質量なき剣だ。剣の形をした炎と言ってしまってもいい。
ゆえに僕はそれを、振るのではなく放つように、斬るのではなく包み込むように、手負いの狂犬へと差し向けた。
ルーンを刻んだ紙が猛然と燃え盛り、一本の剣に変ずる。
それは炎によって形成された質量なき剣だ。剣の形をした炎と言ってしまってもいい。
ゆえに僕はそれを、振るのではなく放つように、斬るのではなく包み込むように、手負いの狂犬へと差し向けた。
狂犬の身体が業火に包まれる。喉でも潰されていたのか、悲鳴すら上がらない。
三千度を越す熱に苦しみ、神経が焼き切れる過程に苛まれ、地獄を味わっている。
火葬。なんとも残虐な処刑方法だと思うよ。だけど悪いね、天国には逃がせないんだ。
三千度を越す熱に苦しみ、神経が焼き切れる過程に苛まれ、地獄を味わっている。
火葬。なんとも残虐な処刑方法だと思うよ。だけど悪いね、天国には逃がせないんだ。
「――よぉ、にーちゃん」
炎に包まれたケモノが地面をのた打ち回る中、その男は僕に話しかけてきた。
タイガーストライプのハーフパンツと、赤い長袖のフード付きパーカ、その上に黒いタクティカルベストという格好。
纏う身体は華奢で、身長もかなり低いほうだ。二メートルの僕の視点からすると、それがよくわかる。
目を引くのは首から上だ。右耳の三連ピアスに、左耳の携帯ストラップ、それになんといっても――
タイガーストライプのハーフパンツと、赤い長袖のフード付きパーカ、その上に黒いタクティカルベストという格好。
纏う身体は華奢で、身長もかなり低いほうだ。二メートルの僕の視点からすると、それがよくわかる。
目を引くのは首から上だ。右耳の三連ピアスに、左耳の携帯ストラップ、それになんといっても――
「イカした刺青してんな」
「君もね」
「君もね」
――右顔面に禍々しくほどこされた、紋様とも言えるような刺青。
僕の右目の下にあるバーコード柄の刺青よりも異様なそれが、男の異常性を物語っていた。
僕の右目の下にあるバーコード柄の刺青よりも異様なそれが、男の異常性を物語っていた。
「あんたが魔術師か? そいつ、散々あんたのこと探してたぜ。殺してやるよ~、ってな」
「らしいね……君には面倒をかけたようだ。二度とこんなことが起きないよう、始末はここでつけるよ」
「人の殺しにいちゃもんつける気はねーけどよ。ヘタに生命力強いやつってのはいるもんだからな。あんま苦しめてやんなよ?」
「らしいね……君には面倒をかけたようだ。二度とこんなことが起きないよう、始末はここでつけるよ」
「人の殺しにいちゃもんつける気はねーけどよ。ヘタに生命力強いやつってのはいるもんだからな。あんま苦しめてやんなよ?」
そいつは無理だな。道を外れたクズは死んでも苦しめ、という『必要悪の教会(ネセサリウス)』の流儀に反する。
それにね。自ら進んで重苦を背負おうとしているのはこのケモノだよ。
あの場で大人しく焼き死んでおけば、もっと楽に地獄に落ちれただろうに。
それにね。自ら進んで重苦を背負おうとしているのはこのケモノだよ。
あの場で大人しく焼き死んでおけば、もっと楽に地獄に落ちれただろうに。
「まったく、なにが君をそうまでさせるのか」
血の色を纏っていたジャンパーは黒に、黒いスカートはより黒い炭に、肩口まで伸びていた金髪は見る影もない。
すべてが炎に侵され、蹂躙の果てに炭化しようとしていた。なのに。
すべてが炎に侵され、蹂躙の果てに炭化しようとしていた。なのに。
「っ……、ぁ――」
ケモノは炎の中でまだ動く。炭となっても蠢き続ける。鋭さを失ってしまった牙を、懸命に僕のほうへと近づける。
彼にはもう、僕に対する憎しみにしか残っていないのかもしれない。
死を拒絶してまで僕を殺しにかかるだなんて、見上げた憎悪と殺意だ。
そしてそれ以上に――憐れだね。
彼にはもう、僕に対する憎しみにしか残っていないのかもしれない。
死を拒絶してまで僕を殺しにかかるだなんて、見上げた憎悪と殺意だ。
そしてそれ以上に――憐れだね。
「かはは、傑作だぜ。曲弦師を避けて来たら、曲芸師に出会っちまったってところか?」
偶然この場に居合わせた男は、僕と狂犬の構図を見てそんな風に笑う。
曲芸師ね。炎を操り、猛獣を従える。仕置きに焼却と、まああながち間違ってはいないか。
この狂犬にしたって……おっと、そういえば一つ気がかりなことがあった。
曲芸師ね。炎を操り、猛獣を従える。仕置きに焼却と、まああながち間違ってはいないか。
この狂犬にしたって……おっと、そういえば一つ気がかりなことがあった。
「さて、そろそろ逝こうか狂犬」
僕はこの狂犬の名前を知らない。狂犬だって、僕の名前を知らないはずだ。
邂逅してから今の今まで、呼び名は『猛獣』と『魔術師』で通してきたからね。
真名なんて喋る必要はなかったし、互いにそれを訊こうともしなかった。
本当に、一時だけの共闘だったわけだ。
邂逅してから今の今まで、呼び名は『猛獣』と『魔術師』で通してきたからね。
真名なんて喋る必要はなかったし、互いにそれを訊こうともしなかった。
本当に、一時だけの共闘だったわけだ。
「灰は灰に(AshToAsh)」
確認していないことは他にもある。狂犬が殺し合いを肯定していた理由だ。
なんのために戦うのか。なにを目的として殺すのか。僕は狂犬の人間関係すらまともに把握してはいない。
行動に意味を持たない殺人鬼……いや、こいつはただの殺戮するケモノか。
なんのために戦うのか。なにを目的として殺すのか。僕は狂犬の人間関係すらまともに把握してはいない。
行動に意味を持たない殺人鬼……いや、こいつはただの殺戮するケモノか。
「塵は塵に(DustToDust)」
なんにせよ、もはや些事だ。
仮に、狂犬に僕にとっての彼女のような存在がいたとしても――なにも変わりはしない。
狂犬は今、この瞬間に果てる。
仮に、狂犬に僕にとっての彼女のような存在がいたとしても――なにも変わりはしない。
狂犬は今、この瞬間に果てる。
「吸血殺しの紅十字(SqueamishBloody Rood)」
二度に渡る炎剣の精製。
身動ぎはできても避けるなんてことはできない地べたの狂犬に、二振りの爆炎を叩き込む。
身動ぎはできても避けるなんてことはできない地べたの狂犬に、二振りの爆炎を叩き込む。
摂氏三千度の猛火に包まれて、狂犬は今度こそ――
◇ ◇ ◇
――――なにも感じられない。
ボクは生きているのか、それとも死んでいるのか。
俺は死んでいるのか、生きているのか。
白純里緒はまだこの世に存在しているのか。
白純里緒はもうこの世に存在していないのか。
俺は死んでいるのか、生きているのか。
白純里緒はまだこの世に存在しているのか。
白純里緒はもうこの世に存在していないのか。
自分という存在が酷く曖昧だった。
そこに在るという確証が持てない。
そこに在ったという自信も抱けない。
白純里緒って結局なんだったんだ?
そこに在るという確証が持てない。
そこに在ったという自信も抱けない。
白純里緒って結局なんだったんだ?
両儀式は、俺が愛した特別な女は――俺をどんな風に見ていた?
黒桐幹也は、ボクを先輩と慕ってくれた彼は――ボクをどんな風に見ていた?
荒耶宗蓮は、白純里緒の起源を覚醒に向かわせた魔術師は――白純里緒の起源はなんだと言った?
黒桐幹也は、ボクを先輩と慕ってくれた彼は――ボクをどんな風に見ていた?
荒耶宗蓮は、白純里緒の起源を覚醒に向かわせた魔術師は――白純里緒の起源はなんだと言った?
なにもかもが虚無へと消えていく。
なにを為そうとしていたのか、なにを成すべきだったのか、それすらも。
憎しみの対象が思い出せない、愛情の対象が思い出せない、殺意の矛先が見出せない。
なにを為そうとしていたのか、なにを成すべきだったのか、それすらも。
憎しみの対象が思い出せない、愛情の対象が思い出せない、殺意の矛先が見出せない。
このままただ消えていくだけなのか?
違うだろう。
死を予期して、それでも身体は動いたんだ。
死ぬ前になにかやらなきゃいけなかったはずだ。
違うだろう。
死を予期して、それでも身体は動いたんだ。
死ぬ前になにかやらなきゃいけなかったはずだ。
――――殺人鬼と、魔術師の視線を感じた。
それは決して、両儀式と荒耶宗蓮のものではない。
自分という存在をことごとく死に向かわせた、忌むべき敵だ。
ああ、そうか。
白純里緒はこの二人に殺されようとしているんだな。
自分という存在をことごとく死に向かわせた、忌むべき敵だ。
ああ、そうか。
白純里緒はこの二人に殺されようとしているんだな。
じゃあこの感情の正体は――怒りか。
両儀や幹也に向けていた愛情。
両儀と幹也に向けていた憎悪。
それらに連なる“喰いたい”という起源。
なにもなかった。
あるはただ、純然とした怒りだけだ。
両儀や幹也に向けていた愛情。
両儀と幹也に向けていた憎悪。
それらに連なる“喰いたい”という起源。
なにもなかった。
あるはただ、純然とした怒りだけだ。
ブチ殺したい――っていう衝動だけだ。
叫びたかった。
声を振り絞ろうとしても、喉が焼かれていてできなかった。
魔術師が炎の剣を二振り、放ってくる。
全身は業火に包まれた。
足の先から腕の先まで、余すことなく。
傷口から熱が侵入する。
身体の中身まで焼かれている気分だった。
火はアスファルトの地面にこすり付けたところで消えやしない。
身動ぎ一つで身体は一センチほど進んだ。
魔術師は蔑んだ目つきでこちらを見下ろしている。
その顔、ずたずたに引き裂きてぇ。
殺人鬼は汚物でも見るような顔だった。
どうでもいいがどういうセンスだ、その顔面。
不思議だな。
目玉なんてとっくに蒸発してるってのに、姿が見える。
ああ、もう少しだ。
このままナメクジみたいに這って行ってやろう。
炎に塗れた身体で魔術師に抱きついてやる。
愛情も憎悪も超越した純すぎる殺意で滅茶苦茶に抱いてやるよ。
魔術師が一歩身を引いた。
こら、逃げんな。
逃げんなよ。
俺はてめぇをぶっ殺してぇんだ。
ボクだってそうだ。
これは白純里緒の十割が肯定する殺意なんだよ。
大人しく死ね。
この身が焼失する前に殺されろ。
クソッ、もう膝まで燃え尽きちまった。
肘なんかとっくに炭だ。
肩と腹を支えに芋虫のように進む。
一ミリ程度しか動かなかった。
爪は燃やされて、腕は断絶されて、牙は神経ごと焼き切れた。
だが殺す。
金色の髪は毛根に至るまで全部なくなっちまったが、関係ない。
殺すといったら殺す。
それが殺人鬼だ、どれが殺人鬼だ?
ああ、頭の端にはまだ両儀と幹也の姿が燻っている。
白純里緒は本当に、あの二人を愛していたんだな。
肌が焼けた、肋骨が燃えた、心臓が黒こげになる。
筋肉はただの線に。
身体の水分はとっくに弾け飛んで、空気に還る。
白純理という存在の核が、燃え尽きる。
燃えた。
焼け死んだ。
だが殺す。
屍も残らない。
この世からの焼滅。
声を振り絞ろうとしても、喉が焼かれていてできなかった。
魔術師が炎の剣を二振り、放ってくる。
全身は業火に包まれた。
足の先から腕の先まで、余すことなく。
傷口から熱が侵入する。
身体の中身まで焼かれている気分だった。
火はアスファルトの地面にこすり付けたところで消えやしない。
身動ぎ一つで身体は一センチほど進んだ。
魔術師は蔑んだ目つきでこちらを見下ろしている。
その顔、ずたずたに引き裂きてぇ。
殺人鬼は汚物でも見るような顔だった。
どうでもいいがどういうセンスだ、その顔面。
不思議だな。
目玉なんてとっくに蒸発してるってのに、姿が見える。
ああ、もう少しだ。
このままナメクジみたいに這って行ってやろう。
炎に塗れた身体で魔術師に抱きついてやる。
愛情も憎悪も超越した純すぎる殺意で滅茶苦茶に抱いてやるよ。
魔術師が一歩身を引いた。
こら、逃げんな。
逃げんなよ。
俺はてめぇをぶっ殺してぇんだ。
ボクだってそうだ。
これは白純里緒の十割が肯定する殺意なんだよ。
大人しく死ね。
この身が焼失する前に殺されろ。
クソッ、もう膝まで燃え尽きちまった。
肘なんかとっくに炭だ。
肩と腹を支えに芋虫のように進む。
一ミリ程度しか動かなかった。
爪は燃やされて、腕は断絶されて、牙は神経ごと焼き切れた。
だが殺す。
金色の髪は毛根に至るまで全部なくなっちまったが、関係ない。
殺すといったら殺す。
それが殺人鬼だ、どれが殺人鬼だ?
ああ、頭の端にはまだ両儀と幹也の姿が燻っている。
白純里緒は本当に、あの二人を愛していたんだな。
肌が焼けた、肋骨が燃えた、心臓が黒こげになる。
筋肉はただの線に。
身体の水分はとっくに弾け飛んで、空気に還る。
白純理という存在の核が、燃え尽きる。
燃えた。
焼け死んだ。
だが殺す。
屍も残らない。
この世からの焼滅。
ちくしょう……だな。
最悪……っ。
死んだよ、ああ。
最悪……っ。
死んだよ、ああ。
本当に…………最悪だ。
◇ ◇ ◇
どこの誰か、なんてのは結局わからなかったが、まあとにかく。
狂犬と呼ばれていたケモノは死んだ。正確には、燃え尽きた。いや、あしたのジョー的な意味ではなく。
骨の一本も残さない。残したのは炭だけ。血液すら完全に蒸発させて、存在自体を焼き消したのだ。
すげーな魔術師。火葬っていったって骨くらいは残すぜ。容赦も無駄もあったもんじゃねぇ。
狂犬と呼ばれていたケモノは死んだ。正確には、燃え尽きた。いや、あしたのジョー的な意味ではなく。
骨の一本も残さない。残したのは炭だけ。血液すら完全に蒸発させて、存在自体を焼き消したのだ。
すげーな魔術師。火葬っていったって骨くらいは残すぜ。容赦も無駄もあったもんじゃねぇ。
「ちゃんと地獄に落ちろよ、狂犬」
トドメがこのセリフだ。
俺が言うのもなんだが、ヤバすぎるだろこいつ。
俺が言うのもなんだが、ヤバすぎるだろこいつ。
「……なにか言いたげな顔だね?」
「いんや、なぁんにも」
「遠慮することはないさ」
「本当になにもねーって。しいて言うなら、ちょっとかっくいーと思っただけさ」
「いんや、なぁんにも」
「遠慮することはないさ」
「本当になにもねーって。しいて言うなら、ちょっとかっくいーと思っただけさ」
服装もなかなか、センスがあると思うね。
髪はまっかっか、耳にはあたりまえのようにピアス、指には十本とも指輪が嵌められている。
傍にいるだけでもヤニと香水の匂いがぷんぷんしてきやがるし、目元にはバーコード柄の刺青だ。
そしてそんな装飾過剰な出で立ちでありながら、着ている服が修道服っていうんだから、まあなんとも。
髪はまっかっか、耳にはあたりまえのようにピアス、指には十本とも指輪が嵌められている。
傍にいるだけでもヤニと香水の匂いがぷんぷんしてきやがるし、目元にはバーコード柄の刺青だ。
そしてそんな装飾過剰な出で立ちでありながら、着ている服が修道服っていうんだから、まあなんとも。
「炎の必殺仕置き人ってところか? かはは、傑作だぜ。閻魔様にでも遣わされたのかよ」
「地獄は嫌いだ。僕は神様の遣いだよ。疑わしいって言うんならこの場で聖書の中身でも暗唱してやろうか?」
「地獄は嫌いだ。僕は神様の遣いだよ。疑わしいって言うんならこの場で聖書の中身でも暗唱してやろうか?」
本物の修道士かよ。いったいぜんたいどんな神様を信仰してるってんだ。邪神か? 世も末だな。
「……で、君はいったい誰なんだ? どういう経緯で狂犬と戯れてた」
「単なる通行人だぜ、俺は。道を歩いていたら突然バッタリだ。向こうは誤解して襲ってくるしよ」
「ふうん……誰かさんを思い出すくらい不幸だね」
「俺だったからよかったがよー。一般人だったらまず喰われてたぜ。危なっかしいったらありゃしねぇ」
「それはそれは。で、通行人。狂犬に噛み付かれそうになってもナイフと鋼線一本でそれを凌いでいた君はいったいなんだ?」
「単なる通行人だぜ、俺は。道を歩いていたら突然バッタリだ。向こうは誤解して襲ってくるしよ」
「ふうん……誰かさんを思い出すくらい不幸だね」
「俺だったからよかったがよー。一般人だったらまず喰われてたぜ。危なっかしいったらありゃしねぇ」
「それはそれは。で、通行人。狂犬に噛み付かれそうになってもナイフと鋼線一本でそれを凌いでいた君はいったいなんだ?」
こいつ、物陰で俺の奮戦ぶりを見てやがったな。
トドメ刺しに来るタイミングも見計らっていたに違いない。
ますますもって聖職者とは思えねぇ。
トドメ刺しに来るタイミングも見計らっていたに違いない。
ますますもって聖職者とは思えねぇ。
「なんだよ、通行人以外の回答をご所望か? なら、そうだな……『殺人鬼』、ってなところでどうだ?」
俺の発言に、魔術師は顔を顰めた。
反応はまったくもって常識人だな。ま、こんな場所で殺人鬼と言われて反応しないのもおかしいわな。
反応はまったくもって常識人だな。ま、こんな場所で殺人鬼と言われて反応しないのもおかしいわな。
「っていっても、今は人殺しも控えてるんだけどよ。怖い怖いおねーさんとそういう約束をしちまってね。
実のところ、あんたが狂犬にトドメを刺してくれて助かった。あのまま殺しちまってたら、約束破ったことになるし」
実のところ、あんたが狂犬にトドメを刺してくれて助かった。あのまま殺しちまってたら、約束破ったことになるし」
魔術師は「ふうん」と興味もなさげに相槌を打つ。
修道服のポケットから煙草を取り出し、それに火をつけた。
修道服のポケットから煙草を取り出し、それに火をつけた。
「殺人鬼、ねぇ」
俺の目の前でもくもくと煙を吹かしながら、視線だけはぶらさずこちらに向けてくる。
なに考えてんのかわかんねーやつだな。
なに考えてんのかわかんねーやつだな。
「そういうあんたは何者よ。魔術師で神に仕える者、ってのはなしだぜ。名前は?」
「うーん、そうだね……ここは“Fortis931”と名乗っておこうかな?」
「あ? なんだそりゃ。どっかのコードネームか?」
「魔法名だよ。僕たち魔術師は魔術を使う際、真名を名乗ってはいけないという因習があってね。殺し名とも言うかな」
「うーん、そうだね……ここは“Fortis931”と名乗っておこうかな?」
「あ? なんだそりゃ。どっかのコードネームか?」
「魔法名だよ。僕たち魔術師は魔術を使う際、真名を名乗ってはいけないという因習があってね。殺し名とも言うかな」
『殺し名』、ねぇ。
《死神》や《掃除人》ならまだわかるが、《魔術師》なんてのは聞いたこともねぇ。
《死神》や《掃除人》ならまだわかるが、《魔術師》なんてのは聞いたこともねぇ。
「奇遇だな。それなら俺も持ってるぜ。『零崎一賊』って知ってるか?」
「聞かないな……そうだ。そのへんの説明も兼ねて、少し話をしないか? ちょうど近くにホテルがある」
「男にホテルに誘われてもなぁ。っていうか、だな。あー……うん。やっぱ、悪いけど断らせてもらうわ」
「聞かないな……そうだ。そのへんの説明も兼ねて、少し話をしないか? ちょうど近くにホテルがある」
「男にホテルに誘われてもなぁ。っていうか、だな。あー……うん。やっぱ、悪いけど断らせてもらうわ」
俺は軽く手を振って、足早に魔術師の横を通り過ぎる。
「あんたと付き合ってるとなんか面倒なことになりそうだ。これは勘な」
魔術師はそれを、ただ眺めるだけだった。
俺の言葉を聞きながら、美味そうに煙草を吸っている。
俺の言葉を聞きながら、美味そうに煙草を吸っている。
「んじゃ、悪く思わねーでくれよ」
「おい。待てよ殺人鬼」
「待たねーよ」
「おい。待てよ殺人鬼」
「待たねーよ」
口から煙草を外し、俺に一声かけるがもう遅い。
魔術師がなにかするより先に、俺は駆け足でその場から遁走した。
魔術師は追って来ない。遠ざかっていく俺を見ながら、ただ立ち尽くすだけだった。
魔術師がなにかするより先に、俺は駆け足でその場から遁走した。
魔術師は追って来ない。遠ざかっていく俺を見ながら、ただ立ち尽くすだけだった。
おいおい、そんな恨みがましい顔すんなっての。
面倒だからってわざわざ『曲弦師』を避けて来たんだぜ?
面倒だからってわざわざ『曲弦師』を避けて来たんだぜ?
それなのに、魔術師なんてわけわかんねーのと殺し合えるかよ。
◇ ◇ ◇
名も知れぬ殺人鬼にフラれ、僕は帰途についた。
ここが帰るべき場所というわけじゃないんだけどね……後始末はしておかないと。
ここが帰るべき場所というわけじゃないんだけどね……後始末はしておかないと。
「感づいていたんだろうね、きっと」
正面玄関からホテルの中に入り、薄暗いロビーを炎で照らす。
篝火によって姿を現したのは、壁や床、柱やカウンターなどに貼られた無数のコピー用紙。
これはただの紙なんかじゃない。魔術師である僕、ステイル=マグヌス手製の――いや、この場合は違うかな。
『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』手製の――炎のルーンが刻まれた、魔術行使のための布石である。
篝火によって姿を現したのは、壁や床、柱やカウンターなどに貼られた無数のコピー用紙。
これはただの紙なんかじゃない。魔術師である僕、ステイル=マグヌス手製の――いや、この場合は違うかな。
『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』手製の――炎のルーンが刻まれた、魔術行使のための布石である。
僕は本来、設置型の魔術師だ。野外での白兵戦は、本来なら望むところじゃない。
手負いのケモノにトドメを刺すだけならともかく、市街の真ん中で自称殺人鬼を相手取るほどの身体能力は持ち合わせていなかった。
あのナイフ裁きと神裂の鋼線を操る手腕は、決して侮れるものじゃない。観察していてよくわかったね。
ああいう手合いは、ある意味魔術師や能力者よりも厄介だよ。
手負いのケモノにトドメを刺すだけならともかく、市街の真ん中で自称殺人鬼を相手取るほどの身体能力は持ち合わせていなかった。
あのナイフ裁きと神裂の鋼線を操る手腕は、決して侮れるものじゃない。観察していてよくわかったね。
ああいう手合いは、ある意味魔術師や能力者よりも厄介だよ。
だからこそ――僕の教皇級の威力を持つ『魔女狩りの王(イノケンティウス)』で、確実に屠ろうと思っていたんだが。
ロビーのいたるところに貼っておいたルーンを剥がしつつ、僕はため息を零す。
用意周到に張り巡らせていた罠は、こうして無駄になってしまった。
殺気はできるかぎり秘めていたつもりなんだが、さすが殺人鬼にはお見通しというわけだろうか。
用意周到に張り巡らせていた罠は、こうして無駄になってしまった。
殺気はできるかぎり秘めていたつもりなんだが、さすが殺人鬼にはお見通しというわけだろうか。
まあ、今回は狂犬を始末できただけでもよしとしようか。
人殺しを控えているという言を信じるなら、あの殺人鬼も彼女への直接的な害とはならないだろう。
それにしたって、危険因子には変わりないのだ。排除できる内に排除したかったが、それは次の機会としよう。
人殺しを控えているという言を信じるなら、あの殺人鬼も彼女への直接的な害とはならないだろう。
それにしたって、危険因子には変わりないのだ。排除できる内に排除したかったが、それは次の機会としよう。
「あれは助言として受け取ったよ、土御門。僕が辿るのはやはり――彼女を生かす道だ」
選択肢なんて、最初からそれしかなかった。
彼女を生かすためには、まず害虫を駆除する。狂犬や幻想殺しの目を持つ少女、それに殺人鬼なんかをだ。
殺意ある者たちを消すだけで、彼女の生存率は格段に高まるだろう。僕はそれをやれるだけの力を持っている。
彼女を生かすためには、まず害虫を駆除する。狂犬や幻想殺しの目を持つ少女、それに殺人鬼なんかをだ。
殺意ある者たちを消すだけで、彼女の生存率は格段に高まるだろう。僕はそれをやれるだけの力を持っている。
そして殺す標的は……この際、害虫だけにはとどめておくことはできない。
見境を作らず、無慈悲に無差別に、僕は魔術の力を振るうことを決意した。
見境を作らず、無慈悲に無差別に、僕は魔術の力を振るうことを決意した。
今、彼女の隣に立つ彼には――上条当麻には、決して真似のできない汚れ役だ。
彼も彼でなにをしているかは知らないが、まさか彼女を軽視した行動には走っていないだろう。
馬鹿正直に正義を志し、誰も傷つけず傷つかせず、悪党がいたらぶん殴って更正させるに違いない。
目指す終着駅は生存者全員での脱出。これしか考えられない。まったくなんてわかりやすい男だろう。
馬鹿正直に正義を志し、誰も傷つけず傷つかせず、悪党がいたらぶん殴って更正させるに違いない。
目指す終着駅は生存者全員での脱出。これしか考えられない。まったくなんてわかりやすい男だろう。
なら僕は――彼と別方向からアプローチするべきだ。
たとえそれが、彼に説教を食らうような悪行だったとしても。
たとえそれが、彼に説教を食らうような悪行だったとしても。
現状、彼女を生かす道は二通りある。
一つは、彼女以外の人間を皆殺しにし、巡ってきた一つきりの椅子を彼女に渡すこと。
一つは、土御門の考察に従い彼女と上条当麻、それに御坂美琴と白井黒子、そして僕以外の人間を皆殺しにすること。
一つは、彼女以外の人間を皆殺しにし、巡ってきた一つきりの椅子を彼女に渡すこと。
一つは、土御門の考察に従い彼女と上条当麻、それに御坂美琴と白井黒子、そして僕以外の人間を皆殺しにすること。
なんだ、どっちにしろ皆殺しじゃないか。わかりやすくて涙が出てくるね。
前者は僕がこれから歩む道だ。後者は前者も兼ねる『保険』といったところだろうか。
前者は僕がこれから歩む道だ。後者は前者も兼ねる『保険』といったところだろうか。
水槽の話が土御門の考察の通りだとすれば、上条当麻の『幻想殺し』で状況をどうにかできる可能性がある。
それにしたって、他の世界の人間は殺さなければいけない。二通りの道は、極めて近い位置で隣り合っているのだ。
それにしたって、他の世界の人間は殺さなければいけない。二通りの道は、極めて近い位置で隣り合っているのだ。
もっと極端に考えれば、だ。生き残るのは上条当麻と彼女だけでもいい。
同一世界の住人が全員生き残っていなければいけないというなら、土御門が死んだ時点で破綻している。
念を押すなら、科学サイドの人間は生かしておくべきなんだろうけど……それも他二人のスタンスしだい、かな。
同一世界の住人が全員生き残っていなければいけないというなら、土御門が死んだ時点で破綻している。
念を押すなら、科学サイドの人間は生かしておくべきなんだろうけど……それも他二人のスタンスしだい、かな。
「……構図が元通りになるだけさ。僕は彼女の敵として、彼女のために戦おう」
皆殺しの始末人――僕が志すべきは、そんな物騒な役割しかない。
僕が彼女に誓いを立てて以降、僕が学園都市で上条当麻と出会う以前の関係に戻っただけ。
彼女の記憶にはもう残っていない、あの頃の僕みたいに。
僕が彼女に誓いを立てて以降、僕が学園都市で上条当麻と出会う以前の関係に戻っただけ。
彼女の記憶にはもう残っていない、あの頃の僕みたいに。
「たとえ君は全て忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに君のために生きて死ぬ――」
この場においても、ただそう誓うだけだった。
【C-4/ホテル/1日目・午前】
【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:ルーンを刻んだ紙を多数、筆記具少々、煙草
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
基本:インデックスを生かすために行動する。
1:インデックス、上条当麻、御坂美琴、白井黒子以外の人間を皆殺しにする(危険人物優先)。
2:インデックスの害となるようなら、御坂美琴と白井黒子も殺す。
3:生存者をインデックス、上条当麻、御坂美琴、白井黒子、自分の五人のみにし、『幻想殺し』を試す。
4:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。
[状態]:健康
[装備]:ルーンを刻んだ紙を多数、筆記具少々、煙草
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
基本:インデックスを生かすために行動する。
1:インデックス、上条当麻、御坂美琴、白井黒子以外の人間を皆殺しにする(危険人物優先)。
2:インデックスの害となるようなら、御坂美琴と白井黒子も殺す。
3:生存者をインデックス、上条当麻、御坂美琴、白井黒子、自分の五人のみにし、『幻想殺し』を試す。
4:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。
◇ ◇ ◇
「あのメイドのねーちゃんといい、美琴ちゃんといい、おかしなやつが多いとこだなここも」
“Fortis931”とかいう魔術師から逃げた先、零崎人識は命の重みを噛み締めながら歩くのであった。
いやはや、九死に一生だったぜ。あいつ、俺のこと燃やす気まんまんなんだもん。たまんねぇって。
いやはや、九死に一生だったぜ。あいつ、俺のこと燃やす気まんまんなんだもん。たまんねぇって。
「さって……放送によりゃ、《蒼》もあいつもまだ生きてんだよな。ホント、どこほっつき歩いてんだ?」
もっと東のほうかね。《蒼》はどこか一箇所に留まってる可能性が高そうだが、地図に載ってる施設でも巡ってみるか?
下手に街中歩いてても、出会うのがああいうのばっかりじゃなぁ。さすがにやる気なくすわ。もともとそんなにねーけどよ。
下手に街中歩いてても、出会うのがああいうのばっかりじゃなぁ。さすがにやる気なくすわ。もともとそんなにねーけどよ。
「しかしあの魔術師、地獄は嫌いだとかなんとか言ってたが……気づいてないのかね」
“ここ”がもう既に、落ちるべき地獄だってことによ。
神様の遣いってんならわかれよ、ってツッコミたい。勉強不足だぜ魔術師。
神様の遣いってんならわかれよ、ってツッコミたい。勉強不足だぜ魔術師。
お釈迦様は慈悲深いんだ。
殺人鬼っていってもよ、ケモノの儚い命を奪うことを思いとどまる俺には、きっと救いの糸を垂らしてくれるぜ。
そしたら何人か糸に群がってくるんだろうが、俺は心優しいからな。カンダタみたいに蹴落としたりはしない。
清く正しくみんな揃って天国に――って、それだとやっぱ結局死ぬのか? というかもう既に死んでんのか、俺たち?
殺人鬼っていってもよ、ケモノの儚い命を奪うことを思いとどまる俺には、きっと救いの糸を垂らしてくれるぜ。
そしたら何人か糸に群がってくるんだろうが、俺は心優しいからな。カンダタみたいに蹴落としたりはしない。
清く正しくみんな揃って天国に――って、それだとやっぱ結局死ぬのか? というかもう既に死んでんのか、俺たち?
「蜘蛛の糸、ね」
開会式の際、耳元で囁かれていたフレーズを思い出す。
思うことなんて一つだけだった。
思うことなんて一つだけだった。
「俺は、芥川よりかは太宰のほうが好きなんだがな」
あいつに言わせりゃ、こんなものは程度の低い戯言なんだろうけどよ。
【C-4/道路上/1日目・午前】
【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:疲労(中)、背中に軽度のダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ8本@空の境界、
七閃用鋼糸5/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1:地図に載ってる施設でも回ってみるか。
2:両儀式に興味。
3:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探す。飽きてきてはいるけど、とりあえず。
4:学校にいたという曲絃師(名前も容姿も聞いてない)とは、面倒なので会わずに済ませたい。
[状態]:疲労(中)、背中に軽度のダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ8本@空の境界、
七閃用鋼糸5/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1:地図に載ってる施設でも回ってみるか。
2:両儀式に興味。
3:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探す。飽きてきてはいるけど、とりあえず。
4:学校にいたという曲絃師(名前も容姿も聞いてない)とは、面倒なので会わずに済ませたい。
[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです。
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです。
【白純里緒@空の境界 死亡】
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